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No.5944の一覧
[0] 【完結】トリッパーメンバーズ(超多重クロス)【外伝更新】[ボスケテ](2011/04/06 01:53)
[1] 第一話 序章開幕[ボスケテ](2009/09/15 13:53)
[2] 第二話 ツフル人の滅亡[ボスケテ](2009/01/25 16:26)
[3] 第三話 宇宙の帝王 フリーザ[ボスケテ](2009/01/25 16:19)
[4] 第四話 星の地上げ[ボスケテ](2009/02/07 23:29)
[5] 第五話 選択・逃避[ボスケテ](2009/02/15 01:19)
[6] 第六話 重力制御訓練室[ボスケテ](2009/02/23 00:58)
[7] 第七話 飽くなき訓練<前編>[ボスケテ](2009/02/23 00:59)
[8] 第八話 飽くなき訓練<後編>[ボスケテ](2009/03/03 01:44)
[9] 第九話 偉大なる戦士[ボスケテ](2009/03/14 22:20)
[10] 第十話 運命の接触[ボスケテ](2009/03/14 22:21)
[11] 第十一話 リターン・ポイント[ボスケテ](2009/03/16 22:47)
[12] 第十二話 明かされる真実[ボスケテ](2009/03/19 12:01)
[13] 第十三話 最悪の出会い[ボスケテ](2009/03/28 22:08)
[14] 第十四話 さらなる飛躍への別れ[ボスケテ](2009/04/04 17:47)
[15] 外伝 勝田時雄の歩み[ボスケテ](2009/04/04 17:48)
[16] 第十五話 全ての始まり[ボスケテ](2009/04/26 22:04)
[17] 第十六話 幻の拳[ボスケテ](2009/06/04 01:13)
[18] 第十七話 伝説の片鱗[ボスケテ](2009/06/22 00:53)
[19] 第十八話 運命の集束地点[ボスケテ](2009/07/12 00:16)
[20] 第十九話 フリーザの変身[ボスケテ](2009/07/19 13:12)
[21] 第二十話 戦いへの“飢え”[ボスケテ](2009/08/06 17:00)
[22] 第二十一話 必殺魔法[ボスケテ](2009/08/31 23:48)
[23] 第二十二話 激神フリーザ[ボスケテ](2009/09/07 17:39)
[24] 第二十三話 超サイヤ人[ボスケテ](2009/09/10 15:19)
[25] 第二十四話 ザ・サン[ボスケテ](2009/09/15 14:19)
[26] 最終話 リキュー[ボスケテ](2009/09/20 10:01)
[27] エピローグ 序章は終わり、そして―――[ボスケテ](2011/02/05 21:52)
[28] 超あとがき[ボスケテ](2009/09/17 12:22)
[29] 誰得設定集(ネタバレ)[ボスケテ](2009/09/17 12:23)
[30] 外伝 戦闘民族VS工作機械[ボスケテ](2011/03/30 03:39)
[31] 外伝 戦闘民族VS工作機械2[ボスケテ](2011/04/06 01:53)
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[5944] 第二十二話 激神フリーザ
Name: ボスケテ◆03b9c9ed ID:ee8cce48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/07 17:39

 「何がどうなってるって言うんだい!?」

 一人の女サイヤ人が、自身の心境をそのまま率直に言葉にし、口から吐き出していた。
 異常事態が連続し発生し、現在惑星ベジータに駐留している者たちは皆が皆、状況を把握できずに右往左往していた。
 全く、男どもは頼りにならない。そう女は胸に呟きながら、直接己の目で事態を把握しようと外へと出ていた。

 辺りに響くのは爆音に激震。その感触から、誰かが戦っているのではないかと、彼女は勘で察していた。
 しかし、いったい誰が? 誰が誰と戦っているのか?
 仮に戦っている者がいたとした、それはまず間違いなく戦闘力が自分たちとは圧倒的に異なっている者たちである筈であった。
 それだけのレベルの違いがあると、容易に察することが出来る。
 それを証明するように、試しにスカウターを起動させてみれば、即座にスカウターはオーバーフローを起こし爆発した。
 やはりと、女は確信を深める。

 いったい、誰が戦っているのか。

 その時、女の遠い視界の端にあったビルの一つが、いきなり崩壊した。
 何事かと目を向けると、そうしている間にさらに三つ四つと、どんどん建物らが勝手に崩壊し、倒壊していく。
 レベルの異なる戦い。そのあまりの高速の戦闘に、戦う者の姿を女の目では捉えられなかったのだ。

 その、合間。
 女は奇跡的に、地に叩きつけられ一瞬だけ動きの止まった、戦う者の片方の人影を捉えることに成功した。
 女の目が、驚き、見開かれる。

 すぐにまた人影は消えて、そして戦いの場はまた別の場所へと移っていった。
 女は慌てて空へと飛び立つと、その後を追う。戦っている者たちの姿は捉えられないために、その周囲への余波を目印にしてだ。
 驚愕に支配された心境のまま、女は言葉を口に出した。

 「まさか、リキュー?」








 フリーザとリキューの戦闘は熾烈を極めた。
 一挙一動が世界を震わせ、ゼロコンマ以下の切り分けられた極小の領域にて激しく展開される超速の世界。世界が切り裂かれるごとに、命もまた削られ磨り潰されていく極限のバトル。
 それはまさしく、文字通りの命を削る戦いであった。

 がしかし、その戦闘に命を賭けてしのぎを削っている。それはリキューだけの話であった。

 フリーザにしてみれば、それは遊戯にもならない手温い玉弾き程度にしかなっていなかったのである。
 身振り一つ、動作の一つ一つ取って見ても、それは明らかなこと。
 フリーザが軽くその手を振るう度に、リキューの身体はまるで喜劇の様に派手に吹き飛ばされていたのだった。

 リキューが行っていたのは攻勢など一片もない、徹底した防御に専心した時間稼ぎであった。
 ただの時間稼ぎである。必死に逃げ、生き延び、無様に反撃の一手すらも打つこと叶わず、ただ亀のように耐え凌ぐだけの行動だ。
 しかし、その時間稼ぎ。それすらも満足に出来ないという現実が、リキューの砕かれた自信を尚もすり潰していた。
 “バリア”は確かに展開され、その効果は十二分に発揮されてはいる。リキューを襲うフリーザの攻撃は、その全てが威力を半減されていた。
 その上でありながら、フリーザの放つ打撃の数々はリキューに甚大なダメージを通していたのだ。
 根本的な地力に圧倒的な差があったのである。

 「ぐがッ!?」

 どてっぱらに強烈な蹴りをぶち込まれ、リキューが盛大に吹き飛ばされる。
 飛ばされるままに宙を流れ、並び立つビルの数々を無造作に貫通・倒壊させながら道路面を削り、ようやく静止する。
 血混じりに咳き込む中、フリーザがリキューの刻んだ軌跡の残る道路の上に降り立つ。

 「つまらん………いい加減目障りだよ、お前。逃げるばかりでまともに戦いもせずグダグダと………反撃する意思がなくなったんなら、さっさと死ね」

 冷めきった表情で言い捨て、フリーザはぺたぺたと無造作な態度で歩み寄ってくる。
 完全に油断し、舐め切った態度であった。もっとも、両者の間に存在する実力差を考えれば当然とも言えるものではあったが。
 恐竜がアリ一匹に対して、警戒する必要などない。
 消極的な戦闘姿勢を崩さないリキューの様子に、フリーザは心底から落胆し見限った様子であった。
 ちくしょうと、リキューは呟く。反論する余地はなかった。だからこそなおさらにそのプライドが傷付けられる。
 ままならない憤りを無理矢理飲み干して、リキューは両手を合わせて“気”を収束させた。収束すると同時に解放、フリーザへと向けて叫びと共に叩き付ける。

 「フルバスタァーーーッッ!!」

 光の奔流が走り、フリーザの姿が呑み込まれて消えた。
 極大の光線の軌跡はそのまま無人区画の廃墟群を巻き込み掻き消して、スプーンで削り取ったかのような傷跡を残していく。
 やがて、光が収まる。

 そして光が収まった後、リキューのすぐ眼前には傷一つ受けた様子のないフリーザが、無言で佇んでいた。フリーザはあれだけの気功波の中、意にも返さず歩き進んでいたのだ。
 無言で振り上げられた足が、想像を絶する衝撃を伴ってリキューに叩き付けられた。
 ベキベキと、不愉快な感覚と音が人体内部を駆け回った。接触の直前、“バリア”が現れその打撃の威力を減ずるも、容赦なく尋常を凌駕する威力が発揮される。

 さらに瓦礫の山々を吹き飛ばしながら、またリキューは吹き飛ばされた。すでにリンによって受けた応急処置の意味が失せるほど、甚大なダメージを負っていた。
 内臓は血を滲ませ、骨はヒビを入れて軋みを上げる。
 それでもまだ、倒れる訳にはいかなかった。飛びそうになる意識を意志の力で繋ぎ止め、舞空術を発揮しベクトルを変化させて上空へと飛び出る。
 その矢先、リキューのすぐ背後にフリーザが現れた。チョップが背後から脇腹に打ち込まれ、それだけで肋骨が簡単にへし折られる。
 もはや吐くだけの血すらもない。怒涛の流れで注ぎ込まれる攻撃の数々を、歯を食いしばり耐え凌ぐのも限界だった。

 (まだか、あいつからの合図は。もう持たないぞ、くそッ)

