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No.5944の一覧
[0] 【完結】トリッパーメンバーズ(超多重クロス)【外伝更新】[ボスケテ](2011/04/06 01:53)
[1] 第一話 序章開幕[ボスケテ](2009/09/15 13:53)
[2] 第二話 ツフル人の滅亡[ボスケテ](2009/01/25 16:26)
[3] 第三話 宇宙の帝王 フリーザ[ボスケテ](2009/01/25 16:19)
[4] 第四話 星の地上げ[ボスケテ](2009/02/07 23:29)
[5] 第五話 選択・逃避[ボスケテ](2009/02/15 01:19)
[6] 第六話 重力制御訓練室[ボスケテ](2009/02/23 00:58)
[7] 第七話 飽くなき訓練<前編>[ボスケテ](2009/02/23 00:59)
[8] 第八話 飽くなき訓練<後編>[ボスケテ](2009/03/03 01:44)
[9] 第九話 偉大なる戦士[ボスケテ](2009/03/14 22:20)
[10] 第十話 運命の接触[ボスケテ](2009/03/14 22:21)
[11] 第十一話 リターン・ポイント[ボスケテ](2009/03/16 22:47)
[12] 第十二話 明かされる真実[ボスケテ](2009/03/19 12:01)
[13] 第十三話 最悪の出会い[ボスケテ](2009/03/28 22:08)
[14] 第十四話 さらなる飛躍への別れ[ボスケテ](2009/04/04 17:47)
[15] 外伝 勝田時雄の歩み[ボスケテ](2009/04/04 17:48)
[16] 第十五話 全ての始まり[ボスケテ](2009/04/26 22:04)
[17] 第十六話 幻の拳[ボスケテ](2009/06/04 01:13)
[18] 第十七話 伝説の片鱗[ボスケテ](2009/06/22 00:53)
[19] 第十八話 運命の集束地点[ボスケテ](2009/07/12 00:16)
[20] 第十九話 フリーザの変身[ボスケテ](2009/07/19 13:12)
[21] 第二十話 戦いへの“飢え”[ボスケテ](2009/08/06 17:00)
[22] 第二十一話 必殺魔法[ボスケテ](2009/08/31 23:48)
[23] 第二十二話 激神フリーザ[ボスケテ](2009/09/07 17:39)
[24] 第二十三話 超サイヤ人[ボスケテ](2009/09/10 15:19)
[25] 第二十四話 ザ・サン[ボスケテ](2009/09/15 14:19)
[26] 最終話 リキュー[ボスケテ](2009/09/20 10:01)
[27] エピローグ 序章は終わり、そして―――[ボスケテ](2011/02/05 21:52)
[28] 超あとがき[ボスケテ](2009/09/17 12:22)
[29] 誰得設定集(ネタバレ)[ボスケテ](2009/09/17 12:23)
[30] 外伝 戦闘民族VS工作機械[ボスケテ](2011/03/30 03:39)
[31] 外伝 戦闘民族VS工作機械2[ボスケテ](2011/04/06 01:53)
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[5944] 第二十話 戦いへの“飢え”
Name: ボスケテ◆03b9c9ed ID:ee8cce48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/06 17:00

 巨大なパワーを持った存在が、二人のサイヤ人たちの元へと迫っていた。
 変身を遂げ、巨大な体躯へと変貌したフリーザはまず、その標的として距離の近い方の者をターゲットとして選出する。
 それはバーダックであった。
 一直線に凄まじい速度を以って、フリーザがバーダックへと肉薄する。

 「来やがれ、フリーザッ!!」

 「シャッ!」

 激突するバーダックとフリーザ。
 弾けた二つの強烈なエネルギーの相互干渉に、大気が爆裂し激震が伝導される。
 バーダックは視界の片隅で、獲物を後から横取りされ不機嫌な表情のまま舌打ちするリキューの姿を目撃する。しかしすぐに気にすることではないと、忘れた。
 今優先すべきことは、目の前に存在する憎き化け物。宇宙の帝王を名乗るこの強者を打倒することであった。
 リキューの存在など、バーダックの眼中には入っていなかった。

 気勢を上げて蹴りを真横に振り抜く。それをフリーザは巨体でありながら身軽な動作で宙回転しやり過ごす。
 そしてそのまま後ろ回転する中、カウンターに己の長大な尾を鞭の如くしならせ、人の胴ほどもの太さのあるそれを叩き付けた。
 単純な打撃とは異なる生物的な軌道を描く尾の一撃に惑い、不意打たれる様にバーダックは攻撃を喰らって吹き飛ぶ。

 「まだこの程度では終わらせんぞ?」

 彼方へと吹き飛ばされるバーダックに向けて、フリーザが掌を開いて突き付ける。
 瞬間、バーダックの身体がいきなり宙に静止した。バーダック自身のリカバリィではない。外部からの圧力だ。
 全身を不可視の力場が拘束し、締め付けていた。

 「こいつはッ!?」

 「サービスだ………よく噛み締めて味わえ」

 嗜虐的な笑みを浮かべて、フリーザは開いた掌を空を掴む様に力を込め、圧縮した。
 同時に劇的なレベルでバーダックの全身を圧迫する圧力が上昇した。常人ならば軽く挽肉になれるであろう凄絶な圧力が発生し、バーダックが絶叫を上げる。
 精神動力―――サイコキネシスとも称される、フリーザの持つ超能力。それがバーダックを囚われの身とし、苦痛を与えていた。

 「ハハハハハ!! ほらどうした? もっと力を入れて抵抗しろ。それとももう、呆気なく潰れてしまうか?」

 「グ、ギ……ギギギギギッ!」

 全身の筋肉が隆起し、血管という血管が浮き出て汗が流れる。
 さらにまた一段と圧力が強まり、バトルジャケットの一部が砕け散る。フリーザの超能力はバトルジャケットの耐久性などものともせず発揮されていた。
 口から全ての内臓が吐き出しかねないほどの超圧力空間。死の領域。
 ちらりと眼球だけを動かし、嗜虐に耽るフリーザを認める。
 こめかみに青筋を浮かべながら、バーダックは叫んだ。

 「グ、ギィ、ガッガガガァッ!! な、舐めるなァァーーーーッッッ!!!!」

 「ッ、こいつッ!?」

 バーダックの全身から“気”が放出され、不可視の力場を吹き飛ばす。
 その予想外の戦闘力の発露に、思わずフリーザは目を見張る。その瞬間、それは間違いなくフリーザに出来た反撃の好機である、隙。
 バーダックはそれを見逃さなかった。全身から“気”を放出した後の体勢から、急な加速制動を以って猪突を敢行。即座に下方を経由しフリーザへと肉薄。熟達した三次元戦法が発揮され、フリーザの意識の間隙を突く。
 そして加速した勢いを衰えさせず、バーダックは拳をフリーザの巨大な体躯の腹部へとぶち込んだ。
 フリーザの身体がくの字に折れ曲がり、ダメージが与えられる。

 「うぉッッ!?」

 「フリーザァッ!!」

 一撃、一撃、そしてまた一撃と、次々に加えられてゆく超連続打撃群。激烈なる轟音が全てを揺るがす。
 二回り以上の体格差がある筈のフリーザが、完璧に押され呑み込まれていた。

