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No.7970の一覧
[0] 【種運命】機動歌姫 偽ラクス様【魔改造?】[kuboっち](2011/12/14 08:37)
[1] 偽ラクス様、立つ[kuboっち](2009/04/18 23:02)
[2] 偽ラクス様、戦う[kuboっち](2009/04/18 23:12)
[3] 偽ラクス様、叫ぶ[kuboっち](2010/02/25 23:53)
[4] 偽ラクス様、感謝する[kuboっち](2010/04/01 00:46)
[5] 偽ラクス様、語る[kuboっち](2010/04/25 05:34)
[6] 偽ラクス様、誓う[kuboっち](2010/05/04 23:35)
[7] 偽ラクス様、奮戦する[kuboっち](2010/06/15 23:42)
[8] 偽ラクス様、迎える[kuboっち](2010/09/09 19:12)
[9] 偽ラクス様、誘う[kuboっち](2010/10/30 23:20)
[10] 偽ラクス様、祈る[kuboっち](2010/11/17 09:15)
[11] 偽ラクス様、伝える[kuboっち](2011/01/27 08:29)
[12] 偽ラクス様、降りる[kuboっち](2011/01/30 13:53)
[13] 偽ラクス様、解放される[kuboっち](2011/03/10 10:10)
[14] 偽ラクス様、遭遇する[kuboっち](2011/03/16 06:26)
[15] 偽ラクス様、対決する[kuboっち](2011/03/28 22:12)
[16] 【嘘も良いところ】魔道歌姫☆真ラクス様【クロスもしてる】[kuboっち](2011/04/02 00:08)
[17] 偽ラクス様、肩の力を抜く[kuboっち](2011/04/28 23:04)
[18] 偽ラクス様、デビューする[kuboっち](2011/05/15 11:11)
[19] 偽ラクス様、共感する[kuboっち](2011/08/06 20:58)
[20] 偽ラクス様、萌える[kuboっち](2011/08/11 21:54)
[21] 偽ラクス様、理解する[kuboっち](2011/09/16 05:04)
[22] 偽ラクス様、悟る[kuboっち](2011/09/16 05:09)
[23] 偽ラクス様、恐怖する[kuboっち](2011/10/11 22:35)
[24] 偽ラクス様、再出撃する[kuboっち](2011/11/11 05:14)
[25] 偽ラクス様、投げ飛ばす[kuboっち](2011/12/14 08:35)
[26] 【悪ふざけ】魔道アイドル☆真ラクス様【短編だよ】[kuboっち](2012/01/16 21:24)
[27] 偽ラクス様、去る[kuboっち](2012/04/24 05:08)
[28] 偽ラクス様、ライブする[kuboっち](2012/06/07 19:16)
[29] 偽ラクス様、投げ飛ばされる[kuboっち](2012/08/28 09:55)
[30] 偽ラクス様、後悔する[kuboっち](2013/02/21 18:54)
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[7970] 偽ラクス様、デビューする
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:9c20ba48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/15 11:11



えらい難産でした。












「なるほどね……」

『ファースト』の言葉は疑いようがないのだが、人前で歌うまえに偉そうに演説するために呼び出されたようだ。

「ご不満ですか?」

手元のノートパソコンを叩きながら、欠片も感情を感じさせない声を上げるのは、ミネルバに戻る予定だった私たちを呼び出した張本人。
元特殊部隊だと私は踏んでいるマネージャー サラ……ファミリーネーム知らないや……さん。

「い~え! お仕事ですから」

既に陽を沈んだオノゴロ山の中腹、展望台として開けた場所に私たちは立っている。
私とサラさんはもちろん、護衛だから付いてきた状況が良く分かっていないシン君。
そして初めて見るスタッフ数人。こちらへ、ラクス・クラインへ視線を向けることなく黙々と作業。
雰囲気からしてこちらも普通の人間ではないと容易く予想できる。

