大変に長らくお待たせいたしました!!
「なんだこいつらは!?」
ジュール隊隊長であり、全くの偶然なれど地球の運命を左右する指揮をすることになったイザーク・ジュールは叫んだ。
突然現れたアンノウンによって撃破されていく自分の部下たちとメテオブレイカー。
「ゲイツのライフルを射出しろ! 工作隊では反撃できんぞ!」
自分と同じく状況を的確に理解しているとは言い難いオペレーターに激を飛ばす。
何時もの軽口と一緒にさっさとブリッジを飛び出して格納庫へと駆けているだろう旧友だけが唯一の救い。
だがそれだけでも安心はできない。この任務はいままでのどんな任務よりも責任重大と言っても良いだろうから。
「ミネルバの連中は!? 援護はどうした!!」
「新型のインパルスにザクが三機、奮戦していますが数が違いすぎます!」
MSが行う防衛というのは塹壕にでもこもらない限り、基本的に守る側が圧倒的に不利である。
しかもメテオブレイカーとメテオブレイカーを起動するために丸腰のゲイツを守らなければならないのだから。
「オレも出るぞ! ザク・ファントムの準備を!!」
故に指揮官としては全く三流と言わざる得ないそんな指示を出してしまっていた。
本来ザフトの指揮官がMSで出撃する悪習は慢性的な人手不足と個人主義が目立った初期段階で作られた物。
故にいまのザフトでは滅多にありえない事態なのだが、こうなってしまっては仕方が無い。
駆けだす瞬間、視界の端に移りこむのはアンノウンと工作隊を守りながら、不利な戦いを強いられるミネルバ隊MSの姿。
威嚇の威力はあるが必殺の命中に欠ける赤いガンナーザク・ウォーリア。
的確な動きで撃破し、味方を守るのは見た事が在る動きをする白いザク・ファントム。
荒削りながらも機体性能も加わって中々の動きを見せる最新鋭のGシリーズ。
そして……
「なっ!?」
ソレをちらりと視界に入れた瞬間、思わず足を止めてしまっていた。
画面に映ったのは漏れる驚きの声。別に珍しい機体が居た訳ではない。
そこに居たのはザク・ウォーリアであり、強いて珍しい点を上げるとすればあまり一般受けは良くないスラッシュ・ウィザードと言うくらい。
「なっ……なんだ、あの色は!!」
問題は色。ここの戦果を重視し、エース級ともなればオリジナルのカラーリングとて、ザフトでは珍しくもない。
だがそれは余りにも戦場と言う場所において異彩を放ち過ぎていた。その……なんだ……
「凄く、ピンクだ」
その凄くピンクな物体 マゼンタピンクとかそういった系統の色を配したMS ザク・ウォーリア 通称ピンクちゃんンは勇戦していた。
そんな色の物体が勇猛果敢に戦う様は実にファンタジックかつエキサイティング。
「どりゃぁあ!!」
これまた外見にそぐわない裂帛の声がコクピット内に響き渡り、ソレに答える形で振り下ろされる巨大なビームアックス。
戦艦すら両断する一撃は敵機をニ機まとめて輪切りにする。
しかしピンクちゃんのパイロット ラクス・クライン(っぽいなにか ミーア・キャンベル)の顔には焦りの色。
「ちぃっ!」
アイドルとしてはあるまじき盛大な舌打ちを一つ。
自分一人で戦うのと、何かを守りながらというのは大きな差がある。死ぬことすら考えるギリギリを駆ける私にとっては大きな足枷。
つまり敵は鈍重で大きな的を狙えるという事だ。しかも……
「こいつら! 強い!!」
私 ミーア・キャンベルは何の躊躇いもなくそう認識していた。
機体の性能や生まれから持ち合わせる自分の性能に頼らない強さ。
正当な訓練を積み、かなりの実戦を経験してきた故に生じる本物の強さ。
「ただの海賊やテロリストじゃない」
そして敵機の機種。普通に考えれば正規軍でもない有象無象が運用できる機体など限られてくる。
こういった場面で出会う可能性が高いのはジン 前大戦の中でもっともはやく量産され、それゆえに多く鹵獲されている機体。
次にやはりストライクダガー。地球連合という莫大な生産力で一気に量産され、ナチュラルでも扱えるOSも搭載されている。
だが目の前に居る敵はそのどちらでも無かった。
「なによ、ジン・ハイマニューバⅡ型って!」
余りにもマニアック! ゲイツがザフト主力機という看板をジンから奪う過程に生まれたマイナーチェンジ機体。
ハイマニューバの名の通り機動性が向上されており、その装備も対MS戦闘を念頭に置いた物。
しかしそれだけならばこの状態は異常足りえない。これだけならば『レアな機体を偶然手に入れた腕利きのテロリスト』という判断。