 「貴様ァッ、調子に乗るッ!?」

 「だぁりゃあ!!」

 ヘッドバッドを正面から、フリーザの顔面にぶち込む。玉弾きみたいに大きく後ろに頭が下がった。
 また一つ隙を稼ぎ、バーダックは怒涛の攻勢をなおも続行する。
 殴りに殴り、都合三十八連撃。己の有り余る膂力の限りを込めた連撃を与え抜き、そして頃合いと見てまた行動を変える。
 フリーザの腰から生えた、その尾を掴む。そしてそのままフルパワーでフルスイングに移行。立ち直ろうとしていたフリーザが戸惑いの声を上げる。やがて回転が最高潮に達したとき、バーダックは手を離した。蓄えられた運動エネルギーに従い、フリーザが吹き飛ぶ。
 それだけでは終わらせない。バーダックは後を追う。そして両足を揃えて向けたまま、フリーザの背中へと突っ込んだ。
 さらなる撃音。
 ダメ押しの荷重が加えられ、フリーザの勢いはなお一層高められ、その身を遠くへと弾き出した。

 数百mの距離を飛来して、ようやくフリーザは復帰する。
 ピタリと宙に静止し、上下反転した姿勢のまま疑惑に満ちた様子で呟く。

 「馬鹿な………あいつといいこいつといい、何故たかがサイヤ人風情が急にこんなにも戦闘力を? しかも二人もだと?」

 口の端を拭う。フリーザの視線がその拭った手に付着する、己の血へと止まる。
 目元が険しくなり、拳を閉じる。力みに骨が音をたてた。

 「サイヤ人がッ」

 バーダックが接敵する。
 数百mの離された距離を詰めんと、休む間もなく苛烈な勢いを保ったまま突っ込んでいた。
 しかしそれは、ただ真っ直ぐに突っ込んでいる訳ではない。加速の勢いは落とさぬがまま小刻みな変動を加え、幾重もの残像の如き幻惑を演出していた。
 フリーザの手が伸ばされる。人差し指が突き出され、接近するバーダックへと狙いが絞られた。

 「調子に乗るなと言ったぞ、猿がッ!!」

 人差し指が突き出され、放たれる光の軌跡。数十の閃光が立て続けに漏れ出し、同数の集束された気功波が飛びだされた。
 流星の如き光線が、流星を凌駕する速度でバーダックを射抜こうと迫る。舌打ちし、回避へと専念。バーダックの動きが止まり、その行動の全てが回避へと費やされる。
 フリーザの口に嘲笑が浮かぶ。明け透けた悪意が見て取れた。
 埒が明かない。回避を続けながらも、ほんの数瞬の間にバーダックはそれを見抜く。このままではジリ貧だと。
 ならば、然るべき手を打とう。バーダックは即座に思索し決断する。
 迫った光線の一つを回避すると同時に、その場へと止まる。当然そこへと向けて、すぐさまフリーザの気功波の狙いが定まれ斉射された。
 一拍の間すら挟まず眼前に迫る、破壊的な意思を持った気功波。しかしバーダックは怯まない。腰を据えたまま冷静に事態を把握する。これは事前に予測出来ていた展開である。
 両掌を突き出す。集中する意識。刹那の時間で体内のエネルギーを掻き集め、収束させた。

 そして放つ。

 瞬時に形成された巨大なエネルギー波が放たれ、眼前にあった今まさに喰らいつこうとしていた気功波たちを全て呑み込む。
 だが、それだけでは止まらない。放たれたエネルギー波は完全に迫りくるフリーザの気功波を呑み込んだ上に、その勢いを一切衰えさせず、さらにその先に座するフリーザそのものへと牙を伸ばしていった。
 フリーザすらも呑み込まんとするバーダックのエネルギー波。切迫するそれをフリーザは鼻を鳴らして片手で弾く。
 仔細なし。バーダックの行動はもう終わっている。
 フリーザの背後に現れる人影。自身の放ったエネルギー波そのものを迎撃と同時に攻撃、そして目くらましという三つの用途で使用し、バーダックは果たして目論見通り、再びフリーザの懐へと掻い潜ることに成功した。
 バーダックの鍛え培ってきた、膨大なまでの戦闘経験、戦闘論理。それがバーダックの戦術を極めてタクティカルに展開させていた。
 出し抜いた優越。それの幾許かを過分なく感じながら、バーダックは気合いを込めた拳を後頭部目掛けて突き込ませる。

 が………止まった。確実に決まるであろうと思い振るわれた拳は、その寸前で割り込まれた掌によって止められていた。
 バーダックが驚愕に目を見開く。
 熱せられた視線を注ぎながら、フリーザが言葉を発した。

 「そう何度もいいようにやれると思ったか? この下等生物がァ!!」

 拳に、悲鳴が走る。捕獲された拳に加えられる圧力が増大していた。
 逃げられぬ囚われの中、上段から振り下ろされる様に叩きつけられたパンチを顔面にぶち込まれ、今度はバーダックが地上へと向けて数百mの距離を一気に吹っ飛ばされた。




 衛星軌道上という、地に足が付いた状態とは異なる環境。
 そこを戦場としているフリーザとバーダックの戦いは、自然と上下左右ありとあらゆる全方位領域を駆使した、超三次元戦闘となっていた。
 殴り、蹴り、吹き飛ばし、戦火は激しく交差し、戦いの場は激しい攻防を繰り返しながら極自然に数kmもの距離を跨ぎ行われる。
 あっという間に戦場は場所を移していき、それはとてもではないが二つ生命の起こす闘争、しかも等身大の大きさものが起こすものとは信じ難かった。
 しかし、否定しようとも事実は変わらない。現実に非現実的な戦闘は激烈に、熾烈なる様相で繰り広げられている。

 その様子を静かにリキューは観察していた。
 交差する黒い影。爆音響く薄い大気の中での戦闘。圧倒的なる二者の攻防。
 バーダックが組み合ってその首を絞め上げたかと思えば、フリーザがその尾を伸ばして逆にバーダックの首を絞め上げる。
 フリーザがその巨躯から打ち出す強烈な打撃を真正面からクリーンヒットさせたかと思えば、その腕を掴みそのまま動きを封じてバーダックが反撃の一撃を見舞う。
 一進一退の激戦が、飽くことなく続けられていた。

 獲物を横取りされた憤りも収め、リキューは静かに分析していた。
 フリーザとバーダック。一見にして二人の戦いは互角、甲乙つけがたい伯仲した実力同士であると見て取れた。
 どちらも一歩引くこのない実力。長引く戦いになるか?
 ―――否。
 リキューは戦況を眺めながら、その考えを否定する。

 (バーダックが勝っている………フリーザの方が形勢が悪い)

 リキューは間違うことなく、その戦闘の本質を見抜いていた。
 感じられる限り、単純な両者の“気”の大きさにはそう差はない。リキューはそう確信し結論する。戦闘力は互角、それが答え。
 ならば、後の勝敗を決するのは両者の戦術、戦い方次第であるということだ。
 そして戦闘経験において、バーダックを置いて勝る者はこの場には一人とて存在していない。それはフリーザですら例外ではなく、である。