「しかしこの非常時にオーブからプラントへの生中継とは恐れ入るわ」

「非常時だからこそ、貴女の存在が必要なのです。ラクス様」

私が偽物だと知っている数少ない人間が良くもまぁ……
次々と組み上げられていくのは通信機器の類。マイクやカメラなどなど。
Nジャマーの影響色濃い中では本来プラントとオーブ間での通信など難しい。

「まさかアンテナを一個乗っ取るとは……」

そう……この場所に集合した意味はまさしくそれ。百メートルばかり離れた場所に聳え立つのはアンテナ。
もちろん唯のアンテナではない。巨大な白い雨傘をひっくり返したような特大のパラボラアンテナ。
元より星間探査機との通信用で、Nジャマー下でも一番地球よりのプラントならば容易く通信可能、だそうだ。

「いくら大出力とはいえ、所詮は民間管理。時間も在れば奪取など容易いことです」

やはり大した感情を感じさせない呟き。
いやいや……民間管理とてただのザルでは無い。しかも時間なんて私がオーブ観光を楽しんでいた数時間だ。
それだけの期間にこれだけの人数、大した下準備をするでもなくそれを行うのはやっぱり普通じゃないと思う。
雨傘のお化けからは永遠とコードが伸びており、その繋がる先は私を捉えるカメラへと繋がる。
つまりこれから私の初ステージはプラントへと生中継されるのだ。


「シナリオには目を通しました?」

私は頷き放り出すのは手元に持った数枚の紙切れ。
サラさんが言葉を交えながらも作業を続けて居た様に、私とてただお喋りをしていた訳ではない。
手元には今回私が伝えるべき内容の羅列された紙。恐らく電子メールをプリントしたものであろう。
出元は当然私のスポンサーたるあのキツネ……ギルバート・デュランダル議長。
本物のように世界の全てを敵に回しても、世界の全てに優しく出来るような怪物ではない。
薄っぺらな偽物の私にとって、これは絶対に従わなければならない赤紙。

「OKよ。大枠は頭に入っているわ」

そこに示されていたのは衝撃的内容。もし先に情報を仕入れて居なかったら、もうちょっと取り乱していただろう。

『こちらの会話を望む姿勢を無視した強引な開戦。そして核』

本物が友人(タカ派で有名な連合中将)から得た情報。それはもちろんプラントにも伝えられた。
それに基づいて先手をとる形で防衛戦を展開出来たはずである。それでも核ミサイルは放たれてしまったようだ。
それでありながらしっかりと連絡が取れる辺り、あのキツネもプラントも無事では在るらしい。
となると問題は……


「ねぇ、サラさん?」

「何か?」

「非常時もこの服なの?」

となると問題は……このふざけ過ぎた衣裳くらいなモノだ。
重量の増加にしか寄与していない胸が強調される胸部装甲。
大事な部分をV字の僅かな面積でしか守ってくれない局所装甲デザイン。
もはや隠すとか通気性何て単語とは、次元を違えてしまった翻り放題で見え放題なフリーダムスカート(造語)。
ミネルバにて急遽与えられた私室のクローゼットに厳重封印しておいたはずの危険物。

「デュランダル議長の指示ですので」

「あのキツネ……今度会ったらゴンギツネにしてやる……」

どうしても私に羞恥プレイを強要したいらしい雇主には物理的復讐を誓いながらも、髪に止められた星型アクセサリーを弄る。
たとえどんな格好だろうと私のファーストステージだ。偉そうな演説の後には、一曲歌って踊る予定になっている。
耳元につけられたイヤホンから流れるのは本物の人気曲を随分と明るく、かなりおバカな感じに改悪したアレンジ曲。
『ラクスの芸能活動復帰』 『新しいラクスの魅力』……とかを目指した選曲らしいが、正直趣味じゃない。


