なかなか早いな私。そろそろその他へ行こうかしら
「はっ」
まるで笑えてくるじゃないか。オーブの領海を出たと思えば、スペングラー級空母を中心とした連合軍。
ミネルバ一隻になんとまあ丁重なおもてなしだ。連合の海軍は全てジブラルタルとカーペンタリアに大集合していると予想されていた。
よって遭遇戦となればこれから向かうカーペンタリアに近づく過程に発生するのが定石。
「後方にはオーブ艦隊! っ!? 砲塔旋回! こちらを狙っています!!」
あぁ、そうなるだろうさ。偶然通りかかった遭遇戦ですらない。完全に網を張っていなければ実現不可能な教本通りの受けの布陣。
『オーブからカーペンタリア方面に向けて宇宙艦がノコノコ一隻で出てくる』と知らされていた訳だ。
「やってくれるわね、オーブも! 子獅子は子悪狐だったのかしら!?」
オーブの条約調印とそれに伴うザフト鑑たるミネルバの国外退去。
地球の傷を少しでも浅くしようと奮戦する姿を誰よりも近く確認しだろうし、ワザワザ祖国たるオーブに送ってやったというのに!
『本当にすまないと思っている。地球を救ってくれた英雄たちにこんな仕打ちを……あっそれはそれとしてこの親書をデュランダル議長に届けてくれたら嬉しいな~なんて』
あぁ! 思い出しただけで『頬が緩む』。何という中途半端な策謀! 真摯な謝罪と取って付けたような自信の無い陰謀。
やっぱり獅子の子は子獅子であり、とびっきりのバカライオンだ。あんな『お土産』まで秘密裏に搬入してくれた点も留意して、主犯は彼女では無いだろう。
「ちぃっ! タヌキめ!!」
結局最後に行き付いた黒幕は大西洋連邦と深いパイプを持つと言われているセイラン家。
思わず悪態を吐いた私の下に現れるもう一つの懸念事項。
「艦長!!」
自動の扉が開き切る前にブリッジに飛び込んできたピンク色の歌姫。
「私も出撃します!」
もう唯の確認である。この娘は自分がラクス・クラインであるという自覚があるのだろうか? いや、多分に無いのだろう。
ため息を吐く。出したくなんてない。出さなくてもいいなら絶対に出撃など許さない。
だが今は一人でもMSパイロットが必要で、遊ばせておける期待なんて悪趣味なピンク色だろうと存在しない。
そしてその一人が一騎当千の古兵(高い確率での推測)ならば尚更だ。
「大気圏内での実戦の経験は?」
「ありません!」
大きな胸を張られた。だがこの女性ならばその条件さえなんとかして仕舞うだろう確固たる自信が酷く忌まわしい。
「貴方にはオーブの『お土産』を預けます。インパルスと共に遊撃を」
「ちょっと艦長! ラクス様を出撃させるつもりですか!? こんな厳しい戦いに……あっ……」
正当な意見を述べたアーサー・トラインの顔が青くなるのがわかった。
動転していて気が回らなかったようだが、少しばかり軍事教本を齧った素人でも分かるような状況。
圧倒的な戦力差。こんな状況を覆すのはそれこそ神の奇跡にでも縋らなければ不可能だ。
ソレに気がついてしまった顔。優秀な事は間違いない副官だが、メンタル的にはかなりの不安が付き纏う。
「大丈夫」
不意の発言。自信満々に頷くのはピンクのお姫様。
「私はラクス・クラインよ?」
魔力であり魅力。
「はっ、はい!」
理屈や理論では無い。ラクス・クラインの言葉である。
旧大戦を終結させ、そして当艦の危機を救ってみせた者の言葉だ。
ブリッジに広がる安堵感。崩した敬礼とウィンクを残してブリッジを飛び出す彼女を見送って、私 タリア・グラディスは気持ちが良いため息を一つ。
被り慣れた軍帽をもう一度深く被り直して、一喝。
「さぁ! 歌姫が頑張ってくれると言ってるのよ!? 私たち軍人が奮戦せずにどうするの!?」
「ちくしょう!!」
俺 シン・アスカはパイロットアラートを飛び出していた。先ほどタリア艦長の放送があった。前方には連合艦隊、後ろにはオーブ艦隊。逃げ場は無い。厳しい戦いになるが最後まで奮戦を期待する……そんな内容。
数秒間は何を言っていたのか分からなかったが、直ぐに一つだけ理解できた。
オーブの海域を出た直後に、カーペンタリアとジブラルタルに釘付けであるはずの連合軍が待ち構えている。
導き出された答えは一つ。
『オーブが俺たちを売った』
「あぁあああ!」
この迸る感情は何だろう。怒りだろうか? 憎しみだろうか? 悲しみだろうか?
