10 「馬鹿者の末路と宮藤」***Side Wilhelmina*** 死ぬ。 ちょっと身体をよじらせただけで痛い! 痛すぐる! ぺろっ……この味は間違いなく重傷! 嘘です! というか痛くて味とか解りません! 現在、オレは全身に包帯と湿布を貼り付けて、自室静養を申しつけられております。 基地に帰投直後に意識ぶっ飛んで。 さっきまで医務室とお医者さんのお世話になっていました。 ぶん殴られたと思ったらビームがかすってたらしくて。 左肩は打撲に骨にひびが入ってその上軽く抉られて靱帯損傷。 ついでに質量増やしたMk108ぶん回したもんだから肘も関節と靱帯が痛みまくりんぐ。 ……すげー、良く動いたなオレの左腕! 靱帯、もとい人体の不思議! 戦ってる最中は全く痛くないんだもんなぁ……脳内麻薬様々である。 というか、ネウロイのビームって瘴気帯びてるらしく、かすっただけでも普通の人間なら致命傷らしい。 それを聞いた時は心底ウィッチで良かったと思ったね!! その他、全身の筋肉や関節、特にストライカーユニットを無茶苦茶に動かしまくったため。 股関節を筆頭に、鍛えられたヴィルヘルミナさんの軍人バディの限界を超えてしまったらしく。 身体の節々が凄い痛い……うう…… 歩くと……股が……股がいてぇよ……! あと、オレのハートも痛い。 というかオレの行動と言動がイタい。 ああ……思い出すだけでも恥ずかしい! 何アレ! 何テンパっちゃってんのオレ! もっとクールにファニーに、が信条だったのに! 黒歴史が! 成人式と共に捨て去った若さゆえの過ちの記憶が! 峠攻めてた頃のアホみたいなオレそのままじゃないか! 今思えば、周りに囃し立てられてF峠の狂犬とか呼ばれて、自慢げに名乗ってたとかねーよ! スゲェ真面目に「オレはピリオドの向こう側を目指すんだ……」とか言ってた気がする! 何その中2病……うあああああ!!! しかも何、美緒さんに「バカメ!」とかなんとか言った気がする! 馬鹿はオレだぁぁぁぁっ!! 上官に対して馬鹿とか洒落んなってねー! これは間違いなく再教育という名の調教→目からハイライトが消えて廃人ルート……! オレのばかばかばか! 頭を両手で抱えて猛烈な勢いで振る。 振動で痛い! 痛いけどこれってきっと神様がくれた罰なのよね! 振り回した右肘が、ベッドの角に思いっきり当たって。 とりあえず痛みとはまた違ったものすごい苦痛が半身に駆けめぐった。 うずくまる。 おおおおお……いてぇ……今、神谷明の渋い声で「ファニーボーンを突いた……貴様はもう死んでいる」って幻聴が…… 肘の痛みでテンションが猛烈に下がる。 うう……少し落ち着くか。 とりあえず半身を起こして、壁にもたれ掛かる。 それだけで全身が筋肉痛にも似た痛みを訴えた。 はぁ……まぁ、やってしまったことは仕方がない。 それに、経過は何とも不本意な物だったが、何とか初戦を生き残ったのである……半死半生だったけど! 半死半生というか九死に一生っぽいけど! とりあえず、昨日の昼過ぎに基地に帰投して。 そのままぶっ倒れて、一時間ほど前に目を覚ました。 時計が10時を指してて、窓の外が明るいって事は、また寝過ごした訳ですね、解ります。 っていうかオレ倒れる頻度高すぎない? 貧弱すぎるオレの精神…… まぁ、なんだ……とりあえず腹が減ったが。 身体痛くて食う気が起きねえ……治癒魔法プリーズ! っていうか芳佳さんそろそろ来るだろ。 あの出鱈目魔力でサクッと一発よろしくお願いします! 腹減った……血が足りねぇ……レバー! ほうれんそう! 生卵! という三大欲求の一つに基づいた思考は、ノックの音で遮られました。 返事しないうちにドアが開かれ。 エーリカさんが入室しました。 ……え、なんでそんな怒った顔してんの。 なんでそのまま無言でこっち歩いてくるのさ。 ……なんで両手をオレの胸部に伸ばしてるんですか! ちょ、てめぇ、ま「……」「――――」 ――人の胸揉むな、馬鹿! 握力訓練ボールじゃねえんだぞ!? 痛い! 痛いから! 傷に響くから!「……馬鹿」「――」 入ってきた時の倍速でエーリカさんが退室しました。 逃げた! 逃げたよあのアマ! 人が絶句してる間に逃げました! 何という逃げ足の早さ…… うう、この基地はおっぱい魔神の巣窟ですか……リーネ、遅くはない、今からでも転属願いを出すんだ…… 胸を押さえて悶えていると。「あれはあれで怒ってるんだ……察してやれ、バッツ」 バルクホルンお姉ちゃんが来ました。 ……お、お姉ちゃんも揉みに来たんですか!? もう止めてー!「……いや、そんなに胸を必死に隠さんでも、揉まんから……」「本……当?」「バッツ、お前は一体私たちをなんだと思ってるんだ……」 ぱんつアニメの振りをしたおっぱいアニメの登場人物! とはまさか口が裂けても言える訳がないのですが。 やたら脱力してるバルクホルンがすっごい哀れなので、真面目な話に戻そうか。 っていうか、怒ってたのかエーリカ……ごめんね、心配かけてごめんね。「……ごめん」「無茶をするな、と言ったはずだがな?」「……我慢、出来……なかった」 何年ぶりかでブチ切れちゃったよ……うーん、反省反省。 もう、腹の底から熱い物が脳天までぶち抜ける感じ……もっと冷静に戦わないと死んじゃうよね、きっと……「……生きて帰ってきてくれればいい。 私も人の無茶をどうこう言える立場じゃない……からな」「……うん」 生きて帰ってきてくれて。 その言葉が染み渡ります。 親父とお袋死んでから心配してくれる人居なかったからなぁ…… その声の半分以上が、オレではなくてこのヴィルヘルミナさんに向けられているのは解っているけれど。 それでも、ありがたいです。 あ、やべ、ちょっと泣けてきた……***Side Witches*** トゥルーデは、謝りながら涙ぐんだヴィルヘルミナを見て、怒気が萎えていくのを感じていた。 本当なら、命令に従わず無茶してネウロイの撃破を試みたことや。 ネウロイの撃破直後に合流したにもかかわらず、重傷を隠して単機帰投していったりしたことを怒ろうかと思っていたのだが。 しかも後者は「オレは……ピリオド、の向こう側……まで……!」とか訳のわからんことを呟いていた事もあってその場にいた全員が本気で心配した。 ヴィルヘルミナが全速で飛べば、魔法を使用したシャーリーですら追いつけないのだ。 基地にちゃんと帰投したという報告を無線で聞いて安心し、着陸に失敗してそのまま昏倒して医務室行きになったと聞いて、落差で余計心配が増えたりもした。 だが、ヴィルヘルミナの少ない言葉を聞いて、トゥルーデは思う。 我慢できなかった。 それはきっと、彼女の心の奥に残る、カールスラント陥落の光景が引き起こした物なのだろう、と思う。 もしくは、ヴィルヘルミナが負傷した、あの補給艦隊の光景か。 実際、トゥルーデ達が戦闘空域にたどり着いた時の情景は、壊滅と言って差し支えない物だった。 艦隊を構成する艦の内半数が中破以上。 旗艦である空母と、駆逐艦が二隻大破もしくは航行不能であり、その他の艦もなんらかの損害を受けていたのである。 死傷者も、少なからず居ただろう。 戦場の記憶がヴィルヘルミナの心に狂気を招いた、というのなら問題は大ありだが。 美緒の証言によると、興奮はしていたようだがその思考は比較的正常と言って差し支えない物だった、とのことである。 ネウロイに対する怒りは現場にいる多くの将兵が抱いている物であり。 