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No.6301の一覧
[0] 東方~触手録・紅~ (現実→東方project)[ねこだま](2010/02/12 00:34)
[1] 東方~触手録・紅~ [1][ねこだま](2009/02/10 00:21)
[2] 東方~触手録・紅~ [2] [ねこだま](2009/02/19 04:05)
[3] 東方~触手録・紅~ [3] [ねこだま](2009/02/25 04:38)
[4] 東方~触手録・紅~ [4] [ねこだま](2009/03/05 01:57)
[5] 東方~触手録・紅~ [5] [ねこだま](2009/03/16 03:45)
[6] 東方~触手録・紅~ [6] [ねこだま](2009/04/02 14:04)
[7] 東方~触手録・紅~ [7] [ねこだま](2009/04/14 03:04)
[8] 東方~触手録・紅~ [8]  [ねこだま](2009/05/03 00:16)
[9] 東方~触手録・紅~ [⑨]  上[ねこだま](2009/05/25 01:10)
[10] 東方~触手録・紅~ [⑨] 下 [ねこだま](2009/06/24 02:39)
[11] 東方~触手録・紅~ [10] [ねこだま](2009/06/01 02:09)
[12] 東方~触手録・紅~ [11] [ねこだま](2009/06/24 02:38)
[13] 東方~触手録・紅~ [12] [ねこだま](2009/07/11 22:19)
[14] 東方~触手録・紅~ [13]  [ねこだま](2009/07/11 22:19)
[15] 東方~触手録・紅~ [14]  [ねこだま](2009/08/07 12:47)
[16] 東方~触手録・紅~ [15]  [ねこだま](2009/09/04 12:40)
[17] 東方~触手録・紅~ [16] [ねこだまorz](2009/10/06 17:10)
[18] 東方~触手録・紅~ [17] [ねこだま](2010/01/18 22:41)
[19] 東方~触手録・紅~ [18][ねこだま](2010/01/18 22:41)
[20] 東方~触手録・紅~ [19][ねこだま](2010/02/11 01:11)
[21] 東方~触手録・紅~ [20] [ねこだま](2011/08/05 23:43)
[22] 東方~触手録・紅~ [21][ねこだま](2011/12/25 02:06)
[23] 東方~触手録・紅~ [22][ねこだま](2012/04/11 15:19)
[24] 東方~触手録・紅~ [23][ねこだま](2012/05/02 02:20)
[25] 東方~触手録・紅~ [24] [ねこだま](2012/08/31 22:42)
[26] 東方~触手録・紅~[25] にゅー[ねこだま](2012/08/31 22:42)
[27] 東方~触手録・設定~ [ねこだま](2009/06/15 00:01)
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[6301] 東方~触手録・紅~[25] にゅー
Name: ねこだま◆d09eab7a ID:947fcd6f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/31 22:42

あぁ、今日もいい天気さ、
空の雲はふんわりやわらかく、日の日差しはポカポカとして、

さわやかな風が頭上の白くて薄い何かでヒラヒラと遊んでいる。


=なあ まりさ=


「ん?」


=どうして 俺たち かくれてる ?=


「どうしてって、見つかったらめんどくさいからに決まってるだろう?」

何を馬鹿なことを言ってるんだ、
っといった感じで向けられた視線に俺は怒ってもいいだろうか。


=正々堂々 はいるって=


「あぁもちろんだぜ。正々堂々忍び込むつもりだぜ?」


・・・結局潜入なのか。

時折背の低い木陰からそっと目を細め、
目の前にそびえる紅魔館の正門のほうを覗く彼女の姿はどうも様になっている。
なんともまぁ手馴れておいでで。
まぁ、連れて行ってもらえる以上、彼女に従わないわけにはいかず、
俺も彼女に伴って木陰から触手を一本伸ばし、さながら潜水艦の潜望鏡のようにして
正門を伺っていた。
そんな俺の姿をみて魔理沙が何か言いたげに眉をひそめる。


