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No.6101の一覧
[0] 真・恋姫†無双  短編集 「青空の向こう」 (10/26 更新 [nanato](2009/10/26 13:56)
[1] この空のどこかに[nanato](2009/06/05 23:04)
[2] その空は遠すぎて[nanato](2009/05/16 21:01)
[3] 空なんて見たくもない[nanato](2009/05/16 21:03)
[4] せめて空に戻るまで[nanato](2009/05/16 21:02)
[5] 空に帰ったとしても[nanato](2009/04/09 18:29)
[6] 青空はその色を変えて[nanato](2009/06/10 14:23)
[7] 空に見つけられず[nanato](2009/06/06 21:12)
[8] 違う空の下[nanato](2009/06/20 22:18)
[9] 番外編 空に消えたという人[nanato](2009/07/04 23:41)
[10] この空には何もなく[nanato](2009/07/17 18:49)
[11] ただ空を待つ[nanato](2009/10/26 13:54)
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[6101] 空なんて見たくもない
Name: nanato◆6d214315 ID:c07f94a2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/16 21:03
戦の日々が続き、長い間私は仕事に忙殺されていた。
それを心配した稟と風が仕事の一部を肩代わりしてくれ、ようやくできた休みに息抜きとして街へと出かけた。
欲しい本が貯まっていた私はしばらく来ることのできなかった本屋でそれらを手に入れ、ひどく機嫌がよかった。
そうその時までは。

「桂花?」

城に帰り本を読もうと足取り軽く歩きだした矢先、後ろから声をかけられた。
その声には心当たりがあった。
そもそも男で私の真名を呼ぶ人間なんて一人しかいない。
苦々しく感じながらも振り返ると、予想通りの男がいつも通りの間抜け面でこちらに歩み寄ってきた。

「なによ?馴れ馴れしく名前呼ばないでよ」

「いや、声掛けただけでそこまで言うなよ」

まったく、とあきれたように呟きながら肩をすくめる。
その態度が私を馬鹿にしてるように見えてなおさら腹が立った。
だいたいこいつは私に対する敬意が足りていない。
もう少し殊勝なところをみせれば慈悲深い私は少しは寛容な対応をしてあげるというのに。

「なんなのよ。用があるなら早く言いなさいよね」

「用というか…ただ街にいるなんて珍しいから声をかけてみただけだよ。買い物かなんかか?」

「そうよ。本屋に行ってきたの。…これで用は済んだでしょ」

鼻で笑いながら馬鹿にしたように言い放つ。わざわざこんな形で意趣返しをするのは子供っぽいと自分でも感じたが…違う。
私はこいつに程度を合わせてあげているんだ。
幼稚でどうしようもないこいつはこれぐらいじゃないときっと理解できない。
そう自分に言いきかせながら相手の反応をうかがってみると


「そうか。じゃあ警邏に戻るか」


なんでもない顔をしながら、あっさり背を向けた。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あんたね、私を無視するなんて何様のつもり!?」

別にこいつと話したいなんて思わないけど、無視されるのは面白くない。
優しい私が仕方なく男なんかの相手にしてあげているのにこいつときたら。

「なんだよ、構ってほしいのか?」

「そんなことあるわけないじゃない!調子に乗るな!変態!死んじゃえ!」

「わかった、わかった。俺が悪かったって」

まいった、と変態は両手をあげて溜息をつき呟く。
そこに呆れたような響きがあったのが多少引っ掛かったがまあ許してあげよう。
最初から大人しくへりくだってればいいのに。
すると北郷は私の持っている本に目を向けた。

「なら荷物を持ちながら城まで送る。それでいいか?」

その提案は存外悪くはなかった。あくまでこの変態にしてはだが。
一緒に歩くというのは気に食わないが、この男に私の荷物を持たせるという構図は悪くはない。
加えて言えば何冊もの本を城まで運ぶのは私には重労働だった。

「あんたにしては気が利くじゃない。なんか下心でも…」

そう呟いた私はその考えに行きついた。
そうだ、そうに違いない、この全身精液男が善意のみで動くはずなんてない。
危ないところだった。
気づかなければ私は恩に着せられた挙句に迫られていただろう。
しかし春蘭や季衣ならともかく私にそんな手は通用しない。

