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No.6101の一覧
[0] 真・恋姫†無双  短編集 「青空の向こう」 (10/26 更新 [nanato](2009/10/26 13:56)
[1] この空のどこかに[nanato](2009/06/05 23:04)
[2] その空は遠すぎて[nanato](2009/05/16 21:01)
[3] 空なんて見たくもない[nanato](2009/05/16 21:03)
[4] せめて空に戻るまで[nanato](2009/05/16 21:02)
[5] 空に帰ったとしても[nanato](2009/04/09 18:29)
[6] 青空はその色を変えて[nanato](2009/06/10 14:23)
[7] 空に見つけられず[nanato](2009/06/06 21:12)
[8] 違う空の下[nanato](2009/06/20 22:18)
[9] 番外編 空に消えたという人[nanato](2009/07/04 23:41)
[10] この空には何もなく[nanato](2009/07/17 18:49)
[11] ただ空を待つ[nanato](2009/10/26 13:54)
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[6101] 空に見つけられず
Name: nanato◆6d214315 ID:c07f94a2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/06 21:12
「こんなところで何をしている」


訓練を終え、部屋へと戻る際に庭を通りがかると、北郷一刀が間の抜けた顔で座っているのを見かけた。
一人で何をしているのか気になった私はそちらに近づきながら声をかけた。


「ああ、春蘭か」


北郷は私の姿を認めると、すこし考え込んでいるように唸った。


「んー、あえて言うなら日向ぼっこ、かな」


「それでは何もしてないのと同じではないか」


まったく、こんな忙しい時期に怠けるとはなんてやつだ。
私は今しがた訓練を終えてきたばかりだというのに。
私がそう言うと北郷は困ったように笑いながら弁解をしてきた。


「いいだろ。ちゃんと仕事は終わらせてきたし」


それに、と呟きながら大きく伸びをしながら空を見上げた。
つられて見上げてみるがそこにはただ青い空があるだけだった。


「こんなにいい天気なんだからさ」


そういいながら空を見つめているこの男は何を見ているのだろうか。
予定を終え時間もあり、なんとなく気が向いた私は北郷の隣に腰をおろした。
しかし尋ねるように見てくる北郷に素直にそう言えず意地を張ってしまった。。


「お、お前がどうしてもと言うなら私も付き合ってやろう」


それを聞いた北郷は噴き出す様に笑った後で、こちらを見つめてきた。


「そっか、ありがとな」


「ふふん、構わん」


なんとなくニヤニヤした笑いが気にかかったが、北郷が素直に礼をいってきたので私は気分が良くなった。

北郷は足を伸ばし、後ろに手をつきながら空を仰ぎ見るように顔をあげ、目をつぶった。
見ているこっちの気が抜けそうな間抜け面をしているくせに、なぜかそれはなんとなく私を穏やかにさせた。

とは言うものの何もせずに座り込んでいるだけなのは性に合わず、退屈になってくると思わずあくびがこみ上げてきた。


「疲れてるのか?」


いつの間にか北郷はこちらを見ていて、あくびしている所を見られてしまっていたようだった。


「そ、そんなわけあるまい。貴様のような軟弱者と一緒にするな!」


気恥ずかしさからそんなことを言うが、北郷はそれに怒るのでもなく少し何かを考えるようにすると、いたずらをする童のように笑った。



「春蘭」



名を呼ばれ北郷に手をひかれたと思うと、次の瞬間にはなぜだか私は空を見上げていた。


「どうだ?」


ひどく近くから北郷の声が聞こえると思ったらすぐ上に北郷の顔があった。
そこでようやく北郷の足に頭を乗せているということを理解し、一気に顔に血が上った。


「は、はにゃせ」


「噛んでるぞ」


喉を鳴らすように笑いながら北郷はそう指摘すると、たまにはいいだろ、と呟いた。


「それとも嫌か?」


そう言われると私としても難しかった。とてつもなく恥ずかしくはあったが、不快というわけではなかった。
この男のことは、その、嫌いというわけではないし嬉しいという気持ちが無いこともなかった。


