季節は夏。
ドラゴンの朝は早い。
何故なら、屋外で放し飼いにされてて夜更かしもしないので、空が明るくなると勝手に目が覚めるから。
そもそも、真なる竜族である俺には、睡眠自体が必要なかったりするんだけどね。
とはいえ、人に飼育されてるニート竜の俺に早起きして、しなければならないことがあるでもなく、午前中は日陰を探して二度寝をしたりする。
もっとも日が昇ると、この国の王女である幼女マリアも起きだしてきて、遊びに来るのでそんなに長くは眠れない。
俺が飼われだした頃は赤ん坊だったのに、感慨深いね。
ちなみに、最近のミネルバは王女としての勉強があるとのことで、午前中は遊びに来れない。
本人は、その事を不満に思い「マリアだけずるい!」とか言っているようだが、今まではミシェイルが朝から勉強させられてたのを尻目に毎日遊んでいたミネルバが言っていいことじゃないと思う。
ちなみに、まだ小さい王女を一人で、こんなデカブツと遊ばせるなんて、神が許したとしても王宮の人は許す気はないらしく、マリアと同じか少し年上くらいの幼女がついてきてる。
貧乏くじを引かされた幼女の名前は、エスト。
うん。トライアングルアタック姉妹の子だね。そういえば、ミネルバもパオラとカチュアを連れてきてたわ。気づくの、おせえよ俺。
パオラとカチュアもそうだったけど、エストも王家の三兄妹と違って俺が怖いらしい。
気持ちは分からんでもないが、いちいち幼女に涙目で見られるとか、地味に傷つくわ。
マリアの、現在のお気に入りの遊びは登竜。
俺の鱗に手をかけてヨジヨジと頭の上まで登ってきます。
毎日やってることなのに、俺が怒り出さないかとエストが心配して見ています。どんだけ沸点低いと思われてるんだよ俺。
ミネルバの頃の、パオラとカチュアもそうだったんだよね。そんで、ミシェイルに相談とかしたんだけど、リリカルな魔法少女がデビューした頃と同年代の子供に相談するとか、何考えてたんだろうね当時の俺。
それで、パオラがペガサスに顔を舐められて笑ってたのを見かけたミシェイルに、あんなふうにすればいいんじゃない? って言われてさ。やったさ。やっちゃったぜ☆
パオラを舐めてあげたら、即座に気絶しましたよ。
「おねえちゃんが、どらごんにたべられるーっ!!」
とか、カチュアが悲鳴を上げるわ、それを聞いて城から衛兵が出てくるわで大騒ぎになったわ。
いや、あの時俺は学んだね。ドラゴンが正座をできるってことを。
ええ。あの日は、城をパニックに陥れた罰として正座で一日過ごしたわ。
あの日から、パオラたちの俺を見る眼が、いっそう恐怖に満ちたものになったんだけど自業自得かい? なんだか釈然としないよ。
懐かしいことを思い出してたら、マリアに呼ばれました。
「れっどー。うえー」
はいはい、高い高いね。首を伸ばしてマリアの乗った頭を上に持っていきます。マリアは、これがいたくお気に入りです。
落ちたら大人でも洒落にならない高さなので、エストが「あぶないですよ。姫さま」とか言いながら、顔を真っ青にして見ています。
気持ちは分かるけどね。そんな間抜けな失敗……。
一回しか、してないよ。
いやいやいや、落としたのはミシェイルだからセーフだよね?
