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No.5944の一覧
[0] 【完結】トリッパーメンバーズ(超多重クロス)【外伝更新】[ボスケテ](2011/04/06 01:53)
[1] 第一話 序章開幕[ボスケテ](2009/09/15 13:53)
[2] 第二話 ツフル人の滅亡[ボスケテ](2009/01/25 16:26)
[3] 第三話 宇宙の帝王 フリーザ[ボスケテ](2009/01/25 16:19)
[4] 第四話 星の地上げ[ボスケテ](2009/02/07 23:29)
[5] 第五話 選択・逃避[ボスケテ](2009/02/15 01:19)
[6] 第六話 重力制御訓練室[ボスケテ](2009/02/23 00:58)
[7] 第七話 飽くなき訓練<前編>[ボスケテ](2009/02/23 00:59)
[8] 第八話 飽くなき訓練<後編>[ボスケテ](2009/03/03 01:44)
[9] 第九話 偉大なる戦士[ボスケテ](2009/03/14 22:20)
[10] 第十話 運命の接触[ボスケテ](2009/03/14 22:21)
[11] 第十一話 リターン・ポイント[ボスケテ](2009/03/16 22:47)
[12] 第十二話 明かされる真実[ボスケテ](2009/03/19 12:01)
[13] 第十三話 最悪の出会い[ボスケテ](2009/03/28 22:08)
[14] 第十四話 さらなる飛躍への別れ[ボスケテ](2009/04/04 17:47)
[15] 外伝 勝田時雄の歩み[ボスケテ](2009/04/04 17:48)
[16] 第十五話 全ての始まり[ボスケテ](2009/04/26 22:04)
[17] 第十六話 幻の拳[ボスケテ](2009/06/04 01:13)
[18] 第十七話 伝説の片鱗[ボスケテ](2009/06/22 00:53)
[19] 第十八話 運命の集束地点[ボスケテ](2009/07/12 00:16)
[20] 第十九話 フリーザの変身[ボスケテ](2009/07/19 13:12)
[21] 第二十話 戦いへの“飢え”[ボスケテ](2009/08/06 17:00)
[22] 第二十一話 必殺魔法[ボスケテ](2009/08/31 23:48)
[23] 第二十二話 激神フリーザ[ボスケテ](2009/09/07 17:39)
[24] 第二十三話 超サイヤ人[ボスケテ](2009/09/10 15:19)
[25] 第二十四話 ザ・サン[ボスケテ](2009/09/15 14:19)
[26] 最終話 リキュー[ボスケテ](2009/09/20 10:01)
[27] エピローグ 序章は終わり、そして―――[ボスケテ](2011/02/05 21:52)
[28] 超あとがき[ボスケテ](2009/09/17 12:22)
[29] 誰得設定集(ネタバレ)[ボスケテ](2009/09/17 12:23)
[30] 外伝 戦闘民族VS工作機械[ボスケテ](2011/03/30 03:39)
[31] 外伝 戦闘民族VS工作機械2[ボスケテ](2011/04/06 01:53)
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[5944] 第二十四話 ザ・サン
Name: ボスケテ◆03b9c9ed ID:ee8cce48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/15 14:19

 全霊をかけて刮目せよ。それだけの価値のある戦いが、目の前で繰り広げられていた。
 サイヤ人たちが、それ以外の者たちもが、全ての惑星ベジータに存在している者たちが例外なく、皆その戦いを見守っていた。
 自分たちの命がかかっている、ということもある。
 しかし、それだけではない。その戦いを見守る理由は、決してそれだけではなかった。

 フリーザが両手を揃えて突き出し、全身に“気”を漲らせたまま突進する。
 超々スピードのそれを相手にしかし、バーダックは的確に見切り、予測し、回避する。

 バーダックがエネルギー波を連続して撃ち出し、大地を地平の果てに至るまで裏返す勢いで爆撃していく。
 その破壊の豪雨の中を、尋常を絶する加速を行いながらフリーザは掻い潜った。

 激突、激突、激突。
 空間が圧倒的戦闘力保有者二者の激突によってつるべ打ちされ、まるで引き裂かれたかのような悲鳴を上げる。
 超速の世界で戦う両者の戦いは時間を極限にまで引き延ばして行われ、ただの刹那が永劫に等しい時へと変換されていた。
 爆砕が同期し多重発生する。物理現象が戦いに追い付かず、やまびこの様に遅れて発生していた。

 それはあまりにも速過ぎた。あまりにも速過ぎる戦いゆえに、観戦している者たちには具体的な戦況なぞ欠片も把握できなかった。
 はたしてどちらが優勢なのか? バーダックが勝っているのか? フリーザが勝っているのか?
 だが、それでも観戦を止めるものはいなかった。
 例え戦いの趨勢が分からなくと見なければならぬ意味が、その戦いにはあったのだ。

 多くの者の見守る視線の中、もはや幾度目かも分からぬ激突がまた行われた。








 短い叫びと共にフリーザが手を突き出す。
 放たれた不可視の“気”の塊が身体を打ち、バーダックは吹き飛ばされる。即座にフリーザが追撃をかけ、蹴りが腹に叩き込まれた。
 フリーザの眉が顰められる。蹴りに手応えがなかった。直前にバーダックが身体をくの字の様に曲げて蹴りの打芯を外していたのだ。
 絡みつくように足に手を回し、逆にフリーザが捕まった。
 外そうと足掻くが、遅い。それよりも数瞬早く、バーダックが動いた。
 絡み取った足をそのままに、直下の大地へと投げ付けた。回転がかかり、スピンしながらフリーザが直落下する。

 リカバリィしようとスピンを止めるフリーザ。そしてふとその時に至り、顔を驚愕に歪ませた。
 すぐ傍にバーダックが追い付いていた。すでにフリーザを投げ捨てると同時に、バーダックは追撃をかけていたのだ。
 唸りを上げて拳がフリーザの顔面に突き刺さる。フリーザの視線がくらりと泳いだ。
 続けて連撃。落下したまま次々と繰り出される怒涛の拳打が、フリーザの身体へと突き刺さっていく。げはと、フリーザの口から粘液が吐き出された。
 と、拳が止まる。横から出された手に、腕が掴まれ強制的にパンチを止められていた。ギロリと確固とした視線が、バーダックの顔に向けられる。

 「何時までもそう、好きに出来ると思うなッ!」

 「ふん………」

 逆の手で放たれたフリーザの拳を、間髪入れずタイミングを合わせて避ける。ほんの紙一重の差で通り過ぎる剛拳に、金色に輝く髪の毛が数本千切れて飛んだ。
 落下途中の物体が宙で二つに分かれる。
 くるりと綺麗に回転を描いてバーダックは着地する一方、減速する暇もなくフリーザは頭から地面に激突した。
 もうもうと立ち込める土煙。咄嗟に直感―――戦闘経験に裏打ちされた暗黙知に従ってバーダックがその場を飛び退くと同時、巨大な気功波が土煙を裂いて現れ、バーダックがそれまでいた場所を薙ぎ払った。強烈な威力に瞬時に地面が過程を飛び越えて蒸発し、巨大な底なしの穴が長大に作り出される。

