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No.6597の一覧
[0] とある神秘の幸運少女(とある魔術の禁書目録・オリ主再構成)[ヒゲ緑](2009/03/19 21:47)
[1] 一章 一話[ヒゲ緑](2009/10/11 20:58)
[2] 一章 二話[ヒゲ緑](2009/10/11 20:59)
[3] 一章 三話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:01)
[4] 一章 四話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:01)
[5] 一章 五話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:02)
[6] 一章 六話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:02)
[7] 一章 エピローグ[ヒゲ緑](2009/10/11 21:03)
[8] 二章 一話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:04)
[9] 二章 二話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:04)
[10] 二章 三話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:05)
[11] 二章 四話[ヒゲ緑](2009/09/03 10:16)
[12] 二章 エピローグ[ヒゲ緑](2009/10/11 21:06)
[13] 三章 一話[ヒゲ緑](2009/10/21 09:28)
[14] 三章 二話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:07)
[15] 三章 三話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:08)
[16] 三章 四話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:08)
[17] 三章 五話[ヒゲ緑](2009/03/08 00:43)
[18] 三章 エピローグ[ヒゲ緑](2009/10/11 21:09)
[19] 四章 一話[ヒゲ緑](2009/03/09 23:02)
[20] 四章 二話[ヒゲ緑](2009/09/03 10:21)
[21] 四章 三話[ヒゲ緑](2009/09/03 10:22)
[22] 四章 四話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:09)
[23] 四章 五話[ヒゲ緑](2009/09/03 10:23)
[24] 四章 六話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:10)
[25] 四章 エピローグ[ヒゲ緑](2009/09/03 10:26)
[26] 五章 一話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:11)
[27] 五章 二話[ヒゲ緑](2009/11/17 18:33)
[28] 五章 三話[ヒゲ緑](2009/03/15 19:03)
[29] 五章 四話[ヒゲ緑](2009/03/17 19:14)
[30] 五章 五話[ヒゲ緑](2009/03/18 05:32)
[31] 五章 六話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:11)
[32] 五章 エピローグ[ヒゲ緑](2009/09/03 10:29)
[33] 六章 一話[ヒゲ緑](2009/08/30 17:36)
[34] 六章 二話[ヒゲ緑](2009/10/21 09:27)
[35] 六章 三話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:12)
[36] 六章 四話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:13)
[37] 六章 五話[ヒゲ緑](2009/09/19 19:50)
[38] 六章 六話[ヒゲ緑](2009/09/19 19:51)
