如月の頃(晴れ)
先日、緋真の嬢ちゃんが亡くなった。
まったく、運命だか偶然だか知らないがそいつは余程朽木家の事が嫌いらしい。
馬鹿姉の青春の嬢ちゃんに続いて奥さんまでも白哉君から奪うとはな。
俺を過去に飛ばしたのもそいつだとしたらとんだ疫病神だ。
元々病弱な嬢ちゃんだったが、たった五年の結婚生活で居なくなるのは早すぎる。
葬儀で喪主を務める白哉君は毅然としていた、もう少し取り乱しても誰も責めないと言うのに真面目すぎる。
俺の所に来た時も自分の分も下界勤務と受けてもらって緋真嬢ちゃんとの生活も有意義に過ごせたとか言って礼を言いやがる。
全く、ホント世話の焼ける姉弟だ、第三者に促されないと泣けもしない、青春の嬢ちゃんとは別系統の世話焼かせって奴かよ。
埋葬が済んで解散した後、酒を持ってその夜は白哉君の部屋で過ごした。
お互い無言で酒を酌み交わし、ある程度酔いが回った所でポツリポツリと緋真嬢ちゃんの話を始めた。
緋真嬢ちゃんの生い立ちから、日々の生活の話、そして緋真嬢ちゃんには妹が一人居るらしいということ。
一緒に尸魂界に来たそうだが、戌吊での生活の苦しさから赤ん坊を捨ててしまったんだと。
自分が幸せになって、罪の意識なんかもあったんだろうな、白哉君に妹を探してくれと、妹を頼むと頼んで逝ったらしい。
探すなら戌吊かねぇ、とりあえず白哉君が落ち着くまでは地上任務は控えめで行くとするか。
弥生の頃(くもり)
緋真嬢ちゃんの妹を探し始めて1年、その妹を真央霊術院で発見した。
ルキアと言う名で緋真嬢ちゃんに良く似た嬢ちゃんだ。
白哉君はさっそく養子に誘おうと朽木家の者を連れて霊術院に向かおうとした。
そりゃまた、悪目立ちしそうだな、とりあえず、友人関係くらい把握してフォローとか入れれりゃ良いんだが。
だけど、フォロー入れたとしてもだ、相手の友人に友人続ける気がなけりゃどうしようもない。
瀞霊廷で50年以上生きてきて思うが、尸魂界の人間にとって貴族ってのはそう軽いもんじゃないらしい。
青春の嬢ちゃんみたいな性格でも、貴族を意識せず付き合える人間なんかそう居はしなかったらしいしな。
ルキア嬢ちゃんが貴族ってのに潰されなきゃいいけど。
弥生の頃2(くもり)
はいはい、案の定、友人に距離を置かれたらしいです。
何とかしたいのは山々だが正直、第三者が現れて貴族でも分け隔てなく付き合ってあげてなどと言われてどうにかなる話じゃないしなぁ。
手を打てないまま、嬢ちゃんは霊術院は即日修了、護廷十三隊に入隊らしい。
白哉君に六番隊で引き取るのかと聞いたら十三番隊らしい。
確かにあそこの浮竹隊長はおっとりしてて良い人だが、うちで引き取らない理由にはならないはずだが。
さては、距離測りかねてやがるな、全く何時までたっても困った坊ちゃんだ。
朽木家専門のトラブルバスター金崎玄之丞が一肌脱いでやると致しますか。
卯月の頃(晴れ)
銀嶺元隊長の所に茶を飲みに行ったついでにルキア嬢ちゃんがここでどういう扱いなのか聞いてみた。
緋真嬢ちゃんに良く似たルキア嬢ちゃんを見かけて、それを気に入ったので引き取る事にしたという事になってるとか何とか。
それはあれでしょうか、義妹とイチャラブ姉妹丼ルートみたいな?
