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No.7688の一覧
[0] コードギアス 反逆の兄妹 (現実→オリキャラ♀)[499](2014/04/02 16:15)
[1] STAGE0 皇子 と 皇女[499](2014/02/08 19:39)
[2] STAGE1 交差する 運命[499](2014/04/02 16:18)
[3] STAGE2 偽り の 編入生[499](2009/09/08 11:07)
[4] STAGE3 その 名 は ゼロ[499](2009/10/09 16:40)
[5] STAGE4 魔女 と 令嬢[499](2011/01/18 16:03)
[6] STAGE5 盲目 と 仮面越し の 幸福[499](2011/01/18 16:03)
[7] STAGE6 人 たる すべ を[499](2009/10/09 16:42)
[8] STAGE7 打倒すべき もの[499](2009/10/09 16:42)
[9] STAGE8 黒 の 騎士団[499](2011/01/18 16:04)
[10] STAGE9 白雪 に 想う[499](2011/01/18 16:07)
[11] STAGE10 転機[499](2011/01/18 16:06)
[12] STAGE11 もう一人 の ゼロ[499](2011/01/18 16:08)
[13] STAGE12 歪み[499](2011/01/18 16:08)
[14] STAGE13 マオ の 罠[499](2014/02/08 18:54)
[15] STAGE14 兄 と 妹  心 の かたち (前)[499](2014/02/08 18:56)
[16] STAGE14 兄 と 妹  心 の かたち (後)[499](2014/02/08 18:56)
[17] STAGE15 絶体絶命 の ギアス[499](2014/02/08 18:57)
[18] STAGE16 落日[499](2014/02/08 21:06)
[19] STAGE17 崩れ落ちる 心[499](2014/04/02 16:16)
[20] STAGE18 運命 が 動く 日[499](2014/04/03 00:20)
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[7688] STAGE6 人 たる すべ を
Name: 499◆5d03ff4f ID:5dbc8fca 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/09 16:42
「――第七世代のナイトメアフレームでして、その能力は通常の……」

 特別派遣嚮導技術部――通称『特派』――の主任ロイド・アスプルンドは、試作中の新型ナイトメアフレームの有用性を総司令官――コーネリア総督に説いていた。
 今回の作戦行動への協力の申し出が却下されたためである。

 特派は第二皇子シュナイゼルの肝入りで創設された部署であり、彼の個人的な部隊と言ってもいい。対して、殺害されたクロヴィス皇子に代わって現在エリア11を統治しているのは第二皇女コーネリアである。
 そのため、特派とエリア11に置かれた軍では命令系統が異なる。作戦行動で協調体勢を取るには、軍から特派に協力を要請する、あるいは特派から軍に協力を申請する、そしてそれが了承される――そういった形式を成立させねばならなかった。
 研究開発以外に興味の無いロイドにとって、無用な戦闘に駆り出されないのは感謝すべきことではあったものの、反面、必要なときに十分な実戦データを採取できないという問題も存在していた。

 今はそのマイナス面が大きい。
 先ごろ、開発中の新型ナイトメアフレームランスロットが、実戦稼動に耐え得ると証明されたのだ。ゆえにロイドとしてはぜひとも作戦に参加してデータを収集したいところなのだが、その機会がなかなか与えられないのである。

「そのランスロット。パイロットはイレブンと聞いた」

「はい。枢木スザクと言いまして、たしかに名誉ブリタニア人です。しかしながら――」

 説得を続けようと試みるロイドの言葉を遮り、コーネリアは厳しく言う。

「一等兵から准尉に特進させた。それだけで満足せよ。ナンバーズなどに頼らずとも、私は勝ってみせる」

 強固な意思力を感じさせる切れ長の瞳が、刃物のような光を放つ。鋭い眼光に見据えられたロイドは、これ以上の行動の無意味さを悟らざるを得なかった。





「はーい! 解散解散! 今日は出番なし! おーめーでーとー! おしまい!」

 特派のヘッドトレーラーに帰るなり、ロイドは声を張り上げた。次いですぐに肩を落とす。

「やっぱり駄目でした?」

 案の定、といった風に訊く女性は、オペレーターのデスクにスザクと並んで座り、なにやら広げたノートの上におにぎりを並べていた。ランスロット開発メンバーの一人、セシル・クルーミーである。