「・・・。なぁ、黒」


・・・なんだ。


「その頭、大丈夫か」


ふと、ひざを折り、姿勢を低くしたまま、
木陰に身を潜める魔理沙は俺の頭頂部を指差した。
その指差す先には俺の頭にさっくりと刺さった数枚のお札。

あー・・・。


=たぶん 大丈夫=


あの夜から一夜明けた今朝、
退魔札に墨で悪妖退散的な文字を書いている作業をしていた霊夢に声をかけた。その時はまだ昨夜の酒が残っていたのか、少しばかり眉間にしわを寄せつつ霊夢に、出かけてくる。
と告げると、帰ってきたのは許可の声でも侮蔑の視線でもなく、問答無用のお札攻撃だった。

そう、まだ霊力を注ぐ前の札だったにもかかわらず、
ザクザクと俺の頭を貫いたのが頭上で舞う物の正体だ。

ただの紙じゃなかったのか。
いや、風になびいてるところを見る限り見た目柔らかそうなのに、どうして彼女が投げる時はトランプ並みに固くなるのか不思議でならない。

まったく、霊夢め。ただでさえ俺に家計が苦しいと愚痴っているのにお札用の紙を無駄にするとはけしからん。これだってタダではないだろうに。

頭の中でグチグチと彼女への恨み言を呟きつつその紙を回収して体の中にしまいこむ。
しまいこみながらも、後でタンスの中にあるお札入れに返しておこうと考えてしまうあたり、どうにも彼女に染められてしまった感が否めず少し微妙な気分になってしまう。



俺も彼女に習ってそっと紅い洋館に視線を送った。

以前その洋館の傍を通ったときはあまり気にしないようにしていたが、
やはりその名のとおり、紅い。日本の原風景が色濃く残る幻想郷で、その色と風貌はとてつもなく違和感を発している。

じっと見ていると目がおかしくなりそうだ。

一度視界を閉じて目を洋館からその正門へとむけた。正門は館の大きさに対して少しばかり小さく感じるが・・・。紅魔館の主が吸血鬼というし、歩くとはかぎらないから、それほど立派な物でなくてもよいのだろう。


それにしても参ったな、まさか門番がいるとは。


正門の鉄格子の前には、一つの人影があった。
風に深紅の挑発をなびかせ、堂々と仁王立ちする女性。
ベレー帽に星の飾りをくっつけたような帽子をかぶり、同じく浅緑の中華風のベストとスリットが深く刻まれたスカートをまとっている。そしてなぜかシャツだけはフリルが付いているあたり微妙に洋風なのか、

てか・・・、
なんで洋館の門番が中華?

思わずそんな疑問が浮かんでしまう。日本の景色に紅い洋館、そしてその門番は中華風。和洋折中(衷)にも限度と言う物がないか?


まぁそういったもろもろの疑問は頭の隅に投げ捨てておこう、とりあえずどうやってあの中に忍び込むか。

・・・あれ?そういえば、なんで下から進入するんだ?


「なんでって空飛んだらばればれじゃん」


夜ならまだしも昼間は咲夜にみつかっちまうからなと、さもさも当然のように魔理沙は首をかしげた。おいこら、何でそんなこともワカンナイの?ってかんじで見るな。わかるわけないだろ。こちとらこんな屋敷に不法侵入なんてはじめてだ。

ところで咲夜って誰よ?








「よぉ!入るぜパチュうりぃぃいいい!?」


それは魔理沙(とその小脇に抱えられた俺)が真鍮色の金板にLibraryと書かれたドアをあけた直後のことだった。

あぁ、ご覧のとおり、今はあの館の中に俺たちは居る。難関かと思われた正門だったが、なんとも、まぁ・・・、平和っていいよね。門番が居眠りできるのもまた幻想郷が平和な証拠だろう。
いいことだ、


さて、扉を開けた瞬間目の前に広がるのは本の森、
色とりどりの表紙硬そうな表紙を湛えた本が整然と並ぶうわさのとおりの大図書館、


・・・ではなく、鈍い三つの閃光がまず視界に飛び込んできた。
それが何かと悟る前に聴覚が金属的な甲高い音を捕らえる。その音を聞いて、触れている魔理沙の肌に鳥肌が立つのを感じた。
なんだあれは、とその正体を思案し始めた直後、それは薄暗い室内から廊下の光を浴びてその姿をあらわした。

薄く、高速で回転するそれは、
・・・・・・って丸ノコオオォォォォ!?

