淡く輝く月を映し出し、水面は静かに波打っていた。遠くでナイトメアの駆動音が小さく響いている。
ブリタニア軍による片瀬少将捕縛作戦の舞台となった、トウキョウ租界近郊の港である。
黒の騎士団の部隊は既にこの場に無く、一方奇襲を受けたブリタニア側はいまだ撤収を終えていない。目標となる片瀬のタンカーが無くなった今、布陣を隠す必要はなく、少し前までには無かったサーチライトの光が辺りを照らしていた。
その照明の届かない位置、作戦区域はずれ近くのコンテナの影で、二人の少年が対峙していた。
黒の騎士団の作戦行動の終了に合わせて現地を去ろうとしていたルルーシュと、彼の前に突如現れた白髪の少年である。
「――貴様、何が目的だ」
ルルーシュは相手を鋭く睨み、唸るように訊く。
「そんなに怖い顔しないでよルルーシュ。ボクは戦いに来たわけじゃないんだ。キミにギアスとC.C.のことを教えてあげたくてね。気になるでしょ?」
対する少年の口調は軽い。
しかしそんな態度で誤魔化されるほどルルーシュは甘い育ち方をしてこなかった。紫の瞳がさらに鋭利な雰囲気を帯びる。
「うーん、信用してもらえないかなァ。じゃあとりあえずゆっくり説明できる場所に行こうか。ここはうるさくてかなわない」
(『うるさい』? 何のことだ?)
ルルーシュはわずかな引っかかりを覚えた。
ランドスピナーのモーター音はかすかに聞こえてくるのみ。そのほかに耳に届くのは穏やかな波の音だけだ。
訝るルルーシュを尻目に、白髪の少年は周囲の警戒もしないままコンテナの陰を出る。
「おい、そんなに無防備に――!」
「『俺まで見つかったらどうする』? 大丈夫さ。絶対に見つからないよ。巡回の人間が近づいて来たらすぐに察知できる。ボクは思考を読むギアスを持っているんだ。他人の考えていることが声として聞こえてくる。その気になれば深層意識まで読み取れる。回数制限も、目を見るとかの制約も無い。効果範囲は集中力次第で最大五百メートル。C.C.にだけは通じないけど」
(こいつ、なぜ――)
疑問が浮かぶと同時にルルーシュの頭脳が高速で回転した。
幾つかの解答案とその正否の確認法、そして目の前の人物への対処策が瞬時に練り上げられる。
白髪の少年は見透かしたように口元をゆがめた。
「『なぜそんなことを話す』? 『うるさい』の意味がわからなかったみたいだから。それにさっきも言ったでしょ? ボクは戦いに来たんじゃない。話をしに来たんだ。キミに信用してもらいたくてね」
「――C.C.と契約したのか」
ルルーシュはあえて会話を省き、一瞬で辿りついた思考の終着点を口に出した。当然ながら前後の繋がりなど皆無だ。普通の人間なら怪訝に思うところだが――。
「そう。キミの考えているとおり。ボクはC.C.と契約してこの力を手に入れた。十一年前にね。だからC.C.に聞けばボクのギアスのことは全部わかってしまう。隠しておく意味なんてないんだ。今ここで決着をつける意思がない以上はさ」
(俺の思考過程と同じだ。そして返答にまったく淀みがない。こいつ、本当にこちらの考えを読んでいるのか――)
手の内を晒すというのは、使い方によっては手札を切ると同義である。
能力を自ら開示するというこのカードは、ルルーシュからわずかながら警戒心を取り去ることに成功した。
それ以上に、頭脳で勝負するタイプの彼にとって、この相手が非常に相性の悪い人間であると否応無しに知らしめていた。
思考を読み取る人間に対して弁舌は意味を成さず、銃を使おうにもやはりギアスがネックになる。殺意を抱いた瞬間それが伝わってしまうのだ。そしてどこを撃とうとしているかも。対人戦闘においては絶大なアドバンテージである。早撃ちの名手でもない人間の銃弾を躱せる程度には彼も訓練を積んでいるだろう。
ルルーシュは内心で歯噛みしつつも認めていた。
相手の要求を呑む以外に、この場を切り抜けるための方策がない。
「……いいだろう、話を聞いてやる。だがその前に名を名乗れ。信用されたいのならな」
「ごめんごめん、自己紹介は基本だよね。聞かなくてもわかっちゃうから忘れてたよ。ボクの名前はマオ。C.C.の、キミの前の契約者だ」
「ルルーシュだ。どうせ全部ギアスでわかってるんだろう。説明は省く」
「十分だよ。それじゃあ、移動しようか」
マオと名乗った少年は踵を返し歩き出す。促されたルルーシュはそのあとに続かない。
「ついて来ないの?」
「誰がお前のような怪しい奴と一緒に行動できるか。話すことがあるなら今ここで話せ」
厳しく告げると、マオは不機嫌そうに嘆息した。
「ここじゃあんまり時間を取れないよ。ブリタニアの奴らが来ちゃう」
「だったら手短に済ませるんだな」
