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[6296] クソゲーオンライン22
Name: あ◆2cc3b8c7 ID:e0b0b385 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/10 21:04
そこは誰もが幸せなひとときを過ごすことが叶う場所だった
だが、そんな憩いの場も、たった二人の悪意によって惨劇の舞台へと作りかえられる


笑い声は悲鳴に、笑顔は涙へと変えられようとしていた



■アルフィーナは笑えない■


戦隊ショーの会場は開始1時間前にも関わらず、ほぼ満員状態であった
この盛況ぶりを控え室から出て確認してきたグルックは
テンションを一気に急上昇させ、グッズを販売した際の収益の皮算用を始めたりしていた

そんな、ハイテンションガールを余所に戦隊ショー主役の一人でもあるリアは
のんびりとお茶を飲みながら、落ち着きなくオロオロする友人を優しい瞳で眺めていた


■■


はぁ、なんでこんな事になってしまったのでしょう?
こんな破廉恥な格好で衆人環視の中に飛び込むなんて・・・

どう考えても勝機の沙汰と思えません。やっぱり、ここはハッキリと断りましょう!
そうです!嫌なモノは嫌ということは大切な事です!!


『アルフィーナ、今日は一緒にガンバろうね♪私達がガンバってお客さんが沢山
 来てくれる様になれば、お世話になってるグルックさんに恩返しできるもんね♪』

「えぇ・・、いっ一生懸命頑張りましょう」



うぅ、その純真無垢を絵に描いたようなキラキラした瞳は反則ですわ
もう、やっぱり止めますなんて言えなくなってしまいました

そもそも、なんでリアがこんな暴挙に積極的か不思議に思っていましたが
『夢の国』の苦しい経営を考えれば、客寄せパンダでも何でも使って
起死回生を図らなければ、ジリ貧になる事など自明の理

賢く優しい彼女が、それに気付かぬ訳も無く
自分達を無理して引き取ってくれたグルックさんのために
経営を助ける為、なんとか恩返しをしようとするのもごく自然なことです


はぁ、奴隷市で震えながら涙を流していた娘に、ここまで健気な姿を見せられたら
私も覚悟を決めて『ホァーほっ!ほぁー!!!』とか訳の分からない奇声をあげる
戦隊ショーが明らかに目的ではない人の前に出るしかなくなってしまうじゃないですか



『じゃ、時間よ!二人とも期待してるわよ♪』  「『はい!!』」






とうの昔に覚悟を終えていたリアとようやく覚悟を完了したアルフィーナは
グルックから時間が来た事を告げられると、元気の良い返事を返し彼女を満足させる


例え客寄せパンダによる低俗なショーであっても
それを楽しみにする観客が一人でもいるならグルックは決して妥協はしない
ショービジネスとはそういう物だと尊敬する師から教えを彼女は受けていたのだ


急場造りとは思えない派手な演出の『戦隊ショー』が幼帝の前で遂に始まる



■夢の国東地区■


戦隊ショーが始まろうとする中、ヘインと食詰めの二人は
そこから少しはなれた『東地区』で遊園地特有の割高な昼食を取っていたのだが
楽しい会食の時間は直ぐに終わりを迎えることになる


ヘインの食べる血のように紅いトマトソーススパゲティーに
突然、無言で近寄ってきたお客に刺されたウェイトレスの女性から噴出した
血のソースが盛大に掛けられたのだ!!


『血の惨劇』は入場口に近い『東地区』から始まった



■■


「いきなり刺すなんて!?こいつマジキチかよ!!」
『ヘイン!!ぼさっとするな!来るぞ!!


行き成りの事態に動転するヘインより、殺人鬼に突然変貌した男より
食詰めの反応は遥かに早かった


ヘインに注意を促すのと、テーブルを蹴り上げて殺人鬼を下がらせ
距離を取ったのはほぼ同時であった


「わりぃ、助かった」「「いやぁああああああああ!!!!」」



ヘインが食詰めに返した礼は一瞬で女性の悲鳴で掻き消される
飲食店通りを歩いていた別の一般人が別の『殺人鬼』に首を切り飛ばされたのだ


恐怖に染まった悲鳴が、惨劇の始まりを告げる狼煙になった
一瞬にして一般人の仮面を被った欲望に塗れたケダモノ達が
自分達よりも弱いと信じる獲物に薄汚れた牙を突きたてていく


余りの事態に硬直する人々に平然と凶器を突き立て
次々とデスペナをばら撒く『殺人鬼』達に
女性プレイヤーや従業員に襲い掛かる『下衆』達
暴力に任せ無理矢理にカネやアイテムを奪い取ろうとする『乞食』達


帝位に眼が眩んだ『リップシュッタトの盟約』とそれを煽る『フェザーンの老人』に踊らされた
欲望に素直なケダモノ達は、自分の思うままに欲望を実現させようとしていた


それが、『物言わぬ木偶』変えられる原因になるとも気付かず無邪気に・・・



『ヘイン、どうやら楽しいデートは終わりのようだ
 躾がなっていない獣を早急に大人しくさせないとな』

「久々の休日だっていうのに・・、とっとと終わらせてグルック達の所に行くぞ!」


最初の惨劇を生んだ『殺人鬼』を一突きで『物言わぬ木偶』に変えた食詰めの提案に
ヘインはガックリと肩を落としつつも同意しつつ、一刻も早い事件の収束を誓う


『奴隷解放』のお礼を笑顔で言っていた何の罪も無いウェイトレスの少女に
理不尽な沈黙を与えたケダモノ達に、ヘインもまた怒りを感じずには居られなかったのだ



「戦争イベントと違って、ここはレベルが彼我の差に直結するって事を教えてやるさ!」






友人にとって大切な場所を無遠慮に汚し
奴隷から救った筈の従業員や無関係の客に何の躊躇いもなく
自分達の汚れた欲望をぶつけるケダモノ達に
ヘインと食詰めの二人は到底寛容になれそうになかった


