<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

その他SS投稿掲示板


[広告]


No.7042の一覧
[0] 水色の星0(灼眼のシャナ)[水虫](2009/09/26 08:08)
[1] 『想いの生まれた日』[水虫](2009/03/03 13:25)
[2] 『新たな生命』[水虫](2009/03/08 19:37)
[3] 『外れる前の二人(前編)』[水虫](2009/03/08 13:36)
[4] 『外れる前の二人(中編)』[水虫](2009/03/09 19:48)
[5] 『外れる前の二人(後編)』[水虫](2009/03/11 18:51)
[6] 『外れなかった二人』[水虫](2009/03/12 17:54)
[7] 『何も知らなくても』[水虫](2009/03/27 20:29)
[8] 『クリスマスイブ』[水虫](2009/03/30 19:57)
[9] 『血染めの大剣(前編)』[水虫](2009/04/04 06:34)
[10] 『血染めの大剣(中編)』[水虫](2009/04/03 21:59)
[11] 『血染めの大剣(後編)』[水虫](2009/04/05 18:57)
[12] 『血染めの大剣(終編)』[水虫](2009/04/06 10:45)
[13] 『白緑の出会い』[水虫](2009/04/26 21:21)
[14] 『水色のヘカテーたん』[水虫](2009/05/19 21:53)
[15] 『見果てぬ道標』[水虫](2009/05/31 16:18)
[16] 『メロンパン・ナ・コッタ(前編)』[水虫](2009/06/14 21:22)
[17] 『メロンパン・ナ・コッタ(中編)』[水虫](2009/06/15 21:37)
[18] 『メロンパン・ナ・コッタ(後編)』[水虫](2009/06/18 20:49)
[19] 『メロンパン・ナ・コッタ(終編)』[水虫](2009/06/20 20:35)
[20] 『ゴースト・パニック(前編)』[水虫](2009/09/25 22:47)
[21] 『ゴースト・パニック(中編)』[水虫](2009/09/26 16:42)
[22] 『ゴースト・パニック(後編)』[水虫](2009/09/27 16:02)
[23] 『プレゼントを探して(前編)』[水虫](2009/10/03 18:44)
[24] 『プレゼントを探して(後編)』[水虫](2009/10/05 19:48)
[25] 『怪傑・白仮面(前編)』[水虫](2009/10/26 11:20)
[26] 『怪傑・白仮面(中編)』[水虫](2009/10/19 15:25)
[27] 『怪傑・白仮面(後編)』[水虫](2009/10/27 07:16)
[28] 『紅蓮の解(前編)』[水虫](2009/11/03 11:02)
[29] 『紅蓮の解(中編)』[水虫](2009/11/15 15:42)
[30] 『紅蓮の解(後編)』[水虫](2009/12/02 15:27)
[31] 『紅蓮の解(転編)』[水虫](2009/12/20 12:22)
[32] 『紅蓮の解(終編)』[水虫](2010/01/17 11:22)
[33] 『一時の夢のように(前編)』[水虫](2010/02/21 07:26)
[35] 『一時の夢のように(後編)』[水虫](2010/03/21 14:28)
[36] 『バレンタイン・クライシス(前編)』[水虫](2010/04/03 23:53)
[37] 『バレンタイン・クライシス(中編)』[水虫](2010/04/15 07:53)
[38] 『バレンタイン・クライシス(後編)』[水虫](2010/05/10 09:23)
[39] 『バレンタイン・クライシス(終編)』[水虫](2010/06/18 13:57)
[40] 『メイキング・ベイビー(前編)』[水虫](2010/06/27 19:39)
[41] 『メイキング・ベイビー(中編)』[水虫](2010/07/06 15:11)
[42] 『メイキング・ベイビー(後編)』[水虫](2010/07/21 22:00)
[43] 『メイキングベイビー(終編)』[水虫](2010/07/28 20:40)
[44] 『緋色の空』・一話[水虫](2010/09/07 21:56)
[45] 『緋色の空』・二話[水虫](2010/09/16 16:08)
[46] 『緋色の空』・三話[水虫](2010/09/19 17:23)
[47] 『緋色の空』・四話[水虫](2010/09/21 21:22)
[48] 『緋色の空』・五話[水虫](2010/09/26 10:38)
[49] 『緋色の空』・六話[水虫](2010/09/30 12:19)
[50] 『緋色の空』・七話[水虫](2010/10/22 15:42)
[51] 『緋色の空』・終話[水虫](2010/10/23 18:58)
[52] 『ある日のユカリ』[水虫](2010/10/26 12:40)
[53] 『紅頭巾ちゃん(前編)』[水虫](2010/11/04 17:35)
[54] 『紅頭巾ちゃん(中編)』[水虫](2010/11/10 16:22)
[55] 『紅頭巾ちゃん(後編)』[水虫](2010/12/08 21:09)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[7042] 『バレンタイン・クライシス(終編)』
Name: 水虫◆21adcc7c ID:f6bb011e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/18 13:57
 