「全機体がお揃いなんて不正規軍じゃありえないわ」
そう、一機出て来ただけでも驚きのハイマニューバⅡ型が勢ぞろい。
ジンやストライクダガーだってこれだけの数で揃えるのは難しいというのに。
武装だってそうだ。機体以上に同じ種類をそろえるのが難しいのが武装。
だというのに完全に資料で見たこの機体の標準装備 回転斬機刀とビームガンを取りそろえている。
つまり武装も機体もパイロットも一緒くたに集まったのだ……こいつ等は
「元ザフト……かぁ!」
ハイマニューバⅡ型の主な支給先を考えれば、ザフトの中でもどんな部隊なのかは検討が付く。
出力を絞り見かけ上の威力よりも貫通力を重視したビームガン。
派手な威力よりも確実に、そして静かに敵機に撃破する事を目的とした回転斬機刀。
空の闇に溶け込むようなほの暗いボディーカラーと相まって、MSを用いた特殊工作にしようされていたはず。
恐らく生まれ持った性能だけに頼る第二世代コーディネーターの即席軍人ではない。
第一世代としてプラント以外の場所で生まれ、激動の時代を生き抜いてきた本物の軍人。
工作任務をこなしてきたのならば、フレアモーターなりを使えばユニウスセブンすら動かせるだろう。
つまり彼らが動かしたのだ、この墓標を。落とすつもりなの、地球に向かって。
行きつく結論は最悪のモノだ。
「最悪!」
ピンクちゃんが背負ったビームガトリングを乱射。
弾幕と呼ぶにふさわしいビームの暴風。ジンにおまけ程度の装甲を付加したハイマニューバⅡ型では受けるなど論外。
距離をとってくれれば良い。必要なのは後ろの工作隊がメテオブレイカーを起動する時間を稼ぐこと。
「え?」
だが彼らは引かなかった。ニ機が突貫してくる。当然のように装甲を削られ、四肢が脱落し、それでも距離が詰まり……爆ぜた。
動力部への外部からの衝撃による爆発ではない。内側からの爆発させるための爆発。つまり……
「自爆!? 元より死ぬ気!!」
直接爆発に巻き込まれる事は無くとも、砕けた破片と手無重力下では威力が落ちない砲弾となる。
運が悪い事にメテオブレイカーが餌食となり打ち込みは失敗し、工作隊は下がるしかない。だけどそれは同時に私を ピンクちゃんを自由にするという結果でもある。
「逃がさない!」
守るべき物が無くなれば何時も通りの動きが出来る。
既にようは無いと牽制射撃で距離を取ろうとする残りの敵機に接近。
後ろを、自分の命すらギリギリの所でしか気にしない本来の私の戦い方。
振り回される大出力ビームアックスが乱舞。千切れ飛ぶMSの破片。
ここで逃がせば他のメテオブレイカーを狙う敵が増える事になる。一機だって逃がさない。
「なんで!」
こみ上げてくる怒りが理不尽な事は分かっている。
私は許せないのだ。これだけの力をもつ者が自暴自棄なテロリズムで死を選ぶ事が。
そういう事=死すら目指して戦うなんて愚かな行為は、私だけが 愚かなミーア・キャンベルだけがやっていればいいというのに!!
理不尽な怒りは剣劇の鋭さを増し、同時に僅かに注意を散漫にする。そしてソレは来た。
ギリギリの速度。戦場の直感が反応するギリギリ。死角から突き上げられた斬機刀。
回転する複数の刃がピンクちゃんの装甲を捉える直前。乱暴に押し倒した操縦桿と踏み込んだフットペダル。
「っ!?」
久し振りに後ろに下がる感覚。距離をとって構え直し、刃の主を睨みつけた。
慌てて遠ざかっていく機体と同じジン・ハイマニューバⅡ型。だが違う 乗っている者が違う。
相対しているだけで分かるのだ。ジッと微動だにせず、ただ刃を構えているだけなのに。
背筋をビリビリと駆け抜ける緊張感。MSで人間同士がアニメやドラマでするような睨みあい。
下手に動けばやられる……なんて笑えない冗談でも何でもない。そう、現状においての疑い無き事実。
「なぜ……このような事を?」
だけど口からはそんな言葉が漏れていた。もちろん気を抜いている訳ではない。
隙さえ見つければ何時でも切りかかるつもりが満々! もちろんそれを相手も分かっているらしく、殺意も構えも解かないまま返す。
「我らが家族のこの墓標!」
帰ってきたのはある程度予測できた……胸糞悪い答え。
「落として焼かねば世界は変わらぬ!!」
殺気が爆発する。ユラリと揺れた剣先がフッと掻き消えた。ただ避けるだけなんて考えない。
先の言葉にもこれからどんな事を語るかにも捕らわれて駄目。一撃で切り伏せる事だけをぉ!!