こうして、惨劇の被害者を少しでも減らす為に二人は無慈悲な『狩人』になる
例え、返り血で染まるたびに『その業』で胸が抉られるようとも止まることなく





■超ノリノリ■


戦隊ショーが始まった当初は短い準備で上手く行くのか?不安の方が先に立ち
強く握った手の平を汗で滲ませていた裏方のグルック達であったが
その不安は、全く杞憂に終わることになる


お約束通りの陳腐な劇の展開であったが、その単純さ故に年少プレイヤー達には大受けし
『皇帝のフリードリヒよんせ』も大きな目を見開いて、そのショーに魅入っていた

また、当初の目論見通り大きなお友達も二人の美少女に最初から大興奮で
ほんと、経営難じゃなかったら『お帰り下さい』と言いたいほどの熱狂ぶりだった



勿論、この大盛況を支えるのに二人の主役の力が大きかった事は言うまでも無い



■■



「卑劣な!!悪事を為すに止まらず、子供を人質にして自らの要求を通そうとは
 例え、天がお赦しになったとしても、このレッドフィーナが許しはしない!!」

『ピンキーリアも許さないんだぞぉー!』



ショーが始まるや否や、最初のイヤイヤ感は何だったのだろうか?と
思わず突っ込みたくなるほどアルフィーナはノリノリで役に嵌って
熱の篭った演技をしていた

どうやら、暴走一直線な所がある彼女には少々子供じみた
単純明快な勧善懲悪ものが意外と肌に合ったようである
まるで水を得た魚の様に活き活きとアドリブを盛大に交えながら
彼女は迫真の演技をしていくことになる


そして、その横で相方のリアのほわーんとした感じの演技も
上手く萌えを演出するのに一役も二役も買い、大きなお友達を更に熱狂させていく



『ふん、幾ら吼えても無駄な事!我がブラック団は悪逆非道がモットー
 幾ら罵られようとも、悔しいけど感じちゃうだけで、なんともないぜ!!』

『さすが、ブラック隊長!変態でもなんともないぜ!』


怪人側の方も会場の熱気に酔ったのか
アルフィーナと同様にノリノリ、いや、超ノリノリ状態になっていた



このまま終幕となれば、誰もが笑顔で帰る素晴らしいショーになっただろう
だが、ここは『レンネンカンプ』の世界で、現実以上に甘くない世界だった
たとえ、そこが『情熱』によって作られた『夢の国』であっても例外は認められない



        悪夢のような惨劇の幕は無慈悲にあがる




■大宰相リヒテンラーデ■


会場の興奮が最高潮に達し、二人の美少女戦士の合体技が
怪人と怪獣にいまにも放たれようとする最中



突然、複数のプレイヤー達が皇帝の元へと駆け寄る!!



そして、刺客と化した彼等の手にはしっかりと
幼い皇帝の命を刈り取る為の武器が握られていた

『皇帝暗殺』のため集った本命の部隊は凶事を成し遂げんと企み
戦隊ショーの行われている会場内に観客として紛れ
観衆の目がステージに釘付けになる絶好の機会を逃さず、行動に移したのだ



この異変に帝国宰相を始めとする側近達も直ぐに気付いたものの
護衛の数の少なさは如何ともし難く、その接近を止める事は叶わなかった


そして、その動きを合図に『東地区』と同じように
一般人に紛れていた欲望に素直なケダモノ達も偽りの仮面を脱ぎ捨てて
殺戮と暴行の限りを尽くさんと、その牙を剥き出しにする



歓声は一瞬にして、恐怖と絶望の入り混じった悲鳴へと変わり
戦隊ショーの会場は理不尽なデスペナを大量生産する場へと様相を瞬く間に変える



■■


『ファイブレン!!』『ブリザーグ!!』 『うえぇーん!!ふぇーん!!』


幼い皇帝の泣き声が鳴り響く中、わらわらと襲い掛かる刺客達に対し
必死で攻撃呪文を放つのはゲルラッハとワイツの二人だけになっていた

既に幼帝の傍でピッタリと護衛を担う宰相リヒテンラーデを除けば
生き残っているのは彼等二人しか居なくなっていた


彼等は火と氷系の中位魔法で牽制しつつ、刺客たちと何とかギリギリの距離を保つが
それもいつまで持つか怪しいものだった。ただのケダモノ達と違って
幼帝を執拗に狙う刺客達は高レベルの訓練された猛獣であった





『どうやら残ったのは爺さん、アンタとガキだけだぜ?』



一瞬の隙を突いて最後の近侍を討ち取った刺客は陰惨な笑みを顔に張り付かせながら
絶望的な状況に追い込まれた哀れな老人に声を掛ける
まるで獲物を前にして勝利を確信した肉食獣のような凄惨な表情で



だが、その表情を見せた数瞬後、彼は驚愕によって顔を凍らせことになると同時に
その身を地獄の業火で焼き尽くされ、絶対なる死の制裁を受けることになる

帝国を老いた双肩で支え、文武百官の頂点に立ち続ける帝国宰相リヒテンラーデ
彼も『レンネンカンプ』において君臨する資格を持つ者であったのだ



『やりやがった!!クソッ!!このジジイ、特大のファイボーマ使いだ!!』



「勘違いするでない。今のはファイボーマではない・・・、ファイボンだ
 同じ魔法でも魔力の強さと絶対量でその威力は較べられぬほど変わる」


一瞬にして黒焦げになった同僚を前に硬直する刺客達に囲まれた
大宰相リヒテンラーデは淡々と彼等の間違いを正していく


そう、不勉強な肉食獣達は相手の実力を完璧に見誤っていた
一度もフィールドにも出ず、戦争イベントにも参加してない奴等は
大したことはないという半ば固定化された先入観に捕らわれて