 「くそッ! ちょこまかと目障りに動き回りやがってッ!!」

 「こっちだフリーザ、どこを狙ってやがる」

 「っぐ、カァッ!!」

 超速で飛び立ち、挑発するバーダックの元へとフリーザは突進する。
 バーダックもただでは捕まらぬと逃げレースの様相を作るが、グングンとフリーザが距離を追い詰めていく。

 「ハハハハッ!! どうした超サイヤ人、動きがトロいぞ!? それが貴様の限界か!!」

 「っち………」

 地力において、フリーザのフリーザの方が自身よりも上回っていること。バーダックは腹立ちを感じながらもそれを認識する。
 宇宙最強のパワー、それは伊達ではなかった。明らかに戦闘力に差を付けられていた。単純な力比べをすれば自身に勝利はないと、理解する。
 そうであるがゆえに、バーダックは最初っからまともに戦い合う気なぞ、毛頭なかった。

 「キェエエッ!!」

 奇声を上げて、追い付いたフリーザが直前にさらなる急加速を行い猛拳を振るう。
 だが、背後から見事にその姿を射抜いた筈のそれは空振った。突き抜けたバーダックの姿が宙に崩れ溶ける。
 残像だった。騙されことにフリーザが気付くも、遅い。

 頭蓋に叩き込まれる激震。
 直上から全体重をかけられたエルボーを打ち込まれ、またフリーザの身体が大地に真っ逆さまと落ちてゆく。
 バーダックは止まらない。さらなる追撃を続行する。
 両手を腰だめに構え、両掌にエネルギー球を生み出す。そしてフリーザが叩き付けられ、地に埋もれたのを見て攻撃を開始した。

 「だぁりゃぁああああああああーーーーーーー!!!!」

 エネルギー弾を撃ち出す。二発だけではない。両手を残像が出来るほどの速度で反復させながら、雨あられと次々とエネルギー弾を撃ち込み続ける。
 質より量。しかしそれは超サイヤ人が撃ち出すもの、一発一発の威力すら桁違いの代物となって、フリーザの上へと容赦なく着弾していく。
 爆発が連続し激震が轟く。震動に大地が液状化するほどの被害が出ながら、それを気にも留めぬ攻撃の続行に地割れが起こり、亀裂が拡大し巨大な大穴が広がっていく。

 「だぁッ!!」

 最後に両手を揃えて掲げ、一拍の溜めを置いて形成したエネルギー弾を撃ち込んだ。
 巨大な大穴の中心にエネルギー弾が吸い込まれていって、一時の間。
 閃光が迸り、同時に一際巨大な爆裂が大穴の淵をさらにバラバラに引き裂き拡大化させ、土煙を天高くまで巻き上げた。

 とどめとも言える一撃を叩き込んでいながら、しかしそれを冷ややかな視線で見つめたまま、バーダックは臨戦態勢を解く様子を一切見せない。
 この程度で仕留められる筈がない。そう彼は確信していた。
 証明するように、土煙が突如として発生した旋風によって払われ、大穴の底から異形が姿を現した。
 全身に細かな傷を負いながらも、フリーザは未だ健在な様子で、血走った眼を剥きバーダックを睨み付けている。

 「お、おのれ………チョロチョロと鬱陶しく…………貴様なぞこのオレが一発当ててやれば、すぐにぶち殺してやるのに…………」

 フリーザのその言葉は正しい。
 全ての力を解放しフルパワーとなったフリーザの力を、それだけ強大な戦闘力を発揮していた。普通ならばバーダックを打倒出来るだけの戦闘力差などあったのだ。
 それが出来ないのはバーダックの戦いが実に巧みであり、つまりはその戦法を覆せるほどの戦闘力にまであと一歩、実力が足りていなかったに過ぎない。
 ほんの僅かに、あとフリーザの戦闘力が高ければ。あるいは、ほんの少しバーダックの戦闘経験が不足していれば。
 それだけでバーダックの命運は変わっていた。ただそれだけの差しかなかった。
 それだけの差でフリーザは己の目論見通り、一分しか持たぬそのフルパワーの持続時間で、バーダックを叩き潰すことなど悠々と実現できたのである。

 しかし、現実は違う。残念ながらあと僅かのその差を埋める戦闘力はフリーザにはなく、そしてバーダックの戦闘経験は不足してはいなかった。
 バーダックの思考にはフリーザの思惑通りに攻撃を喰らってやる気なぞ欠片もなく、そしてそれをさせないだけの巧みな戦法をバーダックは身に付けていたのだ。
 一歩の差、だった。

 その一歩の差によって、フリーザの敗北は決まってしまっていた。

 だが、それをまだフリーザは認めない。小賢しい下等生物如きの小細工を力任せに叩き潰そうと、再度の突撃を行う。
 バーダックもまた即座に加速して、的確に攻撃をいなし、機先を制するように攻撃の動作に割り込む小刻みの攻撃を打ち、時間を稼ぎながらダメージを重ねていく。
 決して一発たりともまともにフリーザの攻撃をもらうことはなく、一方的な展開を演出し続ける。

 それはかつて、幾度も行ってきた戦い。
 リキューとの数少ない模擬戦でのこと、そして幾多も重ねてきた星の地上げの過程であった激戦の日々。
 全てにおいて戦闘力が格上の者たちしかいない戦い。命がかかったその戦いの全てに、生還してきたという土に塗れた経験の数々。
 それらがバーダックに力を与える。ツフル人の理論を覆し、フリーザと渡り合える確固たる己の力の、次なる一手を次々と指し示す未来視の如き慧眼をもたらす。

 予測せよ。フリーザの繰り出す攻撃を。その次の行動を。
 予測だけでは足りぬ、誘導せよ。自分の行動で、攻撃で。挑発し、機先を制し、行動を妨害し、意表を突き、戦いを演出せよ。
 そうでなければ戦えぬ。勝ちを得られぬ。
 戦闘力で勝るという道理を覆し勝利を得るための、打てる手立てを全て打ち尽くし、敵を打倒せよ。

 フリーザが腕を引っ込めた。時置かず“気”を収束させそして放とうと構えた瞬間、バーダックは即座にその腕の矛先を弾き照準をズラした。
 気功波が見当違いの方向へと放たれるのを尻目に見て、バーダックは頭突きをフリーザの顔面にぶち込む。
 衝撃にほんの一歩だけ退く。バーダックにはそれで十分。
 バーダックは両掌をフリーザの腹へと押し当て、“気”を一気に放出する。巨大なエネルギー波が至近で発生し、身体を半ば包み込まれる様に呑み込まれながら、フリーザは吹き飛ばされた。