 これはフリーザの戦闘経験が不足している、という訳ではない。比較対象が悪いのである。
 バーダックはその常日頃の戦闘スタイルからして、“己よりも高い戦闘力の持ち主と率先して戦う”という命知らずなものなのであった。
 ツフル人の戦闘力理論においては、五割の彼我差が戦闘力にあれば勝敗が決すると言われているにもかかわらず、それも無視して挑む男であったのである。それゆえに毎回の遠征の度に、死にかけの状態となって帰還してくる羽目となっていたのだ。
 しかし、この自殺願望とすら取れるような無茶な行動。この行動がバーダックに稀有な、圧倒的強者との戦闘経験という代物を大量に蓄積させることとなったのである。
 この蓄積された戦闘経験から構築された、バーダック自身の戦闘技術、戦闘論理。それは感や運などといったものを凌駕する、非常に強力な戦いの冴えをバーダックにもたらした。
 すなわち、本来ならば勝敗が決するとされる戦闘力差があっても戦い抜くことができる。それほどの脅威的な戦闘戦術を手に入れさせていたのだ。
 ゆえがこその、最下級戦士の生まれでありながらのサイヤ人最強。ひたすら戦い抜いた末の珠玉に磨かれた実力を持った、男。

 戦闘力が互角であるがゆえにフリーザは表向き互角の戦闘を成立させてこそはいたが、しかしそれだけではバーダックを倒すには材料が足りなかったのだ。
 一見しての互角な様子も、よくよく見てみればバーダックに戦闘の主導権を握られていた。
 フリーザとてただの強者ではない。ゆえに時折に生じる直感に基づく一撃が強烈な反撃としてバーダックにも決まってはいる。しかしそれだけである。決してフリーザ自身がイニシアチブを握ることはなかったのだ。
 先に動くのは常にバーダック。よってフリーザは常に後手に回らざるをえず、そして徐々に素人目にも見えるほど戦況は傾きを始めていたのであった。

 「さて、どうするフリーザ。そのまま負けるか?」

 期待を潜ませて、言葉を呟く。当然そんな声量の言葉が戦闘中のどちらにも聞こえる筈がない。
 そうして今また、両手を組んだフリーザが振り下ろした拳を叩き付け、その命中の瞬時に放たれたバーダックのカウンターの蹴りに吹き飛ばされるその巨体の姿を、リキューは視界に捉えるのであった。




 顔面に叩きつけられる拳。その威力に押され、吹き飛ばされるフリーザ。
 それだけではない。それだけで終わらせる筈がない。下がるフリーザの頭を掴み、さらにその逞しい胸部へと激烈な膝蹴りをぶち込む。フリーザが吐血し、苦悶の声が漏れた。
 連撃を続ける。頭を掴んでホールドしたまま、さらに同じ威力の膝蹴りを繰り返し見舞う。
 一撃。二撃。三撃。四撃五撃―――ッ。
 ふとバーダックは気付いた。いつの間にやらフリーザが、その両腕を大きく開いて構えていることに。

 失策。
 閃光のようにそれに気付く。が、バーダックがアクションを起こす前に、フリーザが先に行動した。

 「しまッ!?」

 「逃がさんぞ、サイヤ人ッ!!」

 閉じられる両腕。それはさながら、獄囚を繋ぐ縛鎖の枷とでもいうべきか。
 屈強なフリーザの両腕は間にいたバーダックの身体を固く挟み込む様にロックし、そのまま圧殺されかねないほどの圧迫を加えるベアハッグに移行した。
 メキメキと肉が潰れ骨が軋む、破滅の音がバーダックの体内から響き始める。超能力による捕縛以上の殺人的重圧が、ピンポイントに発生していた。

 「が、ぎゃぁあああぁぁッッ!! あ、がぁ……ッ、がぁああああーーーーッッッ!!!」

 「散々好き勝手してくれたが、こうなればもう下手な小細工も出来んだろう? クックック……このまま押し潰してやろう、かッ!」

 筋肉が盛り上がり、さらなる加重が生じる。バーダックの苦悶に塗れた悲鳴がさら強まり、辺り一帯へと響く。
 暴れ回るも、その両腕ごと胴体をホールドされたバーダックに成す術はなかった。駄々っ子のように揺れる両足だけが、バーダックに許された抵抗であった。
 フリーザが嗤う。愉悦の声。自身を手こずらせた相手が虫けらのように惨めな最期を晒す姿を見て、その気分を高揚させていた。
 バーダックの視界が、高まる血圧に真っ赤に染まる。締め付けられている胸部部分は骨格と筋肉によって守られていながら、関係ないと言わんばかりに今にも圧縮されそうであった。
 死。イメージされるその一字を、しかしバーダックは苛烈なる意思で否定する。

 (ふざけるな……ふざけるな、フリーザッ!!)

 精神が肉体を励起させる。
 抑えつけられ圧迫されている身体が、その筋肉が膨らみ、血管が浮き上がる。纏う“気”の量が増大し、威圧感に旋風が巻き起こる。
 その抵抗に、フリーザの表情から愉悦が引っ込み驚きが引き出された。

 「こいつッ!? まだこんなパワーをッ!?」

 「アアアアァァーーーーーッッッ!!!」

 爆音と共に拘束を脱する。瞬間的に増大したパワーに、フリーザが弾き飛ばされた。
 舌打ちしフリーザは即座に体勢を直し、確認する間もなく気功弾を撃ち出す。そのフリーザのリカバリィの速度も、この戦いの中で上昇していた。
 しかし、その即座の反応も空振りに終わる。気功弾の先にはバーダックはおらず、攻撃は無駄撃ちに終わったのだ。
 バーダックの姿はその予測よりも、内。すでにフリーザのすぐ懐に肉薄し、近接していた。
 息をのむフリーザ。その胴体に両手を添え………そしてバーダックは全霊を込めた。

 「消えろ! フリーザァァーーーーッッ!!!!」

 「お、おおおおおぉぉーーーッッ!?!?!?」

 “気”が凝縮され、最大級の一撃となる凄烈なエネルギー波が放出された。フリーザの全身がエネルギーに包み込まれ、莫大な推進力によって押し出されていく。
 どんどん、どんどんと速度が跳ね上がり、フリーザの身体が空の果てへと運ばれてゆく。その軌道は惑星ベジータの外へと行き先を描いており、そのまま宇宙へと放り出されかねないほどの勢いが付いていた。

 そのフリーザの吹き飛ばされている、軌道上。描かれるラインの先に、静止する物体があった。
 それは巨大な円盤状の宇宙船。フリーザの乗ってきた専用船であった。

 その宇宙船が丁度、フリーザの進路を遮る位置に停止していたのである。
 このままでは衝突することになるであろう位置取り。その事実に気が付いたであろう、慌てた様子で急に宇宙船が動き始めた。
 がしかし、そのアクションは遅すぎた。
 退避は間に合わず、フリーザは自身を押し出していたバーダック最大級のエネルギー波ごと宇宙船へと突っ込んだ。

 直撃。
 間髪入れず、爆発。
 尋常を凌駕する過剰なエネルギーの直撃を受け、宇宙船は一秒とて耐えることなく爆散し宇宙の塵となった。

 荒い呼吸を行いながら、バーダックは警戒を絶えず視線を注ぎ続ける。
 手応えはあった。いくらフリーザとてダメージは避けられぬ筈である。しかしそうではあったが、仕留め切れたという自信はなかった。
 流れる汗を拭い捨てる。その時、果たして、爆煙渦巻く塵となった宇宙船の残骸が舞う中から、異形の人影が姿を現した。