「そろそろ予定の時間です。プラントとの通信感度は?」

「感度良好。何時でもいけます」

スタッフに確認を取っているサラさん。それていた視線が私に戻って、差し出されるのは開かれた掌。

「新曲の音源はそれだけですので、そろそろ……」

私はイヤホンを取りはずしてUSBメモリ状の音楽機器を……『一旦後ろ手に隠してから』……放り投げる。
サラさんにキャッチされた音楽機器は無数の機械の集約点たるノートパソコンに接続。

「スタンバイを」

頷いて私は歩を進める。
無数のカメラとライトの先、マイクの前。闇に沈んだオーブの美しい街並みとそれが作る夜景がバックに映える最高の位置取り。

「カウント入ります!」

スタッフの一人が紡ぐ数字を聴きながら、私 ラクス・クライン(としてデビューするミーア・キャンベル)は考える。
いま自分を覗き込むカメラの向こうには、欲しても手に入らなかった無数の観衆が居るのだと。

「3!」

それだけで胸が高鳴る。戦場を前にした時と似ているけど、全く異なる……実に健全な欲求。
こんなところまで来てしまってから考えるに、私ってば本当はただ歌って踊って、それを誰かに見てもらえれば良かっただけの、実に可愛らしい普通の女の子だったのだ。

「2!」

別に大人数で在る必要すらなかった。ラウンジの片隅でミカン箱の上だろうと良かった。
たった一人でもミーアの歌を聴いてくれる人が居ればよかったのだ。
現実は誰もが声に惹かれて見に来ては、詰まらない顔をして離れて行っただけ。
今だってこんな顔でなければ同じことが起きるのだろう。

「1!」

だけどそれでも構わない。一切の難しい理由や精神的葛藤を投げ捨てて、私は純粋に今という瞬間を楽しんでいる。

「キュウ!!」

さぁ見ろ、お目付け役マネージャー!
さぁ聞け、小憎たらしい怪物じみた本物!
さぁ見ろ、掴みどころがないキツネな議長!
さぁ聞け、ミーア・キャンベルを認めなかったコーディネーター!

ねぇ……感じて? 私のたった一人の本当のファン。


「お久しぶりです、プラントのみなさん。私は……ラクス・クラインです」


これが偽ラクスの初舞台だ。














「私はラクス・クラインです」

突然の開戦と有無を言わさぬ核攻撃。もはや完全にこちらを人間として見ているかも思える残虐で暴虐な連合の行動。
不安と怒りで止められない激流が生まれようとしていた刹那、全てのテレビ画面に映し出された姿。
憂いを帯びた表情を端正な顔立ち。桃色がかった輝く長髪。祈りの形で組まれた掌。
そして何よりもその声。大いなる安らぎを無条件で約束するような聖女の声。
間違えるはずがない。コーディネーターにとっては忘れる事なんて出来ない声。
アイドル以上の存在として父 シーゲル・クラインと共にプラントに貢献し、裏切り者の汚名を着ながらもプラントを救った救世主。

「ラクスだ……」

3隻同盟として世界を滅亡の危機から救ってからは、ぱったりと活動を休止してしまっていた。
歌はラジオやらテレビからひっきりなしに流れていたが、今回は画面の右隅に刻まれた『LIVE』の文字。
いわゆる生中継。いわゆる生ラクス。

「ラクスが帰ってきた」

それだけで広がる僅かながらも確かな安堵感。


「いまプラントは混乱の中に在ると思います。
 ユニウスセブンの落下、それによる地球の壊滅的被害。
 連合からの通告は余りにも一方的。開かれた戦線、そして核攻撃」

伏せられた目。下を向いて彷徨う視線から滲むのは紛れもない後悔の念。

「誰もが感じているでしょう……」

何かを掴み取るように差し出された手はワナワナと震える。
掻き毟るように胸元を抑えて苦しそうに彷徨う視線。
次に吐き出された言葉はあまり神聖視さえされているラクス・クラインには似合わない。


