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No.6101の一覧
[0] 真・恋姫†無双  短編集 「青空の向こう」 (10/26 更新 [nanato](2009/10/26 13:56)
[1] この空のどこかに[nanato](2009/06/05 23:04)
[2] その空は遠すぎて[nanato](2009/05/16 21:01)
[3] 空なんて見たくもない[nanato](2009/05/16 21:03)
[4] せめて空に戻るまで[nanato](2009/05/16 21:02)
[5] 空に帰ったとしても[nanato](2009/04/09 18:29)
[6] 青空はその色を変えて[nanato](2009/06/10 14:23)
[7] 空に見つけられず[nanato](2009/06/06 21:12)
[8] 違う空の下[nanato](2009/06/20 22:18)
[9] 番外編 空に消えたという人[nanato](2009/07/04 23:41)
[10] この空には何もなく[nanato](2009/07/17 18:49)
[11] ただ空を待つ[nanato](2009/10/26 13:54)
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[6101] 違う空の下
Name: nanato◆6d214315 ID:c07f94a2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/20 22:18
※一刀がかなりヘタレています。嫌な人は注意。







胡蝶の夢。
蝶となり世界を飛び回る。
その果てに自らが人なのか蝶なのかが分からなくなってしまったという。
自分を証明するすべが無くて。

俺は蝶になりたかったよ。
人であることを忘れ、夢を見続けたかった。
いつまでも、いつまでも蝶のままでそっちにいたかった。
けれど、俺は荘周のようにはなれなかったみたいだ。
気づいてしまっていたんだ。
蝶のままではいられない、自分が人でしかないってことに。





「…ん」


カーテンの隙間から射す細い光に照らされ、俺は少しずつ眠りから覚めて行った。
まぶたの裏を赤く染め、その隙間から侵入してくる光は、鈍くなっている意識を必死に浮上させようとしているようだった。
しかし、ひどくゆっくりと覚醒していく意識は、起きることを拒否するかのように体を簡単には自由にしてはくれなかった。
長い、本当に長い夢を見ていた気がする。
自分の一生を凝縮したような、今まで生きていた時間と比べても遜色のないほどに、本当に長い夢。
どこまでも続いて行くような。決して終わることなく続くような。

けれど俺は目を覚ましてしまった。

ようやく自由になった体を起こし、意識を確かめるように周りを見渡してみると、どうしようもない違和感があった。
白い壁も、カーテンも、机も。
周りはいつもの俺の部屋に他ならないのに、長い間見なかったかのような懐かしさを感じたのはなぜだろうか。
今も体を横たわらせているベッドの感触も久しぶりだった。
見あきるほどに見ているはずなのになぜだろうか?毎日寝ているのに。
まるで何かを覆い隠すかのようにそんな疑問ばかりが頭の中を巡った。


「ああ、そうか」


そんなことを少しの間ぼんやり考えたけれど、あまりにも簡単にその答えが見つかった。
その理由を誰よりも自分が知っていた。本当に嫌になるくらい理解してしまっていた。


帰って来たのだと。夢から覚めてしまったのだと。


辛く、優しかった日々。痛みも喜びもひどく鮮明だったあの世界で出会った彼女たちはどこまでもまっすぐで、そんな彼女たちを俺は置いてきたんだ。
最後まで華琳以外には何も伝えなかったのは正しかったんだろうか。
今頃俺を恨んでいるのかもしれないが、それでもいいと思った。泣いて、悲しまれるのが一番痛かった。
そんな風に思う自分をどこか遠く感じていた。





枕元から電子音が鳴り響いた。
久しぶりに聞いた、聞き慣れていたはずの自然界にはあり得ない音。
目覚ましの代わりのアラームだった。頭はまだ正常には働いていなかったけど、それでもしみついた習慣によって俺の手は携帯を開いていた。
いつまでも鳴り続ける音を止めようとボタンを押したときに、ふと画面の隅の日付を目にしてしまった。


予測していたとはいえ、どうしようもない痛みに目の前が真っ暗になる。
数字の羅列が意味したことを理解すると、急に体から力が抜けおちていった。
わずかに軋ませるような音をたて、起こした体はベッドに吸い込まれた。
はっきりと理解しているつもりだった。ちゃんと受け止められているつもりだった。
そんな自信はただ一瞬携帯の数字を見ただけで砕け散ってしまった、あまりにも簡単に。


だって、あんまりだろう?