(う…………?)
 
 やや埃臭い空気の中に仄かに香る甘い匂いが鼻腔をくすぐり、悠二は薄らと目を開く。
 
 まだ日中にも関わらずの薄暗さと、馴染みのある何とも微妙なマットの匂いで、自分が今体育館の用具室の中にいるのだと悟った。
 
(えー……と、そうだ……池のやつ……)
 
 自分が意識を失う原因となった眼鏡男の所業を思い出して、悠二の全身を怖気と復讐心が包む。
 
 頭も良いし空気も読める、他者への気遣いも忘れないスーパーヒーロー・メガネマン……なだけに、吉田が絡むとタチが悪い事この上ない。頭の螺旋が二、三本易々と外れるからだ。
 
「おはようございます……」
 
「………………」
 
 しかし、悠長にそんな事を考えている場合ではない。後ろから掛けられた聞き憶えのある……妙に艶やかな声に、悠二は恐る恐る振り返る。
 
 池に捕まった時点である程度予想していた状況………しかし、現実は悠二の予想の斜め上を行く。
 
「よ、よし……吉田さん………?」
 
「はい☆」
 
「そ、その……格好は………?」
 
 マットで模されたベッドの上。予想通りに吉田一美はそこにいた。しかしその格好が問題である。
 
 赤いリボンで全身を飾り、それによって局所を隠している……“だけ”。リボン以外何一つ身につけていない。
 
「ホント~は、ちょっとだけ恥ずかしかったんですけど、坂井君のためだから頑張っちゃいました☆」
 
 吉田は両手で頬を押さえて顔を赤らめ、クネクネと悩ましげに体をよじる。その手が、吉田の横の、まるでペンキでも入れるような金属缶に伸びた。そして握られた筆の先に付いているのは、甘い香りを漂わせるホットチョコレート。
 
