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No.5944の一覧
[0] 【完結】トリッパーメンバーズ(超多重クロス)【外伝更新】[ボスケテ](2011/04/06 01:53)
[1] 第一話 序章開幕[ボスケテ](2009/09/15 13:53)
[2] 第二話 ツフル人の滅亡[ボスケテ](2009/01/25 16:26)
[3] 第三話 宇宙の帝王 フリーザ[ボスケテ](2009/01/25 16:19)
[4] 第四話 星の地上げ[ボスケテ](2009/02/07 23:29)
[5] 第五話 選択・逃避[ボスケテ](2009/02/15 01:19)
[6] 第六話 重力制御訓練室[ボスケテ](2009/02/23 00:58)
[7] 第七話 飽くなき訓練<前編>[ボスケテ](2009/02/23 00:59)
[8] 第八話 飽くなき訓練<後編>[ボスケテ](2009/03/03 01:44)
[9] 第九話 偉大なる戦士[ボスケテ](2009/03/14 22:20)
[10] 第十話 運命の接触[ボスケテ](2009/03/14 22:21)
[11] 第十一話 リターン・ポイント[ボスケテ](2009/03/16 22:47)
[12] 第十二話 明かされる真実[ボスケテ](2009/03/19 12:01)
[13] 第十三話 最悪の出会い[ボスケテ](2009/03/28 22:08)
[14] 第十四話 さらなる飛躍への別れ[ボスケテ](2009/04/04 17:47)
[15] 外伝 勝田時雄の歩み[ボスケテ](2009/04/04 17:48)
[16] 第十五話 全ての始まり[ボスケテ](2009/04/26 22:04)
[17] 第十六話 幻の拳[ボスケテ](2009/06/04 01:13)
[18] 第十七話 伝説の片鱗[ボスケテ](2009/06/22 00:53)
[19] 第十八話 運命の集束地点[ボスケテ](2009/07/12 00:16)
[20] 第十九話 フリーザの変身[ボスケテ](2009/07/19 13:12)
[21] 第二十話 戦いへの“飢え”[ボスケテ](2009/08/06 17:00)
[22] 第二十一話 必殺魔法[ボスケテ](2009/08/31 23:48)
[23] 第二十二話 激神フリーザ[ボスケテ](2009/09/07 17:39)
[24] 第二十三話 超サイヤ人[ボスケテ](2009/09/10 15:19)
[25] 第二十四話 ザ・サン[ボスケテ](2009/09/15 14:19)
[26] 最終話 リキュー[ボスケテ](2009/09/20 10:01)
[27] エピローグ 序章は終わり、そして―――[ボスケテ](2011/02/05 21:52)
[28] 超あとがき[ボスケテ](2009/09/17 12:22)
[29] 誰得設定集(ネタバレ)[ボスケテ](2009/09/17 12:23)
[30] 外伝 戦闘民族VS工作機械[ボスケテ](2011/03/30 03:39)
[31] 外伝 戦闘民族VS工作機械2[ボスケテ](2011/04/06 01:53)
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[5944] 第二話 ツフル人の滅亡
Name: ボスケテ◆03b9c9ed ID:ee8cce48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/25 16:26
 因果、という言葉がある。
 
 原因があって、結果があるということを意味する言葉。シンプルで分かりやすく、好きな言葉である。言われてみれば単純で当たり前だが、改めて考えてみて深いと感じる。
 
 そして、だからこそ俺は考える。
 
 目の前で揺らす自分の尾を見ながら、はたして、俺をこの状況という“結果”になった“原因”は何なんだろうか? と。
 
 考えたからといって、分かる話じゃないが。
 
 
 
 
 惑星プラント。この惑星自体は、肥えた星という訳ではない。
 
 標準の10倍の重力という過酷な環境により、元々生命を育むには厳しい土壌だという前提もあるが、その大部分の原因はツフル人自身の手によるものである。
 
 現実世界における人類の発展、それによる地球環境への被害。
 
 それとほぼ同じことが、過去の惑星プラントで起こったのだ。現在でこそほぼ完璧なエコロジーを確立させ、完全循環型の都市機能も実現させているツフル人だが、そのテクノロジーを手に入れる過程で発生した弊害は、惑星プラントを汚染し元々の痩せた土地を更に荒廃させたのだ。
 
 惑星プラントの環境再生プロジェクトなども過去に計画されたことがあったが、計算した結果、再生させるにあたって膨大な時間と労力が必要で、宇宙開発による他星開拓の方効率的であることが分かり、以後ツフル人は宇宙開発に力を取り組むことになったのだ。
 
 ツフル人は今の状態に満足などしていなかった。
 
 より良き発展を、更にその先へ。発展に発展を重ね、今だ見ぬ高みの園へ。
 
 そして目指すは、全宇宙をその手に掴むまで。
 
 その熱意、あるいは執念が今日のツフルの発展を築き、そして今のツフル人たちを動かす原動力となっているのだ。そして、決してその野望は夢物語として終ることはない。その準備は、確たる現実として進んでいるのだ。
 
 個人が装備する、多目的索敵機兼通信機であるスカウター、強力な兵器群、高性能な宇宙戦闘船。そしてサイヤ人や、他星系の強種族を参考に研究し、その成果が出始めている戦闘用人工生物……。
 
 これらの成果物に加えて、自分たちの手足として従属するサイヤ人たち。
 
 もう一度言おう。ツフル人の野望は、決して夢物語ではない。彼らは決して立ち止まらない意思を持ち、困難にくじけない優秀な頭脳を持ちり、そして真にそれが邪悪であると思わぬ心の持ち主である。
 
 ツフル人たちの栄華は今まさにこの時であった。一切の不安はなく、明日への希望のみが胸を満たし、そして目的へ邁進する活力に溢れていた。彼らがこのまま時を過ごしていたら、誇張もなく10年後には現宇宙で勢力を広げるフリーザ軍団すら排除し、全宇宙を彼らの天下に手に入れることができただろう。
 
 しかし、やはり結局は、それは叶わない夢となるであろう。
 
 なぜならば、今日この日は、惑星プラントの衛星・月が真円を描く日だからだ。
 
 
 
 
 
 粗末で原始的なサイヤ人の住居。衣装もロクな加工もしていない何らかの動物の皮を身体に巻いただけの、至極単純なものでありながらそれなりに生活できているのは、やはりサイヤ人の身体に秘められた強いバイタリティのおかげであるのか?
 