「痛みを」


怒りも戸惑いも嘆きも全てを内封して渦巻く言葉。
人間が所詮は一個の生物としてしか存在しえない業そのもの。
歌姫どころか聖女としてすら認識されているラクスには程遠い感覚だろう。
誰もが漠然とそう考えていた次の瞬間。


「私もそうです」

だが本人の口から聴こえたのは肯定の言葉。不安のざわめきが彼方此方で広がる中、ラクスは続けた。

「どうしてアーモリーワンを襲撃した!?
 どうしてユニウスセブンを地球に落としたの? 平和を誓ったあの場所を!
 どうして核を撃つのですか!? 私たちは地球の危機を戦って、その後も手を差し伸べたのに!!」

『声を荒げる』なんて行為が既に縁遠いはずの聖女は叫ぶ。
既に喚き散らす子供のヒステリーとすら感じられるソレ。
もはや安ど感をかなぐり捨てて見ている事が辛くさえ在る。
荒い息を吐くこと数秒。


「そう……誰もが痛みを感じています」


不意に戻る声色。感情が消し飛び、冷静に語りかける口調。
温度差でテレビの前のザワメキが一掃された。もちろん実物を見ているシンも同じこと。
ドキリと心臓が良く分からない鼓動を刻むのが彼には分かった。

「ユニウスセブンを落とした元ザフトのテロリストはこう言っていました。
 『撃たれた者の嘆きを忘れ、何故撃った者らと偽りの世界で笑うのか?』と」

まさに心理だ。生き物ならば当然のことだ。
殴ったヤツとは分かり合えない。殴った手とは握手できない。

「いま地上の同胞 ナチュラルたちの中にはこんな考えが蔓延しているのかもしれません。
 『どうしてあんな物を軽々しく落とす事が出来るのだ! 許せない!!』と」

痛みは痛みを呼ぶ。そうして始まるのが争いだ。
何時始まっていつ終わるのかも解らない無限螺旋。いま世界が捉えられようとしている物。

「殴られた頬を抑えて泣く事しかできないのは子供だけです。
 プラントにはザフトがあります。前大戦も戦い抜き、みなさんを守った誇り高い盾が」

だがそれだけではいけない。


「しかし握った拳をでたらめに振り回すしか出来ない者を蛮人と呼ぶのです。
 プラントには最高評議会とそれを束ねるギルバート・デュランダル議長が居ます。
 貴方たちが選んだ最高の思慮と思考をどうか信じてください」

子供だけでも蛮人だけでも戦争は終わらない。必要なのは……


「私たちは生き物です。故に痛みを感じる事は至極当然こと」

痛みを覚えるからこそ戦いは終わらないのだろう。必要なのは……



「戦う拳を持ちながら、その拳が生む痛みを理解している者……それこそが真の意味で『人』なのです!」

高らかに宣言する美声。そこからしなやかに見える(本当はMS操縦者特有のタコだらけ)掌が形作るのは握り拳。
完全たる暴力の象徴。見る人が意識して確認すれば、軍人など戦う者が作る実戦使用の握り拳だと理解できただろう。
しかし彼女はラクス・クライン(偽)で在るからして、そんな事を理解できた者は誰も居ない。


「だからこそ! 貴方たちを守る盾たる、貴方たちのザフトは拳を振るう事に躊躇いはありません!!
 だからこそ! 貴方たちを導く旗たる、貴方たちの評議会は拳を振るわなくて済む未来を諦めません!!」

既に選挙演説 もしくは軍部や政権の擁護を匂わせている内容なのだが、それが鼻に付いた観衆は一人として居なかった。
それがラクス・クラインの魔力で在り……いま画面に映っている人物の魅力だった。

