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No.7405の一覧
[0] デビルサマナー フラクタルカレーション(女神転生シリーズ世界観背景のオリジナル)[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/10/25 15:08)
[1] 第一話 日常と非日常のハザマ[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/04/11 13:56)
[2] 第二話 悪魔召喚師―デビルサマナー[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/03/18 16:03)
[3] 第三話 Suicide repeated beforehand[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/04/11 13:54)
[4] 第四話 始動―しどう―斯道[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/04/25 13:21)
[5] 第五話 それは何時も突然で[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/05/06 14:40)
[6] 第六話 感応――他者の存在に確立される世界[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/05/24 15:42)
[7] 第七話 He doesnt become the hero.[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/09/14 14:05)
[8] 第八話 独り言に要注意[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/07/26 15:57)
[9] 第九話 止まった時間と置き去りにされた時間と[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/09/14 14:06)
[10] 第十話 追憶――あなたを忘れない[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/07/12 15:21)
[11] 第十一話 力と正義[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/10/25 15:10)
[12] 第十二話 アンデッド――死に損ない[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/08/23 16:44)
[13] 第十三話 ファントム――世紀末の亡霊[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/08/23 16:43)
[14] 第十四話 通りゃんせ[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/09/06 14:50)
[15] 第十五話 不繋鎖[ガタガタ震えて立ち向かう](2009/09/27 14:46)
[16] 第十六話 状況開始[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/09/14 14:06)
[17] 第十七話 月下美人[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/09/14 14:07)
[18] 第十八話 決意[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/09/14 14:10)
[19] 第十九話 愛別離苦[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/01/21 14:26)
[20] 第二十話 二つの儀式[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/01/21 14:25)
[21] 第二十一話 七人ミサキ[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/04/27 13:18)
[22] 第二十二話 死刻[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/04/27 13:17)
[23] 第二十三話 目覚め[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/09/14 14:04)
[24] 第二十四話 真夏の夜の夢[ガタガタ震えて立ち向かう](2010/11/25 12:46)
[25] 第二十五話 からから廻る[ガタガタ震えて立ち向かう](2011/02/09 10:50)
[26] 第二十六話 光陰[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/02/25 09:28)
[27] 第二十七話 今[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/02/28 21:31)
[28] 第二十八話 血と水は混じり合い夜を駆ける[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/12/29 20:42)
[29] 第二十九話 魔王[ガタガタ震えて立ち向かう](2012/12/30 19:09)
[30] 第三十話 吸血鬼[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/01/03 15:17)
[31] 第三十一話 吸血姫[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/01/26 15:27)
[32] 第三十二話 ファントム――群体[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/12/29 21:42)
[33] 第三十三話 デジタルデビルチルドレン[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/12/30 00:50)
[34] 第三十四話 復讐――やつあたり[ガタガタ震えて立ち向かう](2013/12/31 22:35)
[35] 第三十五話 紫苑――アスタータタリクス[ガタガタ震えて立ち向かう](2014/01/02 15:01)
[36] 第三十六話 遺志[ガタガタ震えて立ち向かう](2015/01/03 13:43)
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[7405] 第十一話 力と正義
Name: ガタガタ震えて立ち向かう◆7c56ea1a ID:332bee0b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/25 15:10
 幽鬼ガキ――日本人ならば一度は聞いたことがあるであろう、餓鬼道に落ちたとされる、飢えに苦しむものである。
 一口に餓鬼と言っても、その種類は多岐に渡り、一切の飲食を許されないものもいれば、不浄なものや供物ならば食べることが許されるもの。または食べることは許されるが、いくら食べても飢えから逃れられないものもいる。

 その飢えに苦しむガキに、深海アキラと言う人間はどう映るだろうか。一般的に肉を食べる生物の肉は不味いとされるが、飢えに苦しむガキには些細なことだ。
 そして何よりアキラは、一般人とは一線を画す膨大な量の生体マグネタイトを保有している。ガキに限らず、悪魔達にとって深海アキラという人間は極上の美酒に等しい。

『マグネタイトォーーーーッ!』
「ッ!?」

 故にガキの一匹が、それまで貪っていた人間には目もくれず、突然跳びかかってきたのは、アキラには予想してしかるべき事だった。
 しかしアキラは、目の前で起きた突然の惨劇に思考が鈍っていたし、何より武器の選択に迷ってしまい反応が遅れることになる。