我侭放題の幼帝を相手にしながら、国家を取り仕切ることで得る
余りにも大きな経験を彼等は軽んじてしまっていた


大宰相リヒテンラーデのレベルは既に1000を優に超えているとも知らずに



「愚かな暴挙に対する返礼をするとしようか。これが私のファイボーマだ
 この凄まじすぎる威力と、その優雅なる姿から宮廷ではこう呼ばれている」





        「「  宰相フェニックス!!!  」」





そりゃねーだろ!!と刺客達がツッコム間もなく
大宰相リヒテンラーデはその手から生み出された灼熱の不死鳥によって
周りに立ち尽くしていた不逞な輩達を全て灰燼へと帰す



その地獄の業火に匹敵するような大魔法の熱気は大気を揺らがせ
尚も執拗に幼帝を狙う哀れな刺客達を呑み込もうとしていた





■獣王オフレッサー■


自らの部下が一瞬にしてデスペナの制裁を受けていくのを
何でもないことのように見守り続けた巨躯の持ち主は
常人では持ち上げることすら叶わぬ巨大な戦斧をようやく手に携えると
一歩一歩、大地をゆっくりと踏みしめながら
地獄の業火の余波で揺らめく災厄の中心地へと進み出る




          哀れな二匹の獲物を食い千切る為に・・・



■■


「帝国宰相リヒテンラーデ閣下と皇帝陛下、両名の御首級頂戴したく参上仕った!!」


『痴れ者が、大方ブラウンシュバイクの豚かフェザーンの黒狐に誑かされたのであろう
 智恵を持たぬ故に牙を向ける相手も分からぬか、自身の蒙昧を悔いて焼かれるがよい!』


簡潔に自身の要求を告げた上級大将オフレッサーに
大宰相は容赦なく自身最大の攻撃力を持つ灼熱の不死鳥を惜しげもなく叩きつける
先程までの刺客とは格の違う獰猛な男に手加減をする必要性を彼は認めなかった


不幸なことに、その認識は正しかった事が一瞬で証明されることになる




「ふんっ!大宰相ご自慢の火系魔法も所詮はこの程度か・・、温過ぎるわぁっ!!」



オフレッサーは携えたトマホークを一閃させると
何人もの猛者に永遠なる沈黙を与えた不死鳥を易々と掻き消した



『・・!?、なん・・・、だと・・・?』



その余りにも非常識な光景にリヒテンラーデは驚愕し
大宰相としての威厳を一瞬にして失うことになる

もっとも、続く一撃で胸を深々と抉られた宰相だった男にとって
過去に存在した威厳などというものが如何程の価値を持たないであろうが・・・


自分に向かって生きる力を失い崩れ落ちてくるリヒテンラーデを
無造作に払いのけたオフレッサーは『任務』の仕上げをするため

座り込み泣き喚く子供へと、巨躯を揺らしながら歩みを更に進め
その可愛らしい首根っこを掴むと、人形の首を圧し折るような手つきで
フリードリヒよんせの首を圧し折り、二度と動かぬ『小さな木偶人形』へと変え
まるで、地面に空き缶を捨てるような動作でその小さな木偶を捨てた



「所詮は老人と子供!この俺様の圧倒的な力の前では無力よ!!」



目的を達した喜びなのか、殺戮に酔いしれたのか見当も付かぬが
オフレッサーは二人の哀れな木偶を踏みつけながら
雄叫びのような笑い声を広場に木霊させ続けた


その光景は、見るものに帝国の終焉を予感させずにはいられなった・・・


『レンネンカンプ』が始まって以後、もっとも多くの命を奪ってきた男にとって
この世界の最高権力者ですら、他の獲物と変わりない『モノ』であった



   獣王と称された化物は狂ったように咆哮を揚げつづける!!




■感謝と悔恨と決意■


皇帝襲撃地点となった戦隊ショーの会場は一瞬にして地獄へと姿を変えた

皇帝弑逆を目的とする刺客達と違ってただ自身の欲望と快楽に身を委ね
無秩序に観客やスタッフを襲い始めたケダモノ達に分別や見境など当然なく

会場内は剣戟の音だけでなく、攻撃魔法の爆音や無差別に飛び交う弓矢などが
一瞬にして、不幸な低レベル者達の命を奪う死と隣り合わせの場所となる


大宰相と獣王がその圧倒的な武威を示すさなかも
罪なき無名の人々達はその儚い命を散らし続けていたのである



■■




『今日楽しかったなぁ。あと奴隷から解放してくれて本当にありがとう
 もっと仲良くなりたかったけど・・、友達に・・・なってくれてありがと・・ね』



振り返りながら、どこか寂しい笑顔で感謝の想いをアルフィーナに告げたリアは
そのまま仰向けに倒れ、苦しそうな顔をして咳き込みながら血を二度吐くと

もう、動くことは永遠になかった


誰にでも等しく訪れるデスペナから、低レベルである彼女は逃れる術を持っていなかった

彼女の命を無慈悲に奪ったのは『ロックラッシュ』という
中級土系範囲魔法によって生み出された拳大の岩石であった


その凶器となった小さな石ころは、簡単に彼女の腹を抉り突き破った
回復アイテムも回復スキルも回復魔法も間に合わぬ一瞬の出来事
低レベル者のHPは彼女を生き永らえさせるには余りにも少なかったのだ・・・