 「っち………タフな野郎だぜ。あれだけの攻撃を受けたってのに」

 舌打ちして毒づく。
 無傷ではなかった。その身体の節々には多くの傷が生じ、相応のダメージが刻み込まれていることを示してはいる。しかし、それだけである。
 憤怒の表情を浮かべるフリーザの姿には衰える様子は見えず、未だ戦闘続行が可能であることを雄弁に語っていた。
 すでに少なくない数の攻撃を加えているにもかかわらず維持されている、その戦闘力。その肉体の頑健さは信じられないほど強靭であった。
 フリーザよりも受けた打撃の数が少ない身でありながら、バーダックの方がその息は荒くなっていたのだ。
 単純なダメージの蓄積量はともかく、タフネス、スタミナにおいて、バーダックはフリーザに大きく劣っていた。

 とはいえ、それは決してバーダックを窮地に追いやる要素とは足り得なかった。
 すでに勝利の趨勢は傾いていた。フリーザに勝ち目はない。バーダックはそう確信に至っていた。
 戦闘力に差はなけれど、常に戦場のコントロールを自身の手で担い、好きに戦闘を繰り広げることが出来ていたのだ。
 フリーザに勝利の芽はない。戦闘力が互角であるからこそ、逆にその事実をことさら強くバーダックは認識する。
 タフで結構、しぶとくて結構。粘ると言うのならば、その全ての体力を削り落し抹殺する。

 (未来は、この俺が変える。フリーザ、貴様をこの手で倒してでだッ!)

 バーダックの口元が、弧を描く。内心の動きが面に漏れていた。
 それ見て、フリーザの様子が変わる。憤怒を抑え怒りを積層させていた様子から、ふと抑えられていた枷が抜かれたかのように、力が一瞬抜ける。
 場違いな、予想を外す動作。違和を感じ、眉を顰める。

 「………何だ、いったい?」

 「このフリーザを、ここまでコケにしてくれるとはな。とことん目障りな野郎どもだよ、貴様らサイヤ人は。………何だ? まさか貴様、本気でこのオレを倒せるとでも思っているのか?」

 「今さらこの状況で何を言うのかと思えば、ボケるなよフリーザ。貴様はこの状況から逆転出来るとでも抜かす気か? ッハ、寝言は寝てから言いやがれ!」

 フリーザが嗤う。不気味な余裕が浮かべられ、先程までの憤りなどのネガティブな精神が消えていた。
 ただのブラフだと思いながらも、しかしバーダックの背筋に得体の知れない悪寒が走る。
 尊大な仕草で、フリーザが言葉を述べた。

 「貴様を絶望に突き落とすために、あるいいことを教えてやろう。このオレ、フリーザは変身を行う度に戦闘力を圧倒的に増す。圧倒的にな」

 「変身だとッ? ザーボンの野郎みたいにか!?」

 「ザーボン? クククク、あんなチャチなレベルのものじゃあない。もっと恐ろしく、強大な変身だ。そしてその変身を、オレはあと二回残していると言ったら、どうする?」

 バーダックの眼が大きく見開かれる。脳裏には変身したザーボンの姿、あるいは大猿となった自分たちサイヤ人の姿がフラッシュバックする。
 強大なまでの戦闘力を得る変身。しかもその変身がまだ複数回、具体的にあと二回も残っているという言葉。
 自身もまた変身によって戦闘力を増大させる種族であるがために、より強くその言葉はバーダックの心身へと深く沁み入った。
 フリーザが大きく宣言するように言い放つ。

 「見せてやろう、薄汚いサイヤ人ども! このフリーザの第二の変身を!! 光栄に思えよ? なにせ、かつてこの宇宙の支配者を気取っていた、古臭い遺物を相手にしたときにも見せなかった姿なんだからな。この姿を見せるのは貴様らが正真正銘、初めてだッッ!!」

 フリーザが両手を握りしめ、全身の筋肉を緊張させて腰だめに構える。
 そして鋭い呼気が吐き出す同時、その両肩部から背後へと向けて長さ1m程度の角がずるりと現出した。
 バーダックが愕然とする中、変化は続く。
 ショルダー保護のように覆われていた鎧の様な強皮質部分の一部が剥がれ、伸長拡大化し外へと伸びる。
 全身の3m越す巨大な体格が縮小をはじめ、代わりとばかりにフリーザの顔面が全面にせり出すように歪み、後頭部が長く後ろへと延長していく。

 そうして、時間にしておおよそ10秒もかからなかった程度の時を経て、バーダックの眼前の変身は完了した。
 その場にあるだけで強力なプレッシャーを放つ巨躯がなくなった代わりに、その不気味さが突出し強化された姿をフリーザが晒す。
 端的な外観の印象だけで言えば、先程の姿に比べてそれは弱く感じた。身長が半分以下となり、パワーの低下を見る者のイメージに喚起させていたからだ。
 やはり虚仮脅しか。身体に走る怖気を無視し、バーダックがそう思考する。

 それは願望の色が濃すぎる楽観だった。

 フリーザの姿が消失する。
 己の動体視力を圧倒的に凌駕するスピード。バーダックが慌てて見回すも、完全にその姿を見失う。
 焦燥。その時背後からかかる、声。

 「さて、それでは第二ラウンドを始めましょう」

 「ッ!?」

 振り向いた瞬間、その頬に衝撃が走り吹き飛ばされた。
 回る視界。激しくシェイクされた脳が著しい体調悪化を訴え、現状の把握に意識が追い付かない。
 吐き気と混乱だけが脳裏を支配する。どちらの方向へ吹き飛ばされているのか、そもそも自分が本当に今吹き飛ばされているのかどうかすらも不明瞭な認識。
 まずい。咄嗟にその言葉が思い浮かぶ。

 意地を振り絞り、全身の不調を呑み込んで活気させる。叫びとも言えぬ声を上げて、全身から力を放射しその場に止まるよう図った。
 ギュンと、重力落下していた身体が静止する。リカバリィを果たし、そして口の中に違和感を覚えてそのまま吐き出した。
 欠けた歯の一部が吐き出される中、バーダックの警戒はただ一点に注がれる。
 腕組みし余裕を浮かべる存在。フリーザ。バーダックの知覚を完全に凌駕して背後に回り込み、ただ一発の拳だけでこうまでもダメージを与えた存在。

 息が乱れる。バーダックは己の身体に生じる異変に気付くこともなく緊張したまま、視線を動かせない。
 “気”を感じる能力を持っていないにもかかわらず、バーダックの肌は、本能は、まるで圧迫されたかのようにフリーザの存在に萎縮していた。
 強張った身体。萎縮した精神。
 それは紛れもなく、恐怖と呼ばれる感情の脈動であった。
 ただ一度の攻撃を受けただけで、バーダックの無意識は彼我の間に横たわる絶対差を認識してしまっていた。

 「どうしましたか? 先程までの威勢の良さは何処へ行ったのです。そちらから来ないというのならばどれ、仕方ありません。私から動くことにしましょうか?」

 「く………くそたっれェーーーーッッ!!!」

 フリーザのわざらしいほどの余裕の表れに、バーダックが弾かれたかのように突撃する。
 叫びを張り上げることで己の無意識が下した判断を否定し、無理やり戦意を高揚させて身体を沸き立たせる。
 フリーザが馬鹿にするような嘲笑を発する。数百mの距離を瞬く間に消費して突き込まれた拳を、頭を横に逸らすだけで難なくかわした。
 気勢を上げながら、なおもバーダックは猛攻を続ける。
 連続して振るう拳撃の雨、蹴打の嵐。しかしそのいずれも肌にかすることすらせず、完全に見切られ避けられる。
 認め難い現実。さらにがむしゃらとなってバーダックは拳を振るい、そしてその拳が避けられず、受け止められた。
 リズムを外す行動。思わず動きが止まったその刹那、フリーザが喋った。