もうそんな事はどうでも良い。ただ敵を倒す事だけを考えよう。何せ……
「シン君!」
横から掛かるのは美声だ。翻る桃色の髪と赤いパイロットスーツが恐るべき素敵なコントラスト。
緊張を適度に孕んだ綺麗な顔は何時も以上に綺麗だった。
「私も『お土産』で飛ぶわ。一緒に遊撃って事になるわね」
「それは!」
出撃すること自体はもはや仕方がないと頷けるほどに絶望的な状況だ。
しかしアレはザクを大気圏内飛行可能にするとはいえ、インパルスやディンなど旧式の飛行型よりも安定性に欠ける。
しかも慣らし運転なんて済ませている訳もないぶっつけ本番。
「無茶は何時も通りよ? それより心配な事は……貴方」
「え?」
肩を掴まれた感触。そのまま壁に押し付けられ、驚く前に大写しになるラクスの美貌。
コツンとお凸とお凸が触れ合う感触。カッと無条件で熱くなる顔だったけど、それ以上にラクスの目が俺の精神を覚ましてくれた。
「いま何を考えてる?」
冷たい色。品定めされているような感覚、そこで再認識。
前方に控える連合軍よりも後ろに展開するオーブに対して感情が行って居た事実を。
隠しても仕方がないと思った。吐き出すことで楽になる事があるともいう。俺は思った通りに口に出す。
「連合が待ち伏せていて、これだけ早く後ろに艦隊が展開するって事は……オーブがオレ達を売ったって事ですよね?」
「そう……『かも』しれないわね」
ラクスは濁してこそいたが肯定の言葉を発っした。自分以外にそう改めて言われると、更にグサリと来る。
思い返すのは昨日の事。政治家らしくも女っぽくもなく、実に子供らしい笑顔を浮かべて憎たらしいアスハはこう言った。
『何時だって帰って来いよな。私は、オーブは待ってるから!!』
何だか叫んで逃げ出してしまったが、今にして思い返すと俺は「嬉しい!」と心の底から思っていたんだろう。
なのにこの仕打ちである。怒るなとか、悲しむな!なんて到底できそうにない。
「難しいことだけど……信じる事と報われない事は一緒にしちゃダメ」
「?」
「私は歌うのが好き。ただ歌えれば良かった。でも私の歌は唯の歌にはもう戻れない」
ラクス・クラインの歌というのは既に一つの魔法や奇跡の分類だ。
どんな言葉よりも民衆を宥め、励ます。既に彼女の歌は政治なのだ。ただの楽しみにだけは戻れない……という事らしい。
「でも好きなの。信じている」
「あっ……」
「貴方は? シン君」
短い言葉だったけど、そこには確固たる自信が滲んでいる。
たとえどんな風に他人に思われようとただ歌うのが好きなのだと言っている。
そして俺に問うているのだ。
『何時だって帰って来いよな。私は、オーブは待ってるから!!』
もう一度思い返す。前門の虎、後門に狼という現状に置かれても……そんな状況だからこそ……更に輝く迷言。
オヤジであるオーブの獅子にあらゆる面で劣り、きっと後世の歴史家もアンタを政治家『としては』決して評価しないだろう。
それでも俺はたった今、現在進行形でアンタを人間『としては』信じ続けてやろう。
「大丈夫です」
「そう……」
それだけの確認。
「前には敵。隣に戦友。後ろに故郷」
「?」
「戦わない理由があるかしら?」
友を案じ、故郷を背にして敵を倒す。必要最低限の闘う理由。そして俺はそこにコッソリ一つだけ付け足した。
「オレは貴女の歌もきっと守る」
一瞬驚いた表情がマジかで見えたが、パッと離れる体。しっかりとした足取りで離れる背は何と無しに告げた。
「さぁ! 勝ちにいくわよ!?」
「はい!!」
俺は強く頷いた。
ラクス・クライン(の皮を被ったミーア・キャンベル)はドキドキと高まる胸を必死に抑えていた。
ドキドキの原因は沢山ある。
まずは眼前に広がる絶望的と表現する事も言い過ぎではない戦力差……実にすばらしい!