「うっ嘘・・、リアってさっきまで笑って・・。嫌だよ・・なんで助けたのに
 助けた気になってたのに!!私、ちゃんと約束したのに守れないなんて!!」



一瞬にして大切に想っていた友人を失ったアルフィーナは
直ぐに何が起ったのか把握はしたが、理解する事が出来ず
もう冷たくなったリアを抱きしめ、赤ん坊のように嗚咽を漏らすことしか出来なかった
ケダモノ達が傍若無人に跋扈する場の中心地であるにも拘らず



『ヒャッハァー!!上玉がいるぜ!上玉はやっちまえ~!!』



そんな無防備な彼女を見過ごすほど欲望に素直なケダモノ達はやさしくはない
近くに居た五、六匹が彼女を欲望の捌け口にせんと襲いかかる


『あべっし!!』「びびぶっ!」『べへっほっ?』「へぶばぁっ!」「ごぶとっ」



・・・が、後方から、控え室の付近の方から飛来した数本の矢によって
汚らしい汚物たちは二度と動かない木偶へと姿を変えさせられ、事なきを得る

『立ってぇっ!立ってアルフィーナ!みんなを助けて!!お願いみんなを守ってよ!!』



弓を放ったグルック、放心状態のまま座り続ける友人に声を張り上げる
彼女自身も目には涙を溜め、今にも膝から崩れ落ちそうだったが
尊敬するこの『夢の国』を作った人に恥ずかしくない最後を迎えるため

経営者として、最悪の事態を防げなかった責任を取る為
細い腕に鞭を打ちながら弦を引き、観客と従業員を守る為に矢を次々と放ち続ける



『こっちの女を殺せ!!』「弓使いから消すぞ!!」『囲め!囲んでなぶり殺しだ!!』



その献身的な姿勢は当然の如くケダモノ達を激怒させ
『弓使い』が苦手な近接戦を挑むべく次々とグルックに迫ってくるが

『最大の危機にこそ最高の成果を挙げろ』と何度も言われて来た彼女は
もっとも距離が近い獣に狙いを定め確実に効率よく射殺し
容易にケダモノを自分の傍まで近寄らせなかったのだが


残念なことに矢は有限である。背中に担いだ矢筒に手を掛けて空を切った瞬間
グルックは絶望的な表情を見せることになり、
ケダモノ達はそれとは対照的な汚れた復讐心を張り付かせた醜い笑みを見せる


だが、グルックは諦めなかった。最後まで諦めたくなかった・・・
既にその用を成さなくなった矢筒を向かってくる獣の顔に投げつけ一人を昏倒させると
弓を振り回して群がる相手を弾き返しつつ
隙を見ては距離を取り囲まれないように足掻き続けたていく


しかし、少しずつではあるが、相手の攻撃をその華奢な体に受けることになり
体に付いた傷の数を増やし、血を流す内に疲労も溜り、その動きを鈍らせていき
やがて、弓も折れて武器を失い退路のない袋小路に追い詰められことになり
『夢の国』の経営者として最後まで奮闘した彼女は最後を迎えようとしていた



『はぁっはぁ・・、最後まで諦めなかったんだから
 あの人も、ぎりぎり笑って許してくれる・・・かな?』




■沈黙は鉄壁也■


戦隊ショーが行われている『夢の国』西地区とは反対に位置する東地区では
相変わらず激しい戦闘が続いていたが、徐々に終局へと向かいつつあった


ヘインが助けを頼んだフェルナーや鉄壁、沈黙に双璧などが
ギルドメンバーを引連れて事態の鎮圧するための増援として駆けつけてくれたのだ

この動きに対して、『リップシュタットの盟約』も陰謀をなんとしても成就させんとして
『夢の国』ギルマス、サブマスでもあるブラウンシュバイク公と
リッテンハイム侯が自ら先頭に立ち、配下の精鋭引連れて侵攻してきたのだが

その動きを察知した赤金双璧軍団に逆フルボッコされてデスペナを喰らってしまい
帝国最大ギルドであった『リップシュタットの盟約』はギルマス、サブマスの
同時ロストという珍しい現象によって瓦解してしまうことになった


この結果、既にオフレッサーの手によって皇帝暗殺を成し遂げていたのだが
ギルド自体が崩壊してしまった為、実行犯の努力の全ては徒労に終わることとなる


■■



最初はどうなる事かと思ったけど、なんとかここら辺は落ち着いてきたな
一先ず、助けに来てくれた奴等にこっちを任せて、西地区の方に向かうとするか


「フェルナー!俺はちょっと抜けて西地区を目指すことにするわ
 とりあえず、グルック達を探しに行く。食詰め付いて来れるか?」


『ふん、誰に聞いている?お前の赴くところならば私は
 どこへだって着いて行って見せるさ。要らぬ心配をするな』


「へいへい。大丈夫そうなら良いよ。そんじゃフェルナーこっちは頼んだ」


『了解しました。此方がもう少し落ち着き次第直ぐに増援を編成し
 西地区にも部隊を派遣するように致します。お二人とも御武運を!』



そんじゃ行きますかね。ホントは安全な所で隠れていたいけど
アルフィーナやグルックを見殺しにしたりしたら
夢に出てきて永延と文句垂れてきそうで後が怖いからな


『まぁ、偶には正義のヒーローごっこもいいんじゃないか?』

「うるせー、どうせ俺はちゃちなモブキャラ止まりの男だよ!」


『そんなことないさ。小心者だけど誰よりも優しくて・・・
 ヘイン、お前は私にとって間違いなく最高のヒーローだよ』






こいつ最初に見たステータスのこと、まだ覚えてやがったのかと
ブー垂れながらも満更悪い気がしなかったヘインは

後ろからでも分かるほど耳を赤くした少女に遅れを取るまいと
黒煙が立ち昇る『夢の国』西地区へ向かって駆ける
なるべく楽に友人達だけでも助けたいという
自分勝手で都合の良い欲望を胸に抱きながら