 顔面にヘッドバッドを喰らう。目の前に火花がパチパチと飛び散った。
 “バリア”の助けもここまでだった。効力はまだ持続する様子があったが、リキューの肉体の方がもう持たない。だがしかし、それは決して不甲斐ないことではなかった。むしろよくここまで粘れたものだと、感心して言えるほどのものである。戦闘力に10倍以上もの差があったのだから。
 普通なら相手の遊び気分混じりであるというサービスを差し引いても、瞬殺されるものだ。
 リキューがフリーザ相手に稼ぐことが出来た時間は、おおよそ標準時間に換算して5分程度のものである。それは超速にて加速し戦闘を展開してみせる彼らにしてみれば、数時間に相当するだけの長さの時間となる。
 つまりリキューの感覚だけで言えば、もうすでに十分以上に時間は稼ぎ終えていたのだ。だからこそ焦り、胸中でのリンへの苦言が増える。

 その時、リキューの脳裏に巨大な声が響き渡った。

 『リキュー!! こっちの準備は出来た、フリーザの動きを止めろ!!』

 「ぐ!?」

 頭をハンマーでぶったたくような錯覚に見舞われながら、リキューは唐突なメッセージの受け取りに応える。
 念話などという代物、リキューにとってやるもやられるも初めてのことであった。未知との遭遇に軽く混乱に陥るものの、しかし似たようなもののことを思い出して早々にカムバックする。
 要は、変則的なテレパシーのようなものだ。そう手早く片付ける。
 リキューはダメージに苦しむ己の身体を叱咤させ、残った力を振り絞らせた。弾ける様に身体を飛ばさせ、全ての余力を出し尽くさせるようにパワーを放出する。
 一歩遅れて、後半のメッセージが届く。

 『空に誘導することも忘れるなよッッ!!!』

 (分かっているッ!!)

 「動きが変わった? いまさら何をするつもりだ?」

 力強く飛翔するリキューの姿を認めながら、その全身全霊を込めた全速飛行にあっさりと追い付くフリーザ。
 それでいい。リキューはそう思った。

 (付いてこい、フリーザ! 空の上まで、俺に付き合ってもらう!!)

 「どんな思惑があるかは知らないが、付き合ってやる気はもうないよ。さっさと死んでくれないか」

 上空から地上へと、叩き落とすかのようにフリーザが踵落としをリキューへと打ちつけた。
 身体の中心を射抜かれ、ベクトルを180度反転させ急落下するリキュー。苦悶の声を食いしばった歯の間から漏らすことなく、めげず即座に舞空術を発揮させて再度の上昇を行う。
 ふうんと、フリーザは興味を引いた様子を見せた。
 フリーザの姿が消え、リキューの直上に現れる。そして空から大地へとまたリキューを叩き落とし、リキュー当人また先と同じようにカムバックしようとする姿を見て納得したかのように頷く。

 「どうやら、空の上に昇ろうとしているようだな。何か奥の手でもあるのか………まあいい。それじゃ、ボクはその行動を妨害させてもらおうか」

 ニィと邪悪な微笑を浮かばせて、フリーザが宣言する。そしてまた、昇って来たリキューの鼻先に現れたかと思うと拳を叩き込んだ。
 この野郎と、舌打ちしながらリキューは思考する。
 フリーザはどうやら、リキューが上空に位置しなければならないと勘違いしているようであった。それは大きな誤解である。空に位置させなければならないのはフリーザであってリキューではない。リキューに求められているのは、そこにフリーザを誘導し押し留めることだけだ。
 ならばこの誤解、生かさぬ手はない。リキューはそう即決し、手立てを打ち立てた。

 とにかくも、フリーザの動きを止めなくてはならない。それも一瞬ではなく、しばらくの間だ。そうしなければリンがフリーザの姿を捉えることが出来ないだろう。
 そして合図である。どんなに頑張ったところで、フリーザをそう長く押し留めることなんてリキューには出来たものではない。
 おそらくチャンスは一度っきり。それも余裕はないであろうもの。ゆえに、的確にチャンスを伝えるための目印代わりとなる合図が必要であった。
 リキュー自身は念話なんてものは使えない。いかにしてそれを代用するか。
 浮かび上がる問題点の幾つか。絶え間なく動き続けながら思考を続け、リキューは手早くそれらの解決策を導き出した。

 (これしかないかッ)

 決意を固める。そして行動を開始した。
 短く息を吐き、急角度を描いて上昇する。当然フリーザはそれを阻止しようと、そのすぐ鼻先に現れて攻撃を行った。
 これまでと変わりなく、成す術なく打ち落とされるリキュー。だが違った。それは全てがこれまでと同じという訳ではなかった。
 即座にリカバリィし、体勢を立て直してリキューは再上昇を行ったのだ。その反応の速さに不意を突かれ、フリーザは思わずすぐ隣の素通りを許してしまう。
 ッキと、きつい視線をフリーザが送る。

 「やってくれるじゃないか、サイヤ人」

 不愉快そうに呟き、フリーザは上昇していくリキューの後姿を睨み付ける。
 その姿がブれる。瞬きする程の合間に超スピードで移動したフリーザが、あっという間にリキューを追い抜いてその前方に先回りした。
 根本的な地力の違いの露呈であった。不意の一つ二つ突いたところで、絶対的な力量差の存在は呆気なくそれを覆し無意味とさせる。

 だが今回に限り、それはリキューの思惑通りに働いていた。
 前方に現れた強敵、フリーザの姿。予想していたそれの姿を認め、リキューは一切惑わされることもなく即座に両手を構えたかと思った次の瞬間には、叫んだ。

 「フルバスタァーーーーーッッッッ!!」

 「なんだとッ!?」

 あらかじめ用意し、高められていた“気”が凝縮され、フリーザ目がけて牙を剥いた。驚愕に目を剥きながら、フリーザは片手を伸ばし気功波の奔流を受け止める。
 片手で受け止められ、弾かれた気功波の破片が飛び散る。それに頓着せず、リキューは尚もフルバスターの放出を継続し、“気”を放ち続ける。
 光熱が拡散し、轟音が響く。超速で行われていた戦闘行為が、今ようやく、膠着状態へと陥っていた。

 「ぎ、ぐぐッ!!」

 リキューのこめかみに、血管が幾筋も浮かぶ。
 勢い衰えず継続される気功波の放出だが、やはりフリーザに対して効果が出ている様子は一切見受けられない。全く苦しむ様子すらなく、片手を掲げたまま微動だにしていないのだ。
 フリーザ本人にしてみれば、水鉄砲を受け止めているのと同じようなレベルの話なのであろう。
 そうと分かっていながら、しかしリキューは止まらない。かかる負荷に視界を真っ赤に染めつつ、その眼球が血走り始めても、気功波の放出を緩める様子はない。
 元より効力なぞ期待しちゃいないのだ。狙いは最初から変わらずただ一点。
 足止めだ。

 放たれる気功波は莫大な光量を発し、周囲一帯に太陽と見間違わんばかりにその存在を派手に示す。
 これこそが“合図”。リキューがリンへと差し向けた、フリーザの動きを押し留めると同時に発する千載一遇のチャンスを知らせる、火急の連絡であった。

 (まだかッ! まだなのかッッ!?)

 ブツブツと、己の血管の千切れる音が響くのをリキューは聞く。
 最大出力のフルバスターで押し留めているとはいえ、それは決して威力で成し得ている訳ではない。フリーザ自身の気まぐれの様な部分に頼っているのが実情であった。
 不意を突いた攻撃を受けて思わず反射的に受け止めてしまっただけであり、今の膠着状態だってその状態からの惰性で成り立っているに過ぎないのである。
 目の前に投げられたリンゴを、思わず欲しくもないのに受け取ってしまった。例えて言って、そのような状態でしかないのだ。
 フリーザが我に返る、あるいは気が変って手早く始末を付けようとする。そうした時、この膠着は一方的に破壊され全てはご破算となるのだ。
 長くは持たない。リキューは焦りを滾らせながらも、しかし気功波を維持し続けるしか出来ることはなかった。

 「何をするかと思えば、結局こんなものか。下らないな」

 「っぐ、が、がぁッ!」

 フリーザがほんの少し、受け止めている掌から“気”を発した。
 それだけで一切合財、あれだけ全霊を持ってリキューが放っていたフルバスターの奔流が、完全に弾き飛ばされた。
 余波に巻き込まれ、リキューもまた体勢を崩す。完全に興味が失せた様子のフリーザは、更にその姿に向けて人差し指を向けて、抹殺の一手を繰り出そうとする。
 刹那のタイムラグも置かずに準備が整い、放たれようとする気功波。それはリキューの命を刈り取るに十分以上に過ぎるだけの威力を誇っていた。

 しかし、気功波は放たれなかった。
 放つより前に、フリーザは自身へと向かい迫ってくる不気味な存在に気が付いたのだ。

 「なんだ、これはッ!?」

 黒い球体とも見えるもの。物質なのかエネルギーの塊なのか、一目見て判別の付かぬ未知の存在。それが斜め下方の方向から、フリーザへと接近していた。
 遠く体勢を崩していたリキューは、それを一目見て理解した。それこそがリンの言っていた切り札、フリーザすらも容易く屠ると豪語した必殺魔法なのであろうと。
 黒い球体。それを見て、リキューは言い知れぬ怖気を抱いた。直感がそれの未知数な危険性をガンガンと訴える。
 危険。ただそれだけが脳裏に浮かんだ。

 フリーザは逃げなかった。
 リキューが感じていた怖気を同じように受け取っていたであろうにもかかわらず、真っ向からそれを受け止めることを選択していた。

 「こんなものッ―――!!」

 片手を伸ばし、掌を広げて迎え撃つ。
 その掌は、どんなシェルターやシールドを凌駕する絶対無敵な盾に等しいものであった。
 不気味な黒体―――リンの作りし極小のマイクロブラックホールが、フリーザの目前へと迫る。

