『シャーニッド=エリプトン、第10小隊離脱の真相』
『徹底討論、三人に何が起こったのか』
『シャーニッド、新小隊設立か』
『生徒会長は関与を否定・・・』
「・・・何とも、下世話な物ですね」
「女の人ならこういう話が好きなんじゃないんですか?」
「これは専業の主婦の領分でしょう」
何時もの放課後。
何時もどおり店に迷惑全開で掛けながら、僕とロスさんは放課後のティータイムと勤しんでいた。
・・・最近、喫茶店のウェイトレスさん達が、迷惑そうな顔をしなくなってきたのが凄く気になるところであるが。
何?何さ、その生暖かそうな視線。
まぁ、とにかく。
今日の雑談の内容は矢張り、ツェルニを巻き込んだ騒動に発展しているあるニュースの事についてだった。
街頭モニターを見ても、手元の携帯端末をこうして二人で覗き込んでいても、やっているニュースはどれも同じ。
シャーニッド=エリプトンが、第10小隊離脱を表明した。
人気№1、次期エースとも言われた無敵の第10小隊、その中核を担う三本柱の一角の離脱は、マスコミの興味を集約させるに充分なインパクトを誇っていた。
気の早いTV局などは、すでに第10小隊自体が解散してしまった物として報道している所もある。
「下手すれば、僕らにもインタビューとか来るかもしれませんねぇ」
僕がそういうと、シブーストをぱく付いていたロスさんは実に嫌そうな顔を浮かべた。
「何ですかそれ。私たちとあの泥棒猫に何の関係があるんですか」
「いやホラ、多分エリプトン先輩を泥棒猫とか覗き・変態・ストーカーとか、そういう風に言うのって僕らくらいだからじゃないかな」
半分くらいロスさんだけが言っていた事だが。
「お前ら、ホント何時も変わらないのな」
語るまでも無いと思うが。
当たり前のように、僕の後ろにエリプトン先輩が立っていた。
私服で、何時もは縛っている髪を降ろして、ついでにサングラスなんかしている。
まぁ、それ以上に顔面それくまなく、腫れに打撲に裂傷に、早い話がボコボコの傷まみれである。
口の中を切ったのか、声も篭ってたし、一体何が起こったのか、想像を補って余りある。
ロスさんはエリプトン先輩の姿を見て一言。
「・・・泥棒猫に相応しい末路ですね」
割と笑えないんじゃないかな、ソレは。エリプトン先輩、顔が引き攣っているし。
「にしても、殺剄上手くなりましたねぇ」
「お、マジか。お前に言われてから結構工夫してみたんだよな」
少し変装した程度では隠しようが無いくらいに、それと解り易い容姿をしているのに、この商店街の一角にある喫茶店まで特に騒動も巻き起こさずにたどり着けたのだから、見事な物だ。
僕がそう言うと、エリプトン先輩は嬉しそうに笑った。
そしてそのまま、ロスさんの隣に腰をかける。
「一体何の用ですか泥棒猫」
ロスさんは僕の隣にフォークを加えたまま移動してきて、嫌そうに言った。
エリプトン先輩は居住まい悪げに頭を掻いている。
「なんつーか、なぁ?教室でも皆気を使ってくれちまうからさ、居づらくてなぁ」
「有名税ってヤツですか」
ご愁傷様としか言えない。武芸科の教練中もその話題で持ちきりだったしなぁ。
んでも何で、ホントに僕らの前に顔出すかな、この人。要領よく生きてそうな人だし、こう言う時の逃げ場くらい幾らでも確保してそうに見えるんだが。
大体前の一件から、正直嫌われていると思っていたのだが。むしろ、嫌われるように仕向けたんだし。
僕の気分が伝わったのか、エリプトン先輩はヘラヘラと笑っていた。
「いやぁホラ、何処行っても気を使われて正直疲れてるからな。ならいっそ、一番気を使われなさそうな奴らのトコに行こうかと思ったわけよ」
お前ら態度悪いからなぁと笑ってらっしゃる。
「・・・カー君、私この泥棒猫にもう二、三傷を増やしてやりたいんですけど」
僕もだ。でもお願いだから、その呼び方は余りしないで欲しい。
エリプトン先輩が、何だ、マジでお邪魔だったのか、でも今日は勘弁なとか笑ってるし。まぁ、実際邪魔だが。
ええい、くだらないからかい言葉で顔が赤くなりそうな自分が嫌だ。
そっちがからかって来るなら、何、元々良好な仲でも無いんだ。こちらに容赦する理由も無い。
とっとと本題に移ってもらう事にしよう。
「で、何で小隊辞めたんですか」
「・・・お前、ホントに容赦ねぇな」
ソレがお望みなんだろうと、自分のケーキ皿を隣のロスさんに渡しながら、アゴで先を促す。
エリプトン先輩は、僕の容赦ない姿勢に、流石に嫌そうな顔を浮かべた。
本人も精神的に堪えているのだろう、やはり少しは甘やかして欲しかったらしい。
大きくため息を吐いて、ようやく、エリプトン先輩は口を開いた。
「泥沼」
うん、的確な表現だ。
でもねフェリさん、直接的な表現は時に要らないトラブルを巻き起こすから少しは控えようよ。
ホラ、エリプトン先輩も何だかどんよりとした顔をしてるし。
しっかし、三角どころか四角となると、何かもう、泥沼と言う以外に表現の仕様が無いのも実際だよなぁ。
しかも当事者の過半数が気付いていないんだから、余計にたちが悪い。
「・・・いや、気付いているから無理やりにでも固まろうとしてたのかな」
「ハルメルン。お前が読みの鋭いヤツだってのは解ってるが、だからといって当事者じゃないお前に言われて嬉しくない事だってある」
ポツリと漏れてしまった言葉に、エリプトン先輩は苦言を呈した。
それもそうだ。
喩え必要も無い愚痴に付き合ってやった立場であっても、引かなければならない一線は確かにある。
僕は素直にエリプトン先輩に謝罪した。
・・・ロスさん、何故に変な物を見る目つきで僕を見るかね?