 そんなどうでもいいことを考えながら、リキューは広間の適当な場所に腰を下ろして、目の前の風景を眺めた。
 
 広間には珍しいことに、ほぼ全てのサイヤ人が集まっているようである。とはいえ、その数は400人前後で、小学校の全校生徒よりも少ない。元々惑星プラントに漂着した時点で人口は100人程度で、その後もツフル人というパトロンを得たのだが、戦闘民族という性ゆえか戦いに明け暮れ、爆発的な人口増大は見込めなかったのだ。(とはいえ、これでもサイヤ人の歴史から見て飛躍的な人口増加であることは事実である)
 
 実際問題、サイヤ人たちにとっても最重要視されているのは戦闘であり、種の保存といった事柄は関心の範疇にはない。
 
 リキューの目に映るサイヤ人たちは総じて野性的な風貌、人格をしており、原因は分からないが、現代の日本人の記憶を持っているリキューにとって接しがたい人間たちである。だから特に会話をするわけでもなく、ただリキューは沈黙を選ぶ。周囲のサイヤ人もエリートとはいえ、大して戦闘力も持っていない子供なぞに興味がないので適当に無視した。
 
 リキューは沈黙を保ちながら、心中で溜息を吐いた。
 
 
 (……別に、好き好んで孤立したいわけではないが、だからと言って凶暴な人間と進んで話したいとまで思えるほど、人付き合いに飢えちゃいない)
 
 
 リキューは自分をサイヤ人たちと比べて理知的であり、落ち着いた人格をしていると思っている。確かにそれは事実である。サイヤ人は闘争本能が強く、情緒が豊か……悪く言えば、直情的であり、加えて生来の凶暴性を有した人格を持っている。現にリキューと同世代の他のサイヤ人は喧嘩ばかりを繰り返しており、それは大人でも程度の差こそあれど、似たようなものである。決して理性的ではない、という訳ではないが、その方向の大半が戦闘に傾けられているのが現実である。
 
 しかし、リキュー自身が気付いていないことであるが、本能とは元々理性で抑制することはできても、払拭することはできないものである。現に原作において、孫悟空は頭部に生命の境を彷徨うほどの強いショックを受けることによってサイヤ人が持つ凶暴性を抑えられることができたが、大猿化した時にはその凶暴性の全てを発揮させたし、超サイヤ人になった時もそれが人格面に強く表れていた。
 
 本能は、決して払拭することはできない。リキューに自覚症状は全くないが、その人格はすでにサイヤ人の血の、本能による影響を少なからず受け始めているのだ。
 
 
 「静まれ!」
 
 
 広間に声が響く。雑談をしていたサイヤ人たちは会話を止め、同じ方向に黙って視線を向ける。声をかけたエリートサイヤ人はそれを見て脇に下がり、肘を曲げ手の平を胸に当てる礼の態度を取る。
 
 
 「ベジータ王の参上である!」
 
 
 エリート戦士が退いた場所、奥から一人だけ、他のサイヤ人とは異なった装いの人間が現れる。
 
 現戦闘民族サイヤ人の王、ベジータ王である。
 
 それに合わせて、先程まで無秩序に騒いでいた筈のサイヤ人たちも同じ様に礼のポーズを取る。リキューも同じく従う。
 
 普通サイヤ人たちは、ツフル人の宇宙開発計画のために絶えず護衛や侵攻の仕事に従事している。ゆえに住居に全員が集まるということは本来ないことである。これはそれだけツフル人たちがサイヤ人を酷使し、軽視していることを意味している。彼らは自分たちとサイヤ人の身体機能の差を理由とし、法外な労働の正当・恒常化をしているのだ。
 
 しかし、にもかかわらずこの場に何故ほぼ全てのサイヤ人が集まっているのか?
 
 それは至って単純な理由である。ベジータ王からの召集がかけられたのだ。近代のベジータ王は、歴代のベジータ王に比べて非常に優秀な頭脳を持っていた。ツフルの文明から知恵を吸収し、元来の我の強くスタンドアローンが主体であったサイヤ人という民族を、自身の持つ強大な戦闘力を以って統率、指揮下に置いたのだ。加えて、旧来の階級制度にも手を加え体制の改革と、サイヤ人への教育を実施。土人同然であった己ら民族に知恵を与えたのだ。
 
 そしてこれらの全ての行動を、ベジータ王はツフル人に知られることなく行った。
 
 リキューはこの召集の目的を知らなかった。ただ招集命令が伝わって、この場にいるだけであるからだ。それは基本的に他のサイヤ人たちも一緒である。今回の召集の意図を知っているものは、王の限られた側近であるエリートたちだけである。
 
 
 「宇宙最強の戦士たちよ、よくぞ集まった」
 
 
 サイヤ人たちを睥睨し、ベジータ王の声が響く。その言葉を、リキューは黙って聞いていた。
 
 
 「我らサイヤ人は、先祖が交わした約束に従って、今日までツフル人ども手を組んできた。奴らは我らに食糧と住処、そして戦いの場を我らに寄こすものとしてだ」
 
 
 このことはリキューも知っていた。基本的にサイヤ人は放任主義でそうそう自分の子供には構わないのだが、ベジータ王が体制を一新した後からは、子供への基本的な教育がなされるようになったのだ。
 
 
 「だが、しかし。奴らは何を勘違いしたのか、我らサイヤ人を自分たちの奴隷か家畜かのように思っている。ふざけるなッ! 我ら強戦士族であるサイヤ人が、ツフル人なぞという脆弱なクズどもに従うとでも思っているのかッ!!」
 
 
 激昂し、怒声を張り合えるベジータ王。同じように集まったサイヤ人たちも同調する。
 
 そう。それはベジータ王一人だけの思いではない。隷属され酷使される他のサイヤ人たちも、それは等しく同じ考えだったのだ。
 
 しかし、実はサイヤ人たちが何よりも気に入らず怒る点は別にある。酷使されるだとかよりも遥かに癪に障る、何よりも気に喰わない一点が。
 
 それは自分たちをアゴに使う、貧弱なツフル人たちの傲慢。サイヤ人どころか、宇宙の一般的な生命を遥かに下回る脆弱な肉体を持っている身でありながら、サイヤ人を使って当然だと見え透いた態度を取る、その性根。
 
