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No.6301の一覧
[0] 東方~触手録・紅~ (現実→東方project)[ねこだま](2010/02/12 00:34)
[1] 東方~触手録・紅~ [1][ねこだま](2009/02/10 00:21)
[2] 東方~触手録・紅~ [2] [ねこだま](2009/02/19 04:05)
[3] 東方~触手録・紅~ [3] [ねこだま](2009/02/25 04:38)
[4] 東方~触手録・紅~ [4] [ねこだま](2009/03/05 01:57)
[5] 東方~触手録・紅~ [5] [ねこだま](2009/03/16 03:45)
[6] 東方~触手録・紅~ [6] [ねこだま](2009/04/02 14:04)
[7] 東方~触手録・紅~ [7] [ねこだま](2009/04/14 03:04)
[8] 東方~触手録・紅~ [8]  [ねこだま](2009/05/03 00:16)
[9] 東方~触手録・紅~ [⑨]  上[ねこだま](2009/05/25 01:10)
[10] 東方~触手録・紅~ [⑨] 下 [ねこだま](2009/06/24 02:39)
[11] 東方~触手録・紅~ [10] [ねこだま](2009/06/01 02:09)
[12] 東方~触手録・紅~ [11] [ねこだま](2009/06/24 02:38)
[13] 東方~触手録・紅~ [12] [ねこだま](2009/07/11 22:19)
[14] 東方~触手録・紅~ [13]  [ねこだま](2009/07/11 22:19)
[15] 東方~触手録・紅~ [14]  [ねこだま](2009/08/07 12:47)
[16] 東方~触手録・紅~ [15]  [ねこだま](2009/09/04 12:40)
[17] 東方~触手録・紅~ [16] [ねこだまorz](2009/10/06 17:10)
[18] 東方~触手録・紅~ [17] [ねこだま](2010/01/18 22:41)
[19] 東方~触手録・紅~ [18][ねこだま](2010/01/18 22:41)
[20] 東方~触手録・紅~ [19][ねこだま](2010/02/11 01:11)
[21] 東方~触手録・紅~ [20] [ねこだま](2011/08/05 23:43)
[22] 東方~触手録・紅~ [21][ねこだま](2011/12/25 02:06)
[23] 東方~触手録・紅~ [22][ねこだま](2012/04/11 15:19)
[24] 東方~触手録・紅~ [23][ねこだま](2012/05/02 02:20)
[25] 東方~触手録・紅~ [24] [ねこだま](2012/08/31 22:42)
[26] 東方~触手録・紅~[25] にゅー[ねこだま](2012/08/31 22:42)
[27] 東方~触手録・設定~ [ねこだま](2009/06/15 00:01)
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[6301] 東方~触手録・紅~ [10] 
Name: ねこだま◆160a3209 ID:bedc5429 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/01 02:09

ザザァ、ザザァ



この季節にしては少し強めの風が笹を乱暴に吹きなぜる囁く音をBGMに、

幻想郷の南南東。迷いの竹林と呼ばれるそこは夜になると竹の合間から洩れる月明かり以外の光はすべて遮断され

月明かりの鮮明な白と切り取られたかのような真っ黒の影がまるで紙の上に描かれたような縞模様を描いている。

そんなすこしモノトーンの景色の中を、突然シャ、シャと小さな音を立てて笹藪から黒と白、大と小。

対照的な二つの影が飛び出し、月明かりと影の間をすり抜けていった。




時折、目の前の白い影はピクと歩みを止めて、

耳を大きく動かして周囲を警戒しては再び走り出す。

笹のざわめき以外の音が少しでもなるとビクリと小さな背中を丸めてキョロキョロと辺りを見回した。

コレは少々警戒しすぎではないか?