「親愛なるプラントのみなさんにはどうかお願いします……今は努めて冷静に。
 驚きと怒りだけで拳を振るう事はあってならないのです」

握り拳は解かれて、意思に輝く瞳は伏せられて……形作るのは祈りの姿勢。

「ザフトは命を賭けています。直接戦場で戦うMSパイロットは私と変わらない年の若者たちが大半を占めている現状。
 彼らが慄然と拳を振るう事が出来るのは、背中に貴方たちを守っているからです。みなさんの温かい応援があるからです。
 拳が振るわれるのは何時だって、それが生み出す無数の痛みの向こうに……つかの間の平穏を祈っているから」

愚かな生き物である人間だからこそ『束の間』と言い切る辺りに今までに無かった現実感。
祈りの形で作る沈黙が数秒。

「それでは突然で申し訳ないのですが……」

組まれた掌が解かれてマイクを包み込むように握り、開かれた瞳には先ほどとは比べ物にならない輝き。

「私の……」

今までのどんな言葉よりも説得力を持った力強さ。強引さとも取れるソレが必然たる魅力。



「私の歌を聴けぇ!!」










叫び。全くラクスらしくない。割り込んだイントロは高音のギター。
今までの彼女の曲らしくない出だしから、それが新曲である事を観衆の誰もが理解した。



「「「っ!?」」」

それとは全く違う驚きを感じている者たちが居た。
この生放送を中継しているスタッフたち。彼女が歌うべき歌はこんな出だしでは無い。
自分たちのミス? いや……あのメモリにはこの曲しか入っていなかったはず。

「まさか! すり替えたのか!!」

確かにプラントの音楽機器は一社独占の状態だから、使い道を限定すれば形は限られてくるがカラーまで、彼女の個人所有と一緒とはなんという不幸。
そして何よりもラクス・クラインを似せる気なんてトンとない手癖の悪さ……この魔女め。


「どうします! 事故を装って中止しますか!?」

スタッフたちの視線が集まるのはこんな事態でも眉ひとつ動かさない上司 サラの元。

「このまま続行」

「しかし!」

「ここで強制終了なんてそれこそ民衆が暴動を起こすわ」

そんな事を既に予定されていたというようにサラは言い切る。スタッフが仕事に戻るのを確認して小さくため息。
本当の事を言えば彼女はミーアがメモリをすり替えたのを確認していた。そこで指摘してしまえば、今の騒ぎも起こりはしなかっただろう。
だがサラは絶対の上司から目の前の偽ラクスについて、こんな命令を受けてしまっているのだから仕方がない。



『こちらに害を及ぼさない範囲で可能な限り自由にやらせる』


本当にどうしようもない。歌姫も議長も本当に困ったモノだ。
軍人である以上その命令には従うが、本当に使われる者の身にもなって欲しいモノだ。
まぁ、なにはともあれ一番の救いは……偽物の歌は本物よりも好みだった事くらい。










「この胸の痛みはなに?」


マイクに齧り付くような熱唱。


「きっとそれは闘う友の痛み」


これまでのラクスの曲には無かった要素。


「星の螺旋は辛い形を描くだろう。だけど負けない屈さない」


早いリズム アップテンポ。


「鋼の四肢は武骨な鎧。輝く夢を脇に置き、君たちはきっと闘っている」


高音のギター、ドラムの重低音。


「運命はサザンクロス。張り付けられた戦いの宿命が泣いている」


そして何よりも大きな違いは……


「だけど思い出してその小さな背中に満願のエール!!」


何よりも大きな違いは熱、だ。


「痛みも吹き飛ばすくらい叫ぼう。頑張ってって!!」


今までのラクス・クラインが発表した曲はどれもが涼やかな清流
熱量をほとんど持たず、聴く者から余計なソレを吸収して、落ちつけてしまうイメージ。
だがこの曲はどうだろうか? 困難な状況下だからこそ熱く、そこに立つ者たちを鼓舞する歌。
まさに正反対なのだが……そこはラクス・クラインというネームバリューに、人とは思えぬ美声で簡単に帳消し。