 それが、サイヤ人たちにとって最も我慢ならない一点だった。
 
 
 (それには、俺も同意見だ)
 
 
 リキューも周囲のサイヤ人と同じように、意見に同調する。
 
 そう、たかが少し文明が優れている程度で威張り散らしているツフル人なぞ、目障りだ。
 
 
 「サイヤ人は戦闘民族だ。たかがツフル人なぞという脆弱なクズどもに従わされるものでも、ましてや奴隷などでは断じてない! 我らを扱き使ってきた報いを、奴らツフル人どもに今日、思い知らせるのだ!!」
 
 
 多くの賛同の叫びが上がる。凶暴で非理知的さに溢れた声。
 
 サイヤ人たちが、ベジータ王の言葉に共鳴しているのだ。闘争本能が奮い立ち、原始的な野性が現れ出でる。
 
 ベジータ王が一点を指し示す。その方角には、ツフル人の都市。
 
 
 「今日、我らサイヤ人の手によってツフル人どもを根絶やしにする。この星も、奴らの科学も、すべて奪い取り、我らがモノとするのだ! サイヤ人たちよ、全力をあげて破壊し尽くせ!!」
 
 
 月が真円を描くこの日。恐るべきツフル人殲滅計画が、歓喜の声の下に実行された。
 
 
 
 
 
 爆音と悲鳴が響く。
 
 ツフルの技術の粋が込められ作られた都市が崩壊し、人々の悲嘆の声が上がる。
 
 爆音は止まず、火の手が上がり全てを呑み込まんと荒れ狂う。
 
 サイヤ人たちの予想だにしない反逆は、ツフル人たちには寝耳に水であった。
 
 
 「な、何が起きたんだ!?」
 
 
 慌てて装備を整えて、待機所がから飛び出てきた兵士がスカウターを使い、仲間に連絡を取る。帰ってきた言葉に兵士は目を剥いた。
 
 
 『サイヤ人だ! 奴ら反乱を起こしやがった、俺たちを裏切ったんだ!!』
 
 
 「なんだって!? サイヤ人どもがか!?」
 
 
 『ああ、そうだクソッ! 所詮奴らはただの猿だったってことだ!! 急げよ、あいつら西地区の食糧プラントとエネルギー炉を狙ってきてやがる!!』
 
 
 「ああわかった!」
 
 
 通信を終えると、急いで彼は武器庫へ走った。武器庫には来るべきツフルの栄光のための兵器類が置かれている。宇宙開発期当初に比べ、研究に研究を重ねたその仕様は、例えサイヤ人相手であっても効果を与えるだけの威力を持っている筈である。
 
 武器庫に着き、パスワードを入力。重厚にロックされた扉が音をたてて、ゆっくりと開く。
 
 扉が開ききる時間も惜しく、兵士はスカウターを操作しながらデータを読み取る。
 
 データによれば、先程連絡を取った仲間が言った通り西地区の食糧プラントとエネルギー炉付近に多数の巨大な戦闘力――サイヤ人たちの反応を確認する。ふと、なぜ奴らはそんなところを攻めているのか疑問に浮かぶが、どうせ単純に食い物が欲しかったんだろうと思い片付ける。所詮サイヤ人たちなど、戦闘力が高いだけのただの猿である。
 
 猿の分際で、飼い主である自分たちツフル人に噛み付くという行為。至極当然に沸き上がる嫌悪感に表情を歪めながら、思わずサイヤ人たちへの恨みが漏れる。この時、彼がスカウターで西地区のサーチを行っていたことは、はたして幸運か悲運か。
 
 
 「ああ全く、たかが野蛮な猿の分際で! 拾ってやった恩も養ってやった恩も忘れやがって!! 所詮猿は猿にしか過ぎないってことか、くそッ!」
 
 
 「……誰が猿だって? ゴミが」
 
 
 「!? ッな」
 
 
 声に慌てて背後に振り向く。そこには、みすぼらしい原始的な装束をした、ぼさぼさと特徴立った黒髪の、尾をもった男が立っていた。
 
 
 「ば、サイヤじッ」
 
 
 言葉を言い切る前に、兵士の上から降ってきた女がその頭蓋を蹴り砕き、絶命する。
 
 一回転して着地し、醜い兵士の死に様を一瞥する。

 
 「ハッ、雑魚野郎め」
 
 
 俊敏で軽やかに、まるで猫のように動き着地した女もまた、尾を持ったサイヤ人。あっさりと兵士の死体から興味を無くすと身を振り返し、手を振りながら言葉を発する。
 
 
 「行くよ、とっとと例の物を見つけて、あたしたちも祭りに参加しなくちゃ残り物がなくなっちまう」
 
 
 「おうよ、言われるまでもねえ」
 
 
 他にも数名、続けてサイヤ人が現れ地に降り立つ。口角を吊り上げ、そのまま彼らは無造作に兵士の死体を踏み越えると、兵士が自分で開けた武器庫の中に入っていく。
 
 武器庫の中は、ツフル人が開発・発展させた強力な兵器が幾つも鎮座し、使用されるときを待っていた。
 
 が、そんなものサイヤ人にとっては玩具にしか過ぎない。無造作にツフルの技術の結晶をへし曲げ、叩き潰し、探索する。やがて、一人のサイヤ人が目的の品を思惑通りに発見した。
 
 
 「おい、これだ。見つけたぞ」
 
 
 にやりと笑いながら、不精髭の生やしたサイヤ人が持ち上げた品。それは先程殺した兵士が身につけていたスカウターであり、同じ物がそのサイヤ人の手元に、幾つもケース詰めで並んでいた。
 
 
 
 
 
 突如もたらされたその連絡と、スカウターに表示された内容は、ツフル都市防衛部隊の隊長の驚愕を招いた。

 
 「なんだと! 西地区の騒ぎは囮だと? サイヤ人どもがそんなことをしたというのか!?」
 
 
 『は、はい! 奴ら西地区に注意して手薄になった隙をついて、他の地区に襲撃をかけてきてッ!! し、至急救援を! 自分たちだけでは抑えきれッウワァーー!!!!』
 
 
 一瞬の大きなノイズの後、通信が途切れる。通信は嘘のようではなく、スカウターには他の地区にもサイヤ人たちが現れたことを意味する巨大な戦闘力を隊長に示している。
 
 彼の心中は予想外の出来事に、荒れ狂っていた。まさか、下等で野蛮な猿にしか過ぎないサイヤ人どもが、こんな策を使うなどとはッ!
 