いい加減早く進みたい俺は彼(彼女?)にそう聞いた。

すると



「『転ばぬ先の杖』、『石橋はたたいて渡れ』ですぜ黒の御方

 ここは迷いの竹林、この竹林で出会うものといえば迷いこんだ妖怪か

 迷いこんだ人間か、迷いこんだ者を食らって生きながらえる猛者ぐらいです」



身震いひとつ抑え込みながらウサギの妖怪はそう言って再び長い耳をピンと立てた。

ふむ、つまりここは竹の籠の中といったところか。

籠の中に迷い込んだものはその籠の中で生き延びるために何かを襲わなければならない。



何かを…。



そう考えて俺はさっきのウサギのようにゾクリと這いあがった悪寒を必死に抑えた。

あの時永琳に会えなかったら俺はどうなってたんだろうか。

出口も分からない竹林の中をグルグル徘徊して…。

霊気のストックがない今じゃなおさらこんなところで迷いたくはない。



「ところで旦那は…」



ん…?



「その…旦那も他の妖怪を喰らうって聞いたんですけど…」



索敵を中断して、ウサギは恐る恐る俺を見上げた。



…。=おそったときも あった=



ビクリと背筋が震える。



「…やっぱり、妖怪の肉とか血って…おいしいものなんですか?」



恐る恐る、ウサギはこちらをうかがいながらそう聞いた。

俺は数週間前の放浪時代を思い出し、その時感じた記憶を電子辞書にたたきこんだ。



=くそまずい=


=かなものを なめたり かみついたりしたときみたいに きもちわるくなる=



「そ、そうですか。あぁ、よかった」


…。


=やっぱり おれが こわいか ?=


「正直言うと少し…。でもあなたは永琳様のご友人。

 先ほどのあなたの言葉を信用したいと思います。」



ウサギはそういうと誇らしげにふわふわの胸毛を張った。

小さいものが背伸びするその微笑ましい光景に俺はふとむんねの中で笑みを浮かべた。

…後で博麗神社についたらニンジンを一本たすように霊夢に掛け合ってやろう。

そう伝えると次の瞬間ヘタレていたウサギの耳が直立した。



「さぁ!黒の旦那!あと半里弱でこの竹林を抜けますよ!

 さすればあとはまっすぐ博麗の地へ。途中に道はございませんが、

 貴方様とわたくしめならばそんな山道、平野と同じでございましょう!」



さっきまでビクビクしていたウサギはぴょんぴょんおと俺の周りを回りながら早く早くとせかし始めた。

やはり妖怪になってもウサギはニンジンが好きなのだろうか。

しかもこの喜び様、確実にLikeを通り越してLoveだな絶対。



「そ、そんなことございませんよ!

 わたくしめはただ貴方様が無事に帰れることを、

 そして自分の使命を果たせることを喜んでいるんです!

 そりゃ…まぁ、えと…使命を果たした後のニンジンの味は格別です…。

 あの歯ごたえ、あの甘さ…。」



ウサギはそう呟くと再び立派に張っていた耳がへなりとしなだれ、

小さな口からはうと熱っぽい溜息を吐いて頬を押さえた。

まるでその姿は恋い焦がれる娘のようで…。

あ、こいつメスか。



ビクリ


それは突然だった。

いきなりウサギは背中の毛を逆立てるとキョロキョロと周囲を見回し始めた。

それは今までの索敵行動とは何か違う。

後ろ足で立ちあがり、真っ赤な眼をクルクルと回し、大きな耳は小さな音も逃すまいとピンと張りつめている。

俺はいきなり豹変したそのウサギの様子を音を立てずじっと見つめた。

どうした?

次の瞬間、ウサギはヒッと息をのんでと地面に前足をつきその場に伏せた。

ウサギは顔色を一転させて真っ青になるとすぐさま俺に伏せるように促す。

慌てて俺もそれに倣い形を崩してウサギと同じ大きさになると、

ずしりと重たいものが地面を踏みしめるのを感じた。

この足音は…まさか…!?

振り返るとウサギは顔を真っ青にして音のする方向を見てガクガクと震えている。



「だ、旦那。ヤバいのがきます!