「その手には乗らないわよ、この性欲魔人!恩に着せようなんてそうはいかないんだから、変態!」

「ちょ、ちょっと待て!いきなり人聞きの悪いことを街中で叫ぶな!」

「なにどもってんのよ!やっぱりそのつもりだったのね!このケダモノ!」

「いいから話を聞けー!!」




ひどい目に遭った、そんなことを言いながら北郷は隣を歩いている。
確かに城ならともかく街中で騒ぎを起こしたのは間違いだったかもしれないが、私は悪くない。だいたいこいつの普段の行いが悪い。魏の重臣をことごとく、あまつさえ華琳様まで毒牙にかけたこの男のどこを信用すればいのか。

「あんたが悪いんでしょ」

「俺が何をした!」

「うるさい、変態!」

北郷はため息をつきながら首をふった。
これでいい。こいつは私に従っていいればいいんだ。
男の割には使えるのだからこの態度を維持するのなら多少目をかけてやらないでもない。
そう思うと気分が良くなった。

「桂花の俺嫌いは初めて会った時から変わらないな」

「ふん。変わるわけないじゃない。…それとも変態のくせに私に好かれたいとでも言うつもり?」

それには言外にありえないという意味をこめていた。
私にとってこいつは仇敵なのだ。
華琳様の寵愛を受けるにはとても邪魔な存在だ。

「いや、前は確かに認められたいとか思ってたけどな……」

この男にしてははっきりとせずに語尾を濁していた。
不審に思い顔を見てみると戸惑ったような、困ったような、複雑な表情をしていた。

見覚えのない表情だった。
いつものヘラヘラした顔からはひどくかけ離れていて。

なんなのだろうか。
気に食わない、この男がこんな顔をしていることが。

「なによ、はっきり言いなさいよ」

そうだ、北郷のくせに隠し事をしようだなんて生意気だからだ。そうに決まっている。
北郷は顔を見られたくないのか一歩私の前に出た。

「ん、今となっては嫌われたままの方がいいのかなって思って」

他のみんなはもう遅いけどさ、そうこぼす北郷の顔は見えない。
先ほどと同じような顔をしているのか。
前に出たせいで見える背中がなぜだかいつもより小さく見えた。

煙にでもまこうとしているのだろうか、言っている意味もまるで分からなかった。
ただ一つ分かることは何でもないように発した言葉からは、隠し切れていない寂寥のようなものが滲んでいることだけ。

何かをあきらめたような、そんな諦観するかのような言葉をこぼすような男だったろうか。

いつもみっともなくも必死で、無遠慮で、身の程もわきまえずにヘラヘラしている。
この男はそんな印象を抱かせるような奴だったはずなのに。

一抹の不安が頭をよぎった。
その事になぜだか無性に腹が立つ。
この男に不安だなんてものを感じさせられてしまった。
そう感じた私はそのまま行動に移すことにした。

「痛っ!いきなりなんだよ」

「うるさい」

後ろから北郷を蹴りつけると私はその背を追い越した。
自分が今どんな顔をしているのか分からなかったが、なぜか顔を見られたくなかった。

「言っておくけどね。不本意極まりない話だけど、あんたは華琳様の物なのよ。華琳様から捨てられない限りあんたにどこかに行く権利なんてないんだから。わかってるの?」

そう私がたたみかけると少し間が空いたあと、知ってる、という言葉を背中に感じた。
しかしその言葉から諦念じみた響きは決して無くなっていなかった。


「ありがとな、桂花」


その言葉からさえ、確かな悲哀や寂寥が感じられ、私はそれに答えないまま先に歩きだした。

あんな男の言葉なんかで、心細いだなんて、不安だなんて、私が感じるはずない。


生意気だ、北郷のくせに。本当に。




北郷一刀は天に帰った。
そう告げられたのは皆がようやく平穏を手に入れたと喜んだ翌日だった。




私は北郷一刀を認めない。


皆に調子の良いことを言っておきながら、無責任にも帰ったあの男を。
私が感じているのは怒りであって、決して悲しみなんかじゃない。
あんな下品で粗野で野蛮な男がいなくなったところで私が悲しむはずない。
そんな理由はどこにも見当たらない。


だから私は認めない。


私が悲しんでいるなんていうことは。

今も私の頬を伝うものが涙だなんて
私が涙を流しているだなんて


絶対に、認めてなんかやらない


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