<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

その他SS投稿掲示板


[広告]


No.5944の一覧
[0] 【完結】トリッパーメンバーズ(超多重クロス)【外伝更新】[ボスケテ](2011/04/06 01:53)
[1] 第一話 序章開幕[ボスケテ](2009/09/15 13:53)
[2] 第二話 ツフル人の滅亡[ボスケテ](2009/01/25 16:26)
[3] 第三話 宇宙の帝王 フリーザ[ボスケテ](2009/01/25 16:19)
[4] 第四話 星の地上げ[ボスケテ](2009/02/07 23:29)
[5] 第五話 選択・逃避[ボスケテ](2009/02/15 01:19)
[6] 第六話 重力制御訓練室[ボスケテ](2009/02/23 00:58)
[7] 第七話 飽くなき訓練<前編>[ボスケテ](2009/02/23 00:59)
[8] 第八話 飽くなき訓練<後編>[ボスケテ](2009/03/03 01:44)
[9] 第九話 偉大なる戦士[ボスケテ](2009/03/14 22:20)
[10] 第十話 運命の接触[ボスケテ](2009/03/14 22:21)
[11] 第十一話 リターン・ポイント[ボスケテ](2009/03/16 22:47)
[12] 第十二話 明かされる真実[ボスケテ](2009/03/19 12:01)
[13] 第十三話 最悪の出会い[ボスケテ](2009/03/28 22:08)
[14] 第十四話 さらなる飛躍への別れ[ボスケテ](2009/04/04 17:47)
[15] 外伝 勝田時雄の歩み[ボスケテ](2009/04/04 17:48)
[16] 第十五話 全ての始まり[ボスケテ](2009/04/26 22:04)
[17] 第十六話 幻の拳[ボスケテ](2009/06/04 01:13)
[18] 第十七話 伝説の片鱗[ボスケテ](2009/06/22 00:53)
[19] 第十八話 運命の集束地点[ボスケテ](2009/07/12 00:16)
[20] 第十九話 フリーザの変身[ボスケテ](2009/07/19 13:12)
[21] 第二十話 戦いへの“飢え”[ボスケテ](2009/08/06 17:00)
[22] 第二十一話 必殺魔法[ボスケテ](2009/08/31 23:48)
[23] 第二十二話 激神フリーザ[ボスケテ](2009/09/07 17:39)
[24] 第二十三話 超サイヤ人[ボスケテ](2009/09/10 15:19)
[25] 第二十四話 ザ・サン[ボスケテ](2009/09/15 14:19)
[26] 最終話 リキュー[ボスケテ](2009/09/20 10:01)
[27] エピローグ 序章は終わり、そして―――[ボスケテ](2011/02/05 21:52)
[28] 超あとがき[ボスケテ](2009/09/17 12:22)
[29] 誰得設定集(ネタバレ)[ボスケテ](2009/09/17 12:23)
[30] 外伝 戦闘民族VS工作機械[ボスケテ](2011/03/30 03:39)
[31] 外伝 戦闘民族VS工作機械2[ボスケテ](2011/04/06 01:53)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[5944] 外伝 戦闘民族VS工作機械
Name: ボスケテ◆03b9c9ed ID:1128f845 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/30 03:39

 トリッパーメンバーズという組織に、サイヤ人へと転生したトリッパー、リキューが所属することになってから間もない頃。
 彼はその組織に在籍していた中、一定の期間の間“開通係”と呼ばれる役職に付き、数々の仕事をこなしていった。
 これは彼、リキューが行った“開通係”の初仕事におけるエピソードである。








 「それでは、準備はいいですか?」

 「ああ、大丈夫だ」

 「分かりました。ではシステムを起動しますので、少し下がってください」

 指示に素直に従い、リキューは後ろへ下がる。
 係員は所定の安全項目を声出し確認しながらチェックし終わると、コンソールを操作する。
 すると、リキューの目の前に置かれている全長が5m程はありそうな、巨大な機械が唸り声のような音を響かせ始めた。
 そして気が付けば、何時の間にやらリキューの目の前に“ソレ”が出現していた。

 それは“穴”であった。
 巨大な機械、組織の根幹を成す代物であるトリップ・システムの母機。
 その手前の空間に、そうとしか呼べないモノが忽然と出現していた。
 “穴”は何も移さない漆黒に包まれ、音もたてずその“真闇”をリキューへ披露している。

 「準備できました。後はもう中に入っていただければいいです」

 「そうか」

 リキューは係員の言葉に了解を示し、目の前に開かれた“入口”を見つめる。
 最後に事前に受けたレクチャーを反芻し、確認する。

 (持ち物………必需品は換金可能な貴金属類と、幾らかの食料と水。不測の事態に備える装備は必要だが、多くに求められるのは機転と要領。最優先するべきことは生還で、身分の詐称や行動の選択は自由。ただし現地文化文明の調査などはボーナスの項目になれども、全ては自己責任におけるもの。インターバル期間はおおよそ数ヶ月前後、か)

 「しかし、本当に大丈夫なんですかそんな軽装で? たしか今回のインターバルはかなり長期のものになる筈でしたが?」

 係員がリキューの姿を見やり、心配そうにそんな言葉を漏らす。
 リキューの身に付けている物は、見慣れた、ただし一般的に見て異質な戦闘服姿に、片手に持ったサッカーボール程度のサイズの革袋。
 そしてその顔に装着したスカウター。たったそれだけであった。二泊三日の旅行をする人間でも、これよりもっと荷物があるだろう。
 とてもじゃないがこれから数ヶ月もの間、たった一人で見知らぬ異郷でサバイバルする者の姿には見えなかった。

 「問題ない。最低限必要な必需品は全部持っている」

 「はあ、そうですか」

 そう断言されれば、係員に口を挟める道理もない。
 全ては自己責任。これから先のことに付き纏う、たった一つのルールである。

 リキューは無言で“入口”へと足を進めた。
 “真闇”の中へ身体が沈み込んでゆくように消えていき、そして完全にその姿がこの世界から消える。
 後には不気味なほど静かに佇む、“真闇”の“穴”だけが残されていた。

 それを見届け終えてから、係員は再度コンソールを操作する。
 トリップ・システム母機が再びその作動音を響かせ、鳴動する。
 そして残された最後の痕跡である“穴”もまた、何時の間にやらまた気が付かぬ間に姿を消したのだった。








 “開通係”という仕事がある。
 それは異世界間組織トリッパーメンバーズに置いて、極めて重要なウェイトを占める業務内容であった。

 数々の創作物世界。トリッパー達が言う“現実”から見てフィクションに該当する世界たち。
 それらの普通なら行くことなど叶わないであろう、世界へとアクセス出来る唯一の手段であるトリップ・システム。
 このトリップ・システムをメインに運用し、そして未だ未発見である新たな創作物世界を発見すること。

 それが“開通係”という部署にかせられた仕事であり、そして組織において最重要な目的を達成するための執行機関であった。
 がしかし、現状における部署の稼働率はお世辞にもほめられたものではなかった。
 組織に置いて最重要なウェイトの部署であるにもかかわらず、である。

 その原因は、一言で言って人材不足であった。

 まず第一に、新たな創作物世界、つまり新規の世界を発見し開通するためには、前提としてトリッパーでなければ実現できなかったのだ。
 すでに発見し終えて開通した世界に対しては、自由に人員や物資を流通させることが出来ていた。
 しかし未だ未開の創作物世界に対しては、トリッパー以外はトリップすることが出来ないという制約が存在していた。
 よって使える人材が著しく制限されてしまっているのである。

 加えて、さらに求められる人材には一定以上のサバイバル能力が要求されていた。
 その理由もまた、トリップ・システムの制約にかかっていた。
 未知の創作物世界へと初めてのトリップした際、その帰還にはインターバルという現象が発生するのである。
 これは最初のトリップ後、一定期間の間その創作物世界にてトリップが出来なくなるというものであった。
 つまりトリップを行った“開通係”の職員は、その世界にたった一人で着の身着のまま、取り残されてしまうということである。

 インターバルは世界によってその長さは異なる。
 世界によってはトリップ後数分でインターバルが終わることがあるし、逆に一年以上の長期に渡るものもある。
 事前ではせいぜい大雑把な推測程度しかインターバルの長さは判別できなく、特定できないのが現状だった。
 この問題があるため、人材には最低でも一人で生き抜けるだけのサバイバル能力、出来れば戦闘能力があることが望ましいとされていたのだ。

 前提として希少なトリッパーであること。必要技能としてサバイバル能力があること。
 この二つの条件が人材として求められているため、結果として“開通係”は万年人材不足として稼働率が改善されないのだった。
 その重要度ゆえに給与など待遇面は最高の用意がされてはいたが、当然その程度の処置でこの問題が解決されたりはしない。

 リキューは、この“開通係”への所属を希望したのだった。

 勿論のこと、このリキューの希望は即時受理され、配属は極めて可及的速やかに決定された。
 前提条件もサバイバル能力も、満たしていることは言うに及ばず。
 “開通係”の部長は諸手を挙げて歓迎した。
 さて、ではリキューが万年人材不足に喘ぐ“開通係”を希望した理由とは何か?