「わがままだなァ。それがブリタニア皇族って奴なの? ああ、本気で『ボクが怪しいから』なのか。説得してる暇は無さそうだ。わかったよ」
マオはしぶしぶといった様子で戻ってくる。
その行動からルルーシュは確信する。
相手にはなんとしてでもこちらに聞かせたい情報があるのだ。おそらくはそれにより何らかのリアクションを促そうというのだろう。
となれば、この場における安全は確保されたと見ていい。
「そんなに警戒しないでいいって言ってるのに。まぁいいよ。時間も無いことだし、早速一つ目を話そうか」
マオはコンテナに背を預け、腕組みをして指を一本立てた。
「まずはギアス能力について。ギアスは使い続けるうちにその効力を増していく。ボクはもう自分のギアスをオフにできない。常に周りの声が聞こえてしまう。キミもきっといつかはこうなる」
ルルーシュはハッとなってマオを見た。もたらされた情報の示す未来が予想できたからだ。
絶対遵守のギアス能力がオフにできなくなる――。
つまり、何気なく口にしたセリフが全て強制力を持ってしまうということだろう。それはもはや便利な力でもなんでもない。そこまで行ってしまえば単なる枷だ。日常生活にすら支障をきたす。
(いや、待て。マオの言葉が――)
「本当だよ。なんならC.C.に確認してみればいい。彼女は嘘をつかないだろう? 隠し事はするけど。ボクもこうなるなんて聞かされなかった。――うん、その通り。頭の回転が速いと説明が楽で助かるよ。この話が嘘だったらボクの信用は一気に無くなる。だからすぐにバレる嘘をつくメリットなんて存在しない。信じてもらえたみたいだね」
ルルーシュの思考を代弁し、白髪の少年はさらに続けた。
「どうしてC.C.はこんな重大なことを明かさなかったと思う?」
「……使わせたいのか。この力を」
もちろんギアスを貰う前なら契約をスムーズに進めるためにデメリットを伏せていたと考えるのが自然だ。だがあの魔女は今に至るまでこの事実を隠していた。
「聞いたことは無いけど、たぶんそうだろうね。その先に彼女の望みがあるんだ」
「契約内容を知っているのか?」
「それを言う前にC.C.はボクの前から消えたよ。ただ、最低限の予想くらいならできるよねェ。C.C.の場合、教えないってことは何かそこにメリットがあるってことなんじゃないかな? 例えば、明かしてしまったら契約者が拒否するような内容だ――とか」
ルルーシュもそれは考えたことがあった。
つかみ所の無い人間ではあるものの、C.C.の性格はなんとなく把握できてきている。そこから判断して、おそらくマオの推測は間違っていない。
(……ん?)
ふと違和感を覚えた。
ルルーシュはこれを過去に『考えたことがあった』。さらに今現在もそこから結論は動いていない。
マオは深層意識までも読み取れるのだ。そんなことはわかっているはず。わざわざ口に出して確認する必要などない。
――そこまで思索が進み、気付く。
つまり、この会話には意味が無い。会話の内容自体には。
だとすれば、マオの真意は別にある。
「……なるほど」
心の中にある疑念を掘り起こし、再確認させることこそが会話の裏に隠された真の意図。
ルルーシュはそう睨んだ。
「お前の目的は俺とC.C.を仲違いさせることか。――思考が読めれば人を誘導し、思い通りに操るなど容易い。想像以上に厄介なギアスだな、それは」
指摘を受けたマオは呆けたように一瞬言葉を失う。ルルーシュの発言は的を射ていたのだろう。かと思うと額に手を当てて笑い出した。
「ハ……ハハハハハッ、すごいやルルーシュ。たったこれだけの情報で全部ばれちゃうなんて。何も知らなかった『ボク』が負けるわけだよ」
「何のことだ?」
「こっちの話。――謝るよルルーシュ。キミを甘く見ていた。ここからは小細工抜きで話そう。これ以上疑われたくないしね」
「もう遅いとは思わないのか?」
「だとしても、ボクにはこうするしかない。二つ目に行こうか。ボクの目的について」
マオは笑みを収め、指を二本立てて見せた。顔を突き出すように上体を屈める。サングラスに隠された瞳に狂気じみた光が宿った。
直接目を見ることのできないルルーシュからでもそれは感じ取れる。にじみ出る雰囲気が先ほどまでと明らかに違っていた。
どうやら小細工抜きというセリフは信じていいらしい。
マオは囁くように、それでいてよく響く声音で言った。
「ボクはC.C.が欲しいんだ。キミを誘導しようとしたのもそのためさ」
「――復讐か?」
ルルーシュは低く訊く。
真っ先に思いついたのがそれだった。
ギアス能力がオフにできなくなるという状況。マオの場合は四六時中他人の心の声が聞こえてくるという。どれだけの苦しみなのかは想像に余りある。毎日が拷問のようなものだろう。