どうやら緋真嬢ちゃんが姉とは明かさないで欲しいとか言ってたらしい。
隠し事が在るから、白哉君も距離を縮められない、ルキア嬢ちゃんも貴族に引き取ってもらったという負い目が在るから尊敬と畏怖の目で兄を見るようになるとそう言う事か。
正直言わせてもらうが、そんなの家族とは言わねー。
むかついたので白哉君もルキア嬢ちゃんも朽木の家に居る事を良いことにちょっとばかり策を練るとする。
銀嶺元隊長にも協力を要請した、流石に年の功、暇な老人だけあって二つ返事だ。
作戦名「庭でルキア嬢ちゃんと話してるところに偶然現れた白哉君の本音の戦い」みたいな。
銀嶺元隊長には白哉君を庭にやる役目を頼んでおいた、俺はルキア嬢ちゃんを庭に足止めする役だ。
そういえば、きちんとルキア嬢ちゃんと話すのは初めてだなぁ。
庭で偶然出会った振りして色々と話を聞いてみた、始めは俺の事も貴族か何かだと思ってたらしく硬かったがそうでないと判ってからは割と気さくに話をしてくれた。
そもそも、俺を貴族と見間違えるとかねーわ、どう考えても貴族顔じゃねーしなぁ。
そう言ったら確かにとか言いやがったのでアイアンクローかましておいた、くっ、貧乳には優しさが足りなさ過ぎる。
そんな話をしてた時、こっそり仕込んでおいた玄海嬢ちゃんのセンサーに白哉君がかかったので作戦を始めた。
話は単純だ、奥さんの事を忘れられない白哉君がルキア嬢ちゃんの事を見初めて近くに置いたと、実はあまり話しかけて来ないのは子供が自分の好意を素直に表現できないで照れ隠ししてるだけだとか、ツンデレだからああ見えて好感度はマックスだとかある事無い事白哉君に聞えるように話した、話しまくった。
話してるうちに最初は半信半疑だったルキア嬢ちゃんも、徐々に頬を赤く染めて、まさか、とか、あれはそう言う事だったのかとかぶつぶつ言い出した。
結局、聞いてられなくなった白哉君が兄上と叫びながら現れたり、冷静さを失った義兄を呆然と見ている嬢ちゃんに実は冗談だと言ったら顔を真っ赤にして二人して追いかけてきた。
いやいや、雨降って地が固まるって言うけど、これがきっかけに少しは兄妹同士話をする様になると良いんだがな。
ただ、白哉君、いくら照れくさいからとかかっこつけたい兄心を粉砕したからといって千本桜を散らすのは勘弁。
あれ、攻撃範囲広すぎて玄海嬢ちゃんじゃ防げねぇーんだよ。
ま、仲良き事は良いことなりってか、久しぶりに朽木家に笑い声が響き渡った、って、良い所で締めたいんだが、普通に捕まって説教受けた、義兄妹にそろって。
君等実は仲良いだろう?
卯月の頃2(晴れ)
とりあえず、今俺が出来ることはこれくらいだろう。
きっかけは用意した、後はなるようになるだろう、それくらいは弟分を信じていたい。
ま、一応、白哉君にもあの後、遠慮して付き合ってたら緋真嬢ちゃんの頼みの兄として妹を見守って欲しいを叶えるなんて無理だと言っておいたのでがんばるだろう。
これだけ背中押されてどうしようもならなかったら緋真嬢ちゃんの墓参りで無い事無い事報告するぞと脅しておいた。
掟がどうとか、貴族としての役割がどうとか言ってたが、妹と親しくしながら両方やればいいさ。
ルキア嬢ちゃんにも堅物で頑固で融通効かなくてツンデレな奴だが、義兄として支えてやってくれと言って置いた。
昨日よりずっと目に力が戻ってきているので大丈夫だろう、昨日会った時は何処のレイプ目だよと言いたいくらいどんよりしてたしなぁ。
明日からは再び地上勤務を増やしたし、また当分尸魂界には戻って来れないな、まぁ、二人で仲良くな。
皐月の頃(晴れ)
再び地上での任務の日々が始まった。
そんな中、実は先日、うちの実家を発見した。
俺は生まれてないが曾婆ちゃんと爺ちゃん婆ちゃんと若い頃の母親を見た。
やっと、やっと戻ってきたんだなぁ、そんな感慨が胸に湧いて来る。
タイムスリップなんて誰も信じない出来事に、死後の世界、死神、以前の俺なら何一つ現実にあるなんて考えなかった。
俺が生まれるまであと少し、俺が過去に飛んで消えてなくなるまであと少し。
あと少しで目標に届くようになって俺は考えてしまう。
もしこの時代の俺が過去に飛ばなかったらどうしよう。
今の俺は過去に飛んだ結果ここにいる、飛んだなら良い、でも飛ばなかったら俺は消えるのだろうか?
消えなかったなら俺は一体なんなのか、パラレルワールドって事になるのかもしれない、そうなら曾婆ちゃんの孫は俺じゃない。
ま、消えるにしても長く生きたし正直かまわないような気もする、こりゃ、せめて看取るだけで一緒には暮らせないんだろうな。
そうなったらそうなったで自己満足と言われても構わんし、実際そうだし、援助くらいはさせてもらおう。
うむ、悲観的なのは俺には似合わん、特にこう言う時は、昔々生き(死にか逝きかもしれんけど)別れた人間が目の前に居たりとかな。
俺はこの日、ある再会をした、家族にではなく。
今はまだ自分の中で状況が消化出来ていない。
金崎玄之丞 義兄妹の仲を取り持った頃の日記より一部抜粋。
朽木青春の憂鬱2
目の前に懐かしい人が立っている。
相変わらずの平凡顔、不機嫌そうな口元、優しげな瞳、全然変わっていなかった。
相手には私はどう写っているのか、変わってないだろうか、変わっただろうか?