しばらく、餌抜きにされて微妙に落ち込んだけどね。別に食べなくても死ぬわけじゃないんだけど、食事と睡眠は生き物の本能なわけで抜かれると厳しいのよ。
「れっどっ、はしれーっ」
お姫さまが命令するので、よっこらしょと立ち上がり、ノシノシ歩いてみます。頭の上も結構揺れてますが、マリアは見事なバランス感覚で落ちる様子がありません。さすがは竜騎士の家系。竜に乗るのはお手の物だね。竜騎士が乗るのは火竜じゃなくて飛竜だけど。
マリアを乗せて歩く俺と、心配そうに後を走って追いかけてくるエスト。
もはや、この国では日常風景といっても過言ではない光景です。
そんなことをやっていたら、お昼になったので昼食タイム。
お昼を済ませて午後になると、マリアたちと一緒にミネルバたちもやってきます。ミネルバは、俺と遊ぶために午前中に集中して勉学に励んでいるので、午後はオフです。
でも、ミシェイルはこの国を担う後継者なので、そんなことが許されなくて午後からも勉強漬けです。俺が丸投げした未来の問題の解決にも頭を悩ませないといけないし、大変だね。
ミネルバが汗を流したいから泉に連れて行けと言ってきたので、前に山を散策してた時に見つけてから、よく行くようになった泉に連れて行くために幼女たちを背中に乗せます。
ミネルバとマリアが楽しそうに、パオラ、カチュア、エストが、おっかなびっくり首や背中に乗ると、翼を広げて大空に飛び立ちます。
飛べるのは、飛竜と神竜だけで火竜は飛べないと思ってたけど記憶違いだよね。実際に飛べてるし。
三姉妹は、落ちないように、俺の背中にしっかり抱きついてきますが、幼女は凹凸がないから嬉しくないね。
ミネルバとマリアは落ちるはずがないとでも思ってるのか、普通に座ってるだけです。実際、俺は真なる竜の能力である見えざる手で幼女たちを支えてるんで、落ちる心配はないんだけどね。
ミシェイルのときはアレだ。慣れてなかったし、一緒に落ちそうになってたミネルバを拾うのに集中してたから、つい……。
そんなこんなでたどり着いた泉で、幼女たちが豪快に服を脱いで水浴びを始めます。俺の目なんか全然気にしません。まあ、幼女だしね。俺は竜だし。
今のこの娘たちは、ただの和み要員ですが、十年もすればボンッ、キュッ、ボンのナイスバディの美女軍団になってくれるはずです。いまから、その時が楽しみです。
ちなみに、この泉には人を襲うような危険な動物は一切近づきません。魚も泳いでる綺麗な泉なのに、不思議です。
そもそも、この山に生息するはずの熊や狼にも遭遇したことないんだけどね。俺は。
どうでもいい事を考えながら、水浴びする幼女たちの未来の姿を妄想してたら、ミネルバに呼ばれました。
なにさ?
「レッドも、水浴びしようよ」
さて、用事を思い出した。
立ち去ろうとしたら、尻尾の先をマリアが掴んでました。
しまったぁぁぁぁぁっ。最初から、そのつもりだったのか幼女共!
やめてよね。幼女が本気になったら、俺が逃げられるわけないでしょ。いや、マジで。
竜の尻尾って伊達にあるんじゃないのよね。巨体のバランスを取るために右に左に振りながら歩くのよ。
だから、マリアを尻尾にくっつけて逃げようととすると、壮絶なことになってしまう。
それが分かっていて、マリアを利用するなんて、ミネルバ……、恐ろしい子。
「て言うかさ、俺は火竜なんだけど」
だから、水は苦手なんだよね。
「うん。だから私たちが洗ってあげるね」
そういう問題じゃないからね。
そっちの趣味の人なら、一も二もなく頷いてしまうこと請け合いの良い笑顔だけど、俺にそっちの趣味はないからね。
マジで水ダメなのよ俺。
別に水でダメージを受けるってわけじゃないよ? 泳げないってわけでもね。なんていうか生理的にね。気持ち悪いのよ。
だけどまあ、俺がこの幼女たちに逆らえた例もないわけで、バチャバチャ洗われてしまうのでした。
「はい。よくがまんしたね。ごほうびだよ」
洗浄が終わった後で、そんなことを言ってマリアが生魚を口の前に持ってきます。彼女の中では、俺の好物ということになっているようです。別に嫌いじゃないけどね。
最初に俺に生魚を食わせようとしたのはミネルバだったんだけど、当時は生きた魚を丸飲みとか、抵抗がありました。慣れたけどね。食べるの躊躇してたら幼女ミネルバが涙目になったし。
だからって、好きでもないんだけどね。調味料なしの生魚丸飲みとか味がしねえ。誰か、俺に醤油とワサビをくれ。マヨネーズか塩でもいいから。
でもね、「ありがとう美味しいよ」とかミネルバに御礼を言ったのが運のつき、俺の好物は生魚と皆に認識されました。
俺と仲良くなりたい子供が、握り締めて持ってくる生暖かくなった生魚。俺の機嫌をとろうとする王宮の使用人が持ってくるバケツ一杯の生魚。どんなイジメだ。
王宮に帰ってきたら、ミシェイルが、「ドルーアとは戦うべきなのか? ダメだ。そうなっても、アカネイアは援軍なんか出してくれない。マケドニア一国で立ち向かっても勝てるわけがない。クソッどうすればいいんだ」とかなんとか、悩んでました。
子供なのに、そんなことを考えなくちゃならないなんて、王子様って大変だなぁ。
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歯医者に行って待合室でボーっとしてた時に思いついたことを書いてみた。
意味もなく主人公紹介
レッド
ミネルバがつけた主人公の名前。
メディウスに勝ちはしないが負けもしないチート竜だが、やる気なしのニートなので意味がない。