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No.6597の一覧
[0] とある神秘の幸運少女(とある魔術の禁書目録・オリ主再構成)[ヒゲ緑](2009/03/19 21:47)
[1] 一章 一話[ヒゲ緑](2009/10/11 20:58)
[2] 一章 二話[ヒゲ緑](2009/10/11 20:59)
[3] 一章 三話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:01)
[4] 一章 四話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:01)
[5] 一章 五話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:02)
[6] 一章 六話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:02)
[7] 一章 エピローグ[ヒゲ緑](2009/10/11 21:03)
[8] 二章 一話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:04)
[9] 二章 二話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:04)
[10] 二章 三話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:05)
[11] 二章 四話[ヒゲ緑](2009/09/03 10:16)
[12] 二章 エピローグ[ヒゲ緑](2009/10/11 21:06)
[13] 三章 一話[ヒゲ緑](2009/10/21 09:28)
[14] 三章 二話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:07)
[15] 三章 三話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:08)
[16] 三章 四話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:08)
[17] 三章 五話[ヒゲ緑](2009/03/08 00:43)
[18] 三章 エピローグ[ヒゲ緑](2009/10/11 21:09)
[19] 四章 一話[ヒゲ緑](2009/03/09 23:02)
[20] 四章 二話[ヒゲ緑](2009/09/03 10:21)
[21] 四章 三話[ヒゲ緑](2009/09/03 10:22)
[22] 四章 四話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:09)
[23] 四章 五話[ヒゲ緑](2009/09/03 10:23)
[24] 四章 六話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:10)
[25] 四章 エピローグ[ヒゲ緑](2009/09/03 10:26)
[26] 五章 一話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:11)
[27] 五章 二話[ヒゲ緑](2009/11/17 18:33)
[28] 五章 三話[ヒゲ緑](2009/03/15 19:03)
[29] 五章 四話[ヒゲ緑](2009/03/17 19:14)
[30] 五章 五話[ヒゲ緑](2009/03/18 05:32)
[31] 五章 六話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:11)
[32] 五章 エピローグ[ヒゲ緑](2009/09/03 10:29)
[33] 六章 一話[ヒゲ緑](2009/08/30 17:36)
[34] 六章 二話[ヒゲ緑](2009/10/21 09:27)
[35] 六章 三話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:12)