詐欺のように前情報も無しでそんな状態に置かれ、挙句そのまま放置されたのだ。殺しても飽き足らないほど憎んでいたとしても不思議は無い。
「そんなことはどうだっていいだろう。とにかくボクにはC.C.が必要なんだ。キミが処分すべきと判断したら、ボクに譲って欲しい。正義の味方の黒の騎士団に『少女を監禁しろ』なんて命令は出せないでしょ? ボクなら責任を持って管理してあげられる。場所だってもう用意してある」
「……信用していいのか?」
「信用なんてしてないくせによく言うよ。――でも、キミは今、万一の場合の選択肢の一つとしてボクを数えた」
「厄介な奴め」
「褒め言葉と受け取っておくよ」
「褒める気なんか一切無いってわかってるはずなんだがな」
ルルーシュは忌々しげに吐き捨てる。
たしかにルルーシュはC.C.に対していくらかの疑念を抱いている。現時点でこそその重さは彼女を用いる利益を上回っていないものの、永遠に天秤がひっくり返らないとは言い切れない。
一歩間違えばマオの甘言に乗せられて今日切り捨てるべきとの結論を下していたかもしれなかった。
なんにせよ、そうなったときに困るのが魔女の扱いだ。
ルルーシュたち兄妹の秘密を知っているからには、そのまま放り出すことはできない。不死身ゆえに殺害は不可能。拘束しようにも、マオにも指摘されたとおり、黒の騎士団は監禁には使えない。
重石をつけて海に捨てるだとか、コンクリートに生き埋めにするだとか、そういった手段が打てるかどうかといったところだ。
これにしても相手は得体の知れない力を持つ魔女である。監視できない状況では何らかの手で抜け出してこないとも限らない。ルルーシュとシンジュクで接触したときも、C.C.はテレパシーのようなもので呼びかけてきたのだ。あれが他の人間に届くだけでアウトだ。
その現状を鑑みると、マオに引き渡すというのは間違いなく一つの手ではあった。
「――ルルーシュ、キミは必ずC.C.を排除したくなるよ」
「大した自信だな」
「まァね」
マオは愉快そうに笑むと、自分の頭を人差し指の先で叩く。
「ココに入っている情報を一つ出すだけで、キミはC.C.を見限るはずさ」
「だったら今出したらどうだ? 自信あるんだろ」
「そうしたいのは山々なんだけどね、もう時間切れみたいだ。人が来る」
コンテナの角まで歩き、マオは一度振り返る。
「やっぱり興味を持ってくれたね。じゃァあとで電話でもするからさ、ちゃんと聞いてよ。――またね、ルルーシュ」
既に策が成功した後であるかのような嬉しげな声を残し、白髪の少年は夜の闇に消えていった。
遅れてやってきた歩哨は二人だった。軍人たちは白いコートをなびかせて逃げた人影と残された死体とを見比べて事情を聞きだそうとしてくる。
「忘れろ」とギアスを掛けながら、ルルーシュは知り合ったばかりの少年のイヤらしい笑顔を暗中に幻視していた。
◆◇◆◇◆
ルルーシュがクラブハウスの自室エリアに帰りついたとき、時計の短針は十二近くを差していた。
玄関の扉を閉めると、奥から電動車椅子に乗った妹がやってくる。
「おかえりなさい、お兄様」
「ただいま、ナナリー。こんな時間まで起きてたのか?」
「もう、お兄様の方が私が寝るまでには帰るって仰ったのに。だから眠れなかったんですよ? 反省してください」
「ごめん、悪かったよ。ちょっと変なのに絡まれてさ」
「え……大丈夫でした?」
「ああ。何も無かったよ」
心配そうな表情をするナナリーの頭を、ルルーシュはそっと撫でる。柔らかい髪越しに伝わってくる体温を感じると、ひどく温かい気持ちになった。
「少し気分が悪くなった程度。ナナリーの顔を見たらそれも全部吹き飛んだ」
「まぁ、お兄様ったら」
ナナリーは安心した様子でくすぐったそうに笑う。そして入り口に顔を向けると、かわいらしく小首をかしげた。
「あら? C.C.さんはいらっしゃらないんですか? 出て行くときはご一緒でしたよね」
「ああ。途中で別れてさ。あとで帰ってくるよ」
「喧嘩でもしました?」
「まさか。心配することないよ。いつもどおり仲良くやってる」
優しく微笑みかけ、ナナリーを促してリビングに入る。
茶を入れようとすると、ポットのお湯が少し冷めていた。温めなおして二人分のティーカップを用意する。二人で向かい合ってテーブルに付き、紅茶が一杯無くなる分の時間だけ談笑した。
本音を言えばあまり体の強くないナナリーには早く寝て欲しかったのだが、自分のせいで長起きさせてしまったという負い目もあった。純粋に妹と話すのが楽しかったというのももちろんある。
C.C.が帰るまでと渋る妹を寝かしつけ、それからルルーシュは不自由な片手でシャワーを使った。