 「では、そろそろこちらから反撃するとしましょう」

 そして呆気なく、打ち上げられる様なアッパーがバーダックの腹部にめり込んだ。
 その一撃は、重く、苦しい、予想以上の威力を誇った代物であった。一切の役目を果たすことなく、腹を護るバトルジャケットが粉々に砕けて舞う。
 甚大なるダメージ。迸る激痛に、バーダックの呼吸と動きが止まり、そのまま腹を押さえて後ろへと身体が流れた。

 「か………っか、はッ………」

 「せっかくこの姿まで晒したのです、この程度で終わらせはしませんよ。あなた方は責任を取って、もっと粘ってもらわなくては」

 「はぁ……はぁ……はぁ………こ、この野郎ォーーーッッ!!」

 流れる脂汗を、張りつく不快感を振り払ってエネルギー波を打ち出す。しかし不意打ち気味の早撃ちでありながら、その手応えはなかった。
 フリーザが現れる。バーダックのすぐ眼前。エネルギー波を発するために伸ばされた腕の内、顔のすぐ手前数cmの距離に。

 「ッな!?!?」

 「ひゃはッ!」

 奇声と共に、フリーザが二指を立てて突き出した。
 その指先から弾丸状の気功弾が凄まじい速度で発射され、バーダックの身体を穿ち吹き飛ばした。
 苦痛の声を喉で押し殺しながら、脇近くに被弾したその傷口を抑える。バトルジャケットはまた砕け散り、バーダック自身の“気”の護りすらないものとして、その攻撃はいとも容易く身体を抉っていた。
 フリーザの姿が、また消える。この場から撤退したのではない。耳に聞こえる嗤い声がそれを証明する。バーダックの周囲を超高速で移動し続けているのだ。
 その動きを見ることも、先程の攻撃を見ることも出来なかった。
 圧倒的な戦闘力差が、目に見える形で叩きつけられていた。それは心を折る絶望に身を塗れることと同意義である。

 (まだだ、まだ諦めてたまるか。フリーザ、貴様なんぞに負けてたまるかッ!!)

 身を蝕む絶望の澱を、確固たる意志が駆逐する。託された想いが、バーダックの足元を強固にし背中の後押しをする。
 まだ折れてはいない。バーダックの闘争の意思は、勝利への執念は潰えてはいない。

 ―――だが、所詮それは精神論だけの話に過ぎない。

 「それ、お一つどうぞ」

 「ぐぁ!!」

 背後から突如打ち出された気弾に射抜かれ、悲鳴を漏らす。
 急ぎ振り返ろうとするも、その前に今度は二つの気弾が全くの別方向からそれぞれ飛来し、バーダックの知覚の外から身体を穿つ。
 今度は三つが。
 さらに次には四つ。
 気弾はどんどん数を増やし、そしてしまいにはありとあらゆる上下左右の角度から降り注ぎ穿つようになった。
 堪らず、バーダックは亀のように腕を顔の前で十字に組み、身体を固めるしか取る手がなかった。
 姿が、全く見ることが出来ない。攻撃しているフリーザ本人はおろか、その降り注ぐ気弾それ自体の姿すら目に認めることが叶わなかったのだ。
 組んだ腕の隙間から必死に目を動かすも、残像すら捉えれない。

 (速いッ! くそ、速過ぎて攻撃が見えねぇ!!)

 余りにも速すぎるその挙動に、翻弄される。
 反応が追い付かず、防御が追い付かず、攻撃などはすると考える余裕すらない。
 全身をドリルのように穿つ気弾が責め苛み、一方的に叩き潰される。
 そして気弾が止んだかと思った次の瞬間、また反応は追い付かず、強烈な打撃を腹部にめり込まされて吹き飛んだ。

 「おやおや、どうしましたか? まだ始まったばかり、お楽しみはこれからですよ。ひゃひゃひゃひゃひゃ」

 「が、はぁ! く………そッ!! フリーザァーーーー!!!!」

 全身のパワーを全開にし、真っ正面からフリーザへと突進する。
 蒸気のように吹き出る“気”の迸りをそのままに、直前に目くらましと牽制を兼ねたエネルギー弾を打ち出す。
 避ける素振りすらなくそれはフリーザへと命中し爆煙が上がる。バーダックは迷う素振りなく自身もまた爆煙の中へと突撃し、全身全霊を込めた右ストレートを身体ごと飛び込ませ、打つ。
 決まれと言う必中の願い。が、それは外れた。
 手応えなく空振って、バーダックの身体がそのまま爆煙の中を突っ切って宙を泳ぐ。

 「な!? ど、どこだ!? どこに行きやがった、フリーザッ!!」

 「ここですよ」

 しゅるりと、いつの間にか忍び寄っていた尾が、バーダックの首にとぐろを巻いて引き締まっていた。
 狼狽しながら反射的に縛りを解こうと首に手を伸ばし尾を掴むも、遅い。その前にフリーザが動き出した。
 がくんと身体が首を基点に引っ張られる。フリーザが急加速を始め、引き摺られてバーダックの身体もまた加速していた。
 加速方向は、下。重力の引かれる方向、地表へと向けて垂直直下を行っていた。
 風、大気を切る轟音が耳に響く。衛星軌道上の高度約35000km地点から真っ直ぐに全力直下し、ほんの数秒足らずで成層圏から対流圏すらも突破し、激しい大気摩擦で二人の身体が赤熱化を起こす。一切減速されぬ加速の中、どんどんと惑星ベジータの赤茶けた地表が目の前に大きく姿を表し始める。

 そして高度が、大地から僅か200mも満たぬ地点にまで達したとき、フリーザが動いた。
 くるりと回転したかと思うと、絡め取っていたバーダックの身体を振り回し、そのまま尾を離して遠心力を付加したまま大地へと向けて放り投げる。

 「あああああああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」

 音速を遥かに凌駕する超速度を維持したまま、バーダックはその身体を大地へと叩き付けられた。
 轟音が周辺地域一帯に響き渡る。遥か天空の彼方から真っ直ぐに加速された人間大の物体が叩き付けられたことで、派手に地盤が砕かれ大地が削岩。巻き起こるショックウェーブがさらに後追いして着弾地点を蹂躙し、なおも大地を痛めつける。
 直径が最大4kmにも及ぼうかというほどの歪なクレーターが出来上がり、打ち上げられた巨大な岩石類が改めて着弾地点に空から降り注ぐ。
 バーダックは、現れない。クレーターの中から、出て来ない。

 「くそ………た、っれ…………」

 巨大な大地の傷痕の、中心。その最深部。
 身体の半分以上が埋もれた状態の中、バーダックは衝撃に軋む全身の激痛に呻き、がぼりと巨大な血の塊を吐き出した。
 あまりにも酷いダメージに、意識が朦朧としていた。当たり前である。隕石が普通に地表に落ちる衝撃を遥かに凌駕する激震を、その身一つで受けていたのだから。普通の生物ならば珪素生物とて死に至るほどのレベルの衝撃を、である。
 むしろ、命を繋いであること。そちらの方こそが異常極まることであった。幾らサイヤ人であろうとも、この衝撃は死んで当たり前なレベルの代物であったのだ。

