注意:この「外史」に登場する華佗はオリキャラです。某青年向け漫画雑誌に連載中作品の登場人物からインスパイアしています。--------------------------------------------------------------------------------††恋姫無双演義††講釈の22『天の医は仁術で勇士を救い 許昌では名分もって策をめぐらす』流石は「王佐の才」と呼ばれた軍師だけあって、桂花の現状分析は的確だった。「まず、危険なのは呂布です」あの恐るべき武力。我々とは思考が違い過ぎて、恐るべき行動に出かねない点。さらに、呂布が居座っている徐州がこちらの勢力圏に近過ぎます。したがって、呂布に関しては、外交でも謀略でもすぐに打てる手を打っておくべきです。幸い、我々は朝廷とともにあります。官位とか名誉とかで、呂布を釣ることが可能です。これに対して、劉備の危険性はその潜在する可能性にあるでしょう。確かに、あの益州侵掠は見事でした。それだけの力量を持つ陣営であると認めざるを得ません。その力量とあの「天府の国」に潜在する国力が結びつけば、いずれ恐るべき敵に成長する可能性は大きいでしょう。ただし、呂布ほど差し迫った脅威ではありません。1つには、天下のほぼ中央にあるこちらの勢力圏に対し、そこから離れた西南に位置するという事と、今1つは益州の地形です。こちらから、攻撃するには守りの堅いあの「天府」の地形は、向こうから兵を出してくる時にも障害なのです。「益州から兵を出す道は、事実上1つだけでしょう。長江沿いに下って、荊州に出るしかないはずです」「では、その道をふさぐ策を取るのね」「そうです。そうしておいて、我々は、呂布や袁紹から先に対処するのです」――― ――― ――― 私は形成外科医だった。例えばERなどで、生命にかかわる手術をしているときには、救命が最優先だろう。だが、何とか生命を救えて、いざ社会復帰ということになった時、特に女の子であれば傷を残さない方がいい。その時が、私の出番だった。その晩も、私は勤務先で当直についていた。いつ来るか分からぬ患者を待つ時間を、持ち込んだマンガ文庫でつぶしながら。突然、そのマンガ文庫から抜け出したような、まるで「その」時代の舞姫のような美女に意味不明の誘いを受けても、当然、徹夜の当直で半分夢を見ているとでも思った。続いて、意識が遠くなるのを感じても「いかん。早く目を覚まさないと」としか、考えられなかった。・ ・ ・ ・ ・だが、意識を取り戻した私の前にあった光景は、日本ですらなく、そもそも21世紀でもなかった。なぜなら、自分で自分を診断した結果、夢でも幻想でもなく現実だったからだ。まるで、中国の山水画のような光景。それが現実と判断した以上は、次は人のいる場所を探す事にした。――― ――― ――― 「次は荊州の現状です」桂花の分析が続く。荊州州牧、劉表はほぼその勢力圏を安定させていますが、それ以上の野心も余裕も持てていません。さらに、荊州の州内でも、本拠地の襄陽がある北半分は確保していますが、長江以南の南半分4郡に関してはそれぞれの郡太守が中小の軍閥となっていて、それを通じての間接支配に留まっています。この4郡の太守をこちら側に取り込んで、劉表とは別に劉備に対抗させます。これで、もし劉備が益州から出てきても、長江の南側には足がかりはありません。同時に、荊州の南半分をおさえた事も利用して、北半分を確保している劉表に外交上の圧力を加えます。そして、長江の北側でも劉備を警戒させます。「これで、劉備の出口はなくなります」… … … … … 後の問題は、劉表の頭ごなしに郡太守たちを取り込むことだった。劉表には、郡太守の上位にある州牧という「名分」がある。「我々は朝廷とともにあります。官命を持って使者を出す事が出来ます」――― ――― ――― 私は「この時代」の人間と接触した。彼らは「五斗米道」と名乗った。私の知識は「この時代」に落ちて来る前に読んでいたマンガ文庫程度だったが、それでも「五斗米道」については知っていた。黄巾の乱をおこした「太平道」のほかに、この時代に勢力を持った宗教集団。だが「太平道」の暴走と破滅とは異なり「五斗米道」は一時期、地方軍閥程度になっただけで、最終的には、相互扶助や治療を行う民間宗教団体に戻った。そして存続した。そもそも「五斗米道」のゆかりは、治療費は一律、斛(ます)に米5杯だったことにあり、その米も扶助のための“ストック”だった。私は医者だ。いつの時代、どこの国であろうと。確かにマンガ文庫程度でも、後世の歴史知識がある。しかし、それによって歴史に介入するような野心を持つには、私は医者に成り過ぎていた。