 「ぎ、ぎぎぎッ、がががァーーーー!!!」

 抱きつくような格好であった状態から、そのまま両手で抱きしめる様にフリーザは力を込め、エネルギー波を弾き飛ばした。
 噛み締められた歯の間から興奮した猛牛の様に荒い呼吸をしながらも、さしてダメージを受けた様子はやはりない。
 地力の差。何度も直撃を加えようとも、両者の戦闘力差がそのまま強固な鎧となってフリーザに決定的な有効打を与えさせなかった。

 キリがない状況ではあったが、バーダックに絶望はない。
 ダメージがない訳ではないのだ。ならばあとは、ただ時間をかけて蓄積させていけばよいだけであった。
 時間稼ぎ、は別にバーダックにとって、目的ではなかった。ただ勝つためには、時間をかけざるをえないというだけのことだった。

 しかし、それはフリーザにとって最も有効的であると同時に致命的な戦術だった。

 フリーザが超速移動を行う。敵を撃滅せんとなおも攻撃を敢行する。
 放たれる回し蹴りをバーダックは難なく回避する。が、ぎょっと目を剥いた。回し蹴りの陰に隠れてもう一撃、新たな脅威がすぐに迫っていたのだ。
 予想外のその一撃を避けれず、派手に吹き飛ばされた。一度勢いがままに地面に叩きつけられバウンドし、ビル群の中へと突っ込み倒壊させる。

 「どうだ、思い知ったかッ!! ざまあみやがれッ!!」

 ぴしりと尾で地面を叩き割りながら、フリーザが誇る。
 不意を打ったものの正体は尾であった。回し蹴りのモーションの中に隠すように放たれた尾の一撃に、バーダックは仕留められたのだ。
 がむしゃらな攻撃である。フリーザとて、もはや余裕なぞない。
 フルパワーのリミットは一分。すでに30秒は時間が経過していた。それ以上の超過は自己の崩壊を意味する。

 「とどめだ、跡形もなく消え去りやがれェーーーー!!」

 片手を突き出すと同時、ドドドドッと、気功波が叩き付けられるかのように間を置かず連射された。
 倒壊した巨大ビル群の瓦礫が消滅していく。激烈なる攻性波動の連続怒涛の前に分解し、蒸発すら超えた破壊がもたらされていく。
 土煙すら生じず、フリーザの目の前にある都市の一角は、念入りに散々撃ちこまれた気功波によって完全に消失されてしまっていた。
 にたりと、フリーザの顔に笑みが浮かぶ。

 「どうした、フリーザ。何を焦ってやがる」

 投げかけられた声に、フリーザの表情が凍る。慌てながら振り向くと、顔から一筋血を流しながらも平気そうな様子で、バーダックがフリーザの遥か後方に立っていた。
 気功波によって追撃をかけられるよりも一足早く、離脱していたのだ。
 碧眼の瞳でフリーザを射抜きながら、バーダックは言葉を綴る。

 「やけに戦い方に余裕がねえな………まるで、見えねえ何かに追われているみたいだ。何をそんなに急いでいる? いや………そもそも、何故いまさらフルパワーになった? 追い詰められたからか? 何故追い詰められるまで、フルパワーを使わなかった? ………もしかして、フリーザ。貴様は………」

 「だ、黙れェーーー!!!!」

 遮るように叫び、フリーザが突撃する。
 ラッシュを繰り出しそれにバーダックが対応。直撃を避け全ての打撃を逸らすように矛先をズラしながら、ラッシュの雨が降り注ぐ。
 不意に襲いかかる、第三の手。尾の強襲。
 そう何度も同じ手を喰らってたまるかと、バーダックはそれを完全に見切り、かわしてのける。
 両者の距離が離れ、少しの間が開く。

 「余裕があろうとなかろうと関係ないッッ!! オレが貴様をぶち殺し、とっとと決着を付ければいいだけのことだァーーー!!!」

 「っは、ボロが出ているぜフリーザ」

 時間がない。その態度はそう言ってるも同じだった。
 不意打つように放たれる気功弾をエネルギー弾で迎撃し軌道を逸らしながら、バーダックは思考する。
 フリーザには時間がない。察するに、自身のフルパワーに対して身体が持たないのだろう。長時間粘れば、それだけで自滅まで導ける公算が高い。確信を抱きながらそう結論する。
 好都合だった。実際問題、フリーザとの戦いでは時間をかけざるをえないのが現状だったのだ。自身の戦闘スタイルと合致する朗報であった。

 限界が近いのはフリーザだけではない。バーダックとてフリーザ程切羽詰まってはいないが、その身体はボロボロなのだ。
 超サイヤ人となる前に負っていた身体のダメージは、決して消えた訳ではない。一時的な高揚と覚醒によって誤魔化されているにしか過ぎない。
 時間をかければかけるほど、身体に負荷がかかるのはフリーザだけの話ではなかったのだ。

 鼻先でまた残像を残すが、フリーザもまたそう何度も同じ手に騙されるものかと見抜き、横を通り抜けようとしたバーダックの顔面へと蹴りを打ち込む。
 ぎりぎり避けることに成功するも、僅かに皮膚にかすり、血が流れる。
 予測のズレの生じ。僅かに心が揺れるも、その動揺を押し殺し、バーダックは目の前に蹴り込まれたフリーザの足を掴む。
 そのまま足首を両手で掴んだまま、フリーザの身体を振り回し始めた。フリーザにカムバックさせる前に、振り回す身体の軌道を無理矢理ネジ曲げ、地面へと叩きつける。
 轟音が響き、地面が陥没する。フリーザの身体が地中深くまで叩き込まれる。

 戦いを重ねれば、幾らでも予想外の要素なぞ割り入ってくる。
 どれだけバーダックの積み重ね完成度が高められた戦法があろうとも、完全に思い通りに戦いを運ぶことなど叶わなくなってくる。
 一手増えるごとに敵の思考はより熟達され、そして一手重ねるごとに自分に疲労は蓄積されていくのだ。
 だが、それは両人に等しく働く条件でもある。フリーザだって疲労し、バーダックの思考も鍛え上げられていく。

 地面が一瞬、輝いた。
 瞬時にバーダックが直感に従い離脱する。そして間を置かずして、周辺の大地一帯が纏めて消し飛ばされる。
 地殻ごと全てを巻き込き纏めて亡き者にしようとしたフリーザが、穴の底から無事なバーダックの様子を見て苛立ちを募らせる。たかが照準を付けることを放棄した範囲攻撃程度に捕まるほど柔ではないと、バーダックは視線で挑発した。