 リキューの目的は単純だった。
 強くなること、ただその一点だけである。
 リキューはそのための手段として直接的な戦闘を含む様々な経験を欲し、そして“開通係”に所属することを決めたのだ。
 別にただひたすら戦い続けること。ただそれだけで強くなれると思うほど、リキューは脳筋ではない。
 しかし、逆にただひたすら単純に引き籠って鍛え続けるだけでも、強くはなれない。リキューはそうとも思っていたのだ。

 必要なのは経験。実戦から鍛錬なども含めた、様々な経験。それこそが強くなるために必要な鍵。
 戦い続けるだけも鍛え続けるだけでも駄目だ。リキューはまさしく、過去の経験からそう結論付けたのだ。
 ではこの様々な経験を積むにはどうすれば良いか?
 その答えが“開通係”であった。

 なにせ、文字通りの意味で違う世界を渡り歩くことになるのだ。
 数ある創作物の中にはあらゆるシチュエーションが網羅されている。剣と魔法の世界もあれば、当然のように広大な宇宙で戦争をしている世界などもある。
 リキューの希望。実戦も含めた様々な経験を積む。これほどこの希望に当て嵌まる部署が他にあるだろうか。

 かくして、サイヤ人へと転生した一人のトリッパーであるリキューは、“開通係”へと所属するのであった。








 “真闇”に視界が包まれ、視界が役に立たなくなる。
 そのまま臆することなく歩き続けると、ふと気が付いた時にはもう周囲の風景が切り替わっていた。
 何時の間にやら、すっぽりとリキューを包んでいた“真闇”は晴れ、“穴”が消え果てている。
 まるで映画のフィルムに異なるシーンを張り付けたかのような、唐突な風景の切り替わり。
 トリップ・システム特有の体験を経過してから、リキューは訪問した新たな世界の光景をその目に収めた。

 そして刹那、その顔面を横から猛烈な力で叩き飛ばされた。

 「っご!?」

 強烈な衝撃に身体全体が吹っ飛ばされる。
 反射的に受け身を取ろうとした瞬間、今度は“何か”がリキューの首元へと巻き付き、そして一気に振り回した。
 巻き付けられた首を視点に、まるで人形を振り回すかのような乱暴な扱いがリキューを襲いかかる。

 体重が50kgを軽く超えるリキューを、自由に上下左右へと振り回す“何か”。
 そのまま事態の把握にまったく追い付いていないリキューへ畳みかけるように、地面へと全身を叩きつける。
 そしてようやく収まったかと思えば、そうではなく、今度は一斉に群がった別の“何か”が、リキューの全身へと山のように重なり始めた。

 「こ、の!? くそ、何だいったいッ! 痛ッ、いて、痛い! こ、この野郎ッ!?」

 全身に襲い掛かる痛みと、ガチガチと何時まで経っても止まない不協和音に、リキューはようやくその“何か”の正体を見定めた。
 “噛み付かれて”いるのだ。

 夥しいほどの数の奇怪な生物たちが、一斉にリキュー一人に対して群がっていたのである。

 っぬ、とリキューの目の前に歯茎を剥き出しにした生物が現れる。
 一体どんな環境から生まれたのか、まるで人間のグロテスクなイメージをそのまま表現したかのような、醜悪で、不気味な生物であった。
 まさしく、化け物。
 その化け物がリキューの顔面に食らい付こうと、大口を開けながら接近する。

 リキューは叫んだ。

 「この、ふざけやがってッ! ハァーーーッッ!!」

 空気が大きく揺らぐ。
 リキューを中心に光ったかと思うと、爆発的に放たれた“気”の奔流が一気に取り囲んでいた化け物たちを吹っ飛ばした。
 すかさず両足を揃えて畳み、反動を使って仰向けの状態から立ち上がる。
 周囲へ視線を巡らせ状況を確認し―――思わずリキューは、言葉を失ってしまった。

 見渡す限り目に入るは、ただひたすら化け物の姿だけ。
 右も左もどこもかしこも化け物化け物化け物―――。
 化け物一色であった。すし詰め状態と言っても過言ではない。

 「くそッ、化け物の巣に入り込んだのか?」

 なんて確率だと吐き捨てる。
 トリップ・システムによる転移は、特にその世界における最初の一回目ともなると完全にランダムとなる。
 少なからずの法則性なども見出されてはいるが、そこを含めて考えてランダムである。
 さすがに上空や深海、火中など一発で死亡してしまうような環境下に放り出されることはないが、運が悪ければ戦場のど真ん中に出てしまう程度の事例はある。

 とはいえ、やはりそんなパターンは全体数から見れば希少としか言いようのない稀なケースであるし、つまり扱いは宝くじに当たるようなものであった。
 そんなレアケースをものの見事に最初の初仕事で引き当てるとは、リキューは実に巡りの悪い星の下に生まれた男のようであった。

 叫び声を上げることもなく、化け物たちが動きだした。
 ズドドドと、凄まじい速度で化け物たちがリキューへと殺到する。そのスピードは自動車並みだった。
 硫黄のような独特の臭気に顔を顰めながら、リキューは大きく深呼吸する。

 幸先からして随分と悪い出発のようであった。
 よもや新しい世界へと踏み込んだその瞬間、敵に襲われるとは思ってもみなかったことだった。
 お陰さまで持ち込んでいた貴金属や食糧などの入った荷物は、何処かへと飛んでしまっていた。

 けれどもしかし、決して不幸ばかりでもなかった。

 今まさにリキューへと襲いかかろうと迫っていた、化け物たちの先頭。
 その一匹がいきなりぶっ飛ばされた。
 いや、その一匹だけではない。
 次々と迫りくる化け物たちの群れの一匹一匹が、リキューの超高速で叩き込まれていく連撃によってぶっ飛ばされていたのだ。

 「でやあッ! だだだだだだだッ! ハァァアアア!! だりゃあッッ!!」

 リキューの姿が消える。その消えた空間へ化け物が襲い掛かり空を切ったかと思えば、まるで見えない力に叩き潰されたかのように地面に叩きつけられる。
 そんな光景が何度も繰り返される。リキューがまったく別の場所に現れ、消え、そしてその間に何十匹もの化け物が討ち取られていっている。
 ギュンと空気を切る音を鳴らして、またもやリキューの姿が現れる。
 その表情は予想外のトラブルに巻き込まれた被害者でありながら、とても楽しそうに笑っていた。

 「どうやら、やはり正解だったようだな。この仕事を選んだことは」

 化け物がまるで人間の腕のような肉付きをした手で、リキューに殴りかかる。
 その一撃を片手で軽く遮るように受け止めて、返すようにもう一方の手で殴り返す。
 それだけで化け物はまた一匹、仕留められて亡骸が吹き飛ぶ。

 「そぉら、化け物ども。ドンドンかかってこい! 俺はここにいるぞ?」

 片手に“気”を集中させ、小さな気功弾を作り出す。
 それをリキューはバックステップで移動するのに併せて、後方の迫りくる化け物の一群へと放り投げた。
 低空を滑るように流れ、一群の中へ押し込まれる気功弾。

 そして爆発が発生した。

 何十匹と途方もない数が集まっていた化け物どもの群れが、纏めて一気に気功弾の爆発に巻き込まれて一掃される。
 実に爽快なそのシーンに、リキューも歓呼の声を漏らす。
 あっという間に、あれほどいた化け物たちの大多数が片付けられたのだった。

 残った生き残りを向かってくる順に仕留めながら、リキューは改めて辺りを観察する。

 リキューの今いる場所は、非常に薄暗い空間であった。そして同時に、途方もなく広い。
 暗く、そしてスケールが大きいため一見では良く分らなかったが、よく観察してみることで実は広大な空間のある閉鎖空間だとリキューは見抜いた。
 おそらくリキューの暴れている現在位置は、広間などといったものではない一種の通路であって、そしてその上下幅が数百mほどもある巨大なものである。
 おおよその観察で、リキューはそこまで推察していた。

 (外が見えない構造、つまり密閉されてる? ということはここはもしかして、地下……地中か? しかし何でわざわざこんな巨大な構造を? こいつらのサイズ比にあった巣じゃないぞ)

 取り留めもなく疑問を重ねながら、化け物たちを片手間に始末するリキュー。
 化け物たちの戦闘力はサイバイマンにも劣る。せいぜい厄介なのは見た目のグロテスクさ程度であって、たかがこの程度の雑魚は幾ら数がいてもリキューの敵ではなかった。
 だからこそ安心しながらリキューは考察していたのだが、その答えはわざわざ考えるまでもなく“向こう”からやってくるのであった。

 (? ………何だ、いったい?)

 リキューはその異変に気が付き、考察を切り上げて目を走らせた。
 相変わらず周りにはちまちまとしつこく、数の減った化け物の生き残りたちが襲い掛かってきている。
 その相手をしながら、感じ取った異変の正体を探る。

 リキューの耳が、音を拾う。
 それは遠く小さな音であったが、徐々に大きく、そして大地を揺らしながら近付いていた。
 遠方、カーブを描いて消えている巨大な通路の先へとリキューは顔を向けた。
 ドドドドドと、音はドンドンと大きくなる。
 そしてまるで地平線から姿を現すように、巨大なチューブ状の通路の先から化け物たちの大群がリキューの視界の中へ現れた。

 その数はもはや、数十匹だとか数百匹、なんてレベルではない。

 上下縦横に数百mは幅のある巨大な通路を、文字通りビッチリと埋め尽くす化け物の大群。
 軽く概算しても、その数は万を超える。
 加えて、新たに判明した新たな事実もあった。

 「なるほどな………はは、道理でこんなに巣が馬鹿でかい訳だ」

 リキューの目に映る化け物の大群。
 その中には先ほどまで相手にしていた、せいぜい2mから3m程度の大きさしかない化け物の他にも様々な種類の化け物が揃っていた。

 全長が数十mはあるだろう、蟹のような化け物。
 堅い甲殻に覆われた錐体のようなシルエットの化け物。
 一番でかい70mはあるだろう多脚の化け物。

 「っち……こいつらは一番サイズの小さい雑魚だった、てことか」

 新たにリキューへと迫る、化け物の大群。それはもはや群れではなく、波としか表現できない雲霞の軍勢であった。
 ショック死してしまいそうな迫りくる威容の中、リキューは静かに“気”を高め始めた。
 パチパチと漏れ出る“気”が火花を散らし、リキューの周りに不可視の力場が渦巻く。
 ある一定まで“気”を高めたところで、ピタリと動きを止める。