私は「五斗米道」から、助手やこの時代で入手可能な資材の提供を受け、米5杯と引き換えに、この時代の技術水準と私の医学知識で可能な限りの治療を行いながら、三国時代の大陸を旅して行った。そうして生きていくと決心した時、私はこう名乗った「華佗」・ ・ ・ ・ ・結局「本物」の華佗が現れる事もなく、どうやら「この歴史」では「華佗」と認められたらしい。そうなると「華佗」には、気になる「歴史」が1つだけあった。歴史が変えられない場合、曹操に殺される事だ。しかしそれは、曹操も晩年になってのこと。黄巾の乱が起こったばかりの「現時点」では、ずっと「未来」の筈であり、今のうちに「まだ若い」曹操の信頼を得ておけば助かるかもしれない。そうすると、確か、都合のいい「イベント」があった筈だった。そんな事を考えている華佗の前に、あの謎の美女がもう1度だけ出現した。「春蘭ちゃんが目にケガをしたわよ。春蘭じゃ分からないなら、夏侯惇ちゃんよ」… … … … … 夏侯惇の治療は、片目以外にキズも残さず完治した。やはり、形成外科が専門だと女性にはキズを残したくない。その結果、曹操の信頼は得たようだったが、華佗の申し出にはやや「?」といった反応をした。さらに、曹操の弟の反応はどうも微妙だった。――― ――― ――― 劉備に対する対策は、あとは荊州南部への使者の人選になった。これについても、軍師たちの何人から何人かの名があげられ、その内の1人が採用された。・ ・ ・ ・ ・次に、西北方面の情勢も議題になった。前漢の古都、長安には鍾元常という優秀な行政官を派遣していた。軍事的にも、華琳たちが許昌から駆けつけるまで持ちこたえられるだろう。その向こう側の涼州ではどうなっているか。旧「董卓」軍の壊滅後、空白になった勢力圏を周囲の他の涼州軍閥が切り取っていた。その1人、馬騰の動きが微妙だった。政治的に他の軍閥より1歩前に出るべく朝廷に接触してきている。――― ――― ――― 曹魏と接触した後、華佗は長江を南に渡った。流石に興味が無い事もなかった。劉備か孫策に会ってみるかな。そんな事を考えながら、治療の旅を続ける華佗の耳に、孫呉の拠点、秣陵の近くで戦いがあったという噂が聞こえた。早速、秣陵へ向かった。「まるで「国境のない医師団」だな」――― ――― ――― 自分の行いが、恨みを買わない、などと思い上がってはいない。だが、留守の拠点を一族の非戦闘員ともども狙われて、雪蓮は怒(いか)った。報復なら、自分に戦いを挑め。直ちに軍を反転して秣陵へ戻った。しかし、遠征先から拠点までは遠い。結局、より近くにいて太湖の水運を利用できる遊撃部隊が、先に秣陵へ戻った。その明命が率いる遊撃部隊が、秣陵の手前で襲撃軍と衝突する結果になったのである。… … … … … 秣陵の拠点は健在(けんざい)だった。損害は明命の遊撃部隊から出ていた。明命自身、全身に12ヶ所の傷を負い生命だけは助かった状態だった。その上、傷が元で高熱を出し意識不明になっていた。“この時代の医療”では、生命さえ危険だった。そこへ、華佗たち「医師団」が到着した。早速、華佗はケガ人たちの治療を開始した。その華佗を遠征先から駆け戻った雪蓮が呼び出し、明命を診察させた。「生命は助かるでしょう。それに、傷は残さない方がよろしいでしょう。女の子ですから」やはり、形成外科が専門の発想が抜けない。特に、患者が女の子だと。しかし、形成手術が必要な傷が12ヶ所もあっては、完治には時間がかかる。それに、明命に掛かりきりになるわけにもいかない。結局、日数をかける事になったが、しかし、明命は完治した。傷も残さずに。… … … … … 「世話になったな」「何。当たり前の事をしただけです。こんな時代ですからな。ケガ人は後を絶ちません」雪蓮も苦笑するしかなかった。ケガ人をつくる方としては。「医者としては、ケガ人が少なくなるような世の中にして欲しいだけです。それ以上の報酬はありません」孫策なら、この話をしても斬られないと華佗は見ていた。「いずれ、貴女を治療する事になったときでも、他の患者と差別はしません」今回も1人あたり米5杯だった。――― ――― ――― そのころ、蜀の成都では。北郷一刀と桃香が「デート」をしていた。政務の合間に2人だけで出かける事を承知させたのである。実のところは愛紗とかの方が難関だったが。それだけ内政に専念できていたのだ。ただし、蜀の外は乱世である。--------------------------------------------------------------------------------それでは続きは次回の講釈で。次回は講釈の23『荊州侵掠』~天下三分の野望~の予定です。