 戦いは続く。どちらもデッドラインを見極めながら、着実なる終わりへと、確実に近付いていた。
 その戦況は徐々に、徐々にバーダックの勝利へと、天秤が傾いていっていた。








 激闘の余波が惑星ベジータ全体を揺るがす中、多くの者たちが未だ騒ぎ動いている場所があった。
 それは管制塔などを含む、惑星ベジータの都市機能を担う施設類へと働きつめていた者たちであった。
 サイヤ人ではない、フリーザ軍から出向してきた者たちが多くを占める彼らは、外から得られる情報で混乱に陥りながらあたふたと惑い動いていた。

 「フリーザ様が来てる!? 確かな話か、それは!?」

 「来てるどころじゃない!! この星を消すつもりだ!! 俺たちも纏めて一緒に始末するつもりなんだよ!!」

 「嘘だろ!? 馬鹿な、フリーザ様がそんなことを!!」

 「しないって思うのか!? 俺たちの星を滅ぼしたのは誰がやったと思ってるんだよ!! あいつにとっちゃ俺たちなんてどうでもいいんだ! どうなろうと知ったこっちゃねえんだよ!!」

 「くそ冗談じゃない、俺はとっとと逃げるぞ!! 死んでたまるか!!」

 「待て! 貴様フリーザ様を裏切るつもりか!! 反逆は死刑だぞ!?」

 「構ってられるかそんな決まりッッ!!」

 ある者は不確かな情報だと自分の職務をいつも通り全うしようとし、またある者は流言を信じて一足早く宇宙船に乗って星を離脱し、またある者は真意を確かめようと外へと出ていく。
 なんにせよ、状況は総じて混沌としたものであった。人の手はまともに動いておらず、オートメイションされた機械たちが独自に規定通りの動作を行っている状態であった。
 ばたばたガヤガヤと騒々しい叫びが部屋に響き、混乱に乗じて行われる暴力沙汰に混乱が加速していく。

 その中の施設の一つ、個人用の宇宙ポッドの射出施設。
 普段から人気が少なく、閑散とした雰囲気のそこは、他の施設類とは違って騒動とはなっていなかった。
 それは、決してここにいた人間たちが理性を以って行動していたという訳ではなかった。
 単純にここは、すでに嵐が過ぎ去った場所であったということ。ただそれだけのことであった。

 多くのポッドが並び置かれていた待機ハンガーは、ほとんどが空となっている状態であり、元々人気のない無機質な部屋の内容を、さらにポッカリと寂しい光景として演出していた。
 すでに我先にと群がった脱出を望んだ者たちの手により、ほぼ全てのポッドが使用され宇宙へと射出されていたのである。
 もう残されているのは故障中や修理中などの即時使用が可能でなかった曰く付きのポッドばかりであり、乗れなかった別の者たちはまた別の宇宙船置場へと去ってしまっていたのだ。

 そのもはや役に立つものが残されていない、静まり返った射出施設の下に、一人の人影が現れた。
 ヒーコラヒーコラ言いながら現れた、人間。彼もまた、フリーザ軍傘下の人間であった。爬虫類系のヒューマノイドであり、惑星ベジータでメカニックとして従事していた者である。
 彼は入口の扉を開けて見た、がらんと寂れた部屋の様子を見て肩を落とした。

 彼の目的もまた、これまでこの部屋に群がってきた者たちと同じものだったのだ。
 惑星ベジータの早々の脱出。そのための足である宇宙船の確保。しかし彼は出遅れ、こうして射出施設まで足を伸ばして来てみたものの、空振りとなっていた。

 実はこの時点で、もう惑星ベジータに残っていた大半の宇宙船は使用され、あるいは破壊されてしまっていたのだ。
 危機感の強い臆病な小心者たちはいち早く宇宙船に乗って逃げ、それ以外の者たちが逃げようとした時には、フリーザの戦いの余波などで大部分の宇宙船が使用不可能の状態に追い込まれていたのである。
 実質、今惑星ベジータに取り残されている者たちは閉じ込められたも同然となっていたのだ。

 そんな中、肩を落としていた彼は顔を上げると、僅かに残されていたポッドの様子を見て回り始めた。
 幸いなことに、彼はメカニックであった。ポッドの状態が軽い点検程度で使用可能になるレベルの状態であったならば、自分で調整し使用状態まで持っていくことが出来るのではないのかと考えたのだ。
 果たして、そんな彼の希望的観測は、極めて僥倖なことに叶うこととなった。

 見て回ること、三つめ。ほとんどオーバーホールの終わった状態で放置されていたポッドを発見できたのだ。
 細かくチェックをしてみれば、残された項目は最後の軽いメンテナンスチェックのみ。自分ならば3分とかからず済ませることが出来る作業であった。
 まさしく幸運。神の導き。ひゃっほいと彼は喜び口から軽く炎を吐いた。
 とりあえずそのまま喜びに任せて阿波踊りに移りそうなところを自重し、彼はメンテナンスに移ろうとする。

 と、その時彼は気付いた。
 ポッドの隣の隣、一つ間を挟んで向こうにあるポッドから、何やら音がすることに。
 なんだなんだ、と興味本位でそちらのポッドの様子を見に近付く。風防の強化ガラス越しにヒョイと顔を突き出し、中を覗いた。
 なんとぉー!? と声を上げて彼は驚き目を剥いた。

 ポッドの中には、一人の赤子が放置されたままとなっていた。
 赤子は大きな声で泣き喚いており、その声が物音となって響いていたのである。
 その尻からは毛の生えた尾が伸びており、特徴だったツンツンとした形の黒髪といい、赤子がサイヤ人であることを如実に示していた。

 こらおったまげたと独りごちながら、なんだってこうなっていると、端末を引っ張り出して調べる。
 結果引き出された情報を見て、彼はひとまずの納得を得る。
 赤子の名前はカカロット。生後間もない下級戦士の子供であり、ポッドに入れられていたのは、今日が予定されていた赤子の出征日であったからだった。
 サイヤ人の間で行われている決まり。大して戦闘力に期待の抱けぬ下級戦士の子供は、まだ自我の覚束ない時期から戦闘力が大したことのない惑星へと送り込まれ、その星の地上げを長い年月をかけて行わされるのだ。

 この赤子も、その決まりに従って送られるところだったということである。
 ところが送り込む直前にトラブルが重なり、予定は急遽変更されポッドの再点検と整備が行われることになった。
 そして点検待ちとして待機処理を受けたまま、事態は急変し今の状況へ。赤子のポッドは放置され、そのまま現在に至ると。

