「毎度思うんですけど、幾ら武芸者だからってそれだけ甘い物食ってたら太ると思うんですが」
「成長期の身としては、食べたら食べた分だけ縦に伸びるから平気です・・・なんですか、蹴りますよ?」
もう蹴ってます。
武芸者と言うのは不思議な生き物で、何故か脂肪がつきにくく、一度付いた筋肉は時を経ても落ちない、反射神経等は常人の非ではないという、戦うためだけに都合よく『作られた』ような特徴を有している。
今日も今日とて喫茶店。
なにやら料理のメニューよりもウェイトレスの制服に拘りがあるらしく、個人的には目の保養になって大変宜しいと思うのだが、そう思うと目の前の人に脛を蹴られるのがたまらないと言えば、たまらなかった。
・・・・・・この店選んだの、ロスさんなんだけどなぁ。
しかもショバ代だとでも言いたいのか、その辺の喫茶店よりメニューが一回り高いし。
あと、そろそろ月の食費よりロスさんへの接待費の方が高くなってきているんですが何とかなら無いでしょうか。
「最近は平和で良いですね」
ロスさんはキャレ・ブランを無表情にぱく付きながら何気なく言った。
平和、ねぇ。入学一ヶ月で色々予想外のことがありすぎて、一体何をもってすれば平和とするか正直よく解らなくなっていたりする。
気付けばもうツェルニに着てから半年程が過ぎていた。
昼は研究室で罵倒されて夕にケーキをおごり、夜は不良学生と乱闘に興じている、そんな生活が日常になっているような気もする。
それが平和と思えてしまう自分が嫌だなぁ。
比較対照が汚染獣と日夜命がけの激闘を繰り広げていたグレンダンでの生活しかないのが問題なんだろうか。
「・・・今頃、皆何してるのかなぁ」
つーか生きてるだろうか、真面目な話。
唐突に故郷に残して、否、置き捨ててきた人達の今が気になった。
「何一人で汚センチになっているんですか」
「ああ、いや、たいした事じゃないんですがね。ホント、人の財布使って好き勝手にケーキ注文されている事に比べれば、全然たいした事じゃないんですがね」
「・・・誰のお陰で前期の試験を乗り切れたと思ってるんですか」
貴女様のお陰ですとも。
僕は立てかけてあったメニューをロスさんに渡した。
「そう言えば、おハルさんの昔語りは聴いた覚えがありませんね」
プレジール・シュクレを注文しながらロスさんはそんな風に言った。ウェイトレスさんが『かしこまりました、お嬢様♪』と答えるのを聞いていやな顔をしている。
「昔語り・・・って、グレンダンの話ですか。した事ありませんでしたっけ?」
「おハルさんは大変の強い武芸者だという自慢話以外は、とんと」
・・・この人、人の話をそんな風に思って聞いていたのか。
「とは言っても、余り語ることも無いですけどねぇ。それこそ、孤児で日銭を稼ぐために毎日戦ってたら強くなりました、お陰で武芸科の連中が雑魚にしか見えません、まる。くらいしかないですし」
「それ以外に何か無いんですか。家族や友人・・・、とか。の、話とか」
その『とか』の部分に何を期待しているのか、聞いたほうが良いのだろうか。
たかが放課後の雑談・・・・・・だよね、コレ。
同年代の友人に自分の昔話を語る。何処にでもある当たり前の・・・ああ、そうか。
今まで、同年代の友人なんて居た試しが無かった。
気付いている人は多いと思うけど。
僕は、他人のことはなるべくファミリーネームで呼ぶようにしている。
簡単に言えば、自己保身、処世術のような物で、要するに個人ではなく群の一部としてその人を認識する事により、深入りする事を、思い入れを持つ事を避けようと考えているわけだ。
理由は、もう散々語っていると思う。
昨日、会話をしていた人間が、明日には居なくなっているんだ。
僕が所属していた『アルトゥーリア観劇団』の、その実際は、武芸者の素質のある孤児達を一つ処に寄せ集めて武芸の手ほどきをする慈善団体の様相を呈している。
呈している、という事は本質は別にある、と言う事だ。
・・・もっとも、王権転覆を狙うテロリストもどきの養成施設とか、別にそういう疚しい物では無いのであしからず。
それに、これはあくまで中に居た人間だからこその意見であるし。
理由はどうあれ、劇団は孤児を引き取り、教育を施し、そして、戦わせていた、舞わせていた。
僕と共に劇団に入ったのは数えて十数人は居たか。
明日食う飯にも困っている貧乏劇団が、更に貧乏な孤児どもを集めるなどと何を考えての事だと言えば、割と単純な理屈で。
僕が劇団に所属した幼い頃、グレンダンでは大規模な食糧危機が発生していた。
食料は配給制となり、末端の人間には飢餓者が続出していた。
貧乏劇団の団長。名前は知る必要も無い。屑とだけ、僕は認識している。
彼は自分の家族を愛していた。
愛していたのは、家族だけだったから、それ以外がどうなろうと、彼の知った事ではなかった。
彼は武芸者で、彼以外の家族は唯人であったから、配給される食糧に差がある。そのことに、彼は気付いた。
武芸者には優先して食料が配給される。
その事に、彼は気付いたのだ。
行動の理由としては、単純明快だろう。
武芸者を集めればそれだけ配給される食糧が多くなる。
餓鬼を寄せ集めて、食料を確保し、自分の本当の家族に分け与える。
何、孤児は何処までいっても、孤児だ。死んだところで悲しむ人間など、居ない。
最後まで、心底屑としか思えなかった我が師、劇団の団長。彼はそういう人間だった。