 アキラが咄嗟に抜こうとしたのは、腰のナイフでは無く左脇の銃。しかし手を途中まで動かした所で、アキラは周囲の状況を思い出してそれを躊躇する。
 日が沈んだばかりの地下街には、当然の事ながら多くの人が居た。そしてその殆どがアキラと同じように突然の事態に動くことが出来ず、その場に留まっていたのだ。今アキラが発砲すれば、流れ弾がその人々に当たるのは目に見えている。

「深海君!?」

 シオンの悲鳴のような声をどこか遠くに聞きながら、アキラは胸の前に掲げるようにして止まっていた拳を握ると、全身を叩きつけるような勢いで裏拳を放った。

『ひぎゃぁ!?』

 殆ど反射的に振るわれた拳は、しかし狙い済ましたようにガキの横面に命中し、その体を映画さながらに殴り飛ばし、そばにあった壁へと叩きつけた。
 ここで幸いだったのは、偶然ながら裏拳が全身の体重が乗るほぼ完璧な動作で放たれた事と、アキラがヒメとの訓練(見学人からの奇襲在り)の中で、戦闘中に精神感応能力を使うことに慣れていた事だろう。
 相手との距離を正確に把握するというのは中々難しい。届くはずの攻撃が届かず、避けたはずの攻撃が当たるというのは頻繁に起こりうる。
 しかしアキラは精神感応能力に引っかかった存在を、三次元の地図のようなもので把握している。
 要は周囲の居る者の座標を常に検証している状態にあり、自分と他者はもちろん、他者と他者の相対的な距離を肉眼で見なくても把握出来るのだ。

『ニンゲン……なぐった!』
『ニンゲンがなぐった!』
「……」

 アキラの存在に気付いた残りの二体が騒ぎ始め、殴られた一体が思わぬ反撃に驚いている内に、アキラは右手で銃を抜くと、壁にもたれかかったままのガキの額を無言で撃ち抜く。

『ぎゃひゅうぅ……』
「キャアアアア!?」
「じゅ、銃だ!?」

 乾いた破裂音に続いてガキの気の抜けるような断末魔が漏れ、ガクリと穴の開いた頭を垂らすと、その体は溶ける様にして崩れ落ち、次第に透けていって完全に消え去った。
 そしてその一連の光景でようやく正気を取り戻した人々が、ある者は悲鳴をあげ、ある者はガキだけでなくアキラの持つ物に恐怖を抱きながら、我先にとその場を逃れ地下街の入り口を目指して走り始める。

「深海……君?」

 しかしその中にあって、シオンは逃げ出す素振りも見せず、アキラの背後で彼を見続けていた。

「早く逃げた方がいいよ。説明しようにも、俺にも何が何だか分からないし」

 感情のこもらない声が、アキラの余裕の無さを表していた。しかしそれに気付きながらもシオンは逃げようとせず、アキラの後姿をじっと見つめて動かない。
 迷っていることがアキラには感じ取れた。だが名持シオンという女性の中でどのような葛藤があり、またどのような吟味があって残ったのかはアキラには分からない。
 ただ真っ先に狙われるのが自分だという事を幸いに思いながら、アキラは二体のガキの内の右側の方へと銃口を向ける。

『マグネタァッギャア!?』
『ニンゲンくうーーーーッ!』
「ヒゥッ!?」

 ガキ達の雄叫びと、シオンの途中で飲み込んだような中途半端な悲鳴をきっかけに、膠着していた時間が動き出す。
 新たな獲物と定めたアキラ目掛けて跳躍するガキ。しかしその内の一体は、地面を蹴る前にアキラの撃った弾丸を腹に受け、動きが止まった所にさらに二発の弾丸を頭と巨大な口の中に叩き込まれて沈黙する。

『まるかじりッ!!』
「ク……ソォッ!?」

 ガキは悪魔の中でも下位に位置するものである。だがそれでも、その身体能力は人間と比べれば脅威であり、三メートルはあった距離を一蹴りでつめ、アキラの上半身目掛けて跳びかかって来る。
 そのガキをアキラは銃を持っていない左手で殴り落とそうとするが、その拳が届く刹那、ガキのスイカすら一飲みにしてしまいそうな大口が開かれ、アキラの腕は殴ろうとした拳ごと闇の中へと飲み込まれる。

