いや~モノを書くって難しいですね?(いまさら
「もう止せ! 君の目的は達成したはずだ!!」
「……」
「これ以上戦う事に何の意味がある?!」
「……」
「既に連合軍に戦闘の意思は無い!」
「……」
その二人の間では、言葉のキャッチボールが一切成功していない。
もし成功しているキャッチボールがあるとすれば……それは攻撃と防御、射撃と斬撃、前進と後退、上昇と降下……その結果として生と死。
「俺も! カガリも!! オーブも! これ以上の戦闘を望んではいない!」
「っ……」
一瞬だが躊躇いを感じる事が出来たような気がしないでもないが、やはりアレックス・ディノ(本名アスラン・ザラ)の声は届かない。
ただ猛然と、しかし冷静かつ的確な戦闘行動で答えるのはシン・アスカ。
本来ならば赤服を与えられただけのひよっ子であるはずだ。しかしそこには本来の熱し易い素直な若者は居ない。
居るのは……人間の恐ろしい末路の片鱗。
「聞く耳なし……か」
既に恐ろしい末路をある程度体験していたアスランは、シンのように極度過ぎる集中状態
―当初の目的しか見えない状態ではない。
故にこんな呟きを苦々しく零す事が許されていた。しかし脳内に巡るのは十二秒後にある斬撃の軌道計算。
数種類の予測からコンマ数秒の敵機の動きを参考にしつつ、最も的確なパターンを選び出す。
選択……採用……却下……選択……採用……却下……選択……採用……却下?……確定。
「ちぃっ! やはり『性能』は俺よりも上か!!」
現在の情報を総べて読み取り、深すぎる思考の答えを最速で導き出すシステムがこれだけの時間を有して、ようやくギリギリ。
性能とは決してMSパイロットとしての能力を指している訳ではない。
パイロットとしてはブランクを計算に入れてもアスランはシンに負けているとは思わない。
劣っているのは『SEEDの浸食度』。
全く喜ばしい事に自分は彼よりも犯されていないのだと安堵。
自分以外にこの感覚を知る者はたった一人、完全に逝き尽いてしまっている友人のみ。
三人の中で比較しても自分はどうやら軽傷らしい。しかしその差は現在、目的達成への大きな障害として立ちはだかっている。
勝利を手に入れる要素は三つある。
一つはMSパイロットしての能力。
二つはMS自体の性能。
三つはSEEDの浸食度。
自分が勝っているのはパイロットしての能力のみという圧倒的な不利な状況。
これでは撃破するのも難しく、撃墜する事無く止めるのは更に不可能といえる。
MS自体の性能は変更できる訳もなく、SEEDの浸食度は悪化させたくない。
「だからといって……」
戦闘経験の差によって生じる情報の質と量の差によって、計算速度を埋め合わせている状況。
これで自分の能力に付いてくる機体ならば話は別なのだろうが、残念ながら乗っているのは改造量産機に過ぎない。
「コレは辛すぎる!」
そしてその差は『いま』という情報によって僅かにだが、確実に埋まりつつあるのだ。
もしこれ以上、力量差に変化が在り万が一にも自分が撃墜されてしまった場合、この悲しい狂戦士は止まってくれるだろうか?