私はこう言うのが大好きだ。生と死のギリギリを、どちらかと言えばギリギリアウトを死神という審判の目を誤魔化して走る。
歌を奪って行った本物と世界に対する当て付け、緩慢かつ他人任せな自殺癖の名残。
今は歌も歌えるようになったし本物のファンも一人いるのだが、昔のくせでテンションが上がりっぱなし。
次に初めての大気圏内戦闘で在ると言う事。そしてお土産の操縦も初めての体験なのだ。
そういうのは良い。何時もとは違った刺激は何時もとは違った興奮を生み出し、薄っぺらな私の人生を華やかにしてくれるのだ。
そして何より私をドキドキバクバクさせている事は……
『オレは貴女の歌もきっと守る』
って、なんだそりゃ!? アレか! 私を萌え殺すつもりなのか!?
黒い髪と初々しい輝きを放つ赤い瞳 シン・アスカ。ミーア的には気になるアイツは年下の男の子。
慌てて背を向けて恥ずかしそうなセリフを吐いて誤魔化したが、危うくラクス・クラインが顔を真っ赤にして思わずキスをしてしまったりしたかもしれない。
危ない危ない……これ以上のスキャンダルは(文字通りの意味で)命取りだ。
「ラクス様?」
「あっ……はいはい!」
慌てて返事。出撃前のMSコクピットで意識を彼岸に飛ばしているとはパイロットとして失格だ。
あぁ、私は歌姫だったっけ?
「発進シークエンスを開始します。スラッシュザク、発進どうぞ……どうかご無事で」
ちょっと依怙贔屓かもしれないけど、他のパイロットたちよりも心配の色が濃いのではないだろうか?
そういったファンの行為に答えるのもアイドルのお仕事だろう。
「勝利の栄光を君に……ってね?」
ヘルメット越しとはいえ、投げキスを一つ。ポッと赤くなるオペレーター メイリンちゃんを横目で捉えつつ叫ぶ。
「ラクス・クライン! ピンクちゃん、行くわよ!!」
ミネルバというカモを待ち伏せていた連合艦隊司令は実に情報通りの相手に手勢に笑みを濃くしていた。
出所こそ「あの」ファントムペインと気に入らないが、元より一隻という艦艇数に加えて大気圏内飛行可能MSが報告に在ったGシリーズのみ。
こちらは複数の空母が搭載してきた飛行ユニットを搭載した最新量産機ウィンダムが複数。
「相手の飛行可能MSは一機だけだ! 作戦通りに囲い込め!!」
ザフトのMSが性能面でもパイロットの能力面でも、連合のそれよりも戦力として高く計算しなければならない事は知っている。
それが遺伝子を操作してまで手に入れた忌まわしい力だが、それさえ理解していれば対処方法はいくらでもある。
『数で抑え込む』
その作戦を忠実に実行すれば対処などいくらでも可能だ。
「敵機発進を確認!」
オペレーターの報告。最大望遠で捉えられたのは凄まじい色のザクタイプ。
報告に在った『Gシリーズと同様注意を払うべき敵機』だそうだが、大気圏内で飛行できないので全く脅威ではない。
紅白のめでたい他二機と同様に甲板上で、可動範囲の広い砲台としてしか運用できないはずだ。
しかしなぜリニアカタパルトで飛び出したのだろうか? 手には巨大なビームアックスを持ったまま。あからさまに選択ミスだ。
「続いて発進を確認……これは!?」
次の瞬間、リニアカタパルトで飛び出したザクが飛んでいた。バーニアに無理をさせた一時的なモノではない。
大気圏内でも安定した推力を得る飛翔。
「バカな!?」
そこにはファントムペインの情報には無く、当然宇宙艦になど配備されている訳ではない物体が映っていたのだ。
「どりゃぁあ!!」
気合い一線。手に持った巨大なビームアックスが驚いたようにフワフワと回避するウィンダムを二機まとめて両断する。
