『皇甫嵩』「正史」によれば、黄巾の乱の時に一番手柄をあげた将軍です。黄巾党の首領、張3「兄弟」の首を取って帝都に送ったのは彼でした。しかしその後、十常侍やら董卓やらが中央政府をかき回す中で、歴史の主人公から脱落していきます。なんか「正史」でも「この」外史でも、気の毒な感じです。--------------------------------------------------------------------------------††恋姫無双演義††講釈の20『曹魏は名分を得て躍進し 孫呉は断金の交わりにて再興す』曹魏の軍師の1人、風が使った用間がもたらした情報は、華琳ですら唖(あ)然とさせるものだった。・ ・ ・ ・ ・旧「董卓」軍において暗躍した済成が、ここでもトンデモない陰謀をたくらんでいた。まず、徐州の州牧、陶謙の部下を偽装して沛国の曹夏侯一族を襲撃する。ついでに略奪する。当然、怒り狂った曹操軍が徐州に侵攻する。そこで、曹操軍による徐州住民の虐殺を天下に言いふらす。実際に、曹操軍が虐殺などしなくても、済成ども自身が今度は曹操軍を偽装して徐州を襲撃する。ついでに略奪する。そこで、曹操と陶謙以外の諸侯に、この虐殺の「悪名」が知れ渡れば、「董卓」軍に対したように、これを「大義名分」として曹操軍を討つ諸侯が必ず出てくる。そうなれば、曹操軍は徐州から出て行く事になる。そうしたら、自分が曹操軍を追い返したような顔をして、ノコノコ陶謙の元に行き恩に着せる。恩に着せたことを足がかりに徐州軍閥に食い込む。最終的には、陶謙に取って代わって徐州を乗っ取る。・ ・ ・ ・ ・「呆れた。本当にそんな事が上手くいくと思うのかしら」「行くと思っているんだろうよ。少なくとも、欲がからむと、そう思えるのさ」(太陽の塔)「劉備みたいに、底抜けの「お人好し」で無欲の振りができれば、結果としてそうなる事もあるだろうけど」最初から陰謀ばっかり、欲深ばっかりでは、同じ行動の様で同じ結果にはならないだろうな。(仲徳)ともかく、一族を殺されかけた上に、する気もない虐殺の汚名までかぶせられてはバカバカしい。曹魏軍は、保護した曹夏侯一族の安全と、いわば虐殺に対する「アリバイ」のため、全軍「疾きこと風の如く」徐州から遠ざかった。――― ――― ――― 当然、曹魏軍が撤収した後に軍事的な空白ができる。その空白に、突然というか「天のお告げ」通りというか、出現した軍があった。・ ・ ・ ・ ・呂布が出た?「稟。確かね」「はい、呂布と陳宮が率いる涼州軍の残党にまちがいありません」…考え中…「霞。沛国から戻ったばかりだけど、あと二(ふた)働きほどしてもらうわ」「二働きでっか」「まず、洛陽に迎えに行ってもらうわ。それから、お使いに行ってもらうわね」――― ――― ――― 徐州と北隣の青州との境界線付近。「セキト」なぜか同名の馬と犬が、互いに鼻先を擦(こす)り付け合って再会を喜んでいた。「張々やセキトたちを連れてきてくれた事には、礼を言います。でも、曹操を信頼する事は出来ないのです」音々音は言い切った。「なぜなら、霞殿たちは、同じ帝都に居ながら、月殿たちを見殺しにしたのです」「そやから、あれは…」「あれで、“魔王董卓”として処刑されずにすんだというのは、分かります。しかし、それはそれ、これはこれです」そして、今は曹操に仕えているです。あんな事をしておいて、仕えさせている曹操も信頼できないです。それに、もう、恋殿は誰にも仕えさせたくないです。恋殿の力と武勇を恋殿自身のために使わせたいです。「それで、言い方は悪いけど、ここで火事場ドロをするんかや」「好機を見逃さないと、言って欲しいです。それに、あの“成り済ましもの”は、やはり許せないです」「アイツがここで妙な事をたくらんでいるちゅうのも、ウチが持ってきた情報やけどな」「それも、お礼は言うです。でも、恋殿が、今から恋殿以外の主君に仕えるかどうかは、別なのです」恋はこういうときも無口である。ただポツリとこう言った。「許さない。月に罪をかぶせた」「ウチもその点は、恋に同感や」「なら、なぜ一緒に来ないですか」「ウチらが華琳様を主君に決めたのは、結局はウチらの意思や。月を裏切ったつもりはないで」――― ――― ――― 「すんまへん。口ベタで」「貴女に、そんな期待はしていないわ。それに弁舌なら、稟を付けたでしょう。むしろ、なぜ口を出さなかったの。稟」「董卓もでしたが、呂布についても、世間の噂(うわさ)には誤解がありました」あれは子供どころか、幼子です。良い言い方での感情も、悪く言えば欲望も成長していないのです。そうしたものなどと不均衡のまま、あの強さだけが、成長しているのです。自分の強さの価値も、それを「買う」ためにこちらが支払うつもりのものの価値も、おそらく分からないでしょう。むしろ、欲深と判明している相手の方が、弁舌の使い方があったでしょう。「相手の聞きたい事を聞かせてやるのが、弁舌の使い方というものですから」… … … … … 弁舌の使い方がある相手は、反対の方向から来た。