 この事態は、ツフル人にとって最も予想外のことだった。我が強く血の気の多いサイヤ人たちは、集団行動に向いていない。これは曲解でも誤解でもない、嘘偽りなしの事実である。それがこんな作戦を使い、組織だった行動を取るとは、想像すらできなかったのだ。
 
 
 「た、隊長、どうしましょう!?」
 
 
 「ぐ……お、おのれサイヤ人どもめぇ~! 一度体勢を立て直すぞ………住民の誘導を行いつつ、撤退だ!」
 
 
 隊長の号令に従い、部隊が動き出す。
 
 都市の各所ではサイヤ人の増援が現れたことにより、被害が拡大化。なおも猛威は広がっている。これには実は、サイヤ人側の予想を超えた動きというのもあったが、ツフル人側のミスもある。もし誰かが事前に広域サーチを行っておけば、サイヤ人たちには原作のZ戦士たちのように戦闘力のコントロールを行えないため、発見は容易であった筈である。
 
 それをしなかったのも、基本的にツフル人の歴史が争いと無縁であったことに起因する。
 
 長いプラント星の歴史に、存在できた知的生命はツフル人だけであり、また過酷な環境ゆえかプラント星は生命の絶対数が極めて少なかった。生命を脅かす猛獣といった外敵はいたが、ツフル人同士での戦いもなく協力して年月を過ごしてきた。現代でも戦闘という行為の一切全ては、サイヤ人に一任しているのだ。ツフル人の歴史はサイヤ人の歴史とは全く異なった、温厚で争いとは無縁のものなのであったのだ。
 
 つまりツフル人というのは、高度なテクノロジーを持ちながら、戦いを知らないのである。
 
 だからこそスカウターという非常に有用な道具を持っているにもかかわらず、自分たちの思い込みや経験不足によるミスを多発し、サイヤ人に後れを取るのだ。そしてそれらの要素は、加速度的にツフル人たちを破滅へ誘っていた。
 
 生き残った住民の保護と介護を行いながら部隊は後方、王宮へ撤退を続ける。避難民が増え身動きが取りづらくなってはいるが、だからと言って見捨てる気は部隊の人間の誰一人としてなかった。
 
 その時、周囲を警戒しサーチしていた隊員のスカウターに、反応が出る。
 
 
 「た、隊長! サイヤ人が三人、接近してきます!」
 
 
 「なにッ」
 
 
 周囲を素早く確認する隊長。数十人の避難民の姿を見て、地面にできた亀裂に目を付ける。
 
 
 「全員あそこから下水に入れ! 急げ、隠れるんだ!! そこの二人、誘導しろ!」
 
 
 指示を矢継ぎ早に出し、住民の誘導を隊員に任せて、他の隊員を呼び寄せる。内心苦渋の判断であったが、隊長は心を鬼にして命令する。
 
 
 「命令だ、サイヤ人たちへ攻撃を行い、ここから奴らを引き離せ」
 
 
 このままでは避難民たちが下水に隠れる前に、サイヤ人たちが現れる。時間を稼ぐ必要があった。しかしそれは命令を受けた隊員の確実な死を意味する。しかし隊長はそれを理解しながらも、命令を行った。行う必要があった。
 
 命令を受けた隊員たちもそれは理解できた。しかし、全員歯を食い縛りながらも文句はだれ一人言わなかった。
 
 
 「………了解しましたッ!」
 
 
 叫ぶように言って一人が敬礼し、駆けて行った。続くように他の隊員たちも叫び、敬礼し、駆ける。
 
 隊長もその後ろ姿に敬礼を返し、振り返って住民の誘導に戻った。その内心にはサイヤ人に対する、巨大な呪詛を唱えながら。
 
 数分後、住民はみんな下水に隠れ、その姿は地上からは発見することはできない。亀裂も幾らかの偽装をしているため、通りがかっただけでは見抜くことはできないであろう。すでに、隊長のスカウターには足止めを命じた隊員たちの反応はなく、接近してくる三人のサイヤ人の表示だけしか表示されていない。
 
 
 「おのれ……おのれサイヤ人どもめ。許さん、絶対に許さんぞ野蛮な猿がッ!!」
 
 
 表に現れる隊長の呪詛に、他の隊員も避難民たちも、その場にいる全てのツフル人が賛同する。その心に抱かれている想いは、全て同じものである。
 
 おのれおのれ、憎しや憎しやサイヤ人。ツフルから与えられた恩を忘れ、ツフルから受けた恵みを忘れ、よくもこそこのような大逆を行いよって。恨めしやサイヤ人、おぞましやサイヤ人め! 滅びよ滅びよ! 我ら栄光あるツフルの民に逆らいし、愚かな猿どもめが!!
 
 より発展を望むツフル人の飽くなき欲望がそのままベクトルを変えて、サイヤ人への呪詛へと変わる。その有様は凄まじく陰惨で、偏執的情念が漂っていた。
 
 やがてサイヤ人の反応が直上、彼らの隠れる下水の上を通る。
 
 
 が、そのまま通り過ぎると思われた反応は、不思議にもその場で止まった。
 
 
 そのことを隊長が疑問に思う間もなく、次の瞬間には偽装された亀裂の隙間から叩き込まれたエネルギー弾が爆発。密閉された空間である下水でその効力を数倍に発揮し、溢れ出た光と熱が隊員と避難民たちを呑み込み、一掃していった。
 
 
 「はっはっはっは!! モグラみてーに穴倉に引っ込みやがって、そんなんで隠れたつもりになっていたのかよ!」
 
 
 一人のサイヤ人が笑いながら、更にもう一発エネルギー弾を形成。無造作に陥没した地面に向けて投下。かろうじて息があったツフル人たちに止めを刺し、またひとつクレーターを穿つ。
 
 
 「お~お、俺たちを扱き使ってくれてたツフル人さまたちも、なんとも情けない姿をさらしてやがんなぁ」
 
 
 サイヤ人が宙から地に降り立ち、這いずっていた子供の首に足を振り下ろす。その足は呆気なく頚椎はおろか脊椎骨を丸ごと粉砕し、幼い命を狩る。
 
 そのまま三人は周囲を見渡し、怪しいところや、辛うじて命を繋いでいるツフル人を発見すると、一切の躊躇なくエネルギー弾を撃ち込み、文字通りの意味で根絶やしを実行していく。
 