[36] 六章 四話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:13)
[37] 六章 五話[ヒゲ緑](2009/09/19 19:50)
[38] 六章 六話[ヒゲ緑](2009/09/19 19:51)
[39] 六章 七話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:13)
[40] 六章 八話[ヒゲ緑](2009/10/21 09:26)
[41] 六章 九話[ヒゲ緑](2009/10/11 20:55)
[42] 六章 十話[ヒゲ緑](2009/10/21 09:25)
[43] 六章 十一話[ヒゲ緑](2009/11/17 18:32)
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[6597] 六章 十話
Name: ヒゲ緑◆14fcd417 ID:d844114c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/21 09:25
 窓際を離れた結奈と五和は階段を降り、再び裏口へと戻ってきていた。
 相手は自分達の数倍もの人数だ。そのほとんどは正面入口のある中庭に集まっているが、裏口に回って挟み撃ちにしようとする事は十分に考えられる。
 それが無くとも、誘導して戦線離脱させた部隊がここに戻ってくる可能性もあるだろう。
 上条達が脱出した後ならいいが、入り口を破られて逃げる際に鉢合わせる事になれば下手をすると完全に詰んでしまう。
 この聖堂の一階部分には窓がほとんどなく、正面からシスター達に追われれば必然的にこちらへと向かう事になるため、結奈は上条達に合流せずに脱出経路の確認に向かったのだった。
 最悪、壁を破壊しての脱出も可能ではあるが、相手の配置が分からない所に突撃するのは非常に危険だ。
 結奈は駆け足で壁を辿り、慎重に外の気配を探った。
 裏口前を端から端まで調べ、周りに誰もいない事を結奈の能力で確認すると、二人はドアの横にある窓から外へ向かう。
 これは裏口の鍵を掛けたままにしておくためだ。上条達が逃げる時には不便だろうが、万が一シスター達が来た際の時間稼ぎは有った方が良いだろうから。
 外に出た二人は周囲の確認だけ行うと、それ以外は特に何もせずにその場に佇んでいた。
「来るかな?」
「分かりません。ただ、おそらくは……」
 結奈達が待っているのは来るかもしれない別働隊だ。上条達との鉢合わせを避けるため、少数ならここから引き離してから倒し、二人では手に負えないような人数ならそのまま囮となって連れていく。
 そして、誰も来ないのならば、その時は結奈も覚悟を決めて上条達と合流するつもりだった。
 鍵を掛けているとはいえ、正面入口のドアはもって後数分といった所だろう。
 このまま何も起こらず上条達と顔を合わせる事になるのを考えて、抑え込んでいた恐怖が再び鎌首をもたげ始め―――結奈は両手を強く握りしめ、少しだけ体を震わせた。
 しかし、やはりその未来は訪れない。
 裏口を背にする結奈達の左手方向。最初にここに来る際に曲がった角から、いくつものバタバタとした足音が聞こえてきた。
 それに気づき、二人は即座に警戒態勢に入った。五和がそちらを向いて海軍用船上槍(フリウリスピア)を構え、結奈はその後ろへと回る。
 そして、臨戦態勢の二人が見つめるその角を曲がって一〇人のシスターが姿を現した。
 アニェーゼと同じくらいの歳に見える、長い金髪を二房の三つ編みにして前に垂らした小さなシスターを中心に、九人のシスター達が周りを固めている。
「結奈さん」
「うん」
 一言だけかわすと、結奈達は彼女らに背を向けてその場から逃げ始めた。
「い、いました! みなさん、追ってください」
 中心の小さなシスターが集団のリーダーなのか、逃げる結奈達を見た彼女が慌てたように周りへと指示を出す。
 どうやら裏口の外にいる結奈達を見たことで、すでに終油聖堂内の全員が脱出してしまったと勘違いしてくれたらしい。
 指示を聞いたシスター達の内、五人が全力で結奈達へと駆け出した。残りの四人は奇襲を警戒しているのか、小さなシスターに合わせた速度で結奈達へと向かって来る。 