寝間着に着替えて湯上りの牛乳を飲んでいると――骨折した際ミレイに飲むと言ってしまってから、なんとなく毎日飲んでいる――玄関の扉が開いた。リビングに顔を出したのはライトグリーンの髪をしたおなじみの少女である。
C.C.はルルーシュの方を一瞥するなり、フッと小さく笑った。
「似合わんな、それは」
「帰って早々何だ?」
「客観的に見てみろ。ブリタニアをぶっ壊すと息巻いている黒の騎士団のトップが、パジャマで牛乳を飲んでいるんだぞ? 滑稽極まりない」
「そっくり返すぞ魔女め。何百年生きたのか何千年生きたのか知らないが、悠久の時を生き続ける神秘の結晶が、ピザ無しには生活できないってのは何だ?」
「わかっていないなルルーシュ。美人は何を食べても絵になる。だがいくら美男子だろうと、テロリストの親玉がパジャマで牛乳を飲むのは明らかにおかしい」
そう言われてみれば一理あるような気もしてくる。
ルルーシュは憮然となって浴室をあごで示した。
「とにかく。さっさとシャワーを浴びて来い。その後で報告を寄越せ」
「覗くなよチェリー」
「いいからとっとと行って来い!」
怒声を受け流し、C.C.は悠々とリビングを出て行く。その後姿を見送ったルルーシュは、コップを片付けてから自室に入った。
ソファに深く背を預け、考える。
C.C.のこと。彼女との関係を。
(……俺とあいつは、単に契約を結んだ、それだけの間柄だ。互いの利害が一致しているからという一点だけを理由に、今の共同生活、共犯関係が成立している。とは言え――)
ルルーシュは認めていた。
小憎らしい性格ではあるものの、C.C.とのやりとりにいくらか安らぎを感じている自分がいる。
もちろん常に笑顔で付き合えるような間柄ではない。軽率な行動を嗜めねばならないこともある。傍若無人な振る舞いに腹の立つこともある。
それらのマイナス面も含めて、なんと言うか――日常の一コマになりつつあるのだ。
ナナリーにしてもそうだろう。妹の場合はルルーシュとは違い、純粋に朗らかな関係を築けているようだ。
C.C.はもうナナリーにとって、家族とまでは行かないものの、それに近い距離感の人間になっている。同じ屋根の下で暮らしているのだ。当然の帰結といえる。
C.C.が居なくなったらナナリーは悲しむだろうか。いや、確実に悲しむ。
そしてどのような説明を行ったとしても、「仕方ありませんね」と気丈に微笑むのだ。どこか寂しさを滲ませた表情で。
ルルーシュにはその様がリアルに想像できる。
それを思えば、怪しいという印象だけでは圧倒的に弱い。切り捨てるにはデメリットの方が大きすぎる。
よほどのことがない限り、そこは覆らない。
(だとすれば、マオの言う『情報』ってのは、いったい何だ?)
想定できるものはそれほど多くない。かといってルルーシュの中からは絶対に出て来得ない秘密が無いとも限らない。
結局のところ、深く検討することにあまり意味は無かった。この件に関してはマオからの連絡を待つほか無い。
今後の活動とC.C.とのことを考えながら時間を潰していると、やがてテーブルに置いた携帯電話がバイブレーションで着信を伝えた。
ディスプレイに表示された発信者の欄は非通知になっている。
(――マオか)
時間が時間だ。おそらくはそうに違いない。
あの少年は去り際に『あとで電話でもする』と言っていた。番号はギアスで頭から抜き取ったのだろう。
「――どうした? 出ないのか?」
ルルーシュが無機質に震える携帯を見つめていると、部屋の扉が開いた。C.C.がタオルで髪を拭きながら入ってくる。
「相手はわかってる。電話を取ればあっちの思う壺だ」
音声のみでの通信というのはマオにとっては強い武器だろう。電話に出た側は声の調子からしか心理を読むことができず、対するマオは一方的にギアスで心の本音を聞くことができる。
自らの不利を理解しているがゆえに、ルルーシュには電話での会話に応じる気がなかった。
おそらくそういった考えも筒抜けになっているのだろうが、それでもこうして今、電話は掛かってきている。
これが何を意味するのか。
それはこちら側の優位性である。
ルルーシュはそう考えた。
マオはなんとしてでも情報を与えねばならないと考えているのだろう。そう認識しているからこそ、電話に出る気がないとわかっている相手に対して電話を掛けるというアクションを起こさざるを得なかったのだ。
その判断は正しい。
実際、今夜中にマオの動きが見られなければ、ルルーシュは明日の朝からでも彼の抹殺のために動くつもりでいた。
現時点ではC.C.を排除する必要性を感じておらず、よってマオの言う『監禁場所』に用は無い。生かしておくメリットはそう大きいものではないのだ。