「良いな……こんなラクスも」

そんな声がテレビの前で民衆たちから上がってくる。しかし残念な事にアンコールは無し。
一曲を熱唱し、うっすらと汗を流しながら微笑ではなく、豪快の笑うラクスのアップを映してブラックアウト。
数秒の沈黙の後、詰まらないニュースが再び画面を占める。



「素晴らしい……予想以上だ」

ギルバート・デュランダルは私室のモニターの前で微笑んでいた。
自分が見つけた『対ラクス・クライン』の切り札は予想以上の戦果をあげてくれたのだから。
こんな状況を抑えるための替え玉だけではなく、その後に厄介になる本物の幻。
それを打ち砕く為の偽物はまさしく本物を超えるかもしれない。破天荒とはこの事だ。
科学者の計算をも覆すこれは魅力と言って差し支えあるまい。

「さて……今度は私が仕事をする番か」

遺伝子構造と睨めっこするよりも面倒な人の思惑とぶつかり合う仕事を。










「はい、カットです」

スタッフさんのその言葉に力が抜けて、私 ミーア・キャンベルは崩れ落ちていた。
息が荒い。鼓動が五月蠅い。まるで戦闘から帰還した直後……いや、アレよりはだいぶ健全か?
歌った……歌ってしまった……本来の歌ではなく、私がミーアだった時に作詞・作曲などなどしておいた秘蔵の一品。
試しにメモリをすり替えてみたら、上手いことサラさんにも気付かれず、流れてから強制終了も無し。
恐らく流れてから歌わないのは盛り上がりに欠けると判断したのだろう。
うぅ~今更だけどサラさんの反応が怖いよ~

「機材を撤収。アンテナにも不法アクセス痕を残さないように」

私にはもう今日もが無い様子。まぁ何にも云われないならそれに越したことはあるまい。
となれば確認するべき事はあと一つだけ。


「どうだった? 私の歌」

おずおずと近づいてくる黒髪に赤目の子犬……シン・アスカ君に問う。

「凄く……ステキでした」

プラントの向こう、多くの観衆たちの反応はまだ分からない。
でも今はたった一人のファンにそういって貰えただけで……どうしようもなく満足です。













暗い室内だった。淡い光源が幾つか灯り、それが映し出す広さと効果な家具類から、高級ホテルの一室ではないかと予想できる。
そんな中に人影は二つ。金色の髪に紫のロングコートを着た優男は直立不動。
もう一人は彼が経つ傍らの白い安楽椅子に腰を降ろした桃色の髪をした女性。

