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No.7405の一覧
[0] デビルサマナー フラクタルカレーション(女神転生シリーズ世界観背景のオリジナル)[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/10/25 15:08)
[1] 第一話 日常と非日常のハザマ[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/04/11 13:56)
[2] 第二話 悪魔召喚師―デビルサマナー[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/03/18 16:03)
[3] 第三話 Suicide repeated beforehand[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/04/11 13:54)
[4] 第四話 始動―しどう―斯道[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/04/25 13:21)
[5] 第五話 それは何時も突然で[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/05/06 14:40)
[6] 第六話 感応――他者の存在に確立される世界[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/05/24 15:42)
[7] 第七話 He doesnt become the hero.[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/09/14 14:05)
[8] 第八話 独り言に要注意[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/07/26 15:57)
[9] 第九話 止まった時間と置き去りにされた時間と[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/09/14 14:06)
[10] 第十話 追憶――あなたを忘れない[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/07/12 15:21)
[11] 第十一話 力と正義[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/10/25 15:10)
[12] 第十二話 アンデッド――死に損ない[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/08/23 16:44)
[13] 第十三話 ファントム――世紀末の亡霊[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/08/23 16:43)
[14] 第十四話 通りゃんせ[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/09/06 14:50)
[15] 第十五話 不繋鎖[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/09/27 14:46)
[16] 第十六話 状況開始[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/09/14 14:06)
[17] 第十七話 月下美人[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/09/14 14:07)
[18] 第十八話 決意[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/09/14 14:10)
[19] 第十九話 愛別離苦[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/01/21 14:26)
[20] 第二十話 二つの儀式[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/01/21 14:25)
[21] 第二十一話 七人ミサキ[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/04/27 13:18)
[22] 第二十二話 死刻[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/04/27 13:17)
[23] 第二十三話 目覚め[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/09/14 14:04)
[24] 第二十四話 真夏の夜の夢[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/25 12:46)
[25] 第二十五話 からから廻る[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/02/09 10:50)
[26] 第二十六話 光陰[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/02/25 09:28)
[27] 第二十七話 今[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/02/28 21:31)
[28] 第二十八話 血と水は混じり合い夜を駆ける[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/12/29 20:42)
[29] 第二十九話 魔王[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/12/30 19:09)
[30] 第三十話 吸血鬼[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/01/03 15:17)
[31] 第三十一話 吸血姫[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/01/26 15:27)
[32] 第三十二話 ファントム――群体[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/12/29 21:42)
[33] 第三十三話 デジタルデビルチルドレン[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/12/30 00:50)
[34] 第三十四話 復讐――やつあたり[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/12/31 22:35)
[35] 第三十五話 紫苑――アスタータタリクス[ガタガタ震えて立ち向かう](2014/01/02 15:01)
[36] 第三十六話 遺志[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/01/03 13:43)
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[7405] 第三十一話 吸血姫
Name: ガタガタ震えて立ち向かう◆7c56ea1a ID:e9b77304 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/26 15:27
「ほりゃあ!」

 十文字槍が呻りを上げ、ワードッグが三体まとめて切り裂かれる。
 それを見届けることなく、十文字槍を持った僧侶――小埜リショウはワードッグの群のど真ん中に踏み込み、槍を振り回して敵を蹴散らしていく。

「……どこの無双武将だ」

 その様子を、息子であるリカイは呆れながら見つめていた。
 両手に拳銃を握ってはいるが、リショウが敵中のど真ん中に居るため迂闊に撃てない。もっとも、あの親父なら銃弾程度槍で弾きそうだが。

「ほんに、小埜はいつ見ても豪快な戦い方やねぇ。リカイちゃんはやらんの?」
「あんな真似できるか……」

 不意に声が聞こえて振り返れば、巫女服をまとった老女――金凪ハヅキが居た。そしてその後ろから追従してくるのは孫の金凪ヤヨイ。しかしそのヤヨイに、リカイは胡乱な瞳を向ける。

「……何で頭に狸が乗ってんだ?」
「え……? まだ乗ってないの?」

 何がだよ。てか乗るのかよ。
 そんなつっこみは口にせず、リカイはハヅキへと視線を向ける。
 このヤヨイという少女は、口数が少ないので話が通じない事が多い。頑張って会話を成立させようとしても、リカイの気の短さとヤヨイの弱気っぷりが見事にマッチして、傍から見ると苛めているようにしか見えないのだ。
 そのためリカイはヤヨイとあまり長く話さないようにしている。

「お袖さんの眷属みたいやねえ。堀の内が敵に襲われとるってしらせてくれたんよ」
「お袖さん?」
「……八股榎大明神」

 相変わらず説明不足なヤヨイは置いておいて、とりあえずどっかの神様らしいとリカイは納得する。
 そこへリショウがワードッグの殲滅を終えて戻ってきたのだが、その姿を見てリショウは再び胡乱な目を向ける。

「……何で頭に狸が乗ってんだ?」
「お袖さんの眷族やな。ヤヨイちゃんにも乗っとるやろ」
「だから何でわざわざ頭に乗るんだよ!?」

 剃髪されたリショウの頭に必死にしがみついている狸。
 頭に乗らないと伝言ができないのか、それともやはり意味は無いのか。

「そろそろ犬面も打ち止めみたいやし、本丸に敵が来とるなら戻った方が良さそうですなぁ」
「結界が乗っ取られとるなら、小埜の出番やね。結界は坊主の専門でしょう」
「難しいですなあ。アレは二百年ものの結界やし、敵さんもよう乗っ取れたもんです」
「壊すだけならどうとでもなるだろ。早く行こうぜ」