「■■■」
無音の宇宙に確かに響き渡る旋律 交差は一瞬。私がこうして思考していて、睨み合いを続行している点からしてお互いに無傷。
「軟弱なクラインの後継者に騙されて、ザフトは変わってしまった!!」
討ち掛けるビームガトリング。話を最後まで聞こうなんて思っていないし、向こうも最後まで語れるとは思っていない。
ビーム弾幕を容易く避けるハイマニューバ。ちぃ! 本当にジンか、これは!?
強化されたマニューバと実戦に裏打ちされた操縦。ビームの乱機動すら計算して……いや、感じて避けた。
私と同じタイプのヘンタイパイロット。
「我らの大義を阻むのが同胞というだけでなく!」
スラスターの強弱と宇宙=無重力空間でありながら、地面が在るという特性を生かした機動と凹凸を使った防御。
地面を蹴ることでつけられた微妙な強弱と地形を把握した防御。どうしても宙間戦闘という経験、そして馴れに囚われている私を容易く翻弄。
機体の性能の差も武器の性能の差も生かしきれない体たらく、そこに響き渡る叱責と嘲笑の声。
「そのようなふざけた機体に乗っているとはな!!」
……ぐうの音も出ません。本当にごめんなさい、こんな機体 目に痛いピンク系統の配色と肩に描かれたキャラクター。
ふざけている!と怒られても仕方がないよね、このピンクちゃん。
だけど言われっぱなしは腹が立つという者。こうなればこの芸名、しっかりと利用させてもらうとしよう。
「あら? それは私がラクス・クラインであると知っていての言葉かしら?」
「っ!? 似た声だとは思ったが……ありえない! あの偽善者の小娘がMSに乗って戦場に出るなど!!」
やっぱり喰いついてきたわね。同じザフト系列の機体ならイケるかな?
いまなら切りつけられないだろうと通信系統を操作。音声だけではなく映像も接続する。
そしてここからはワザと確認をとり、ワザと隙を教え、ワザと挑発して続ける。
ヘルメットをとるというのは余りに短いながら、余りにも大きな好きだからだ。
「ご納得いただけないなら、ちゃんと目でお確かめなさい」
首元のスイッチでヘルメットの密閉を開放。煩わしいほど綺麗な桃色の髪が無重力で舞う。
浮かべるのは微笑。会った事もない本物が画面越しに浮かべていたソレを思い出す。
善意も悪意も幸福も不幸も痛みも悲しみも全てを飲み込むような(私的には)薄気味悪いと思わせる微笑み。
「まさか……いや! なんという僥倖!!」
茫然とした言葉から炸裂する更なる闘志。
「ザフトが、コーディネーターが取るべき道はナチュラルとの共存などではない!」
増す剣気。繰り出される攻撃には更なる鋭さ。デッドラインへさらに数歩進むギリギリの駆け引き。
だがそれゆえにこちらが責める機会も増えるという物。
「奴らは滅ぼさねばらぬ! 故にパトリック・ザラの選んだ道こそが正しかったのだ!!」
『まぁ、いま貴方の目の前にいるラクス・クラインはそんな事を全く考えずに、貴方と同じように目の前にいる敵を切っていただけなんですけどね? プギャーwww』
……なんて言ったら凄い隙が出来る気がする。
「落ち行く鉄槌の上でその元凶を! 偽りの平穏を築き、維持してきたクラインの魔女を倒せるとはな!!」
魔女の部分には大いに同意するとして、他の部分には納得できないモノが在る。
「私が築き維持してきた? それは違う」
「なに?」
「この平和や平穏を築き、維持してきたのは貴方たち」
「っ!? 我らを愚弄するつもりか! 全てはクライン派が結んだ偽りの協定による物に過ぎないではないか!!」
怒りというベクトルを高め過ぎ! 殺す気に満ちていても空回り→好機!!
「違うわ! それは最後の最後だけ。それに逝き付くまでの土台を築いたのは?」
どうして第二のユニウスセブンが生まれなかったのか? 簡単なこと、戦ったからだ
ニュートロンジャマーの盾は確かに大きいかもしれない。だがそれだけでは守れない。
最後の最後まで連合軍を狭い範囲に押し込め、制宙権を維持してきたのはなんだ?