 そして、両者は接触した。




 「嘘だろ―――!?」

 その光景を、愕然とした眼差しでリンは見つめた。
 烈風がその周囲一辺には渦巻いており、砕けた大小問わぬ瓦礫類が散乱し飛び交い、天空では引き寄せられた暗雲が渦を巻いていた。
 この巻き起こされている異常現象の原因。問題の元凶。それを見ながら、リンの口から呆然とした呟きが漏れた。

 「ブラックホールを………う、受け止めている? じ、事象の地平線を、持ち堪えてるってのか?」

 有り得ない。その言葉は言外に、そう語っていた。
 そのリンの視線の先では、烈風渦巻く事態の中心地となる場所にフリーザが存在していた。
 片手でリキューの射出したマイクロブラックホールを受け止めるその姿にはこれまで見せていた余裕はなく、全身の肌に血管を浮かばせて筋肉は盛り上がり、強く噛み締められた歯の間からは苦悶の声が上がっていた。まさしく全身全霊をかけて、フリーザはブラックホールを受け止めていた。

 「ギ、ギギギギッッ! ガ、ガァ―――!!」

 目を血走らせながらも、しかしフリーザは片手だけで踏ん張り続ける。
 それは意地であったのだろう。宇宙の帝王としての、宇宙最強の存在としてのプライド。たかがこの程度凌いで見せるという意地が、フリーザを意固地にさせ片手で張り切り続けさせていたのだ。

 ふと、呆けていたリンの足場が唐突に砕ける。
 うわと悲鳴を洩らしながら、我に返ったリンは飛行しようと魔法を起動させ、そして深刻な事態の発生に気が付き、即座に抗重力フィールドを展開した。
 慌てて周りの状況を見回して確認し、不味いと言葉を漏らす。
 周辺の瓦礫をはじめとする、ありとあらゆる物質らが強力な吸引力に引き寄せられ始めていた。大気は元より、巨大なビル建築物なども砕け始め、フリーザが押し止めているマイクロブラックホールの元へと吸い込まれていっている。リンが足場としていたビルもまた、そうやって崩壊し、吸引されたものの一つであった。

 「くそ、保護フィールドが消失し始めている!? このままだと、地殻も何もかも軒並み全部ブラックホールに引き寄せられるぞ!?」

 《言わんこっちゃありません。惑星上であのような危険な代物を使用するからです、マスター》

 「だ・れ・が! ブラックホールを受け止められるなんて非常識なケースを考えられるかッッ!!」

 《確かに、それはそうですね》

 リンが大声で叫びを上げる間にも、周囲の重力場異常は継続する。
 舗装された大地が引き剥がされ、土の面を露出しその内部すらも引き寄せられ、吸収されていく。
 この事態を見て、リンの焦燥は否応なく高まっていった。このまま現状が維持され続けて、ブラックホールにかけている保護フィールドが完全に消失してしまえば、事態は致命的なレベルにまで悪化してしまう。

 本来ならば、保護フィールドをかけられ周辺に影響を与えられぬよう加工したマイクロブラックホールが標的に命中し文字通り必殺し、そのまま弾頭であるマイクロブラックホールは大気圏を突破して惑星外である宇宙空間へと突破。そして惑星に影響の出ない距離まで離れたところで保護フィールドが消失し、やがて自然に蒸発するのを待つという、手順さえ間違わなければ危険度はともかくとして、周辺環境や使用者当人にとって安全な魔法であったのである。
 ところが、ここに本来ならば有り得る筈がない狂いが生じていた。本来必殺し通りすがる筈のブラックホール弾頭を、あろうことか対象であるフリーザが受け止め、膠着状態に陥ってしまったのである。
 それによって、本来ならば宇宙空間に脱出してから始まる筈であった保護フィールドの消失が惑星上で始まってしまったのだ。

 リンが生成したブラックホールは、極めて極小なサイズのマイクロブラックホールである。
 仮に保護フィールドが完全に消失しそのままブラックホール本体がさらけ出されたとしても、惑星ベジータ全体を呑み込むほどの被害は出すことはないであろう。それより先にブラックホールが蒸発するのが早い筈である。しかしそれでもリンの存在する周辺一帯を丸ごと、おおよそ惑星の全質量の内の10%程度が吸い込まれてしまうだけの被害は想定された。
 つまりこれが指し示す事実は一つ。保護フィールドの消失は、同時にリンたちの死をも意味する。

 「洒落になってないッ! くそ、拮抗してないで早く呑み込まれろよ!!」

 手遅れとならない内に。リンは苛立ちをそのまま叫びに変えて、視線の先にて全力を発揮しているフリーザへと叩き付ける。
 その叫びが聞こえたのか聞こえなかったのか、場に変化が起こる。

 ぐぐと、フリーザの身体全体が引き寄せられる。血管が浮き上がり全身の筋肉を緊張させながらも、徐々に徐々にとフリーザの身体がブラックホールの方向へ。事象の地平線、決して窺い知ることの出来ない脱出不可能領域であるシュヴァルツシルト面の向こう側へと牽引されていた。
 拮抗の崩壊。それを見てそのまま落ちろと、リンは一心に念じた。事象の地平線、その彼方へ消えてしまえと。
 周辺から引き寄せられる大気の乱流にさらされ、同じく強大な重力場によって吸引されて来る瓦礫などの様々な物体を身体にぶつけられながら、不動を保っていたフリーザの身体が悲鳴を上げる。
 ギシギシと不愉快な音が響き、さらに向こう側とこちら側との境界面に身体が近付いていく。拮抗は崩れ、フリーザの身体はどんどんデッドラインへと近寄っていく。
 その距離はあと、僅か。あと、一歩。

 リンはこの時、ようやく勝利の確信を抱いた。

 そしてフリーザは、血走らせた眼球を大きく見開きながら咆哮した。

 「舐めるなァーーーーーッッッ!!!!!」

 ッカと、閃光と衝撃が辺り一帯に走った。
 これまでとは全く別向き、180度反転された暴風が瞬時に発生し、リンの姿を押し流した。
 小さな悲鳴を上げて、リンはもみくちゃにされながら宙を吹き飛ばされる。
 轟音が轟き、視界が砂塵の幕に覆われ隠される。

 「―――げほ、こほッ。………な、何がどうなった?」

 《不明です。パターンB・H・S終了の影響で、全体の処理機能が一時的に低下しています。センサーが碌に機能していませんね》

 「ッチ、目で確認しろってことか」

 身体の上に乗っていた小さな瓦礫を押しのけて、ふらつきながら立ち上がるリン。
 視界はゼロ。舞い散る砂塵が濃密な幕を形成し、1m先も見通せない分厚いカーテンとなっていた。このままでは埒が明かないと判断し、飛行魔法を起動し上空へと飛び上る。
 そして飛翔してからふと、リンはあることに気が付いた。先程まで働いていた、異常重力場。それがいつの間にやら、完全に消え去っていることに。
 それはいったいどういうことを意味するのか。

 そのことについて深く考える間もなく、リンは砂塵の上へと飛び出し―――そして、それを見た。

 「―――――――ッ!?」

 リンの視線の先。宙空に位置する、ある一点。
 そこに、フリーザがいた。先程まで相対し受け止めていた、ブラックホールの存在だけを失せさせて。
 ぱらぱらと粉塵が降り散る中、伸ばされ握り締められた片手がいやに自己主張をしていた。

 「冗談…………キツイぜ?」

 リンが、言葉を漏らす。
 その顔は笑おうとして失敗し、奇怪に引き攣った表情を浮かばせていた。

 「特異点を―――素手で、握り、潰しやがった………のか?」

 ギロリと、殺気と憎悪に満ちたフリーザの視線が、唖然と無防備に宙に浮かぶリンを貫いた。




 ―――それこそが、ドラゴンボールの世界が持つ、絶大なる効果を秘めた二大ワールド・ルールの内が一つ。

 圧倒的強者たるフリーザをさらなる高みへと位置させ、あらゆる創造物世界に対して強力なアドバンテージを保有させるに至る源の一つ。

 ワールド・ルール、『法則侵食』。

 全てのありとあらゆる法則《ルール》に対し、本人の“気”の大きさ、力量次第で力任せに干渉・破壊することを可能とさせる、強大なる唯我独尊の力であった。




 視界を防ぐ砂塵の幕の中を突っ切り、ようやくリキューは空の上へと這い出た。
 肩で息をしながらきょろきょろと視線を彷徨わせ、フリーザの姿を捉える。リキューは疲労と痛みで、上手く“気”を感じ取ることが出来なくなっていた。
 黒い球体―――ブラックホールの存在が消失しているのを認め、仕留めそこなったのかと、リキューはまず初めにそう思い至った。
 忌々しげに表情を歪め、舌打ちする。
 あれが文字通り最後の切り札であったのだ。幾らかの痛手は与えたかも知れないが、見たところフリーザは五体満足の様子。フリーザ以上に消耗しボロボロの状態である今の己が、対抗できるとは全く思えなかった。かといって、すでに一度喰らって学習している以上、先程のリンの必殺魔法をもう一度フリーザが喰らってくれるとは思えない。

 万事休す。打つ手は全て、尽きた。
 絶望が全身を支配しようと、身体を這い回る。
 そんな希望が一切見えない展望へと陥りながらも、リキューはふらつきながら構えを取った。例え勝ち目がゼロであろうとも、みすみす無抵抗に殺されるつもりはなかった。
 最後の最後まで、戦い抜いてやる。意地とも言えない意思を抱いて、リキューは絶望的な戦いに挑もうとしていた。