 打ち出される光球を逸らしながら、二人は裏口から一〇〇メートルほど離れた場所まで進んだ。
 シスター全員が十分に裏口から離れたのを確認すると、二人は足を止めて振り返る。
 そして、いつでも発動できるようにしてあった五和の幻影の魔術を用い、先行するシスター達の横から襲いかかるような形でいくつかの人影を生み出した。
「ほ、ほかにもいたんですか!?」
 リーダーの小さいシスターの声につられたシスター達が結奈によって操られるそれらの影へと視線を向け、奇襲に対処しようと意識を分散させる。
 その瞬間、五和が強く地面を蹴り、五人の中央にいるシスターへと一気に迫った。
「な!?」
 驚きの声が漏れる間もなく五和の槍がそのシスターへと振るわれ、その意識を刈り取る。
 さらに、仲間がやられた事によって生まれた動揺の隙に、その左にいたシスターを打ち倒した。
 なおも槍を振るおうとする五和だったが、残りの三人のシスター達が動揺から立ち直ったのを確認するや否や、すぐさまバックステップでその場を離れる。
 直後、一瞬前まで五和がいたその場所を、振り下ろされた剣や杖が通り過ぎていった。
 さらに、小さいシスターに速度を合わせて遅れていた四人のシスター達の武器が光り、そこから魔術が撃ち出される。
 先行したシスター達の間から五和を狙ったその光球は、しかし、彼女を捉える事は無かった。
「いっけぇ!」
 その結奈の声と共に、四つの光球の軌道が僅かに逸れる。それは武器を振りおろし、完全に死に態となっていた三人のシスター達を背中から強襲した。
 光球の直撃を受けたシスター達は結奈達の横を通り過ぎる形で数メートルは吹き飛ばされ、そのままぐったりと倒れ込む。
 シスター達の意識がない事を横目で確認した結奈は、すぐに視線を前方へと戻した。
 その先では、怒りをたたえた表情で結奈達を睨みつけるシスター達の姿。
 動揺しっぱなしで碌に行動できていなかった小さいシスターも、さすがに落ち着いたのか、先程より鋭い視線を送ってきていた。
 これで、残っているのは五人だ。この数なら二人でなんとかする事も出来るだろう。
 ハッキリ言えば、これは予想以上の戦果だ。結奈としては幻影に気を取られた隙に二~三人を倒せればいい所だろうと考えて、引っかからなければ逃げの一手を取るつもりだったのだから。
 だが、足の遅い小さいシスターに合わせる事で前衛と後衛が分断され、距離が開いた事が幸いした。
 それによって相手が遠距離の魔術攻撃を選択し、また、光球の軌道を逸らして当てるために必要な距離が生まれたからだ。
『人形使い(パペットマスター)』の能力はあくまでも制御に干渉しているだけであり、行使される異能の質を変化させるものではない。
 そのため、射出するタイプの異能の場合は元々の誘導性能がそのまま操る自由度となってしまう。
 そして、シスター達が使っている光球は命中率を少し向上させる程度の僅かな誘導性能しか付加されていないため、ある程度の距離がなければ同士討ちをさせる事が出来なかったのだ。
 動揺から立ち直ったシスター達と視線を交差させる。
 数秒ほど睨み合いを続けた後、四人のシスター達が一斉に結奈達に向かって走り出した。
 同時に、小さいシスターが腰のベルトに装着されていた四つの硬貨袋を頭上へと投げる。
 ギッシリとコインの詰め込まれた硬貨袋の口からはそれぞれ、ツバメのように鋭い六枚ずつの翼が飛び出した。翼は袋ごとに赤、青、黄、緑の四色の光に輝き、
「Viene. Una persona dodici apostli. Lo schiavo basso che rovina un mago mentre e quelli che raccolgono.(きたれ。一二使徒のひとつ、徴税吏にして魔術師を打ち滅ぼす卑賤なるしもべよ)」
 両手を夜空へと差し出した小さなシスターの声に呼応して、銃弾のような速度でバラバラの方向へ撃ち出された。
 四つの硬貨袋は彼女の前を走るシスター達の上や左右を通り過ぎ、一瞬で結奈達に迫っていく。
 その内の一つは正面にいる五和へと斜めに落ちていくように、残りの三つは迂回して、それぞれ右、左、上から結奈へと襲いかかった。