 ―――叫ぶ。

 「だりゃああぁぁッッ!!」

 高めた“気”を纏い、リキューは突撃した。
 最初から戦う以外の選択肢は持たず、リキューは万の化け物の軍勢へと真っ向から相対し、その真っ只中へと突き進んでいく。
 程なくしてその姿は、化け物たちの中へ消える。

 凄まじい閃光が、化け物たちの中から溢れる。
 そして戦いが始まった。








 西暦1998年、七月。日本帝国は極めて多大な損害を“人類に敵対的な地球外起源種”―――略称、BETAによって受けた。
 カシュガルから侵攻を開始したBETAの一群が北九州へと上陸し、そのまま九州、四国、中国、近畿まで蹂躙。
 僅か一週間程度の間で、ほぼ日本全土の半分を敵によって侵されたのである。

 このBETA侵攻による被害は凄まじく、民間戦死者数は実に3600万人。当時の日本帝国の総人口の30%に及んだ。
 折悪く、台風上陸と時期が重なったことによる一般市民の避難誘導の混乱。これがここまでの被害をもたらした原因だとされている。
 あるいは、危機意識が欠如していたのが原因か。
 大陸を折檻していたBETAの脅威を真の危機としていなかったがゆえに、ここまでの被害を計上してしまったのだろうか。

 無論、真相は闇の中である。
 実際には光州作戦の直後で軍の力が消耗していたという因果関係もあったのだが、それを含めてすでに終わったことだった。
 所詮そういった考えなど、もはやただの想像でしかなく、そして原因がどうであれ残るのは凄惨な事実のみなのだ。

 日本帝国は侵攻を緩めぬBETAに対して果敢に反撃を試みるも、その速度を緩める程度しか対処は出来なかった。
 結果、BETA侵攻開始より一ヶ月。ついに首都・京都が陥落。
 日本帝国は政府機能に市民、皇族全てを東京へと移し、遷都する。
 事実上の敗北宣言であった。

 こうしてBETAはついに関東の西半分を制圧し、そしてBETAたちの拠点であるハイヴの建設を佐渡島に続き、横浜にも開始した。
 このBETAの行為を止めるだけの実力を日本帝国は持っておらず、ただ黙ってその作業を見ることだけしか叶わなかったのだった。








 薄暗い場所だった。
 物理的な意味でも、雰囲気的な意味でもそこは暗い場所だった。
 広さだけはあるが窓の一つもなく、数十人の人間がその部屋の中に押し込められているからだ。
 しかも、ただ押し込められているのではない。捕らえられているのである。
 虜囚だということだ。

 BETAに捕らえられた、人間の虜囚である。

 明るくなれる訳がない。
 人類がBETAについて分かっていることは、ほとんどない。
 生態から思考、優先順位から目的。全てが闇に包まれた状態である。
 現在あるBETAの分類も、戦略上のこれまでの振る舞いから付けられたものでしかないのだ。
 判明していることはただの二つ。BETAは炭素生物であり、そして人類に有害であること。これだけである。

 ましてやこれが一般市民ともなれば、どうなるだろうか?
 情報規制により、普通の市民はそもそもBETAの姿すら知らないのである。
 ただただ有害、恐ろしいとだけニュースでしか知らない人々。そんな人々が当のBETAに捕らえられた状態にあるのだ。

 そんなもの、許される行為は恐怖に打ち震えるしかない。

 薄暗い部屋の中。構造材そのものが放つ仄かな光源だけが頼りの世界で、二人の男女がいた。
 他の虜囚となっている人々と同じように恐怖に震えながら、互いの手と手を決して離さないようにしっかりと掴んでいる。

 「タケルちゃん……私たち、これからどうなるのかな」

 「大丈夫だ、純夏。大丈夫……絶対に無事に帰れるに決まってる」

 自分にも言い聞かせるように少女―――鑑純夏へと白銀武は喋る。
 しかし、その表情は暗い。それは自分で言ってて信用できない発言だった。
 すでに人類の敵、BETAに捕まって一ヶ月以上経っていた。
 武たちは日の光も差さない部屋に捕まっていたため、正常な日時の間隔はすでに失せていたものの、それでもかなりの時間が経っていることは分かっていた。
 仮に軍が自分たちを助けに来てくれるなら、もうとっくに来てくれてもいいのではないか?

 絶望しか残されていない状況だった。すでに捕まっている人間の中には、正気を失い狂ってしまった人間もいる。
 そうでなくとも気力を失い、死んだようにうなだれている人間が大半だった。
 なんてことはない。
 こんな大勢の人間が一つの部屋に押し込められながら、暴動の一つも起こってない理由。
 すでにこの場の人々は、そんな段階をとっくに通り越してしまっていたのである。

 しかしそんな絶望と無気力に沈む人々の中、武は未だ意思を捨てず気力を保っていた。
 同じように気力を失いかけている純夏の手を握りしめ、諦めず言葉をかけ続ける。
 たった一つの諦める訳にはいかない想いのために、歯を食いしばって絶望に抗い、生き延びようと奮起する。

 (純夏………)

 武は自分の隣に座る、幼馴染を見る。
 何時も自分の近くにいた存在だった。ガキの頃から今まで、それこそずっと。
 からかって、遊んで、勉強して、からかって。いつもいつも、それこそ当たり前のように一緒にいた。
 これまでも、そしてこれからも。当たり前のように一緒に過ごすだろうと、わざわざ考えることもなく思っていた相手だった。

 ぎゅっと、手を握る。
 こんな非常時になって、初めて自分の気持ちに気が付いた。
 当たり前のように保証されことなんてないのだと、日常が崩壊することによって初めて気付かされたのだ。
 馬鹿だ。全くもって救いようのない馬鹿だ。こんなことになってこの気持ちに気付くのだから。
 これでは純夏に散々殴られても文句は言えない。

 しかし、だからこそ。

 (純夏………ッ!)

 白銀武は決意する。
 意地で、惚れた男としての甲斐性で、何よりも大事なものを女を護るため。

 (お前だけは、絶対に守ってみせる!!)

 それが白銀武の誓い。
 神にも仏にも祈る。純夏を護るためなら全身を張る。
 守ってみせる。そのただ一つの誓いが、武に力を与えていた。
 全身全霊を賭けて生きる力を振り絞り、最後の最後まで諦めることなく、活路を見出そうとしていた。

 そうであるがゆえに、武は気が付いた。

 「………ん?」

 「どうしたの、タクルちゃん?」

 武が何かに反応したように面を上げて、怪訝そうに周りを見る。
 それに反応し、純夏も面を上げる。

 「いや、何か物音というか、揺れたような気がしたんだけど。純夏は何か感じなかったか?」

 「別に何も感じなかったと思うけど………」

 「そうか。そう……だよな。悪い、変なこと言った」

 「ううん、いいよそんなこと」

 そう言って、純夏は顔を伏せる。
 純夏の衰弱は目に見えて現れていた。純夏だけではない。武も衰弱していた。
 薄暗い部屋の中に、先の見えない状態で閉じ込められているのだ。精神的なストレスが肉体のバランスにも影響を与えていた。
 最低限食事らしきものは与えられていたが、それだってどんな成分か怪しい流動食だった。
 なんとかしないといけない。考えは浮かばねども、焦燥だけが募る。

 その時、ドンと激しい震動が部屋を襲った。

 「!? なんだぁ!?」

 「タケルちゃんッ」

 純夏を抱きしめて、じっと異変が収まるのを待つ。
 激しい震動は一度では収まらず、持続的に何度も何度も連続して起きた。
 部屋の中が揺れて、腹に響く震動が地面から伝わってくる。

 「タケルちゃん、タケルちゃん………ッ」

 「何だ。何が起きてるんだ、いったい?」

 ざわざわとざわめき始めた部屋の中で、抱きしめる純夏を宥めながら必死に武は考える。
 状況がさっぱり分からない。事態が良い方向に働いているのか、それとも悪い方向に動いているのか、それすら分からない。
 何とかしなければという意思があっても、実際に何かという行動に移れないもどかしさに、武は歯がみする。

 やがて、何度となく発生した振動は収まった。
 異変が収まったことを認識すると、久しくざわめいていた部屋の中も、また元通りの空虚な暗い雰囲気へと戻り始める。
 武もまたそれを認めて、結局何もできなかったのかという落胆を胸に気を落としていた。

 そして唐突に、部屋の入り口が破壊音と同時に開かれた。

 「ッ―――!」

 武は総毛立った。
 この部屋の扉が開かれた時、やってくるのは何時もBETAたちだった。
 奴らは無造作に部屋へとやってくると、適当に部屋の中の人間を一人捕まえて外へと連れ出していった。
 その連れ出された人間がどうなったかは、武は知らない。虜囚となった人間、全員が知らない。
 ただ淡々とBETAどもは人間を連れ出すと扉を閉めて、また自分たちを閉じ込める。そしてある程度時間が経ったら、また別の人間を連れ出しに来るのだ。

 分かることはただ一つ。
 連れ出された人間は、一人も戻ってこないのだということだけ。

 武は破られた入口を警戒心を高めて、強く睨みつける。
 純夏を抱きしめたまま、絶対に守ると意識する。
 どうにかして他の人間の影に紛れて、BETAの注意から純夏を逸らす。そうすればとりあえず選ばれることはない。
 周りの他人を身代りにしてでも、武は純夏を生き延びさせるつもりだった。