魔理沙がうひゃっと素っ頓狂な声を上げて上体をそらす。
一枚目の丸ノコが彼女の胸元すれすれをかすめ、彼女の自慢のトンガリ帽子の端に小さな切れ目を作る。


あぁ、近くで見て分かった。
丸ノコっていうより円形のチェーンソウみたいだ、
もしくはガン○ムF91にでてきたビル○ットだけを殺す機械か。


魔理沙が必死こいてその丸ノコを避けている最中にそんなのんきな感想を抱いていると、
突然魔理沙の腕がこちらに伸び、視界が再び大きくぶれた。ナニをするものかと思いきや、彼女の両手が俺をバスケットボールのように魔理沙の目前に突き出した。

俺に向かって残り2枚の丸ノコが迫る。

うん、なんかね。このドアの前についてからそんな予感はしてたよ。

洋館にはいってからというもの、
ちらちらとこちらを窺っては姿を消すメイドらしき妖精を無視しつつ廊下を渡り、
そしてこの図書館のドアに到着する直前になって、いきなり魔理沙が俺を抱えたのだ。
何かあると想っていたがこういうことか、畜生。


俺は悟りと諦めを胸に抱きつつ体を大きく変化させた。いつもの丸いからだから素早く巨大な皿のように体を広げ、全身を硬化させる。石より硬く、鉄より硬く、そう念じると体の中心から波紋が広がるように、全身に力が回り、キンと軽い音と共に硬化した。(なんとも省みてみると便利な能力だ。)

そう思った直後、丸ノコ・・・うっすらとその金属から魔力を感じるあたりこれも魔法か何かで作られた物なのか、それが俺の体に接触する。とたんギャリギャリギャリギャリ!と金属同士がかち合う音が響くとともに、赤と黄の火花が薄暗い老化の中で鮮やかに咲く。
宙を舞い触れる物すべてに鋭利な傷跡を刻み込もうとする刃とただ硬く、ただ弾くことために変化した力が拮抗する。


・・・あーこりゃまずいかな、



俺はてっきりこの凶器が投擲物みたいな物だと思っていた。
だから弾けばそのまま下に落ちると思いきや、丸ノコは勢いそのままに俺の体を削り切ろうと見えない力で突き進んでくる。・・・防いだはいいがこの丸ノコ、止まる気配がない。

どうしようこれ、

俺の体は一度変化して硬くなってしまうと体の形が固定されてしまう。これを跳ね除けようにも、体が今の形に固定化してしまった以上、変化ができない。文字通り手も足も出ないのだ。

と、その時、ぐっと俺の体をつかむ魔理沙の腕に力がこもった。
おい、なんのつもりだ。と魔理沙に抗議しようとした直前


「っどりゃ!」


と威勢のいい声とともに世界が大きく宙返りした。鋼が弾かれた音の直後、気付けば俺の目の前にドアの向かい側、廊下の壁が広がった。ぎょっとキモを冷やした俺の変化はとけ、
ビタンと壁に投げつけられた泥玉のように叩きつけられた。魔理沙め、俺ごと投げやがった・・・。

ずるずると廊下の壁をずりおちつつ、せっかく(いろんなことを諦めて)身を挺した俺を
あっさりと投げ出した魔理沙に恨みを込めた視線を送る。
しかし当の本人はというと、


「おい!パチュリーーー!!」


と怒声を上げながらズカズカと大またで図書室の中へと姿を消した。
俺をおいて、


・・・。


・・・・・・。


・・・・・・・・・はぁ。


はたして彼女にとって俺とは何なんだろうか?
消えていった彼女の小さな背中に恨み節を込めた視線を投げつけつつ、俺は無い肩を盛大に落として図書室のドアをくぐった。

中にはいると、まず視界を埋め尽くすほどずらりと、その身に大量の本を納めた背の高い本棚が目前に迫った。薄明かりの中、その様はまるでどこか欧州にある国立図書館のように燦然としており、思わず、ほぅと感心した声を上げてしまう。埃っぽく、そして紙が饐えたような図書室独特の香りが漂っている。中学高校と学校の図書室に入り浸りハードカバーの本を読んでいた俺としては久しぶりに嗅いだ図書室の香りについ郷愁をかられてしまうが、今はとりあえずこの本の森の中のどこかにいるであろう黒い魔法使いに一発お見舞いしようと聳える本棚を眺めながら自らの歩みを進めた。