 五和は自身に向かってきた硬貨袋を槍で払い落すが、残りの三つまでは対応しきれない。それでも、彼女に焦りは無かった。
 おそらく、あの小さいシスターは先程のおかしな光球の動きに気づき、その原因が結奈にあると当たりをつけたのだろう。
 わざわざ迂回をさせて硬貨袋を撃ち出したのも、万が一軌道が逸れても味方に当たる事が無いようにするためだと推測できる。
 実際、それは小さいシスターの考える通りではあった。光球を逸らしたのは結奈であるし、下手に真っ直ぐ撃ち出せば再びシスター達が背後から強襲される事になっていただろう。
 結奈は武器も持っていないため、後方支援を専門とする役割だと判断して、まずそちらから倒そうと考えるのはおかしな事ではない。
 小さいシスターにとって不運だったのは、結奈の能力が認識阻害や魔術を逸らすだけのものでは無かった、という事だった。
 結奈の顔に笑みが浮かぶ。それに気づいて訝しげな表情を浮かべようとした小さなシスターの顔は、それを為す前に驚愕に包まれる事となった。
 結奈に向かっていた三つの硬貨袋が、彼女に命中する直前で一斉に軌道を変えたからだ。
 三つの硬貨袋は進行方向を九〇度変化させ、正面からシスター達に襲いかかった。
 さらに、五和の前に落ちた硬貨袋が地面から浮きあがり、これも同様にシスター達へと撃ち出される。
 四つの硬貨袋はそれぞれ四人のシスターに向かっていき、全力で駆けていた彼女達の鳩尾へとカウンター気味に突き刺さった。
 声にならない声を上げながら、シスター達が地面へと倒れていく。手加減はしているとはいえ、これでしばらくは動けないだろう。
 それを予測していた五和は、すでに前衛のシスター達を無視して駆け出していた。
「これで終わりです」
 移動術式によって小さなシスターとの距離を一気に詰め、手にした槍を振るう。
 小さいシスターは、いきなり自分が狙われるとは思っていなかったらしい。反応が遅れ、対処をする前に意識を刈り取られた。
「……ふぅ。なんとかなったね」
 地面に倒れ伏す一〇人のシスター達を見ながら、結奈が安堵の息をつく。
「そうですね。あとは……!? 結奈さん、気をつけてください」
 結奈の呟きに答えようとした五和の言葉が不自然に途切れ、そのまま警戒を促すものに変わった。
 五和はそのまま結奈の手を掴んで走り出す。その後ろから、色とりどりの光球や溶岩の塊が二人を目掛けて飛んできていた。
 その事に気づいた結奈はそれらを能力で逸らし、五和に手を引かれて走りながら後ろを確認する。
 そこには、終油聖堂に入る前に撒いた三〇人のシスター達が戻ってきていた。
 いくらなんでもあの数を相手にするのは無謀だ。この一〇人にしても、ちょっとした偶然と、小さいシスターが使う魔術との相性の良さとが重なったからこそなんとか出来たのだから。
 結奈と五和は走りながら顔を見合わせて頷き合うと、一気に足を速めた。
 小さいシスター達が来たのとは逆側の角を曲がり、中庭には出ずに叙品聖堂の裏側を回っていく。
 そのままそこも通り過ぎ、さらに堅信聖堂の裏も回るように迂回していくと、ようやく後ろから追ってくるシスター達の姿が見えなくなった。
 逃げる途中、後ろから爆発音のようなものが聞こえたので、おそらくは他の天草式がフォローしてくれたのだろう。
「はぁ、はぁ……はぁ。これで向こうは大丈夫だよね」
 体力的にはそれほどでもないはずだが、緊張感による精神的な疲労で息を荒げながら結奈が言う。
「そうですね。後から来た人達もほとんどがこちらに向かってきていましたから、問題は無いと思います」
 その言葉に答える五和。こちらは結奈とは違い、ほとんど息を乱してはいなかった。
 五和の様子に感心しながら息を整える結奈。しばらくしてようやく落ち着いてきた頃、建宮から通信の魔術が届く。
 伝えられたのは、これから行う作戦の指示だった。



 行う事はいたって単純なものだった。上条の行動が速過ぎたために事前にルーン配置の準備を終えられなかった、ステイルのもつ教皇クラスの魔術―――『魔女狩りの王(イノケンティウス)』―――をもって、戦況を反転させる。ただそれだけだ。
 ルーンのカードが配置された範囲内でなら、いくら消化されても再生する炎の巨人。拠点防衛にこそ真価を発揮するそれならば、並の魔術師二〇〇人程度の数の差など何の意味も為さない。