対して彼の持っている情報は非常に危険だ。既にルルーシュたち兄妹の素性を知られている。それだけで消えてもらうには十分な理由となる。
マオとしてはこの評価を逆転させねばならないのである。
掛かってきた電話一本から相手側の事情を推測し、ルルーシュは心の中で呼びかけた。
(マオ、聞いているか。今お前は俺の半径五百メートル以内にいるはずだ。そして何か決定的な情報を流し、それを受けての俺の思考を読もうとしている。だから俺は聞かない。どうしても話したかったら今から五分間だけ留守電にしておいてやる。そこに入れろ。気が向いたときに確認する)
少しするとテーブルの上で鳴っていたバイブ音が止んだ。ルルーシュは電話を手に取り、留守録をセットする。
「何をしているんだ?」
「さてな。全部俺の妄想で終わる可能性も無くはないが――予想が正しければすぐにまた掛かって来るはずだ」
テーブルに置き直した携帯電話を眺めること数秒。先ほどまでと同じバイブレーションの音が室内に反響した。ほどなくして留守番電話の応対が始まる。
「どうやら読みが当たったらしい」
ルルーシュはにやりと笑んで不死の魔女へと視線を向けた。
「――C.C.、明日は少し遠出しようと思ってる。付き合え。今のことはそのときに説明する」
◆◇◆◇◆
租界内の寂れた路地裏。
街灯は無く、前方遠くに見える大通りの明かりが、人気の無い小路によりいっそうの物寂しさを与えていた。
暗がりの中でピッという電子音が鳴る。ほとんど同時に石壁を蹴り付ける乾いた音が響いた。
「ふざけやがってあのガキ……!」
歯軋りをしながら手に持った携帯電話を握り締めるのは、白髪をした東洋人の少年――マオであった。
留守録に話しかけている間は何とか平静を取り繕うだけの理性を保てていたものの、もはや限界だった。
ギアス越しに聞こえてきた、こちらの内面を見透かすようなあの言葉。
「ふざけやがって、ふざけやがって……! こっちがその気になればオマエを殺すことなんて簡単なんだぞ……!」
搾り出すような声で呪詛を吐く。誰にも聞かれることのない歪んだ心情は暗闇に吸い込まれて消えていく。
苛立ちは最高潮だった。
先ほどルルーシュの策に乗せられてしまったのが直接的な原因である。しかしそれ以前に、マオはここ最近常に胸に燻る不快な物を感じ続けていた。
それは『面倒な感じ』である。
そもそもマオがエリア11に来たのは、港でルルーシュに語ったとおり、C.C.の身柄を欲したためである。
その理由は復讐などというものではない。本人としてはもっと崇高な、愛とも呼べる想いによる行為だと信じている。
ただ、実際のところその感情はひどく幼稚なものだ。恋情と呼べるものでも、愛情と呼べるものでもない。友情ではありえないし、家族に対する親愛であるかも怪しい。
マオという少年は幼い時分にC.C.と契約し、思考を読み取るギアスを手に入れた。
以来、他人との正常な精神交流というものをほとんど行っていない。なまじ人の考えがわかってしまうがゆえに、その考えを生み出す根本にある想いにまで思索を巡らすことが無いのだ。その状態のまま今の歳になってしまった。
だから、彼の感情に対する考察には結果しかない。過程が抜け落ちている。
例えば『Aという人物がBという人物からプレゼントを貰ったら嬉しい』。こういった事例があった場合、普通なら『AがBに好意を抱いているのだろう』といった推測が働く。その前提があって初めて、プレゼントが意味を持つからだ。
マオはその過程を考察することが無い。なぜなら、好意の有無など考えずとも、誰に何を貰うのが一番嬉しいのかという最終地点が読めてしまうのだから。
他人に対してそのような交流の仕方しかして来なかった彼は、当然ながら自らの中にある感情もあまり発達していない。
C.C.に対しては『好き』だから『欲しい』。この程度である。本人的にはいろいろな言葉で修飾することも可能だが、そこに実感が篭ることは無い。
その『好き』にしても、周囲の心の声という雑音に四六時中悩まされ続ける環境で、唯一ギアスの効かない『静かな』相手だったから、という点も大きく関与している。
彼の精神は恋愛感情が芽生えてくるほど成熟していないのだ。
ともかく、C.C.を欲したマオは彼女の足取りを掴んでトウキョウ租界に来た。
そのときまでは良かった。小躍りしそうになるくらい心が晴れ渡っていた。彼女と深く関わっている人間を全て殺してしまえばそれで事足りると簡単に考えられていたからだ。
それで望みは叶うと。再びC.C.と一緒の暮らしができると。そのために別荘まで買ったのだ。
白馬の王子様よろしく彼女を誑かした悪人から颯爽とC.C.を救い出し、二人だけの世界へ行く。それがマオの計画だった。