 がしかし、そうまで警戒した武の決意は無駄になった。
 扉の方向から、声がかけられたのだ。

 「人か? 人間がいたのか?」

 「……え、あれ?」

 困惑する武を含めた虜囚の者たちの前に、そいつが姿を現す。
 壊れた扉の向こうから現れた者は、人間の姿をしていた。
 トゲトゲとした特徴的な黒髪の、奇妙な鎧のような服を身に付けた少年だった。
 顔には妙なモノクルを装着していて、鋭い目つきで武たちを睥睨している。随分と目付きの悪い。
 その年頃は武よりも年下だろう。

 あまりにも予想外の展開に、部屋の中の人間全員が反応を返せずにいた。




 「はぁッ!」

 両手を揃えて突き出し、気合いの声と共に気功波を打ち出す。
 それはそのまま化け物たち―――BETAの一群へと着弾し、一気に纏めて薙ぎ払った。
 確実に100の単位で敵を消し飛ばしてやった一撃だったが、しかし煙が晴れるよりも先に殺到するBETAの新たな一群が現れ突撃してくる。

 「くッ……しつこい野郎どもだ、なッ!」

 リキューの姿が掻き消え、その場所に巨大な衝角が振り落ちた。
 直上にいた要塞級が繰り出した、リキューを狙った衝角は空を切って地面に突き刺さり、その強酸液をまき散らす。
 超スピードで姿を消したリキューは要塞級の中ほどに現れると、その胴体を思いっ切り蹴り飛ばしてやった。
 爆音と同時にぐしゃぐしゃに潰れた胴体に引っ張られ、要塞級が横転する。
 その撃破をいちいち確認することもなく、リキューは次なる敵へと向かう。

 残心とか何だとか言っていられる状況ではなった。

 「くそったれ、キリがない!」

 数。
 襲い掛かるBETAの、もっとも強大で最大の障害となる数の猛威。
 それがリキューにも等しく襲い掛かっていた。

 戦闘力の問題で言ったら、当然口ほどにもない。
 それこそ要塞級だろうが戦車級だろうが要撃級だろうが、どの種類のBETAもリキューの敵ではなかった。
 そもそも戦闘力がスカウターで測ってみて、どの種類のBETAも三桁にいかないのだ。
 現在のリキューの戦闘力は11300。BETAなぞ文字通り歯牙にもかけない状態だった。

 実際この世界にトリップした直後。リキューは奇襲同然に戦車級に殴られ、続けて闘士級に首を振り回され、最後に兵士級に全身を齧られた。
 だがしかし、全くダメージなぞ受けていなかった。
 巨大ロボットである戦術機にすらダメージを与える戦車級の攻撃を受けても、ノーダメージだったのだ。

 はっきり言って事実上、リキューはこの世界で無敵と言っても過言ではない戦闘能力を持っていた。
 そのリキューをして厄介だと言わしめる現状。
 その理由は何かというと、BETAの数である。

 パンチ一発キック一発で敵を倒しても、その十倍の数の敵が押し寄せてくる。
 ならばと気功波で纏めて一団を薙ぎ払っても、薙ぎ払うや否やその開いた隙間に新たな敵団が突っ込んでくる。
 倒す先から次から次へと、途切れることなく敵がどんどん供給されるのだ。

 要する、敵を倒すスピードが全然追い付いていないということである。
 仮に一秒に一匹始末したとしても、BETAが一万匹いれば要する時間は一万秒。おおよそ2時間半かかる計算となるのだ。そんな長々と誰が付き合っていられるだろうか。
 これこそ数が脅威とされるBETAの真骨頂だった。しかも現在地はその拠点であるハイヴ。BETAの総数は一万なぞ軽く超える。
 もちろんリキューの実力にしてみれば、一秒一匹なんてチンケなことは言わず、一秒の間に数十匹以上のBETAをぶちのめせる。
 が、そんなことは焼け石に水でしかないことは言うに及ばず。
 だからこそ漏れ出たのが、キリがないという台詞だった。

 「っが!?」

 不意に頭上から要撃級の踏み込みが、リキューへと襲い掛かった。
 両手を上に掲げて要撃級の足を受け止め、その場に踏ん張る。
 サイズ差を考えれば馬鹿らしいほど滑稽なシーンであったが、それは現実の光景だった。

 「ぎぎぎ………ッ、ずぇりゃあ!」

 足を投げ返してやり要撃級を弾き返す。一足で距離を取った後、要撃級の全身を呑む気功波を打つ。
 周囲の小物を何匹か巻き込んで要撃級が消滅するが、もうその後ろには次の要撃級の姿が見える。

 「うっとうしい奴らが、どれだけ数がいやがるんだ」

 いかにリキューが戦いを嗜好とする戦闘民族であろうとも、いい加減飽きていた。
 スタミナに問題はない。あまりにも単純作業過ぎて精神的に嫌気がさしてきたのだ。
 いちいち数万のBETAの大群を相手に、素手で一匹一匹ぶっ倒していく。それはいったいどれだけの労力を要する作業か。
 少なくとも、全くもって精神に健全な働きをもたらすものではないことは確かだった。

 「一気に纏めて消し飛ばせれば楽なんだがな………」

 リキューはシンプルで最も楽な解決手段を考える。
 その気になれば星だって壊せる存在である。普通に考えて荒唐無稽なそんな行動すら、十分に実現可能な対応策だった。
 イメージとしては原作“ドラゴンボール”にあった、ナッパの使用したあの技である。挨拶と評して町一つを更地にした、技とも言えない広範囲の無差別破壊だ。やろうと思えばリキューにもそれは出来る。
 しかし、それが出来ない理由があった。

 気功波の光の奔流がBETAを薙ぎ払うが、その奔流を逆に飲み込むようにBETAが押し寄せる。
 続けて気弾を絶え間なく投げつけて爆撃するが、BETAは意に介した様子もなくその穴を埋めて襲い掛かる。
 その有様に舌打ちする。

 「くそったれ……これ以上威力を上げたら、巣もぶっ壊しちまう」

 リキューはこれまでの推察から、この化け物の巣。つまりハイヴが地下にある構造だと考えていた。
 周囲を見て確認できる通路の大きさなどから見て、かなり深い位置に存在しているのだろうとも結論している。
 実際リキューのこの洞察はほぼ正解であり、リキューの現在位置は地表から見て地下300mの位置。現横浜ハイヴの地下最下層にほど近いポイントにいた。
 こんな場所でそんな大規模な破壊活動をしようものなら、確実に崩落が起きる。

 頭上からおそらく数百万tを軽く超える量の土砂が押し寄せてくるのだ。
 それがどれだけの厄介事を巻き起こすのかと考えたら、とてもではないが実行なんて出来るものではない。
 よって、自然と気功波の威力は抑えられざるおえなかった。

 気合いを叩き込んで突進してきた突撃級の図体をふっ飛ばし、リキューはスカウターに手をやって操作する。
 いい加減あとどれだけの数のBETAが控えているのか、それの確認のためだった。
 それは終わりも見えればやる気が湧くだろうという魂胆の行動だったのだが、しかしリキューはその意図を逆方向に裏切られ呻き声をあげる。

 スカウターに表示される夥しい数の反応のマーク。
 画面があっという間に表示で埋め尽くされ、計測をオーバーする。カチカチと操作し範囲を広げてみると、さらなる反応をスカウターは拾う。
 反応を計上すること、約3万以上。しかもこの数は現在進行形で増大中で、範囲をもっと広げたらどんな反応が返ってくるか分かった物ではなかった。
 しかもスカウターの観測範囲と反応の分布から見て、ここが蟻の巣状をした、思った以上に広大な巣であることも分かってしまった。

 「これは、まともに相手をする方が馬鹿だな……」

 前言を撤回して周囲一帯ごと吹っ飛ばしてしまうかと、リキューは考え直しかける。それはあまりにも魅力的な誘惑だった。
 少なくとも、もう今までのように正直に相手をする気は失せて、別の手立てを考え始める。

 (スカウターの反応から見て、どうもこのあたり一帯。最低でも周囲10km以内は完全に奴らの巣みたいだな。つまり仮に丸ごと吹き飛ばしても、この世界の人間を巻き込む心配はないか? 崩落ごときは別に起きたところで、俺一人ならどうとでもなる。要するにネックなのは巻き添えの有無で、巻き添えさえいないなら実行に躊躇する理由はないか………よしッ)

 リキューは行動を決めた。
 この巣とその周囲にいるBETAたち、それら全部纏めて後腐れなく消し飛ばす、と。

 スカウターを操作し、反応を確かめる。
 巻き添えがいないかの最後の確認だった。無造作に全ての反応が表示されるため、非常に面倒ながらも素早く眼球を動かし数値をチェックする。
 数万もの表示を一々自分で確認するという、凄まじく手間な作業であった。しかもその間にもBETAは襲い掛かってくるため、並行して相手をしながらである。
 細々とし過ぎてストレスが蓄積される作業であったが、万に一つでも巻き添えがあったらと考えると、リキューは手を抜けなかった。

 その甲斐もあって、リキューは一つの気になる反応を見つけた。
 数多く表示される戦闘力の反応の中に、妙な反応のものが幾つか混じっていたのだ。

 周囲の戦闘力が平均して10から20前後のものばかりの表示の中に、3や5などといった、検出される明らかに低い数値。
 しかもその反応は一つだけではなく、一つの個所に固まって何十と存在している。
 極め付けに、反応のある場所は地上の方向ではなく、リキューよりもさらに地下の方向にあった。

 (こいつは………)

 露骨に怪しい反応だった。はたして、いったいどうするべきか?
 その選択にリキューは即決する。別に迷う理由もなかったからだ。
 捉えた弱い反応をスカウターにセットし、追跡対象にする。

