長月の頃(晴れ)
先日、斬魄刀の始解が出来るようになった。
ちょろい、と言うのは嘘だが、むしろ始解出来る様になってからの方が大変だったりする。
何故なら、もうあの夢は見なくなるんだろうなと漠然と思っていたんだが超見てる。
その上、お喋り付きです、しかも体感時間としては寝てる時間とほぼ同じ時間くらいだろうか。
レム睡眠とかノンレム睡眠とかどうなってるんだろうか?
そのうち原因不明の過労とかで倒れたりしないだろうか、何時間寝なくて人間は生きていけるんだったっけ?
能力の方だが俺の周りをふよふよ飛び回る癒し系斬魄刀だと思ってたのでそう言ったら、そんな訳有るかと殴られた。
誰にとは言いません、そんなことする奴なんか一人だけだよ、馬鹿女め。
まぁ、それは兎も角、隊舎に帰って来てすぐに道場で色々実験とかをした。
斬魄刀の使い方は斬魄刀本人に聞くのが一番らしい。
だからと言って自分で調べないのは怠惰だと思うんだ。
そんな事を青春の嬢ちゃんが言ってたがあの好奇心に満ちた目、自分が弄りたいだけと見た。
色々試してみた結果、触れて柔らかいのは俺だけ、手が玉に潜っていくのも俺だけらしい。
他の人が触ってみると滅茶苦茶硬いみたいだ。
透明感は無く、黒と言っても光の反射――つまり光沢が無いので立体感が感じられません。
後、勝手に動く、自分で動かそうと思ったら玉が二つに分裂した。
体積は半分くらいになったようで片方は相変わらず俺の周りをふよふよと漂ってるだけだ。
まさか本当に癒し系斬魄刀なのか見たいな事を嬢ちゃんが言ってたので自分で半分の方を投げつけておいた。
ファンネルみたいな使い方が出来るみたいです、ちゃんと投げつけたあと自分で戻ってきました。
犬でも飼ってるみたいだ。
弥生の頃(くもり)
生前、タイムスリップする前の話だ。
とあるSF小説にアメーバ状の宇宙生物で宇宙刑事という滑稽な存在を主役とした物語があった。
人間の体の中に入り込んで共生する奴だ。
怪我とかすれば傷口を塞いでくれるんだが、傷口をアルコール消毒すれば嫌がって傷が開いて出血した見たいなエピソードを覚えている。
何でこんな話をするかと言うと、解放状態の玄海ちゃんが同じような事ができたからだったりする。
あの玉、どうやら水みたいなものらしく夢であれこれ話してたら教えてくれた。
とりあえず実験と言うことで大怪我して隊舎に戻ってきた同僚の死神に試してみた。
超びびられた、泣いた、お母さん助けてーとか泣き喚いた。
うん、俺も泣く、なんか黒いスライムみたいなのが傷口からじわじわと体の中に入ってきたら超泣く。
ちなみにきちんと傷は塞がりました。
ふさいだ上で鬼道で治療すると治りがめちゃ早いです。
骨折とかにはやらないよりマシ程度だけどな。
この能力は四番隊向きだよなとか誰かが言ってたので転属していいか聞くと断られた。
青春の嬢ちゃんにジョジョ風に、だが断るとか何とか、貴様はまだ平だろうが権限なんかねーよ。
そんなこと言ったらそろそろ席官に推薦されてるんだとか言っていた。
それはめでたい、主に二人組み解消的な意味で。
卯月の頃(晴れ)
青春の嬢ちゃんが席官になった、第三席らしい。
入隊一年で三席とか出世滅茶苦茶早いらしい。
俺はと言うとめでたくもコンビ解消です。
単独で下界任務とか請け負うようになりました。
おかしい、難易度が全然変わってない、前衛居なくなった分厳しくなったくらいだ。
要するにアレか?
以前と同じ難易度の仕事+始解でパワーアップ-前衛=相変わらず変わらぬ危険度の仕事
って事なのか?