理解していた。あれが夢なんだということは。
タイムスリップなんて、パラレルワールドなんてありえないんだって。それでも俺はそれが現実だとも思っていた。
いつか覚める夢だと知りながら、どこかに確かに存在する世界なんだと心から信じていた。
けれど彼女たちと共に過ごした長く充実した日々は、無機質な数字によってあっさりと否定された。

なんて弱いんだろう。大人ぶって覚悟を決めたと高を括っていた俺は、結局見ないふりをしていただけで、覚悟なんてできてなかった。
たかが数分。たったそれだけの時間でどうしようもなく視界をグラつかせている。
なぜだか笑いがこみ上げてきた。


「はははっ」


自分でも分かるくらい渇いた、虚ろな笑い。それでもこみ上げる笑いを我慢するのも面倒で身を任せた。
当たり前だ。証拠なんてないんだ。あの世界が本物だって証明する確かなものなんてないんだ。
残っているものは無くて、あるのは結局いつ忘れてしまうとも知れない記憶だけ。
蝶と人、自分がどちらなのかと証明できないのと同じように、蝶として舞ったあの世界の存在なんて証明できるはずがない。
それなのに夢に過ぎなかったという証拠ばかりが明確にここにある。

そんな事さえ理解していなかったんだ。悟ったふりで大人ぶった俺は、帰った後の自分のことなんて何も考えられてなかった。

視界にあるのは白い天井と、光の灯らない電球。しばらくの間、意味もなくただそんなものを眺めていた。




そんなまるで意味のない行為に時間を費やしたが、何一つ変わりはせずに、ただ暗い感情だけが頭を巡った。
このまま何もしたくない、沈んだままでいたいと思ったがそんなことはできるはずがない。どんなに落ち込んでも時間は止まってくれないのだから。

外に出よう。

ふとそんな考えが浮かんだが、誰かに会いたいとは思えなかった。
彼女たち以外の誰かには。
他の誰かは求めてなかった。
こんな顔で会えば心配をかけると分かっているし、何故だか一人でいたかった。誰かに心配されたいとも慰められたいとも思わなかった。
学校に行こうとは思えなかったけれど、それでも少なくともこのまま部屋にこもっているよりはマシだと思い、俺は体を起こし着替え始めた。


安っぽい造りの扉を開けた時に見えた景色は、どこか色褪せているように感じられた。
二年近く通い続けている道をそんな風に思ったことは今日が初めてだった。
どこまであちらに感化されているのだろうか、そんな下らないことを考えながら道に沿って歩いて行った。
地方都市にあるこの学校には都会に比べ、緑はたくさんある。
東京で育った俺から見れば十分自然に囲まれているはずなのに、それが不自然に感じられる。

…本当は違うのかもしれない。
感化されたふりをしているだけなのかもしれない。
未練がましくあっちの世界を美化することで、こっちの世界を否定することで、あの夢を肯定しようとしているのだろうか。
嫌な考えばかりが浮かんでくる。これでは部屋の中にいる時と何一つ変わらない。
それどころか向こうとの違いを見つければ見つける程、何かが削り取られていくように感じる。
それらを振り切ろうとしてか、だんだんと早足になっていた俺はいつの間にか走り出していた。

どこにいこうかなんてまるで考えてなかった。
ただ何も考えたくなかった。馬鹿みたいに走っている間にも重いものだけが胸を巡って、そんな自分にも嫌気がさした。
頭の中が真っ白になり、何も考えられないほどがむしゃらに走り続けると、開けた場所に出た。



石が敷き詰められた道に、規則的に並ぶ木々、丁寧に手入れのされている花壇。
どこまでも続くはずの空は、木々や建造物に邪魔されて、囲われたようにみえる。
狭い、空。

間違いなく、俺が今まで生きてきた世界だった。



それらが目に入ると、酸素を求める体に応じるように膝をついた。
激しい呼吸を繰り返しながら、しかし頭の中はそれどころではなくて。
途方もない喪失感ばかりが胸にあふれた。

当たり前のはずなのに、分かっていたはずなのに。

こんな光景はあっちの世界では決して見ることはできない。
作り物のように整然としたこんな光景が、あの何もかもが雄大で、力強い世界にはあるはずがない。
広大な荒野も、皆と過ごしたあの城も、守ってきたあの町も、