 やがて、粗方の掃討を完了させ周囲が瓦礫の山になったとき、一人のサイヤ人が突然背後の瓦礫を振り返った。
 
 
 「き、貴様、ら………」
 
 
 「お? まだ生き残ってやがったのか?」
 
 
 瓦礫の中に埋もれながら、息絶え絶えな姿でツフル防衛部隊の隊長がサイヤ人たちを睨み付ける。
 
 その手が震えながらサイヤ人を指し示すと、隊長は驚愕に震えながら必死に言葉を出した。
 
 
 「な、何故だ。何故……貴様らが、それを!」
 
 
 隊長の指先には、サイヤ人たちの顔に付けられた道具――スカウターがあった。
 
 そう。入口を偽装し、完璧に隠れていたにもかかわらず容易くサイヤ人に発見された理由は、サイヤ人が身に付けていた道具。スカウターによるものであった。
 
 野卑た笑いを浮かべながら、サイヤ人が答える。
 
 
 「はははは! 便利な道具だなこいつは! 何せてめらツフル人どもがどこに隠れているかアッサリ分かっちまうんだからな!」
 
 
 「おっと、ゴミ一匹発見だ」
 
 
 後ろでスカウターを操作していたサイヤ人が反応を感知する。そして無造作に、瓦礫に隠れながら逃げようとしていたツフル人の少女へエネルギー弾を発射。消し炭にする。
 
 その姿を見て、馬鹿なと呟く隊長。
 
 
 「お、愚かで……野蛮でしかない筈の、き、貴様らサイヤ人が……わ、我らの、ツフルの道具を、使う……だと!?」
 
 
 「そういうことだ。まぁ、こいつはありがたく頂いておくぜ。あと、てめらの技術もな」
 
 
 未だ信じられないと顔を歪める隊長の顔を鷲掴み瓦礫を押しのけて持ち上げると、そのままサイヤ人は隊長の顔を握りつぶした。
 
 ツフル人は馬鹿にしていたが、決してサイヤ人は知性がないわけではない。むしろその適応能力は驚くほど高い。サイヤ人が宇宙を漂流していた時代に使っていた宇宙船こそ、サイヤ人とは関係ない外部由来の品ではある。だがしかし、それを維持し、操縦していたのは紛れもないサイヤ人たち自身であったのだ。本人らに意欲や趣きが全くないだけであって、サイヤ人自身の知性的な能力はツフル人程ではないにしても、非常に高いことは事実である。ゆえに本人たちとの意向と噛み合った時、それは思わない成果をもたらす。
 
 また、ツフル人自身に手よる技術的な追及で、高次元なユビキタス性をスカウターで獲得していたことも、ツフル人たちにとってこの時最悪な方向に働いていた一因であった。
 
 その後も、害虫駆除にも似た徹底的な掃討が行われた。そしてスカウターを操作し完全にツフル人の反応がなくなったことを確認すると、三人のサイヤ人たちは空に飛び立ち次なる狩り場へと向かって行った。
 
 後には、ツフル人の怨嗟のみが残る廃墟があるだけであった。
 
 
 
 
 
 中央区画。ツフル人の王宮が存在し重力制御や環境調整などの、重要な都市全体の主要機能の中枢である。
 
 現在その区画の通りでは、侵略してきているサイヤ人に対抗したツフル人の圧倒的な火力が見舞われている。
 
 どうしても個々で劣る戦闘力を、単純に数を集めることで賄うということである。シンプルではあるが、形成された濃密な弾幕の雨はサイヤ人たちにも十分な効果を発揮し、迂闊に近寄ることすらできなかった。一発一発はサイヤ人にとって大したことない威力の火器ではあるのだが、さすがにここまで集約された火力を連続で受けることは、特に戦闘力の低い下級戦士にとっては命の危険すらもある。
 
 有効性を確認されたこの作戦は、即座にスカウターで各戦線に伝達。同じように苦境に陥っていた戦線を立ち直し、大きくツフル人の士気を盛り返す。
 
 飛んできたエネルギーボールを弾き返しながら、鬱陶しそうに顔を歪めるエリート戦士。
 
 
 「まったく面倒な野郎どもだぜ、よッ!」
 
 
 お返しとばかりにエネルギー波を発射。伸びた光線がツフル人の防衛網の一角を削るが、即座に別の個所から火線がエリートサイヤ人に集中。舌打ちしてその場を離れる。
 
 脆弱な戦闘力しか持たないくせに、こうしつこい抵抗をする。まったくもって面倒極まりない。そう思っていたサイヤ人だが、顔は不敵に笑っていた。なんだかんだと思ってはいたが、結局のところ戦闘による高揚は、彼に限らず全てのサイヤ人の身を包んでいたのだ。
 
 だがしかし、このままずっと磔にされているのも不愉快である。さてどうすればいいか?
 
 そう考え始めた彼の後ろへ、スカウターの強大な戦闘力を感知した反応。慌てて振り返る彼の視界に、その正体が目に入る。
 
 
 「べ、ベジータ王! な、なぜここに!?」
 
 
 「こんなところで、何時までも何をしている」
 
 
 反論を許さない詰問口調で、ベジータ王が問い質す。驚きながらも礼の姿を取り、頭を垂れて報告する。
 
 
 「は、はは! つ、ツフル人どもの意外な抵抗にございまして……も、もう間もなく突破できるものと思われますのでッ、ご安心を!」
 
 
 「……もうよい」
 
 
 「………………は?」
 
 
 疑問に顔を上げた彼の視界に映ったのは、広げられ向けられたベジータ王の掌。
 
 
 「消え失せよ、役目も果たせないクズめが」
 
 
 強烈なエネルギー波が、ベジータ王から放たれる。
 
 その光はアッサリとエリート戦士を呑み込み、建築物を巻き込み、そのままツフルの防衛線の一部をも消滅させ、大地に大きな溝を刻んだ。そして近くに立っていた、その光景を見ていたエリートサイヤ人をベジータ王は呼び寄せる。
 