それがおかしくなり出したのは、クラリスという少女の存在を知ったときからだった。
どういった現象によるものかは不明ながら、彼女は明らかに常識はずれの存在だった。あの少女は自分が生まれていない場合の世界――いわゆるパラレルワールドというやつの知識を持っているのである。
始めは単なる妄想かとも思ったが、それにしてはあらゆる事象が現在の状況と合致しすぎていた。結論として、マオはそこから得られる情報が真実であると判断した。
「……あれが無ければルルーシュなんて今すぐ殺してやるっていうのに」
アッシュブロンドの少女の顔を脳裏に描き、呪うように呟く。
クラリスの頭の中を読んでしまって以降、マオはC.C.が無条件に自分を一番に好いてくれているとは信じられなくなっていた。
あの『知識』では、最終的にルルーシュに味方したC.C.がマオを殺している。認めたくはなくとも、C.C.が二人を天秤にかけた場合、ルルーシュを選んでしまわないとは言い切れない――そう理解してしまっていた。
ゆえに、今の彼には単純に障害を排除してしまえばいいという考えを結論とすることができない。
ルルーシュを殺害した自分を、もうC.C.は見てくれないかもしれない。その懸念があるからだ。
ならばどうすればいいのか。
思いついた策は一つだった。
――ルルーシュの方からC.C.を捨てさせる。
そのためにいろいろと画策して動いているのだが、回りくどい手というのは成果が実感できずどうにも面倒だった。
後一歩のところにC.C.が居るというのに手を差し伸べられない苛立ちもある。
「……でも、それももう少しだ。待っていてC.C.。今迎えに行ってあげるから」
想い人の名を口にして、ようやくマオは多少心の安寧を取り戻した。目を閉じて、耳につけたヘッドホンからの音声に集中する。
『そうだ、マオ。安心しろ、マオ――』
そう、焦ることは無い。
電話に録音された情報を聞けば、ルルーシュは絶対にC.C.を許さない。彼女はもうすぐ自分の許にやってくる。
それは既に確定しているのだ。
『よくできたな、マオ。気にするな、マオ。そばに居てやる、マオ――』
永遠にループする理想の女性の声を聞きながら、マオは暗闇でいやらしく唇をゆがめた。
◆◇◆◇◆
ルルーシュは翌日C.C.を市街に連れ出した。以前は軍に追われている身であまり出歩くなと言っていたものだが、ゼロの代役などで外出が必要不可欠となった今では、その言いつけも無かったことになりつつある。
別段目的地も無く数十分ほど街を歩き、適当なところでタクシーを止めた。
「どこへ行くんだ?」
「特に決めてない。とりあえずは適当に走って、最終的にはどこかの駅だろうな」
C.C.は怪訝な顔をして車に乗り込む。
何の説明もしていないのだから当然だ。
これはマオのギアス対策だった。
半径五百メートル以上を追跡不能な速度で移動する。そうすれば少なくともリアルタイムで思考を読まれる心配は無くなる。それほどタクシーの通りが多い地区ではないから、仮にマオが跡を付けていたとしてもこれ以上の追跡は不可能だろう。
さらに念のため、駅に着くなり一番発車時間が近い列車に乗り込んだ。どうやらトウキョウ租界を離れシズオカ方面に行く路線のようだった。
一番後ろの車両から乗客の顔を確認しつつ前の車両へと進んでいく。先頭まで来ると人の姿はかなりまばらになった。
公の交通機関を利用するのは主にブリタニア人だ。トウキョウに比べて再開発の進んでいない旧日本の市街へとわざわざ足を運ぶような者はなかなかいないのだろう。
「――大丈夫のようだな」
結局、懸念していた東洋人の少年の乗車はないようだった。閑散とした車内のボックス席にC.C.と向かい合って座り、ルルーシュは一つ息を吐く。
「やっと落ち着いて話ができる」
「何なんだいったい? 随分と警戒していたみたいだが」
訝しむC.C.に、ルルーシュは端的に答えた。
「マオという奴が来てな、お前が欲しいと言ってきた。俺の前の契約者だそうだな」
「マオが――?」
C.C.の眉が小さく撥ねた。
「その反応。やはり知らなかったか」
「ああ。初耳だよ。あいつがエリア11にいたなんて」
昔の知り合いの話だというのに、大して心を動かした様子もない。もっともそれが本心なのか単なるポーズなのかは、ルルーシュには判断が付けられなかった。
C.C.は一つ頷き、得心が行ったという風に続ける。
「なるほどな。ならこの行動も頷ける。ギアスの有効距離から逃れるためか」
「あいつのギアスは強い。特に俺との相性は最悪だ。正直、効果範囲に居たままじゃ勝負にすらならないだろう」