 ―――が、その時。リキューが飛びかかろうとした、まさにその時。
 フリーザが、口を開いた。

 「…………痛かったぞ」

 「? なんだ?」

 ポツリと漏らされたその呟きはあまりに小さく、距離を取っていたリキューの耳が正確に聞き取ることは叶わなかった。
 怪訝そうに眉を顰めながら、リキューは内容を聞こうと耳を澄ませた。

 そして―――次の瞬間、フリーザは爆発した。


 「痛かったぞォーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!」


 フリーザの姿が消えると同時、遠くに浮いていたリンがいきなり吹き飛ばされた。
 なにと驚き声を発するも、それすら言い切る暇もない。ほんのワンカットだけリキューの目は、唐突に迫りくるフリーザの拳を捉え、視界がブラックアウトする。衝撃が顔面、それと腹、胸、肩と、全身のあらゆる部位を問わず一瞬に浸透し、爆発し駆け回った。
 “バリア”は一瞬で崩壊していた。ワールド・ルールに保証された絶対的効果を持つそれは、どういう訳なのかフリーザのただの力任せの打撃によって、無理矢理ぶち抜かれていた。
 一言で言って、何が何だか分からない状態であった。そのままリキューは前後不覚な状態のままにきりもみ回転し、落ちているのか上がっているのかも分からず吹っ飛ばされる。
 が、その動きはまた始まりと同じく唐突に、終わらされた。
 強引に首を引っ掴まれ、強制的に静止させられたのだ。ギリギリと締め上げられ、あっという間にリキューの顔から生気が抜け落ちちていく。。

 「っき、っか! ひゅ―――」

 「さっきのは危なかった………危うく死ぬかもしれないところだった。分かるか下等生物が! この俺が、このフリーザ様がッ、死にかけたんだぞッッ!?」

 グンと、首を掴んだままにフリーザがリキューの全身を振り回す。首が締められる苦しみに、リキューの意識がトびかける。
 そうして、そのままフリーザは遠心力をたっぷりと乗せて、まるでモノを投げ捨てるかのようにリキューを“投球”した。

 音速を突破し、空気摩擦による赤熱化と衝撃波を発生しながら、リキューは斜めの角度を描いて直下に位置していた都市に激突。
 爆撃を凌駕する激震を巻き起こして残った建築類を崩壊させつつ、大量の土石類を噴出させるかのように巻き上げながら大地に長い溝を刻んでいった。
 やがて勢いが衰え、リキューは止まった。その身体のほとんどが土の中に埋められた状態になっており、脱力したその身体は、ピクリとも指一つ動く様子がなかった。

 「………っか、…………は」

 重たい瞼を、無理矢理開く。その視界の焦点は何時まで経っても合わず、ふらつく頭はすぐにでもまた目を閉じさせようと働きかける。
 とっくに身体は限界を超えていた。“バリア”の効果もフリーザに攻撃を受けた瞬間、その『法則侵食』の効果によって崩壊させられていたのだ。フィルターのない生のフリーザの打撃は、リキューの身体を思う存分滅多打ちにし、打ち砕いてしまっていた。

 朦朧とする意識。
 リキューはぼやけた視界に、フリーザがこちらに手を向けている姿をなんとか見届けると、ブレーカーが落ちるかのように意識を失った。




 「信じられん奴らだ………あんなものを作りあげるとは、一体どこにそんなパワーがあったんだ?」

 シュワルツシルト面を突破し、特異点そのものを握り潰した己の手を見ながら、フリーザは独白する。
 マイクロブラックホールを叩き付けられるなぞ、生まれて初めての経験であった。いや、もしかすればそれはこの世界において、初めての体験者ですらあるのかもしれなかった。
 あの黒体と相対した時の、怖気。そして受け止め、競り合った時の感触。まるで自分の全てが吸い込まれかねないような、恐ろしい体験。あるいはそれは、恐怖と呼べる感情であったのかもしれなかった。フリーザはそう振り返り、思う。

 そして述懐した結果、より強い、苛烈な次の思いを抱くに至った。
 だからこそ、決して許すことなど出来る筈がない、と。

 こんこんと沸き上がる煮え滾った激情の渦に、これまでとは比較にならない激怒の感情に頭を支配され、フリーザのこめかみに血管が浮き上がる。
 一方的に狩られる筈の立場であった者たちが、生意気にも反旗を翻したという事実。あまつさえ、そいつらから一片とはいえ、己に恐怖という感情を味わされたという認め難い現実。

 それは、断じて許されぬべきことであった。

 ギンと、フリーザが視線を都市の真っ只中。大地を抉って作られた溝の端に埋まっているリキューへと、固定する。そして片手をリキューへと伸ばし、掌を広げる。
 直径1mほどのサイズの気功弾が、瞬時にその掌の先に形成された。

 「もう遊びは終わりだ。このオレ直々の手で消し去ってやる」

 それは“バリア”の加護がない今のリキューにとって、必滅となりうる一撃だった。
 否、例え“バリア”があったところで無駄であっただろう。加減を放棄したフリーザの今の状態では、“バリア”が展開されていたとしても『法則侵食』で破壊されるてしまうからだ。
 が、しかし。
 フリーザが狙いを定め、今まさに放たんとしたその時であった。フリーザの背後から抑止の声が、唐突に投げかけられた。

 「待て、よッ」

 「ん?」

 打ち出す直前であった気功弾を霧散させ、振り返るフリーザ。
 声をかけてきた者の姿を見て、つまらなそうになんだと呟いた。
 フリーザの背後に浮かんでいた者。それはつい先ほど、フリーザの手によって無造作に殴り飛ばされ、吹き飛ばされていた人間。
 リンであった。

 「まだ生きていたのか。しぶとい奴め………それで、このフリーザに何の用なんだ。見たところ、お前はサイヤ人ではなさそうだがな」

 「ぜぇ………ぜぇ………ぜぇ………くそ」

 ボタボタと、おびただしい量の血が流れ、宙に散っていた。
 それはリンの顔面からのもの。次から次へと溢れる出血が幾筋もの血の道を描き、その淡く銀に輝く長髪と白いコート状のバリアジャケットを汚していた。
 先程フリーザから喰らった、あの一撃。それはたったの一発でリンに致命傷を与えていたのだ。もしリンがギフトの一つである吸血鬼並の再生能力を持っていなければ、そのまま確実に命を落としていただろうものである。今でも急速に傷口は再生されつつあったが、追い付かず流血していた。

 荒く息を吐きながら、なけなしの体力を込めてリンがフリーザを見つめる。その見つめる眼差しは、左目の一つだけ。
 リンの右眼球は、完全に潰されていた。

 「ぜぇ、ぜぇ………わざわざ、遠路はるばる、やって来たんだ。死なせる訳には、いかねえんだよ」

 「仲間ということか。下等生物同士が群れたところで、何が出来るつもりなんだ?」

 「うるせえよ、くそ。誰があの野郎なんかと、仲間になるかよ………」

 嫌々とした表情でそう吐き捨てながら、しかしリンは逃げる様子もなく、フリーザの前から一歩も退くこともなかった。
 実際のところ、逃げようとしたところで逃げられるものでもないであろうが。それでもわざわざ重傷をおしてフリーザと相対しているのは、もっと別の理由があるのであろう。
 そしてそれは人情に絡んだものであると、状況から簡単に察しがつく代物ではあった。
 が、所詮フリーザには関係ない話である。

 鈍い音が響いた。リンが咽び吐血する。
 何時の間にやら接近していたフリーザが、その拳をリンの腹に深く打ち込んでいたのだ。
 姿勢を崩し落下しそうになるリンの身体を、その首に尾が巻き付き拘束する。

 「知っているぞ、貴様があの妙な黒い玉を撃ったことをな。気付いていないとでも思っていたのか? よくも目障りなハエの分際で、このオレにあんな忌まわしい体験をさせてくれやがって。ふふふ………随分としぶとそうな体質の様だが、どれ。このままその首の骨をへし折ってやろうか? どれだけやれば死ぬか、試してやろう」

 ピシピシと、リンの首の骨から不愉快な音が走る。完全に気道を塞がれ、声すら漏れず口だけがパクパクと動いた。
 その様を愉悦に浸りながら眺め、容赦なくフリーザは力を加え続ける。
 リンの抵抗が弱まっていく。暴れる手足の動きが、徐々に小さくなっていき………そして止まった。
 死んだか。フリーザはそう呆気なく思い、つまらんと思いながらも止めを刺すべく、巻き付けている尾に骨を粉砕するだけの力を込めようとした。

 その時、電子音が発生した。

 《リミッター、オフ。フルドライブ・スタート、シフトフォーム・ハイパーブレイド》

 「っぐ!?」

 一筋の光が一閃された。
 フリーザの尾が解かれ、リンが解放される。ゲホゲホと咳き込みながら新鮮な息を取り込み、リンの顔が血の気を取り戻す。
 その片手に握られているのはデバイスであるジェダイトであるのだが、形態が先程から変化していた。
 柄の部分に存在していた機構部分が滑らかなラインを描くように組み替えられ、デザインから鋭角的な意匠が完全に取り去られてしまっていた。最も特徴的な部位であった翡翠色の刀身部分は、眩く青白い閃光を発する輝く刃となっており、さながらレーザーブレードの如き形容をさらしていた。