[39] 六章 七話[ヒゲ緑](2009/10/11 21:13)
[40] 六章 八話[ヒゲ緑](2009/10/21 09:26)
[41] 六章 九話[ヒゲ緑](2009/10/11 20:55)
[42] 六章 十話[ヒゲ緑](2009/10/21 09:25)
[43] 六章 十一話[ヒゲ緑](2009/11/17 18:32)
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[6597] 六章 九話
Name: ヒゲ緑◆14fcd417 ID:d844114c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/11 20:55
『婚姻聖堂』の結界が破壊される音を合図に、結奈と天草式も行動を開始する。
 方法はいたって単純なもので、正面からの力押しだ。
 元々この教会を拠点とする気は無かったのだろう。『堅信聖堂』に張られた結界は中の天草式を逃がさないためのものであり、外からの攻撃に耐えるものではなかった。
 周囲を見張るシスターも十人程度しかいない。彼女らにとって天草式はあくまでもおまけであり、オルソラの確保が最優先ということらしい。
 おそらく、万が一襲撃があってもその十人程で耐え、その間に援軍を呼ぶ算段だったのだろう。
 すぐ近くに居る本隊が強力な結界によって奇襲を受ける心配が無い以上、よほど圧倒的な戦力を持ってこない限りは時間を稼ぐことはできるはずだから。
 本来ならばその通りだったのだろう。しかし、ここにはローマ正教側が考えもしないイレギュラーが存在した。
 それが魔術であるならば、どんな強固な結界であろうと一瞬で破壊する『幻想殺し(イマジンブレイカー)』という掟破りの力が。
 破られるはずの無い結界が破られたというその事実は、『堅信聖堂』を監視していたシスター達に大きな動揺をもたらす。
 シスター全員の意識は『婚姻聖堂』へと集中し、周囲への警戒が完全に疎かになっていた。
 人数ではほぼ互角、個々の戦闘能力では天草式に軍配が上がるこの状況でそれだけの隙を晒せば、勝負がつくのはあっという間だった。
 僅か一分ほどで監視のシスターを気絶させた結奈達は『堅信聖堂』の結界を強引に破り、拘束された天草式のメンバーの解放に成功する。
 全員の無事を確認すると、結奈達はすぐに『婚姻聖堂』へと移動した。
 向かうのは正面の扉では無く、側面にある壁の外。
 奇襲によって少しでも敵本隊の動揺を誘うために、壁の破壊という手段を選んだのだった。



「何をすべきか、だと? なめやがって、助けるに決まってんだろうが!!」
 真っ先に外壁に辿り着いた結奈が聞いたのは、『婚姻聖堂』の中から響いた上条の怒号だった。
(上条くん……)
 一週間ぶりに聞いた上条の声が、結奈の心を揺さぶっていく。固めたはずの決意がぐらついていくように感じられた。
(余計な事は考えるな新城結奈! 今考えるのはオルソラさんを助ける事だけ!!)
 その弱気を心の中で一喝し、結奈は突入のタイミングをじっと待つ。
「おも、しろい、ですよ。あなた」
 怒りを押し殺したような震える少女の声が聞こえてくる。おそらくは、この声の主がシスター達のリーダーなのだろう。
「二〇〇人以上を相手に、この状況で、あなた一人に何がどこまでできんのか! 見せてもらうとしましょうか! ははっ、この数の差なら六〇秒で挽肉になっちまうと思いますがね!」
 その声に合わせる様に、シスター達が武器を構える無数の金属音が壁の向こうで響く。
 息をのむ結奈。まだなのかと建宮に目配せをしようとしたその時、教会の中からステイルの声が聞こえた。
「まったく、勝手に始めないで欲しいね。せっかく結界の穴からうまく侵入できたというのに。せめて十分にルーンを配置する時間ぐらいは用意させておいてもらいたかったんだけど」
「は……?」
 それに続いて生まれた爆音が少女の疑問の声を吹き飛ばし、周囲の暗闇がオレンジ色の閃光に薙ぎ払われる。
「……す、ている?」
「後の始末は僕ら魔術師が着ける気でいたから素人には引っ込んでいてもらう予定だったんだけどね。あれだけのウソ説明ウソ説得が全部台無しだ」
 呆然とした上条の声に答えるように、ステイルが言葉を紡いでいく。
 それを、狼狽した声が遮った。
「イギ、リス清教? 馬鹿な……これはローマ正教内だけの問題なんですよ! あなたが関わるというなら、それは内政干渉とみなされちまうのが分かんないんですか!?」
「ああ、残念ながらそれは適応されない。オルソラ=アクィナスの胸を見ろ。そこにイギリス清教の十字架が掛けられているのが分かるな? そう、そこの素人が不用意に預けてしまった十字架さ」