独創的過ぎた人型機動兵器 MSであり、それを操っていたザフトの軍人たちだ。
「対等以上の相手でなければまともな交渉や条約なんて結べない!
対等な相手 対等な敵として連合を認めさせたのは?
軍人が 貴方たちの剣が築いた平和だ!!」
「違う!! 偽りの条約によりザフトは既に戦わなくなってしまった!!」
猛激。お互いの言葉が剣先に力を乗せ逢う。加熱した意思が逆に思考を冷却。
普通ならば全てが必殺になる攻撃の応酬。誰かカメラを回していないだろうか?
素晴らしく『参考にならない』MS戦闘の教材が出来上がるのに。
「戦わないのと、戦えないのは違うわ!」
どうして連合は表向きとはいえ条約を守ってきた?
脆すぎるガラスの箱庭で人々が再び安心して生きてこられたのは?
整然と居並ぶ抑止力 MSとそれを兵站し運用し操縦する技術があったから。
「軍人の本当の仕事は敵を斬ること? 違うでしょ?
ただ平然と有事に対する備えを解かないまま、そこに在り続けることこそが本懐!!」
そう……本当はそれこそが理想的な軍人の立ち位置。それを投げ出すのは私のような不純な動機でザフトに入った若者≒馬鹿者だけで良いはず。
目の前のような本物の軍人にならば、それくらいは分かっているはずなのに……
「さぁどうした!? 胸を張れ! 貴方たちが作った平和と平穏に!!」
「違う! そんな平和や平穏など全て偽りだ!」
口からは否定の言葉、だけど行動には一瞬のブレ。
「確かに開戦前も終戦後も危うい綱渡り状態だったかもしれない。けど……」
何をしても捉えらなかったジン・ハイマニューバⅡ型の左腕部をピンクちゃんのビームアックスが掠めた。
当然のように崩れるバランス。リカバリーの早さも流石だがもう遅い!
「貴方の家族がここで感じていた物は偽りなの?」
「え?」
留めの一撃。汚い女だと自分でも思う。でも口から出る言葉は止まらなかったし、誰かが『伝えてくれ』と囁いてくる。
「お父さんの立派な背中が守ってくれたここでの時間は偽りなの?」
確かに守れなかった。ザフトの認識の甘さと連合内部の過激派の突飛な行動で。
だけど核が撃ち込まれる一瞬まで、ここには平和と平穏があったはずだ。
それを守ってきたのは? 間違いなくザフトであり、目の前にいる本物の軍人たちだったはずだ。
「偽りでなどあるもんかぁ!!」
斬
ピンクちゃんを操って爆散したジンが装備していた回転斬機刀を拾い上げる。
物思いにふける時間なんてないのに、数秒の沈黙。腰部の空いているスロットに装着した時、地面が揺れた。
「上手くいったのかな?」
無数の亀裂が走るユニウスセブンを眺めながら呟く。確かそろそろ回収可能高度ギリギリだったはずだ。
奮戦していた割には誰の目にも止められない地味な仕事 大した貢献もしていないのだけど……ラクスなんだからみんな怒らないだろう。
ミネルバに向かってバーニアを吹かそうとした瞬間、画面の端で何かがキラリと光った。
「っ!?」
慌てて機体を向けてズームアップ。残党の狙撃など受けては唯でさえ無茶をした機体、ひとたまりもないだろう。
だけどそこで見えたのは……手鏡。子供用の可愛らしい作り。それが在るという事は傍にはその主 ミイラ状の少女の遺体が……
「嘘」
人型の機動兵器が飛び交い、宇宙に人間が住む時代にそんな事はあり得ない。分かっているのだが、見てしまった。
笑ったのだ。実に愛らしい健常な人間の姿で。その後ろには二人の男女。両親だろうか?
これまた笑っている。男の方が私を見て苦々しい顔をしたが、直ぐに笑みを取り戻し、女性の肩を抱き、少女の手を引いて……消えた。
「どうしよう、怖くてトイレにイケないわ」
怖かったのはそんなオカルティック現象のせいではない。余りにも偶然にその方向で漂う無傷のメテオブレイカーを発見してしまったことだ。
ため息をひとつ。向きを変更。少しくらいならば大丈夫だろう。
「しょうがないな~」
小さくて優しいユニウスの奇跡を無駄にするのは心苦しいから。
数分後
「ヒャッホー!」
MSで大気圏に単独ダイブすることになりました♪
偽ラクスってこんな話だったかしら?