どうも、ラクス・クライン(役名)を演じることでお給料をもらっている元ザフトMS乗り ミーア・キャンベルです。
突然ですが……場の空気が良く分かりません。
「ラクスっぽいってこういう事じゃなかったのかな?」
信じられないモノを見たような目をするオーブのお姫様に、自分が配した役者の演技に満足するような顔をしたプラント議長。
これはまぁ別にどうでも良い。とくに後者を理解するのはもう諦めた。ボウヤだからさ。
しかし他の人たち、おもに軍人さんたちの視線が
「凄く……痛いです」
特に黒髪赤目の赤服君はもう視線がキラキラしていて申し訳ない気持ちになる。
やめて! 偽ラクスのライフはとっくにゼロよ!
思い詰めたような顔で格納庫を出ていくカガリ・ユラ・アスハとその後を追う議長。
どうやら自分を待っていてくれるらしいレイ・ザ・バレル君にお願いを一つ。
「もう少し見て行きたいの。ダメかしら?」
「ですが……」
「勇敢な貴方のクラスメイトともお話したいし」
「あまり苛めてやらないでください」
ため息をひとつ、綺麗な金髪を靡かせて去る後ろ姿。
民間人を一人こんな場所に置いていくのは警備的には問題なのだろうが、さすがはラクス様の影響力! なんともないぞ!
「よっと!」
作業用に重力が軽く設定されているこの空間ならではの移動法を選択。
手摺に足をかけて蹴りだす勢いのまま、下へ飛ぶ。久し振りの低重力下での移動だったが、どうして上手くいくものだ。
本当に体で覚えた事は忘れないモノである。それで多大な苦労をしている昨今ですが……
オレ シン・アスカは人生で初めて「ファン」になった。
いや、ファンとかそういった単語で表す事すら困難なほどの尊敬を覚えた、
アイドルやらプロスポーツやらにもテンで興味が無かったこのオレが、である。
相手はミーハーな表現をすれば『アイドル』という分類が相応しいのだろうが、この人には全く似合わない。
『平和を誓い、手を取り合う。大いに結構なことです。
だから『こんな物』は必要ないと? 新造艦や新型MSは不要である!と』
『ですが! ここはザフトの船。
貴方が必要無いと断ずる『こんな物』に限りある命と時間をかけている者たちの居場所です!』
『私にとって彼らに送るべきモノは惜しみない拍手と賞賛以外にはありえません』
政治家が難しい言葉で戦争や軍人の事を論ずるのは多々ある事だし、そういう場面はテレビなどで散々見て来た。
ラクスは政治家でこそないのだろうが、間違い無く国を動かすような人物だろう。
そんな人の口から飛び出した言葉の数々……一言で言うと……
『カッコいい』
『子供か!?』と笑いたければ笑うと良い。その程度の言葉でしか表現することが困難なのだ。
理想を語っている訳ではない。ただ真実に基づく主観を口にした『だけ』。そう、それ『だけ』なのだ。
だというのに……
「あの背中に着いて逝きたい」
そう思わせる何かを放っている。ただ弱い自分が許せなくて入ったザフトだったけど、新しい目標が出来た気がする。
もし一介のパイロットだったならば、色々と話してみたいこともあったのだが、今は目的が出来た事だけを喜ぼう。
相手はあのラクス・クラインなのだ。初戦を勝利で飾れなかった新米赤服と話す理由など存在しないだろうから。
再び愛機 インパルスの整備と調整へと戻ろうと振り返れば、自分の上を通り過ぎる影が一つ。
「?」
目で追ってみれば翻るスカートが過る。女性も少なくは無いザフトにおいても、余りにも奇抜なスカート。
着心地や暖かさなどを無視した『魅せる』ためだけのデザイン。男ならば顔を赤くするしかない超ド級露出具合。
戦うのはもちろんのこと、歌って踊るのも難しそうなピンホール型ヒールで見事な着地。
低重力下での移動で乱れた髪を整えるように撫でれば、綺麗な桃色の髪がふわりと揺れる。
「背を向けるのが少し早いわ」
「えっと……」
何て言えば良いのだろう? 何と口にすれば良いのだろう?