恐らく無理だろう。連合軍の次はオーブ軍かも知れない。そんな事はさせられない。
お互いの今後の為にそれだけは避けなければならない。覚悟を決めよう……後輩を傷つける覚悟を。
「死んでなんてくれるなよ?」
数え切れないほど殺しておいて、顔を少し知っていればこんな事を言う。
「本当にイヤな奴だな……俺は」
「……何だ、コレは?」
歯牙無いMS傭兵にして現在はとある人物の護衛兼友達をやっているブレラ・ストーンは茫然と零す。
先ほどまで彼らはとても不味い状況下に在ったはずなのだ。何せ……
『一個人の邸宅に無数のMSが攻め寄せる』
……なんて想定するのもバカらしい危機的過ぎる状況。もはや暗殺でも何でもなく、機密でも無ければ証拠も残る。
そうまでしても排除したい存在と言う事だろう? ブレラの雇主にして友人……と本人は主張しているラクス・クラインは。
「終わりましたか? ブレラさん」
通信機越しに響くのは唯の言葉であろうと甘く心地よい感覚を覚えさせる魔性の声。
身辺警護の依頼という事で呼び寄せられた当初、眩暈さえ感じさせた声色は実に気軽に問うてくる。
「貴女の命を狙って無数のMSが押し寄せてきているのですよ?」
「そうでしたわね……私の事を憎からず思う人がいるのは仕方がない事ですわ」
一呼吸、通信機越しに響くのは微かな水音。本当に悲しそうな声の直後に紅茶でも飲んでいるのだろう。
「それでも私は全てを愛しているんですよ?」
あぁ、これも本気なのだろう。この数日でしっかりと理解してしまった……残念な事に。
自分の命を狙う存在も、自分の命を守る存在も愛しているのだろう。
流石にそこには『友人』と評するお気に入りに、僅かながらも手心を加える人間らしさはどうやら在るらしい。
「そういえば……その娘の具合はどうですか?」
僅かながらの手心、僅かなりの人らしさ。近代欧州の富裕層が使用人に揃いの衣装を与えたお仕着せだろうか?
彼女いわく『その娘』は間違いなく、自分に対する友愛の表現なのだろう。
「実に好みに仕上がっています、この娘は」
本来の仕事を名乗れば『MS傭兵』という彼はMSに乗るのが仕事だと言って良い。
だが彼は歌姫の我儘で何も持たずにオーブに降りて来たのだ。
宇宙のデブリベルトとか中東の不安定地域ならばいざ知らず、あのオーブに軽々とMSを持ち込むのは不可能。
故に泣く泣く愛機(どこにでもある魔改造ゲイツ)を宇宙に置いてきたのである。
「それはようございました♪」
雇主の大事な人への贈り物が喜んでもらえた故の嬉しさを宿す声を聴きながらブレラは『その娘』の操縦桿を撫でまわし、ペダルを軽く踏み込む。
実に素直な反応。可愛らしい……いや違う……
「堅実な操作性、一定の状況にムラ無く対応できる武装、少しばかり無理がきくバーニア。
こんなに自分に合う娘には初めて乗りました。感謝します」
しかしはいまMSに乗っている。今までの無数に在った搭乗履歴の中には存在しないまさしく一級品の『MS』に、だ。
「その娘の名前はタシチュルヌ。あまり一般的ではない欧州の言語で『寡黙』という……」
なにやら嬉しそうにラクスは説明するが、もちろんそこには彼らMS乗りが求めるスペック云々の説明はない。
当然だ。たとえどんなものでも軽々しく与えることが出来たとしても、ラクスはそれに対する深い知識など無いのだから。
ブレラは搭載されているスペック表を捲る。そこには『量産型フリーダム』という恐ろしい構想のもとに作られた情報。
もちろん本来のザフトではとっくに廃棄されたプランで在り、機体も作られてなど居ない。
だがこの娘は此処にいて、歯牙無いMS傭兵であり、『何処にでもいる』聖女の友人が乗っている。
これが、それが、そんな事を容易く、自分は何一つ行わずに、在りえない巡り合わせを叶える。
そんな『モノ』こそがラクス・クラインなのである
「まぁ……初陣はお預けか」
Gタイプ エース機の象徴たるツインカメラアイにV字アンテナ。
フリーダムをモチーフにしているデザイン。背に在る翼は多くがバーニアとしての役割のみを有し、腰にのみ一対のレールガン。
手には一般的なビームライフルに僅かながら威力を増しただけの代物。
反対側には全ての攻撃を回避することなど出来ないだろうから、大きめのシールド。
そしてボディーカラーはブレラが好きな赤紫ではなく、ラクスが好きな薄桃色。
そしてそれが砲を放つ事も無ければ、攻撃を受ける事も無かった。
無数のMSに襲われれば、それを迎撃するような仕事をする彼は一切そんな事をしていない。
ただ新しい娘の良く見える目でただ観察を続けるだけだ。
『手を出すな』と言われている。ラクスに、そして彼女を守る最強の盾に。
「この程度を相手に他人の力なんて借りられないよ?」
何の冗談だ、バカ野郎。MSに乗って、命を天秤にかけて日々の糧を得ている自分に対する当て付けか?