『血の惨劇』の中、少しだけでもマシな状況を求めて
人々はそれぞれの持つ、自分勝手な正義の剣を振るい続けていた




■最悪な足止め■


西地区と東地区を結ぶ唯一の道でもある『シルヴァーベルヒ通り』には
殺戮ギルドとして名高い『はじめ人間オフレッサー』の精鋭中の精鋭が
外部からの侵入を防ぐ為、万全の準備のもと通りを封鎖していた


だが、その精鋭に匹敵する実戦経験を誇る二人のコンビは
その精鋭達を相手に苦戦しつつも次々と打ち倒し
封鎖部隊を指揮する二人の猛獣を表に出させる事に成功する。



刻一刻と時間が過ぎる中、ヘイン達二人は目の前の強敵を倒さざるを得ない
彼等の後ろにしか、友人たちが待つ場所に辿り着ける道は無いのだから



■■


『ここまで我等二人を梃子摺らせるとは・・』『敵ながら天晴れといえよう』



へいへい、褒めてくれなくてもいいから、ここ通してくれないかな?

『ヘイン、無駄な問答は止せ。あいつ等に通す気など最初からないさ』


まぁ、それは分かっているんだけど、出来たら楽したいのが
人間てもんだと思うんだけどねぇ~俺は



『残念ながらお嬢ちゃんの言う通りだ。貴様等は我等を倒さぬ限り前に進めぬ』
『そして、この力を使った我等に勝てるものなどオフレッサー隊長以外存在しない!!』


注射器・・・だと!!

あれか、使用法を間違えると突然ライトに喧嘩を売ったり
職業が自称だったことがバレてしまう恐ろしい悪魔の秘薬を使う気か?


『正気じゃないな。ヘイン、お前は間違っても手を出さないでくれよ』


手なんか出すかよ。あれだけには手出しちゃだめだろ人として


『クックク、臆病者共が、我等はこれによって鬼神の力を手に入れる!!』






        『 サイオキシンコンソメスープだ!!! 』











結論から言うと二人はあっさりと勝った。勿論、ヘイン達の大勝利である


一本目の注射を終えた男は有り得ない位に筋肉を膨張させ
その驚異的な姿にヘインと食詰めの二人は言葉を失ったのだが

もう一人が、二本目の注射を自らの腕に打った後に
別の意味で言葉を再び失うことになったのだ


そう、二本目の注射を打った男が突然泡を吹き始めて倒れ
ピクリとも動かなくなってしまったのだ

そして、その僚友の姿にもっとも動揺したのは一本しか注射を打たなかった男だった
彼は見ているほうが気の毒になるぐらいうろたえ出し、何処かに電話を掛け終えると
あろうことか、横で泡を吹いて倒れる同僚に救護措置を取る事無く見捨てて逃げ出す



『ダメ、絶対か・・・』「あぁ、そうだな。とりあえず先急ごうぜ」



何はともあれ、戦わずして強敵二人を葬り去った二人は再び、西地区へと駆ける
ここで足止めされた時間を少しでも取り戻そうと


ただ、残念なことにこの時点で奮戦するグルックの救出に
二人は間に合わないこことが確定してしまっていたが

腐っても、彼等はオフレッサーと共に常に最前線で無茶な戦いをしてきていた
いくらへインと食詰めが高レベルで経験が豊富であっても
楽々と突破できるような雑魚とは違っていたのである

彼等は既にダイヤモンドより貴重な『時間』を浪費してしまっていた




■糸を紡ぐもの■


リヒテンラーデの大魔法によって燃えた木々の焦げ臭さと
人々の流した血の臭いが混ざる中で


大切な人と共に創った『夢の国』を守ってきたグルック女史の夢は
暴徒と化した人々と老人達の汚れた欲望によって終わりを迎える


その中心地に最悪の化物を残しながら・・・






■■



あれ?ぜんぜん痛くないけど、即死だったのか?死後の世界ってあるんだねぇ~
って、デスペナで動けなくなっただけか、でもこのまま真っ暗の中です~と過ごすのかぁ・・
なんか絶対発狂しちゃうよ。ずっと動けないなんて酷い拷問だよね?



『グルック、グルックさん!!いつまで目を閉じていらっしゃるんですか?』


あれ、アルフィーナちゃんと復活したんだ
最後に発破掛けといて正解だったかな?リアの事は凄く悲しいけど
それで、アルフィーナまで同じ目に遭うなんて絶対嫌だったから


『いつまで寝てるんですか!!ささっと起きて避難して下さらないと困ります!!』


「もう!!ぺちぺち叩かないでよ!!こっちはデスペナで動けないんだから!!
 って、あれ?動けるし、目も見えてる?アルフィーなこれどういうことかな?」


『はぁ~、しっかりした方と思っておりましたが、貴女も抜けた所が御ありなんですね
 貴女に襲いかかろうとしていた人達は、私がこの竪琴の弦を使って輪切りに致しました』 




うげぇ、ちょっとこれはグロテスクかも・・・
こんなバラバラの状態でデスペナなんか受けたら
一瞬で発狂しちゃう自信あるかな
でも、この人達のしたことを考えれば自業自得だから
同情なんてする気はさらさらないけどね



『でも、貴女の御蔭で目が覚めましたわ。これはその御礼と思って下さって構いません』

「ううん。ちゃんと御礼を言わせて貰うわ。アルフィーナ、助けてくれて有難う♪」


『どういたしまして、って抱きつかないで下さい!!今はそれどころじゃ!!』


もう、アルフィーナって大胆なように見えて結構恥ずかしがり屋さんなのよね
でも、そんな所がかわいい妹って感じがしていいんだけど♪

あんまりからかう怒っちゃいそうだし、ちゃんと言うこと聞こうかな?