「し、仕方ないから我慢してやろう」


私がそう言うと先ほどと同じように噴き出すように笑った。

その後、北郷はしばらく黙ったままでいた。そのせいか少しずつ初めに感じていた気恥ずかしさも落ち着いていき、だんだんと穏やかな気持ちになっていった。




「幸せだなぁ」


北郷は穏やかな声でそんな事を言った。
下から見上げると北郷は薄く微笑んでいた。


「何がだ?」


「こうしていることが、だよ」


当り前のようにそんなことを口にする北郷は本当に幸せそうだった。
変なやつだ。そう思ったからそれをそのまま口にした。
ひどいな、と言いながら苦笑すると北郷は髪を撫でてきた。振り払おうかと思ったが、なんだか北郷の顔を見ていると反抗するのが馬鹿らしくなってきた。
それにこういうのもたまになら悪くなかった。


「こうしていると戦争中なんて嘘みたいだろ」


それは確かに分からなくもない、こうしている時は平和そのものだった。
普段はあまり意識することはないが、今は暖かい日差しも、柔らかい風も気持ち良くて、この庭園がとても価値のあるもののように思えた。
さっき北郷はこの事を言っていたのかもしれない。
そう思ったが何となく素直に認めるのが癪で、違う言葉を口にした。


「ふん、まだまだだ。華琳さまが天下統一なさればこんなものではない」


私がそう言うと撫でていた手を止め、北郷は意外そうな顔をこちらに向けた。
そんなことがなぜだか私の気分を良くした。


「華琳さまがお作りになる世界ならば今よりも素晴らしいのは当然であろう」


そのために私たちは闘って来たのだから。
それなのにこの程度で満足するなんてやはり変なやつだ。


「華琳が作る世界か……」


「ああ、そうだ」


北郷が目を細めながら呟く。
その世界に思いをはせているように見えた。


「……それは、幸せだろうな」


憧れるかのようにそんな言葉を口にする姿に疑問を感じた。
そんなに遠いものではないというのに。
私たちがそれを勝ち取るのはもうすぐだ。
それなのにやはりこいつは変なやつだ。


「ふん、そんなの当たり前だ」


こいつがどんな風に思っていようが私たちは勝つのだからすぐに私の言ったとおりになる。
そうすればこいつもこんな顔をしなくなるだろう。
こいつがいつものようにヘラヘラしていなければこちらの調子が狂ってしまう。


「貴様は大人しく平和になった後の事でも考えていろ」


私の言葉を聞くと北郷は顔を上に向け、空を仰ぎ見ながら「そうだな」と、呟いた。


「そのほうがいいかな」


「どうせ戦では役に立たんのだ。そのほうがずっとましだろう」


「春蘭に教えられるとは意外だな」


「なんだとぅ!」


私が起き上がろうとするとまた私の頭に手をやり笑いながら、悪い悪い、と繰り返し謝った。
なんとなく誤魔化された気もしたが、その顔をみるといつもようには怒れなかった。
穏やかに見えるその目がなぜか別の何かを意味しているように見えた、


「春蘭は平和になったらどんな風に過ごしたい?」


「む?」


「聞かせてくれないか?ゆっくりでいいから」


北郷はその手で私の髪をすきながら私の話を待っているようだった。
その感触が気持よく、少し眠くなりながらも私は思いついたことから話していった。


「そうだな、店の数が増えるだろうから華琳さまの服をもっと探せるようになる」


「きっと商人もたくさん来るだろうな」


北郷を叩き起して秋蘭と三人で買い物をするのは何度かやったが楽しかった。
きっと今度も華琳さまがお喜びになるものが買える。


「また料理を作ってみるのもいいな」


「今度こそ春蘭の料理が食べてみたいな」


お礼のつもりが北郷には危うく危険なものを食べさせてしまうところだった。
秋蘭たちには悪い事をしてしまったが、きっと今度は大丈夫だ。


「……そ、そうなったらお前に分けてやらないでもない」


「楽しみにしてるよ」


今度はしっかりと流琉に聞いて作ってみるとしよう。
きっとこいつはおいしさに驚くだろう。


「ふむ、遠乗りに出るのも悪くないな」


「それは、楽しそうだな」


きっと北郷は馬に慣れてないから途中で根を上げる。
そうなった時、どうしてもと言うのなら後ろに乗せてやらないでもない。


「華琳さまとのお茶会ももっと増やせるだろう」


「…ああ、そうだな」


こいつも少しは頑張ってきたのだからたまには参加させてやってもいい。
あくまでたまにならだが。


「お前が言っていた立食ぱーてぃーとやらを開くのもいいだろう」


「…本当に、楽しそう、だな。本当に…」


「…北郷、どうかしたのか?」


言葉を重ねるごとに北郷の声は小さくなっていき、最後にはかすれたような声でそう繰り返した。
目を閉じて、噛みしめるかのように。



なぁ、何をこらえているんだ?一刀、お前、泣きそうだぞ



知らずにそんな言葉が出そうになった矢先に北郷はすぐにその表情を隠した。
そして目を開けた北郷は最近見せるようになった微笑みを浮かべるだけだった。
まるでこちらを見守っているかのような、ただただ穏やかな笑み。
本当に、らしくない。