頭で戦うタイプの人間では後手に回らざるを得ない相手だ。ルルーシュはその中でも筆頭である。どうやっても思考を空っぽにできない。常に先の動きが読まれてしまう。
「そうだろうな。それで、どうするんだ? 作戦会議か?」
「その前にC.C.、お前に少し話がある」
ルルーシュは真剣な顔になって契約者の少女を見据えた。
無論マオ対策を練るのも重要だが、それより先に今ここで言っておかねばならないことがある。
「マオはギアスについて有益な情報をくれたよ。使い続けるうちにこの力はオンオフの切り替えが効かなくなるんだってな」
C.C.は窓に目をやり、重そうに口を開いた。
「……使ううちに、ギアスはその力を増して行く。克服できない者は自らの力そのものに飲み込まれていく」
「なぜ黙っていた?」
マオとの会話は元々ルルーシュの中にあった疑念を掘り起こしただけだ。魔女に対する不信は植え付けられたものではない。元からたしかに存在していたのだ。真っ向から向き合っていなかっただけで。
紫の瞳が射抜くように端正な少女の顔を見つめる。
ルルーシュの問いに返答はやってこない。契約者の少女に表情は無かった。ただ無言で、流れる景色を眺めている。
「フン、またお得意のだんまりか。ならこっちから言ってやる。お前は俺にギアスを使わせたかったんだろ」
C.C.は逡巡するような間を持たせ、やがてわずかに目を伏せた。
「……ああ」
「それが俺を破滅させると知っていて」
「……そうだ」
「魔女め」
呟くように口にしたとき、C.C.の顔にかすかな痛みのような感情が走ったように思えた。しかしそれは一瞬で消え落ち、後に残されたのは能面のように無感動な、死人めいた顔だった。
だからというわけではないが、ルルーシュはさして間を空けずに告げる。
「一つ言っておく。俺はお前が信用できない。今のこの関係は単なる利害の一致の上に成り立つだけのものだ」
「……だろうな。わかっているさ。私は魔女だ。信用されたいなどとは始めから思っていない」
自嘲気味に発せられた声。その言葉尻にかぶせるようにして、ルルーシュはさらに言った。
「だが、それでも――」
ルルーシュはこの先もギアスを使う。たとえそれが自らを破滅させるものだとしても。
元より何のリスクも無しに手に入る力だとは思っていない。契約時からそれは薄々感じていた。
そう、最初からそうなのだ。
信用など無いまま始まった関係がいつの間にかここまで延びていて、そして信用など無いまま、いくらか距離が縮まっていた。
だから、それでいいのだろう。
「――それでも俺は、この薄氷を踏むような関係が、少しでも長く続けばいいと思っている」
C.C.はハッとまぶたを上げた。金色に輝く琥珀の瞳がかすかに揺れている。
先ほどとは打って変わった、人間味のある表情だった。
目元が柔らかく細められ、唇に柔和な笑みが刻まれる。
「……そんな風に言われたのは、初めてだよ」
C.C.は嘘をつかない。ならばこれは本当なのだろう。
不器用な奴だと思う。ずっとこうしていられればもっと別の生き方もできるだろうに。
ただ、そういったところも含めてのC.C.だ。それで構わない。それで十分でもある。変化を促すような間柄ではないのだから。
「可愛げが無いからだ。俺だってナナリーがいなきゃこんなことは言わない」
「ひねくれているからな」
「お互い様だろ」
小さく笑みを浮かべ合い、どちらからともなく打ち消す。
しばし会話はとぎれ、二人の間にはガタンゴトンという列車の音だけが響いていた。
旧日本時代に敷設されたレールの上を走る車両は、一定のリズムで心地良い振動を与えてくる。
そうしてしばらくの空白の時が過ぎ。
ルルーシュは足を組んで背もたれに身を預けた。
「さて、本題に戻るぞ」
「マオのことだな」
「ああ。あいつは俺たち兄妹の情報を知りすぎている。できるだけ早く手を打っておきたい。そのためにはギアスの効かない人間の――お前の協力がいる」
真剣な眼差しを送るルルーシュの目を、C.C.はしっかりと受け止める。
「いいだろう、手伝ってやる。しかし、それで何とかなるのか? お前もさっき言っていた通り、マオのギアスは強い」
「出し抜く方法はある。あのギアスは作戦を練る立場の人間が持つべきものじゃない。四六時中雑音に悩まされてるんだ。どうやったって集中力は乱れる。俺だって同じ状況になったら判断をしくじるかもしれない。付け入る隙は必ず生まれる。――それともう一つ」
思考を読むという力がもたらす情報はたしかに強い。個人と個人の戦いでは無類の強さを発揮するに違いない。
だが戦術と戦略は違う。巻き込む対象を広げていったときには、分析力というものが必要不可欠になってくる。その点においてマオには限界がある。