「なんか困った顔をしてるわね? じゃあ、私が先に言っちゃおうかな~」
しげしげとオレの顔を覗き込んできた瞳。それを真中に納めた整った顔立ち。
それが形作るのは笑顔。悪戯が成功した子供のように純粋で、誇らしそうな表情。
「さっきはカガリ代表に……」
「アレは思わず口から出ちゃっただけで!」
「みなまで申すな!」
思い返してみれば、中々危ない事を叫んでいる自分に焦りを覚え、弁明を口に出そうと試みる。
だがそれを遮るようにラクスは続けた。『うんうん!』と一人で納得したように頷いている。
「軍人としてはダメダメな行為だけど個人として、私は貴方に同意して賞賛する」
何となくこの人に惹かれた理由が分かった。それは『真意からの同意』。
口先だけではない経験や心情から彼女は同意してくれている。平和の歌姫が軍人と意気投合というのもどんなモノか?とも思うが構うまい。
「よくぞ言った! カッコ良かったぞ? 少年」
こっちは新米赤服、向こうはプラントを救った歌姫様。
全く遠すぎる関係だ。それこそ背中が見えなくなるほどに遠い。それなのに……オレは新しい目的が出来てしまった。
「もし貴方が言わなかったら、私がドロップキックしてやるところよ!」
既に『文句を言う』を通り越したアプローチだよな、ソレって。
『わっはっは!』と腰に手を当てての高笑い。大山脈な胸部が合わせて震える。
ソレに釣られるようにオレの口から苦笑が漏れ、止められずに笑い声が口から溢れてしまう。
「ハッハッ!」
そしてオレの目的が少し……少しだけ変化した。『背中について逝きたい』ではなくなった。
後ろでは無く、『隣』を歩きたい。きっと楽しくて、充実した時間がそこにはある。
こうして笑いあっているとそんな事を簡単にできてしまいそうだ。
「ちくしょ~遠いよな~」
でも遠い。非常時でも無ければ彼女がMSに乗ることなど無いのだろうから……なんて思っていた時期がオレにもありました。
私 ミーア・キャンベルはイライラしていた。
ストレスとの原因というのは物体である事と行動である事があると思うけど、今回の場合は行動。
しかも自分の行動についてである。
「MS部隊発進! ここで仕留めるわよ!!」
辺りを満たすのは戦場の喧騒。戦闘遮蔽されたミネルバのブリッジ。
その後方に私は座っている。艦長以上の役職、それこそプラント議長やらオーブ首長なんかが座るVIPな席。
そこに私は座っている。
『なぜ?』
当然と言えば当然だ。だって私はラクス・クライン(役職名)なのだから。
平和の歌姫がコンディションレッドのブリッジに居ることも可笑しい……あぁ、本物もこういう場所に座っていたのか?
「カツカツカツ」
五月蠅い!って私の貧乏揺すりの音だった。それだけイライラしていると考えて貰いたい。
なぜ私はここに居る? どうして私はアソコに居ない?
スラスターの光を従えて飛び去っていく数機のMS。ゲイツRに真っ赤なザク、そしてインパルス。
『行ってきます!』
楽しいお話(インパルスについてとか、MSでドロップキックをする方法とか)の途中、敵鑑補足のアラームがなる。
すぐに駆け出した新米赤服君 シン君が去り際にかけて来た言葉が蘇る。
『今度こそ倒して……戻りますから』
戦士の背中にかけるべき言葉が思いつかず、虚空を彷徨うように突き出した手が踊った。
ラクス・クラインならば見送るしかない。当然だ。当然なのだ。そして何食わぬ顔で後ろに座っているべきなのだ。
わかっている……わかっているとも……
「ボギーワン! 進路、速度ともに変わらず」
「妙ね……このままじゃデブリに突っ込むことになるわ」
意識を眼前の現実に戻せば、タリア艦長がそんな事を呟いている。
確かに不自然だ。いかに尻を追われる退却戦とはいえ、他の艦ならばいざ知らず足自慢のミネルバからただ逃げるのみではどうしようもない。
正確な間合いを把握できなくなるのがデブリ戦の特徴だし、こちらの攻撃は当然命中率も下がる訳だがそれはアチラも同じこと。
まさか……
「っ! 光学での補足は!?」
思わず私は立ち上がり、地面を蹴る。まっすぐ向かうのは観測員の席。
「ラッ! ラクス様!?」
シートの後ろから覗き込むようにディスプレイを睨みつける。辺りからのざわめきを無視して再度問う。
「どうなの!?」
「熱量反応だけです。インパルスとの距離は1500に迫っているのですが……」
1500とは宇宙空間での戦闘 戦艦やMSたちの間では長距離でも何でもない。
むしろ近距離に属する。とくに砲撃距離からすれば既に戦艦の対空防御の範囲内。