もしかして席官クラスの仕事単独でやってますか俺。
聞いてみたら「Exactry、その通りでございます。」とか言ってたので暴れた。
道場が半壊した。
嬢ちゃんと俺の給料も半壊した。
卯月の頃2(曇りのち雨)
後日、隊長に仲良く説教喰らってから、減給終わった後、昇給があると伝えられた。
本当は減給喰らってなければ以前の時点で昇給はちゃんとして貰えてたらしい。
席官には空きが無いので昇進は無いがとか言われましたが給料上がるなら面倒ごと増えるし昇進は要らんなぁ。
忙しすぎてその給料もあまり使い道無いんだがな。
休みごとにお菓子とか家族に持って帰ってたんだが使いきれないのでどんどん増えてった。
そしたらなんか食料の配給みたいになってしまった。
自分の所じゃ食いきれんとか言って近所にも配ってたらしい。
まぁ、やっかまれると大変だしね。
自分等ばかり悪いなぁとか言われたがえこひいきくらいするし、人間だから。
建前は正義の為でも平和の為でも世界の為でも言えるけど、人間なんて本音では色々順番つけて個を優先したりしてるものだ。
家族の為には戦える、まぁ、百歩譲って仲間の為にも戦える、後自分の為にも。
多くは望まないけど、平和に生きていたいなぁ。
その為にはとりあえずある程度強くなっておくにこしたことは無いよな。
玄海嬢ちゃんの特訓でもしようか。
あのふよふよ漂ってる方の玉、操作権とか斬魄刀本人にありましたよ。
色々頑張ってくれたら死角とか減って楽になると思うんだ。
神無月の頃(晴れ)
始解を覚えてから一年ちょい、玄海嬢ちゃんの訓練にメドが立ってきた。
要するにだ、嬢ちゃんが敵の攻撃を阻んでいる間に、俺が詠唱付きの鬼道を撃てば隙が無くなると言う事だ。
受け止める攻撃は早ければ早いほど、強ければ強いほど練習になって良い。
実戦+隊長と青春の嬢ちゃんとの模擬戦などで経験値の蓄積は徐々に彼女と俺を強くした。
って言うか、瞬歩な上に始解して本気で殴り掛かって来ないでください、流石に死にます、特に隊長とか剣速はえーよ、速過ぎだ、流石に時間を縮めすぎだろう。
元々が液体なので断ち割られても壊れるという事がないのは利点です。
そんなこと言ってるうちに当然割られた、じゃあ手加減は要らんのうとかもう勘弁。
受け流しを覚えるんだ、回転してそらせば割れない!
斬魄刀の残り半分を剣の形にして自分で振るえば攻撃も防御も出来てなかなか便利だしホント俺向きの斬魄刀だ。
あと、感覚の共有が出来るようになった、玄海嬢ちゃんが言うには心と心が触れ合う感じだとか。
何が言いたいかと言うと、二つに分けた斬魄刀を片方を受信に、片方をセンサー+送信として使う事が出来るということだ。
女風呂とか覗き放題だなぁとか思ってたら玄海嬢ちゃんが足の上に凄い勢いで落ちてきた。
どうやら男の浪漫は無理らしい、残念だ、凄まじく残念だ。
正直に俺がこの覗き能力を持ってる事を誰かに話したら人格を疑われて困るので内緒にしておく事にしよう。
出来ないのに覗き扱いされるとかデメリットしかねーよ。
如月の頃(くもり)
そろそろ六番隊に入って10年以上になる。
それなりに強くなったしそれなりに仕事も出来るようになった。
隊の中でも古参とはいえなくても中堅くらいに位置付けには居る。
相変わらず青春の嬢ちゃんにはこき使われてるし、隊の雑用は減りやしない。
席官にしなかったのは席官全員の雑用やらせるためじゃないのか?
だとしたら相変わらずふざけた脳みそしてるようなので技術開発局に寄って飲むと踊りたくなる薬でも貰ってこよう。
歌いたくなる薬とかでも可だが、とりあえず玉露に混入してくれるわ。
死神になってから、幾つかの隊の隊長や副隊長、席官の顔ぶれが結構変わった。
六番隊はそれほどでもないがどうもここしばらく入れ代わりが激しいらしい。
尸魂界にも世代交代ってのはあるんだな、青春の嬢ちゃんもその一人って奴だろう。
嬢ちゃんが隊長になって、俺が隊員としてサポートするって言うのも悪くない、本当に悪くないから腹が立つ。
もう少し嫌なやつなら純粋に嫌えたし、俺の精神衛生上よろしいんだがなぁ。
相変わらず、貴族の交流会にもお供する場合が多い、最近、白哉君が兄上とか言って来るんだが、懐かれて悪い気はしない。
弟とかいなかったしな、彼もあんな姉より兄が欲しかったんだろう、微妙に発音がおかしい気もするが気にしない……絶対、気にしない。
そして、砕蜂も相変わらず夜一さんに振り回されているらしい。
あ~、俺も夜一さんに振り回されて~、貧乳に振り回されるとかどんなだよ、俺。
そう言えば流魂街で服だけ残して魂魄が消滅する事件が起きている。
家族は大丈夫だろうか、九番隊が調査に赴くらしいという話を聞いた。
六車隊長なら、何とかしてくれると思う、ヤンキーだが実力は確かだ、ヤンキーだがな。
青春の嬢ちゃんが珍しく休暇の申請もしていた。
普段から仕事しねぇから正直申請要らないんじゃとか思う。
有給では無いので給料減るのでどんどん休みとか取るといいよ、主に俺が喜ぶ。
ただし、手続きとか俺がやらされなければの話だがな、他人の書類の申請とか本人やるより面倒なんだよ、全く困った奴だ。
しかし、下界はまだ明治時代くらいのはずだが、十三隊の隊長どもは時代考証とか無視してないか?