その、慇懃無礼が貴方の正義でしょうとか言う目は止めなさいよ。
エリプトン先輩はそんな僕らを、楽しそうで良いねと笑っていた。その目が真実僕らを見ているのではない事は解っていたが、それを聞くのはヤボと言う物だろう。
「結局俺らは上手くやれ過ぎた。もっと早くに失敗しておけば、外から誰かが忠告する隙も出来ていたのになぁ」
エリプトン先輩は、そう自戒して、やれやれと大げさに肩を竦めた。
少しは気が紛れたらしい。
そして悪戯っ子の悪ガキのように笑って、身を乗り出してきた。
「いっそ、お前みたいのが小隊長だったら、何でも上手く行くんじゃねぇか?」
少なくても人間関係でトラブルは起こらないだろう。
気楽に言ってみせるエリプトン先輩に、僕は脱力してしまった。
「酒の席でも無いのに、冗談きついですよソレは」
「あながち冗談でも無いだろ?お前が既存の小隊連中と組めないってんなら、自分でやりたいようにやるしか無いじゃないか」
フェリちゃんもそう思うだろ、などと馴れ馴れしく言ってくれる。
「カー・・・、おハルさんが小隊長ですか。案外、お似合いなんじゃないですか」
ロスさんはサントノーレを注文しながら、興味なさそうに言う。
いや待てフェリさん、同じやる気無し小隊の一員として人に面倒な仕事進めるのはどうよ。
「カー君が小隊長なら私がサボっても文句は言わないでしょう」
・・・なんだろうね、これ。最近可愛すぎないか、この生き物。
とりあえず私も入りますよって言ってくれていることに、喜んでおくべきなのかな。
それにしても、この僕が小隊長ねぇ。
確かに、微妙に回りに期待されている面倒な状態を回避するためには、適当に何処かに足を付けてしまうのが一番良いのは確かだろう。
だからといって自分が小隊を設立させるなんてやる気を見せて、周りからさらに期待をかけられるようになったらと思うと、ゾッとしない。
「・・・どうせ小隊を新設するなら、僕は二番手くらいで好きに動きたいですかね」
うん、参謀ポジションの方が個人的には好みだし。
「お前を使いこなすには、よほどの武芸者じゃないと駄目なんじゃねぇか?実際のところ、お前武芸長よりも遣るだろ」
「ええ、まぁ。来年に天剣授受者でも入学してこない限り、僕より戦闘能力がある武芸者なんて出てこないでしょう」
「・・・あっさり認めやがるな一年。つーか、なんだテンケンジュジュシャって」
エリプトン先輩の突っ込みは軽く黙殺する。
余り良い目にあった事は無いが、この年齢で僕ぐらい動けると言うのは貴重な才能なのだ。
「でも僕みたいな性悪が正面に立つと、面倒事が大挙として押し寄せてくる気がしますからねぇ」
「カー君はトラブルに好かれてますからね」
うるさいよ。
だからまず、小隊を設立するなら、見た目綺麗でやる気がありそうな小隊長を探してくるのが先決ですねと話したら、エリプトン先輩がノリに乗ってきた。
ロスさんに、隊長やります?と聞いてみたら思い切り踵で踏みつけられたが。
その後は、ロスさんの毒のような突っ込みを交えつつ、いまだ存在しないやる気無し小隊ツェルニ支部の概要について無駄話を繰り広げた。
この世界のあらゆる事象は、有機的に、時に複雑に絡み合っているのだと気付くのは、もう少し先の事だった。
※ ようするに、カー君をおハルさんと呼んでいた人と、ロスさんをフェリさんと呼ぶようになった人。その違いである。
男女の成熟性の違いとも言いますけど。
それとは全く関係ナシに、前回のハーレイ先輩に関してはまるっきり誤植です。あれねー、最初全部ハーレイ先輩で書いちゃって、
後から慌ててサットン先輩に直したんですよね。混乱した人マジでごめん。
誰だよ、主人公のキャラ付けのために苗字呼びしようなんて考えたやつは。
お陰で書いてる自分が一番混乱してるってば。