 “紙の雛型”専用特化型デバイス、ジェダイト。そのフルドライブ、ハイパーブレイドフォーム。
 追い詰められたリンは、己が最後の隠し手であるその形態を顕現させ、巻き付いているフリーザの尾に向かって振り下ろしたのである。
 まさか傷付けられるとは思わなかったフリーザはその不意打ちに驚き、見事リンは拘束から脱出することが叶ったのであった。

 しかし、その代償は安くはない。
 ガフと、急にリンが苦しみ始めた。その背に浮かぶ二対四枚の“羽”の姿がブれ、頭髪の銀色の輝きが陽炎のように揺らめく。
 ジェダイトを握る手とは逆の手で胸を抑えながら、表情が苦悶一色に染まる。

 「む、胸が―――ぐぁ、ま、魔力が暴走して………こ、コントロール、が―――ッ!?」

 《肉体のダメージが大きすぎます。パターンB・H・Sによる影響で私の処理能力もダウン中、制御が追い付きません。無茶ですマスター、リンカーコアにもダメージが発生しつつあります! これ以上のフルドライブの起動は深刻な後遺症を残す恐れが!!!》

 電子音声―――ジェダイトが、非常に珍しく焦燥溢れた声で事態を告げる。それだけ内容の指し示す事柄は、洒落にすることが出来ない重大なことであった。
 だが、彼ら二人に危機に対応するだけの猶予はなかった。
 敵が消えてなくなった訳ではないのだ。

 「つくづく苛立たせてくれるな、貴様らハエは………」

 ピクピクと、一部の筋肉を痙攣させながらフリーザが喋る。
 その尾には、ほんの少しだけ擦り剥いたかのような、微妙な薄い線が入っていた。

 身体に纏われた“気”は、その特性として一種のリアクティブアーマーに似た原理のものが働いている。
 外部から物理的接触が加えられた場合、その物理的接触に反応し、そして接触の大きさに応じて“気”が顕現しあらゆる内容に対するショックアブソーバー的な役割を担うのだ。
 これは本人の意思次第で操ることが出来る技能であると同時に、巨大な“気”を持った存在ならば無意識に行うことが出来る自律的な生理機能でもある。
 この特性によって強大な“気”を持った存在は、例え知覚できないほど遠い遠方から対戦車ライフルの狙撃を受けたとしても、大して怪我も負わずに済むことが出来るのである。

 そして、この上記の特性。
 これは肉体への接触面積が大きければ大きいほどそれに比例し、より素早く強く働きかけられるものでもあった。
 つまり逆を言えば、肉体への接触面積が小さければこの特性は働きにくいということである。

 すなわち結論を言って、“気”の守りというのは打撃などといった面の攻撃に対しては十二分に効力を発揮されるが、線や点などといった攻撃に対しては効果が比較的に―――つまり防御が弱いということなのである。
 数段上の戦闘力を持った者であろうとも、真に一流の実力者が真に一流の剣を以って斬り付ければ、傷付けることは可能だということだ。

 リンの命を賭けた最後の一手は、フリーザにかすり傷を負わせる程度の効果を上げていた。


 そしてそれだけが、リンが己の命を賭けて成せた行動の限界だった。


 フリーザが人差し指を、悶え苦しんでいるリンへと差し向けた。
 リンは反応できない。応じるだけの余裕がなかった。

 《マスター!》

 「あ……?」

 咄嗟にその腕が動きジェダイトの刀身が胸の前に位置したのは、リンによるものではなく、ジェダイト自身の判断によるものであった。
 リンクモードによって同期された双方の意識は直結され、その思考だけで互いの器へと指示を送ることが可能となる。それはマスターがデバイスを手足を扱う様に動かせるのと同様に、デバイスがマスターを手足のように動かすことも出来るということ。
 果たして、従順なるしもべであると同時に主の相棒であるデバイスは、その瞬間に機転を利かせて行動していた。

 フリーザの指先から、気功波が放たれた。
 直進するレーザーの様に収束し細く固められた気功波は、違うことなく盾の如く置かれたジェダイトの刀身に接触。
 そのまま刹那の停滞もなく刀身はへし折られ、ジェダイトを破壊しながらリンの胸を貫通。巨大な風穴を穿った。
 ごぼごぼと、溢れ溺れるかの様にリンの口から血が吐き出される。
 胸の傷口からも割れた水筒の様に出血が生じ、空に紅色の飛沫が散らされた。

 ぐらりと、リンの身体が傾く。

 浮力が失せ、活力を失った身体が大地へと落下していった。
 他愛もない結末にその溜飲は収めることは出来ず、逆に構った事でさらに生じてしまった不愉快なストレスの存在に、フリーザの表情は硬いままであった。
 舌打ちしながら、片割れであるもう一人の下手人をさっさと仕留め様と、視線を元の方向へと移す。
 フリーザの目が、大きく見開かれた。

 「姿がないッ?」

 都市の中に刻まれた長く巨大な溝の先、先程までリキューが埋まっていた場所から、リキューの姿が消えていた。
 何処へ行ったと、フリーザは視線を空の上からせわしなく彷徨わせる。
 やがて、ある一点でその動きは止まった。皮膚の上に血管を浮かばせ、殺意をみなぎらせたまま微笑を浮かべ、一人呟く。

 「逃がすものか。貴様はこのオレ自身の手で直々に、この星を消し飛ばす前に直接殺してやるのだからな………」




 まどろみの中、揺れる居心地からリキューの意識は現実へと戻ってきた。
 目を開けば、映る視界の光景はくたびれ、寂れた雰囲気の漂うビル街。リキューの見覚えのある場所。
 惑星ベジータ唯一の名もなき都市の、そのありふれた無人区画の一角である。
 ぼやけた頭のまま少し時間が経過し………ふと、ようやく我に返ったリキューは、自分が誰かに背負われていることに気が付いた。

 「だ、誰………だ?」

 「起きたかい?」

 全身の痛みを堪えて出した言葉に返ってきた声は、女のものであった。
 リキューはそれに驚いた。女の声が予想外であったということもあったが、それ以外にも別に、何か引っかかるものをその声に感じたからだ。
 背負われたまま、リキューは軽い混乱に陥る。
 自分はこの声に、聞き覚えが、ある?
 暖かくなるような、しかし同時に重く圧し掛かる様な、背反する二つの異なる心の動きがリキューの胸を震わせていた。

 「あ………んた、は――――――」

 「すっかり大きくなっちまって………四年前のあの日までは、まだ私の胸までも背は届いてなかったのに。それが今じゃこんなに大きくなって、しかもあんなに強くなってるとはね。そんなこと、これっぽっちも思ってもみなかったよ」

 大した奴だよ、と。そう目の前の女性は、漏らした。
 まさか。リキューは喋るという風に意識することもなく、そう、口に出していた。
 脳裏に目の前の女の正体が、その名前が、様々な感情と共に浮かび上がった。

 女が振り返った。その顔が、リキューの目の前で露わにされる。
 女のリキューを見る目は、ただ単に同族を見るものではない、親しき愛情が存在していた。

 「立派になったね、リキュー」

 「ニー、ラ」

 女の名はニーラ。サイヤ人の下級戦士であり、そして同時にリキューの母である女であった。
 何故だ、と。面と面を合わせたその瞬間、リキューはただそれだけを思っていた。
 何故に自分は今、ニーラとこうして邂逅しているのだ、と。

 それはよくよく考えてみれば、別にそれほど不思議という程のことでもなかった。
 リキューの今いる場所。ここは惑星ベジータなのである。戦闘民族サイヤ人たちの母星なのだ。
 サイヤ人であるニーラがここに居て、そしてリキューとこうして対面していることに、何ら不自然な巡り合わせは存在していなかった。
 失念していたのはリキューの方だ。自分からその事実から目を背け、そしてそのまま自己暗示のように思い込み、現実を改変させて忘れ去っていたのである。

 「にしても、お前が戦っていた相手。あいつはいったい誰なんだ? とんでもない戦闘力を持っているようだけど………なんだってあんな奴がここに居て、しかもお前なんかと戦っているんだ? 周りの男どもはてんで役に立たないし、いつも威張り散らしているエリートの奴らも姿が全然見えやしない。本当に、いったい今この星で何が起こってるってんだい」

 ニーラが愚痴の様に言葉を洩らすのを聞き、ようやくリキューの意識は再起動した。
 激痛と疲労にまともに動かすことも出来ない身体を無理矢理に動かそうと力を入れて、もぞもぞとニーラの背で動き始める。
 その動きを察知し、ニーラが慌てた様子で話しかける。

 「無理するんじゃない! 全身がボロボロになっているんだよ!! すぐにメディカルマシーンまで連れて行ってやるから、大人してな!」

 「は……な………せ……ッ」

 肉体のダメージは深刻だった。内出血に筋肉の断裂、骨だって二桁ほどの数が骨折ないし亀裂が入った状態となっており、常人ならば死亡確定に至るレベルのものであったのだ。
 当然、そんな状態ゆえに生じる痛苦は筆舌に尽くし難いものであった。筋肉に力を一片でも込める度に、魂を擦り減らすような地獄がリキューを襲っていた。
 しかし、それでもリキューは足掻くのを止めようとしなかった。たかがこんな痛みが何ほどのものであろうか。心底からそうと思っていた。

 そう。リキューにとって肉体の傷や痛みなんてものは、重要視するものではない。
 そんなもの以上に、心の痛みの方が、リキューにとっては至極耐え難いものであったのだ。

 ニーラの気遣いの言葉にも耳を貸さず、必死に離れようともがき続けるリキュー。その強情な態度に毒づきながらも、ニーラは逃がさないと抱え込んでいた。
 リキューの逡巡、ニーラのこだわり。一行に決着のつかない、親子の遣り取り。
 しかし、その遣り取りはすぐに終わらされた。
 外部からの無作法な介入によって。