「はいはい分かりました。ちゃんと言う通りに避難するわよ
 勿論、アルフィーナも一緒に避難するんだよね?そうだよね?」

『すみません。私は一緒には行けません。あの化物を止めます
 あの男がこの事件の、リアの仇です。私は絶対にあの男を許せません
 それに、あんな化物を放置しては更に被害者を増やすことになりますわ』


「そんな、なにもアルフィーナが無理しなくても・・・、そっか、そうだよね
 分かった。でも、絶対、無理だけはしちゃだめだよ?逃げてもいいんだよ?」

『はい!分かってます。グルックさんは皆をお願いします』






未だに咆哮を揚げながら殺戮を楽しむオフレッサーは流石に無理と
一緒に避難するべきだとグルックは最初主張したのだが、アルフィーナの瞳を見て諦めた
彼女の決意と『情熱』に燃えた瞳は、かつての上司の瞳と同じ色だったから


グルックは今の体力と自分の力量では到底あの化物に敵いそうになく
却って大切な友人の足手纏いになることがよく分かったので

ありったけの回復薬を渡すと、くれぐれも無理しないようにと彼女に言い含めると
素直にその他の客や従業員を誘導しながら比較的安全な東地区を目指して避難する


そして、アルフィーナは彼女達を無事避難させるため
猛獣と化した獣王オフレッサーを足止めするため
守れなかったリアの代わりにみんなを守る為


たった一人で、『レンネンカンプ』史上最強の化物、『獣王』の前に立ち塞がる




■圧倒的なる破壊者■


既に皇帝暗殺という目的を達したオフレッサーは
不必要な殺戮行為を行う必要などなく、その圧倒的な力を持って
『夢の国』から出国するだけでよい筈であった
だが、彼は敢えて不必要な殺戮を執拗に続けようとしていた


勿論、彼は快楽殺人者という訳では無い
その一見して厳つ過ぎる顔から、脳筋ヤローと蔑まれる事もままあるが
自ギルド構成員を完璧に掌握する力量を見せるなど
それほど知性は低くなく、どちらかといえば高い方であった


だが、彼はそれ以前に本当の意味での『求道者』であった
この狂った『レンネンカンプ』の世界で自分の純粋な力が
どこまで高める事が出来るのか、それを求めずには居られなかった
だからこそ、彼に心酔する二人の側近すらも危険な悪魔の秘薬の実験に供し
今もまた、自分のレベルを効率よく上げるためプレイヤーキルを
嬉々として継続し続けていた。そんな彼だからこそ、この世界でもっとも強く
最も高いレベルに到達する事が出来たのかもしれない



彼のレベルはこの時点で唯一、2000レベルに達していたのだ



■■



カッコよく足止めを引き受けたものの、正直なところ想定外ですわ
この男、強すぎますわ!!見た目に反して技も上手く、速さもある

端的に言えば付け入る隙がありません
唯一の救いは獲物が近接用の斧という事位でしょうか?



『どうした小娘?貴様のちゃちな糸位ではこの俺の鋼鉄の体には傷一つ付けれぬぞ
 それに、下手糞な歌はもう止めたのか?もうネタが無いなら悲鳴を聞かせて貰うが?」



くっ、人の気にしてる事を抜け抜けと!!だったらもう一度聞かせて差し上げますわ!!
残りMPもうあと僅か、出し惜しみしてもジリ貧ならば、ここで勝負を決める!!




「聞き惚れなさい!我が紡ぐ死の旋律と歌声を!!!」





『はんっ、小娘がピーチクパーチクと!!叩斬ってくれるわぁっ!!』




■獣の咆哮は鳴り止まぬ■



ヘインと食詰めが惨劇の最終会場に向かう途中
東地区に避難するグルック達と遭遇することになった

そこで、彼女からアルフィーナがとんでもない化物を相手に
一人で殿として足止めをしていると知らされた二人は
グルックに頼まれるまで無く、アルフィーナを援護するために駆ける



■■



『ウガァッァアォォア!!!クソアマガァアッォァア!!コロシテヤルッ!!』



怒り狂った獣王が殺意に狂った雄叫びをあげる中
ヘインと食詰めは最後の舞台へとようやく到着する


彼等の眼前には耳から血を溢れさせながら猛り狂う獣王と
その獣王の牙によって虫の息となった少女が横たわっていた



「大体の状況は把握したけど、あいつに近づく勇気はちょっと持てなさそうだ」



怒り狂うオフレッサーの姿を見たヘインの第一声は怖気付きました宣言であったが
『お前らしい感想だ』と笑うだけで、食詰めはヘインを特に見損なうことはなかった

長い付き合いの彼女は、その後に続くヘインの言葉と行動を既に予測していたのだから




「とりあえず、アルフィーナだけは助けるぞ。嫌だけど俺が囮になるから
 その隙にお前はアイツを担いで安全な所に移してくれ、その後は時間稼ぎだ」

『悪くない案だな。時間が稼げればフェルナー達も直に駆けつけてくれるだろう
 ただ、私が心配性なだけかもしれないが、アレを相手に時間を稼ぐ自信は無いな』


「心配するな。正直、言ってる俺も無いわ」『嬉しいな気が合うじゃないか?』



軽口を交しながら、化物との距離を詰めた二人は一挙に動く!!