どうでもいいが今の俺の姿はいつもの丸くて小さいスライム形態だ。身長はせいぜい30センチか40センチ程度であるため目に付く物すべてがでかく見える。しかしそれを差し引いてもここにある本棚はすべて背が高く、たとえ人の身であっても最上段どころか本棚の中段にさえ手が届き来そうにも無い。天井も馬鹿みたいに高くその巨大な本棚のうえにもう一架こしらえても十分スペースが余りそうだ。

ぼうっとその図書室の広大さに思いを馳せていると、ふと二人分の誰かの声が、というより批難めいた怒声が聴覚に届く。一つは魔理沙のようであるが、もうひとつの声には聞き覚えが無い。おそらくこの声が八雲紫がいう図書室の魔女の声なのだろう。

声のするほうへ本棚の森をかきわけていくと突如、所狭しと並んでいた森が途切れ、少し広めの空間がその身をあらわした。高い天井には巨大なシャンデリアがキラキラと光をおとし、その下にある黒いとんがり帽子を照らしている。やっとみつけた。一瞬この広い図書室で自分が迷子になるのではとひやひやしたが何とか迷わず彼女を見つけることができた。俺が安堵しつつ魔理沙の下に歩みを進めようとしたとき、

「おい!パチュリー!!いきなり客にむかってオータムブレイド投げつけるとはどういうつもりだ!?」

とキンキンと高い魔理沙の怒号が飛んできた。
それに対して次に耳に飛び込んできたのは誰かの盛大なため息だった。


「・・・客?お客なんていつ来たのかしら?記憶に無いわ」

「目の前にいるじゃない!」

「え?・・・私の目が悪くなったのかしら。
 私には毎度のこと不法侵入してくるこそ泥しか目に入らないわ」

「あぁ、こりゃ重症だな。
 こんな所で本の虫になってるからそんな目が濁っちまうんだぜ。
 香霖にたのんで魔法使い用の眼鏡でもこしらえてもらおうか?」

「別に目が悪いつもりは無いけど、
 ・・・霖之助さんが作る魔法使い用の眼鏡ってどういうものか興味があるわ」

「・・・え?」

「え?」


と、突然二人が動きを止めて互いに視線を送る。
なんだこの魔女は店主とも知り合いなのか、と魔理沙の一歩後ろから改めて図書室の魔女を観察する。「魔女」と言うからにはてっきり白雪姫に出てくるようなヨボヨボであくどい顔をしているおばあさんかと思いきや、見た目は魔理沙と同程度の年齢にしかみえない少女だった。桃色に近い紫の縞模様を湛えた、ローブとワンピースを足して2で割ったような衣装を身にまとい、一本一本が細い紫色の髪を腰程まで垂らし、赤と青のリボンでまとめた一房を肩にかけて前に流している。頭上には三日月のレリーフが付いたナイトキャップのような、これまた特徴的な帽子をかぶっている。

色素が少し薄いのか本が大量に積まれ、何冊か広げられている机の上にあるろうそくの明かりに照らされているその顔はまるで陶磁のごとく白く映えていた。

ふとその少女の目がふととこちらを向き、一瞬視線を戻そうとして再び俺のほうをみた。二度見すんな。そしてじっと俺を見た後、突然自らの目元を指で指圧した。

「・・・やっぱり眼鏡作ったほうがいいかしら。
 視界に変な軟体動物的な生き物っぽいナニかが写ってるわ。」

せめて生物として分類してほしい物である。たこやイカと同分類されてしまったことに少しばかり落ち込む俺をみて、魔理沙がけらけらと笑った。さっきから扱いが酷すぎやしないだろうか。