六車隊長の副官とか頭メガネとか付けてるし七番隊の愛川隊長なんてアフロだよアフロ。
全員、センスが未来予知過ぎるよ全くなぁ。
如月の頃2(くもり)
護廷十三隊十二番隊隊長『浦原喜助』と鬼道衆総帥大鬼道長『握菱鉄裁』が捕らえられたらしい。
平の隊員である俺には詳しい事情は聞こえてこない。
ただ判っているのは朽木青春が帰ってこないと言うことだけだ。
隊長は隊に顔を出す暇も無いらしく、青春が戻ってこなくなってから顔を見ていない。
二番隊、三番隊、五番隊、七番隊、十二番隊は何が起こっているのか酷い状態だ。
まるで蜂の巣を突いた様な騒ぎとでも言うべきだろうか、瀞霊廷内の空気が緊張している。
正直、俺にはまともに日記を書く暇も実は無かったりする、青春の事は祖父である銀嶺隊長がどうにかするだろう。
平の隊員に出来る事と言えば隊の仕事をきちんと回すことだけだ。
帰ってきたら徹底的に叱り倒してやる、あの馬鹿女が。
金崎玄之丞 六番隊一般隊員の頃の日記より一部抜粋
朽木青春の憂鬱
この世界に生まれてもう30年くらいになる。
気付けばブリーチの世界なんて、二次創作の中だけの事だと思っていたけど、事実は小説より奇なりとでも言うべき?
むしろ私こそが二次創作の主人公とかそんな妄想すら日常だった。
幸い、こちらの世界では家柄と才能があったので苦労はしなかったし、それなりに楽しい日々を送っていたと思う。
ただ、こう言う日々が長く続かないのも知ってる。
藍染惣右介、彼をどうにかしない限り平穏な生活は送れない。
正直、弟になった白哉とか愛でてるだけで満足なんだけどなぁ。
ついでに言えば平子さんとかも良いな。
とりあえず実力を付ける所から始めよう、そう考えて頑張ってきた。
でも、一人じゃ無理だ、無理だった。
藍染惣右介、そもそも原作でのあの男の言いようから考えて死神として限界まで鍛えているはずだ。
だからこそ、それ以上を求めての崩玉だし、虚化と言う事なんだと思う。
打倒するにはタイミング的には一護達の尸魂界への突入、崩玉で破面が生まれてないその時に倒すしかない。
大虚の反膜を防いで仮面の軍勢で囲む、それしかないと思う。
原作で反膜は地面ごと何処かにという事ではなかったようだった。
丘にまで出てきたのは光を遮るような場所では意味がないって事なんだと思う。
私がするべきなのは、藍染惣右介を討てるだけの戦力を整える事、そして逃がさない為の場を用意する事。
言い換えれば、尸魂界に協力者を残し罠を張る事、仮面の軍勢に協力者を用意しあの場に連れてくる事、一人では無理だ。
だから、原作キャラでない、それでいて実力のある仲間を作れたのは幸運だった。
誤算は、一番確実なこの手を使う事が心情的に難しくなった事。
本当はさっきの作戦が一番確率が高い、私はそう思う。
原作での魂魄消失事件は実験と、そして邪魔者の排除と言う側面があったように思える。
不意討ちの清虫終式に対応して返り討ちに出来れば正攻法で藍染惣右介を追い詰める事ができるかもしれない。
あの場には隊長格が数人、卍解だって使えるだろう、東仙要さえ撃退すれば……
かもしれないばかり、現実的じゃないのは判ってる。
それに、この計画だと虚化の危険性がある、果たして失敗した時、私は虚化に耐える事が出来るだろうか?
ただ、尸魂界と連絡を取り合い仮面の軍勢と協力関係を取るだけなら、夜一さんや浦原さんと協力して彼等を救出すればいい。
私は賭けに出ることが出来るのだろうか、もし最初の計画通りなら私か玄之丞は下界に行かないといけない。
多分、下界に行くように私が本気で頼めば玄之丞はやってくれると思う。
私は貴族としての家柄がある、玄之丞が尸魂界に残るよりずっと強固な罠が張れる、だから残るのは私がベスト。
でも、今、決着さえ付ける事が出来たなら、私達は共に尸魂界に居る事が出来る。
「嬢ちゃん、窓辺で深窓の令嬢ごっこやってる暇があるなら働けや、書類が貯まってるんだよ」
玄之丞が隊舎で黄昏ていた私を呆れた様な顔で見ている。
口が悪いし、考えすぎるし、美形じゃないし、行動が優しくない。
でも、凡人だからって努力して、人の嫌がる仕事も愚痴を言いながらも人一倍やって、何時までも家族を大切にする。
昔の腐女子だった私は何処に行ったのか、ホント、馬鹿だ。
もう、全然、頭悪くなってるじゃないか。
どれもこれも全部玄之丞のせいだ、返ってきたら餡蜜奢らせてやる!
「玄之丞、明日からしばらく休暇取るから、手続きやっといてね」
そう言って隊舎を出る。
遠くで玄之丞の怒鳴り声が聞えてくる。
いやな事はさっさと済ませてさっさと帰ってこよう、私はそんな事を考えていた。
「天声轟け、『春雷王』」
「予定に無い人間が居たが構わないだろう。
実験材料は多くても困らない」
「……ごめん、玄之丞」
了
後書き
原作イベント消化。
出てくると思ってたコメントが出ててニヤリ。
玄海師範は絶対言われると思ってた。