「なんでもないよ。ただ楽しみだな、と思ってさ」


「本当か?嘘をついていたら承知せんぞ」


「本当だよ」


その言葉に何か返そうと思ったが、うまく言葉が出てこなかった。
何も言わないでいると、北郷は何も言わずに繰り返し頭を撫でてきた。その手はとても優しく感じられた。
身を任せているとそのせいか眠気がだんだんと強くなり、またもやあくびがこみ上げてきた。
そんな私を見て北郷は小さく笑った。


「疲れがたまってるんだろ。眠いなら寝てもいいぞ」


「う、うるさい。言われなくてもそうする」


そんな北郷の態度に恥ずかしさを覚え、仰向けになっていた体を横に向け、顔が見られないようにした。
本当ならこいつをおいてどこかに行きたかったが、なぜだか膝から離れがたかった。


本当は心地よかったからなのかもしれない。

暖かい気温も、北郷の手もまるで私を眠らせようとしているようで、少しずつ私の瞼は重くなっていった。


「時間になったら起こすから」


「ふん」


子供をあやすかのような言い方を不満に思いながらも、私はゆっくりと眠りに近づいていった。





「華琳の作る世界で」


そのさなかに北郷が何かをささやいているのが聞こえてきた。私はそれにまどろみながら心の中で返事をした。


「本当に過ごせる日がくるなら、よかったな」


何を言っている。
そう遠い話ではないではないか。
きっとすぐ来る。


「きっと今よりも幸せなんだろうな」


当たり前だ。
そのために闘って来たのだろう。お前も、私も。
お前も頑張っていたではないか。
幸せになれないはずないであろう。
華琳さまとともに生きるのだから。


「警備隊を続けるのも悪くないって、本当にそう、思ってたんだ」


知っている。この間言っておったではないか。
この街で生きていくのだと。
華琳さまの下でともに。
ずっと一緒なのだろう?なぁ一刀。


「春蘭」


なんだ、そんなに情けない声を出すな。
仕方のない奴め。
なにがあったんだ。


「好きだよ」


変なことを言うな。
そんなことは知っている。
今更そんなことを言わずともいいだろう。
どうせいつもともにあるのだから。


「ごめんな」


何を謝る。貴様のことだからくだらないことであろう。
そんなに泣きそうにならずともよい。
私が何とかしてやろう。


「本当、に、ごめん」


懺悔するかのように紡がれた、謝罪の言葉。
それに呼応したように雫が頬に一滴落ちるのを感じると、私は完全に眠りに落ちた。






北郷一刀は天に帰った。
そう告げられたのは皆がようやく平穏を手に入れたと喜んだ翌日だった。





許すものか。
この世界で生きると、言っておっただろう。
華琳さまも他のみなも悲しませてまで。
どうしてお前はどこかに行ってしまったのだ?
幸せになりたかったのではないのか?

お前のせいだ。
華琳さまのお作りになった世界なのに。
ようやく戦い抜いて築いた平和なのに。
一刀、お前のせいで幸せになど、なれやしないではないか。







あとがき

思ったより早い更新となりました。
春蘭でした。季衣とどっちを書くか悩みましたが、まあ順番的に消化しておきたかったので。
えー、この短編集の中で一番の文章量となりました。ちなみに二番は秋蘭です。ここらへんに作者の贔屓が見受けられます。
ですが、かなり予想外だったので2500字くらいまで削ろうかと思いましたけど…短いよりはいいんですかね。いつも割と削るんですが。

春蘭は純粋故の盲目的な信頼がテーマです。
信じた人へは何かを不安に思っても、もしかしたら、なんて風にさえ考えません。
今回は拠点イベントの一刀の言葉を信じ切っている形です。
あくまで自分の勝手なイメージですが。




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