 つまり間が悪かったってことだなブルァ、と彼は片付けた。
 間違ってはいない。幾度も重なった想定外のトラブル、その蓄積が現在の結果へと繋がっていたのだ。

 彼はふむと考えた。すでに自分の脱出手段が確保されているという事実が、彼に心の余裕を生んでいた。
 思わず、心にあった少しばかりの仏心が、余計にも出てきていた。
 よしと手を打ち、彼は決める。まだ小さな赤子、どうせだし助けといてやるか、と。

 端末から赤子の乗るポッドのデータを引き出し、ステータスをチェックしていく。
 整備自体は済んでいるらしく、後は認証ロックとして存在している各種チェック項目を満たしていけば問題なく稼働を開始するようであった。
 面倒でなくていいと思いながら、ふんふんふーんとチェック項目の確認作業を行っていく。

 ここで赤子を助けるということは、そのまま赤子が送り込まれた星が地上げされるということでもあるのだが。
 残念ながら、そのことに彼が気付く様子はなかった。まあ、気付いていたとしても特に気にはしなかったかもしれないが。

 所詮、地上げされる星のことなど彼にしてみれば、自分とは関係のない他人事でしかないのである。








 宙空で激烈な拳が放たれた。バーダックはそれを受け流し損ね、ガードの上からまともに食らう。
 一気に身体全体が吹き飛ばされ、空を流れる。
 好機。フリーザの目が輝き、この機を逃さぬと即座に接近、肉薄した。

 「くぁーーーッ!! キョキョキョキョキョキョキョ!! キェーーーッッ!!!!」

 奇声を上げる。拳を振るう。超速乱打乱舞の激旋風となり、烈火怒涛の大攻勢を実行する。
 次々と拳がバーダックの身体へと食い込まれていく。

 一度体勢を崩しさえすれば、後はこちらのもの。余力は残させん、完全にこのラッシュで削り殺す。

 それだけを脳裏に刻み込みながら、ただ打つ、打つ、打ち込み蹴り込み攻撃し続ける。
 顔面を殴り飛ばし腹を蹴り上げラリアットで首を刈り取りエルボーで脇腹を抉る。
 衝撃に身体が流れるのに並行して追い付きながら、次々と絶え間なく打撃という雨を降らせ続ける。
 ラッシュ、ラッシュ、ラッシュラッシュラッシュラッシュラッシュラッシュラッシュ―――。

 「キェアーーーーーーーッッッ!!!!」

 ズンと、バーダックの身体がビルに叩き付けられると同時に渾身を込めたパンチを顔面にぶち込んだ。
 そのままビルの壁面を爆砕させ貫通し、バーダックが落ちていく。
 その落ちていくぽつりと輝く金色の人影を、フリーザは狙い撃つ。
 極大の気功波を、ただ撃ち放った。

 「これで終わりだ、超サイヤ人ーーーーッッ!!!!」

 ―――ッカと、バーダックの瞳が開眼された。
 ぐるりと宙でいきなり起き上がり回転したかと思うと、バーダックは自身に迫りくる気功波へと向かってその腕を振り上げ、力一杯振り抜き弾き飛ばした。
 花火の様に弾けて、気功波が消し飛ぶ。馬鹿なと目を剥き、フリーザは驚愕する。

 「な、なんだと!? ………馬鹿な、そんな…………確かに俺の攻撃は当たっていた筈だ!? 何故だ、何故動けるだけの体力が残っている!?」

 「タイムリミットが来たみたいだな、フリーザ。一つ一つの攻撃の威力がガクリと下がっているぜ」

 「っな、なんだと!?」

 くくくと、酷薄な笑い声を洩らしながら、バーダックは告げた。
 本人が装う程、そのダメージは軽い代物ではなかった。流れ落ちる血筋は二本三本と数を増やし、衝撃にクラクラと頭が揺らいでいる。
 だがしかし、バーダックは倒れずそこにいた。削り殺されず、生きてそこに存在していた。
 フリーザのラッシュをまともに食らったにも関わらず、未だ健在していたのだ。
 それはフリーザのパワーが低下していると、ピークを過ぎてドンドンと戦闘力が抜け落ちているという事実を、如実に指し示していた。

 タイムリミット、オーバー。もうフリーザは、フルパワーを使える時間の限界を超えてしまっていた。
 有り余る過剰エネルギーが暴走し、肉体の耐久限界を逸脱し傷付け、細胞の自己崩壊を始めていたのだ。
 バーダックが先に戦いの最中でミスを生じ殺されるか、フリーザが時間切れとなって敗北するか。そのどちらが先に力尽きるかのチキンレース。

 勝ったのはバーダックだった。

 「な、舐めるなァ!! たかがこんなものでェ!! こ、こんなことで貴様なんぞに、サイヤ人如きにこのオレ様が、フリーザが負けることなぞ、ある筈がないんだァーーー!!!」

 認めまいと首を振りながら、駄々をこねる様に気功波を撃ち放つ。
 それをバーダックは横へと打ち払い、軌道を逸らしかわした。愕然とした様相で目を見開いたまま、プルプルとフリーザは震える。
 ピリピリとした反動が、バーダックの手にあった。すでにピークを過ぎパワーの低下が始まっているとはいえ、その気功波の威力には目を見張るものがあった。
 流石、宇宙の帝王といったところか。だがしかし、所詮それは脅威とは足り得ない。

 「終わりだ、あの世に送ってやるよ」

 バーダックの姿が消える。そして衝撃。
 超速で肉薄され、顎を下から上へと強烈に打ち上げられた。冗談のように天空へと身体ごと持ち上げられ、吹き飛ぶフリーザ。
 リカバリィし直下へと向き直るも、遅い。フリーザは先程まで自分がいた下の空間に、バーダックの姿を認められなかった。

 「こっちだ」

 またもや衝撃。何度目となろうか、頭上からの直撃。
 フリーザを打ち上げると同時に超スピードで移動して先回りし、リカバリィした時にはすでにバーダックはフリーザよりもさらに上へと位置していたのだ。
 今度は上から下へと叩き落とされ、大地へと向かい落下する。

 「がァッ!!」

 ギュンと音を立てて、大地に激突する前に急停止を実現する。
 ぜぇぜぇと、耳障りな音を立てながら激しく呼吸が乱れる。呼吸だけではない。骨の軋みと内臓の痛み、血管の破れに疲労による偏頭痛。
 かつてないダメージが、フリーザを打ちのめしていた。混乱し混沌し、屈辱に精神が塗れ錯乱状態の一歩手前へとさらに陥っていく。

 「こんな、馬鹿な。俺は、俺はフリーザだぞ。宇宙最強の、帝王だ。選ばれた栄光の一族の………末裔なんだぞ!? そ、それがあんな猿に………下等生物如きにィッ」

 タイムリミットを過ぎ戦闘力が低下することで、フリーザ自身の“気”の守りもまた低下している。不可視の強固な鎧は脆弱な皮となり、ダメージの大きさも相対的に大きくなる。
 超サイヤ人の暴威が、フリーザという宇宙最強を滅多打ちにしていた。
 ………否。