 どどどどうします!?」



俺は慌てて辺りを見回すが隠れられそうな茂みは見当たらない。

しかし足音は徐々に大きくなっていく。



どこか…どこか隠れられる場所は…!?



俺は慌てていた。故に思わず足に力がこめてしまった。

気づいた時には既にジャッと足が竹林の地表を軽く滑る音が響いた。



…ッ!?

「ひっ!?」



決して大きくもない音が俺ら二人の耳にはひどく反響して聞こえた。

ふと気づくと耳に聞こえていた音はすべて消えていた。

笹がざわめく音も足音も。

いなくなった?

いや、違う。

立ち止まったんだ!



バレた。



音が聞こえていたはずの方向、真っ黒な竹のモザイクの向こうをじっと見つめながら

俺はそぉっと電子辞書に手をかけた。



=あな=



それしか咄嗟に書くことができなかった。

ザワリと首に悪寒が走った途端にゾッとするほどの気配が竹の向こうから感じたからだ。

電子辞書を見たウサギはそのたった2文字で俺が言いたいことを悟り、

濃密な気配に顔を蒼くしながらコクコクと何度もうなずくと地面に小さないろい前足で地面に穴を掘り始めた。

シャッシャッシャとウサギはできるだけ音を立てずに土をかきだす。

穴を掘るスピードはさすが妖怪といったところだ。

だがまだウサギの上半身が隠れた程度、これじゃ…。



ドスリ



と再び地面を踏みしめる音が竹林のざわめきをかき消した。

そして次に聞こえた足音は明らかに力強く踏みしめれていた。



来るぞ!



「え!?だ、だめです!まだ1尺も掘れてません!!」



チラリと視界を外すと足元のウサギはばれたとあって、

もはや音も気にせず我武者羅に地面に掘り起こす。



1尺…だいたい…30センチ。

十分だ!

コイツをぶち込むには!



いまだに地面に上体を突っ込んだウサギを上から踏むように穴に押し込めた。

短い苦しげな叫び声を無視して俺はその上から枯れた笹の葉をぶちまける。



「ちょ、だん…はぶ!?」



呼びかけを遮るように枯れ葉でウサギを埋めたると、俺は山犬に変化した体を更に膨張させた。

あの虎に対して今の体では子犬扱いされてしまう。

だが五秒もしないうちにジャンと竹藪を大きく揺れる、

そして黄土色に切り込みのような黒を重ねた縞模様が突如、藪を突き破って姿を現した。

首を震わせてルル…ルと太い重低音を喉から鳴らしながら巨大な獣はこちらをギロリと見下ろした。

あぁ、改めて対峙して分かった。

でっけぇ。

咄嗟に体を大きくした俺だが、それでも目の前の大虎の肩にさえ及ばない。

さながら大型トラック対黒のミニバンだ。

正直さっさと逃げ出すか距離を取るかしたかった。

しかし俺の真下にはブルブルと震える兎肉があるのだ。

今俺が逃げだしたらコイツはパックリ一口で胃袋まっしぐらだろう。

虎は姿勢を低くしながらゆっくりと俺の周りを回り始めた。

まるで何処からくらいつこうかと吟味しているようだ。

奴の目線が俺の顔に向かっているのをみるとまだ下のコイツには気付いていないと思うが…。

それを悟られてはならないと俺はその場で立ち尽くすしかなかった。

じっと若干盛り上がった地面の上で殺気漂う虎の目をにらみ返す。

ぐるりと俺の周りを一周したそいつはヒクヒクと鼻の皮を震わせると

突然ベロリと真っ赤な舌で口の周りを舐めた。

その視線は…俺の真下。

ビクリと地面が震えた。



コイツ気付いたか?