「あいつのギアスは心を読む。その能力自体に避けようのない落とし穴がある。真実の声が聞こえてしまうせいで、相手の心理を疑う必要がない。その時点で既に、奴からは情報を分析するための一番身近な機会が失われている。幼少期からそんな状態に置かれているんだ。健全な頭脳を要求するのは酷というものだろう」
「ということは、お前が言いたいのはつまり――」
「マオの思考能力は子供と同じだ。あいつの頭は策略を巡らせられるようにできていない。そうじゃなきゃこんなポカはやらなかったはずだ」
言ってポケットから携帯電話を取り出す。ディスプレイには留守録機能に伝言が残っている旨を示すマークが表示されていた。
「昨日の電話はマオからだったのか」
「ああ。あいつがなんとしてでも伝えたがっていた情報だ。これを教えることで俺に何らかの行動を促すつもりだったんだろう」
相手は思考を読めるギアス能力者だ。無策に自分の手の内をばらしたのではあるまい。何の保険も無しにそんなことをすれば秘密の露見を恐れるルルーシュに命を狙われるであろうことは簡単に想像がつくはず。
となれば、この電話に入っている情報こそがその抑止力になり得る力を秘めているのだ。
「要はマオにとっての一番大きなカードだ。ならばあいつはどんな手を使ってでも直接俺に聞かせるべきだった。ギアスの有効範囲内で。だがマオは焦って判断ミスをした。おかげで俺はノーリスクでこの札の中身を見ることができる」
マオのギアス勢力下で耳にすれば危うかったかもしれないが、反面、思考を読まれる危険性の無い場所で対応策が練られるのであれば、こちらの強力な武器になる。
ルルーシュは一つボタンを押し、スピーカーを耳にあてた。すぐに再生が始まる。
『ルルーシュ、ボクの負けだよ。たしかにこの情報はなんとしてもキミに伝えたかった。じゃなきゃボクの命が危ういし、その前に、これが言いたくてキミと接触したんだ』
特徴的な粘っこい喋り方は間違いなくあの白髪の少年のものだった。
『もしこれを聞いてC.C.を切り捨てるべきだと判断したら、ボクが回収しに行ってあげる。あぁ、受け渡しのときには拘束してどこかに放置してもらえるかな。こっちがC.C.に殺されるなんてイヤだから。ギアスの効かない相手って言うのは厄介でさ』
留守電ってのは短いんだよね、前置きはこれくらいにして本題に入るよ――。
電話から漏れる声はそう話す。ここからが重要な部分なのだろう。
『――C.C.はキミの妹を巻き込んでるよ。クラリスを』
ルルーシュの瞳が驚愕に見開かれた。
『彼女はキミの次の契約者だ。もちろんキミのときと同じく、いずれ破滅するような力だなんて情報は与えられていない。もしかしたらいずれナナリーも巻き込まれるかもね』
衝撃をやり過ごす暇も与えずに、録音された声はなおも信じ難いセリフを吐き続ける。
『そしてもう一つ。C.C.はクラリスにゼロをやらせている。ルルーシュだっておかしいと感じていただろう。いくらキミのためだからって、C.C.はマニュアルを覚えるなんて面倒なことをしたりする女じゃない。やってたのはクラリスだ。そう、彼女は何度も危険に晒されている。キミの知らないところで。C.C.に乗せられて』
我知らずごくりと喉が鳴った。心臓がドクンドクンと脈打っている。手のひらにじっとりと汗が滲んでいた。
『最後に、これを知ったことをクラリス本人に気付かれちゃいけない。彼女のギアスは記憶を消す。回数制限は無い。だから使うのを躊躇わない。それは身内に対しても同じ。キミとは違ってね、ルルーシュ。消されちゃうよ、キミの記憶も』
視界が黒く染まる。
それで自分が目を閉じていることに気づいた。
様々な事柄が瞬時に脳裏を巡る。
もたらされた情報。その意味。利用価値。己の取るべき行動。
『話はこれで終わり。どう動くかは任せるよ。ただ、さっきも話したとおり、監禁ならボクが責任をもってやってあげる。場所だってもう用意してあるんだ。期待してるよ』
その言葉を最後に、ピーと録音終了を示す電子音が鳴る。
ルルーシュはまぶたを降ろしたまま、携帯電話をポケットにしまった。
深呼吸をする。
そのまま数秒。
まぶたの裏に最後に浮かんだものは、『そんな風に言われたのは初めてだ』と微笑んだ、最前のC.C.の顔だった。
やがてルルーシュは目を開けた。
「……状況が変わった。マオへの対応策を練る前に、お前に確認しておかなきゃならないことができた。黙秘は許さない。必ず答えてもらう」
正面を見据えるルルーシュの瞳にはギアスの輝きが宿っている。
魔女を相手に意味が無いなどということはわかっている。それでも抑えられなかった。
絶対に真実を聞き出さねばならない。
「――C.C.、お前はクラリスと契約したのか」