 もう、宇宙最強ではない。

 「み、認められるか…………認められるかァ………ッ」

 疲労と苦痛に震える身体に、力を込めていく。
 筋肉が膨張した身体が、アンバランスに膨れ上がった身体が悲鳴を上げる。すでにタイムリミットを過ぎた。身体の崩壊は始まっているのだ。
 力を込めようとするたびに、意思に反して力がどんどん抜け落ちていく。しかしフリーザをそれを無視し、さらなる力を込めていく。
 理性を超克する意地が、野性が、女々しい感情の迸りが、道理を覆し現実を否定しようと動いていた。

 「貴様の存在を、断じて認めてたまるものかァーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!!」

 ―――そうして、その絶叫と共に、有りっ丈の残された“気”が凝縮された、最後の気功波が解き放たれた。

 強大なその気功波は、それこそ崩壊の進む身体から捻り出した最後の力だったのだろう。
 なけなしの一撃であるそれは、かなりの威力を誇りバーダック目掛けて直進していた。問答無用の破壊をもたらそうと、伝説を打ち砕こうと牙を剥き迫っていた。
 だが、だがしかし。
 それは、あまりにも遅かった。
 威力を高め“気”を集中し、文字通りの命を賭けた最後の一撃だろうそれは、あまりにも遅速な代物だった。

 そんなものに当たってやる道理なぞ、バーダックには全くなかった。

 「この程度かフリーザ、情けない奴め………」

 呆気なく、射線から身をズラす。ただそれだけで、微塵の誘導性も持たされていなかった気功波はすぐ隣を通過し、かわされてしまった。
 最後の一撃は下らない結果に終わった。バーダックは冷酷にそのつまらない行動を吐き捨てて、気功波を放って隙だらけの状態であるフリーザへと向かう。
 命を、取る。ぱきりと指の骨を鳴らし、終局をもたらす一撃を用意する。

 トーマの、パンプーキンの、セリパの、トテッポの、仲間たちの仇を。
 今まで言い様に使われてきて、挙句使い終えた雑巾の様に抹殺しようとした、その戦闘民族サイヤ人の誇りを。
 その全てを、フリーザへと叩きつける。報いを受けさせる。勝利を得る。

 「これで――――」

 拳を作る。握り締められた指と指の間に、言い知れぬ力が込められた。
 カナッサ星人の声がよぎる。夢に、白昼夢に何度も映った、未来の姿が脳裏に再生される。
 破壊され宇宙に消えていく惑星ベジータ。滅びの運命。滅ぼされた我らと同じように滅びるだろと宣言された、サイヤ人。
 それをバーダックは認めない。未来は、運命は己の手で変えてみせると、深き決意が胸に抱かれる。

 振り上げられる、拳。
 狙いは付けられ、あとはただ振り抜くだけ。

 「――――最後だァーーーーーーーーーッッッ!!!!」


 ―――その時、バーダックの意識に閃光が走った。


 宙を翔ける、個人用のポッド。
 惑星の重力を振り払い、大気を引き裂きながら、天の果て、宇宙の彼方へと目指しポッドが飛ぶ。
 その中に乗っているのは、赤子だ。
 尾が生え、まだ生後間もない、サイヤ人の赤子が、すやすやと眠りながらそのポッドに乗っている。

 そのポッドに、迫る光。気功波の光。
 軌跡は悪夢のような偶然で、重なっていた。
 直撃コースである。

 「――――なッ」

 動きが止まる。加速が中止され、逆に急制動がかけられ、バーダックは愕然とした様子で後ろへと振り向いた。
 かわした気功波が標的を見失い、遥か天の彼方まで飛んで行っている。そのまま放っておけば、気功波は大気を突破し宇宙の果てまで飛んでいったことだろう。
 その気功波の先に、丁度軌跡が重なる様な軌道を描きながら、近付いていく物体があった。
 その物体は、個人用の宇宙ポッドだった。

 「まさか、カカロットか!?」

 宇宙ポッドは気功波の存在を知らぬかのように直進する。
 その速度、そして軌道。

 直撃コースであった。








 閑散とした、ポッドの射出施設。
 メカニックの男は、空となったハンガーを前に、満足そうに頷いていた。
 つい今しがた、チェック項目を全て埋めて、ポッドを使用可能状態にまで持っていき射出したところであった。

 これであの赤子も、無事にこの星を脱出し他の星へと辿り着くことになるだろう。

 いいことをしたなと頷きながら、彼は目の前のハンガーを後にすると、自分のポッドの様子を見始める。
 次は自分の番であった。さっさと準備を終えてこの星を脱出しなければ、自分の身が危ういのだから。

 そうして彼は、自分が行った善行と思っている行動についてさっさと忘却し、己が保身のために動き始めるのであった。








 気功波が迫る。
 遅速のそれは神のいたずらか、はたまた運命の定めか。丁度迫りくるポッドの軌道上と重なっている。
 嫌という程のベストタイミングで。ずれようのないタイミングで。気功波はポッドを破壊せんと直進し続ける。
 もはや直撃まで、幾許の猶予もなかった。

 その中で、その刹那で。
 バーダックは動いた。
 それははたして、意識してのことか、それとも無意識でのことだったのか。

 加速する。全身の“気”を吹き立たせ、金色のオーラを身に纏って加速した。
 一気に空を翔け、すぐ脇にある気功波に並走し、その先端の先、予測される直進する軌道上の先へと、気功波を抜かして飛び出る。
 そして、そして。
 彼は己が身を、迫りくるフリーザの最後の気功波の前にさらけ出した。両手を突き出し、極大の破壊波動を受け止めようと、待ち構えた。

 「ああああァァアアアーーーーーーッッッ!!!!!」

 気功波とバーダックが接触する。
 膨大な攻性エネルギーが、バーダックの肌を這い回った。
 肌を灼き尽くそうと桁違いのエネルギーが暴れ、抑え込もうとするバーダックの身体を蹂躙した。
 持たない。持ち堪えられない。強大なその威力に、暴れ回る脅威に、バーダックの身体という盾が、破壊されようとする。

 否、断じて否。死んでたまるものかと、不屈の意志が立ち上がる。

 バーダックのすぐ背後を、ポッドが通り過ぎて行った。
 これでいい。もうわざわざ、この気功波と真っ向から張り合う必要などない。
 叫ぶ。心の底から叫びを上げ、金色のオーラを発散しながら、バーダックは気功波を押し退け様と全霊を込める。
 所詮は最後の一撃だ。後のない者が放った、最後の悪足掻きにしか過ぎない。弾き飛ばしてみせると、心を強く持って踏ん張った。
 気功波が、ずれる。