「あ……ぎッ!!」
「深海君!?」

 飲み込まれた拳に伝わるぶよぶよとした形容しがたい不快感と、ジャケットの袖越しに噛み付かれた腕に走る激痛に、アキラは悲鳴を漏らしそうなる。しかし歯を食いしばってそれに耐えると、自らの肩に足を乗せた体勢で腕に食い付くガキを睨みつけ、左腕に力をこめる。
 だがこれまでの稽古と筋肉トレーニングで逞しくなったはずの腕に、ガキの歯は容赦なく食い込み、引き裂いていく。
 それは木刀で殴られるのとは比較にならない、かつて犬面に肩を噛まれた時と同じ焼け付くような痛みと、自らの体の一部を喰われる本能的な恐怖をアキラへと刻み込む。

『にぐ……にぐー』
「つぁ……そのまま……食ってろッ!」

 その痛みと恐怖を叩き伏せ、アキラは左腕を折りたたむようにしてガキの頭を引き寄せると、そのこめかみをM19の銃口でえぐりながら引鉄をひく。 

『ギャヒュゥッ!?』
「ぐぅッ!」

 頭を撃ち抜かれてガキが大きくのけぞった所で、アキラは左腕を引き抜くともう一度銃口をガキへと向ける。だが装填されている最後の弾を撃つまでもなく、力無く地面に横たわったガキは、他の二体のように溶けるように体が崩れ落ち、徐々に透けるように消えていった。

「……はぁ」

 ガキが完全に消えるのを確認した瞬間、アキラは銃を構えたまま尻餅をつくようにその場に座り込んだ。
 カワアカゴとの戦いでも実感したことだが、殺されるかもしれない恐怖、そして自分の肉体を破壊される実感を伴った恐怖と言うのは、例え戦っている間は抑え込めても精神力を容赦なく削り取っていく。
 さらに今回は、目の前で人間が捕食されているのを目撃してしまっている。カワアカゴの時には薄かった、殺されるかもしれない恐怖を無理矢理頭に叩き込まれたようなものだ。

「……」

 アキラは無言で自分の左手を見つめる。
 厚手の丈夫なジャケットを着ていたためか、服事態は破れていない。だがその痛みやぬるぬるとした感触からして、強力な力で噛み付かれた皮膚は破れ、肉も削げてかなり出血しているのだろう。
 それをどこか遠いことのように認識しながら、先ほどガキに喰われていた人へと視線を向ける。
 血溜まりの中にあるそれは人の形を留めてはいるが、所々が欠損し物言わぬ肉の塊と化していた。わざわざ近寄って確認しなくても、死んでいるのは医術の心得の無いアキラでも分かる。

『小僧。呆けている場合では無いぞ』
「ヒ!?」
「……ベリスか」

 突然アキラの隣に現れたベリスに、シオンがまたしても小さく悲鳴を上げる。

「おまえが出てきたと言う事は、今の状況はかなり悪いという事かな?」
『その通りだ。先ほどの衝撃、どうやらこの地下街がまるごと異界に飲み込まれたようだ。元凶を見つけ出し排除せぬ限り、先ほどのガキのような低位のモノ共が際限なくわいてくるだろう』
「ならその元凶を倒せば……」
『阿呆。すぐに逃げるぞ』

 ベリスの話を聞いて行動を起こそうと立ち上がったアキラだったが、そのベリスが呆れたような声で告げるのを聞いて動きを止める。

「……この状況を放っておくのか? まだ逃げ遅れた人がいるのに」
『まさか元凶を倒せるとでも思っているのか? 人か悪魔か分からぬが、狭くは無いこの地下街を異界化させるほどの力の持ち主に、ただの人間である貴様が?』
「ッ……」