「コーネリア皇女殿下はブリタニア人とナンバーズをきっちりとお分けになる方だからね、予想はできてたけど」

「まだ功績が足りないんでしょうか」

 シンジュク事変で敗色濃厚だったブリタニア軍が形勢を逆転できたのは、ランスロットの活躍あってのことである。そこまでの実績があっても認められないのかと、セシルは眉根を寄せた。

「そういう問題じゃないんだと思うよ。まぁ、人の主義思想にアレコレ言っても仕方がないから、ウチとしては殿下が盛大に負けてくれるのを祈るしかないね」

「ロイドさん! そういう発言は――」

「でもそれ以外に方法ってある?」

「……それは、そうですけど」

 ロイドの意見は過激すぎるものの、たしかに正論であった。

 自分たちは統治者であり、ナンバーズは守られるべき存在である――。
 コーネリアの持つ信念は、『ブリタニア人とナンバーズを厳格に区別する』というブリタニアの国是とも合致する。ブリタニア皇族が帝国の理念を体現するのは当然の振る舞いであり、非難されるべき点は微塵も存在しない。
 ゆえにこそ、特派の意向だけでは翻意を促すには絶対的に足りない。それはロイドが第二皇女の固い意思の在り様とともに最前確認したばかりである。

 前線に出るには状況の助け、つまり正規軍だけでは処理できないレベルの窮地が必要なのだ。

「とはいえ、相手はクロヴィス殿下とは違って武名の誉れも高いコーネリア殿下。ウチまで出番が回ってくることはそうそう無いだろうね。――ところで、なんだいそれ?」

「これですか? いいブルーベリーが入ったからジャムにしておにぎりに詰めてみたんです。ロイドさんもいかがです?」

「……いえ、遠慮しておきます」

 ロイドは眉間にしわを寄せ、目を逸らした。

 セシルには一流の研究者としての発想力を料理にまで活かそうとする困った悪癖がある。先ほどから神妙な顔で押し黙っているスザクは、今回の被害者であろう。

 哀れな少年の口内に存在していると予想される奇天烈な食べ物の味を想像しないようにしながら、ロイドは改めて尋ねた。

「そうじゃなくて、そっち。ノートのほう」

「ああ、これはスザク君の学校の宿題です。生徒会のお友達にも教えてもらってるらしいんですけど、それだけじゃ付いていけないからって」

「上手く溶け込めてるんだね。いいことだ」

「何でも偶然昔のお友達がいたんだとか。その子が仲良くなれるように取り成してくれたんだそうです。……って、なんで私が説明してるんでしょう? スザク君? どうかした?」

 セシルはようやく一言も発さない少年の異常に気づいたらしい。

「……世の中には知った方が良いことと知らない方が良いことというのがあるというけれど、これはどっちなんだろうね」

 ボクとしてはぜひ自覚して欲しいところだ、と心の中で続け、ロイドはスザクに声を掛けた。

「今日のお仕事はもう無いから、なんなら学校に行って勉強教えてもらって来たらどうだい?」

 逃げないとおにぎり全部食べさせられることになっちゃうよ、との本音は、これもまた口には出さなかった。

 基本的に研究第一で人を人とも見なさないきらいのあるロイドだが、セシルの手料理をリアルタイムで食べている人間にだけは、珍しく気遣いを見せることがある。
 つまりは、セシルの作る食べ物とは、そういうものなのだった。




 ◆◇◆◇◆




 アッシュフォード学園の生徒会室では、黒猫を抱いたカレンと白茶のぶち猫を指先であやすシャーリーがおしゃべりをしていた。
 カレンの胸で大人しく丸くなっている黒猫は、アーサーという。スザクがユーフェミアとデートらしきものをしていたときに、街で見つけて懐かれた――というにはやたらと彼に噛みつく――猫だ。もう一方は先日のキスイベントでクラリスが連れてきたマーリン。
 飼っているというほど面倒を見ているわけでもないのに、居心地がいいのか、二匹とも生徒会室に入り浸っている。学園の敷地内にうろついているのを見つけた生徒会メンバーが連れてくるというのもあるのだろうが。