ヘインは十本の指すべてにファイボーマを無理矢理に宿らせ
それを惜しげもなくオフレッサーに叩きつける!!


その熱気と業火によって舞い上がった砂塵のベールを利用して
目的に到達した食詰めはアルフィーナを担いで、距離を一気に後方へと取る


■■



舞い上がった砂塵が落ち、視界が晴れても見当たらないヘインを探すと
距離を取ったはずの彼女達よりも遥か後方に、血を吐きながら腹を押さえるヘインが蹲っていた



『ほぉ、虫けらの割りに中々やるではないか、インパクトの瞬間
 自ら後ろに飛んで、ダメージを最小限に抑えるとは楽しませてくれそうだ』



心底楽しそうに笑う獣王の獰猛な笑みと視線に射竦められたヘインは
全然、楽しくねぇーよ馬鹿!!と叫びたかったが
胃液を苦しそうに吐くので忙しく、声を出す事など出来そうになかった


『ヘイン!大丈夫か?』「これを見て大丈夫と聞けるお前に驚くわ!!」


ヘインの返答に意外と大丈夫そうだと判断した食詰めは
アルフィーナを丁寧に降ろし、回復呪文を使って一応の処置を施し終えると
隙があれば逃げるように彼女に伝えると


神速を持ってオフレッサーの懐に飛び込み、剣を一閃させる!!


『ふん、早いだけの剣など怖れるに足らんわぁっ!!』



そう吼えて獣王は食詰めを遥か後方へと蹴り飛ばす!!


完璧ともいえる食詰めの見事な剣撃をトマホークの柄の先で突いて
易々とその太刀筋を逸らせたオフレッサーの技量はまさに化物に相応しいもので
続く蹴り技で食詰めに第二撃を振るわせなかった格闘センスも人外レベルであった


食詰めもとっさに鞘を引き上げ、それで蹴りを受けなければ
拉げた鉄鞘の代わりに一撃で戦闘不能に陥っていただろう



「おーい、食詰め大丈夫か?」
『ふん、魔法の支援も無しに、声だけ掛けてくれる卿の優しさに感動しているよ!』




嫌な汗を盛大に垂らしながら、食詰めは折れた肋骨を手早く治療していく
なんとか軽口を叩きながら平静さを保っているが
正直なところ、逃げ出したくてしょうがなくなっていた

もっとも、そんな甘い考えを許してくれるほど
簡単な相手ではないということは十分すぎる程分かっていたので

使いものにならなくなった鞘をぞんざいに投げ捨てながら
再び何度も死線を共に潜り抜けてきた愛剣を強く握りなおす


異様な長さを感じる短い死闘は、まだ始まったばかり・・・




■■



戦いが始まってヘインは怖かったので中距離からの魔法攻撃に終始していたが
限界ギリギリまで圧縮した魔力を魔法に変えて幾度と無くぶつけ続けても
一度たりともオフレッサーに有効打を加える事が出来ていなかった

一方の食詰めも自慢の剣技と神速をもって何度も剣撃を仕掛けるが
そのどれもが簡単に捌かれてしまい、精々、薄皮程度の傷をつけるのがやっとであった


もしも、アルフィーナの攻撃でオフレッサーの三半規管が多少なりともイカレていなかったら
とうの昔に二人とも仲良く揃って、デスペナの制裁を受けることになっていただろう
そして、それだけのアドバンテージがあっても、時間稼ぎすら出来なそうであるという事実が


二人に否応も無く、化物との圧倒的な実力差を思い知らせていた




「これは、本気で・・・、やばそうだな」

『どうした・・・、息も・・あがって、弱気に・・なってきたか・・?』



息も絶え絶えな両者は決断を迫られつつあった
このまま絶望的な戦いを続けるか、起死回生の一撃に賭けるか

残念なことに一番成算があった逃亡という選択肢は
今の彼等に残された体力では選択にカーソルをあわすことは出来ない




「多分、時間稼ぎしても・・・、無駄そうだな」

『はぁはぁっ・・、私にひとつ手が・・・ある。乗らないか?』





肩を寄せ合う距離に久しぶりに立った二人は
最後になるか知れない相談をする




『どうした、最後のお話は終わりか?遺言など残さずとも
 心配せずとも、二人仲良くあの世に送ってくれるわぁっ!!』



気勢をあげたオフレッサーが突進してくるのに併せて
食詰めも剣の切っ先を化物に向けながら、最後の力を振り絞って走る!


ヘインもありったけの魔力を込めて風系上級魔法『グラズエァー』の
球体を両腕に宿らせ、最後のタイミングを必死に見極めようとする!!




『ヘイン!!いまだっ!!!』「突っ込めぇえ!!」



食詰めの合図と共にヘインは両腕に宿した魔法を『食詰め』に叩き付けた




        『なんだとぉっ!!!』




攻撃魔法を味方にぶつけると言う予想外な光景に
オフレッサーは少なからず動揺してしまう

その隙をヘインの風魔法を受けて更に加速した
食詰めは見逃す訳も無く、剣の切っ先を化物に突き立て
その勢いのまま化物の巨躯を突き破った!!!