重力下での戦闘というのは宇宙とは異なるしっかりとしたGが酷く心地よい。
そして何よりも重力に従わずに飛びまわると言うのは無重力では感じられない快感だ。
「これは最高の乗り物だ!」
もちろんピンクちゃんには今まで出会った全てのMS(と言っても他にはジンとゲイツだけ)の中でも最高の相棒だ。
今口にしているのは今回の戦いで初めてその身を預けた……
「私のグゥル!!」
別名 MS支援空中機動飛翔体。無線コントロールとは思えない動かし易さに、折り畳みなんて出来るくせに大推力。
どうしてかオーブのお姫様がくれた『お土産』は大ピンチに対して僅かに明るい要素だ。
追伸……後で知った事なのだがグゥルの裏面にはメカニックが描いたペイント。
ピンク色の髪を靡かせる女性の横顔、その下にはゴシック字体で『Mobility Diva―機動歌姫』と刻まれていたそうだ。
「なっなんだ、これは!?」
オーブ軍の指令室でカガリ・ユラ・アスハは大モニターに映し出された映像に憤慨の声を上げていた。
画面に映るのは連合軍の大艦隊に熱烈な砲撃を浴びせられるミネルバの姿。
その出港予定の時間から推測して、その戦いがオーブ領海を出たギリギリのところで行われている事が彼女にも容易く理解できた。
「見ての通り、連合とミネルバの戦闘さ。大丈夫だよ? 領海の外だし、既に護衛艦を展開させている」
そう答えたのは宰相家の跡取り息子であるユウナ・ロマ・セイラン。
指令室に居合わせた軍人たちはさっきまで『ピンクは無いだろう』とか軽口を叩いていたのだが、カガリの乱入で気まずそうに視線を逸らした。
「ユウナ! ミネルバを売ったのか!?」
『売った』という直接的かつ汚い表現をこの単純な婚約者がするとは思わなかったユウナは僅かに驚いた表情。
だが着飾った軽い口調を崩さず言った。
「そういう表現は余り美しくな…「この」…?」
言った……否、言おうとした。
「このバカ野郎!!」
その場を目撃したオーブ軍士官は後に語る。『惚れ惚れするような見事な右ストレートだった』と。
一番高い場所に在る司令官席から転がり落ちたユウナは頬を抑えながら、半泣きで叫んだ。先ほどの似非エレガントな雰囲気は既にない。
「僕たちは連合との条約に加盟したんだぞ!? ザフトの船の一隻を手土産に差し出すくらい何だって言うんだ!?
どうせ君は『地球の恩人になんて恩知らずな!』なんて甘いセリフを言うつもりなんだろうけど……ゲハッ!?」
ユウナの叫びは続かなかった。今度は彼の鳩尾に国家元首とは思えない見事な蹴りが炸裂したのである。
「違う!! 連合の条約の事は私も了解した。それに基づき連合軍や被災地に支援を行う事は構わない。
だがそれはミネルバを軽々しく売り渡す理由には成らないだろう!?」
血走った眼でカガリは叫び、ピクピクと痙攣するユウナを捨て置き、カガリはその場に居た全員に問うような口調。
「今もっとも私たちが重視するべきは何だ!?」
沈黙が数秒、誰ともなく呟く声。
「オーブをもう二度と焼かない事です」
「そうだ! 確かにミネルバを土産に差し出せば連合軍に国を焼かれる事はないだろう。
だがもし! プラントが ザフトがこの戦いを優勢に進めたらどうだ?
『地球の為に最後まで命を賭けた同胞の艦を二束三文で敵に売り払ったオーブ』に彼らはどんな思いを抱くと思う!?」
「「「「「!?」」」」」
オーブを焼かない=連合を刺激しないという法則を前大戦時にイヤと言うほど刻みこまれた士官たちはカガリの言葉に驚愕を覚えた。
「私ならこう思うだろう!