「まぁ、黒、そう落ち込むなよ!生きてりゃいいことあるって!」

それならまずその笑窪を収めやがれ。
俺が声を出せず文句も言えないことをいいことに好き勝手いいやがって。そろそろ怒るぞ。
不満の感情を、触手をうねらせることで表現する。この触手でお前をkラ娶ってやろうか?
俺の体を張った必死の抗議活動を漸く悟ってくれたのか、魔理沙はわりぃわりぃとわびながら俺の頭をなでた。くそ、謝ったはいいが今度は小動物扱いか、


「・・・一体何なのよ?そいつ、」


図書館の魔女の目にはこの状況がはたしてどう写っているのだろうか。
彼女はいきなり現れ、いきなりちんちくりんな生き物を愛で始めたヤツの脳内を心配しているような顔、いわゆる怪訝そうな顔を浮かべて俺と魔理沙を見比べた。


「あぁ、パチュリー、コイツは”黒”っつーんだ。
 一見ただの変な軟体動物的な生き物っぽい何かっぽいがキチンと理性を持ってるし会話もできるイイコちゃんだぜ」


紹介してくれてありがたいが、生き物っぽい何かっぽい、ってもはや生物通り越して静物かすら怪しいような説明はやめてくれ。


「とりあえずスライムじゃないことは分かったけど結局何なのよ?」


あれかしら?これが俗に言うタコとかイカとかじゃないかしらって、タコいうなイカいうな。


「さぁ?」

「さあ?・・・って」

「うーん、詳しいことは霊夢がよく知ってるんだが・・・。
 私が知ってるのはこいつが元人間で人間に戻りたがってるって事だけだぜ」

「元人間?人間やめるにもほどがあるんじゃない?」

「あぁ、そいつには同感だがこれはこれでなかなかイイモノだぜ?やわらかいから昼寝用の枕にはうってつけだし」


ところでタコとイカってどんなのだ?うまいのか?と俺に聞いてくる魔理沙の顔にパチュリーが一度狂人を見るような視線を送った後、今度はマジマジと俺の顔を見つめた。十秒近く俺を眺めた後、パチュリーはフムと鼻を鳴らす。


「なんか分かったのか?」

「・・・そうね、」


ふと口元を歪めたパチュリーがゆっくりとその胸を張った。


「訳が分からないってのが解ったわ」

「 」


このときの頬の筋肉が引きつった魔理沙の表情はとても記憶に残る物だった。
ナニイッテンダコイツバカジャネーノの言いたげな彼女の視線を受けてパチュリーが一つごまかすように咳払いをした。


「だって仕方がないでしょ、魔法だけならともかく、他のわけの判らない術までかけられてるみたいで元が何の魔法をつかっているのかさっぱり判らなくなってるんだから」

「でも・・・、でもさ、今のは無いと思うぜ・・・?」

「・・・悪かったわよ。」


非難めいた魔理沙の視線に、魔女は居心地悪そうに椅子の上で姿勢を直す。


「あー、で?今日は何しに来たのよ?私がこの生き物の正体をしってるかどうか訊きにきたわけ?」

「いや、今日はただこの黒がココに案内してほしいって頼まれたからつれてきただけだぜ?本でも読みたいんじゃないか?」


私は暇じゃないんだけど、と手元に開いたままの本を少し持ち上げながら一声付け足して魔理沙に非難めいた視線を送るパチュリーに、魔理沙はこいつのどこが忙しそうなんだろう?と言いたげな表情を隠しもせずに答えた。
ちらりとパチュリーが一瞬俺に視線を送る、


「コレが?読めるの?」

「あぁ、もちろんだ。多分しゃべれないだけでなんでもできると想うぜ。
 で?大丈夫だよな?」

「もちろんイヤよ?」

「そっか、なら大丈夫だな!パチュリーがイヤなだけ、でダメじゃないんだろ?
 ってわかったわかったわかった、無言で魔道書を引っ張り出すな」

「・・・はぁ、仕方ないわね」


お?