 「何処へ行く気だ、サイヤ人の猿どもが」

 「ッ!?」

 「―――ッチィ!」

 二人が空を見上げる。そこに殺意を隠すことなく露わにした様子のフリーザが、凍てついた視線でリキューとニーラを見下していた。
 スゥと地に降り立つフリーザ。戦意をどうにか掻き集めて睨みつけるも、リキューの胸中には諦観と絶望だけが満ちていた。
 戦ったところで勝つことなど、出来る筈がない。すでに勝敗は決しているのだ。そして逃げることだって叶いはしないだろう。どこへ逃げようとフリーザは即座に追い付くし、それにいざとなればこの星そのものを破壊すればいいだけのことなのだから。
 リキューは気付かぬ間に、自分の死を受け入れてしまっていた。それだけの戦闘力差があることを、実感してしまっていた。

 「リキュー、逃げろ。ここは私に任せて、お前は早くここから逃げるんだ」

 ―――だからこそ、リキューはそのすぐ傍で言われた言葉に、咄嗟に反応することが出来なかった。

 え、と一文字だけ口から出し、硬直する。
 投げかけられた言葉の意味を、リキューは理解することが出来なかった。
 ドサリと乱暴に地面へと放られ、ニーラが一人一歩二歩と前へと進み出ていく。そうにまで至り、ようやく言葉の意味を呑み込みリキューは動き出した。

 「な………ま、待てッ。げほ! くそ………待て、ニーラ! アンタの、敵う相手じゃ………ない! 逃げろ………そい…つはッ、フリーザなんだぞッッ!!」

 「フリーザ……ッ!?」

 「その通りだ。理解したか、この下等生物の猿が。分かったのならさっさと目の前から消えろ。それともだ、先にお前から消されたいか?」

 フリーザにしてみれば、どいつもこいつも全て路傍の石コロ程度の存在でしかない。
 総じて、価値がないのだ。
 言うことを聞かなければ、ただ即時実力行使に移るのは明白であった。

 「まさかね………本当にフリーザだってのかい? いや………そうか、確かにその声には聞き覚えがあるよ…………それじゃ、バーダックの言っていたことは本当だったってことか」

 「分かったんなら、分かるだろうッ。アンタじゃ、ごほッ! ハァ……ハァ……か、敵う訳がないってことにッ。さっさと逃げろ………こ、殺されるぞッ」

 何故そこまで必死になるのであろうか。リキューは脳裏の一部でそう思う自分がいるのを認識しながら、知るかと吐き捨てた。
 さっきまで、あんなに離れようとしていたのに。それが今では逆に、その身を案じ退かせようと言葉を懸命に重ねている。
 矛盾だ。リキューはいったい、ニーラをどうしたいというのか。
 見捨てたいのか。切り捨て、無視し、関係のない者として無関心な態度で、見て見ぬふりをして過ごしたいのか。
 それとも助けたいのか。子として、血の繋がりがある者として。慈しみと愛情を持ってその命を助けたいのか。

 答えはない。出せる筈がない。
 リキューはかつて、その答えを出さないことを選択したのだ。自己の精神の安寧のために、ただ自己保身のためだけに。
 だからもごついたまま、確たる行動に移ることも出来なかった。ニーラを強く抑止する言葉を投げかけることも出来ず、ただ敵う訳がないと諭し逃げるよう、示唆することだけしか出来なかった。
 フリーザの恐ろしさはニーラだって知っている。みすみす死ぬと分かっているのならば、逃げるのが正しい選択だ。
 しかし、リキューの言葉を聞いているにもかかわらず、ニーラは動く様子を見せなかった。
 リキューの前に立ち塞がり、フリーザと相対したまま逃げる気配を欠片も見せないどころか、逆に臨戦態勢を取って戦いの準備を整えていた。
 馬鹿なと、リキューは愕然とした思いで顔を呆けさせていた。

 「何を………やって、いるんだッ。アンタじゃ敵わないって、そう言っているだろう。フリーザなんだぞ、分かるだろ!? アンタの戦闘力じゃ、戦ったって殺されるだけだ!! 早く逃げろって…………死にたいのかッ!!」

 血気が昇り、語調が僅かに荒くなった。言い切った後に苦痛がぶり返し、咳で咽る。
 命を捨てるその行為に、何故かリキューは心が激しくざわめいていた。その情動の正体の理解を拒み、理解不能の封をリキューは貼り付ける。
 リキューの言葉をその背に受け止めたまま、やはり動かないニーラが、口を開いた。

 「死にたくなんてないよ。けどね、逃げる訳にはいかない理由があるのさ」

 なんだ、それは。自分の命の代わりになる理由なぞというものが、一体どこにあるのか。
 リキューの思考に浮かぶ様々な文句・悪態の数々。あまりに感情の昂ぶりが激しすぎて、口が上手く回らずただパクパクと意味なく開け閉めされる。
 必死に言葉を操ろうと苦慮している中、ニーラ自身の口からその理由が一言で語られた。

 「目の前でみすみす、自分の子を殺されてたまるものかい」

 「―――、……………え?」

 するりとその言葉は、リキューの胸に入ってきた。
 混乱したまま、締まりのない声を口から漏らし、情報を整理しようと頭が空回りする。

 まさか………ニーラの、逃げる訳にいかない理由、とは?

 思考が滞る。
 頭が理解しようとするのを拒否する。
 理解してまえば、不味い。それを理解してしまうと、自分がこれまで目を背けてきた矛盾と、否応なしに目を向けなければならなくなる。
 ダメだと、リキューの精神がアラートを鳴らす。理解するな、言葉を聞くなと無意識の怪物がリキューの耳元で叫びを上げ続けている。
 激しい精神内の闘争が、リキューの中で起こっていた。それだけの意味がニーラの言葉にはあった。リキューの心の在処を左右するほど重要な、重大な岐路が目の前に暴かれ様としていた。

 ―――けど、それは結局のところ、リキューの独り相撲でしかないものであった。


 独り相撲に、された。


 ぱんと、音が鳴った。
 リキューの目の前から、ニーラの姿が、消えた。
 響く瓦礫が粉砕される音。そして二ーラの代わりに、目の前の今までニーラがいた位置には、腕をひらひらと振らせたフリーザの姿が。
 リキューの動きが、凍る。

 「いつまでも目の前でぺちゃくちゃと………邪魔をするなら先に殺すとオレは言った筈だぞ、サイヤ人が。まったく、つくづく貴様らはこのオレの癇に障るな」

 「………お袋?」

 ニーラの姿を探し、リキューは視線を右往左往させる。ニーラの姿は、すぐに見つけることが出来た。
 右の方角の崩壊したビルの瓦礫が積まれたところ。そこに全身と尾からだらりと力が抜けた様子で、ニーラは倒れ伏していた。
 頭からは、血がどくどくと流れている。目は、閉じたまま開かない。
 ぷるぷるとリキューの身体が震え出していた。身体の奥底から得体の知れない、心を冷え切られながら肉体を熱くさせる、強大な感情の奔流が迸り始めていた。

 それは、憎しみと呼ばれる感情だった。

 「フ、リーザァッ………キ、サ、マッッ!!」

 「貴様………なんだその目は。まさか、母親に手を出されて怒ったとでも? ハハ、こいつは驚きだな。まさかサイヤ人風情が、そんな高尚な感情を持っているとは思わなかった。ククク、散々幾つもの星を滅ぼしておきながら………ふてぶてしい種族だな、貴様らは?」

 「だ・ま・れぇッッ!!!」

 ぎちぎちと悲鳴を上げ、全身から地獄の苦痛を発しながらリキューはその両足で立ち上がり、地を踏みしめた。
 しかしそれが限界だった。激情に呼応して“気”が一時的に強まっているものの、“気”は身体能力の強化はしても回復はしない。壊れた器官の代替機能として働きはしないのだ。
 ダメージを受けた肉体はそのまま。依然として死にかけ、ボロボロの状態であることに変わりはない。
 フリーザの掌が、リキューの顔面のすぐ目の前にかざされた。リキューの視界が、掌で覆われる。
 フリーザが端的に宣言し、命令した。

 「死ね」

 ―――その時、フリーザの身体がいきなり横へと吹き飛ばされた。

 一人のサイヤ人が空から高速で突っ込んできて、その勢いを維持したまま飛び蹴りをフリーザの頭部にぶち込み、ニーラとは反対側の方向へと弾き飛ばしたのである。
 ビル群を突き破り、ストリートを三つ四つ横断する勢いでフリーザの姿が消える。
 ばさりとローブ状の戦闘服の裾を翻しながら降り立つそのサイヤ人の名を、リキューは驚き瞠目しながら呟いた。

 「あ、アンタは………ガートン? お、親父?」

 傷だらけの顔を晒している男が、じろりとリキューに視線をやった。
 男はサイヤ人のエリートであり、珍しいテクノロジストでもある、すでに第一線を退いていたリキューの父。ガートンであった。
 ガートンは一度だけ無機質な視線をリキューにくれると、それだけでもう見向きもせずに視線を外し、フリーザの吹き飛ばされた方向へと顔を向けた。
 そしてそのまま顔を向けることすらなく、リキューに簡潔な命令を与えた。

 「ニーラを連れて早く行け。まだニーラは生きている」

 「なッ………」

 慌てて痛む身体に鞭を打ちながら、リキューは半ば引き摺るように足を動かしてニーラの近くに寄り、その首筋に手を当てた。
 指先にほのかな命の鼓動を感じ、安堵の息を付く。心に沸き上がっていた憎悪の激情が、一気に引き下がり力が抜けていった。
 ガートンが告げる。

 「急いでニーラを連れてこの星から脱出しろ。発着場のところに使えるポッドが幾つかあるだろう」

 「アンタは………アンタはどうするつもりだッ、残る気か! アンタもニーラと同じように! 親だからって理由で残るつもりか!?」

 「勘違いするな。何故私が貴様なぞのために戦わなければならない。ニーラと私は違う、貴様なぞ私にはどうなろうと知ったことではない」

 背を向けたまま、声色を一切変えぬまま、ガートンはリキューの言葉を冷たく切り捨てた。
 ニーラとは違って、その態度には本人の言葉通り、親の情などを感じさせるものは全くなかった。その点についてだけ理解し、何故か不思議とリキューの心は安堵に包まれた。
 しかし、それならば何故? 何故、ニーラと同じように死地に挑もうとするのだ?