 とはいえ、問題もあった。
『魔女狩りの王』は配置されたルーンのカードの枚数によってその力を変化させる。戦闘前にステイルが準備を始めていたとはいえ、今必要な枚数には大きく足りないのだ。
 天草式の知識によって効率的な配置を行う事でルーンのカードの使用枚数を抑え、設置時間は短縮できるが、それでもある程度の時間はかかる。
 いくら守勢に回っているとはいえ、ルーンのカード配置のために逃げ回っていればシスター達も不自然に思うだろう。
 発動前のルーンのカードに気づかれれば、対処されて配置による効率化が崩されてしまう。そうなれば、必要な枚数が揃う前に押し切られてしまう可能性が高い。
 それを防ぐため、天草式やイギリス清教のメンバーの総力を以ってシスター達を引きつけ、現在護衛の付いていない敵のリーダー―――アニェーゼに、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』によってルーンのカード配置を行えない上条をぶつける事になっていた。
『時間を稼いでいる間に司令塔の撃破を狙っている』のだと相手に思わせ、天草式が逃げ続ける事に疑問を抱かせないために。
 間違いなく、最も危険なのは上条の役割だろう。『幻想殺し』によって通信系の魔術も効かない上条では、『婚姻聖堂』の外で予想外の事が起こった場合に逃げることもできないだろうから。



(上条くん……大丈夫かな)
 周囲の敵味方の魔術制御を行いながら、結奈はそんな事を考えていた。
 そんな彼女の周りでは、五和と対馬がシスター達に対処しながら最後のルーンのカード配置を行っている。
 知識の無い結奈にはルーンのカード配置の手伝いは出来ない。かといって、上条がいる『婚姻聖堂』へ向かう事も出来なかった。
 上条と顔を合わせたくない、という心情もあったが、それだけではない。
 集団戦の得意な天草式の一員として認識され、常に五和と共に行動していた結奈が単独で動けば、それを不自然に感じる可能性があったからだ。
 かといって五和までそちらに回す事も出来なかった。ルーンのカード配置が時間との戦いであり、人員を減らす余裕が無い以上は。
 必然的に、結奈はこれまでと同様に五和のサポートとして行動することになっていた。
 そのため、彼女には上条の方がどうなっているのかは分からない。
 インデックスやシェリーの時は協力する事が出来た。一方通行(アクセラレータ)との闘いでも、少なくとも見ている事は出来た。路地裏の喧嘩なども、結奈が気づくのは基本的に終わった後だった。
 上条が確実に危険な目に遭っているのが分かっているのに、それを手助けする事も、見ている事さえ出来ない。そんな状況は、結奈にとって初めてで―――だからこそ、不安が募っていく。
 それを押し殺しながら二人をサポートし、結奈は準備が終わるのを待ち続けていた。



 ルーンのカード配置が完了し、全員が『婚姻聖堂』の正面へ辿り着くと、後はあまりにもあっけなく攻守が入れ替わった。
 ステイルによって呼び出された炎の巨人は、襲いかかるシスター達を爆発の衝撃波によって次々と薙ぎ払っていく。
 あっという間に五〇人近いシスターが戦闘不能に追い込まれ、残ったシスター達もその圧倒的な力の前に不用意に動く事が出来なくなった。
 互いの立場は完全に逆転し、『婚姻聖堂』の正面扉の前に集まったインデックスやステイル、天草式の面々を包囲しながら、シスター達は歯軋りをするしかない。
 すぐそばの扉の前にインデックスやステイルがいるそこに、結奈の姿もあった。
 しかし、インデックスは未だその事に気づいていない。上条を気にして扉の方に意識が向いている上に、背が低いことで少し離れた場所にいる結奈の顔が見えないのだ。
 さらに、やけになったシスター達の特攻に備えて、結奈の周りが天草式の男達で固められていた事も原因の一つだろう。
 二メートルを超える身長のステイルは気づいているのかもしれないが、そちらからも特に何も言ってくる事は無かった。
 そして、シスター達が動かなくなった事を確認したステイルが、バン、と音を立てて『婚姻聖堂』の扉を開け放つ。
 開かれた扉の向こうには、こちらに背を向けて立つ上条と、驚愕の表情を浮かべるアニェーゼの姿。
(っ! 上条くん!?)