 「フ、リー…………ザ……………………」

 意識が途絶え、バーダックの身体から力が抜ける。
 そしてその身体を、空から降り注ぐ岩石類が積もり埋めていくのであった。




 「さすがに死にましたか、あのサイヤ人も」

 上空から巻き上がった岩石類を払いつつ、様子を眺めていたフリーザが呟く。
 一向にバーダックが出てくる様子はなく、クレーターの中心部分は降り積もった岩石類で覆い隠され始めている。
 とはいえ、さすがにクレーターそのものが隠れる様子はない。当然であった。巻き上げられた堆積物程度で埋め立てられるほど、生易しい大きさのクレーターなどではない。

 フリーザは経過を見て、バーダックは死んだものと片付けた。
 いくら強かろうが、所詮はたかがサイヤ人である。不死身なんていう規格外な化け物でも何でもなく、ぶち殺せば死ぬ柔な生き物だ。

 「まあ、念には念を入れておきますか。虫けらほど煩わしいものもありませんですしね」

 手を直下のクレーターへと向ける。広げられた掌にパワーが集められ、気功弾が形成される。
 そして無造作にフリーザはその気功弾を解放した。
 掌から弾かれたかのように打ち出され、直下の大地へと真っ直ぐに落下する気功弾。その威力は抑えられてはいるものの、優に出来たクレーターそのものを消し飛ばす程度のものは持っていた。
 バーダックの命を確実に消し尽くさんとする光が、迫る。

 がしかし、気功弾は大地に着弾する前に、急に横合いから飛び出してきた光線に弾かれ、消し飛ばされた。

 眉を顰め、視線を光線がやってきた方向へと動かす。隠れることもなく、下手人は宙へと浮いてそこに存在していた。
 最初にフリーザと相対し、そして変身を促した無謀且つ正体不明なる、一人のサイヤ人。
 その男、その名をリキューと言った。
 確認するように、フリーザが言葉を呟く。

 「そう言えば残っていましたね。無謀で愚かなサイヤ人が、あともう一人。これだけの力を見て、貴方はまだ戦う気が残っておいでで?」

 「当然だ。フリーザ、元々貴様はこの俺と戦う予定だったんだ。バーダックとの戦いなんて、所詮は俺との戦いの前のただのおまけ……前座でしかないんだよ」

 「まったく、サイヤ人という種族はつくづく愚か者たちばかりですねぇ………敵いようがない相手に向かって、こうも自分から頭を突っ込んでいくのですから。いい加減、目障りにも程がありますよ」

 「敵わない? ッハ、それは自分の目で確かめてから言うんだな、フリーザ。この俺の実力を、ただ見るだけで把握した気になぞなるなよ」

 「分かりますよ、たかがサイヤ人風情の実力なぞは」

 沈黙が流れる。
 漂い落ちる堆積物と粉塵の煙を背景に、両者が向かい合い視線を交える。
 そうして、火蓋は突如として切って落とされた。

 「ひゃあッ!」

 二指を突き立て、フリーザが指先から気功弾を撃ち放つ。
 バーダックの全身に喰い込み成す術なく肉を抉った、高速飛来気功弾。それが抜き打ちにリキューへと向けて放たれる。
 着弾必定、バーダックではそうであった攻撃。
 しかしリキューはそれを、至極あっさりと命中前に片手で弾いた。

 「なに?」

 「どうしたフリーザ、この程度か? 二回の変身で戦闘力が高まってるんだろ?」

 「生意気な口を叩いてくれますね………増長するのも程々にしなさい」

 再度、フリーザが鋭い呼気を放ち気功弾を見舞う。今度は両手、連続射撃へと切り替えて。
 奇声を上げながら放たれる弾幕の如き気功弾の瀑布。それを正面からリキューは待ち構え、受け止めた。
 バーダックが見切ること叶わなかった気功弾を全て、一つ一つ見切り把握し、その両手の動きだけで全て弾き飛ばす。
 なおも止むことなく続けらるフリーザの攻勢を、なおも続けて変わる様子なくリキューは捌き続ける。
 そのままの状態のまま、しばらく時間が経つ。

 っちと、舌打ちする。そしてフリーザは自分から攻撃の手を止めて、両手を下げた。
 様子を見れば、バトルジャケットに傷一つ付いていない状態のまま、リキューは悠然と肩などを鳴らしてリラックスしていた。
 気に入らないな。内心からごく自然にフリーザはそう思い、視線を険しく、表情を能面のように固める。
 ちょいちょいと、リキューが人差し指を曲げて挑発した。

 「来いよ、フリーザ」

 「減らず口を、調子に乗るなサイヤ人ッ!!」

 超速で突撃してきたフリーザの肘打ちを、同じく腕を曲げてリキューが受け止めた。
 干渉する両者の波動が打ち合い相殺し、激震の波紋を空中に刻む。
 そのまま雪崩れ込む様に二人は肉弾戦へと移行していき、戦いはより激化した様相へと姿を変えていくのであった。




 地上にあった岩山の一つが、粉々に粉砕される。
 激烈なる戦いの爆音を響き渡らせながら、二つの黒い人影が凄絶なスピードで地を駆け空を昇り、所構わず破壊の目を周辺環境に振り撒いてゆく。
 宙空でもはや何度目かも分からぬ再激突をする、リキューとフリーザ。その余波でまた一つ、地形が変形し崩壊する。

 「ひゅッ!」

 「っち!!」

 フリーザがかざしたその手から気功波が放たれ、そのタイムラグのない即効性に舌打ちしながら弾き返す。
 その向こうには、すでにフリーザの姿はない。超スピードによるかく乱。バーダックが言い様に嬲られたその戦法だが、しかしリキューは動じない。
 視線すら動かさず真横に拳を突き出す。確かな手応えが返り、殴り飛ばされたフリーザが痛みの硬直しながら姿を現した。
 苦しみに腹を抑えながら、その瞳は間違いようのない疑問の色を浮かべている。

 「な、馬鹿な………き、貴様、何故この私の動きを?」

 「貴様は結局目で見てるだけなんだよ。だからどれだけ動きが速くても、楽に見切ることが出来る。それに………」

 リキューの姿が、消える。
 フリーザがそれに驚く中、一瞬にして背後に回ったリキューがその伸びた後頭部に、叩き切らんとばかりに手刀を下からすくい上げる様に打ち込んだ。
 轟く鈍い音。肉を裁断しかねない威力の打撃を無防備に喰らい、フリーザの眼球が飛び出そうに見開かれる。
 痛みにフリーザがおののく中、するりと離脱しリキューは言い放った。

 「貴様の動き自体、そんなに驚くほど速くはないぜ、フリーザ?」

 「こ、この猿野郎がァーーーッッ!!」

 フリーザが咆哮し、その戦闘力が全開にされた。
 爆発の様な衝撃がただそれだけで発生し、リキューの身体を圧す。ほうと、感嘆の声をリキューは漏らした。

 (二回の変身だけでも、これだけの戦闘力を発揮するのか)

 感じる“気”の予想外の大きさに、内心でのフリーザの戦闘力予測値にリキューは修正を入れる。
 時雄から聞いた限りの予想では、まだこの段階では戦闘力はリキューを遥かに下回るとの話であった。だが、目の前で実際に放たれる“気”の大きさの程は、それと言う程隔絶した差はないとリキューに思わせた。