ただ、私はこれから玄之丞と戦わないといけない。
「なるほど、協力者か。死神は俺らのこと知ったら殺しに来るで。信用できて実力がある、そう証明できる奴がおるんか?」
私達のリーダー格の平子真子はそう言ったし、ひよ里も虚化した私達を見捨てた死神を良く思っていない。
私の協力者を作って藍染惣右介を追い込もうという話はあまり肯定的に受け取ってもらえはしなかった。
だから彼等はひとつ条件を出した、浦原さんに霊圧をごまかしてもらい、ハッチさんの結界の中で実力と人柄を試すと。
失敗したなら尸魂界にはもう関わらず、独自に藍染惣右介を追うと。
これは賭けだ。
私は取り戻す、自分の甘さとうかつさで失ったモノを、大切な時を。
その決意でこの場に立っている。
玄之丞は私の姿を見ると少しだけ驚いて、すぐに不機嫌そうな表情に戻った。
「ひさしぶり、玄之丞、元気だった?」
「まぁ、な。誰かさんが居なくなったから滅茶苦茶忙しくて何度も死ぬかと思ったがな」
そう言って少しだけ笑った。
「全く、死にぞこないが生きてたのならさっさと顔出せ、貧乳過ぎてそこまで頭回らなかったのか馬鹿」
「あ、相変わらず一言多いわっ、もうちょっと再会を喜びなさいよ!」
そういう私に肩をすくめて溜息を吐いた。
「喜んで良いのか? 解放状態の春雷王とか手に持ったままいわれても説得力ねーよ」
「相変わらず、可愛げが無いね、ツンばっかでデレが無いわよ、萌えキャラ失格だと思うな」
「俺が萌えキャラとかマジデ勘弁して欲しいんですけど、脳みそ沸いてないか、一辺死んどくといいよ」
「うん、相変わらずで安心した、だからさ、本気で来てね」
そして私は雷を纏うハルバートを構え、彼は短刀を標準サイズの黒い斬魄刀と黒い玉に変えて構える。
「白哉君がな、結婚した」
私の初撃を彼は黒い玉で受け流す。
「美人?」
そのまま切りかかってくるのを体をそらして避ける。
「あぁ、美人だった。結婚してから六番隊の隊長にもなって幸せそうだったけどな、先日亡くなったよ」
距離を取る私に、彼は無詠唱で破道の三十一『赤火砲』を撃ってくる、切り飛ばそうとするけど昔よりずっと威力が上がっていた。
「そっか、白哉はちゃんと泣けた?」
火線を巻き込むように自分の得物を振り回して霊力を込める。
「葬儀では泣かなかったよ、だけどその日の晩にちゃんと泣かしておいた。全く、姉弟そろって世話が焼けやがる」
蓄積する雷気をそのまま彼に向けて解き放つ。
「感謝してるわよ? 今は立ち直った?」
それを縛道の三十九『円閘扇』で受け止め、手に持った黒い斬魄刀を槍の形にして投擲する。
「妹が出来てな、奥さんの緋真嬢ちゃんの妹のルキア嬢ちゃんだ。大切にしてる」
その槍を私は春雷王で受ける。弾かれたそれは狙ったように彼の手に収まった。
「強くなったね、感じる霊圧も肌にぴりぴり感じるくらい」
「まぁな、何十年もやってりゃそれなりに強くなりもするだろうよ」
私は春雷王を正眼に捧げ持つ。
「でも、それで限界? だったらちょっと過大評価だったかなって思うんだけど」
彼は手元の槍をそのまま黒い玉に突き刺してひとつの玉にした後、右手を上に捧げて玄海に触れる。
「そっちこそ、ここ数十年サボってたんじゃないのか? その程度だとしたら俺の努力とか意味無しじゃねぇかよ」
私と彼はお互いに笑みを浮かべた。
「「言ったな!」」
「天声遍く轟け!」
「全界遍く呑み干せ!」
「卍解『春雷青竜王』!!」
「卍解『北洋玄海』!!」
了
後書き
と言うわけで、今回は青春の憂鬱でした。
リアルに原作通りにすすめると登場は何時になるやらです。
結果、わりと予定通りに近い状態で再登場と相成りました。
ホントは弟分の面倒とこの話は一緒にする予定だったんですが長くなりそうだったので。
十一番隊は幕間に近い形で間に挿入して今回の話になります。
ちょっとだけシリアスに、ちょっとだけ燃える展開を目指してみました。
戦闘シーンなどは心理描写や日記と違って文章力がモロに出てしまう分野なので不安ですが、よければ楽しんでくださいませ。
そろそろコメントが100越えそうなんですが、その他板に移動した方が良いかな?