「やっぱりルルってクラリスと付き合ってるのかなぁ……?」

「どうでしょうねー」

 いつから同じような会話をしているのか、シャーリーに答えるカレンの返事はかなり投げやりだった。アーサーに向かって話しかけているようですらある。
 しかし悩み事を抱えた様子のシャーリーは、視線をマーリンに落としているせいもあって、友人の誠意の無さに気づいていない。
 その場にはニーナもいるのだが、彼女に至っては完全に我関せずといった具合で、パソコンを弄りながら、片手間にテレビのディスプレイをちらちらと見ている有様である。

 軍務と謎の料理から開放されたスザクが生徒会室に入ってきたのは、そんなタイミングだった。

「あ、スザク君、おかえりなさい。今日は仕事なんじゃなかったの?」

「ただいま。そのはずだったんだけど、いろいろあって。僕のところは臨時休暇みたいな感じに」

 カレンの質問に、スザクは曖昧な言葉で返す。

 『いろいろ』の部分に反応してカレンは少々怪訝な顔になったが、口には出しては何も言わなかった。
 たとえ話したくても、軍内部の情報を漏らすのはご法度なのだろう。突っ込んで訊いてもスザクを困らせるだけだと、彼女のみならず、生徒会メンバー全員が既に知っていた。

「――あっ、そうだ! スザク君に聞いとかなきゃいけないことがあったの」

 だからというわけではないだろうが、突如顔を上げたシャーリーが別の話題を振った。

「何?」

「今度の連休って暇かな? 会長とニーナとクラリスと私、四人で河口湖に行こうって話になってて。よかったらスザク君もどう?」

 生徒会の面々に激しいイレブン嫌いとして知られるニーナも、スザクに対してはこのごろは拒絶反応を示さなくなっている。
 彼女の場合、思想的に排斥したがっているわけではなく、過去の経験から単純に恐怖心を持っているだけなのだ。仲間として過ごすうちに警戒する必要が無いと悟ったのだろう。
 今回の旅行にスザクを誘うのは、ニーナの了承もきちんと得られていた。

「へぇ、河口湖か。楽しそうだね。ちょっと待って、確認してみる」

 テーブルに置いた鞄をごそごそとやりながら、スザクは「そういえば」と黒猫と戯れている少女に顔を向けた。

「カレンは一緒に行かないの?」

「私は、旅先で体調を崩すと大変だから、遠出はあんまり」

「そっか。他のみんなは?」

「リヴァルはバイト。ルルもなんだかよくわかんないけど忙しいー、とかで、スザク君もダメだと男子は皆アウトになっちゃう」

 シャーリーは不満げに小さく唇を尖らせる。すると、探り当てた手帳を開いてスケジュールを調べたスザクが、申し訳なさげに言った。

「……あぁ、ごめん、僕も駄目みたいだ。その日は仕事が入ってる。せっかく誘ってもらったのに」

「あーー、いいのいいの。気にしないで。お仕事なら仕方ないし。ルルなんか理由も話さないんだから。きっとまたギャンブルとかそういうのよ」

「あれ? 前にそれはもうやめたって……」

 ニーナの言葉尻を奪うようにして、シャーリーはさらに続ける。

「『賭け事は』、でしょ。もっと手ごわいのが見つかったとか言ってたし、なんでルルはわざわざ危ないことに――」

「あ」

 不意に呆然とした声が上がった。なぜだか妙によく響いて、会話が一気に止まる。一同が声の主――カレンの方へと視線を向けると、彼女は目を見開いてテレビの画面に見入っていた。

『番組の途中ですが、総督府からの発表をお伝え致します。軍部は、テロリストの潜伏するサイタマゲットーに対して、包囲作戦を展開中です。コーネリア総督も現地入りしたため、立ち入り制限が発令されました』




