この短編は「スーパージャンプ」誌連載中の「王様の仕立て屋」とのクロス作品に成っています。--------------------------------------------------------------------------------こぼれ話(その1)『オリキャラ(転生系)の独白』(…俺…俺は…)意識や記憶が、ぼんやりとして、途切れ途切れになっている。受信不良のTVのように、途切れたり、ボケたりする記憶を「その時はそんな状態だった」たと認識できるまでに、うつらうつらと、夢と現実を行き来するような、そんな状態が、もしかしたら、さらに数日、いや、下手をしたら数ヶ月すらたったかも知れない。そんな頼りない意識の中で、“最後”の記憶がやっと浮かび上がって来た。・ ・ ・ ・ ・事故に会った。「平和ボケ」とすら言われていた、21世紀の初頭の日本で、20才を過ぎたばかりの普通の大学生がベタに会うような。もしかして、俺はERかどこかにいるのか?・ ・ ・ ・ ・「起きろ―」可愛らしい、そして元気な少女らしい声が、自分を起こそうとしている。(…看護師さんにしては、元気すぎるな…)どれだけ時間が経過したかすら自覚できない、うつらうつらの状態から、意識がようやっと表面に浮いて来た。… … … … … 最初に知覚できたのは(幼女?)だった。確かに可愛らしい。しかし、看護師なんかではない。それどころか、こんな幼女に見舞いに来られる理由が思い出せない。「ネ…ネエ…サ…ン…」今、俺は何と言った?それに、この声、しゃべり方。まるで……だが、目前の幼女が姉であると、そう主張する「今まで」とは別の記憶が、脳内に再生されてくる。「お祖母さま!弟って、本当に「楽しい」わ」飛び付いて、はしゃぎ始めた「姉」が、パニックに落ち込む事すら許してくれない。逆にそのおかげで、周囲を観察することが出来たが、何?変に大きく見えるこの部屋?それに、変に時代がかっているし。それも「エキゾチック」に時代がかっている。まるで「西遊記」とか「水滸伝」とか「三国志」とか。それに、部屋の奥でニコニコしていらっしゃる、微妙に威厳のあるご婦人。貴女がお祖母さま?いや、俺の記憶のどこかが「お祖母さま」だと主張しているが、何で、貴女も「水滸伝」か何かのコスプレがそんなにお似合いですか。当然、ERかどこかに自分の体はあって、脳内で幻覚を見ているのだと思った。だが、俺を抱き締めたまま、はしゃぎ続ける「姉」が、幻覚にしろ妄想にしろリアル過ぎる。そして、精神的な逃避もとうとう許してくれなかった。俺は、認めるしか無かった。あの事故で「前世」が終わって、生まれ変わったのだと。「やれやれ」… … … … … さて、現状分析である。俺は、おそらく2・3歳くらいの、正確な年齢は後で周囲から教えられた、いわゆる、もの心つく頃の幼児になっていた。とりあえず、1つは安心できた。赤ちゃんプレイ属性は「前世」から無かったからな。おそらくは、自我と記憶が出来始める程度に脳が出来上がって来たところだったのだろう。俺自身の例からしても、輪廻転生はあったわけだが、おそらく大部分はこの時までに「前世記憶」が劣化してしまうのだろうな。しかし、普通は、生まれ変わるなら未来だろうが。どうやら、俺は過去に逆行して転生したらしい。なぜなら、この室内といい、家族や使用人の「コスプレ」といい、少なくとも数世紀は昔の中国と断定できた。そうなると、この幼児に与えるには豪華な室内といい、家族よりも使用人の人数が多そうなところといい、どうやら、豪族とか、地主階級の「お坊ちゃま」に俺は転生する事ができたらしい。これは、非常に幸運と言わざるを得ない。この時代の中国たるや、俺の限られた知識でも、相当の「格差社会」の筈だからだ。この時「家族」は祖母と両親と姉がいた。その「姉」華琳にさんざん可愛がられて育つ事になる。… … … … … 同じ幼児でも、“前世”なら「幼稚園」程度に育つと、さらに周囲の情報が把握出来て来た。この家は「曹」という姓で、当主は宮廷に仕えて出世した後、引退してこの故郷の有力者になっているらしい。まさかな。だが、夏侯という姓の従姉弟たちとも遊ぶ、もしくは姉と共謀されて遊ばれるともいう、ようになると、これは大変な家に生まれたらしい、と考えるようになった。まさか、俺の「現世」は……・ ・ ・ ・ ・ええ、1時は期待しましたよ。