 結奈の視界に入ったその背中は斜めに切り裂かれ、シャツが真っ赤に染まっている。左腕は関節が外れたようにぶらりと垂れ下がり、頭からも血を流していた。
 駆け寄りたい衝動に駆られながら、それでもそれを抑え込んで『婚姻聖堂』の中へと入っていく。
 インデックスはすでに上条しか見ていなかった。これなら気づかれる事は無いだろう。
「使用枚数は四三〇〇枚」
 真っ先に中へと入ったステイルが、歌うように言葉を紡いだ。その隣にはインデックスが立っている。
「数の上では大したことは無いが……いや、天草式ってのは馬鹿にできないね。ルーンのカードの配置を使ってさらに大きな図形を描き、その図形をもって敷地全体の魔術的意味を変質させ、このオルソラ教会そのものを一個の巨大な魔法陣に組み替えるなんて。一応、そいつの右手に干渉されないよう、この建物だけは効果圏内から除外してあるけどね。……そこにある物を全て利用した多重構成魔法陣―――こういった小細工は、僕には学びきれなさそうだ」
 入り口に佇む炎の巨人を自慢げに眺めながら、ステイルは続けた。
「皆にはカードの配置を手伝ってもらった。ま、と言っても元々完成寸前だったジグソーパズルに残りのピースをはめ込むようなものだ。ああ、そう言えば紹介するのが遅れたね。元々、僕は次々と場所を変えて攻め込むより、一ヶ所に拠点を作って守る方が得意なんだ。とある事情でそういう魔術を欲していたからね」
 その言葉と、扉の隙間から見える外の光景に、アニェーゼは呆然と立ち尽くす。
「言ったろ、作戦があるって。……こいつらは囮になるために逃げ回ってたんじゃない。単にステイルの秘密兵器を使うための準備として、カードを敷地内に配置して立ってだけの話さ。……魔術師じゃねぇ俺にはあんまり良く分からない理屈だけどな」
 獰猛に笑いながら上条が言った。
 その言葉にようやくアニェーゼが我を取り戻し、油断なく杖を構えたまま叫ぶ。
「何をやっちまってんですか!数の上ならまだ私達の方が断然多いんです! まとめて潰しにかかりゃあこんなヤツら、取るに足らねぇ相手なんですよ!!」
 アニェーゼの言葉に間違いはない。いくら『魔女狩りの王』が強力であっても、一度に広範囲には対処できないのだ。
 逃げ道を作れない様に包囲して一斉に襲いかかれば、シスター達が全滅する前に天草式は飲み込まれるだろう。
 ステイルが直接炎を使ってシスター達を殺さなかったのも、パニックを起こして特攻される危険があったからなのだから。
 それでも、数の上で圧倒的なはずのシスター達は、動かない。
「何を……!?」
 シスター達の顔に浮かぶのは、迷い。
 アニェーゼの言葉が理論的には正しいと理解していながらも、『魔女狩りの王』の圧倒的な力を目の当たりにしたシスター達にはそれを信じ続ける事が出来なかったのだ。
 恐怖と理性がせめぎ合い、結果として何も行動を起こせない。迷いを湛えたその視線は、真っ直ぐにアニェーゼへと向けられていた。
 シスター達は、この戦いの趨勢をアニェーゼと上条のそれに見出そうとしているのだろう。
 言葉を信じきれないからこそ、その姿で判断しようとしているのだ。
「……面白い、じゃないですか」
 その事に気づいたアニェーゼが、俯きながら呟いた。
 こうなってしまえば、もう互いの人数は関係ない。上条が勝てばシスター達の心は折れ、アニェーゼが勝てば奮い立つ。ただそれだけの単純な図式。
 どちらの勢力も介入する事は出来ない、完全な一対一。この勝敗が全てを決めることになる。
 彼らの距離は僅か五メートル。結奈は祈るような気持ちで上条を見つめ続けた。
「終わりだ、アニェーゼ。テメェももう自分で分かってんだろ。テメェの幻想(じしん)は、とっくの昔に殺されてんだよ」
 迷いのない上条の言葉が、『婚姻聖堂』に響く。それを受け取るアニェーゼの顔には、シスター達と同じ『迷い』が浮かんでいた。
 二人に最も近い位置にいたステイルが咥えていた煙草を指で摘み、投げ捨てる。
 その先端にあるオレンジ色の光が床へと落ちた瞬間、上条が動いた。
 迷いも、手加減も無く床を踏みきり、一直線にアニェーゼへと跳び込んでいく。