 ◆◇◆◇◆




『二時間後に、総攻撃が開始される模様です。これにより、次の地域は――』

 豪華な調度品が並ぶ広い居間である。
 派手な柄のペルシャ絨毯。ごてごてとした装飾の施されたソファ。キュビズムというのか、難解な絵画作品が閉じ込められた金の額縁。

 正直なところ、バーンズの感覚では、それらの物品の中に、一品たりとも欲しいと感じられる品は無かった。
 高価なアクセサリを身に着ける者には、それなりの品と格というものが要求される。ぼろをまとった物乞いがダイヤの指輪をしていたら、高確率で盗品か何かと疑われるに違いない。
 それと同じことで、多くの財をつぎ込んで整えられた部屋に違和感無く居座るには、高貴なオーラとでもいうべきものが必要なのだ。

 早い話が、バーンズには似合わない。
 思うに、この部屋を作り上げた本人――アーベントロート子爵でも、場違いな印象は否めないのではなかろうか。

 しかしながら。

 ゆったりとソファの背もたれに身を預けている護衛対象の少女は、このきらびやかな空間にあっても存在感を損ねていないように思える。
 もっとも、一度だけ通されたことのある彼女の私室はもっと落ち着いた雰囲気をしており、そちらの方が似つかわしいのは間違いなかったが。

 バーンズは居間の入り口近くに控えて、臨時の報道番組を視聴する子爵令嬢を眺めていた。

 ハイスクールに通う年齢の少女だというのに、彼女は屈強な成人男性であるバーンズと密室で二人きりになるという状況を一度も恐れたことがない。
 常に使用人を家中に置く貴族の娘として育てられたがゆえの無用心なのか、それとも警護役への信頼の表れなのか。おそらくは後者だろうとバーンズは見当をつけている。

 いずれにせよ、バーンズにはクラリスと二人きりになる機会が多く与えられていた。
 両親を置いて単身エリア11に来ているせいもあるのだろう、特に屋敷の中まで張り付いていなければならない契約ではないのだが、「迷惑でなかったら」と、話し相手としてそばに居るよう要請されることがしばしばあるのだ。

 なぜそれに毎回従っているのかといえば、興味があるから、というのが一番だろう。クラリスの考え方に、人となりに、そして素性に、興味があるのだ。

 最近では、アーベントロートを立て直したのがこの少女であるとの疑惑は確信へと変わっていた。知性といい胆力といい、ただの十七の小娘ではあり得ない。もちろん世間知らずの深窓の令嬢に持ち得るものでもない。
 となれば、経歴そのものに、巧妙に隠された秘密があるのだ。それがクラリスを近くで見ながら過ごしてきたバーンズの結論であった。

 人を使ってまで明らかにしたいという欲求は薄かったが、何もせずとも得られる情報があるのなら得ておきたい。そういった好奇の意識が、二人きりの時間を作らせる一つの要因となっていた。

「――ねぇバーンズ、貴方は今回のこれをどう思う?」

 謎を孕んだ子爵令嬢は、テレビの画面を見たままバーンズに問う。

 物事について意見を求めるとき、クラリスがおのれの見解を先に述べることはまず無い。
 先入観のない回答を得て相手を読み解くための材料にしているのだろう。バーンズはそう捉えていたが、特に自分を偽ろうとはしていなかった。暴かれて危機に陥るような何かがあるわけでもないのだ。

「作戦の開始時間まで報道するということは、ゼロを挑発しているのでしょうね。出て来いと」

 市民に確実に浸透させねばならないのは避難誘導の類――立ち入り禁止区域だけであって、いつどこでどのように展開されるのか、などの細かい部分は、普通なら不利益にしかならない。
 ただし、罠に掛けたい相手がいるのだとしたら、意図的に情報を与えることで行動予測を絞り込むことができる。