「そろそろお歴々との会談の時間ですが……っ!?」

二人して見つめていた大型テレビから視線を外し、男 ブレラ・ストーンは雇主たる女性を見て驚いた。

「素敵な……歌でした」

女性は泣いていたからだ。
呆けた無表情にハラハラと無自覚で零れる涙は、常に微笑を湛えている聖女のイメージを僅かながらにも崩す破壊力。

「ミーアさんが自分の歌を歌ったのですから、私も役目を果たさなければ成りませんね?
 みなさんとの接続をお願いします、ブレラさ…『その前に』…なにか?」

男が差し出すのはハンカチ。地味な柄の男物 ついでに安物。

「涙を拭いてください。画像が映らなくても、その存在感は出席者には伝わります。
 もし貴女が泣いているとなれば友人さま達は大騒ぎを起こすのは必定ですので……」

余りにもキャラじゃないボディーガード兼ほかとは反応が違って面白い最近お気に入りの友人の反応に女性は笑顔。
差し出されたハンカチで丁寧に涙を拭い、再びのお願い。

「みなさんとの接続を」

「了解」

といっても難しい設定はすでに専門家が済ませている。ブレラはパソコンのエンターキーを叩くだけなのだが。


「■■■」

消えていた大型テレビに電子音と共に再び光。映し出されるのはガラスの箱庭。

「先ほどの偽物の演説は酷いモノでしたな? ラクス」

「あら? 私はお気に入りなのですけど」


「■■■」

続いてパソコンが点灯。画面には緑一色の草原。

「いやいや無謀な第一波。成功せずに何よりです」

「貴方の情報のお陰です、おじ様」


「■■■♪」

さらに携帯電話に着信音。画面には絵文字で作られた真珠の首飾り。

「しかし問題はこれからですな」

「それを解決するためにみなさんのお力をお借りしたいですわ」


「もちろん全力を尽くさせていただきますよ」

「久し振りのお呼ばれですから、老獪も張り切ってしまいますわい」

「我が国は何とか壊滅せずに済みました」

三色のハロがコロコロと転がり出てきて、口々に騒ぎ出す。



だがそれで終わりではない。

「■■■」
「■■■」
「■■■」
「■■■♪」
「■■■」
「■■■」
「■■■」
「■■■♪」
「■■■♪」
「■■■」
「■■■」
「■■■」
「■■■♪」
「■■■♪」

無数の電子音、着信音が連続する。連続して灯される光源。
大小さまざまなサイズのテレビ。無数の型のノートパソコン。新旧織り交ぜた携帯電話。
既に普通に生活する事が困難なそれらが所狭しと並べられ、薄暗かった部屋はその光で瞬く間に明るく染まっていく。
その数は容易く百を超えた。


「■■♪ ■■■♪」

最後にラジオがクラシックを僅かに流し、こう切り出した。


「さてそれでは諸君、ラクス・クラインの御名において『歌姫の円卓』を開催しよう」





「……」

余りにも纏まりがなく、幾つかのグループに分かれながらも、実務的な話を高次元でバリバリと決定する奇妙な会議を沈黙で見ながら、ブレラは思う。

『いま自分は間違いなく世界の中心を見ている』と

無数の機械の向こうには無数の著名な政治家や軍人、経済界の大物に一派を代表する宗教家たちが居るのだ。
そして彼らがこれからの世界に対しての意見を出し合っている。

「全く人生は分からない」

小声で呟く。コーディネーターの捨て子なんて行きつく先は海賊やら傭兵やらが席の山だと思って生きて来た。
そして現実はまさに数日前までその通りだった。世界がどうなろうと知った事ではなく、自分が生きて行くだけの金が在れば良い。

だが今や目の前には世界の中心があり、こんな世界すら容易く救ってしまいそうな女性が居る。
惜しむらくは自分がその輪に入れない事くらいか……いやいや、所詮はMSの操縦が少し上手いだけのボディーガード。
そこまで求めるのは……「ブレラさん?」……おっとお姫様がお呼びのようだ。

「MSパイロットとして現段階における連合とプラントのMS戦力比率を聴きたいですわ」

「はっ?」

何を言い出すのだ、この雇主。殆ど自分ではしゃべりもしない癖にどうして……
まさか『混ざりたい』なんて子供染みた私の欲求を感じ取ったとでも?

『ラクス様のご推薦だ』

『現場の忌憚のない意見を聴きたいの? 若人』

参加者たちにもロックオンされてしまったらしい。どうやら混ざるしかないらしい。
この正義を持って成す秘密結社的会合に。そう思えてしまう辺り……既に私もラクスが言う『友人たち』と同質なのかもしれない。






百人近い参加者が幾つかの分野に分かれて話し合い、そのグループすら常に形を変えて数々の議題を処理していく。
普通の状態ならば決して出来ないことだろう。
だがこの場所『歌姫の円卓』もしくは『聖女の茶会』と参加者たちが呼ぶこの会合では当たり前のこと。


「次はご一緒に歌いたいですわ……ミーアさん」


そして更に恐るべきことに、この会合の主催者であるはずの女性は話し合いには殆ど参加せず、実に個人的な思いを募らせている事だろう。














とりあえず偽ラクス様の歌はロックっぽいアニソンの感じで脳内再生してください。


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