 アニェーゼは、まるで迷子の子供のように泣き出しそうな顔で危うげに杖を振るい―――それは、虚しく空を切った。
 アニェーゼの懐に入り込んだ上条が、強く握りしめた右拳を真っ直ぐに振り抜く。
 それは、壮絶な激突音と共にアニェーゼへと吸い込まれ、その小さな体を数メートルにわたって跳ね転がした。
 気を失ったアニェーゼを見て、一人のシスターが武器を落とす。
 その音がきっかけとなり、次々とシスター達がその手に持つ武器を床に落としていった。
 彼女達の表情にはすでに戦意は残っていない。ただ、諦めだけが広がっていた。



 決着がついたその時。そこにいた全ての人間が上条に意識を奪われていた。
 いつも結奈を気にかけていた五和さえもそれは例外でなく―――それは、結奈にとっては好都合だった。
 上条の勝利を確認した結奈は、いまだ残る人払いの魔術を利用して、誰にも気づかれずに『婚姻聖堂』を後にする。
 もしかしたら、インデックスやステイルに気づいたそぶりが無かったのも無意識に同じ事をしていたからなのかもしれない。
 そんな事を考えながら『婚姻聖堂』の裏手に回った結奈の耳に、この場にありえない人物の声が届いた。
「何処へ行くつもりなのかにゃー」
 ぎょっとして振り返る結奈。そこには、短い金髪をツンツンに尖らせて、青いサングラスをつけた、アロハシャツにハーフパンツの少年―――クラスメイトであり、上条の隣人でもある土御門―――が立っていた。
「な、なん……」
 どうしてここに土御門がいるのか結奈には分からない。混乱して思わず逃げ出そうとするが、
「おーっと、そうはいかんぜよ」
 そう言った土御門にあっさりと捕まってしまう。
 所詮は帰宅部の女子高校生。訓練を受けた男に足で敵う訳がなかった。
「オレがここにいる理由は大体予想は付くよにゃー?」
 その言葉で結奈は思い出す。土御門がどういう存在なのかを。
「……必要悪の教会(ネセサリウス)」
 インデックスやステイルが所属する必要悪の教会が学園都市に送りこんだスパイ。学園都市側のスパイもやっているらしいので、多重スパイというやつだ。
「大正解だにゃー。オレにはねーちんが暴走しない様に監視と制止の命令がきてたんだなこれが」
 いやにあっさりと仕事の内容を話す土御門に、不審に思った結奈が疑問を投げかける。
「……そんなの話していいの? あと、『ねーちん』って誰の事よ」
「もう終わった事だしにゃー。あとねーちんは神裂ねーちんのことだぜい? 禁書目録の件で会った、でかい日本刀を持った方な」
 神裂という名前には結奈も聞き覚えがあった。ステイルと一緒にインデックスを追っていた魔術師の事だろう。
 土御門がそれについて知っていた事に驚きは無い。スパイという立場なら知っていて当たり前だろうとは思っていたから。
「その神裂ねーちんが天草式の元女教皇(プリエステス)ってわけだ。情に篤いねーちんが元仲間を助けようとしてローマ正教に喧嘩売らないように、見張っておけって命令ですたい。魔術界隈では人間核兵器扱いされてるねーちんをオレ一人で止めろとか、上も無茶言ってくるもんだにゃー」
 相変わらずよく分からない口調で話す土御門。その言葉に含まれた元女教皇という言葉に結奈が驚愕を顕にした。
「あの人が!?」
 そう言いながらも、結奈はどこかで納得していた。インデックスを守るために自分の思いすら押し殺した電話越しのあの声は、建宮達から聞いた元女教皇のイメージと重なると思えたから。
 その驚愕が過ぎた頃、ようやく結奈は最も聞くべき事を思い出した。
「それで、あんたは私を連れ戻しに来たの?」
 土御門は学園都市のスパイでもある。可能性はゼロでは無いだろう。
 そう、怯えるような目で言った結奈の言葉は、あっさりと否定された。
「いーや、むしろ逆だにゃー。新城ちゃんについては手を出すなって通達がきてるぜい。(……それに、そいつはオレの役割じゃないからにゃー)」
 行方不明者に対して手を出すな、なんて。わざわざそんな命令を出す意味が結奈には分からない。
「……え、最後何て言ったの?」
 しかし、なぜだかそれ以上に、土御門が最後にぼそりと呟いた、聞き取れなかった言葉が気になった。