ふとソイツが舌舐めずりをした時、むっと血なまぐさい匂いが俺の鼻に届いた。

あれ?さっきはこんな匂いしなかったはずだ。

睨みつけてくる金色の眼光からチラリと視線を外すと

ちょうど白い牙の奥に真っ赤な舌が見え隠れした瞬間だった。

…食後のデザートを御捜しですか?



ゴォゥと突然虎の咆哮が顔に激突した。

生暖かく、錆びた鉄のような匂いがむぁっと押し寄せてくる。



もし生身だったら絶対殺気とこの匂いで吐いてたかもしれない。

だが吐く以前に消化器官がない俺はなんとか逃げ出したくなる衝動も吐き気も抑えることができた。

コレほど威嚇しても表情を変えない俺に虎は何か違和感を覚えたのか俺から距離を取ると

再び唸り声を響かせながらウロウロと俺の周りを歩き始めた。



さてどうする?



このまま睨めっこを続けるのだけは避けたいものだ。

試しに俺は前足でザリと地面を引っ掻いた。

瞬間、ザッと虎は姿勢を低くしていつでも飛びかかれる態勢になった。

だが飛びかかってこない。

こちらをじっと窺ったままだ。



その姿を見て俺は思いついた。

そうだ、コイツは野生動物だった。



俺は先ほどの虎のように敢えてゆっくりとした動きで地面を弄った。

枯れ葉がどかされ露わになる白い毛皮。



「っ!?」



短いウサギの悲鳴に虎の耳がヒクと動く。

地面にうづく待ってがくがくと震えるウサギ。

その首筋に俺は、噛みついた。



「ひ!…あ…ぁ…」



ビクン、ビクンとウサギの体は地面で数度痙攣し、

そして動かなくなった。

ジロリと眼球を虎へ向ける。



さぁ、どうする?

獲物は俺をぶちのめさないと手に入らないぞ?



自然界で獲物を奪い合って直接やり合う事はない。

弱肉強食の世界での怪我は死を意味する。

もし争って足を怪我すれば二度と獲物を追うことができなくなるからだ。

さぁ、どうする?

互いに怪我をしたくないだろ?



虎は俺が加えているものを未だにじっと見ていた。

そうして退治して数秒、数十秒。

突然獲物から視線を外し虎はクンと首をもたげた。



…?



そしてヒクンと鼻の上の皮を震わせると、

まるでこちらが見えなくなったかの様に歩き始め、竹林の闇の向こうへ姿を消した。



行った…のか。



巨大な影は竹林の向こうへ消え、

シンと静まった空間の中で俺はホッとすると同時に何かもやもやとしたものを感じた。



諦めたにしては少し様子がおかしい…?



「さ…さすがです!あの猛虎を前にして一歩も動じないなんて!」




地面でうずくまっていたウサギがひょこりと起き上がり、

咥えられてぐしゃぐしゃになった毛皮を掻き下ろしながら称賛の声を上げた。

だが俺はそれにこたえることができなかった。



あの虎の動きは見た覚えがある。

何かを感じたような。何かを見つけたような…。



頭の中で疑問がグルグルと回り始め、気を落ち着けようとしたその時、

ふとまだ嗅覚に訴える何かがあった。



これは血のにおい?

虎はもういなくなったはずだ。



「旦那?」



最初はまだあの虎の口臭でもついたのかと顔をしかめた、

だが違う。

アレよりもっと新しい匂いだ。

…新鮮?



まさか…!?



「な!?え?ちょ!旦那!!?」



俺は犬の姿に戻ると虎が消えていった方向へ駈け出した。

置くれて後方から軽い駆け足の音が鳴るのを確認した俺はスピードを上げる。

すると鼻に集めた嗅覚が空気に含まれる匂いに過敏に反応した。

間違いないヒトの血のにおいが濃くなっている。

体の奥で疼きだした熱を抑え込みながらその匂いの方向を探る。



誰かが、この森の中で誰かが血を流している。

アイツは俺らをあきらめたんじゃない。

興味がなくなったのだ。

もっと簡単に腹を満たす獲物を見つけたから。



硬く踏みしめられた地面を見つけてそれを辿りながら竹と竹の間を走り抜けていく。

その時、ピンと張りつめた耳に聞き覚えのある唸り声が聞こえた。

慌てて足音を消して焦る思いをこらえつつジッと竹林の向こう側を見つめた。

影の中でチラリと黄土色が蠢いている。

そしてその黄土色の向こう側に紅と白いの物が見えた。



紅と…白?