「私もそう思うわ。それで、出て来るかしら」

「なんとも言えません。まだゼロは何の声明も出しておりませんから。目的が読めません。ただのテロリストと言うには進んで破壊工作をするわけでもなく、枢木スザクを奪取した理由もよくわからない。日本国最後の首相の息子というところに利用価値を見出したのかとも考えましたが、実際はすぐに解放されたようですし」

「そうね」

「あれだけ派手なパフォーマンスをしたのですから、劇場型の犯罪者であることは間違いなさそうですが、それゆえに、こういった突発的な誘いに乗るのは難しいのではないかと思われます。しかし、一方ではあのときの大胆不敵な作戦を考えると、相当自分に自信があるようにも見受けられます。そうなると――」

「来ないとも言いきれない」

「はい」

「完璧だわ。もちろん話し相手として、だけどね。私は専門家じゃないから。分析の方は――同意するとだけ言っておきましょう」

「光栄です」

 私見を述べ終えたバーンズに、クラリスは対面のソファに座るよう勧めた。促されるまま柔らかい座面に腰を下ろすと、向かいの少女は唐突に言った。

「本当、貴方は優秀ね。どうして軍を辞めたの?」

「それは……」

 不意の問いに返すには、わずかな時間を要した。単純に考えがまとまっていなかったためだ。簡単に説明できるものでもないし、話してしまっていいのかという懸念もある。

「――こういった作戦に、参加したくなかったからです」

 いつだったかシンジュクゲットーに視察に行った際のクラリスの様子を脳裏に浮かべながら、バーンズは答えた。
 破壊された町並みを見つめて、無力だと小さく呟いた少女。彼女はブリタニアの国是であるからというだけで、盲目的にブリタニア人とナンバーズを区別したりはしないのだろう。

 ならば、と口を開く。

「ご存じかと思いますが、わたくしは第二次太平洋戦争の際、グラスゴー乗りとしてエリア11侵攻に参加致しました」

 バーンズは七年前を思い返し、遠くに視線を投げた。

「ナイトメアフレームというのは、恐ろしい兵器です。鉄の塊が思い通りに動くんです。熟練すれば、本当に手足の延長のように操縦できる。搭乗者は戦場の高揚も相まって、奇妙な全能感を覚えます。少なくとも自分はそうでした」

 初期型グラスゴーのコクピットは死ぬほど暑いですからそこまで没入はできませんでしたが、と笑って見せたが、クラリスは特に反応しなかった。

「まぁ、それでですね、今でこそ対ナイトメア戦を想定したナイトメアなども出てきておりますが、当時はナイトメアの敵といったら、機動力で圧倒的に劣る戦闘用の車両と――それと、歩兵です。滅多なことでもなければ負けません。ですから……大勢殺しました。安全なコクピットの中で、神にでもなったかのような気分で、虐殺を繰り返しました」

 言葉を切る。
 黙って先を促すクラリスの顔には、肯定も否定も浮かんではいなかった。ただ事実を事実として受け止めようとする真摯な瞳がある。

「そして、終戦です。そのときになって――当面ナイトメアに乗って作戦行動に参加する必要が無いという段になって、ようやく、人間らしい心が戻ってくるんです。少しずつですが。荒廃した大地に目を向ける余裕ができてきます。……ショックでした。自分はナイトメアが実戦配備される前から戦場に行っておりましたから、いくらかタガが外れている自覚はあったんですが、それでもショックを受けました」

 無言のクラリスの目は、バーンズを捉えながら、バーンズを見ていない。沈思するかのように、真剣な眼差しはどこか別の場所で焦点を結んでいた。

「ナイトメアでの戦闘は全能感をもたらします。逆に言えば、降りたときには、自分がどうしようもなく『人』であると実感させられます。その巨大すぎる差の前では、ブリタニア人とイレブンの違いなど、大した問題にはなりません」

 話が終わったことを伝えるために「そういうことです」と付け加えると、ややあって少女の口元がふっと綻んだ。
 深く考え込んだ様子からの変化だったせいもあってか、その表情はこの上なく自然に見えた。 