 リカイがそう言って歩き出そうとしたが、何かが近付く気配を感じ取って足を止める。

「……囲まれてる」

 ヤヨイが呟くと、計ったように犬面たちが現れた。
 知性を感じさせない、ただ殺戮本能に支配された目が四人を凝視している。

「こっちも放っておけんしなあ。堀の内は赤猪さんに任せますか」
「また犬の相手かよ。勘弁してくれよ」

 リショウが槍を構え、理解が愚痴を漏らしながら銃口をワードッグたちへと向ける。
 深山長い夜は未だ明けそうに無かった。





「おまえは……何だ?」

 目の前の少女に、知れず九峨は疑問の声を漏らしていた。
 悪魔にしても異様。アッシャー界への定着に贄が必要だったとしても、人の体をそのまま己の体に作り変えるなど、無駄が多いし趣味も悪い。

「私はミラーカ。いえ、カーミラの方が貴方たちには通りがいいかしら」
「……吸血鬼か」

 敵を認めた九峨が構え、アキラたちも各々の武器をカーミラへと向ける。しかし一方のカーミラは、さもおかしそうに笑っている。

「私は貴方たちと戦うつもりはないのよ。私と貴方、戦う理由があって?」
「ふざけるなよ吸血鬼。おまえを野放しにする理由がどこにある」

 戦わないと言うカーミラに、九峨は戦いが不可避である事を告げる。
 実際にこれまで多くの少女を餌食にしてきた吸血鬼を、見逃す道理は存在しない。

「まあ恐い。だけど私は何も悪い事はしてないわ」
「人を殺した」
「だから? 人を殺す私が悪なら、人間だって人を殺すわ。それとも貴方は、悪魔を殺して平気なの?」

 その言葉が、アキラの心に楔を打った。

 まだ決意を固めていなかった頃、アキラは悪魔を殺す事に躊躇いを感じた。
 例え敵であっても、生物を殺す事に生理的な嫌悪を覚え、健全に育まれた倫理が悲鳴をあげた。

「ふふふ。フカミアキラ……だったかしら。貴方は優しいのね。私みたいな化物ですら理解して、許容して、受け入れて、そして傷付いてしまう」

 カーミラはアキラへ視線を向けると、その胸の内を見透かしたように笑った。

「この子も人を殺したわ。この子にとって大切な人。彼女の体を自分の心と一緒に切り裂いて、涙も流せず哭いていた。そんな彼を、貴方は悪だと罵るの?」
「……仕方が無い事だ」
「そう仕方ない。そう言って人はどうにもならない現実に、抗えない運命に蓋をして逃げるの」

 愉しそうにカーミラは言う。謳うように笑って言う。
 それを遮るように、九峨が踊りかかり、手刀を振るった。

「何!?」

 しかしカーミラは、手刀をすり抜けて影のように消え失せてしまう。

「生きるという事はそういう事なの。犠牲が無ければ人は生きられない。そして犠牲には血がつきものだわ」

 姿は無いのに声だけが響く。
 影と一体になったカーミラの姿は、この暗闇の中では消えているに等しい。
 誰もがカーミラを探し、視線を巡らせる。

「そこに善も悪も無い。みんな誰が作ったかも知れない掟に縛られて、人形みたいに踊ってる」

 だがアキラには見えていた。目で見えずとも、心の目でカーミラの姿を捉えていた。
 だから突然目の前に現れて、口付けのできそうな距離から顔を覗き込まれても、アキラは驚きもせずカーミラを見返していた。

「友と歩む喜びも、愛する人と共にある安らぎも……身を焦がす怒りも、心を引き裂く嘆きすらも、全て同じものなの。人々の望む秩序と、人々の欲する混沌と、その総和である争いによって世界は輪廻する。意地悪な神様がそう世界を作ったの」

 鈴のような声でカーミラはアキラに語りかける。
 クー・フーリンが槍を突きつけ、トロールがうなり声を上げ、ピクシーが睨ねつけているというのに、それすらも娯楽であるかのように笑っている。

「もしも私が二度と人を襲わないと誓ったら、貴方は私を見逃す?」
「……それが本当なら、俺は君を見逃す」
「アキラ!?」

 ピクシーの抗議を、アキラはそっと手をあげて制した。
 カーミラの言葉が真実である確証などない。恐らくは本心で無いとアキラは気付いている。
 しかしそれ以上に、カーミラは望んでいる。アキラという青年の内を知りたいと欲している。

「……貴方は優しい人。きっと貴方は救世主(メシア)になるわ」
「メシア?」
「そんなわけ無いでしょう。アキラは普通の人間よ!」

 疑問を漏らすアキラを遮って、ピクシーが否定する。

 この世界にメシアは居ない。
 世紀末は訪れず、メシアプロジェクトと呼ばれるはずだった計画も始まらなかった。
 だがそれでも――

「世界を守る事も、世界を変える事も、貴方にはできない」

 ――救われるものがあるとすれば。

「だけど貴方は許してくれるの。神を憎みながら、神に頭を垂れて懺悔する者たち。永遠の輪廻と矛盾螺旋の中で足掻く者たちすら、きっと貴方は赦してしまう」

 そんな事は無いと、アキラは思った。
 自分はミコトをあのような目にあわせた藤棚を許せなかった。少女たちを殺したアヤメを許せなかった。
 そんな自分から、どんな許しを得れば、彼らは救われるというのか。

「彼らを知って、貴方がどんな赦しを与えるのかは私にも分からない」

 そう言いながら、カーミラは再び影となって姿を眩ませる。

「この世界は滅びなかった。貴方は一時の猶予と、甘い理想を語ることを許された」

 声は遠ざかっていく。逃げるでもなく、ゆっくりとした速度でカーミラは去っていく。

「だから、また会いましょう。滅びるはずだった世界と一緒に貴方という人が生まれたのは、きっととても幸福なことだから」

 そうしてカーミラはその場から姿を消した。


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