 「何でだ………どうでもいいんだろ、俺のことは。それなら、なんで………」

 「貴様はどうでもいいが、ニーラがいる」

 ニーラ、という言葉。
 そこにだけ、他の言葉とは違った重みが置かれているのを、リキューは感じ取った。

 ―――それこそが、ガートンの戦う理由。

 かつて戦士として戦い、今一線を退きテクノロジストとして月日を重ねていた男は、ただ一人の女のために絶望的な戦場へと舞い戻って来ていたのだ。
 子に対する愛情などは欠片もなく、しかし、己が伴侶への愛情は抱いて。
 クイと、ガートンは背を向けたまま義手の親指をあらぬ方向へと差し向ける。

 「行け。貴様ごときの命なぞどうでもいい。貴様の命を賭けてでも、ニーラを決して死なせるな」

 「……………ああ、分かった」

 迷いは、あった。しかしその物静かな言葉の内に秘められた苛烈な意思に、リキューはただ頷かされた。
 軋む身体を動かし、ニーラをそっと、慎重に背負い、そして走り出す。舞空術を使うだけの余力なぞ残っていなかった。
 走り去る間際、そっと振り返り、リキューは己の父の姿を見た。

 背を向け、立ちつくすガートンの後ろ姿。
 彼は今やリキューから見て、圧倒的に戦闘力で劣っている筈の人間であった。しかし、リキューは何故かその後ろ姿が、とても大きく見えた。




 崩れ落ちた大量の瓦礫の破片が、噴出した。
 下から強烈なパワーによって弾き飛ばされた瓦礫らは、宙空で粉微塵に粉砕され、塵となって風に流される。
 瓦礫が吹き飛ばされ形成された空き地の中心から現れるフリーザ。その姿に依然変わりなくダメージはなく、ただ苛立ちだけが際限なく蓄積されていた。

 「虫けらどもが………本当に次から次へとキリがなく出てきやがって。そうまでしてこのフリーザの不興を買いたいか」

 ガートンは無言のまま、腰を沈め戦闘態勢を整える。
 絶望的な戦闘であるということは、いまさら改めて言われるまでもなく理解していた。戦えば確実に死ぬことになるだろう。
 しかし、例え死ぬと分かっていても引けない時が、男にはある。
 それは地球人だろうと、サイヤ人だろうと、あるいは性別すら関係のない共通したことであった。

 「ハァッ!!」

 地を蹴り砕き、ガートンが先手を取ってフリーザに突撃した。
 義手である右手を振りかぶり、作られた鋼鉄の拳を真っ直ぐにフリーザの顔面へと叩き込む。
 巨大な接触音が響く。フリーザの顔面に違えることなく、ガートンの拳は突き刺さった。
 しかし、フリーザは動じない。身震い一つすらしない。表情も変わらないまま、気にも留めていない。
 フリーザは無造作に手を上げて、ガートンの拳を掴み顔から引き剥がす。ガートンはそれに気合いの声を上げて抵抗するが、まるで赤子の手を捻るかのように成すがまま、腕をねじられた。
 ばきんと、義手が握り潰される。金属部品とスパークが飛び散り、ガートンは一歩飛びずさった。

 「ぐぉ、おおお………ッ」

 散乱した部品を踏み付けながら、フリーザがガートンに歩み寄る。
 ぽきりと、片手の指の骨の音を鳴らしながらフリーザは言った。

 「楽には殺さん。最後まで苦しみ抜いてから死ね」




 「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ」

 引き攣る様な息を吐きながら、必死にリキューは走っていた。
 背にはニーラを抱えながら、全身から絶え間なく発せられる激痛に耐えながら、見る影もないような遅々とした速度でありながらも、必死に走っていた。
 汗の代わりに血が流れるほどの傷を負いながら、しかし立ち止まる気は全然生じなかった。

 たらりと血が一筋、新たに肌を伝って流れた。
 それはリキューのものではない。背に背負われた母から流れ出たものである。
 ニーラの傷の具合は、リキューと比べれば断然に軽い代物だ。しかし傷を負っているのは頭。危険であることに違いはない。
 心が乱れた。急がなければと、リキューの心を何かが駆り立てていた。

 「リキュー、か?」

 「喋るな………ハァ、ハァ………寝るなよ、急いでメディカルマシーンまで連れて行く」

 「ハハ………これじゃ、立場が逆だ………よ」

 「喋るなって、言っているッ!」

 メディカルマシーンに連れていくと言ったが、しかしそれは後回しにされることだった。
 フリーザに狙われている今、悠長にメディカルマシーンで治療を受けるだけの時間なぞなかった。上手く隠れこむことが出来ても、星ごと破壊されれば意味がない。
 ガートンが言った通り、まずは個人用ポッドでも何でもいいから宇宙船を手に入れて、惑星ベジータから脱出。その後に適当な文明の星に行き着き、そうしてから治療を受ける必要があった。
 時間が足りない。リキューはただそう思う。あらゆる意味で時間が足りていなかった。

 宇宙船に乗り込むまでの時間が足りない。ニーラに治療を受けさせるまでの時間が足りない。フリーザを足止めするまでの時間が足りない。
 ないない尽くしばかりの現状。
 頭が沸騰しそうだった。

 そもそも、何故自分は彼女を、ニーラをこうまでして必死に助けようとしているのだ?
 リキューは己の過熱する表層の意識とは別に、心の底でそんな自問自答を行っていた。

 親だから助けるのか?
 サイヤ人なのに? フリーザも言っていたではないか。散々他の星々を侵略し、滅亡させてきた種族なんだぞ?
 彼女だってそうだ。例外ではない。今自分の後ろに背負われている女は、その手で多くの罪のない者たちの命を、ただただ仕事として、己の楽しみとして、奪ってきたのだぞ?
 彼女は悪だ。サイヤ人は悪だ。フリーザと同じ、極悪な存在なのだ。死んだ方が喜ばれる、百害あって一利なしな有害極まりない者たちなのだ。

 何故、助ける必要がある? 何故、必死になる必要がある?

 「うぅぅぅッッ…………」

 噛み締められた歯の間から、唸るような音が漏れる。
 無意識の理性が持ち上げるリキューの精神の根底にある倫理が、自己否定に繋がりかねない痛烈且つ巨大な葛藤をリキューに与えていた。
 サイヤ人をどう扱うか。悪として否定するか、同族として許容するか。
 かつて逃げ、そして今まで逃げ続けていた、リキューの精神の根底にある矛盾。その元凶が露呈される。
 いまさらなことであった。
 かつてのその逃避から、どれだけの歳月が流れたのか。いまさらどちらか選択したところで、どっちにしろリキューは今のリキューでいられなくに決まっているのだ。
 ゆえに選べない。リキューは選ぶことができない。これまでの、今までの。自分の在り方のために、立ち位置のために、選択することが出来ない。

 そんな悪循環に陥っている思考をよそに、身体だけは動いていた。
 長々と続いていた無人区画にもようやく終わりが見え、リキューの視界の遠く、見れる範囲にポッドの発着施設が現れる。
 あと少しだ。そう思い、リキューは足に力を込めた。

 目の前に、閃光が走った。

 眼前の道路が爆発し、咄嗟にリキューは顔を庇い爆風に備えた。
 爆風が収まってから目を開くと、リキューの目の前の道路には横断を防ぐような、底の見えぬ断崖が形成されていた。
 リキューは空を見上げる。
 フリーザが、そこにいた。

 「随分と手間をかけさせてもらったが、もう鬼ごっこはお終いだ」

 ひょいと、フリーザがその片手にぶら下げていたモノを、放った。
 どしゃりとリキューのすぐ傍に、それが落下する。
 それはサイヤ人の亡骸であった。白眼を剥き、義手であった片腕は壊れ、全身から流れ出た血がバトルジャケットを紅に染めて、その男は完全に絶命していた。
 ガートン、だった。

 「お……や、じ……………」

 「安心しろ。すぐに貴様もこのゴミと同じ場所に送ってやる。思わずこいつを殺すのに時間を使い過ぎてしまったからな………貴様は一撃で終わらせてやる」

 人差し指が向けられる。
 その光景を、リキューは緩慢な意識の中、ただ静かに見ていた。
 終わった。そう不思議と自分でも思う程、呆気なくその結果を受け入れていた。
 これまで死にかけたことは何度もあった。その度にリキューは反骨心を燃やし、全力で抗ってきた。
 しかし、その燃えがってきた反骨心が、何故かこの時沸かなかった。
 あるいはそれはガートンの亡骸を見てしまったからだろうか。答えは分からない。
 だがどっちにしろ、全身がボロボロであるリキューにフリーザの攻撃を回避する術はない。死は甘んじて受け入れる他未来はなかった。
 遅延する意識の中、やけにスローな動きで行われる気功波の発射プロセスを、リキューは見る。

 ―――トンと、横に身体を押された。

 え、とリキューが思う。その瞬間、スローであった世界の動きが、一瞬で元の動きに戻った。
 リキューのすぐ傍を、肌をかすめて気功波が通り過ぎる。ちりちりと腕の一部を灼かれながら、しかしリキューは回避することに成功し、背後で着弾し爆発する気功波の余波を受けながら地面に倒れ伏す。

 (―――何が起きた?)