 アキラが苛立ち混じりに放った問いは、ベリスの容赦の無い問いによって潰される。
 ただの人間。その評価は様々な意味でアキラの現状を表していた。
 今までの稽古によって身体能力的には一般人に勝るが、それは所詮付け焼刃でしか無い。精神感応能力と言う異能を持っているが、それは便利ではあっても戦況を劇的に変化させるほどの力では無い。
 下級の悪魔を倒せても、上位悪魔や場数を踏んだデビルサマナー、異能力者の類にアキラが挑むなど、少しボクシングをかじった素人がいきなりプロテストに挑むようなものだ。相手が予想以上に弱いなどの幸運に恵まれない限り、それはただの自殺行為でしかない。

「だったらおまえが戦えば……」
『阿呆か貴様は。私が居なければ、貴様などここを脱出することも出来ぬぞ? 随分とらしくないではないか。大局の前に己の成すべきことを見失ったか』
「何もせずに逃げるのが、俺がやるべき事だって言うのか!?」

 明らかに嘲笑の色の見えるベリスの言い様に、激昂し叫ぶように絞り出されたアキラの声が地下街に反響する。それはベリスは勿論、ベリスの主であるヒメや同僚のアヤも見た事が無いであろう姿だった。
 深海アキラと言う青年が、声を荒げたことが無いわけではない。だがそれは驚いた時か、ヒメが何かやらかして抗議したり叱ったりする時だけだ。
 純粋な怒りのために張り裂けそうな声を上げる姿など、アキラは今まで一度も見せなかった。

 その理由の一つは、アキラが精神感応能力を持つために、周囲の人間が助けを求め、また恐怖を抱きながら意識を消失――死んでいくのを、今この瞬間にも感じ取ってしまっているためだろう。
 手の届きそうな場所で人が死んでいくのを、何もせずに黙ってみているなど、アキラには出来なかった。

『クフ……意外に良い声を出すでは無いか小僧。ああ、私には分からぬが、貴様の言い分はとても正しく気高いものなのだろう。それが勇気では無く蛮勇であることを考慮しても、貴様の主張は正しいと他ならぬ私が認めてやろう。
 だがな小僧……』

 楽しげに、まくし立てるように一息に話していたベリスだったが、途中で言葉を止めると、今までアキラへ向けていた視線をその後ろへとずらす。
 それにつられて背後へと振り向いたアキラの目に映ったのは、不安と恐怖からか顔を白く染め、だがそれでも負けるものかとばかりに目を吊り上げ、祈るように両手を組んでいるシオンの姿だった。

『……今おまえが成すべき事は、見ず知らずの人間を救うために無謀な戦いに挑むことで無ければ、自分の命惜しさに逃げ出すことでも無い。その娘を安全な場所へ連れて行く。それ以上に優先すべきことが、今の貴様に存在するのか?』
「……」

 ベリスの指摘に、アキラは何も返せずに沈黙し、何かを振り払うように首を振った。
 振り払ったのは自らの弱さに対する怒りか、それとも己の信念か。ただ一つ確かなのは、深海アキラと言う青年が、力が無ければ何もできないという事を実感したことだけだ。

「……おまえにそういう事を言われるとは思わなかったよ。ごめん名持。状況分からなくて不安だったろうに」
「……うん。このまま置いていかれるのかと思って、ちょっと焦ったかな」

 謝るアキラに冗談めかして答えるシオンだったが、彼女が本気で不安に包まれているのはその顔を見れば分かる。

『納得したのならば、妖精どもを召喚して傷を癒せ。すぐにここを移動するぞ』
「分かった。ただし逃げる途中に生きてる人が居たら、おまえが何と言おうが連れて行く」

 ベリスの言葉に頷くと、アキラは痛む左手を眉をしかめながら懐へと入れると、右のホルスターに入れていたGUMPを取り出し構える。
 そして普通の銃の撃鉄にあたる部分を操作するとGUMPの銃身が二つに割れ、続いて引鉄をひくと割れた銃身に備え付けられた画面に様々な図形と文字が表示され、悪魔召喚プログラムが起動する。

「――SUMMON OK?」

 そしてその画面に流れる文字の中に、かつてヒメが悪魔召喚プログラムを使用した時に口にしていた言葉を見つけると、アキラはそれを無意識の内に読み上げていた。

「――GO!」

 そして画面に召喚完了の文字が表示されると同時に、二つの魔法陣が空中に描かれ、その中からピクシーとジャックフロストが現れる。

『――!』
『ヒーホー! お兄さんやっと呼んでくれたホー!』

 召喚された二体は、アキラが目に入るなり喜びの色を見せる。そしてピクシーは体当たりするようにアキラの側まで飛んできて、ジャックフロストはくるりと一回転するとポテポテと擬音が聞こえてきそうな歩調でアキラに近付いてくる。