『ウォオオォオッオー!!オァアオオォオッ!!!』


狂った獣のような声をあげながら、遂に非道の限りを尽くした
獣王はその巨躯を激しく揺らしながら地面へと叩きつけられるように倒れた









■侍女と野獣■



魔力を使い果たしたヘインに、その最後の魔法を受けて傷だらけになった食詰め
既に、二人には戦う力は残っていない。ギリギリの戦いだった

リヒテンラーデ、アルフィーナと
彼等より前に戦った者達が少なからぬダメージを加えていなければ
獣王を地に倒れ伏させることなど、不可能であっただろう



■■



『終わったな・・・』「あぁ、なんとかな」



服も体もボロボロになって酷い有様の食詰めに声をかけられたヘインは
心底疲れたといった体で答えを返す、立つのも億劫なほど疲れていた
爽快感より疲労感の方が大きい、二人にとってそれほど苦しい戦いだった



「アルフィーナ、なんとか生きてるかぁ~?」

『御蔭さまで、なんとか生きてますわ』



アルフィーナも食詰めの回復呪文の御蔭か、
なんとかしゃべれる程度には回復していたが
その疲労とダメージの大きさは少し離れた所で
地べたに寝転がる二人とそう変わらなさそうであった



「とりあえず、フェルナー達が着いたら後片付けだな・・・」



そう言って振り返って食詰めの方を見たヘインは言葉失った
余りにも不自然なヘインの様子を怪訝に思った食詰めも同じように振り向いたのだが
その理由が目に焼き付けられて否応がなしにヘインと同じ状態に陥った



剣を深々とその巨躯に突き刺された手負いの獣が立ち上がっていた・・・



「思えば、短い人生だったな・・」『これは・・、諦めるなと言う気も起こらないな』
『残念ですけど、一応、足止めが出来ただけ善しと思うことにしますわ』




その理不尽で、無慈悲な光景を見てなおも立ち上がれる気力も
体力も残念ながら、三人には残っていなかった

ゆっくりと血を地面に滴らせながら近づいてくる化物を前に
彼等は自分達が捕食される哀れな獲物だという事をようやく理解し
その不愉快極まりない事実を受け容れる覚悟する


だが、幸いな事にその覚悟は二人の『新たな』狩人の手によって無駄なものにされる



■■



    『獣王と呼ばれた男が随分と派手にやられたものですね』



突然、戦隊ショー会場に隣接するカフェから現われた二人の女性の内一人は
淡々と冷たく言い放ちながら、獣に突き刺さった剣を無造作に握り
そこに魔法で炎を走らせながら獣の傷口を中から焼き
その痛みで化物に絶叫をあげさせることに成功する


無論、オフレッサーも幾多の戦いを終えて手負いであったとはいえ
ただ黙って焼かれるような醜態を晒したわけでは無い
無礼にも獣王たる自身に向かって近づく、美しい顔をした愚かな女に

本来の力強さと速さは失われてはいるものの
見るものを唸らせるには充分過ぎるほどの斬撃を放っていたのだが
その侍女風の女性は、上体を少し揺らしただけで容易く、その攻撃を避けた



『お嬢様、もうそろそろこの方には退場して頂くべきかと?』

「そうね、カーセが言うならそうしましょう!折角のチャンスだしね♪」



かわいらしい声で答えたもう一方の少女は、手に装備したクローではなく
投擲用のナイフを全く同じ軌道で時間差を付けて二本投げる事によって
一本目を片腕で叩き落したオフレッサーの右目にナイフ突き立てることに成功する



『小娘共がっ!!!そこに転がる三人と併せて殺してやるぞっ!!!』



更に手傷を増やした獣は、もはや堪忍ならんとばかりに
新手の二人の少女に猛然と突進する・・・、それが彼の最後の攻撃になった




「もう、しつこいオジサンって私の趣味じゃないから」



無邪気な笑顔を見せた少女は、侍女が放った火系魔法を
再び体に突き刺さった剣に受けて、仰け反り悲鳴をあげる獣の顎に
完璧すぎるサマーソルトを決めて仰向けに倒すと同時に

地面へと堕ちる慣性を利用した踵落しを、目に刺さるナイフの柄に叩き当て
オフレッサーの脳を無慈悲に破壊し、デスペナの制裁を与える



『あぁ~、お嬢様の技のキレ完璧すぎですわ!!それにその後に少し体勢を崩されて
 照れたような顔を振り返ってお見せになるなど、もう正直溜りませんわ!!』

「えへへ、カーセったら褒めすぎだよ」






まさかの獣王の復活から、突然の乱入者の登場に
完璧に置いてけぼりにされた三人は、オフレッサー殺害後の二人の遣り取り
今日、何度目か分からぬ硬直をして見詰める事しか出来なかった




「あ、そうそう。すっかり挨拶するの忘れる所だった。私、サビーネです!よろしくね♪」
 
『私、お嬢様の侍女を務めさせて頂いておりますカーセと申します。お見知り置きを』



満面の笑みで自己紹介をする少女と、
鼻血を垂らしたままキリッとした顔で自己紹介をする侍女を見ながら
もう三人は、ただ、ただ早く家に帰って眠りたいと思うようになっていた



三人にとって、厄日中の厄日は新たな濃ゆ~い登場人物を加えて
ようやく終わりを迎えようとしていた







ようやく終わった『夢の国』での『血の惨劇』
その大きすぎる傷と痛みは当事者達の感覚を麻痺させ
彼等がその重みを深く実感するのは、翌日以降へと持ち越されることになる


失ったものが、どれほどの価値があったかを知れば知るほど
人々の絶望は深くなっていくのだから・・・




  ・・・ヘイン・フォン・ブジン公爵・・・電子の小物はレベル1492・・・・・


                ~END~


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