あとは、それを制御出来るようにすればいいだけの話だ。「そういえば……バルクホルン」「なんだ?」 ヴィルヘルミナの語りかけに思考を中断し、バルクホルンはいぶかしげに応えた。 「その……ごめん。 服……」「ああ、そんなことか……別に構わん。 予備の制服だからな、換えも効く」「……そう」「……バッツ。 別に泣かんでも良いだろう……まぁ、その怪我だ……暫くは静養するんだな。 余り怪我の程度が深くなくて良かった。 一週間も待たずに病院に出戻ってみろ、医者に嫌な顔をされるぞ」「そう……だね」 妙な顔をして返事をするヴィルヘルミナに、トゥルーデは苦笑を返した。 この表情なら、大丈夫だろう。 ヴィルヘルミナの顔に見えたのが、謝罪と後悔の気持ちであり、恐怖や狂気の兆候が見られないのに安心して。 トゥルーデは軽くため息を吐いた。 「さて、私はもう行くが……ああ、フラウとは後でちゃんと話をしておけよ。 お前が一人で飛んでったと聞いて、ミーナの執務室に殴り込まん勢いだったからな。 諫めるのが大変だったんだぞ?」 「……うん。 あと、バルクホルン……」「ん? どうした?」「……来てくれて、ありがとう」 当たり前だろう、戦友なんだから。 その言葉を残し。 トゥルーデは退出した。***Side Wilhelmina*** と言うようなことがあったのが6時間ほど前です。 昼食と夕食はとりあえず運ばれてきたオートミールをずるずると食いつつ、というかオートミールばっかだな畜生! もしかして怪我して寝込む度にオートミールか? ぶっちゃけこの不味いオートミールを食べなくて済むように、怪我しない戦い方を勉強しないと駄目臭いです。 現実味のない生死より、直面した食糧事情の改善! バルクホルンが来た後、仕事の合間を縫ってちょこちょこ人が見舞いに来てくれました。 マジありがとう……一人暮らししてると寝込んでもずっとひとりぼっちだから。 人が居るのが本当に嬉しいなんて感じたのはどれだけぶりだろうか。 トゥルーデの後に来たのが、ミーナさん。 最初に適度に叱られた後、リンゴ剥いてくれました。 忙しいはずなのに……これが部下の人心を掌握する手法ですか! あと、もっと仲間を信じて欲しい……とも言われた。 うぃ……ごめんなさい、気をつけます。 次がシャッキーニのコンビ。 シャーリーは割と本気で心配してくれていた。 ルッキーニはなんか見舞いに来たんだか騒ぎに来たんだかよくわからなかったが子供は元気な方が見てて安心するのでまあ良しとした。 心配してる理由だが、なんか、オレ、あんまり記憶にないんだけど、勝手に単機で基地に帰投したらしく。 しかもその時「ピリオドの向こう側を目指すんだ……!」とか呟いてたらしい。 うぎゃぁぁぁぁぁ! 穴があったら埋まりたい! その上から漬け物石で封印して! そりゃあ頭逝っちゃったとか思われるよぉぉぉぉ! と、頭を抱えて悶えてたら余計心配されました。 いや、別に戦いの記憶が怖かったとかじゃなくて、黒歴史がね、黒歴史が。 とりあえず説明しておいたが、相変わらずの口調だったんで理解して貰うのに結構時間食った。 最終的には、血が抜けてて頭が良く回ってなかった……ということに帰結して頂いた。 オートミールじゃなくてもっと肉とか食いたい。 その後がエイラ。 あれ、サーニャにしか興味ないんじゃないの……と思ってたら。 きちんと生きて返ってきたじゃないか、偉い偉い、と、また頭撫でられた。 だから恥ずかしいんだってそれ……早く慣れないと。 案外怖くなかったろ、とか言われましたが……うん、実際の話そんなに恐怖は感じなかったかなぁ。 戦闘中、半分以上ブチ切れてたからかも知れないけど。 そりゃあビームに押し切られた時は怖かったですが。 