「お?いいのか?」


魔理沙の顔がパッと明るく輝くのを見て、対するパチュリーは呆れたような、疲れたような表情で口を尖らせた。


「どうせ何いっても勝手に読むでしょ?知らないところで勝手に本を持ち出して私の本棚をグチャグチャにされたくないわ」

「さすがパチュリー分かってるな」

「ただし!」


にやりと表情を崩す魔理沙にむかってピシリとパチュリーは人差し指を突きたてた。


「本を汚さないこと!ページを破らないこと!
 か っ て に 持 ち 出 さ な い こ っ ホ!?けほっ・・・!」

「お、おいおい、パチュリー。喘息もちがそんな力むなって」


突然言葉の途中で背中を丸めて咳き込むパチュリーの背中を魔理沙が苦笑いしながらさする。喘息か、なるほど、どうも彼女の顔が暗がりで浮いていたのは顔が白いと言うか血の気が薄いからか。
そういえば俺の喘息もちの友達も顔色が白いと言うか化粧してないと顔色が蝋人形みたいにだったな。・・・あいつはまだ生きてるのかな?いっつも体調が悪いイメージがあるが。


「まぁこいつはさっきも言ったようにイイコちゃんだからそんなことは絶対にしないと想うぜ?魔理沙ちゃんのお墨付きだ!」


なぁ?黒?と首をかしげる彼女に勿論だと胸を張る。俺はライトノベルも読むが普通の小説も読むし高校時代は洋書も少しばかり呼んでいたのだ。本の扱いには慣れているさ。

ところで高校とか中学の図書室の本ってたまに凄まじくぼろいのが混ざってるよな。
背表紙が剥がれかけてたり表紙の端がぐずってたり。懐かしいな。

俺が一人外の世界に思いをはせているといまだ咳き込むパチュリーがジト目で魔理沙をにらみつけた。


「・・・あんたのお墨付き?」


「うん!」


と道路であとあわや轢かれかけた人のような、今にも死にそうな顔でパチュリーはおもむろに


「・・・小悪魔」


と小さく呟いた。小悪魔?悪魔?
すると突然ふわりと俺の後ろで小さな風が舞い起こり、


「はい!お呼びですかパチュリー様?」


突然背後から上げられた少し高い声に俺はぎょっと振り向いた。
だって仕方がないだろファンタジーの悪魔といえば角が映えてて筋骨隆々で足が山羊のあれを想像していたところで背後から人の気配がしたのだ。驚いて当然である。そしてどんな化け物が後ろにいるものかと振り返って、今度は別の意味で驚いた。

そこにいたのは山羊でも筋骨隆々の化け物でもなく、見た目美しい少女だったのだ。見た目は至って普通の、この図書室という空間にぴったりの司書めいた服装だ。白のシャツに黒いベスト、胸元には赤いリボンが映え、すこしぴっちり目のタイトスカートからはすらりとハイソックスをはいた細い足が伸びている。最初は本当にただの人間ではと勘ぐってしまった。しかしよくよく見れば深いえんじ色に近しいロングストレートの髪を湛える頭には一対の小さな蝙蝠のような羽が、背中からは頭部のそれと比べて大きめ蝙蝠の羽が一対、優雅にたたまれていた。


「えぇ、そこに居る黒いのがここの本を読みたいそうだから監視してなさい
 本を勝手に持ち出したりしようとしたら、ぶちのめそうがぶん殴ろうがかまわないわ」


めんどうくさそうにパチュリーがくい、とひとつ顎でこちらを指し示し、なんとも物騒なオーダーを出す。もとより本を持ち出す気などないがぶん殴るのはやめていただきたい。
しかし命令された小悪魔は目をぱちくりと瞬かせると、あー・・・えー・・・となんとも煮え切らない態度で不安そうな視線をパチュリーに送る。


「えぇっと、パチュリー様。わたくしでは逆に魔理沙さんからぶちのめされてしまいそうなんですが・・・」


ふと魔理沙の顔を見上げるとぴゅーぴゅーとへたくそな口笛を吹いてそっぽを向いた。
はたしてこいつは普段ココでナニをやらかしているのだろうかと問い詰めたくなる。


「そんな事分かりきってるわよ。白黒のじゃなくてあなたの足元に居る黒いのよ」


「え?黒・・・いの・・・?」


小悪魔はキョロキョロとあたりを見渡す。その視線を一度俺のほうへと向いたが、俺に気付かなかったのか、そのまま視線を送りめぐらせようとしたところで一時停止。そして「ひゃ!?」と悲鳴と供に飛びのきながらようやく俺を視界に捕らえた。
・・・また二度見されたが、俺ってそんなに、なんというか、衝撃的な存在なのだろうか。