だが実際……自分は必要では無かったらしい。
「いや~相変わらずお強いね~我らの王子は」
「っ!? 海中より熱源!!」
新手か!?とタシチュルヌがライフルを構えかけて、ラクスがそれを手で制する。
やはり音声のみの通信なのだが、その不可思議な現象には既にブレラも馴れた物だ。警戒を怠らず、声と熱源の主の登場を待つ。
海面を割って表れたのはザフト製水中専用MSの集団。
「ワザワザ呼び出してみませんね、キャプテン」
MS同士の通信となれば当然映像も受信できる。繋ぐ先は集団の戦闘に居たゾノ。
量産性と安易な操縦性を目指して作られた射撃型のグーンとは違い、格闘戦も想定した爪装備の水中用エース機。
肩には髑髏のマークがペイント。重心など欠片も考慮していないだろう。大きな爪と無数の火器というハチャメチャっぷり。
そしてその背後に続くのがザフトの正規軍ですら正式配備していない最新型 アッシュであることなど、もはや驚く価値もない。
「いえいえ~姫の為ならばこのジャック! 人魚だろうと生け捕りにしてみせましょう!」
モニターに映ったキャプテンと呼ばれた男の姿はまさしく古めかしい海の男。
ドレッドヘアーに赤いバンダナ。しっかりと焼けた肌。おどけた喜劇じみた表情。
服も着古した布製など今では逆に珍しい。腰布にはカットラスか先込め式銃が差さっているはずだ。
「それは楽しみですわね?」
沖合には浮上する巨大な海亀の甲羅……ボスゴロフ級潜水母艦。それが三隻も。
シンデレラを城から連れ出す物騒過ぎるカボチャの馬車である。
「でも今は少し旅行に連れて行ってくれるだけで結構ですわ、私の海賊♪」
彼らは海賊 私掠船。
ラクス・クラインと言う余りに大きな許可書を胸に、世界中からバックアップを得て、彼女の敵を海で誅する存在。
そしてやっぱり彼らにも出番は無かった。
「これがフリーダム……」
ブレラもジャックも何もしていない。ただ見ていただけだ。
一方的な蹂躙を。もはやそれはシナリオが決まっていて、敵は彼に倒される為だけに存在しているようだった。
空にはたった一つ犯されざる白き翼が舞い、地面と海には無数のMSが倒れ伏している。
その数は最初に訪れた特殊部隊に加え、騒ぎを聴きつけた正規軍の者も含まれて、三倍以上に膨れ上がっていた。
そしてさらに恐るべきことにただの一人とてパイロットは死んでいないのだ。
「襲ってくるんだから仕方がないよね……僕は悪くない」
もしオーブ沖での非常事態の最中、自軍のアストレイと存在しないはずのフリーダムの戦闘が発生した場合、正規軍としての反応は決まっている。
襲い掛かる相手はフリーダムだろう。そして倒されるのは彼らの方だろう。
「「これがキラ・ヤマト……」」
ただの法螺話ではなかった……ただの噂話では無かった……ただのお伽話では無かった。
顔も覚えてもない母親が寝際に語っていたのを思い出す。
スーパーマンだろうか? いやいや世界を敵にする魔王? 違うな……魔王は最後に倒される。
魔王を倒し、なお無敵。つまりアレは勇者だ。しかも『完結された物語』の勇者。
話が終わってしまえば、最後に残った勇者は誰にも倒されないし、汚されない。
逆にいえば絶対に倒されず、死にも穢されないような存在が居たとしたら……その物語は終っているという見方もできるか……
思考する。
導き出された答えを実行する。
周りの反応や変化から更に思考する。
その思考によって更に最適な答えを出す。
最適な答えを用いて全てを『壊す』のだ
コレをエンドレスで繰り返す。
そうすれば『守れる』のだと『ソレ』が教えてくれた。
『ソレ』がいうにはコレが最も『効率的』な方法なのだそうだ。
ならば問題は無い。守られるならば他には何もいらない。
心はいらない。
息をするように戦えればいい。
戦っていれば守れるのならば、あんな思いをしなくて良いのならばソレだけで構わない。
「!」
他の『行程』と比べると圧倒的に時間を有している『障害』の動きに変化あり。
鋭さを増す……早さを増す……力強さを増す……だがそれだけだ。