 どこか楽しそうな声で、ステイルは話し続ける。
「それを誰かに掛けてもらう行為は、そのままイギリス清教の庇護を得る―――つまり洗礼を受けて僕達の一員になる事を意味している。その十字はウチの最大教主(アークビショップ)が直々に用意した一品さ。僕の手でオルソラの首に掛けろとの命も下っている。……僕の中では優先順位の低い指示だったから途中からは後回しにして、そっちの男に渡してしまったがね。そこの素人が君達に捕まった際、『イギリス清教という巨大な組織の下にいる人間』だと思わせておけば少しは何らかの保険になるんじゃないかなと考えた訳だが……何がどう転がったのか、今ではちゃんとオルソラの首にある。つまり、今のオルソラ=アクィナスはローマ正教ではなく、僕達イギリス清教のメンバーであるという訳さ……分かったかい? アニェーゼ=サンクティス」
 くっくっく、と含み笑いをしながら、屁理屈と言っても良い強引な理論を繰り出すステイル。
「そ、そんな詭弁が通じるとでも思ってんですか!?」
「思っちゃいないね。きちんとイギリス清教の教会の中で、イギリス清教の神父の手で、イギリス清教の様式に則って行われたものでもないし。……だが、今のオルソラがとてもデリケートな位置に立っているのは間違いないだろう? ローマ正教徒のくせにイギリス清教の十字架を受け、しかもそれをやったのは科学サイドの学園都市の人間なんだ。彼女が今、どこの勢力に所属していると判断すべきか、ここは時間をかけて審議すべきだと僕は思う。君達ローマ正教の一存のみで審問にかけるというなら、イギリス清教はこれを黙って見過ごすわけにはいかないんだよ」
 すとん、と着地する音が聞こえ、上から聞こえていたステイルの声が一気に近くなる。
「それに何より、よくもあの子に刃を向けてくれたものだ。この僕が、それを見過ごすほど甘く優しい人格をしているとでも思ったのか?」
「チィッ! 一人が二人に増えた所で、何が……!?」
 怒りを滲ませるステイルの言葉に、憎々しげな声を上げるアニェーゼ。
 しかし、ようやく動いた建宮の声によって、その声は遮られた。
「二人で済むとか思ってんじゃねえのよ」
「!?」
 叫びながら振るわれた真っ白いフランベルジュが建宮の横にあった壁を吹き飛ばし、数メートルにも及ぶ大きな穴をあける。
 天草式は建宮を先頭にして次々にその穴を通り、教会の中へとなだれ込んだ。
 結奈と五和もそれに続き、教会の中へと歩を進める。
 もうもうと立ち込める砂煙の先には、一二、三歳くらいに見える赤毛の少女と向かい合う上条の姿があった。
 少女は鉛筆ぐらいの太さの三つ編みをいくつも並べた髪形で、スカート部分の短い漆黒の修道服に身を包んでいる。
 おそらくはリーダーなのであろうその少女、アニェーゼの右手には自身の身長よりも大きな銀の杖が握られ、後ろには二〇〇人以上のシスター達が各々の武器を構えて待機していた。
 上条からシスター達を挟んだ反対側には、説教壇の前で床にへたり込むぼろぼろのオルソラと、炎の剣を構えたステイルが並んでいる。
 結奈達が突入したのは上条達のちょうど中間地点。シスター達の横っ腹に当たる場所だった。
「建宮……」
 五〇人近くいる天草式の中にいるせいか、上条が結奈に気づいた様子は無い。
 いつものリボンをつけておらず、服装も天草式の物を借りている事もその原因となっているのだろう。
 そもそも上条にはここに結奈がいる事は伝えられていないはずなので、気づかなくても仕方の無い事なのだが。
 少しだけ寂しさを感じながらも、それ以上にホッとした気持ちになる結奈。
 覚悟を決めたといっても、できることなら顔を合わせたくは無いのだから。
「俺が戦わなきゃいかん理由は、わざわざ問うまでもねえよなぁ?」
「お、前。だって、奇襲をかけるのは移動中が最適だって……」
「そういう風に言っときゃ納得して帰ってくれると思ってたんだがよぉ。せっかくイギリス清教の連中と話し合って、お前さんが動く前に決着をつける手はずを整えようとしていたのに。お前さん、想像以上の馬鹿だよな。ま、馬鹿はお前さんに限った事じゃねえし、見ていて楽しい馬鹿は嫌いじゃねえが」
 ちらりと結奈に視線を向け、呆れたように建宮が言った。
 さらに、カツンと足音を鳴らして、上条の背後から聞き慣れた声が飛んでくる。
「まったく、だから決着は誰かが着けるから、とうまは気にしなくて良いよって言ったんだよ。……ここに来る暇があったら、ゆいなを捜してれば良かったのに」
「いん、でっくす……」
 呆然と呟く上条の肩に、インデックスの小さな手が置かれた。