ゾクリと背筋にいやなものが奔った。

まさか、いや、そんなはずはない!

俺は頭の中が真っ白になって思わず飛び出そうとした。



しかし飛び出す前に俺の後ろ脚に何かがしがみついた。

それは白くて小さなものだった。



「旦那待ってください…!

 あ、アレは藤原妹紅ですぜ…!」



ゼイゼイと息を切らしながらも俺を追いかけてきたウサギはそう言った。

藤原妹紅?

視界を一点に集中させて覗いた先には紅いモンペに白のワイシャツを血で赤く染めた少女がうずくまっていた。

顔は垂れた白い長髪でうかがう事が出来ないが、たぶんあの火の鳥中にいたやつだろう。

しかし、それがどうしたというのだ。

助けなければくわれてしまうぞ!



「アイツは姫様と同じ蓬莱人ですから食べられても死にやしませんよ…!」



ウサギは遠くの虎に気付かれないように声を小さく小さく荒げた。



え?なに?死なない…?

それに蓬莱人??

聞いたことない名前だ。



ん?いや、蓬莱…蓬莱…死なない。

それって…。


=ふろうふし か?=



蓬莱って確か竹取物語で出てきた不老不死の薬の名前ではないか?

確か高校の古文の授業で竹取の翁で出てきた名前だ。

それに今いる場所も、栐琳が姫様といっていたのもそれを確証づけていた…。 

そしてさらにちらりと茂み越しに覗いた虎の姿にゴクリと息をのんだウサギは、

コクコクと首を縦に振った。



「ですから虎に食べられたって死にはしません…!

 どうせ数時間もすれば完治してますよ…!」



不老不死。

死なないから喰われてもいいというのか?

ヒトを喰うなとは言わない。

妖怪が人を襲うのは至極当然なことと霊夢に教わった。

でも…。



「…旦那?」



=えーりんに つたえろ もしものときは たのむ れいむを=



霊夢呼んで『処理』を頼む。



俺は踵を返して地面を強く蹴った。

ヒトが喰われるのを黙って見てていいとは教わらなかったはずだ!

藪の中から飛び出すと今まさに大きく口を開けた虎へ向かって一直線に突き進ん
だ。

虎が俺の飛び出した音に気づき視線をこちらに向けようとしている。



一撃。

虎が完全にこちらに振り返る前に虎を妹紅から引き離す。

そのために一発でかいのを叩きこむのが最善だ。

後ろ脚に力を回す。

ぶつかるか?

だめだ、こんなでかい虎をぶっ飛ばすには俺の体じゃ役者不足だ。

一撃。

自分の中で知り得る一番強い一撃…。

頭の中にあるものをひっくり返すようにその最善の一撃を探した。







頭の中に浮上した一撃。

それはこの場面で最も最善であり、

そして俺にとって最も再現したくないものだった。

思い出すだけでむかむかする。

しかし今さら他の物に変身する時間はなかった。

俺は体全体を使って跳び上がり、狙いを定める。

もちろん狙いは生物共通の弱点、頭だ。



虎が妹紅の細い首にくらいつこうと口を開く。



闇の中で白い歯がギラリと空気にさらされたのを見て、

俺は焦燥感を感じて空中へ躍り出た体をひねった。

前に向かった山犬の肩の関節を横へ向け。

前足の関節の位置を変更、関節の位置を移動。

ズムリと背中が盛り上がるのを感じながら急速に伸びた太い指で拳を握りしめた。



回転の勢いを殺さず、構成された『腕』を思いっきり俺は…。



俺は…



…なにをしてるんだろうな?