 状況を理解できぬまま、一苦労しながら身を起こす。
 っちと、フリーザの舌打ちが聞こえる。

 「悪運の強い奴め………まあいい。どっちみっち、サイヤ人は一匹たりとも見逃すつもりはないからな。全員皆殺しだ。取りこぼしはない」

 (何を、言っている? 何を―――?)

 後ろへと、振り向く。


 そうして、リキューの時は止まった。


 「え? ――――あれ? ………え? ……………あ、え? …………………なん…………………え?」

 黒焦げた人が、倒れていた。
 ぷすぷすと煙が身体から上がっており、人体の焼けた匂いがリキューの鼻にまで漂ってきている。
 誰なのだろうか。リキューは混乱したままそう思った。
 よほどの高熱で焼かれたのだろう。その人の腕や足は一部が炭化し、炭の様な状態となっていた。
 動く様子はない。当然である。目の前の人は死んでいた。焼死だ。異論の介在する余地は存在しない。

 「え? え? え? え? え? ――――――――――え?」

 死んでいる人間の―――いや、もうモノとなっているそれの顔を、リキューは知っていた。
 バラけていた記憶が、意識が、元に戻り始める。

 目の前のモノは、女だ。女の死体だ。

 そして名は、名は―――――。


 脳の知識と目の前の光景が一致し、ようやくリキューは、現実を認識した。


 「…………………………………ニー、ラ?」

 「貴様も早く死ね。親が地獄で待っているぞ?」

 邪悪な微笑を浮かべて、フリーザは言った。

 プツンと、リキューの脳裏で何かが切れた。

 「フリィィィィィイイイイイイザァァァァアアアアアアア!!!!」

 「な、にィッ!?」

 咆哮した。荒ぶる精神が全ての懊悩を吹き飛ばした。理性も倫理も良心も、野性を縛る余計な枷の一切合財が一瞬で破壊された。
 深刻なダメージを被っていた筈の肉体から、これまでとは比べ物にならない莫大な“気”が噴出し、全身の筋肉が盛り上がり隆起する。
 神速の踏み込みが行われる。フリーザに反応させる余裕を一切与えず、リキューの拳はフリーザの腹を打ち抜いた。

 「ぐごぉッ!?」

 「ああああああああああああッッッ!!!!」

 ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ―――ッ!
 足を天より振り下ろして打ち抜き、地面に叩きつけたと思った次には、跳ね上がったその身体に低空からすくい上げる様なアッパーを放って身体を天へと打ち上げ、さらに逃がさないと吹き飛ぶ足を掴み、振り回してまた地面へと叩き付け、前蹴りを脇腹から容赦なく抉り込ませ前方へと弾き飛ばし、まだまだ終わらせないと追撃をかける。
 さっきまでリキューの心を悩ましていた矛盾についてなどの考えなど、全て消し飛んでいた。
 ただただ際限なく溢れだす破壊衝動が脳を一色で染め上げ、リキューの身体を突き動かし、フリーザを滅多打ちにし続けていた。

 リキューの戦闘力は、著しく増大していた。
 換算してそれは、おおよそ通常時のリキューの戦闘力の10倍に相当するほどのもの。
 凄まじいまでの急激な戦闘力の上昇、倍化。それはさながら、疑似界王拳と称されるべき現象であった。
 かつて、故ツフル人が提唱した理論。核分裂反応に似た、“気”の増大作用―――オーラリアクト現象。
 一時的に己の数倍の戦闘力を発揮するために、このオーラリアクト現象を人為的に発生させ、そして技として昇華・完成させたのが、北銀河の界王の編み出した界王拳であった。
 リキューの身体にもまた、この界王拳と全く同じ原理の現象が発生していたのだ。

 ガートンの死を、ニーラの死を、その肉眼で焼き付けぶち切れたことが、リキューに疑似界王拳というさらなる戦闘力の向上をもたらしていた。
 理性が完全に消え失せ野生に支配された頭脳が、理性がないゆえにその本能を以って、困難である筈のオーラリアクト現象の操作を達成させていたのだ。

 「死ねッ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねッッ!!」

 ラッシュは終わらない。連撃は終わらない。リキューの怒りは収まらない。
 打って打って打って打って打って、ただただ打って打って打ちこみまくる。
 嘆きか怒りか、叫びと共にリキューの乱打は果てなく続くようであった。

 「死ねよッ! フリィィィィイイイイイザァァァァァアアアアアアア!!!!!!!」

 必殺の意思が込められた拳を、打つ。
 が、しかしその拳は、ズドンッと受け止められた。
 ぎりぎりと握り締められ拳が悲鳴が上げる。唇を切って血を流すフリーザが、リキューを睨みつけた。

 「調子に乗るな、このサイヤ人がァ!!」

 激烈なボディブローが放たれ、リキューを貫いた。
 かはと、全身を貫く衝撃に口から空気が吐き出される。
 僅かに前傾姿勢となった刹那、フリーザがその顎先に蹴りを叩き込む。上空へとリキューは放り出された。
 超スピードでの接近。瞬時に距離を詰めて先回りし、フリーザは両手を組んで届いたリキューの身体を今度は斜めに打ち下ろすようにブッ叩いた。
 高速で大地に叩き付けられるリキュー。爆音と激震が響き、ビルが倒壊する。

 「げほ………かは、か…………」

 降り注ぐ瓦礫を除けることも出来ず、リキューは倒れていた。
 反動が来ていた。
 ボロボロの身体で、しかも技として完成されていない疑似界王拳の行使が、リキューの肉体をさらに掻き回し疲弊させていた。
 もう今のリキューには、それこそ片腕を上げるだけの力すら残っていなかった。

 意識がボヤけていた。
 終わりか。ふと海に溶ける砂糖の様に薄れていく人格が、そういう思いを綴らせた。
 それを改めて考えるだけの力すら、もうリキューにはない。

 口から、言葉が漏れた。

 「ガー、トン。ニー………ラ」

 光が、全てを包みこんだ。




 「何だ、あの力は。たかが死にかけのサイヤ人風情が………さっきまであのサイヤ人に、あんな力なぞなかった筈だぞ」

 驚きに支配されたまま、フリーザは先程のサイヤ人の猛攻を思い出す。
 いったいどういうトリックなのか。明らかに戦闘力が段違いに跳ね上がっていた。
 元々サイヤ人にしてみては並外れた戦闘力の持ち主ではあったようだが、所詮それだけの存在。フリーザの見立てでは自分のMAXパワーの10%にも及ばないレベルのものでしかなかった筈だった。
 しかしそれがどういうことか、化けた。
 予想外のその戦闘力の増大は、不意打ちとはいえこの自分に対して、ダメージを与えるほど絶大な上昇を示していた。

 くいと、フリーザは自分の唇を親指で拭った。
 見てみれば、その親指の先には血の跡が付いていた。

 超サイヤ人。
 フリーザの脳裏に、ふとよぎる一つの単語。
 歯を食いしばり、フリーザはその不愉快な言葉を振り払った。

 「超サイヤ人なぞ、ただの伝説に過ぎんッ!! 宇宙最強はこのオレ! フリーザ様だッッ!!」

 とはいえ、サイヤ人どもが急激にパワーを上昇させているのは事実である。
 フリーザは冷徹な思考で、そう考える。
 そして結論を出した。

 「少しばかり有望そうなサイヤ人は手元に残しておこうと思っていたが………止めだ。この星だけじゃない。この宇宙に存在する全てのサイヤ人は、一匹残らず始末してやる」

 そして、その手始めの標的は眼下にあった。
 手を空へと伸ばし、2m程の大きさの気功弾をフリーザは形成する。
 惑星ベジータを消滅させる気は、まだない。ゆえにこの気功弾に、星を壊すだけの威力は持たせていない。
 しかし、目の前の死にかけのサイヤ人一匹程度を吹き飛ばすには、十分だった。

 「消えてなくなれ、虫けらがッ!」

 腕を振り下ろす。気功弾が忠実にフリーザの意思に従い、直下へと放たれた。
 気功弾が、着弾した。

 爆発。

 炸裂した巨大なエネルギーが何もかも蹂躙し粉砕した。爆風に建築物が吹き飛び、道路が引き剥がされる。
 やがて、爆風が収まり辺り一帯に静けさが戻った頃。
 そこには直径が20mほどになる大きさのクレーターだけが、存在していた。

 「くくくく、アーッハッハッハ!!」

 笑い声が響く。
 一人残ったフリーザの哄笑が、空に響き渡っていた。








 ―――あとがき。

 キレて急に不利な戦況が逆転する? ありませんよそんなもの、ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから。

 そんな今回の話。前回感想ありがとうございました! ギリギリ八月投稿間に合った、作者です。
 リン死亡確認。ニーラ死亡確認。ガートン死亡確認、と。
 ようやく公開されたドラゴンボール世界のワールド・ルール。以前感想でズバリな正解言っちゃってた人いましたけど、ハイ。こんなものです。
 後一つもそんなにもったいぶったものではなかったり。すでに作中ではヒント出てたり。

 さあ残りの話もチェキチェキいきまっせ。
 感想と批評待ってマース。



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