「でも、こうなっちゃったら仕方がないよね。―――助けよう、とうま。オルソラ=アクィナスを、私達の手で」
「……ああ」
 ゆっくりと、上条が頷いた。
 そして、その一連の会話を聞いたアニェーゼが、怒りに任せて命令を叫ぶ。
 殺せ、というその一言をきっかけに、二〇〇人を超えるシスター達が一斉に動き出した。
 与えられた命令を遂行するために。



 天草式の五〇人とローマ正教のシスター二四〇人が激突すると、その場は一気に混戦となった。
『婚姻聖堂』はこの教会の七つの聖堂の中で最も大きく、完成時には数百人もの信徒を迎えられるだろう程のものだ。
 しかし、三〇〇人近い人間が動き回るにはやはり手狭であり、どうしても自由な行動が制限されてしまう。
 そして、動きを止められてしまえば人数で劣る天草式が不利になる事は明白だった。
 機動力を奪われて人の洪水に押し流され、周りに敵しかいない状況になってしまえば、個人の戦闘力の差はたいした意味を持たない。
 もちろん建宮もそれを熟知しているため、このままここで戦い続ける気は無いのだが―――上条やオルソラが脱出するための時間と隙だけは生み出す必要があった。
 だからこそ、不利を承知で混戦に持ち込んだのだ。
 天草式の面々は二、三人ずつに別れて部隊を分散させ、一つの部隊を攻撃しようとして出来た相手の隙を他の部隊が突き、牽制を行う。
 少しでもタイミングを間違えば総崩れとなる状況で、彼らは抜群の連携によって戦線の膠着を成功させていた。
 とはいえ、これもそう長くはもたないだろう。長く続ければ、必ずどこかで綻びが生まれる事になる。
 そう考えながら、結奈は前方にいる建宮へと向かってきた光球の軌道を僅かに逸らす。
 それは建宮を掠める様に飛んで行き、結奈達の後ろへ回り込もうとしていたシスターを捉えた。
 光球の直撃を受けたシスターは近くにいた数人を巻き込んで吹き飛び、壁へと叩きつけられて気絶する。
 魔術を放ったシスターは味方誤射にしか思えないであろうその結果に目に見えて動揺し、その隙をついて建宮が攻め立てていた。
 さらに、右側で海軍用船上槍(フリウリスピア)を振るう五和の身体強化魔術の制御を肩代わりし、魔術制御の負担を減らしていく。
 結奈に与えられた役割は『人形使い(パペットマスター)』の能力を使った戦闘の補助だ。
 周囲の味方の魔術制御の負担を軽減し、敵の魔術を利用して同士討ちを演出。時には教会の敷地全体に張り巡らされた人払いの魔術さえも利用し、相手の意識を逸らしていく。
 もちろん、複数の魔術を同時に操る以上、それだけの負担が結奈へとかかる事になる。
 並の魔術師なら暴走させてしまうようなその制御は、しかし、無意識の能力行使と脳開発によって高められた結奈の演算能力によって完全に掌握されていた。
 他人の能力の存在に依存する能力だからこそ、誰も、結奈自身でさえ自覚していなかったその演算能力は―――インデックスの放った『竜王の殺息(ドラゴン・ブレス)』を構成する数百、数千、数万もの魔術にさえも同時に干渉が可能なほどの―――学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)にも匹敵するものだった。
 能力を自覚する事で、完全では無いにしろその演算能力を意識的に使えるようになった結奈にとっては、周囲を飛び交う一〇や二〇程度の魔術操作は大した負担にもならない。
 これくらいならば、学園都市を抜け出す際に使った空間移動(テレポート)の方がよほど複雑な演算を必要としていただろう。
 そうして周囲の敵を牽制し続けていると、ようやく建宮からの指示が入る。
「よし、オルソラ嬢達は行ったな。こっちはもういい。お前さんは五和と一緒に先に中庭に向かえ」
 結奈がちらりと視線を巡らせると、上条が入ってきた正面扉とは正反対の位置にある裏口から二人が飛び出していくのが見えた。
 オルソラは自力で歩く事が出来ないのか、上条に抱きあげられた格好だ。
「分かりました、教皇代理。……結奈さん、行きましょう」
「うん。建宮さんも気をつけて」
 それだけを伝え、『婚姻聖堂』から脱出する結奈達。
 後になればなるほど敵味方の比率が一方的になって距離をとれなくなるため、近接格闘に劣る結奈は真っ先に離れる必要があるからだ。
 最初に空けた壁の穴を通り、ぐるりと『婚姻聖堂』を迂回する形で裏へと向かう。
 角を曲がると、上条達が出てきたであろう裏口が見えた。
 そこでは結奈達と同時に脱出した天草式のメンバーと黒いシスター達がすでに交戦を始めている。
 しかし、上条達の姿はそこには無い。
(上条くんは?)