 バーンズがこれまで観察してきたクラリスとは、常に冷静におのれを律しようと努める、およそ無防備な感情など表に出しそうにない少女である。

 それは間違いなく、彼が初めて目にする、クラリス・アーベントロートの飾り気のない微笑だった。

「バーンズ、貴方を選んで正解だったわ。そう、人は人よね。そういう考え方、好きよ。これからもそのままの貴方でいて頂戴。頼りにしているわ」

 何から護ったわけでもないのに、護衛対象から信頼を向けられる――そんな経験は過去にない。加えて、ブリタニアでは異端とされるであろうこんな価値観を、他人に真っ正直に語ったこともなかった。普段のバーンズは、面倒に巻き込まれないよう模範的なブリタニア人の仮面を被って人と接している。

 だからだったのかもしれない。正確なところはバーンズ自身にもわからない。

 ただ、柔らかなクラリスの笑顔を見つめる彼の胸には、曰く言いがたい、穏やかな温かさとでも呼ぶべき感覚が、しっとりと広がっていた。




 ◆◇◆◇◆




 サイタマゲットーの地下に張り巡らされた下水道。少数の電灯がほの明るく照らすトンネル内を駆ける、一つの影があった。
 黒をベースにしたスタイリッシュなスーツに、同色のマント。頭部にはフルフェイスの黒いマスク。

 ゼロである。

 ただし、外光を完全に遮断する黒ガラスの中にある顔は、ルルーシュのものではない。
 C.C.であった。

 地響きを伴う地上からの轟音は時を追うごとに発生の間隔を長くしていっている。今や完全に収まるのも時間の問題といえた。戦闘が収束しつつある証左である。

(やはり、負けるか……)

 C.C.が思うのは一人の少年のこと。
 サイタマゲットー壊滅作戦をコーネリアの誘いだと理解したうえで、敢えてその罠を中から食い破ろうと飛び込んで行ったルルーシュ。

 クロヴィスからギアスで聞き出したという、マリアンヌ殺害の犯人を第二皇子と第二皇女が知っているとの情報が、彼らしからぬ今回の軽挙を後押ししたのだろう。シンジュク事変の折にブリタニア軍を圧倒できた経験も、判断を狂わせる因子の一つになったのかもしれない。

 なんにせよ、C.C.からしてみれば無謀としか言いようが無い。

 にもかかわらず。

 ほんの数時間前、ルルーシュを止めようとして彼と対峙したC.C.は、結局その背を見送る行動を選んでしまった。

 ルルーシュの繰り出した、彼自身の命を使った脅迫に屈してしまったのだ。

 ……ただし、それは表面的な理由だ。

 根本的なところでは、説得を続けるうちに、制止したいという意思そのものが萎えてしまっていた。持論を述べるルルーシュの発言の中に、一つのフレーズを見つけてしまったがゆえに。

 『何もしない人生なんて――ただ生きているだけの命なんて、緩やかな死と同じだ』

 C.C.はその言葉が真理を言い当てたものであると、誰よりも深く知っている。何百年前からなのかも今となっては定かではないが、まさにその状態のまま、気が遠くなるほどの時を過ごしてきたのだから。

 もっとも、C.C.の場合は緩やかに死に向かったりはしない。ただ永久に、経験の積み重ねという無為の生を続けるだけだ。
 自らを限りなく死と近しい位置にあると認識しながら、肉体的には滅びることの叶わない存在。それが魔女C.C.である。

 だからこそ、止めることができなかったのだ。自分にはもはや届かない、まばゆい生の輝きを放とうする少年を。

 ゆえに、C.C.は一度見送った彼の後を追い掛けて戦場に赴こうとしている。

(もともと、こういう状況に備えてあいつのそばにいるんだしな)