とび出しておいて今さらなのは分かる。



でもなんで俺はこんなに必死になってるんだろう?



あぁ、椛の時もそうだったな。



自分が死ぬかもしれない状況でアイツを助けた。



なぜだ?



ヒトだったころの俺は自己犠牲なんて現実的にばかげていると思った。



そんなこと映画か漫画の主登場人物がやることだと。



なのに今の自分はどうしたことか?



英雄にでもなりたいのか_



そこまで死んでまでカッコつけたい?



いや、今の俺は死ぬだけじゃなかった。



霊気の予備がない今、妖夢のときみたいに自分を暴走させてしまうかもしれない。



そんな危険を及ぼしてまで、俺は何カッコつけようとしてるんだ?



ましてや目の前で襲われている女の子は不老不死で死なないと教えられているのにだ。



まるで俺は死にに…。


…。



俺は…死にたいのか?



ちがう、そんなはずはない。



俺は生きたい。



生きて結界の外へ帰りたい!



俺は…。



オレは…。



…?



あぁ、そうか。



俺が死にたいんじゃない。



『オレ』が『俺』を殺したいのかもしれない。





握りしめた拳が回転の勢いを殺さずに振り抜かれた。





=====================================




あぁ、もう、なんて最悪な日だろう…。







適当な竹の一本に背中を預けて大きなため息をついた私は、

手で顔に流れた血を拭いながら一つ愚痴をこぼした。



朝から全然ついていない。



靴ひもは切れるし、今日に限って竹林の妖精たちは何か怖がって顔を見せてくれないし、

あのバカに負けたのも運が悪かったとしか思えない。

弾を展開している時にふと眼下で犬のようなものがいたような気がして

弾幕ごっこ中にちょっと下が気になってしまったのだ。

だから私は…。

いやそんなのこと、今はどうでもいい。



右足…逝っちゃったかしら?



空から落ちた時に思いっきり竹に足をぶつけ、

頭から地面に落っこちてしまい、気づいた時にはこの状態だった。



少しでも動かすとギリギリと右足の鈍く、中から喰い破られるような痛みが奔る。




響く痛みに顔をしかめつつ薄く開いた目に関節がもういっこ増えている右足が映った。

あぁ、これは直るのに時間かかるかもしれない。

どう見ても複雑骨折だ。

千年、二千年たっても骨が折れる感覚は慣れないもので怖気が走るが、

それが体の奥でゆっくりと治っていくのを感じるのも嫌なものだ。



…慧音を待つしかないかな。



慧音のことだ、どうせ竹林のそばにでもきているだろう。

互いのラストスペルはいっつも派手だから確認できたはずだ。

それまでここで足が治るのを待つしかない。


その時、静かな竹林の中で重苦しいうなり声が響いた。

本能が背筋に悪寒を走らせる。

なんだ今の…?

このあたりに住んでいる動物や妖怪とは何度か顔を合わせているが。

ココにすんでいる生き物の中でこんな声を放つ者がいただろうか。



知らない声の響く方向をじっと見つめる。

見なれた竹の向こう側。

むくと竹林の影の向こうで蠢く何かがいた。

大きい…なんだろう?



その時、巨大な影の中でギラリと何かが光を放った。

金色に縁取られたそれは縦に裂け、こちらをじっと見つめている。

ヒッと喉の奥が引きつるものをこらえた。

そう言えば慧音が言っていた。

最近永遠亭の道中でなにか巨大なものに襲わせる人がいると。

まさかあれが…。



どう見ても友好的ではないその眼光に迎撃の準備をしようとしたが、

途端に右足から響いた激痛に思わず奥歯をかみしめた。



咄嗟に空へ跳ぼうとした結果。

右足に力を込めてしまい、反響する痛みに体をうずめてそれに耐えようとした。

その耐えようとした一瞬金色の眼光から視線を外してしまい。

気が付いた時には竹の合間を縫うようにそれが近づいてきていた。



そしてその眼光の持主姿がはっきりと私の眼に映った。



虎!?