だって、曹操は男で、曹家の長男、つまりは「男の子」の内の最初の子、だと記憶していましたからね。武者震いしたりもしましたよ。だが、曹操だったのは、何と華琳姉さんだった。「真名」だけの幼少期を終わって「字」を名乗る年齢になった華琳姉さんは、公式には曹操孟徳を名乗る事になった。ついでに、従姉弟の春蘭さんと秋蘭さんは、夏侯惇と夏侯淵だった。これなんてエロゲ?いや、突っ込みの仕方はともかく、この「世界」は変だ。ちなみに、俺が大いなる宦官と記憶していた曹騰は、あの「お祖母さま」だった。… … … … … もはや、華琳姉さんが曹操だと認めるしかあるまい。だとしたら、おそらく俺の「役」は何人かいた曹姓の武将の誰かなのだろう。……この頃から、華琳姉さんは、俺の事を「仲徳」としか呼ばなくなった。そのくせ、自分の事は「華琳姉さん」以外の呼び方をさせない。要は「仲徳」とは「孟徳」の弟だと、いう事。そのおかげで、従姉妹の春蘭さんや秋蘭さんですら「仲徳」以外、忘れているんじゃないかと疑う事もあるんだけどな。やれやれ。――― ――― ――― やがて、俺も公式に曹仲徳を名乗る年齢になり、勉学のために帝都洛陽に送られた。その帝都で紹介された、姉さんの学友ないしは悪友。いや、俺は知っていた。“この頃”の曹操と袁紹は、一緒に「花嫁泥棒」などをやってのけた悪友「だった」と。実際に、やってくれたし。しかしその悪友が麗羽さんだったのには、もはや「やっぱり」としか言いようも無かった。そして、もう1つの出会いも、この帝都には待っていた。その出会いのおかげで、俺の精神は、正常だと確認できた。――― ――― ――― 「大いなる天の父よ。兄弟ジャンニ・ビアッジォが、御許に旅立ちます。大いなる父の祝福がありますように」西暦21世紀の初頭。ナポリ郊外のカサルヌオボという小さな街。ナポリ仕立てを好む着道楽たちからは、その技術を支える職人たちの集まり住む街として知られている。その街で、1人の老人が「天命」をまっとうした。――― ――― ――― やっぱり「女の子」だよな。その日の俺は、華琳姉さんと麗羽さんの荷物持ちだった。だから、連れて来られた店が、後世のイタリア語では「サルト」と呼ばれる類である事、それ自体は良い。しかし、そこに並んでいる服に「見覚え」が有り過ぎる。「メイド服」それも完全に「アキバ」な代物とか、「ゴスロリ」以外の何者にも見えないフリフリとか、「ビキニ」なんかで「この」時代のどこで泳ぐのかと言いたい水着とか。そして「羅馬」からやって来たとかいう振れ込みの、この店の“老師”。確かにその振れ込みは、真っ赤な間ちがいでも無かった。アメリカ人に取っての、大阪と京都のちがい位のものだからだ。… … … … … そう、俺のその店にある衣装に対する、知る人ぞ分かる「現代」的な反応から、その「老師」は俺の「正体」に気付いた。そして、姉さんたちが「女の子」らしく夢中になっているスキに、俺にささやいて来たのだ。こうして俺は「現世」で初めて、後に「天の国」と呼ぶ事になる「世界」から来た“同志”に再会した。・ ・ ・ ・ ・「老師」の語るところでは、こんな事だった。ナポリ仕立ての伝説的な「名人」の1人として「天命」をまっとうした。そして、カソリックらしく天使のお迎えが来たところで、謎の美女に拉致されたという。で、肉体的には20歳程度若返った状態で、華琳姉さんが生まれる少し前ぐらいの帝都に連れて来られたのだそうだ。その「老師」の話す「元の世界」は、日本とイタリアのちがい以上には、俺が「前世」で事故に会う前と異なっていなかった。したがって、俺は正常だ。少なくとも、俺以上にトンデモない経験をした「同志」が居たのだから。………。……。…現在、俺は、反「董卓」連合軍の1軍である、曹魏軍の1員として、帝都へ進撃していた。俺の知っている「歴史」通りに成ったら、“現世”での俺にも、多くの思い出のある、あの帝都が焼かれてしまう。そんな事はさせるものか。… … … … … 俺は、帝都で知り合った何人かの顔を思い浮かべた。その中には、現状からすれば不謹慎な、微苦笑を浮かべさせるものもあった。あの「老師」も命知らずな事を言うよな。いくら「お似合い」でも。あの「女の子」好きな、わが姉が「スク水」なんかで男を誘惑するつもりになる事なんか無いだろう。