「なんでもないぜよ。備えあれば憂いなしだ、って言っただけだにゃー」
 土御門はそんな風にはぐらかすと、何事も無かったかのように話を戻す。
「という訳で、今の状況はけっこーギリギリだったりするんだなこれが。……ま、一応、新城ちゃんの事について、かみやんにどこまで話したかぐらいは教えておこうと思っただけだぜい。一方的に知られるってのも気分が悪いもんだろうしにゃー」
 その言葉に、再び結奈の心がざわつく。それを知ってか知らずか、土御門はそれまでと雰囲気を変えて話しだした。
「話したのは二つだけ。オレが知る限りの『人形使い』についての情報と……新城が学園都市に来た理由だ。禁書目録も一緒に聞いてるな」
 土御門が急にまじめな口調になり、結奈が思っていた通りの事を語る。
 当たり前だ。結奈が逃げ出した理由を説明するためには、学園都市に来た経緯から話す必要があるのだから。
「オレから伝えられるのはこんなもんだにゃー」
 俯き、黙り込んだ結奈に対し、土御門は再び元の雰囲気に戻って言う。そして、それ以上は何も語らず、ただ黙って去っていった。
(……ありがと)
 ただそれだけの事を伝えるために危険を冒して会いに来てくれた友人に、心の中で感謝の言葉を伝えながら、結奈もその場を後にした。



 決着から一時間ほどが経った頃。結奈は『婚姻聖堂』の中にいた。
 上条とインデックスは学園都市へ、天草式とオルソラは今回の事件の報告と今後についてをイギリス清教と話し合うために急遽イギリスへ、ローマ正教のシスター達は目立たずに帰国するために近くにあるいくつかの教会へそれぞれ向かったため、すでにここには誰もいない。
 結奈がいない事で五和は最後まで残ろうとしていたが、これからイギリス清教の保護下になる以上、天草式の全員で向かって誠意を見せる必要があると説得されて頷いていた。
 あまりにも簡単に納得したのが気になったが、さすがにそれは結奈の考え過ぎだろう。
(……上条くん)
 結局、このオルソラ救出において、結奈が上条やインデックスと会う事は無かった。
 全ての状況において結奈からの一方通行でしかなく、向こうから気づかれなかったのは幸運だったのか、それとも不幸だったのか。
 それでも、上条の姿を見た事で、会って話がしたいという思いは強くなってしまった。
 その感情は少しずつ恐怖を塗りつぶしつつある。それでも、恐怖を押し殺すための目的が無くなった今、結奈にはまだ決心がつかない。
「どうすればいいのかな……」
『婚姻聖堂』の正面扉に右手をつけ、そこに頭を乗せた格好で呟く。
 一体、どのくらいそうしていただろうか。どちらにしてもそろそろ場所を移った方が良いと結奈が考え出した時。
 ぞくり、と背筋が震えた。感じられたのは、強烈な、殺意を孕んだ視線。
 今度はハッキリと分かる。それは、結奈の背後から向けられていた。
「誰!」
 その事に気づいた結奈が、勢いよく振り返る。その体は、小刻みに震えていた。
 振り返った先、結奈から三〇メートルほど離れた場所にある建宮が空けた穴の横に―――その視線の主がいた。
「おや、気づきましたか。この距離だと『人形使い』の効力は無いはずですから、純粋に気配に敏感だという事ですかねー」
 そこにいたのは頭の先から足の裏まで緑色の礼服に身を包んだ、結奈と同じくらいの身長の白人の男。顔つきからすると、三〇前後といった歳の頃だろうか。
 体は痩せぎすで、礼服の中は随分とゆったりしているように見える。頬のこけた顔には妙な活力が感じられた。
 結奈が見た覚えも、会った覚えも無い、『人形使い』を知る男。そのことに警戒心を顕にする結奈に対し、男は言う。
「相手が『人形使い』とはいえ、聞かれた以上は名乗るのが礼儀ですかねー。今回はまだ個人的な行動ですので、組織内の立場は省かせていただきますが」
 何も答えられない結奈。男はそれを見ながらにっこりと笑い、宣告した。
「私の名前はテッラ。神の敵たる『人形使い』を殺しに来た者です」


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