 「ッキェ!!」

 「っふ!」

 打ち込まれる正拳を、甲で逸らし受け止める。その衝撃にビリビリとした震動が、リキューの腕を走った。
 久しく感じていなかった、ややこしい法則や制約に縛られない単純なパワーによる打撃、戦闘力の発露。
 リキューの心に歓喜の念が、少しだけ生まれる。微妙な手加減の必要のない、文字通りの全力全開にて戦いに挑めるのだという予感が、本能を刺激していた。
 逆の手で続けて打ち込まれた拳を、同じくもう片方の掌で掴み取り、そのまま力比べの体勢へと両者が移る。

 競り合う力と力の狭間に、生き場を失った主なき力の吹き溜まりが形成され、関係ない外の環境へと逃げていく。溢れる余波による空間の軋み。不穏な気配がひたすら第六感を刺激し、得体の知れぬただ不愉快な空間が構築されていく。
 徐々に、徐々にとリキューが後退し、押されていく。フリーザの全身の筋肉が盛り上がり、力の限りで押し進むそのパワーにリキューが下回る。
 その事実が、ただ愉しくリキューは笑った。

 「貴様、何がおかしい?」

 「楽しいのさ、フリーザ」

 怪訝そうなフリーザに、多くを語らずそれだけを返す。
 そしてリキューは、久方ぶりに、本当に久しく長い月日を間に挟んで、自身の戦闘力を全開した。
 抑えられていた“気”が上昇し、身体の隅々にまで泉の如く湧き上がる力が染み渡る。筋肉が引き締まり、その能力を単純且つ強力に、より良く絶大に増大させる。

 後退が、止まった。

 異変に気が付いたであろう、フリーザの表情に別の色が差す。
 滾る血潮の指し示すがまま、本能が望むがまま。リキューはその原始的な衝動を抑えず口に出し、行動する。

 「行くぞッ!」

 そしてリキューは蹴り上げた。
 接触状態から下腹部を打ち上げる様に叩き付けられ、そのショックにフリーザが口から空気と苦痛を吐き出す。
 続けて連撃。一歩先へと加速し待ち構え、今度は上から両手を組んだハンマーパンチを全力で振り下ろした。身体の中心に決まり、裂帛音が響く。
 強大な運動エネルギーを強制的に付加され、フリーザの身体は木偶のように地上へと吹き飛ばされた。

 「―――ッギ!!」

 地上へと激突する前、リカバリィし急制動を行うフリーザ。ズンッという地響きと罅を大地に刻みながらも、四肢を付いて無事に着地する。
 そして間髪置かず横へと回転しながらフリーザは動いた。そこへすぐにかすめるようにリキューが両足を揃えて舞い下り、フリーザが着地した地点の地盤を粉々に粉砕する。
 仕損じ、リキューは舌打ちする。そして即座に口火を切ってフリーザが反撃した。

 「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃァーーーーーーーッッ!!!!」

 豪速鉄拳乱打の五月雨突き。極めて安易で明確な暴力圏が殺傷前提で完成し、振るわれる。
 その速度、その威力。さすがに斜に構えていられるレベルではなくなっていた。目を険しくし、歯を食い縛って真剣に対応し応戦する。
 基本は逸らし、それで流せぬ一撃は受け止める。しかしただ受け身に回り続けるには、フリーザの放つ一撃一撃の威力は少しばかり大きかった。ダメージの蓄積に腕が痺れ始める。
 ここに来て、さらなる行動パターンの変化を行う。ただ受け止めるだけではなく、自らもフリーザの連撃の中、拳を振るい始めた。
 爆音が超連続短期爆裂する。衝撃が迸り、その余波だけでまた一つの岩山が崩壊した。

 殴り殴られ、両者互いに吹き飛び、吹き飛ばす。
 横殴りに迫ってきた裏拳を直前に腕を割り込ませて滑り止め、その接触部分を基点に猫のように回転し身体を躍動させる。
 フリーザの頭部を己の両足で絡み取る。暴れる前に、無理やり力でねじ伏せて身体ごと振り回した。

 「おおぉッッ!!」

 宙で回転。両足に絡み取ったフリーザを、頭から大地に叩き込む。
 岩盤を叩き割り頭部が完全にめり込む。足を外して幾度ものバク転を行い素早く距離を取る。
 べこりと粉塵をまき散らし、フリーザが身を起こした。苛烈な視線をそのままリキューへと向け、その瞳からタイムラグなしに収束されたレーザーの如き気功波を照射。

 (っち、避けるのは間に合わないかッ)

 即断し、十字に腕を組んで待ち受ける。気功波がリキューに接触した。
 全身に走る電気的なショック。破壊的なものではない、衝撃を与えることを主眼とした性質の攻撃だった。想定外のダメージに動きが硬直する。
 その隙を見逃さない。フリーザが叫んだ。

 「もらったぞサイヤ人ッッ!!」

 「ぐッ!?」

 超速の突撃がリキューの中心を射抜いた。
 ダイレクトな一撃の直撃。それは戦いを始めて、初めてリキューに決まった有効打であった。
 ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。反応させる暇を与えず、フリーザの猛攻が継続する。

 「シャアッ!!」

 最後に放った、遠心力の込められた強烈な回し蹴りがリキューを吹き飛ばした。
 流される身体を、足を地面にめり込ませながら踏み止まる。がしかし、与えられたダメージにリキューの足元はふらつき、姿勢はふらついていた。
 笑いが、漏れた。

 「はは………思った以上に効いたぜ、フリーザ。まさかここまでやれるとは思わなかったぜ」

 「当たり前だ、虫けらが。アリが恐竜に勝てるとでも思っていたのか?」

 傲岸なる宣言をしながらも、そのフリーザの息は荒い。全身にはリキューとの戦いで刻み込まれた数多のダメージが存在し、著しく体力を削り取っていた。
 対してリキューもまた、その身体には傷が多い。全力を発揮して戦った結果、フリーザにダメージを与えると同時に自身もまた攻撃を喰らっていたからだ。
 しかし、そのダメージの総量で比べれば、両者には決定的な差があった。
 フリーザが息を乱し身体を疲労させているのに比べ、リキューは怪我を負いながらもまだ息を乱さず、その態度に余裕が見えていたのだ。
 フリーザとリキューの二人は、その戦闘力に決定的に隔絶した差は存在してはいなかった。それはフリーザがリキューにそれなりのダメージを与えていることからも、容易に分かることである。
 しかしそれは、隔絶した差がない、ということだけだった。依然としてリキューの方がフリーザの戦闘力を上回っていることは変わりなかったのである。
 それがゆえの、両者の状態の差であった。
 理解しているのかしていないのか、フリーザの表情には熱烈なる敵意だけが渦巻き煌々としている。

 このまま戦えば、自身の勝利は揺るぎないであろう。リキューは驕りではない予測としてそれを確信する。
 多少の手こずりは予想されるが、しかし言い換えれば、逆にその程度の労力しか必要ではないということだ。
 勝利。その文字がリキューのすぐ眼前に、呆気なく差し出されていた。

 だが、だからこそリキューはかくあるべき選択をする。
 それは間違いようのない愚行であった。
 完全にふらつきを捨てて、しっかりと大地を踏みしめた姿勢となって腕を組む。
 そして完全に見下す姿勢を取りながら、上から命令するようにリキューは言い放った。