それでも相手は撃ってこない。近づけば近づくほど、MSの間合い。不利になるにもかかわらず……である。
これが導き出す答えは……第六感と知識がスクラムを組んで歌う。それに抗う事無く受け入れて、私もすぐさま叫んだ。
「MS部隊を戻してください!」
「はぁ? 何を言って……」
「アレは熱量だけ!」
疑問の視線が飛び交う中で、唯一私と同様の恐怖を共有する者がいた。
大きなサングラスの下で瞳は驚愕に染まっているだろうアレックス……アスラン。
「デコイか!?」
「しまった!!」
そのアスランの叫びに連動して、歴戦の船乗りであろうタリア艦長も事態を把握したようだ。
再び覗き込んだディスプレイではボギーワンを示す熱紋が徐々に小さくなっていく。
戦艦ならばすなわちメインエンジンを落とした事を示す訳だが、この状況でそんな事をするとは考えにくい。
つまり『囮の松明から火が消えた』訳だ。よって次に来るのは……
「ボギーワン、ロスト!」
「MS部隊に警告を! 死角から奇襲がくるわ!!」
指示を飛ばす先はルナマリアちゃんの妹さん、メイリン・ホーク。何故か呆気にとられた顔をしていたが、タイムラグは一瞬。
すぐさまインカムに叫ぶ。その様子を見て頷き、すぐさま次に言いたい事を…『ボギーワンは後ろにいます!』…先を言われた。
「しかも……」
声の主は先と同じくアスランだったのだが、声の位置が近い。何時の間に私と同じような態勢で計器類を覗き込んでいた。
不意に掌同士が重なり、驚いたように二人して顔を上げて視線を重ねた。
だが残念な事に青春染みたときめきも出会いも在りはしない。ただ焦りに染まった視線がぶつかり合い、息もピッタリに確証に近い危惧をデュエット。
「超近距離に!!」
「熱紋確認! ボギーワン……距離500!?」
ジーザス……
それからの時間は早いようで遅く、長いようで短く、熱いようで冷たい。
こういう表現をしている時点でもうかなりに勢いでピンチである。
完全に後ろを取られて追われる形。追撃戦のベーシックスタイル、大多数の艦載MSを先行させている状態での奇襲。
こちらの頼みの綱はカタパルトが使えないために初動が遅いザク・ファントムが一機だけ。
対する相手はガンバレル使いのMAと対艦攻撃用の砲撃装備を担いだダークダガーが数機。
ガンバレル使いの実力を鑑みれば、その単機を足止めするのが限界であろう。
つまり確実にダガーはミネルバへと襲いかかる。MSの援護が無い戦艦がいかに脆いか……ザフトが世界で初めて証明したのだ。
実に分かりやすい……
「堕ちる」
口に出すべきではない。だが口から零れた。幸いなことにもう誰も非戦闘員の囁きには誰も耳を止めない。
そんな余裕はもう無い。誰もが自分の生命の危機を実感しているからだ。
「死ぬの?」
半端なまま……歌を捨て……軍人を捨て……偽物になる事も出来ないまま……
『否!!』
黙って見送るのがラクスとかそんな事はもうどうでも良い。
そこには戦場があり、まだまだな可愛い後輩たちが命を賭けて踊っている。
ならば……ラクスでもミーアでも何でも良い……『私』はきっとこうするしかない。
「危ないわ! 座っていなさい!!」
既にVIPに対する扱いなど投げ捨てたタリア艦長の言葉を華麗にスルー。
通信コンソールに飛びつき、先ほど聞いていた番号を呼び出す。繋いだ先はこっちと同様に慌てているであろう格納庫。
私は叫ぶ。
「こちらブリッジ!」
高らかに叫ぶ。
「ピンクちゃんの準備は!?」
……少し大きな声、過ぎたかも知れない。辺りから戦闘中とは思えない沈黙と痛い人を見る視線が飛んできた。
「「「「「誰? ピンクちゃんって?」」」」」
ブリッジの誰もが意識を共有した疑問の収束攻撃。効果は抜群。
不意に振動で霞む音は自分が欲していた答えをくれる。減少するSAN値から敢えて目を背け、勢いで場を動かす方向へ。
「出るわ」
「だっ、誰がですか?」
まるで打ち合わせをしたかのように、ベストな相槌をいれてくれたメイリンちゃんには、後でコーヒーを奢ろう。
「決まっているでしょ?」
『カツン』
足を一つ打ち馴らし、バサリとスカートを翻し、さらりと髪を靡かせて宣言する。
気に入らない神様や、大嫌いな本物や、戦っている後輩たちに聞こえるように宣誓する。
「ラクス・クラインが出撃するわ」
どうだ、この野郎。これがミーアであり、偽ラクスだ。
あとがき?
頑張って早く書いてみた。
しかし話は前へ進まないw
ちなみに本物のラクスはカッコいいドキュン、魅力的なクレイジーにしたいと企んでいる昨今……いつ出てくるのでしょうね?(遠い目