制裁に欠ける……冷静さに欠ける……だが強引で組みがたい。
『ソレ SEED』を持つ者同士が戦った場合、他の要素(MSの性能なり純粋なパイロットしての技能)に大きな差が無い限り、膠着状態に陥り易い。
当然の事だ。お互いがお互いの動きを可能な限り予測し、最適外の可能性を排除する。
つまり確信が無ければ危険な手など撃たない。だが敵は撃ってきた。少々無茶な選択を。
つまりこれは闘いの終わりを暗示している。
今まで引き分け イコールだけで結ばれていたバランスが変化。
どちらかが倒される答え。それは勿論、相手である事が望ましい。
「……」
だが冷静な思考は望みのみで安易な方法など選ばない。
どちらも天秤にかけ、冷静に分析し……捨て身には捨て身で答える。
それがベスト。SEEDが導き出した答え。間違いなき正解に、研ぎ澄まされた神経を辿って、肉体が動く。
その直前に声が聴こえた。
『やめなさい!』と
「っ!?」
その言葉はシンの心を揺さぶった。
この声を知っている。知識が、では無い。もはや意識にすら染みついている。
それが『やめろ』という。どうして? 守らないと……守るにはこうしないといけない。
『お兄ちゃん♪』
愛しい妹の声が脳内で再生。迷いを遮断する。
何故か勢いを殺して僅かに退く対象を見て勝利を確信。
心はいらない。ただ目の前の敵を倒すだけの存在で良い。なのに再びあの声が言う。
『私の歌も守るんでしょ!?』と
歌……歌……彼女の歌? SEEDは必死にその意味の分からない単語を消去しようとするが、それは確かにシンを揺らし続ける。
『私は本当の君に私の歌を聴かせたい!』と
僅かに鈍る。普通の人間からすれば僅かだが、SEEDを持つ者としては余りに大きな誤差。
そんな彼の前の前に現れたのは……頭部がないショッキングピンクのザク。
色的にも、頭部が無い的にも一般常識を覆す衝撃だろう。コレが声の主?
次にシンが効いたのは命令にして叱責にして懇願にして祈り。
本物のソレとは比べようがない混沌としたニセモノの祈りだろう。
「戻ってきなさい! シン・アスカ!!」
OF
一瞬でソレ SEEDが切れたのが分かった。
一瞬前までは完璧に戦闘の事しか考えていなかった脳が正常の人間的に稼働する。
そこで目の前にいる存在が何であるのかをようやく理解し、それに対してビームサーベルを振りおろそうとしている自分に驚愕する。
「駄目だぁああ!」
守れないだけではなく、ついに自分の手で大事なモノを殺してしまうのか?
耐えられそうにない恐怖に絶叫するシンが次に感じたのは不思議な感覚だった。
「え?」
MSに乗っている時は普通の時には感じた事が無い加速を受けるが、これはそのどれにも当て嵌まらないだろう。
もし当て嵌まるのがあるとすればアレだ……生身の格闘訓練で……教官が自慢げに披露した投げ技……
「どぉっりゃ!!」
掛け声が一つ。
一連の動きを固唾を呑んで見つめていた連合、オーブ、そしてミネルバ。彼らはその光景を決して忘れないだろう。
何処をどう掴んだのか分からないが……
踏ん張る足場がある訳も無しに……
メインカメラが無い状態で……
ただの量産機に過ぎないドピンクなザク・ウォーリアが魅せた……
芸術的な一本背負いを。
乱れたMSの姿勢を制御するくらいは、ほとんど無意識で行える。
茫然としたシンはようやく通信のモニターに映るラクス・クラインに気がついた。
それはそれはドヤ顔で彼女は問う。
「お目覚めかしら? 王子様」
慌てて彼が紡げる言葉は要領を得ない謝罪程度だろう。
「あのっ! 俺! 訳が分からなくて『ダイジョブ!』……?」
しかしその言葉を否定され、極上の笑みでラクス・クライン……ミーア・キャンベルは言った。
「貴方は守ったよ、ちゃんと……おかえりなさい」
スランプが過ぎてもはや書いている本人すら分からないお話に(なに!?
またもやオリキャラ登場 ジャックさんはどこにでもいる海賊船長(ぁ
某ジョニーとは関係ありませんよ?