 ―――その時、その瞬間。

 その最後にして最大の好機を前にして、しかとフリーザはそれを捉え、見逃さなかった。

 絶叫する。

 「ばァーーーーーーーーーー!!!!!!! 消・え・ろーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!」

 筋肉という筋肉が断裂し、全身から鮮血を噴出しながら、放出される気功波の太さが増大する。
 限界を突破した、最後を超えた一撃が放たれた。
 太さを増した気功波がどんどんと軌跡を辿っていき、まっすぐにバーダックの元へと伸びていく―――。




 気功波の威力が、一気に増大した。
 バーダックのキャパシティを完全に凌駕し、強大な圧力が身体を押す。
 抑えきれない。
 辛うじて呑み込まれないようするのが、精一杯だった。

 「ああああァァァーーーーー!!!!」

 加速する。
 身体を押し留めることが出来ず、気功波に押されるがままに流されていく。
 ドンドンと加速する身体は空を昇り、雲を掻き分けた。しかし未だ加速は緩まず、逆にさらなる加速が身体にかかっていく。

 突破する。
 ついには大気圏を完全に逸脱し、惑星ベジータの全貌を見納められる位置にまで、宇宙空間にまで到達する。
 加速は止まない。まだまだ止まらぬと、バーダックの身体を灼きながら気功波は猛進する。
 バーダックは、必死に抗っていた。絶望的な状況に陥りながらも、まだ抗い続けていた。

 まだだ。まだ死んでたまるか。フリーザを倒すまで、未来をこの手で変えるまで。死んでたまるものか。

 それは執念だった。魂の底から引き出される精神の力だった。
 宇宙空間にまで吹き飛ばされながら、強大な気功波に身を灼かれながら、それでもまだ消滅せんと踏ん張り、生き残ろうと画策していたのだ。
 全身から金色のオーラが迸る。金髪を逆立てて、額に巻いた深紅のバンダナに込めた誓いを胸に、パワーを発揮していく。

 まだ終わりではない。これさえ、これさえどうにかすれば、自分の勝ちなのだ。

 バーダックは足掻く。足掻き続ける。
 勝つために、仇を討つために、未来を………運命を変えるために。
 しかし、それらは全て無意味な行動であった。

 もうすでに、バーダックの命運は尽きていた。

 バーダックはふと、己の身体をチリチリと焦がす熱の存在に気付く。
 それは、目の前で必死に抑えようとしている気功波ではない。別の方角、自身の背後から発せられているものであった。
 背後へと振り向き視線をやる。そしてバーダックは、驚愕に呑まれた。

 暗黒の宇宙空間にあって、その存在感を翳ることなく示す、生命の恵みをもたらす偉大なる光輝きし球体。
 膨大な熱量を持ち、常に反応を続けて遠き星々にまで、その光を伝える星々の中心。

 恒星、太陽。

 それがバーダックのすぐ背後に、存在していた。
 流される気功波の軌道上に、バーダックの行き着く先に、それは丁度重なっていた。

 避けるだけの暇はない。
 バーダックは気功波に流されるままに成す術もなく、太陽の中へと突っ込んだ。
 灼熱の炎が、バーダックの身を包みこんだ。

 「ぎぁああああァァーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!」

 燃える。身体が燃えていく。
 全身に残された“気”を励起させ纏うも、荒れ狂う太陽の猛威が身に纏った“気”を切り裂き、引き裂き、その灼熱の業炎を余すことなくバーダックへと叩き付けていく。
 そして業炎によって引き裂かれた“気”の守りを、その隙間を縫って、前から襲いかかる気功波が蹂躙していく。

 太陽は、巨大な“気”の塊である。
 常に埒外の保有する“気”を元に常識外のオーラリアクト現象を継続させ、莫大な熱と共にその身に“気”を渦巻き、循環せている。
 それはさながら“気”のミキサー如き様相を成し、触れようものならばいかなる強固且つ膨大な“気”を持った戦士であろうとも区別なく、平等に破滅をもたらした。

 そしてそれは、伝説に語られし超サイヤ人とて例外ではない。

 戦闘服が弾け飛ぶ。
 身に付けている装束らが、バーダックを包み込み襲いかかる暴威に耐え切れず、消滅していく。
 もはや、バーダックに逆転の目も、生存の手も一切残されてはいなかった。
 太陽の、乱気流となり荒れ狂う莫大な“気”が、バーダックの守りを剥ぎ取っていく。業炎が身体を灼き、気功波が消滅させていく。
 叫ぶだけの力すらなく、抵抗すら許されず、バーダックは滅殺への道を辿っていた。

 その、刹那。
 完全なる終わりの最中。

 バーダックは、消えていく視界の中に、ふと、夢を見た。








 ふと、バーダックは自分が見知らぬ場所に一人浮かんでいることに、気が付いた。
 そこは奇妙な空間だった。
 白い空間に黒い斑点が存在する、奇怪な斑模様をした空間が存在していた。
 宇宙なのか? それとも全く異なる亜空間なのか?
 なんにせよ、唐突でしかも全く関連性のない、夢としか言いようのない状況だった。

 ―――なんだ、いったいどうなってやがる? ここはどこだ?

 困惑しながら、周囲を見渡す。
 その脇を、何かが急に通り過ぎて行った。

 ―――なんだ!?

 正体不明の物体は凄まじい速度で通過し、そしてバーダックの視線の先で、爆散して散った。
 改めてバーダックが周囲を見渡すと、状況が一変していた。
 その信じられぬ光景に、見たことのない光景に、バーダックは瞠目する。


 そこには虎がいた。魔獣がいた。竜がいた。幾千万幾千億の、数え切れぬ仏僧たちがいた。

 進化する意思持つエネルギーに率いられた、機械の化け物たちの軍団がいた。

 光の国から来た宇宙の平和を守る巨人たちが、何十万人といた。

 憎悪の空より来たりし最弱無敵なる、二体の魔を断つ剣がいた。

 世界を調律する、機械仕掛けの二体の神がいた。

 蝶の羽を持った、数百万体の機械人形がいた。

 宇宙の再生と破壊を行う、勇者の存在にて覚醒する伝説の騎士がいた。

 並行世界の番人たる、負の無限力を力とする虚空よりの使者がいた。

 勇気の究極なる姿であり、最強の破壊神たる勇者王がいた。

 高次元領域に触れ、神と対等となりし接触者を乗せる白き機体がいた。

 果てなく天を目指す螺旋の意思を持った、銀河を越える巨大なる鬼神がいた。

 星をも壊す英雄の種族を宿した、五人の契約者たちがいた。

 世界を越える、全ての破壊者たるライダーがいた。

 冥府の王とならんとした者が作り上げた、天の力を持ちし八卦の一体がいた。

 創聖の力を発揮する、太陽の翼を持ちし機械天使がいた。

 運命すらも跳ね除ける、常識を完全に無視し存在するヒーローたちがいた。


 数多くの尋常ならざる力を持った者たちが、そこに存在していた。
 バーダックはその目で、しかとそれを目撃していた。

 ―――これはなんだ!? 何が起こっている!?