「あ、あの、パパパパチュリー様?これってな、な、」


「・・・お願いだからパを連呼しないで、私がなんか馬鹿みたいじゃない」


「PA☆PA☆PA☆チュリー!」


「・・・・・・まああああありいいいいいさあああああ!!」


「っと!?わかったごめん!ほんとごめん!
 手からなんか出てるからっ!ちょっタンマ!」


「パチュリー様!すみません!すみませんでしたから落ち着いてください!
 ここ図書室ですよー!本棚めちゃくちゃになっちゃいますうううう!!」


あの魔力うまそうだなーとのんきに傍観する俺の隣で、なんとかこの場を治めようと小悪魔が両手を中途半端に持ち上げて右往左往している。その様はまるで恥ずかしげにマイケルジャクソンのスリラーを踊っているようだ。
あ、パチュリーがついにぶっぱなした。
ちょっ!?魔理沙こっちくんなああ!!

・・・。

・・・・・。

・・・・・・・。




「ハァ、ハァ・・・ハァ、ケホ」

「ゼェゼェ・・・」

「ぁ、あぁ・・・」


・・・解せぬ。


結局室内で魔理沙に向かってぶっ放された魔法はまた俺が盾になって魔力を飲めるだけ飲み干した。その甲斐あって、なんとか被害は最小限にすんだ。最近魔理沙が俺を盾にすることに躊躇がなくなっている気がする。


「ハァ、・・・小悪魔」

「は、はい」

「その黒いのから・・・ハァ・・・目を・・・絶対に離さないで、
 この白黒は私が目をつけとくから・・・!」

「わ、わかりませんけど・・・わかりました」

「・・・私もかよ」

「あんたから一番目を離したくないのよ!それにコイツもあんたのお墨付とか絶対に信用できないわ!ハァ、はぁ、エホっ・・・なんかもう、疲れた」

「いきなり叫んだり暴れたりするのは貧血の喘息魔法使いには体に毒だぜ?」

「・・・お願いだからあんたはもう何もしゃべらないで。」

「・・・あー、うん、なんか、ごめん」





・・・。

・・・・。

・・・・・。

さて、ようやく静かになった図書室で俺は漸く本を読む許可を得た。なんであんなことになったのか今思い返すと自分でもわからない。とりあえず目的の閲覧許可を得た俺は小悪魔と供に図書室のさらに奥へと進んでいく。


「それで黒様はどういった本をお探しですか?」


整然と並ぶ本の海に少しばかり見とれてしまい、ゆっくりとその海を渡っている最中、小悪魔が俺の脇を飛びながらそっと長い髪を揺らす。

=魂 肉体 魔法=

「えぇっと人体練成とかの本ですか?」

=なんでも いい それに 関すれば=

電子辞書の小さな画面を覗き込んだ後、
かしこまりました、だとするとこちらですね、と言って彼女は次の角を右へと曲がる。最初は俺をどう扱っていいかと戸惑っていた小悪魔も俺が言葉を理解でき、かつ筆談で答えられるということを理解してもらい、それでいくらか落ち着きを取り戻していた。ふわふわとその立派な羽で羽ばたきをせずに先導する彼女の後についていく、すると、ふと小悪魔が宙に舞いながらふわりとこちらを振り返った


「それにしてもずいぶんと難しそうな分野ですが、大丈夫ですか?
 ここには日本語以外の本が大抵ですが、」


確かに今回りにある本棚に納められている本の表紙の殆どがアルファベットで記されている。だが、


=たぶん 大丈夫 英語 読める=


実際のところ、俺は完璧に英語の本を読めるわけではない。しかし今俺が手にしているのは何か?電子辞書だ。これがあれば何とか洋書も、熟読とはいかなくとも単語が分かればある程度理解できるものと考えている。問題ないはずd・・・


「ココの本は英語以外にも古代ペルシャ語やゲルマン語、古代サクソン語、古期英語の本なんかもありますが?」


・・・・はい?