 (直接行って確かめてみるか)

 そしておもむろに作り出した気弾を、足元へ叩き付けるように投げ付ける。
 大きな爆発が発生し、それに紛れてリキューが舞空術を使い超スピードで一気に飛び出した。広い通路が幸いし、あっさりとBETAたちの群れの合間を飛び去っていく。
 気が付けばリキューは、ほんの二・三秒も経たない内に戦場となっていた場所から抜け出してしまっていた。

 「にしても、本当になんて数だ」

 思わず顔を顰めながら、上空からの地上の様子に呆れてしまうリキュー。
 そこにはまるで渋滞となった高速道路のように、BETAたちがうぞうぞと蠕動しながら詰まっていた。
 こいつら全部がリキューを狙ってわざわざ集まってきたのかと思うと、何とも言えぬ怖気が走る。
 ただですら不気味な外見をした化け物たちが、よりいっそう理解の出来ない別ベクトルに不気味な存在だと思えたのだ。

 スカウターの反応を参照に、ハイヴ坑道内を飛行するリキュー。
 途中、通路の幅が狭くなりBETAたちに襲われる場面などでは手際良く吹き飛ばし、先を急ぐ。
 目的の方位は分かっていても、さすがにハイヴ内の構造までは分からないのでそこは手探りでの探索だった。




 そして迷走し続けること数十分。
 ようやく目的の反応地点まで、あと一歩の距離までリキューは近付いていた。

 「ハァッ!!」

 通路を塞いでいた戦車級の集団を、気功弾を叩き込み爆殺する。
 開いた通路を疾走するも、即座にリキューの向かう先の通路の曲がり角から次なるBETAの群れが現れる。
 舌打ちして踏み込み、一瞬で全てのBETAを殴り飛ばしていく。

 「邪魔だ! どきやがれ!」

 リキューはすでに舞空術を止め、直接足を使って走っていた。
 通路の幅が小さくなり、先ほどまでの非常識に巨大なトンネルではなく人間相応の大きさの通路となっていたからだ。
 自然とスペースの問題で出てくるBETAは戦車級に闘士級と兵士級の三種だけに限られるようになったのだが、それでも尽きる様子はなく敵はリキューの前に現れ続けていた。

 スカウターが反応し、背後へと振り返る。
 戦車級の一団が後方から現れ、怒涛の速度で接近してきていた。
 罵倒する手間も惜しんで片手を突き出し、気功波をぶっ放した。

 戦車級が全て消し飛び、爆風と震動が通路を揺らした。気功波は狭い空間で派手に威力を出し、通路の壁面を抉れた跡を残す。
 ほんの少し息切れしながら、リキューは疾走を再開する。
 思った以上にハイヴの構造が強固であることに気付いたリキューは、徐々に打ち出す気功波の威力に遠慮がなくなってきていた。
 皮肉なことだが本人の当初の希望通り、手加減しながら圧倒的物量相手に戦うという未知の“経験”が、リキューへ思った以上の苦難を与えていたのだ。

 「ここか? 反応の出ていた場所は」

 床に靴が擦れる音をたてて、リキューが立ち止まる。
 目の前には肉のような鉄のような、奇妙な素材で出来た入口らしきものがある。
 軽く手で触れて調べてみるが、開け方は分からなかった。そして悠長に、ずるずるとこれ以上調べている時間はない。
 となれば、打つ手は一つしかない。

 「鬼が出るか蛇が出るか……」

 右手の掌を開き、入口モドキにピタリと密着させる。
 一呼吸だけ間を置き、リキューは軽く集めた“気”を放出した。

 「ッハァ!」

 空気が破裂したような破壊音が響き、入口モドキがまるで障子紙のように破けた。
 これまで地道に鍛えてきた“気”のコントロールの鍛錬、その賜物だった。リキューは器用な小技が幾つか使えるようになっていた。
 ともあれ、リキューは破壊した入口から中へ入り様子を確認する。
 そして目に入った光景に、思わず唖然としてしまった。

 「人か? 人間がいたのか?」

 部屋の中には、驚くべきことに人間がいた。しかも人数は一人二人なんてものではなく、軽く50人近くはいる大所帯だった。
 あまりにも予想外の展開だった。思わずリキューは口を開けて停滞してしまう。
 何かがあると想像はしていても、まさかこんな化け物たちが闊歩している場所の中に普通の人間が集団でいるとは思わなかったのだ。

 じっくりと観察してみれば、部屋の中にいる人間たちは皆衰弱している様子で陰鬱な雰囲気を纏っていた。
 部屋の中には碌なものもなく、他の空間へと繋がる道もない。閉じ込められているようだった。

 (もしかして捕虜? いや、家畜か何かとしてあの化け物どもに捕まっていたのか?)

 捕虜ではなく家畜と表現したのは、リキューの勘だった。
 実際に戦った印象として、奴らBETAがわざわざ捕虜なんていうものを取る高尚な知恵があると思えなかったからだ。

 「おい、お前ら! 何でこんなところにいる。あいつらに捕まっていたのか?」

 適当に全体に呼び掛けるように声をかける。その言葉は何時かの失敗を繰り返さないよう、きちんと日本語を使っていた。
 リキューの言葉にざわざわと、人々の間でざわめき声が大きくなり始める。漂っていた陰鬱な雰囲気なほんの少し、なくなっている気がした。
 そんな中、転がるように一人の中年の男が前に出てきてリキューに問いかけた。

 「あ、あああんた、軍の人か? 俺たちを助けに来てくれたのか?」

 「軍だと? いや、違―――」

 「軍人さんか!? 助けに来てくれたのかようやく! 俺たち助かるのか!!」

 リキューが否定するよりも早く、別の人間が被せるように問い質してきた。
 その早合点をした言葉は、リキュー本人の意図を無視して一気に周りの人間へ広がっていった。
 自分の手元を離れて広がっていく熱気の渦に、リキューは戸惑うまま何もすることが出来ない。

 「ちょ……待て! 人の話を聞け! 俺は軍人なんかじゃ―――」

 「助かった、よかった」

 「出してくれ、ここから出してくれ。日の光が見たいんだ!」

 「ありがとうございます……ありがとうございます……」

 もうリキューの言葉で片付く事態ではなかった。
 絶望に沈んでいた人々は、リキューという仮初めの希望を得たことで暴走している。リキュー本人の言葉を聞けるような状態じゃない。
 事態をどう鎮圧したものかと、リキューは頭を抱え込みたい衝動を必死に抑えながら考えていた。

 (くそ、どうしたらいいんだ!?)

 その時、スカウターがピピピと反応を示した。
 頭を切り替えて、即座に背後の入ってきた入口へリキューは振り返る。
 ザザザと急停止する音を立てて、入口付近に何匹もの戦車級が現れた。

 「わ、わああぁぁぁあああッッ!?」

 姿を見たであろう虜囚だったの男の一人が、悲鳴を上げて腰を抜かしたまま後ずさる。
 その悲鳴が感染したのであろう。一気に狂騒でにぎわっていた部屋の中が静まり、恐怖に支配され直していた。
 戦車級たちが、部屋の中へと侵入してきた。

 (―――ッチィ!)

 考える前に動いた。
 一足で間合いを詰め、近い奴から順々に一撃を叩き込む。
 そのでかい図体が吹っ飛び、壁に叩きつけられて戦車級は動きを止めた。

 一撃必殺。

 ほんの数秒足らずで送り込まれてきた戦車級の全てを、リキューはぶちのめした。
 確実に息の根を断ち、だらりと弛緩した戦車級の亡骸が転がる。
 部屋の中が沈黙に包まれる。絶望によるものではない。それは信じ難い光景を目にしたが故の停滞だった。

 男が見ていた。女が見ていた。
 少女が見ていた。少年が見ていた。
 老人が見ていた。若者が見ていた。
 そこにいた全ての人間が、素手でBETAを叩きのめしたリキューの姿を見つめていた。

 スカウターが反応しリキューへと状況を告げる。
 続々とこの場所へ向かって、BETAたちが集まってきているという最悪の事実を。

 (くそったれ―――仕方がない)

 リキューは内心で毒づきながら決心する。
 土台、リキューにこの部屋の人間たちを見捨てることなんて出来やしない選択だった。
 苦渋の判断としながら、しかし迷いなく決めたリキューは、人々へ向かって叫び告げた。

 「お前ら、全員俺に付いて来い! 外に出るぞ!!」

 空気が静まる。
 ―――そしてようやくその時、虜囚となった皆に希望が生まれたのだった。




 事態は最悪の方向に偏っていた。
 原因は言うまでもなく、リキューが抱え込んだ一般人の集団にあった。
 当たり前だが、当初の計画は迷うまでもなく破棄だった。リキュー一人ならばともかく、こんなに一般人がいる状態でハイヴを吹っ飛ばすことなど出来やしない。BETAどころか守るべき人々も一緒に消し飛ばしてしまう。
 かといって、リキューはその腕に抱えて人々を連れ出せばいいのかと言えば、そうでもない。
 捕まっていた人間の数は50人を超えていたのだ。一人二人ならともかく、50人もの人数を抱えて飛んで行くなんて出来る訳がない。文字通りの意味でリッキューの手が足りない。
 となれば、残された手は一つしかない。

 50人の避難民全員が、地上まで各自の足で走ってもらう。
 当然、その間に襲ってくるであろう数万のBETAの軍勢からリキューが守りながらである。

 「ッカァ!」

 接近していた突撃級を一喝で爆裂させる。
 その間も足を止めるなんて無駄なことはせず、リキューは超スピードで動き続けながら避難民の周囲を忙しく回る。
 次から次へと群がってくるBETAの大群を、ピンは兵士級からキリは要塞級まで、一切合財容赦なくぶち飛ばし続ける。
 集団の前に回ったかと思えば後ろへと戻り、また前に行ったかと思えばもう後ろにいる。
 あまりの襲撃密度と護る対象の大きさに、リキューの動きはフル回転状態を維持し続けざるをえなかった。

 (ちくしょうがッ! 数が、多過ぎるッ!!)