 結奈が急いで辺りを確認すると、裏口の真向かいにある細長い『叙品聖堂』を取り囲む建設用の鉄パイプの足場を駆け上がる上条の姿が見えた。
 上条の背後には黒いシスターが迫っており、彼女が掲げる松明からはソフトボール大の溶岩の塊が飛ばされていた。
 上条はオルソラを抱いたまま器用にそれを避け、そのまま屋根へと向かっていく。
 それを見ていた地上のシスターたちが、一斉に上条に向けて武器の切っ先を構えた。
 それぞれの構える切っ先が、赤や緑、青、金色など、色とりどりの光を放ち出す。
「あれは……足場ごと打ち抜くつもりです!」
 五和が言ったのと同時、結奈が数十人の黒いシスター達へ向かって駆け出した。
 隣にいた五和もすぐにそれに気づき、慌てて結奈の後を追っていく。
(全部は無理でも、出来るだけ止めなきゃ!)
 必死に駆けていく結奈だったが、能力の効果範囲に入る直前、色とりどりの光の羽が端から順に打ち出されてしまう。
 光の羽は上条の後を追うように足場や外壁を破壊していき、半分ほど打ち出された所で鉄パイプの足場はついに崩壊を始めた。
 足場が大きく傾いた事で上条の移動速度が一気に落ち、そこを狙って残りの光の羽が打ち出され、
(させない!!)
 それらは全て、無防備なシスター達の背後をギリギリで駆け抜けた結奈によって逸らされた。
 その隙に上条達は屋根へと飛び移ったようで、二人の姿はもう見えない。
 そこでようやく背後の気配に気づいたシスター達が急いで振り返ろうとするが、結奈達は立ち止まらずに走り抜け、そのまま中庭へと出る。
『婚姻聖堂』『叙品聖堂』『終油聖堂』『洗礼聖堂』の四つの聖堂の間にある大きな三角形の中庭では、ステイルが二〇人近いシスターに追われていた。
 ステイルは炎剣を爆発させて近くのシスターを吹き飛ばしながら、追手を連れて『洗礼聖堂』へと入っていく。
 それだけの数に追われているステイルも気になったが、結奈達も先程のシスター達の半分ほど、三〇人はいるであろう集団に追われており、助けに行く余裕は全くなかった。
 背後から撃ちこまれる溶岩の塊や光球を、能力に気づかれないよう避ける演技をしながら逸らしていく。
「結奈さん、こっちです」
 いつの間にか結奈を追い抜いていた五和に先導され、『終油聖堂』と『洗礼聖堂』の間を抜ける形で中庭を通り過ぎた。
 そのまま終油聖堂をぐるりと回り込み、シスター達が角を曲がる前に裏口から中へと入る。
 同時に五和の魔術で幻影を作り、それを中庭から離れていくように移動させた。
 結奈達は裏口の近くで息を潜め、外の動向を探る。
 人払いの魔術を利用した心理誘導が功を奏したのか、一度近づいてきた足音は狙い通りに中庭とは逆方向に走って行った。
「これで少しは時間が稼げるかな」
 ホッと一息をつく。戦闘が始まってから緊張状態が続いていたため、この十分ほどでかなりの疲労が結奈を襲っていたのだ。
「とはいえ、これはただの時間稼ぎにしかなりません。彼女達が戻ってくる前に、少しでも戦況を有利にしておかないと」
 五和の言う通り、これはあくまでも一時的に相手の戦力が減っただけだ。
 しばらくすればあのシスター達も異変に気づき、こちらへ引き返してくるだろう。
 重要なのは、その間にどれだけ相手の数を減らせるか、ということだった。
 そのために中庭の状況を確認しようと二人が『終油聖堂』の二階へ上がった時、何かが爆発するような音が中庭から聞こえてくる。