 
 「パラガス」
 
 
 「……は、はは! 何用でしょうか!?」
 
 
 「貴様はここの他のサイヤ人どもを連れて、とっとと他の地区へと行け。もう間もなく月が昇る。下級戦士どもがここに居ても、目障りだ」
 
 
 「はッ! 了解しました!!」
 
 
 ベジータ王の恐ろしさに身を震わしながらも命令を受けたエリートサイヤ人は了解し、急ぎ周囲にいたサイヤ人を纏めその場を去る。
 
 そしてベジータ王は単身、マントを翻すとツフル人の防衛線へ一人近寄っていく。
 
 その姿へ、生き残ったツフル人からの攻撃が集中する。宙を駆ける火線がたった一人に集中され、その火力は大きな爆発と熱をまき散らし、実弾と熱線が余すことなくベジータ王へ命中する。想像を絶する膨大な衝撃は地が砕き、空間を淀まし、発生した熱は物質を蹂躙し尽くした。
 
 だが、だがしかし。その中心、ベジータ王自身は、一切のダメージを受けず。
 
 他のエリートサイヤ人すら凌駕する強大な戦闘力は、その身に纏った膨大な“気”によってのみで、ツフル人の火器による攻撃の全てをシャットダウンしていたのだ。
 
 
 「クズどもが………」
 
 
 ベジータ王が片手を上げる。
 
 “気”を集中させる、という行動ですらない。ただ片手に纏った“気”をそのままに振り放つ、ただそれだけの技術もなにもない、単純な動作であった。
 
 
 「小賢しいわッ!!」
 
 
 手を振り抜いた。
 
 ツフルの防衛線が、全て消し飛ぶ。その爆裂は大地と大気の一部を巻き込みながら発生し、陣地を丸ごと全て射程に捕えながら、完全消滅というおおよそ人知外の現象を発生させた。
 
 噴煙が収まると、その跡に残るものは底の見えない大穴だけ。
 
 そしてベジータ王は視線すら向けることなく、邪魔な防衛線がなくなったことでできた王宮への道程を、悠々と空を駆けて通って行った。
 
 強大な戦闘力と、歴代の王を飛び抜けた知恵を持つベジータ王。
 
 その戦闘力は12000。これを凌駕するものは、現在の惑星プラントに存在しない。
 
 
 
 
 
 戦線は絶望的であったが、未だツフル人は抵抗を諦めることはなかった。
 
 そこには確かにプライドがあっただろう。
 
 野蛮で下等な猿にしかない、たかがサイヤ人風情に負けるものか、という。
 
 だが、決してそれだけではない。ツフル人には勝算があったのだ。なるほど、苦戦はしている。サイヤ人の戦闘力が驚異的であることは認めよう。ツフル人の傲慢と油断で、数えきれないミスをしたことも事実だ。だが、それもこれまでである。ツフル人には幾多も切り札がある。体制が整わず遅れてしまったが、未だ兵器群には使用されていない対強種族用の強力な火器が存在する。研究室には未完成ではあるが、強力な力を持った人口生物が幾つも培養されている。それら全てを動員すれば、逆転しサイヤ人どもを殲滅することも、十分に可能である。
 
 ツフルの栄光は、決して夢ではない。阻むまれることは未来永劫になく、その道を突き進む。その思いを全てのツフル人が確信していた。
 
 
 ………その思いは、今日この日に夢となって、潰えることなるが。
 
 
 初めにそれに気が付いたのは、ようやく引き出してきた巨大な火砲の標準をセットしたツフル人の若い男だった。
 
 彼は今まで暴虐の限りを尽くしてきたサイヤ人どもが、スコープの中で急に棒立ちになって宙の一点に視線を合わせ始めたことに気が付いたのだった。
 
 
 「なんだ? 奴ら、一体……」
 
 
 同じことに気が付いた周囲の兵士たちも、疑問の声を上げ始める。好機として攻めるには、余りにも無気味であった。
 
 そして、彼がサイヤ人と同じ方向に視線を向け………その最悪な現実を、目のあたりにした。
 
 
 「…………ば、馬鹿な………ま、満月だと?」
 
 
 驚愕の余りに、声すら出ない。同じように気が付いた周りの兵士たちも、女も男も等しく例外なく、立ち竦んでいた。
 
 サイヤ人たちの反逆。予想外の作戦行動。そしてスカウターの使用。幾多の事実の前に驚き、思考が停止していたため、ツフル人たちは満月のことを失念していた。いや、例えそれらのことがなくても気が付かなかったかも知れない。それだけツフル人はサイヤ人のことを軽んじていた。そして仮に気が付いても、ツフル人にはどうするこもできなかったでろう。いくら発達したツフル人の技術であっても、満月をどうこうすることはできないのだ。
 
 
 「お、おぉ……あぁ、うぎゃおぉ………」
 
 
 「が、が……ああぁッ」
 
 
 ドクリドクリと高鳴る心臓の脈動と同時に、筋肉が膨れがる。
 
 急激の肉体の変容とそれに伴う“気”の増大に、大地が震える。
 
 やがて膨張する肉体が服を中から破り裂き、体毛が全身に生え、顔の造形を変える。
 
 
 「あ、ああ………うわあああああッ!?」
 
 
 ツフルたちの身に付けているスカウターが、規格を大きく超える戦闘力を計測し、次々と爆発する。
 
 ツフル人が、サイヤ人を猿と呼び、蔑ましている理由。それはサイヤ人が尾を生やしている、という理由だけではない。より具体的で、率直な原因がある。
 
 それはサイヤ人の特性。サイヤ人はその大小を問わず、何故か満月によってのみに発生する1700万ゼノのブルーツ波を眼から吸収することにより、その尾が特別な反応を示す。そして反応を示した尾は、サイヤ人の全身にシグナルを送り込みエクソン置換を実行。遺伝子情報を変えながら、さらにブルーツ波とサイヤ人自身の“気”を用いて、核分裂反応に似た“オーラ・リアクト”とも呼べる現象を誘発し、莫大な“気”を発生させる。そして発生させた“気”はそのまま質量に転化し、変換された遺伝子情報に則った巨大な体躯の形成に使われる。
 
 これが、ツフル人が解き明かした、サイヤ人の大猿化の原理。この解明過程でツフル人は“気”という概念を発見し、スカウターの開発と“戦闘力”という数値を考案したのだ。だが、今それは重要なことではない。
 