『この恩知らずめ!』と。『そうまでして媚びるのか!?』と。
そうまでして媚びるのなら……『お前たちも一緒に討ってやろう』と思うに決まってる。
オーブは勝ち馬に乗らなきゃいけないんだ! 連合と心中するのが目的じゃない!!」
ザワメキが広がり軍人たちが小娘の言葉に呑まれそうになった時、ようやくユウナが立ち上がった。
顔色とかが最悪に悪かったが、発せられる言葉はオーブを裏で仕切ると言われるセイラン家の跡取りに相応しい重さ。
「そんな事はあり得ない! あのロゴスとだって親交があるセイラン家の名において断言する!
何処かの獅子が心中の共にしたマスドライバーやモルゲンレーテ、オーブ軍をこの短期間で再建できたのは彼らの援助が在ったからだ。
敵対した国にさえ片手間の援助で此処まで再建させてしまえる経済力、そしてそれが支える政治力。
その二つをバックに持つ連合がザフトに負けるなんて絶対にあり得ない!」
そう断言したユウナにカガリは不意に優しい視線を送る、
「ユウナ、お前は政治の事を私よりずっと良く知っている。経済の事もそうだろう。
そして軍事力の事は此処に居る軍人たる諸君たちに勝る者はオーブには居ない。
だが貴方たちは大事な事を計算に入れるのを忘れている……世の中に絶対はないということだ」
一度目を伏せると更なる厳しさ。オーブの獅子は確かに此処に居た。
「誰かユニウスセブンが落ちてくるなんて予想できた者は居るか?」
誰も居ない。
「前大戦でザフトがMSで連合にアレだけ優位に戦争を進めると考えた者は?」
やはり誰も居ない。
「オーブは『絶対に』焼かれないと信じていた者は?」
カガリは自ら手を上げる。釣られるように数人。
「落下からすぐ開戦なんて『絶対に』無茶だと思った者は?」
やはりカガリは自ら手を上げる。コレにはほぼ全員が挙手していた。
「つまりそういう事だ。お前たちは『人間』と言う種を計算に入れていない。
人間がどれだけ『絶対に』を覆す生物なのかを考えていなさ過ぎる」
ユウナが転がり落ちた椅子に自ら腰掛け、カガリは目を瞑る。その内心は今まで演説が嘘のように荒れ狂っていた。
『あぁ! 全くどうしてくれんだ!! ミネルバが安全にカーペンタリアに辿り着ける可能性は高くなかったにせよ、余りに近すぎる。
これでは『オーブは関係ないですよ? ふふ~ん♪』としらばっくれるのも不可能だ。
レーザー回線さえ使えない状況下だから、カーペンタリアやプラント本国にはばれないように処理できれば撃沈したとしても……
いや……相手はあのミネルバだ。相手が何隻だろうとなんとかしてしまうのでは無いだろうか?
シンは私と一緒で子供だけどMS操縦は上手かったし、タリア艦長はマリューに匹敵する出来た船乗りだ。
そして何より『アレ』の偽物を演じ続けられる『アイツ』も居る。点数稼ぎに昔拾ったグゥルを返してあるしな。
それがこちらの誠意だと受け取ってもらえればいいが、アレが在った故に生き残りオーブを悪く伝えられでもしたら意味がないじゃないか!
ユウナのバカバカバカ! ついでに私の大バカバカバカ!!』
そこまで脳内で葛藤していたのだがカガリはついに苦悶を表情に出してしまった。
背中を押した『アレ』が電話越しで随分と長々と語っていた『大好きになった偽物』のこと。
「とっても素敵な方ですので苛めないでくださいね?」
グゥルをお土産にやったのはその言葉があったからだ。
もしオーブがミネルバを売り渡したせいでニセモノが戦死した場合、アレはどんな反応を示すのだろうか?
「仕方ないですわ」って笑顔で紅茶を呑んでいるかもしれない。お気に入りの玩具が壊れた程度の感想で。
だがもし「仕方がないですわ」って笑顔で『オーブを滅ぼそう』としたらどうするつもりだ?
アイツならばどちらの可能性も否定できない。
カガリは更なる手段を叫んでいた。
「タケミカズチを……アレックス・ディノ特務大尉を呼び出せ!!」
続! 機動国家元首☆偽カガリ様でした。