『皇甫嵩』「正史」では、黄巾の乱における、一番手柄を上げた将軍だった。しかし「この」世界では、張3「姉妹」はこの許昌でとりこになっている。おまけに、その後の帝都洛陽の迷走では「正史」通りに失脚していた。それでも、連合軍が引き揚げた後の洛陽で将軍に復職し、軍事的に空白となった洛陽の治安を維持し続けてきた。この不運な将軍の用件は、華琳の待っていたものだった。… … … … … ただしここで、華琳は一工夫した。皇帝という「正義」を確保する好機を見逃すつもりは無い。だが”董卓”の二の舞にはなりたくない。そこで、華琳と稟や桂花たちが皇甫嵩と交渉して得たもの、正確には皇帝に取り次いでもらったもの。それは……これまで、華琳は「鎮東将軍」の「名分」で洛陽より東へ出兵していた。これに加えて、洛陽のある司州より「西」でも治安を回復せよとの「名分」を得たのだ。「しかしそうなると」「そう、東の徐州で、あんな“もんすたあ”にかかわっている余裕はなくなるわね」「姉さんはそれでいいの」「あら、この件にはかかわっては欲しくなかったんじゃない」「そんな理由じゃないだろう。「孫子の兵法」の曹孟徳は、目的のために手段を選ぶ女だろう」「その通り。西へ……とりあえず長安あたりの治安を回復したら、その次に、この許昌に返ってくる時は……」その時はこの曹操が「正義」よ。――― ――― ――― 曹魏軍は西へ進軍し、前漢の古都だった長安を確保した。その代わり、呂布軍が、徐州を荒らしまわる済成の徒党に襲い掛かる結果になった。一味徒党のうちでも、旧「董卓」軍に所属していた涼州兵は、恋が如何(いか)に“もんすたあ”かは知り過ぎている。当然のように「呂布が出た!」だけで逃げ散ってしまった。だが済成だけは、恋も音々音も逃がしはしない。(作者注・・・「恋姫」ファンの中でも、恋のファンはスルーして下さい。しばらく残酷シーンがあります)――― ――― ――― まったく、役立たずな傀儡ですね。この「名山」のすぐ近くで、あんな醜態を。また「台本」の作り直しじゃないですか……――― ――― ――― 徐州軍らしきものによる沛国襲撃、から始まる一連の騒動は決着したが、この間の心労のためか、徐州州牧、陶謙がたおれた。そして徐州の国内に“もんすたあ”が居座っていたのである。――― ――― ――― この情報は、淮南を拠点とする袁術陣営においても、議論の対象になった。袁術陣営の勢力圏は、徐州と南の揚州の州境をまたいで広がる。徐州州牧がたおれ権力の空白が生じたのは、北へ勢力を拡大する好機かもしれない。だが、あの“もんすたあ”が居座っている。虎牢関で、殺されかけた事を忘れたわけではない。こうなると「船頭が多くして船が山に上がる」ほど人材を抱え過ぎているだけに、議論百出だった。そして、それを統率し決断するには、主君である美羽が幼すぎた。こうした状況につけ込むように、こんな意見を出したものがいた。「北に全力を注ぐべき時なのは、間違いないでしょう。だからこそ、勢力圏の南を安定させておくべきです」その江東は、もともと孫堅の勢力圏だったのであり、問題はそこにあります。そこで、こんなときに役立たせるために、孫堅の娘どもを「保護」してきたのでは。… … … … … 議論、議論の間に、この意見は採用された。しかし、この意見を出したもの。そして、賛成したものの何人かが、江東「名士」グループによって買収されていた事は、当人以外気付かなかった。――― ――― ――― ここは、江東「名士」グループの1員にてこの地方の豪族の1人、魯粛(ろしゅく)の屋敷。「上手く行きましたな」この屋敷の主、魯粛をはじめ、張昭、張紘、そして周瑜(真名冥琳)みな、孫堅(水蓮)を押し立てて「呉」という新しい国をつくろうとしていた、江東「名士」グループの同志たちである。当然、水蓮の娘である孫策(雪蓮)や 孫権(蓮華)といった姉妹に、夢を托(たく)していた。特に冥琳などは、水蓮が健在の頃から雪蓮とは、「たとえ、金属を断つほどの試練にも切れない」とまでの友情を誓った親友だった。みながこの時を待っていたが、意外と早く好機は訪れた。江東における、孫姉妹の「遺産」を活用して、治安を維持する。今だけ、袁術陣営にはそう思わせておけばいい。飼い猫にしていたはずの虎を自分の山に帰すようなものだと、今だけ気付かせなければいい。「「行くぞ。孫呉の夢。母上(水蓮様)の夢を天下に示す。われらが「断金の絆」にかけて」」――― ――― ――― 蜀は四川盆地、長江に合流するとある流れに沿ったとある場所。今日も、愛紗や鈴々たちは治水工事である。視察に来た桃香と北郷一刀が、南蛮から輸入されてきた「バナナ」を差し入れていた。--------------------------------------------------------------------------------この外史ではどうも、現時点で「呉」が出遅れているようです。呉ファンのみなさまには、申し訳ありません。それでは続きは次回の講釈で。次回は講釈の21『江東に飛翔するは小覇王 都の花は許昌に流れつきて咲く』の予定です。