 重要なのは、大猿化したサイヤ人はその戦闘力を、おおよそ10倍に倍加させるということである。現時点で個人の装着しているスカウターで測れる戦闘力は22000までであり、それ以上はオーバーフローを起こしてショートを起こしてしまうということが、このことを決して嘘ではないことをツフル人たち自身に教えている。
 
 ぎろりと、大猿化し、10mほどの巨体になったサイヤ人たちが呆然としたツフル人たちを見下ろす。
 
 
 「ウッオオオオォオォォオオオオォーーーー!!!」
 
 
 咆哮一閃。大猿の口から放たれた極太のエネルギー波は、容易くツフル人を呑み込み消し飛ばした。慌てて火砲による反撃がその巨躯に直撃するが、無傷。簡単に踏み潰され、時間稼ぎすらできない。
 
 
 「し、シッポだ、奴らのシッポを狙ッ!?」
 
 
 指示を飛ばす兵士の上に、大猿が持ち上げた巨大なビルが振り下ろされる。無意味だった。ツフル人の抵抗を全て無意味にしながら、アリを殺すのと同じ労力で彼らは掃討された。
 
 そしてそれだけに止まらず、大猿たちは周囲の建築物を殴り潰し、叩き壊し、破壊を続ける。抵抗する全てのツフル人を葬ったにもかかわらず、無人の街を猛る凶暴性に従って破壊し続ける大猿たち。その頭上では、同じく大猿化したものの、理性を保ち、宙に浮いて様子を見守っているエリートがいる。
 
 ベジータ王が下級戦士を目障りだと言った理由。それは下級戦士の場合、大猿化したとき理性を保てないからである。
 
 下級戦士、それも最下級のものの平均的な戦闘力は1500、大猿化すれば通常のベジータ王すら超える15000になる。そんなものが見境なく暴れられては、奪い取るつもりのツフル人の科学も何もかも、全て消し飛ばしてしまう。だからベジータ王は予め、重要な機能などのツフル人の技術が集まっている中央区画から、満月が出るまでに下級戦士を退けておくよう各エリートに通告し、万が一の場合のための監督役として各部隊に最低一人のエリートを配属していたのだ。
 
 それにもかかわらず、通告に従わないどころか与えられたノルマすらクリアしていなかったために、かのエリートはベジータ王自身の手によって粛清されたのである。
 
 ――満月が昇り、各戦線のサイヤ人たちが次々と大猿化する。
 
 この時を以って、ツフル人に残されていた全ての勝機は潰えたのであった。
 
 
 
 
 
 「ば、馬鹿な……こんな馬鹿なことが!」
 
 
 ツフル司令室。王宮に設置されたその部屋の中、画面に映し出される大猿と破壊される都市を見て、部屋の中のツフル人たちは例外なく硬直していた。
 
 栄光の終わり。ツフルの終わり。サイヤ人の勝利。自分たちの敗北。
 
 
 「認められん、そんなもの認められるものかぁーー!!」
 
 
 画面に腕を叩きつける、科学者。画面が割れ、映像が消える。
 
 しかし、現実が変わることはない。未だに地面は揺れ、外部からはサイヤ人どもの咆哮と破壊音が聞こえる。
 
 現実は変わらない。ツフルの文明は、今日滅びる。
 
 
 「Dr.ライチーよ、早くこの星を脱出するのだ」
 
 
 「ッ王!? 何を言うのです!?」
 
 
 科学者――ツフル人の中で、最も偉大な科学者と呼ばれるDr.ライチーに対してかけられた言葉に彼が振り返ると、そこには部屋に入ってきた高貴な装束をした人間、ツフル王が立っていた。
 
 
 「見ての通りだ。もはや、われらツフル人に勝ち目はない。Dr.ライチーよ、お前はこの部屋にいる全てのツフル人を率いてこの星を脱出するのだ! ああ、口惜しや……せめてあと五年、五年あれば、たかがサイヤ人風情に、ここまでやられなかったであろうにッ!」
 
 
 「おお、王よ……」
 
 
 その通りだと、Dr.ライチーは真に思う。あと五年もすれば、自らが陣頭を取って研究していた戦闘用人工生物もサイヤ人など足元に及ばない性能を持って完成して配備され、このような反乱なぞ一時間と掛からず収められたであろう。だが、現時点ではそれも未完成でしかない。今、培養液の中で眠るそれらを解き放ったところで、大猿と化したサイヤ人たちを前にしては成す術もない。
 
 
 「Dr.ライチーよ、ツフル人の中で最も偉大な科学者よ! お前はこの星を脱出し、そしてその頭脳で必ずや、憎きサイヤ人どもに復讐するのだ!!」
 
 
 ツフル王の言葉はDr.ライチーの想いであった。全てのツフルの民の願いであった。偉大なるツフルの栄光を遮り、全てを奪い嘲笑うサイヤ人たちへの怨嗟と呪詛に満ちた、偏執的な思いだった。
 
 Dr.ライチーは、部屋にいる全てのツフル人は心に火を灯した。暗い色に染まった、漆黒に染めあがった怨念の炎だった。
 
 
 「分かりました。王よ! 必ずや、必ずや我らツフルの恨みを、奴らサイヤ人に思い知らせてくれましょうぞ!!」
 
 
 「ならば行け、皆行け! ツフルの血は決して絶やさん。我はやるべきことをやる!!」
 
 
 「ははッ!!」
 
 
 一礼し、司令室に詰めていた全てのツフル人が、ツフル王を残して出てゆく。彼らはそのまま王宮近くの発着場に用意された宇宙船に乗りこみ、大猿によって破壊される自分たちの都市を見ながら、無事に惑星プラントを脱出することなる。
 
 しかし、彼らの中で最終的に生き残った人間は、Dr.ライチー一人だけとなる。肉体的に脆いツフル人という身での過酷な生活と、後々に王子であるベジータ自身の手によって行われたツフル人の生き残り狩りで、Dr.ライチー以外の全てのツフル人は死に絶えることなるからだ。
 
 司令室から全ての人間が出て行った後、一人残ったツフル王は、急ぎ人工生物研究棟へと走った。
 
 人工生物研究棟、その最重要機密区画へロックを解除し踏み入ったツフル王は、シリンダーの中で培養されている銀色の球形を確認する。一見して卵のような印象も見受けられるこれは、ある意味その表現で間違ってはいないものである。
 