 戦っていた。
 目の前にいる彼らは、皆が皆戦っていた。
 強大でバーダックがこれまで見たことのないような力を振るいながら、しかし。彼らは苦戦していた。
 戦っている相手は、さらに強大な、巨大な、信じられぬ存在であった。

 「ナイトウォッチ大隊壊滅!! 反応途絶、残存機ありません!!」

 「デッドコピー・ターン部隊、次々とオーバーロードしていきますッ!! 駄目です!? 浸食が全然止まりません!! ああ、もう嫌だ!!」

 「くそッ! そこの役立たずを誰か摘まみ出せ!! ラ=グースはどうした!? ラ=グースをとっとと奴にぶつけてやれ!! それが計画だっただろうがッ!!」

 「奴ならもうとっくに呑み込まれたッ!! 計画なんぞはとうの昔に失敗してるんだよ!!」

 「なんだとッ!?」

 「あああああああッ! もうダメだ!! お終いだ!! 逃げよう!? 早くもっと別の世界に逃げよう!! 奴の相手なんか出来る訳ないんだ!! とっとと関係のない別の世界へ逃げ込めばいいじゃないか!? 死にたくない、俺は死にたくないィィイイ!!!!」

 「黙れこの馬鹿野郎がッ!! もう逃げ場所なんか何処にもないんだ!! トリッパーがもう何人も奴に取り込まれてるんだ、トリップ・システムは奴にも自由に使える様になってるんだよ!! ここで奴を倒さなにゃ、何処の世界逃げようが全部まとめて終わりになるんだ!! 分かったんなら元の席に戻って仕事をしろ!!」

 嘆きの叫びが聞こえていた。狂騒に満ちながら必死に指揮を取っている者たちの姿を、バーダックは見ていた。
 ここが何処なのか、今が何時なのか。もはやまともな時空間的感覚を無視し、バーダックはあらゆるものを見ていた。

 ―――なんだ、何なんだいったい!?

 目の前の空間に、その敵がいた。
 白と黒の斑模様を描く、奇怪で奇妙な空間。その大部分を塗り潰すようにして、それは存在していた。
 生き物なのか。そもそもモノなのか。見ていてそんな疑問を抱かせるそれは、バーダックの見渡せる範囲の空間全てを塗り潰して存在していた。
 巨大だ。余りにも巨大すぎた。
 銀河を越える鬼神の存在すら、それに比べたら芥に過ぎないほど巨大であった。
 まさしくそれは、無限大時空の大きさを誇っている存在であった。

 それに立ち向かう者たちの姿の、なんと、か弱きことか。
 宇宙を破壊する力すら、それの前では赤子にすら及ばない脆弱さであった。
 それは勝ち目などない戦いであった。超サイヤ人になる前であったバーダックとフリーザ、その両者の関係以上のどうしようもない隔たりが、そこにはあった。
 それでも、しかし。彼らは戦いを止める気配を見せなかった。背を向け逃げる気配を見せなかった。

 何故戦う? 何故立ち向かえる?

 絶望しかないその戦いに挑む者たちを見て、バーダックの胸にそんな思いが渦巻く。
 譲れぬものがあるのか。退けぬ理由があるのか。彼らの戦う後ろに、その理由があるのか。
 バーダックはそう思い、ふと、後ろを振り返った。

 その瞬間、誰かがバーダックの隣を通り過ぎた。

 バーダックが後ろへと振り向く動作と重なり、丁度視界の死角を通って、その者は通り過ぎた。
 その者はバーダックと同じぐらいの背丈をしており、同じようにがっしりとした、筋肉質な身体をしていた。

 ―――!?

 慌てながら、その姿を追ってまた反転する。
 そこに、その男の後ろ姿があった。バーダックと同じぐらいの背丈をした男。
 青い色を基調とした胴着を纏い、ツンツンと特徴だった黒髪をしており、その腰からは茶色い、毛の生えた尾が伸びていた。

 ―――お、お前………は……………!?

 手が、その背に伸びる。
 バーダックの声が届いたのか、敵へと向かい進んでいた男の動きが止まる。
 ゆっくりと、やけにスローな動きで男が振り返る。男の顔が、バーダックの目にさらされようとする。
 バーダックの口が、男の名を呼んだ。








 「カ…………カ…………ロ………………………ト……………………………」

 夢は、覚めた。
 バーダックの目の前から奇妙な光景は消え去り、男の姿も溶けてなくなった。
 紅蓮の炎が視界を埋め、全身を焼き尽くそうと蹂躙している。
 バーダックの身からは、もう金色のオーラは消えていた。髪も元の黒髪へと戻り、瞳も碧から黒へとなっている。
 超サイヤ人でいられなくなり、そして一層激しさを増した気功波と太陽の暴虐が、身体を滅ぼしていた。

 「へ………へへ……………」

 塵一つ残さず消えようとする中、バーダックはうっすらと笑った。
 最後まで残っていた深紅のバンダナが、熱に包まれ炎となる。
 それでもなお、彼は笑っていた。

 最後に見た、夢。
 ただそれを、その内容を思い返し、粛々とした奇妙な心境に包まれながら。

 「カ………………ト……………よー……………い………………………」

 そうして彼は、ただ笑って太陽の中に、散っていった。








 太陽が僅かな閃光を発し、そして元の様子へと戻る。
 それを、全身から血を流しながらフリーザは見届けていた。

 「ぜぇ………ぜぇ………ぜぇ………ぜぇ………ぜぇ………………………は、ハハハ………………やった、ぞ」

 笑い声が、ふつふつ込み上げて来ていた。
 全身に走る苦痛と疲労の極みに、しかし構うことなくフリーザは腕を振り上げ、全身で喜びの感情を表す。
 叫ぶ。それは勝鬨の声。勝者に許された権利であった。

 「勝ったッ! このオレの勝ちだ!! ハハハハッ!! やったぞォーーー!! 超サイヤ人、貴様をこのオレが、このフリーザの手で葬ってやったのだッ!! ざまあみやがれェーーー!! これでこのオレが名実ともに宇宙最強の存在となったのだ!! 見たか、これがこのフリーザの力だアーーーー!!!!」

 惑星ベジータの空に、フリーザの声が響く。

 超サイヤ人の、敗北であった。








 ―――あとがき。

 感想くれた人たちベリサンキューっぜ! 私の心はヒートでマックス!

 疲れました。
 次回更新でもう終わらせます。

 感想と批評待ってマース。



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