「……深海君。詳しい説明って、やっぱり後で?」

 久しぶりに会った知り合いが、銃片手に化け物を撃ち殺しただけでも驚きだろう。しかしさらにその知り合いが、見た目可愛いが明らかに人間では無いものを呼び出して、シオンは冷静にと心がけていた意識が限界突破したのか、どこか諦めた様子でアキラに声をかける。

「うん。俺もこう見えて余裕無いから、また今度にしてくれると嬉しいかな。……と、ありがとうピクシー」

 その様子にアキラは悲鳴をあげて逃げ惑った自分とは凄い違いだと思いながら、ピクシーが頼まなくても腕の治療をしてくれたのに気付き礼を言う。
 それにピクシーは誇らしげな様子を見せると、もはや定位置となっているアキラの肩へと腰掛ける。

『では行くぞ。遅れるな』

 アキラの治療が終わったのを見計らい、ベリスを先頭にして移動を開始する。
 カワアカゴの時には、最後まで手を出さなかったべリスが先陣をきっている事が、今の状況の悪さを如実に物語っていた。





「こうも見事に罠にかかったのは初めてだな」
「私だって初めてですよー」

 ともすれば聞き逃してしまいそうな九峨の呟きに、ヒメは若干呆れの見える口調で返しながらツインランスを振りかぶる。
 板の上に米、またその上に板と米という風に、備蓄米がうず高く積み上げられた倉庫内。米の壁によって出来た十字路の中央で、ヒメ達は謀られたようにワードッグの群れの襲撃を受けていた。

 ワードッグの数が予期されていたのより少ないのは、突入してすぐに誰もが気付いた。だが不思議に思いながらも倉庫内を数匹だけのワードッグを蹴散らしながら突き進み、拍子抜けするほどあっさりヒメ達と九峨達が合流した所で、突然倉庫内に隠れていたであろう全てのワードッグたちが殺到したのだ。
 しかもその数は事前に聞かされていた三十よりも遥かに多く、状況だけ見れば情報提供者に嵌められたとしか思えない。

「フゥッ!」
「ヤァ!」
『――マハザンマ!』

 だがこの状況も、ヒメを始めとしたベテラン組や仲魔達には余裕のあるものだった。
 金属板の取り付けられた手袋をはめ、ボクサーのようにステップを踏みながら拳を振るう九峨。
 美しい刃紋の輝く日本刀を両手で構え、踊るように自らの体と刀を閃かせるアヤ。
 攻撃の届かない高く積まれた備蓄米の上のワードッグへ向かって、広範囲を巻き込む衝撃波で攻撃するセンリ。

『ヌゥンッ!』
『シャァ!!』
「遅い!」

 自らはあまり動かず、近寄ってきたワードッグを手にした鎚で叩き潰すドヴェルガー。
 地を這うように素早く動き回り、手近なワードッグを斬り捨てていくヒメとベルセルク。

「――マハブフ!」
「うおりゃあぁぁぁ!!」

 そして氷結系の魔法でワードッグにダメージを与えつつ、その動きを制限するヤヨイ。両手に持った拳銃を連射するリカイ。
 どこか躊躇いのあるヤヨイと違い、ヒメに口答えしていただけはあるというべきかリカイの攻撃は思い切りが良かった。だがその様子に気づいたヒメは、一旦攻撃の手を休めるとリカイへ向けて口を開く。

「そこのガンスリンガー坊主! 無駄弾多すぎやし、弾幕張りたいなら自動小銃でも持ってき!」
「何だよそのあだ名!? つーか別に弾幕はる気ねぇし、坊主が自動小銃持ち歩くとか怪しすぎるだろ!」

 二人の言葉を聞き流しながら、ヤヨイは「茶髪僧侶が二丁拳銃な時点で変なんじゃないかなあ」と思ったが、残念ながらそこにツッコミを入れる人間はこの場にいなかった。
 もしこの場にアキラが居たら、二丁拳銃どころかリカイと出会った時点で「何で坊主が茶髪なんですか!?」とツッコミを入れていただろう。