 ルルーシュはシンジュクテロの際と同じ作戦で戦ったのだろう。そうならざるを得ないようにコーネリアが状況を整えたのだから、おそらく間違いない。

 サイタマゲットーを拠点とするテロリストに無線で指示を出し、ブリタニア軍からギアスで奪い取ったナイトメアを主力として、コーネリアを迎え撃つ。

 だが、それでは勝てない。C.C.の見立てではそうだった。

 その作戦で優位に戦闘を進めるには、大前提として、鹵獲した機体を操っているのがブリタニア兵であると敵に誤認させる必要がある。たとえ緒戦は不意を突けたとしても、物量が圧倒的に違うのだから、最終的には心理的な隙を作り出してそこを狙うしかなくなるのだ。

 しかし、相手は他国から畏怖をこめて『ブリタニアの魔女』と称される武人、コーネリアである。軍の錬度が違う。不審な動きをする機体があればすぐに見破られてしまうだろう。

 そうなってしまえばもうお終いだ。
 絶望的な戦力差の戦いにもかかわらずテロリストがルルーシュの指揮に従うのは、そこにわずかながらでも勝利の目を見出しているからに他ならない。劣勢に陥れば一気に瓦解するのは道理。

 そう、ルルーシュは勝てない。
 静まっていく爆音もそれを示している。寡兵が大軍を破るには戦闘時間が短すぎていた。

 ただ、C.C.の勝機ならばある。
 勝利条件は、敗北したルルーシュを逃がすこと。

 コーネリアが追い求めているのはクロヴィスの仇のゼロであって、ブリタニアの棄てられた皇子ルルーシュではない。
 ならば別の人間がゼロを名乗って囮になればいいのだ。それだけで脱出の隙は作り出せる。

(……クラリス、お前の予見はやはり間違っていないな)

 機を待ちながら、C.C.はこの先の展開を冷静に予測する。膨大な過去の経験という知識を材料に。

 この場を逃げ延びたルルーシュは、独力の危うさを知り、手足となる人間を集めようとするだろう。基盤となる組織を持とうとするだろう。そしていずれは、ブリタニアに真正面から対抗できる国を作り上げるのかもしれない。

 だとしたら、その過程で彼は否応無く、人を敵と味方に分け、それらを盤上の駒のごとく扱う冷徹さを身に着けさせられる。

 それはまさしく戦乱への道であり、王への道であり、同時に彼を孤独の闇へと誘う破滅の道でもある。

(いいさルルーシュ。誰が見捨てようと、私が最期までそばに居てやる。私とお前は――契約者なのだから)

 そうと知りつつも、それを止めようとする意思は、魔女たるC.C.には、無かった。




 ◆◇◆◇◆




 バーンズは居心地の悪い居間でクラリスとティーカップを傾けながら、テレビのスピーカーから流れるアナウンスを聞いていた。

『作戦は無事に終了した模様です。コーネリア総督も、先ほど政庁に戻られました。これにより、次の地域の立ち入り制限が解除されます――』

「ゼロの報道はありませんね」

 サイタマゲットーへの包囲作戦関連のニュースでは、ゼロについてはまったく言及されなかった。

 ということは、捕えられなかったのだろう。狙い通りにおびき出せたのかどうかは置くとして、結果はそうだ。
 これだけあからさまな誘いをしたのだから、作戦の真の目的がゼロ捕獲にあったと、少なくない人間が想像したはずだ。捕縛できたのならすぐに発表せねば不信感が生まれてしまう。よほどの事情でも無い限り、伏せておくメリットより公表しないデメリットの方が大きい。

「……逃げ切ったわね」

 クラリスの呟きが耳に入り、バーンズは訝しげに聞き返す。

「なぜ、逃げたと? 現れなかったという線は――」

「あぁ、勘よ。ただの勘。気にしないで」

 クラリスの『勘』はよく当たる。もしかするとどこかにソースがあるのでは、と疑ってみたこともあるが、見つけられたためしは無い。
 ただ、今回に限っては真実単なる勘なのだろう。怪しむべき点はどこにも存在しなかった。作戦行動の報道が始まる前から終わった後まで、同じ部屋で過ごしていたのだから。

「それより、さっきの話。河口湖の護衛の件、頼んだわ」

「はい。お任せ下さい、お嬢様」

 力強く頷いたバーンズの思考は、既に護衛隊の人員選出へと動いていた。


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