 急いで窓のそばへ行き、中庭を見下ろす結奈達。
 爆音の起こった場所を確認すると、そこにいたのは百人近い漆黒のシスター達に包囲された純白のシスター。
「インデックス!?」
 どう考えても逃げられそうにないその状況に結奈が声を上げた瞬間、再びそこから爆音が響く。
 光も何も無く、ただあるのはすさまじい音だけの、不可思議な爆発。
 しかし、吹き飛んだのは純白ではなく、漆黒のシスター達だった。
「え……?」
 一体何が起こったのか結奈には全く分からない。
 隣の五和に尋ねようとするが、彼女も同じ様に呆然としていた。
 そうして二人が呆けている間にも同じ様な見えない爆発が次々と起こり、インデックスの包囲網がズタズタに切り裂かれていく。
 距離があるため結奈からはハッキリとは判別出来無かったが、五和にはシスター達自身が自ら飛び退いているように見えたらしい。
 それも、体のリミッターを外して、足が壊れるのにも構わずに行ったのだと。
「……インデックスがやったのかな?」
 なんとなく、そんな気がした。
 彼女は魔術の専門家だ。魔力が無くとも、結奈のように他人の力を利用する事だってできてもおかしくは無い。
「だったら、あっちはだい……「Dia priorita di cima ad un attacco.(攻撃を重視、防御を軽視!) Il nemico di Dio e ucciso comunque.(玉砕覚悟で我らが主の敵を殲滅せよ!!)」」
 大丈夫、と言おうとしたその時。中庭の方から、一人のシスターの叫び声が聞こえてきた。
 瞬間、インデックスを取り囲む漆黒のシスター達の動きがピタリと止まる。
 そして、全てのシスターが衣服の中から何かを取り出し、それを自らの耳へと突き刺した。
「鼓膜を……破った!?」
 五和から驚愕の声が零れ落ちた。
 それによって結奈もシスター達が何をしたのかを理解する。
 そして、その理由も推察できた。
(きっと、あれはインデックスの攻撃を防ぐため。声か何かを使った攻撃を防ぐために、自分の鼓膜を破った。だったら……まずい!!)
 結奈の考えがまとまる前に、漆黒のシスター達は純白のシスターへと襲いかかろうとする。
 ステイルと建宮は彼女の近くにいるが、二〇人近いシスター達に足止めされ、救援には向かえそうになかった。
 他の天草式は彼らよりも遠い場所であり、こちらもそれぞれが相当数のシスターを相手にしている以上間に合いそうにない。
 思わず結奈がインデックスの名を叫び出しそうになった時、
「こっちだ!!」
『終油聖堂』一階の両開きのドアが開かれ、そこから上条が叫んだ。
 あまりの光景に固まっていたインデックスが、その声を聞いて弾かれる様に上条の下へと走り出す。
 それを確認したステイルと建宮もシスター達の隙をついて終油聖堂へと滑り込み、間一髪で扉の錠を閉める事に成功した。
 それでも、これで形勢が一気にローマ正教側に傾いてしまった事は結奈にも理解できる。
 呆然と窓の外を見つめる結奈に、五和が声をかけた。
「行きましょう、結奈さん。このままここにいると、外から狙われる可能性があります」
 そう促す五和に続き、結奈は『終油聖堂』の奥へと向かっていく。
 その瞳に押し潰されそうな不安を抱えながら、それでも、しっかりと前を見続けていた。


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