 「さあ………とっとと最後の変身をしろよ、フリーザ。待っていてやる」

 「なんだとッ?」

 フリーザが、完全に虚を突かれた表情を作る。
 それは信じられないほど愚かな、まさしく愚行としか言いようがなかった。
 まさか、わざわざ相手に塩を送るような行為を、しかもこのような局面で行うなどとは、誰とても思うまい。誰とても行うまい。
 しかし……だがしかし、それをリキューは行った。ただ戦いを楽しむために。自身の身体に根差す戦いへの“飢え”が、その不条理な選択を合理的なものとして行わせたのであった。

 なにせ、この男。わざわざ戦いを楽しむためだけに、相手の力量に応じて手加減を加えるなどということを律儀に実行する男である。
 かつてのある世界では、とある真祖と区分される種の吸血鬼に対して当人が正真正銘の全力を発揮できるように、また別の世界から27の世界を運営する力の一つを宿す始祖と呼ばれる吸血鬼を呼び寄せるなどという、面倒極まる遠大な手段を講じたこともあったのだ。
 こと戦いを楽しむことだけに関しては、他人が真似出来ないほどの労力を支払ってでも行う男なのである。
 もちろん、リキューに自殺願望がある訳ではない。単純に闘争本能が旺盛なだけなのだ。勝てぬ戦いをする気は毛頭ない。しかしそれは逆を言えば、勝てる戦いと分かっているならば率先して挑むということではあるのだが。
 そして、フリーザとの戦いは勝てる戦いである。リキューの脳裏はそう結論していた。それが行動を決断した明瞭な理由だった。
 この判断の一助には、とある男との会話が原因としてあったりしていたのだが。
 ともあれ、リキューは自信に溢れた表情のまま、言葉を続ける。

 「どうした? 早くしろよ。わざわざ貴様が本当の力を、本当の実力を出せるよう待ってやろうって言ってるんだ。それともだ、このまま全力を出せずに負けるか? フリーザよ?」

 「………馬鹿ですね。本当に救いようがない、愚劣な下等生物だよ、貴様らサイヤ人はッ! フフフ、ここまでコケにされたのは生まれてこの方、初めてですよ?」

 「ご託はいいから、さっさと変身しろよ。宇宙の帝王さん」

 青筋を幾つも浮かべながら、フリーザが切れ切れに呟く。それを一言でリキューは切って捨てた。
 いいでしょうと、フリーザが言う。

 「そんなに見たい言うのならば見せてあげましょう。感謝しなさい。自分から地獄を見たいと言う貴様の要望を、親切丁寧に叶えてあげるのだから」

 ギンと、視線が強まる。
 天地がその瞬間、静まり返った。

 「本当の恐怖というものを、貴様に味わせてやるッ!! かぁああああああああああああぁぁぁぁああぁああぁあああッッッッッ!!!!!」

 フリーザが両手を握り締めて身体の前で曲げ、身体全体をずっしりと腰だめに構えさせた状態で叫びと共に奮起する。
 眼球が血走り、盛り上がった筋肉が心臓の脈動に沿った血管収縮に連動し胎動する。
 紫電が迸り、大地とフリーザの間を繋いで眩いだ。

 「“気”がどんどん膨れ上がっていく………いや、より中心に集まって固まっていってるのか?」

 感じ取れる“気”の動きを読み取りながら、リキューは冷静に観察を続けていく。
 その変身はこれまでの二回の変身と比べて、その所要とする時間が段違いに長かった。
 これまでのフリーザの変身が精々10秒足らずの出来事であったのに比べて、優に一分以上もの時間がすでに経過しながら、まだ変身は完了していなかった。
 今までとは明らかに違う。リキューはその予感を大いに強めた。

 「あああぁぁあああぁあああーーーーーーー!!!!」

 長く尾を引きフリーザの咆哮が響く。
 ぴしりと、音がした。発生源はフリーザの肉体。いつの間にやら胎動を止めていたその肉体の表面、肌に亀裂が一筋入っていた。
 ぴしりぴしりと、どんどん亀裂は増えてゆく。彫像のように硬質化していたフリーザの肉体が、あっという間に罅で覆われ、今にも砕けそうな様相となっていく。
 ぎょろりと、一切微動だにしないまま、フリーザがその視線だけをリキューへと向けた。
 真っ向から受け止め、その視線を睨み返す。ふとリキューはその視線に、フリーザの嘲笑が込められていたかのような錯覚を抱いた。

 亀裂の入る音が、止んだ。
 そして次の瞬間、膨大なエネルギーが爆発の如く放出された。

 大地を蹴り、後方へと数十mの距離を一気に取る。
 吹き荒れる暴風に目を細めながら、リキューはそれを見た。溢れかえるエネルギーが円柱状に空へと伸びて、そのふもとにドーム状の発光する力場が形成されているのを。
 エネルギーの放出は、そう間を置かずに静まった。
 巨大なモニュメントとなっていたエネルギータワーが消失し、ドーム状の力場自体も掻き消えて、その跡を土煙が覆う。その土煙もまた、流れる風により呆気なく離散していく。
 やがて、主役がその姿を土煙の中から、悠然と現した。

 ―――のっぺりとした、白い肌。

 ―――身体の各所にそれぞれ存在している、結晶の様な彩色のこぶ。

 ―――子供程度の身長しかない、小柄な体躯。

 フリーザ最終形態。宇宙の帝王、その真なる姿。
 決定的にこれまでの形態とは異なる、その余計な器官類を全て排除したかのようなフォルム。それはこれまで以上に矮小な印象を、見る者周囲に与えるものだった。
 しかし、リキューは見た目に惑わされず、見た。その身に内在する、潜在パワーの迸りを。
 明確には分からない、ただ存在しているとだけ分かるそれの大きさ。それもまた先程までの形態とは、一段と変容していた。
 ひゅんと、フリーザが動く。リキューの手前10m程の位置に辿り着き、その無感情な視線を向ける。
 雑念の混じらない動作。何も考えていないただの一動作だけで、先程の形態の機動に匹敵する速度で移動していた。
 にやりと、リキューの高揚する精神の高ぶりが表に出た。

 「それが貴様の本当の姿か、フリーザ」

 「そうだよ。それじゃ、早速第三ラウンドを始めようか? さっきまでのお返しを、たっぷりとしなくちゃいけないしね」

 「出来るのか? 貴様が」

 「出来るさ。それに、さっきも言っただろ?」

 緊迫感が、ただただ高まっていた。
 空気が凍る。大地が揺らぐ。天がざわめき、心が震えた。
 リキューが構えを取る。“気”は一切抑えない、間違いようのない全開状態。戦闘力430万という数値の指し示す、強大な能力の発露。
 対して、フリーザもまた構えを取った。一本足に見せる様に両足の先を重ね、僅かに前傾姿勢となって両手を大地へと向けて広げる。
 先程までその身体に刻まれていたダメージ。そして散々に感じていた幾多の激情。その全てを洗い流したかのような真白い肌を映えさせながら、フリーザは言った。

 「君には本当の恐怖を味わせてやる、ってね」

 「ぬかせッ!」


 ―――そうして、激突が始まった。








 ―――あとがき。

 祝二十話。今回はあっさりめ。
 感想くれた方々ありがとうございました。オリ主最強なんて地雷を踏んでくれた人たちがこんなにもいてくれて作者は果報者です。
 さて、ちゃきちゃきリンに汚名を挽回させないとね。
 感想と批評待ってマース。



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