「よ、吉田さん? 何のつもりか知らないけど、まずは落ち着いて。落ち着いて、とりあえず服を着ようか?」
 
「もう、ホントはわかってるくせに、坂井君のイ・ジ・ワ・ル☆」
 
 悠二の抗弁には何の効力も無い。吉田は構わず、チョコレートを自分の肩に一筋塗り付け、そのまま、まるで口紅のように唇を飾った。
 
「私を食べて……」
 
 座ったまま後退る悠二に覆い被さるように、吉田の唇が迫る。悠二は吉田を押し退けられない。下手に触るとリボンがズレて………つまり……見えてしまう。
 
 絶体絶命。まさにその時………
 
「「!?」」
 
 キキンッ! と鋭い金属音を立てて、用具室の扉がズレ、崩れた。その向こうで、紅蓮の少女が、炎髪灼眼を煌めかせている。その右手に、大太刀を下げて。
 
「………用具室の周りには、気配隠蔽の仕掛けをしといたはずだけど?」
 
「私の鼻からは逃げられない」
 
 不機嫌極まりない吉田に睨まれて、シャナは不敵に鼻を鳴らす。超絶甘党たるシャナの嗅覚が、固形ではない吉田のホットチョコレートの香りを正確に追尾したのだった。
 
「悪いけどシャナちゃんのチョコは用意してないから、また後で出直してね? “私たち”今すっごく忙しいから」
 
「別にお前のチョコが目的で来たんじゃない。そんな格好でよく恥ずかしくないわね」
 
 シャナと吉田の視線がぶつかり、バチバチと盛大に火花を散らす。だが、シャナに気を取られて悠二に背中を見せたのが、吉田の致命的な隙。
 
「ふっ!」
 
 悠二はマットから壁に跳び、壁を蹴り、天井を蹴り、一気にこの場からの脱出を計る。
 
「ありがとうシャナ、助かった!」
 
 出口でシャナの横をすれ違い様にそう言った悠二の………足首が掴まれる。バランスを崩した悠二は、そのまま派手に体育館のフロアに口付けた。
 
「ッ~~~! 何で止めるんだよ!?」
 
「…………………」
 
 鼻を押さえて抗議する悠二に、シャナは応えない。振り向きもせず、何だか決まり悪そうに黙ったままだ。
 
 そしてまたも唐突に、パリンッ と乾いた音が響いて………
 
「うわあぁあ!?」
 
「ちっ」
 
 シャナに掴まれていた足目がけて、一閃の光が通過した。咄嗟にシャナが手を放してくれたおかげで足は無事だが、間一髪だった。
 
「シロ!」
 
「またあんたか!?」
 
 体育館二階の窓ガラスを割って斬撃と共に乱入してきたのは、シャナの育ての親の一人たるメリヒム。本日二度目の強襲である。
 
 非難を受けたメリヒムは、シャナと悠二を交互に見比べて、そして再び悠二に斬り掛かった。
 
「親バカもいい加減にしろよホント!」
 
「問答無用! シャナはチョコ持ってないではないか! 食ったのか? 食ったのか!?」
 
「食べてない! って言うか貰ってもない!」
 
 白い羽根を大剣・『吸血鬼(ブルートザオガー)』へと変えた悠二と、サーベルを握るメリヒムが、広々とした体育館内の空間を所狭しと斬り結ぶ。
 
「往生際が悪いのであります」
 
「試食推奨」
 
 こちらも朝からメリヒムを追い続けていたのか、またも窓を破壊してヴィルヘルミナが乱入し、戦技無双の技を以て剣舞に参加する。
 
「………何なんだ、これ」
 
「くそ、どいつもこいつも邪魔ばっかしやがって」
 
 ストーカーよろしく様子を窺っていた池が、同じく棒立ちになっているシャナの傍に歩み寄る。この状況でもマイペースに着替えなどしていたのか、用具室の中から制服姿の吉田も出てきた。
 
「お前の連れだろ。何とかしろよ。学校で暴れやがって非常識な」
 
「………………」
 
 自分の行動を完全に棚上げして肘でシャナを小突く吉田に、シャナは応えず戦いを見上げ、僅かに震えながら大太刀の柄を強く握る。
 
「…………おい?」
 
 再度呼び掛けた吉田。その瞬間、シャナも刃を振るって飛び出した。どうやら、妙なスイッチが入ってしまったらしい。
 
「さあさあ、遂に参戦した一年二組のクールビューティー・シャナ! 刃物片手に好きな男の子を追い回すそのヤンデレっぷりは彼のハートに届くのか!? 実況は私、平井ゆかりと、解説の椎名先生でお送りします!」
 