ありはしないんだ、この空の下には。

そう、実感してしまった。初めて現実を受け止めたような気がした。


本当に  帰ってきてしまったんだ。


「あれ?」


まるで別物のように思える空を呆然と眺めていると、頬を暖かい何かが伝った。
問うまでもなくそれは涙だった。ただそれだけのことなのに俺はひどく驚いた。


「なん、で?」


なぜこんなにも簡単に俺は泣いてしまっているのだろう。
別れを確信した時も、華琳に別れを告げたその瞬間さえ泣くことはなかったのに。

ずっと耐えることのできたことが何故今はできないのだろうか。嗚咽がこみ上げることもなく、涙腺が壊れたように涙だけがただ流れた。

悲しいというよりも不思議に思った、なぜこんなにも涙があふれているのだろうか。




ああ、そうか。




当り前だよな。
いないんだから、この世界に彼女たちは。

ここには華琳も 春蘭も 秋蘭も 桂花も 季衣も 流琉も 凪も 真桜も 沙和も 霞も 風も 稟も 天和も 地和も 人和も 誰もいないんだから。
誰も、いないんだ。
だから、見せないように気を張らなくていいのか。


なんだよ、我慢する必要なんてないじゃんか。だっていないんだから、見られる心配もないだろ。
見られて、気付かせてしまうことも、不安にさせることもない。

隠さなきゃいけない相手は、みんなは、どこにもいないんだから。


「……馬鹿、みたいだ」


涙を拭おうとも思えず座り込みながら、知らずに呟いていた。
本当に俺は何一つ理解していなかった。本当は、俺は覚悟なんてできていなかった。
二度と彼女たちに会えずに、元の世界で生きていくという事がどういうことかなんて。
平気だと思っていた。
悲しみも、痛みも我慢できると思っていた。
そんなのは勘違いだった、見ていないだけだったんだ。
見ないふりして、気付かないふりをして。
現実を受け止めないことで、やり過ごしてきただけだった。


俺はこの世界で生きていかなきゃいけないんだよな。
君達と会えないまま、君達を少しずつ忘れながら、生きていかなきゃいけないんだよな。


「本当に……馬鹿みたいだ」


そんな言葉を繰り返していると、ポケットが震えているのを感じた。
なにも考えずに携帯を手に取ると及川から繰り返し着信があったらしい。
きっと何も言わずに休んだからだろう。軽口を叩きながらも心配してくれるのが簡単に想像できる。
分かってはいるんだ。
こっちには及川や他の友達も、両親やじーちゃんもいて、知り合いなんて数え切れないほどいるってことは。

でも、それでも一人ぼっちになったように思えるんだ。
いつかそっちに行った時には感じなかったのに、どうしようもない孤独を感じるんだ。
寂しいよ。まるで世界に俺しかいないように思えてしまって。

何か、一つでもあれば良かった。写真は無理でも、みんなが確かにいたと思える何かを。
それさえあれば、俺はそれに縋ることができたのかもしれない。


そんな無いものに縋ろうとしても、もう彼女たちはどこにもいなくて。
俺は今も震える携帯をとることもできずに、ただ一人泣くことしかできなかった。




わからないよ、華琳。
俺は今までどんな風に過ごしていたのかも、何を思って生きていたのかも。
そんな事さえ忘れてしまったよ、そっちで生きることに必死で。

なぁ、俺もいつかは立ち直るからさ、今はいいよな。
今はただ悲しんでもいいよな。
もしかしたら情けないなんて言われるかもしれないけど。
きっとまた頑張るから。またいつか会えるはずだって信じて、精一杯生きて行くから。
今は泣かせてほしいんだよ。


君たちのいない世界で、生きていかなきゃいけないことを
受け入れることなんて、できないんだ。






あとがき&いいわけ


えーと、帰還ssです、と言い張ってみようかと。
ま、まあ意味的には間違ってないですよね。(元の世界に)帰還ssということで。
本当は、短編集で大人に書きすぎたのでヘタレ分補充しようかなぁ、くらいで書き始めたら途中から……な方向に行っちゃいまして。

立ち直って前向きに努力する一刀はよく見ますけど、落ち込んで頑張れない一刀は見たことなかったんで、まあそんな感じで。
魏のみんなも凹んでそうだし、一刀もこのくらい悲しんでもいいかな、と。
若干、秋蘭との対比を意識してます。華琳に慰められる秋蘭、独りの一刀。
あ、後は春恋は未プレイなので学園の立地などに矛盾があったとしてもスルーお願いします。

次は腹ぺこか鼻血のどっちかだと思います。かなり低い可能性でメガネ三女。


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