それは金色に近い黄土色に漆黒の黒を重ねた大きな大きな虎だった。

まずい、今のまま飛ぼうとしたら絶対安全圏に達する前に虎に叩き落される。



そう判断した私は炎を起こしてヤツを遠ざけようとした。

いくら大きくても獣である限り炎には近づきたくはないはず。



腕に炎を宿し、それを投げつけようとするが。

力を込めた瞬間クラリと視界がブレた。

何が起こったのか頭の中で整理がつく前に、

目の前の地面がいつの間にか真っ赤に染まっているのに気が付いた。



ヤバい。血が足りない。



狭まっていく視界にドッ、ドッと重たい音を響かせて虎がすぐそばまで近づいてきた。

濃厚な獣の気配に息が詰まる。

何百年か前に一度、当時はまだ弱かった私は妖怪にむさぼられたことがあった。

死ぬことの許されない私の肉が引きちぎられ、血をすすられる。

それはとてもおぞましく、精神的に耐えられうるものではない。

長い月日を生きた今となってはそんなそんなへまはしなくなったが。

今、現在、その危機に瀕している。

頭の奥でガンガンと継承が鳴り響いた。



逃げ…!



ドスリと虎の巨大な前足が私の脇腹を押えた。

肺の中の空気が一気に出て行った。

フシュと熱い蒸気のような虎の鼻息が顔にぶつかった。

それはとても血なまぐさく、吐き気が喉の奥で暴走しかけた。



視界の端で大きく開けられて露わになった黄ばんだ牙がギラリと光った。



…っ!?



次の瞬間、巨大な虎が鈍い轟音と共に横にぶっ飛んだ。

あの巨体が宙に浮き、そして地面に激突した。

だがそれも一瞬。

受け身を取った虎はその巨体からは想像もできない俊敏な動きで跳び上がると、

低い姿勢で構え、こちらに怒りをあらわにした表情を向けていた。

だがその視線は私を向いてはいなかった。



唖然とする私の前に月の光を遮って何かが立ちはだかる。



それは真っ白な、まるで雪の様な毛並みをなびかせた大きな猿だった。

白い猿はチラとこちらに視線を向けた後、満足げに背中を震わせた。






































>あとがき

こんばんわ、ねこだまです。
5月病というものを初めて体感しました。
だるだるー
こういうときは風景の写真集を立ち読みするのが一番です。
個人的に『かさねいろ』という写真集が見ていてムラムラします。(創作意欲的な意味で)
それでは内容解説へ。

今回は竹林での話パート3です。
主人公がなぜ原作キャラとの遭遇率が高いのか。
それは主人公の中のやつがジッと好機をうかがっていたからでした。
ある寄生虫の中にはホスト(宿主)の行動に影響を及ぼす種類もいるそうです。
それにしてもこの場合はどちらが寄生しているんでしょうか?
中のヤツ?それとも主人公?

そんなことはさておきようやく妹紅登場!
だが(妹紅視点にはなったが)しゃべってない。
妹紅はモンペのポケットに手を突っこんだままの立ち絵から男勝なり印象が強いですよね。
でも会話をみると一人称は「私」だし語尾は「~よ」が多いです。

…え?慧音はどうしたかって?
今回もまた予想外の長さになったので戦闘シーンと共に延期です。
さすがに2話連続で上下かけるほどねこだま元気がありません。

だれかー、感想板に「リアクション」だけでもお願いします。
おらに元気をわけてくれー \(>д<)/



いったんいつもの改行なしで投稿しようと思ったんですけど、
やっぱり私自身が読みにくく感じたのでやめました。
それに改行を付け足す際に誤字も発見できるのでやめないで生きたいと思います。


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