「あーもう、うっといし! ベルセルク、ドヴェルガー、正面の敵一気に蹴散らすで!」
『マッテタゾ、サマナー』
『了解ダ召喚師殿』

 ヒメの命令に応えた二体が攻撃の手を休めて構えた瞬間、それまで攻撃を躊躇っていたワードッグ達が一斉に動き始める。
 だがそれは正に飛んで火にいる夏の虫だと、数秒後に証明されることになった。

「――マハジオンガ!」
『――マハラギ!』
『――デスバウンド!』

 ヒメの放った白い電撃の嵐がワードッグ達を飲み込み、ドヴェルガーから発せられた火炎の波が動きを止めたワードッグ達を焼き払い、ベルセルクの放った剣戟と衝撃波が備蓄米ごとワードッグ達を切り裂いた。
 後に残ったのはまるで爆風にでも巻き込まれたような惨状であり、ヒメたちの正面に居たワードッグは一体残らず絶命していた。

「ヒメさ~ん、お米が勿体無いですよ~」
「知らん。きっちり正確な情報渡さんかった黒木さんが悪い」
「責任転嫁だな……フッ!」

 アヤの言葉に開き直るヒメを横目に、九峨が放った右ストレートをまともに受けたワードッグが、顔面を陥没させて仰向けに倒れる。

『――マハザンマ!』

 そして九峨をフォローするように、センリが衝撃波で広域のワードッグたちを殲滅していく。ヒメ達のような派手さは無いものの、九峨とセンリのコンビも着実にワードッグの数を減らしている。

「よっしゃー! とっとと片付けるで!」

 一気に数を減らしたワードッグ達を、ツインランスで蹴散らしながらヒメが声を上げる。
 始まったときは圧倒的な物量差が在った筈の戦いは、少数を取り囲んでいた側が追い詰められるまでに戦況を逆転させていた。





「う……ゲホッ……」
「大丈夫深海君?」
『死にはせん。戦場で食べたものを戻すのは、戦士の通過儀礼のようなものだ』

 地下街の壁に向かって嘔吐するアキラと、それを気遣いながら背中をさするシオンと心配そうに見つめるピクシー。そしてその様子を眺めながらも、まったく心配していない様子で周囲に気を巡らせるベリス。

 地下街を逃走するアキラ達は、これまでに五度の襲撃を受け、それを全て撃退した。
 襲ってきたのはガキばかりだったが、その数は毎回五体以上に及び、ベリスの助けが無ければアキラは相手を殺しきれず、確実に殺されて彼らの腹の中へとおさまっていた事だろう。
 しかしそれ以上にアキラのストレスとなったのは、ガキ達に殺されて食われていた人間だったものの姿だった。
 ズタズタに引き裂かれ、血だけでは無く肉片すら周囲に撒き散らしているその惨状は、アキラでなくとも衝撃を受けるだろうし、吐きもするだろう。
 むしろ顔色を悪くしながらもアキラを気遣っているシオンが異常なのだが、本人に聞くと「手術の見学とかで慣れてるから」という答えが返ってきた。
 例えば交通事故、特に大型トラックなどに轢かれた遺体は凄まじい状態になるとアキラは聞いたことがある。だがそれを想像するとさらに体調が悪くなりそうだったので、無理矢理思考をそらすと気だるい体を気合で動かし立ち上がった。

「はぁ……大丈夫。まだ動ける」
『ホントかホー? 無理しちゃ駄目だホー』
『いや、生き残りたいのならば無理をしろ。ぐずぐずしていては、ガキどもより上位のものがこの場に現れかねん』

 労いの言葉もかけずに先を急ぐベリスに、アキラは文句の一つでも言いたくなったが、自分達を守ってくれていることは確かなので首をふってその言葉を飲み込んだ。
 そのときに視界に入った死体を意図的に意識の外に出しながら、アキラはピクシーを肩に乗せたままベリスの後を追い、その後ろにシオンとジャックフロストが続く。

 しかし意識の外に追い出したはずなのに、どうしても無視できない疑問がアキラの頭に渦巻いていた。
 今まで見た死体に、見覚えがあるような気がするのは何故なのだろう。知り合いの少ないアキラには在り得ない既視感が、頭の片隅にこびりついた様に離れない。