 もはや愚痴を漏らす暇さえなく、とにかく超スピードを維持しBETAの迎撃に専念する。
 リキューの忙しさは限界を極めていた。何せリキュー一人で50人の集団に襲い掛かる敵勢の攻撃を、全方位から守り切らなければならないのである。
 とにかく足りない、手が足りなさすぎる。
 せめて一度に遅いかかるBETAの数がもっと少なければ、あるいは避難民の数がもっと少なければ、もしくはあと一人戦力になる人間がいれば。
 これら一つでも叶えばまだ何とか余裕が持てたのだろうが、しかし現実では一つでも変わることはなかった。

 リキューは“手加減しながら圧倒的物量を相手に戦う”から“手加減しながら圧倒的物量の相手に一般人の集団を一人で護衛する”へと変わった内容に、尋常を絶する労力を払っていた。
 本当に、ほんの一時でも油断する隙がない。
 超スピードをもってしても、50人の団体を全員護衛するのはタイミング的にシビアなものだったのだ。
 その証拠に素早く周囲の確認を行ったリキューは、今度はなんと驚くことに数百m上の天井から落ちてきた戦車級の姿を認めて、そいつらが落ちてくる前に即座に超スピードで肉薄し蹴り飛ばした。
 また改めて確認すれば、今度は前方後方右翼左翼と、四方向からの同時接近を確認。
 超スピードで駆け巡って、順番且つ瞬時にBETAを仕留めていき全ての敵の迎撃を間に合わせる。
 リキューは数の劣勢を、とにかく己の実力で強引にカバーしていたのだ。

 このリキューの奮戦の甲斐あって、幸いにも未だに避難民たちに被害は出ていない。
 だがその先行きはかなり暗かった。
 BETAの数と同じように、悪いニュースも途切れる気配がなかった。

 まず第一に、避難民たちは確固とした道標もなく行き当たりばったりにハイヴの中を彷徨っている状態であった。
 考えてみれば当たり前の話なのだが、リキューを含めて誰もハイヴの構造など分からないのだ。脱走こそできたが、複雑な地下構造を持ったハイヴ内から真っ直ぐに地上を目指すのは困難なことだった。しかも集団が元々いた場所は、ほぼハイヴ最深部に位置していたのだ。
 先導者である筈のリキューはBETAの迎撃に忙しく会話する暇もなく、よって進路は完全に避難民たちの舵取りに任せられた状態だったのである。
 そして加えて、避難民たちの体調不調だった。
 長い間BETAに一つの部屋の中に捕らえられていた人々は、皆大小問わず衰弱していたのだ。
 気力も萎えかけ、足腰も弱っている。しかもその上集団の中には正気を失くしてしまった人間も含まれていて、複数の人間が手を貸してやって運んでいる姿も見えた。
 惨憺たる有様だった。そもそもこの地下から地上までの距離を踏破することが出来るかも怪しい具合である。

 唯一幸いとも言えるニュースがあると言えば、避難民たちの間でパニックが広がっていないことだろう。
 未だ薄暗く広大なハイヴの中におり、周囲からは想像を絶する数のBETAが常に絶え間なく襲い掛かっているという状況にもかかわらず、集団は恐慌も起こさず歩き続けている。
 普通なら一流の軍人でも喚き散らしてしまうだろう状況にもかかわらず、彼らは皆混乱せずに動いていたのだ。
 いったいそれは何故だろうか?

 その答えは目の前にあった。
 今も常に超スピードで動き回り一人で50人以上の集団を守り切っている超人、リキューがいたからだった。




 緊張と疲れに呼吸を乱しながら、武は必死に足を動かしていた。
 特に意識していなかったが、BETAに囚われてから一ヶ月。その日々は確実に筋力を衰えさせていたらしく、想像以上の負担を武に強いた。
 隣には同じように疲れ果てた純夏がおり、武はその手を握って懸命に鼓舞していた。

 「ゼイ……ゼイ……頑張れ……頑張れ、純夏ッ。もうすぐ出られる……オレたち、家に帰れるぞ!」

 「ハァ、ハァ。うん、うんッ。大丈夫、頑張れる……頑張るよ、タケルちゃん」

 二人と同じように、周りには憔悴した顔をしながらも口々に希望を出して必死に足を進めている人たちが、一団となって移動している。
 一団の周囲にはBETAが群がり、途切れる様子がない。ほんの少し視線を上げれば、地響きを立てて迫る要撃級や突撃級の姿も見えた。
 普通ならば、とてもではないが励まし合うなんてことは出来ない光景だった。それどころかそもそも、歩くことすら出来るものではなかった。
 上方も含めて、全方位からBETAが襲い掛かってきている状況である。この状況で歩くということは、自分からBETAの群れに向かって突き進むことと同じだ。

 にもかかわらず避難民の一団は足を止めず、自ら接近してくるBETAの様子が見える方向へと自ら突き進んでいく。
 それは信頼があったがゆえの行動だった。
 遅々と歩む避難民の一団へ、正面から巨大な要塞級率いるBETAが接近する。
 だがその一団が避難民たちの先頭を接触する前に、ある一人の姿がその進路の前に現れたのを武は見た。

 「ハァーーーーッッ!!」

 眩い閃光と旋風が巻き起こった。現れた人影から放たれた巨大な光線が、要塞級の巨体を呑み込み迫っていたBETAの群れ全てを彼方へと消し飛ばす。
 武がもう一度同じところを見てみれば、もうさっき一瞬見えた人影の姿は消えていて、そしてBETAの群れもまた消滅していた。とはいえ、BETAの群れはまたすぐに次の群れが現れるのだが。
 前方だけでなくぐるりと避難民の一団を武が見回すと、他の様子も見えた。
 そこにはまるで避難民たちを中心にした見えない円のような領域が形成されていて、その領域に入ろうとしたBETAはサイズを問わず、即座にぶっ飛び、押し潰れ、ひしゃげていた。
 閃光や爆発なども時折発生し、その合間合間にまるで錯覚のように一人の人間の姿が見え隠れする。
 その光景に、武は心底から打ち震えていた。

 「すげぇ……本当にすげぇ!」

 奇妙な服装をした、まだ子供にしか見えない見た目をした少年。それはまさしく天からの助けだった。
 その拳はなみいるBETAの群れを叩き潰し、見えない速度で空を翔け、そして光をばら撒き、決して一定の範囲以内に敵を近付けさせない。
 帝国軍だって負けたBETA相手に、一人の少年が生身で対抗し、圧倒しているのだ。
 蟻と巨人のサイズ比はあるような要塞級すら一蹴するその様は、伴う轟音と地響きがなければどこの馬鹿な騙し絵だと言ってしまいそうな光景だった。

 カートゥーンワールドからそのまま出てきたような、本物のスーパーヒーローの顕現。

 避難民たちはその姿と活躍に、絶大な畏怖と信頼を抱いていた。
 それが歴戦の軍人ですら二の足を踏むこの状況で、彼らが歩みを止めない理由だった。
 リキューに守られているのだという信頼と意識があるからこそ、それを信じて彼らは気力を振り絞って歩き続けていたのだ。

 これがもし周りを守っているのが普通の軍隊であったならば、また話は変わっていただろう。
 例え同じように完全の保証があったとしても、BETAのプレッシャーに耐えきれず集団は恐慌を起こしていたに違いなかった。
 この違いの原因は何かというと、目の前の現実性にある。
 リキューという“非現実的なヒーロー”による加護あるからこそ、今の集団にある信頼と畏怖による秩序が保たれていたのだ。
 つまり一種の宗教崇拝、トランス状態である。
 リキューの活躍によって与えられたインパクトが、衰弱していた人々の心に強烈な信心を生み出させていて、結果纏まった秩序だった行動をさせていたのだ。
 現実感の喪失という一面がこの場面で、良いベクトルに働いていたのである。

 武はフラッシュの瞬きのように出現と消失を繰り返すリキューの姿を、羨望の気持ちを込めて見ていた。
 そこには分かりやすい、男なら誰でも一度は夢見た力があった。
 誰よりも強い力。何人が相手だってものともしない力。どんな奴だろうとどんなものだろうと、全てを自分一人でねじ伏せ勝利出来る力。

 (あんな力が……あれだけの力さえあれば、俺も―――)

 ぎゅっと、武が純夏の手を強く握りしめる。
 それに反応した純夏が、伏せていた面を上げて武の顔を見る。

 「タケルちゃん……?」

 「―――え? あ、ああ。悪い純夏、ボーっとしてた」

 夢から覚めたかのような仕草をしながら、純夏の手を引いてやり歩き出す武。
 まだまだ安心など出来る状況ではなかった。今優先するべきは、とにかくハイヴからの脱出だった。
 心に滲む強い憧憬の思いを押し殺し、武は地上を求めて歩みを再開した。




 BETAを殴る。蹴る。殴る、蹴る、殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る―――
 戦車級も要撃級も兵士級も要塞級も一切合財関係なく、殴って殴って殴り抜ける。
 とにかくも速度。ほんの少しでも一箇所で留まれば、あっという間に別の方角から避難民に被害がでる。
 一秒単位どころではなく、0.1秒単位で集団の周囲を一周し終えてリキューは敵を薙ぎ払っていく。
 ここまで常に超スピードで動き続けたのは初めてだった。呼吸が乱れそうになるを抑えながら、なおもリキューは止まらず迎撃を続ける。