あまりプレッシャーのような物は感じなかったよな……ぶっちゃけバルクホルンやエーリカが後ろにいる時の方が精神的圧力が凄い。 自分の全力を尽くしてもことごとく封殺されるあの恐怖感や焦燥感はネウロイからは余り感じなかった。 そして、最後。 日が沈んだ後、美緒さんと新人ウィッチさんが来るというので、皆で出迎えるらしく。 オレの体調を聞きに来たのが……「……エーリカ」 と言う訳でエーリカさんです。 ああ、まだふてくされてんのかよ……この子ずぼらキャラだったはずだろ、何でこんなに根に持つんだよ。 先人は言う……女の子が怒っていたらとりあえず謝り倒せ、と。 経験は言う……謝り倒す前に、謝る理由は考えておけ、と。 ……ああ、うん、心配かけてごめんなさい、だよね?「……ごめん、エーリカ」「……任務だよ、仕方ないよ……でも、もっと、後続のトゥルーデとか……みんなを、頼ってよ」 ……違うか。 馬鹿だよな、オレ……助けて貰いっぱなしなんだよな、結局の所。「ミーナ……にも、言われた」「私たちはチームなんだからさ」 チーム……か。 ……彼女達に借りを返すためには、色々学ばないといけなくて。 きっと、それを学ぶためには彼女達により負担をかけねばならないのだろう。 それは、みっともない行為だけど、必要なことで。 オレが、彼女達と同じ高みで飛ぶためには、必要なことで。 だから、オレは決める。 「エーリカ……オレ……強く、なる…… みんなと……一緒に、飛ぶために……だから」「……うん、私も、手伝うから」「……ありがとう」 ああ、こっちの世界に来てから。 オレお礼言ってばっかりだよ。 「じゃあ、行こっか……行ける?」「ん……肩、貸して」「おっけー」 う、いてて。 エーリカの華奢な肩を借りて、ベッドから立ち上がる。 案外力あるのな……いや、オレが軽いのかも知れないけれど。 ふと、エーリカがいぶかしげな顔をしてオレを見る。「……ヴィルヘルミナって、寝る時ソックス履くんだ?」「誰かが来るって解ってたから……着替えてた」 当たり前だろう……何を言ってるんだエーリカ。 っていうか初対面の人に寝間着見せるとか無いよ……マナーだろマナー。 しかも相手は乳魔神芳佳さんだぜ? 薄着なんか見せたら襲われてしまう……「そういえばさ、ヴィルヘルミナ……さっき胸揉んだ時だけど」「……痛かった。 ……傷に、響いた……」 「ああごめんごめん。 でさ、ちょっと大きくなった?」「……ッ、知ら、ない」 っていうか、ああもうマジで知らないよ! しんみり締めたと思ったらこういうオチかよ! その後の芳佳さんの顔見せの時。 オレの方を微妙に熱視線で見てたのは何でだぜ? エーリカに肩借りて立ってたから目立ってたのか? それとも既にロックオンされてますか……?------というわけでアニメ版1-2話相当のエピソード終了。中の人の過去の一端が垣間見えた!アニメだと、その日の晩にウィッチーズ基地に着いたように書かれてましたが。いくら島国と言ってもグレートブリテン島も広いはずなので。芳佳さんともっさんは、なんとか航行可能にした赤城、もしくは無事だった駆逐艦に乗ってそのままブリタニアの最寄りの港に入港。そこから一日かけてお父さんの足跡をたどり、実際に基地に着いたのは戦闘のあった翌日かもう一日後の夜何ではなかろうかと言う予想に基づき書いております。見舞いに来るキャラがなんか、好感度一定以上稼いだキャラっぽくなってしまったのが。もっとペリーヌとか……リネットとか……サーニャとか……ミーナさんとか……出したいよ!っていうか約半分とかねーわ……もっと複数人を描写出来るスキルが欲しすぎる。あ、別にこのSSはエーリカルートとかそういうのじゃないです!(視線を逸らしながら)