そんな人間の下に集められた僕たちだったから、半分は餓死で減った。
残りの半分は戦場で肉塊へと変わった。
戦場に出る事により、特別支給手当てが出るのだ。
だから、未熟なままの僕らは容赦無く実戦に送り込まれ、そのまま命を散らせて行った。
そして僕を残して他の全部が居なくなった時、その瞬間、孤児たちの数は元の数まで戻っていた。
理由は、反吐が出るほど簡単に推察できると思うので、僕はこれ以上その事について語りたくは無い。
そんな訳で入れ替わり立ち代り、減って、増えて、また減って、そして増える。
一人だけ運良く・・・いや、必死で努力して技を磨き生き残っていたら、入れ替わった孤児達といつの間にか兄弟程度に歳の差が出来ていてしまった。愛すべき弟たち。直ぐに死んだが。
あの屑も何時までも死なない僕の事が忌々しかったらしいが、いっそ生かして稼がせる方が得策かと考えたらしい。気付けば、強襲猟兵部隊なる、聞くからに危険な名称の部隊に所属する事になっていた。
今度は同年代の人間とは会わなくなった。
色々な年齢、人種、いろいろな物を背負っていそうな、大人たち。
・・・一月も経てば全員入れ替わっていた。そんな世界で一年も生き残っていれば、それなりに自分の腕に慢心もすると思う。むしろ、そのくらいはさせて欲しい。
まぁ、とにかくそう言う訳で。
僕は他人と言うものは漏れなく眼前から居なくなるもの、と解釈するようになっていた。
出会っても別れる事が確定しているなら、それに入れ込むこと、その別れを惜しむ事は、心に無駄な重荷を背負う事に他ならない。
重い荷物を背負って戦場に立てば、動きは鈍り、それだけ自分の死が近くなる。
屑の見本に糞の様な扱いをされていても、それでも僕は生きて居たかったから、なんて事は無い、こんなやり方で保身に走るようになったって訳だ。
それが今やどうよ?
半年。半年もの長い期間、同年代の女性、それも格別の美少女と、おおよそ毎日といって差支えが無い(と、言うか現実に毎日だった)日々、顔を突き合わせては何てことも無い、取るに足らない内容を語り合って過ごしている。
コレが日常、平和な日々とか考えている自分を笑ってしまいそうだ。
幸福。これぞ幸福。平凡と言うそれこそが、焦がれ待ち望んでいた、まぁ、何か想像していた物とは違う、よほど上等な物の様なな気もするが。
だからそれを、壊してしまう事を恐れている。
人と人との関係は、時を経ていけば自然と変化していく物だ。
所詮書物から得た知識だけど、今のこの彼女の問いも、変化への分岐点なのではないかと、そう考えてしまう。
人付き合いに臆病な僕はどんな答えを選べば・・・・・・、なるように、なれだ。
間違っていたら何時もどおり蹴られるだけさ、きっと。
「・・・何処から話したら良いか解らないので、適当に散らかしていきますけど。僕が正確にはグレンダンの出身では無いって事は、フェリさんには話した事はありましたっけ?」
ロスさんは一瞬目を瞬かせた後、何気ない風に目線を逸らして考えていた。
「初耳です。・・・ええ、初耳ですね。カー君がグレンダンで孤児だったという話しか、聞いていません」
・・・。
「ああ、そう。そうですか。じゃぁ、まぁフェリさんにはその辺から聞いてもらいましょうか・・・・・・」
気付けば日暮れも近くなっていた。
短くないレシートを受け取って喫茶店を後にした僕は、一番気になっていた事をロスさんに尋ねた。
「如何でしたか、僕の昔語りは?」
「正直よく覚えていません。我ながら馬鹿らしい事ですが、別のことが気になっていたので」
実を言えば、僕も何話したんだかよく覚えて無いんですよね。
そんな風に続けたら、ロスさんは呆れたとばかりに天を仰いだ。
そして、一言。
「・・・人前では、止めておきましょう」
姫のお気の召すままに、と返したら、きつくきつく、爪先を踏みつけられた。
※ と、言うわけでコレがリテイク出す前に書いたヤツ。
一体何故、『ゴルネオに絡まれる』という粗書から、こんな展開が出来上がるんだと、小一時間自分を問い詰めたい。
内容としてはアレですね。ここまで来ると、逆に何も無いほうが不自然なので、可能な限り突っ走ってみた感じです。
で、先日の主人公のパゥワァに関してなんですが。アレ『強すぎ、調子乗るな』って感想が来ると思ってビクビク
してたんですが、まさか『ちょww弱www』って総突っ込み入れられるとは思わなかったw
やっぱレギオスである以上、レイフォンは孤高の強さを保っていないとまずいし、可と言って弱すぎるのも嫌だな、
と考えてあの辺にしてみたんですけど、そっかぁ、弱いか。
廃貴族の劇中での描写とか、言われると確かにってトコもありますしね。つーか、アレ憑依すると弱くなってるよね。
そんな訳なんで少し上方修正してみます。
鉄撥Lv99 (普通の武芸者のカンスト)
鉄扇Lv200(道場師範クラス)
蛇君Lv600(出力"だけ"天剣)
狂蛇Lv900(でもやっぱりレイフォンには勝てない)
こんな感じでどうでしょう。まぁ、あくまで想定数値なんで、実際に作中になると低位神剣使いがエターナルに
勝てちゃうくらい適当な扱いになると思いますが。
余談ですが強襲猟兵ってのは、アストラギウス銀河的な意味で、機甲猟兵と同じ意味だったりして。
・・・・・・・・・ところで、ニーナ隊長がLv10な事に関しては、皆異論が無いのな。