 「うおおおおおおおおッッ!!」

 近付いてきた要塞級へと接敵し、その身体を引っ掴んだ。
 そして咆哮し、持ち上げる。
 戦術機すら仰臥する全長最大のBETAの足の一本を持ち上げて、リキューはさらに叫ぶ。

 「食らいやがれぇえええッッッ!!!」

 引っ掴んだ足を起点に、全力で横方向へとスイングする。
 要塞級は勢いに逆らえず転倒し、そのまま地面に接触したまま転がった。
 全長70mもの巨体が肉を削りながら地均ししていき、それに巻き込まれた付近のBETAたちがぐちゃぐちゃと押し潰されていく。
 そうして一回転し終えると、そのまま勢いを保ったままリキューは掴んでいた手を離す。要塞級は支えを失い、他のBETAを巻き込みながら遠くへ放り投げられる。

 「ふぅ、ッハ!」

 駄目押しに小さな気弾をその後へと打ち込む。飛び出た気弾は着弾するや否や、凄まじい爆炎と閃光を出してBETAどもを滅却した。
 リキューはさらに未だ蠢くBETAたちの姿に対して、小さな気弾を次々と生み出して放っていく。
 爆撃が連続して大地を揺らす。
 攻勢が終わった時には、もうリキューの姿は消えて別の位置のBETAの迎撃を行っている。

 リキューの避難民たちの護衛作業は、過密という言葉を足蹴にするほど尋常を絶していた。
 超スピードを使い続けていてもギリギリのシビアな作業に、まだまだ持つ筈のスタミナが尽き始めた錯覚がリキューを襲う。
 体感ではもう10時間以上戦い続けているようなイメージをリキューは抱いていた。しかし実際にはまだ護衛を始めて一時間しか経っていない。
 こんな事態はリキューにとって想像の埒外にあったことだった。いくら数が多かろうが、戦闘力が圧倒的格下の相手にここまで消耗するとは。
 守るべき対象の存在。たったそれだけのことでこうも勝手が異なるとは、思いにもよらなかった。
 とはいえ収穫がないわけでもなかった。
 この異常に煩雑で消耗の激しい戦場にあるからこそ学べた成果が、リキューには一つあったのだ。“気”のコントロールについてである。

 「ッハ! ッハ! ハァッ!」

 次々と手を交互に繰り出し、気功波を放ってBETAを掃討する。
 隙間を突いて攻め入ろうとするBETAを捉えたら、ボールを投げるように生み出した気功弾を振り上げる。
 素手による迎撃の数が減り、代わりに気功波によって始末する場面が増え始めていた。

 リキューは戦っている内に気が付いたのだ。BETAを薙ぎ払うのに、そう多くの“気”をいちいち込めてやる必要がないことに。
 実際BETAで厄介なのはその物量にあるのであって、その戦闘力ともなるとたかだか二桁程度でしかない雑魚である。
 始末するのに普段の要領で気功波に込めている“気”の量なんて全く必要なく、“気”はもっと抜いてやって単純な破壊力を上げてさえやれば良かったのだ。
 これは何もBETAだけに該当することではなく、多くのドラゴンボール以外の世界で共通することだった。
 何度も言うが、リキューは曲がり並みにも個人で惑星を破壊できる実力を持っているのである。基本的によっぽど特殊なことでもない限り、負ける筈がないのだ。
 そのことに戦っている途中に気が付いたリキューは、意識して“気”を減らし、そして破壊力を上げた気弾を使用するようになっていた。
 お陰で地味ながらもスタミナの節約になったし、また幾分かBETAからの防衛も楽になっていた。

 とはいえ、焼け石に水なのは一向に変わっていなかったのだが。

 (くそ……不味いぞ。このままだと全員、外に出る前にくたばっちまう)

 天井から降ってきた戦車級を蹴り飛ばしながら、状況を確認したリキューは風向きが悪くなっているのを見て取る。
 そもそもがただの生身の人間がハイヴの中から脱出する、というのが無謀であった。
 幾ら完璧に外敵の脅威からリキューが守るとはいえ、迷宮のごとき地下構造から案内もなく、行き当たりばったりな方法で集団が地上まで行くのにどれだけの時間がかかることか。
 それだけで最悪数日を跨ぐことになる難所だった。
 しかもその上に、避難民たちは全員衰弱しており動けない人間まで抱えている。何とか気力を持たせて歩き続けてはいるものの、それも長く持たないのは目に見ていた。
 幾ら少し防衛に余裕が出てきたとはいえ、あくまでもそれは少しだ。避難民たち自身が歩みを止めてしまったら、リキューに集団全員を動かす術はない。そうなればハイヴ内で立ち往生である。
 リキューもさすがに飲まず食わずで一日中戦い続けることはできない。そうなった時点でジ・エンド。避難民含めて全員が纏めてお陀仏だ。
 この状態のままリキューが戦い続けてBETAを殲滅出来れば話は早いのだが、それもスカウターの反応を見る限り望みは薄かった。未だに次々とスカウターの表示には、BETAの増援が現れ続けているのが確認できたのだ。

 終わりが見える様子は、ない。

 (っち……どうする? どうしたらいい!?)

 焦りを隠せないリキューだったが、そうそう上手い手なんて思い付きはしない。現在の状況だってもうすでに十分非常識なのだ。
 逆に50人もの集団が未だに纏まって行動していてくれていることを、幸運に思うしかない。
 もしかしたらと思いイセカムに手を伸ばして操作するも、やはり反応は返ってこない。インターバルが終わるのはまだまだ先だった。リターン・ポイントに避難させる手は使えない。

 打開策を思い付かないまま、結局同じようにBETAの掃討を続けるリキュー。
 後どれだけの間、今の状況が保つのか。一時間か二時間か、あるいはそれ以下か。
 緩慢な終着への歩みに思えるも、リキューにそれを止めることはできなかった。

 変化が起こり始めたのは、それから間もなくのことだった。

 (―――? 何だ、いったい。襲ってくる奴らの数が増え始めた?)

 これまでも継続的な襲撃を絶やしていなかったBETAたちだったが、なにやら急激にその数を増やし始めていた。
 これまで以上の密度と頻度で、集団へ圧力をかけ始めている。
 もちろんそれはリキューの守りを突破することは出来ず、全て水際で掃討されていたのだが。
 その急な変化にリキューは怪訝に思うものの、原因など分かる筈もなく超スピードで動き防衛に終始する。

 そのまま集団が動き続けて、幾許かの時間が過ぎた。
 皆の衰弱が目に見えて激しくなり、全体の行軍速度が落ち始めていた。
 未だ地上は遠く、スカウターを持っているリキューには大して深度を上っていないと分かっていた。
 着実に避難民たち全員の終わりが近付いてきていることが感じ取られ、なおもBETAの攻勢は激しく続いていた。
 その時、ふと集団の先頭を歩いていた男が喋った。

 「お、おお。おい……何か、何処かに出たぞ」

 「な、何だ? 出口か?」

 その声を聞いて、避難民たちが皆足を急がせた。残る力を振り絞って歩き、先へ先へと進んでいく。
 そうして進んでいき―――彼らは、広い空間へと出た。

 そこは非常に大きな空間であった。これまで自分たちが通ってきた巨大な通路とは違い、一つの大広間のようであった。
 ドーム状に取られた作られた空間非常に広いスペースを持ち、避難民たちに奇怪な解放感を与えた。
 そして特筆することにその大広間には、何十何百何千と、数えきれない数のBETAたちによって埋め尽くされていた。

 即座にリキューは気弾を何個も作りだし、大広間中にばら撒いた。
 打てば当たるという具合に、面白いようにBETAどもが吹っ飛び、その何十倍ものBETAが迫る。
 そんな変わらないBETAとの戦闘のさなか、リキューはふとある点に気が付いた。

 (何だ、あれは?)

 大広間の丁度中心に当たるところに、巨大な瘤のようなものが存在していた。
 それは岩肌のようにゴツゴツした外観をしており、全長が要塞級ほどあった。岩肌の合間合間から奇妙な発光現象も見せている。
 どんな代物なのかは知らなかったが、非常に怪しい代物だった。スカウターに反応があるので、おそらくは化け物どもの一種なのだろうが。

 (どんなものかは知らないが、どうせこの化け物どもには変わりないだろう。なら、別にぶっ壊しておいても問題ないな)

 何が何だか分からないが、とにかく敵ではある。リキューは単純にそう結論付けた。
 避難民たちの周囲のBETAたちを掃討する片手間で、両手を揃えて気功波を撃つ。
 気功波は迫っていたBETAを呑み込み、そしてそのまま直進していってさらに進行方向上にあった、あの瘤も巻き込んでいった。
 撃破を確認せずに別のBETAの迎撃へと移り、一周してからちらりと様子を確認したリキューは―――驚愕した。

 あの巨大な瘤は、驚くべきことに健在だった。
 確実にリキューの放った気功波の直撃を受けたにもかかわらず、吹き飛んでいなかったのだ。

 (何だと!? 馬鹿な……たかがこんな化け物風情が、俺の攻撃に耐えただと?)