読めるどころその名前さえ聞いたことすらない言語に思わず思考が停止した。
マジですかと俺が少し絶望めいた視線をおくると


「ぁ、あぁ!でもグリモワールでしたら大抵ラテン語ですし、中にはドイツ語や英語の写本もありますから大丈夫ですよ!・・・ね?」


ラテン語なんてこの電子辞書にのってるだろうか。
とりあえずココにくれば何かしらの手がかりがあるものと考えてきてみれば、とてつもなく文化的な壁が聳え立っていて、思わずその壁の高さに本気で心が折れてしまいそうになる。
どうしようどうしようどうしよう・・・!ラテン語の辞書とかを先に探そうか?いやラテン語の日本語辞書なんて存在しているのか?あるとしてもラテン語からまた別の外国語辞書かも知れない、これでは二度手間、三度手間だ


「えっと、黒様。よろしければお手伝いしましょうか?」


え?


=いいの か=

「えぇ、パチュリー様から黒様の監視を申せつけられましたが、
 特にどうしろ、とはいわれておりませんし、私でよろしければ黒様のお手伝いをいたしますよ?」


・・・。

おい、だれだこの娘に小悪魔なんて名づけたやつは、悪魔どころか天使じゃないか?小悪魔、マジ天使。彼女の申し出に諸手を振ってお願いしたところだが、はたして本当に俺に付きっ切りで大丈夫なのだろうか?これほど広大な図書館だ、管理も大変だろうし、パチュリーの使い魔とあらば主人の世話もあるのではないか。

しかし彼女はご安心ください、と軽く微笑んだ。
彼女曰く「小悪魔」と呼ばれる存在はココにもう一人いるらしい。正確には小悪魔の分身であり、本体でもある。と少々理解しづらい説明をされたが、その子が変わりに仕事を受け持ってもらえるとのこと。

「ただあの子はちょっと子供っぽいのでパチュリー様にご迷惑をかけなければ良いんですけど、」

そういいつつ彼女はすこし恥ずかしげにはにかみながら頬を掻いた。


・・・と、そうこう談笑(筆談で談笑と言っていいのか首を傾げてしまうが)しているうちに漸く目的のコーナーに到着したようだ。

あたりを見回し、棚に整然と広がる本の背表紙の行列をしっかりと確認した小悪魔はこちらに振り返る。


「さ、黒様」

地面に下ろした足をそろえ、姿勢を正した小悪魔は先ほどまでたたえていた少女の顔を収め、一瞬凛とした司書としての顔に戻ると

「不束者ですが、助力させていただきます」

そういってスカートの端をつまみ、すっと恭しく腰を折った。
背筋の伸びた、完璧で綺麗な動作に俺はふむとうなずきかけたがふと思い立ち、体を縦に伸ばした。

そして体から頭をさらに腕を生やす。(見た目はまるでのっぺらぼうがが水溜りから生えているようで少々不恰好だが)
突然変形を始めた俺の体にぎょっとする彼女を尻目に、俺は彼女を真似てやや大げさに右手をふり自分の胸の辺りに添えると深々と腰を折った。

ちらりと彼女のほうをみやると、俺の礼の仕方がよかったのか、それとも可笑しかったのか、口元に手を当ててクスクスと少女の顔で笑っていた。
俺も内心で笑いをこらえつつ、無理やり視線を本棚に移した。



---さて、はじめるか。


---はい!








てきとーなあとがき

中途半端で区切るしかなかったので泣けてくるねこだまです。
何のための回だかさっぱりです。
とりあえずこぁー
もうちょっと先まで書くつもりだったけどあまりにも筆が進まないのでここでくぎりました。orz

パチュリーの登場の仕方に悩み、小悪魔を原作の子供っぽいここぁのにするか、二次創作等で親しみのあるこぁにするかで悩み、リアル用事で悩みで結局6月に書いてた内容を中途半端に区切って投稿することにしました。




次回はとりあえず東方オンリーイベントの紅の広場のあとなのは確実。
次回予告、ふらんち○んうふふ


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