「よろしく」
 
 いつの間に現れたのか、長机とパイプ椅子まで用意して、ゆかりとリャナンシーが座っていた。完全にこの混沌とした状況を楽しんでいる。
 
「ところで一美、うちの座敷わらしは?」
 
「見てねーよ。自分の事で手一杯だったし」
 
 さりげなく一年二組のシュールキューティーの所在を訊ねるゆかりだが、返る返事は否。やはりまだ学校に来ていないらしい。
 
 そんな間も、体育館の中を閃光は乱れ飛んでいる。
 
「やはりトップはヴィルヘルミナ・カルメル! 伊達にメイドはやってないのか、頭一つ抜けています!」
 
「……平井さん、遊んでないで止めてよ」
 
 仮にも常識人を自認する池が助けを求める(もう義理チョコはもらった)。この四人を止められる存在など、人間じゃなくても限られている。
 
「え~……せっかく盛り上がって来たのに」
 
「このままじゃ体育館が無茶苦茶になるじゃないか!」
 
 言われて、ゆかりは渋々とポケットから金色の鍵を取出し、胸の前で解錠した。体育の授業は、ゆかりにとっても楽しい時間なのである。
 
「えいや♪」
 
 ツーサイドアップの触角が蝶のように羽ばたき、そこから翡翠に輝く靄が、鱗粉のように飛んでいく。
 
「それは………?」
 
「『ダイモーン』♪」
 
 リャナンシーが、全身を『清めの炎』で防御する。この靄を吸い込めば、徒やフレイムヘイズでもただでは済まない。
 
 しかし、タイミングが悪かった。
 
『あ…………』
 
 悠二の、シャナの、メリヒムの、ヴィルヘルミナの炎弾が同時にぶつかり、弾けて、爆風を起こす。
 
 散らされた靄は風に乗って御崎高校を覆い、錯乱の渦に陥れた。
 
 
 
 
(今日は散々だったな………)
 
 一連の後始末を終えた悠二は、一人下駄箱で上履きを脱ぐ。ゆかりは……おそらくヘカテーを探しに行ったのだろうが、悠二は同行を拒否した。
 
 まるでチョコレートを催促するみたいでカッコ悪かったからだ。
 
(結局……学校にも来なかったか)
 
 『近衛』と書かれた下駄箱を覗き見るが、上履きしか入っていない。気配で位置も掴めないくらい遠いにいるのは間違いないが、何となく確認してしまう。
 
 ヘカテーを小動物扱いしてチョコをあげたがる女子も少なからずいたのだが、気の毒な事だった。
 
(あれ……?)
 
 悠二は自分の下駄箱を開けようとして、異変に気付いた。昼間逃げ回っていた時、悠二の下駄箱は再び溶接されていたはずだが、それが無い。あっさりと開いた。
 
「………………」
 
 開いた瞬間、それを見つける。何とも不恰好に包装された菓子箱。誰からの物かは……すぐにわかった。焦げ臭い匂いと、『あげる』というメッセージが添えられていたからだ。
 
 ヘカテー以外にこんな代物を生み出し、かつ自分にチョコをくれそうな人物に、悠二は一人しか心当たりが無い。
 
「シャナ、か……」
 
 おそらく、体育館に来た時点でもうチョコを下駄箱に隠していたのだろう。意外と慎重派なのか照れ屋なのか。
 
「苦い」
 
 箱を開いて、齧る。超絶甘党シャナが大量に混入した砂糖が見事に焦げ付いて、通常より強烈な苦さを誇っている。
 
「…………………」
 
 無論、悠二はそれを食べきった。
 
 
 
 
「………………」
 
 二月の夕方、というのはまだ肌寒い。坂井家の門前に、野良犬や野良猫を集めて暖を取る水色の少女がしゃがみ込んでいた。
 
(…………出来た)
 
 ゆかりと千草は坂井家の中にいる。ヘカテーは自分の『完成品』を、胸に抱いて話さない。
 
 学校に持って行く事も考えた。家の中で待っていてもいい。だが、ヘカテーはこの場所に拘った。
 
(早く……早く……)
 
 気配は少しずつ近づいて来ている。無論、より感覚が鋭敏な悠二がヘカテーに気付いていないわけがない。
 
「…………………」
 
 焦れったくなって、ヘカテーは空に小粒の炎弾を放った。信号弾代わりのそれに気付いて、悠二が一気に加速してくる。
 
 見えてきた。ヘカテーは動かない。ただ目を閉じて、祈るように両手を合わせる。
 
「………ヘカテー?」
 
 声を掛けられて、ようやくと言わんばかりに抱きついた。………自分から近づいては、意味がなかったから。
 
「悠二………」
 
 初めて出会ったこの場所で、初めて出会った時のように声を掛けてもらって………
 
「あなたが………」
 
 そして想いを伝えたい。
 
 一生懸命に完成させた、甘いホワイトチョコレートと共に。
 
 
 
 


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.044962882995605