「……? ちょっと待て、そこのゴミ箱の中に何か居る!」

 もう少しで出口と言う所で、アキラはすぐ近くに自分達以外の意識があることを感じ取り、即座にその場所を把握すると近くにあった青いゴミ箱を指差す。
 調度それは人一人が入りきれるほどの大きさで、アキラが指摘した瞬間に少しだけ動く様子すら見せた。

「助けないと」
『待て、中身が人間とは限らん』

 中身を確認しようと近付くアキラを、ベリスが言外に悪魔かもしれないと示しながら止める。
 アキラはそれに相手が恐怖を感じているのを理由に反論しようとしたが、言われてみればベリスに恐怖したガキが身を隠している可能性だってある。
 確認しようと蓋を開けた瞬間に、突然襲われでもしたらたまったものでは無い。

「じゃあどうする?」
『何、簡単だ。そこのゴミ箱に隠れているもの、三秒以内に出て来い! さもなくば我が槍にて、その体を紛う方無き塵屑へと変えてやろう! 3、2、1……』
「はぁ!? ちょッ、待って!?」

 明らかに秒単位より早い間隔でカウントダウンを進めるベリス。そしてそれに余程焦ったのか、ゴミ箱の中に居た男が勢いよく蓋を持ち上げながら立ち上がり、バランスを崩したのかそのままゴミ箱ごと前のめりに倒れる。
 その様子にアキラ達は拍子抜けしながらも、怪我が無いか確かめるために男へと近付いた。

「いってぇ……。何だよ、今日は厄日か?」

 そう愚痴りながら立ち上がったのは、金色に染めた髪を短く刈り込んだ、アキラ達と同い年くらいの青年だった。
 服装はジーパンに白いTシャツと地味だが、何かスポーツでもやっているのかその体は細身ながらも無駄なく筋肉がついている。
 その青年を見てアキラはまたしても既視感を覚えたが、その理由は後ろに居たシオンによってすぐに判明した。

「……石応(こくぼ)君? 何でこんな所にいるの?」
「石応? 石応ユウヤか?」

 シオンが言った聞き覚えのある名前に、アキラは確認するように言い直すと青年――石応ユウヤへと視線を向ける。
 石応ユウヤというのは、小学校からアキラと度々同じクラスになり、中学校でも同じクラスでそれなりに仲の良かった少年だ。
 確かに髪こそ当時とは違いすぎるが、その顔はアキラの見覚えがあるものだ。

「へ? ……ああ! 名持じゃん! マジで!? 地獄に仏ってこういう事言うのな!」
「あーもうテンション下げようよ煩いなぁ。あー、ついでにこっちに居るの、あの深海君よ」
「うへぇ!? 深海生きてたのか!? というかその妖精さん何!? もしかしておまえ苛められたせいで危ない世界にでも傾倒したのか!?」
「してない。というか声量落として頼むから」

 どうして隠れていられたのか不思議に思うほどテンションを上げていくユウヤに、アキラとシオンは合わせたように溜息をつく。
 アキラの覚えている限り、確かに石応ユウヤという少年はムードメイカー的な所があった。しかし今目の前に居る青年は、高すぎるテンションが非常に鬱陶しい。
 ピクシーやジャックフロスト、ベリスに気付いてもテンションを落とさないあたり、どちらかというと錯乱しているのに近いのかもしれない。

「とにかく、逃げようか」
「うん……」
「え、逃げんの!? 一緒に居るモンスターって深海の仲間なんだろ? こう悪のモンスターを退治するために暗躍する正義のモンスターマスター的な――」
「うざい、黙れ」

 留まる所を知らないユウヤのマシンガントークに、アキラのツッコミが珍しく暴言の域にまで達する。
 結局ベリスに睨まれるまで、ユウヤのテンションは下がることなく高騰し続けた。




◇◆◇◆◇◆◇◆
あとがきみたいなもの
 最後の最後に緊張感ぶっ壊し。
 ゲーム(ソウルハッカーズ)でのGUMPは、引鉄をひくと起動するようになっていましたが、この作品のGUMPは撃鉄を起こすと起動し、引鉄をひくと仲魔が召喚されます。
 


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