 リキューの内心で驚き同時に、じわじわと憤りが生まれる。
 例え手加減をしていたとはいえ、戦闘力が三桁もいかない雑魚に自分の攻撃を食らって無事で済まされた。
 その事実が不快で、リキューは怒りで奥歯を噛み締める。

 (―――ふざけやがって)

 その怒りを胸に、リキューが動く。

 「だぁッ!」

 気合い砲を叩きつけて、一撃で集団後方から迫っていたBETA一群を吹っ飛ばす。

 「だだだだッッ! だりゃあッ!」

 その他、全ての方位から迫っていたBETAへと一気に気功波と気弾を叩き込んでいき掃討する。
 そしてその場その一瞬、ようやくリキューにほんの刹那の余裕が生まれた。
 瘤に視線をやり、大地に足を付けて、両手を胸の前で囲いを作るように合わせる。

 「食らいやがれ……」

 “気”が高まり、合わされた手に光が集まる。
 時間もかけられないし、そもそもそこまでの威力も必要ない。
 リキューは瘤を睨み付けたまま、叫びを上げた。

 「フルバスターーーーーッッ!!!」

 両手を前に突き出し、“気”が解放された。
 巨大な閃光と極太の気功波がリキューの両掌から生み出され、真っ直ぐに瘤へと向かい進んでいく。
 瘤は当然ながら逃げることもできず、進行方向上にいた途中のBETA全てを巻き込みながらフルバスターは瘤へと直撃した。

 爆発。

 爆音と震動が轟きハイヴを揺らす。思った以上の反動に慌てて相殺の“気”を叩きつけて、避難民たちを守るリキュー。
 爆煙が巻き起こり、独特の硫黄臭と金属臭が辺り一帯を掻き混ぜる。
 リキューが確認してみると、今度こそ仕損じることなく、瘤を破壊することが出来ていた。念のためスカウターで確認するも、間違いなかった。
 よしと満足し、リキューはまた超スピードで動き始めてBETAの迎撃を開始し始める。ちょっとばかしタフなBETAを一匹倒しただけで、未だ山ほどBETAは残っているのである。

 がしかし、リキューは早々に異変に気が付いた。

 「な、なんだいったい?」

 リキューの眼前で、BETAたちの行動が著しく変化していた。
 常に避難民たちを標的として迫っていたBETAたちが、あっさりとその矛先を背けて逃げていっているのだ。
 それはまさしく一目散といった様相だった。わき目も振らずに何処かを目指して疾走し、BETA同士で押し退け潰し合ってまで走っている。
 リキューは進行方向上で避難民たちへ向かってくるBETAを始末しながら、何が何だか分からない急激なこの事態の変化に首をかしげてばかりいた。

 「………どうなってるんだ?」

 ぼやいたところで、答えは出ない。
 スカウターで確認してみれば、ここだけではなくハイヴ全体。それどころか地上の周囲一帯にいるBETAたちをもが一斉に移動していた。
 共通しているのは、この場所とは別の方向へと向かって移動していることだった。

 「―――訳が分からん」

 リキューはストレートに心情を出す。偽らざる本音だった。
 ともあれ、窮地を脱したことは確かなようであった。
 スカウターの反応を頼りに、残った敵を掃除していく。数分もすると、あれだけいた筈のBETAの姿がすっかり消えてしまっていた。
 散らばるBETAの亡骸が邪魔だと思いながらスカウターで走査するリキューへ、避難民の一人が声をかける。

 「な、なあ。あんた、ちょっと聞きたいんだが? BETAは? BETAはどうなったんだ? オレたち、助かったのか?」

 「べーた? ……あの化け物どものことか? あいつらなら良く分らんが、逃げたぞ。もう周りにも反応は見当たらんようだしな」

 「………ってことは…………オレたち、助かったのか?」

 「ああ、そうだ」

 スカウターで周囲の反応を確認してみるが、ここにいる避難民以外の反応はとりあえず周囲数百m圏内に存在しなかった。
 そこまで確認し終えて、ようやくスカウターから手を離しリキューは一息をつく。一時間以上もの間、ほとんどずっと超スピードを維持したまま繊細な気遣いのいる戦いをしていたのだ。思った以上に全身が疲れ果てていた。
 いい加減もう休みたい。そうリキューが思っていた横で、声をかけてきた少年が叫んだ。

 「よっしゃぁあああッッ!! 助かったぞ純夏! オレ達みんな助かったんだ!! 家に帰れるぞ!!」

 「うわわ! た、タケルちゃん!?」

 そう叫びを上げて、近くにいた少女へ抱きつく少年。
 歓喜の叫びをあげて抱擁する少年の叫びを聞いたのか、避難民たちみんなにその喜びが連鎖していく。
 生きて帰れる。BETAの巣に囚われるという絶望から得たその希望が、全ての人々に伝わっていく。

 薄暗いハイヴの中に、人類の歓喜の叫びが響き渡っていた。

 「なんて騒ぎだ、たく……」

 思わず耳に手を当てながら、呆れたようにリキューは呟いた。
 しかしその表情は、満更でもない様子であった。少なくとも目の前の光景は、リキューが守った結果のものだったからだ。
 ずっと引き籠り碌に人と接触して来なかったその人生から考えて、おそらく見れる筈がなかったであろう光景を見ることが出来て、リキューもまた感慨深い心持だった。

 「しかし……これからどうしたもんか。まったく………」

 徐々に明かりが薄くなり始めているハイヴ内を見回しながら、リキューは呟く。
 BETAが逃げて動力も途切れたのか、ハイヴ内の構造体が出していた仄かな明かりが徐々に消え始めていた。その内完全な暗闇になるだろう。
 それに未だ避難民たちはハイヴ内の地下にいるのだ。地上に出るまでもまた一苦労である。食糧や体調の問題もあった。

 まあとはいえ、それら全部どうとでもなることだろう。なにせ最大の邪魔者であったBETAがいなくなったのだ。
 とりあえず一休みしてから、手立てを考えよう。
 リキューはそう楽観に考えることに、今しばらく目の前の騒ぎを静観するのであった。








 西暦1998年、九月。BETAの日本帝国本土の侵攻より二ヶ月が経過した頃。
 BETAの行動を監視していた帝国軍は、突如として生じたBETAの異常行動を察知した。
 報告は速やかに軍上層部へと上げられ、BETAの東進再開の可能性も論じられたため即座に内閣会議が開かれることとなった。
 すでにもう仙台への遷都の準備も整えられており、帝国政府は最悪の可能性に対して恐れながら覚悟していた。

 しかし、BETAの様子が明らかになるにつれて、事態は思わぬ展開を見せる。
 東進を再開したかに見えたBETAはそうではなく、逆に自分たちの建造している巣―――横浜ハイヴへと引き返していったのである。
 人工衛星による観測でもそれが確認され、帝国政府はBETAの意図を測りかねて困惑していた。
 とはいえそれは不思議なことではない。BETAの行動予測が不可能だということは、この世界の国々における常識だった。
 帝国軍はこの有り触れたBETAの意図不明の動きに惑わされず、警戒態勢を維持したまま監視を続けた。

 そしてそれから約二時間後。
 BETAの動きにまたさらなる変化が生じ、帝国軍は今度こそ混乱することになった。

 一斉に横浜ハイヴから大量のBETAたちが出てきたかと思うと、あらぬ方向へと向けて行軍を始めたのである。
 それまで横浜ハイヴを目指していたBETAまでもがその動きに追随し、まさしくBETA全てが一丸となって行動していたのだ。
 監視していた帝国軍部隊は、最初その動きをついに東進の再開かと誤認したものの、すぐに間違いと気が付いた。
 他の監視部隊との情報と人工衛星の情報から、BETAたちが目指している場所は佐渡島だと判明したのだ。

 報告を受けた帝国軍と帝国政府は、どちら共に完全に混乱した。
 自分たちで築いた拠点であるハイヴを、わざわざ破棄も同然に捨てて逃げ出す行為が理解できなかったからだ。
 政府内部でも意見が割れ、多くがこれはBETAの罠ではないかという疑いを露わにした。

 この時点において、この世界では未だ一つもハイヴを陥落させてなく、そのためこのBETAの行動がハイヴ反応炉の破壊による撤退行動だとは誰も分からなかったのだ。
 結果、帝国軍は追撃する絶好の好機であるこのBETAの撤退を、みすみす見送ることとなった。

 そしてBETAのハイヴ移動行為が確認されてから、おおよそ6時間後。
 横浜ハイヴとその周囲一帯からのBETA撤退が確認され、事態を察知した国連及び各国政府も動き始め、帝国政府は横浜ハイヴへの偵察を決断。
 米国をはじめとする各国政府の干渉に対してけん制しつつ、横浜ハイヴ周辺へ軍を展開。同時にヴォールクデータを参照とした3個連隊規模の偵察部隊を編成し、ハイヴへと送り込んだ。

 横浜ハイヴ侵入より1時間12分後、偵察していた戦術機部隊が爆発音らしき反応を捕捉。
 臨戦態勢を維持したまま、部隊は反応を捕捉したポイントに向けて移動を開始。
 34分後、部隊はハイヴ内にて移動している生身の人間の集団を発見。集団の数は50名以上にもなり、保護した者たちからの聞き取り調査によるとBETAに捕らえられていたと供述。
 ハイヴ深層で囚われていたところを脱出し、ハイヴ内を彷徨っていたと発言している。
 この集団の中には正気を失って前後不覚になっている者も確認され、全員の著しい衰弱も認められた。

 帝国政府はハイヴ内にて発見した集団に対して、即座に保護を命じ同時に最重要機密に指定。
 彼らは帝都病院へと移送され精神診断を行った上で、各自の供述の妥当性を割り出すよう厳命された。
 また多くの供述の中に共通してあった、彼らを救出し、その後のハイヴ内での安全を確保していたとされる人物に対しては彼らとはまた別の扱いが命令され、その取り扱いは非常にデリケートなものとされた。








 これは、“開通係”に所属したリキューが初めて行った仕事の内容であり、その世界での行動についての話である。
 この世界にてリキューはトリップ・システムが再始動するインターバルの三ヶ月間を過ごすことになり、そして多大な影響を世界そのものへ与えることとなるのであった。









前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.02515697479248