 来るべきツフルの野望の実現。そのために必要となるであろう能力を詰め込み、そして次代のツフルの王に相応しき器として研究・開発が続けられていた、その雛型である。Dr.ライチーが主導で研究している戦闘用人工生物とは一線を隔した代物であり、すでに理論に問題なく、必要となる要素も最低限ではあるが準備されている。後は年月をかけて繊細な環境をコントロール・維持し、培養することによって完成するはずであった。まさにツフル人の歴史と野望の結晶品である。
 
 愛おしげにシリンダーを撫で、ツフル王が名を呟く。
 
 
 「“ベビー”よ………我の全てを受け継げ、ツフルの王である我の遺伝子を、夢を……サイヤ人どもに対するこの恨みを! そしていつの日か、我らツフルに栄光をもたらすのだ!!」
 
 
 万感の想いと、粘着的な執念が込められた言葉だった。ツフル王は身を翻し傍らに用意された機械を操作し、用意されていたプログラムを起動させ邪魔な安全装置やセキュリティを解除。そして全ての手順を完了させ、用意されていた寝台に横たわった。
 
 
 「ベビーよ、我らツフルを受け継ぐ者よ。必ずや、必ずや憎きサイヤ人どもに報いを――」
 
 
 起動したトランスアブソーバーが、寝台に横たわったツフル王に光を照射する。光に照らされたツフル王は原始単位で分解されて、システムに取り込まれる。そして獲得されたツフル王の遺伝子情報を初めとするあらゆるデータが、シリンダー内で培養されている卵、ベビーに転写される。
 
 全データの転写が終えると同時、システムはツフル王に入力された通りに手順を続行。ベビーをスリープ状態へと移行させ、シリンダーをカプセルに封入。そのままカプセルをロケットへ乗せ込んだ。ロケットにはなるべく遠い、別銀河の果ての、外敵が存在しないであろう惑星へと向かうよう航路がセットされ、そのまま打ち上げられる。
 
 はるか彼方。成層圏を超え、強大な惑星プラントの重力圏を振り切り、飛び去るロケット。
 
 その姿を、大猿となったサイヤ人――ベジータ王が見つめる。
 
 
 「っち、取り逃したか。まぁ、たかがクズの一匹二匹、捨て置いてくれるわ」
 
 
 そのまま眼下、ツフル人の王宮を見下ろすベジータ王。全てを奪い取ると言ったが、彼は目の前の物を残すつもりはなかった。
 
 
 「ウオオオオオオオォォォーーーーー!!!!」
 
 
 咆哮と同時に、ベジータ王の全身から莫大な“気”が放射される。全方向に放射された“気”は衝撃波となり、王宮を砕き吹き飛ばす。
 
 衝撃が去った後には王宮の痕跡は欠片もなく、巨大なクレーターだけが残った。クレーターに降り立ち、ベジータ王の勝鬨の咆哮が響き渡る。
 
 ここに、惑星プラントの戦いは終結し、同時にこの惑星の全てのツフル人が滅び去ったのであった。
 
 
 
 
 
 一晩が立ち、一日前には華麗を誇ったツフル人の都市が、未だ災禍の残り香を漂わせた無残な姿を晒す。
 
 手頃な瓦礫に腰掛け、廃墟を眺めるリキュー。現代、それも日本では見ることができない光景である。人の形をした黒い痕を見て動揺せずにいられるのは、サイヤ人の肉体のおかげであるのか。しかしリキューは、それでも心に滾る何かを感じ取った。それが自分と他のサイヤ人たちとを決別し、自分が日本人であったことの証であるのだろうと、リキューは考える。
 
 しかし、リキューは誤解していた。リキューの心で滾る何かとは、決して日本人として培われた戦いに対する嫌悪感だとか、殺されたツフル人への義憤心などでは、ない。それはサイヤ人の血に宿る凶暴性であり、理性の奥から漏れ出す戦いの残り香に対する高揚である。
 
 昨晩のツフル人殲滅時、リキューは自分の意向と子供であること、この二つにより戦いに参加してはいなかった。その選択は正しかったと常に思ってはいるが、しかしそれによってある種の“飢え”を自覚なしに感じることとなる。この“飢え”はこの後、長きにわたりリキューの心を苛まし、結果としてより強大な闘争本能を持った戦士を生み出すことになるのだ。
 
 
 「サイヤ人たちよ! 煩わしいツフル人どもは、我らが滅ぼした!!」
 
 
 リキューが声に顔を上げると、空にベジータ王が浮いていた。
 
 昨晩の計画を考え、実行に移した恐るべきサイヤ人の王。
 
 マントを風になびかせ、腕を振り上げてベジータ王が宣言する。
 
 
 「この星は今日この日より、我らのものとなった! ゆえにこれからはこの星を、我らが星、惑星ベジータと呼ぶことにする!!」
 
 
 歓呼の声が上がる。この時、古き惑星プラントは消え失せ、そして新しき惑星ベジータが生まれたのだった。
 
 ツフル人の怨念など知らず、ただ命を下敷きにしてサイヤ人たちが笑う。その様だけを見れば、とても祝福に満ちた光景である。
 
 だが、その光景を無視して思考に没頭していたリキューは、この時ようやくを以って、自分が“ドラゴンボールの世界”であると確信を迎え、そしてやはり彼も、アッサリとツフル人のことを忘れるのだった。
 
 
 
 
 
 
 ――あとがき
 
 うぃっす。なにか予想以上に反響あったんで、急いで続きを書きました。感想もらえるとうれしいね。
 プロット晒しはまずかった? 撤去するべきかな? 意見募集。
 ワクワクしてくれるよう頑張りました。気合い入れました。そして燃え尽きましたし。調子乗りすぎてすみません。
 オリ設定連発しました。ツフル人かなり嫌な奴。これ読んで彼ら誤解したらいけないよ、彼ら基本善良の種族らしいから(by界王)。
 ちなみこのツフル人はマジ優秀。ここでサイヤ人が反乱起こしてなかったらホントに十年後に宇宙支配してた。
 大猿化とか特撮のノリで設定。あと、とあるとこからネタもらってる。分かった人は趣味が自分と同じです。
 今回かなりはっちゃけました。
 感想待ってまぁーす。
 追伸。何気に劇場版キャラ登場。分かった人いる?



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