いつもと何一つ変わることなく、布団の中へ入って就寝。
で、次目が覚めた時には病院のベッドの上だった。
……………………あっるぇーー??
何か、どっきりにも程がある展開ですよ旦那?
意味が分からん上に唐突だしおまけに何か洒落にならんレベルで身体が動かないぜ。あ、よく見たら包帯で雁字搦めだ。
ちょ、何事? 寝てる間に火事に巻かれましたか? いやそれは死ぬわ。
とまあ適度にパニくったりしてたんだけど、とりあえずお約束は守らなねば。
はい、天井を見て一言。
「………知らない天井だ」
どっとおはらい。
という訳で、誰か来てくれ。説明を求む。
あ、ナースコールがあった。連打連打連打ァ!!
駆け付けてきてくれたナースさん(本物。欲情はしない)やドクターに話を聞くこともなく聞いてみると、どうやら自分は事故にあったそうである。
家族三人で車でドライブ中に、荷物を限界まで積載した10tトラックが鋭角に抉り込んできたらしい、と。
なんという大惨事。これは間違いなく死亡決定。
おかけに単純に質量でミンチにされるだけじゃなく、漏れ出たガソリンが引火し大爆発と炎上のコンボが発生。素晴らしいまでの追い打ちも加えられたと。
これは神様が確実に殺しにきてやがる。
しかしところがぎっちょん、散々猛威が振るわれて鎮火された後の黒焦げた事故現場からサルベージを始めてみると、周りが全部焼失しちゃってる座席付近から生存者発見。
予想外の事態にてんやわんやの大騒ぎである。そのまま発見された生存者は救急車に積まれて輸送されて、病院へ。
で、その生存者=俺、であるらしい。
なんという引田天功も驚きの脱出トリック。なお、ポイントは結局脱出してないところね。
結局消化もされずほとんど自然鎮火するまで放置状態な上に深刻なクラッシュ事故だったが、どういう訳か俺は多数の火傷はあれども、外傷はほとんど見つからなかったそうだ。
火に巻かれて酸素もない状態だった筈なのにも、極めて健康状態は維持されていると。まさに人体の驚異、てかそれだけでは済まないレベルの奇跡であったそうな。
なお、俺以外に生存者は皆無の模様。具体的にそう言われた訳ではないのだが、口振りからそうとしか思えない台詞ばかりである。
というか、そろそろ突っ込んでいい?
いったいどういうこっちゃ? いつの間に俺は家族でドライビングなんぞをしていたと??
俺は普通に自室で寝てましたが何か? よもや家の親が寝ている息子の身柄を勝手に動かし、車に積んでドライブしとったと?
いやないない。家の旧世代型両親にそんな茶目っ気なんてないから。てか、それは普通に考えて一家心中フラグだ。
そんなこんなに混乱している俺へ、ドクターが話しかけてきた。
「今は何も考えず寝ておきなさい。ご家族の方に対しては、私たちの方から連絡を取っておくからね。もう安心しなさい、時雄君」
いや、時雄って誰さ?
俺さ!
あの後から時間が経って、結局自分は施設に入れらることになった。二週間程度の入院生活から一転、いきなりの集団生活である。
んで、さすがにこんぐらい時間が経つと状況も理解して来たぜ。
要するに、俺は昨今のネットでポピュラーになっている憑依をしちまったっぽい。だって明らかに背丈はおろか人相が違うし。つーか名前が違うし。
この身体の持ち主は、勝田時雄という名前らしい。ピッチピチの八歳児である。すげえ手とか肌がプにプにしてるぜぇ~、ヒャッハー! とセルフバーニングしたり。
うん、しがない現実逃避ですね。
しかし改めて思うけど、この身体の主である勝田時雄クン。休日に満喫していた家族水入らずのドライブ中に、交通事故で天涯孤独の身になるというめちゃくちゃ悲惨な境遇であると。
おまけに、現在は身体を俺という人格に乗っ取られていたりする。
いやはや、実に哀れである。不幸の星の下に生まれたというか、呪われてるんじゃない?
正直同情するにも程があるほど可哀想ではあったけど、だからといって俺自身がどうにか出来るものもないしなぁ。
憑依なんて、自分で好き勝手どうこうできやしないって。わたしゃ神様じゃないんですよ?
という訳で手を合わせて南無。時雄クン本人の意識が眠っているのか消失しちゃったのか知らないけど、とりあえず祈りだけは捧げておく。
はい。これで黙祷アンド覚悟完了。これからは俺が勝田時雄ということで、とりあえず状況に流されたりすることにしましょうか。
…………これでも混乱してるんですぜ、旦那?
てな訳で始まった施設暮らし。周りにも同じように複雑な事情抱えたチビッ子たちがいるぜ。
施設は基本的に、自分でやれることは自分でするという思想。小さな子たちの面倒は大きな子が見るというシステム。
だけど、なぜか同じくチビッ子である筈の俺が、周りのチビッ子どもの世話役っぽい役割を割り振られてるのは何故?
はい憑依のせいですね、分かります。
だって中身の年齢が倍以上違うし? いちいち演技とかして隠してないから、周りには性格とか落ち着き具合が子供らしくないって丸分かりですよ。
という訳で自然とフォロー役が任命されてしまった。まあ複雑な事情経緯を知っているせいか、怪しまれても追及されなかったのは良かったけどさ。
そうそう、憑依なんてファンタスティックな体験をしちまった俺だが、驚くべき事実はまだあったぜ。
聞いて驚け。何と憑依に加えてタイムスリップすら経験してしまったようだ、俺。
なんか微妙に違和感あるなーと生活していたんだけど、新聞を見た時に日付を見て気が付いた。年号がまだ二千年にすらなってなかったぜ。
通りでなー。微妙にレトロというか、センスが違うと思っていたら。思えば携帯電話使っている人も全然見当たらないし。
これはあれか? 火の鳥的な時間超越? 輪廻転生に時間は関係ないと? 転生じゃなくて憑依だけど。
というか今更だけど、俺の元の身体はどうなってんの。魂の抜け殻とか………脳死状態?
まぁ、とりあえず今の俺に出来ることは、PCの内容を誰かが………特に親とかが見る前に消去してくれということを祈るだけである。
………つーか、マジパネェっす。友人ABC誰でもいいからHD処分しておいて!! マジで届けこの思い!!!
見られたら死なざるおえない。主に恥辱的な意味で。何この高度羞恥プレイ。
そんな感じで悶えたりしたけど、最終的には立つ鳥跡を濁さずなんて無理だよねと、開き直って立ち直ったり。
全然問題解決してないけどな!
さておき、施設生活である。
チビッ子の世話は凄い大変だった。元々子供なんて、騒いでなんぼ遊んでなんぼな存在である。つまりエネルギーの桁が違う。
幾ら身体は子供でも頭脳が大人な俺じゃ、とても付き合いきれたもんじゃないぜ。もう精神的に疲労困憊である。
おまけに、施設には色々と複雑な事情持ちで、トラウマっぽいもの抱えた子もいるし。単純に面倒見るだけじゃない、気遣いも必要である。
で、さしあたっては目の前にいる枝折ちゃんへの対処である。
一切話を聞いてはいないのだが、レイプ目で黙々とボロボロになっているパパと刺繍されている人形を弄っている姿は、凄まじい過去を思わせる。
ちなみに、近くにはボロボロではなくバラバラになった、ママと刺繍されている人形の残骸が。こっちにはなにか燃やしたような、焼き焦げた跡すらある。
て、これは間違いなく、しかもかなり重度なトラウマだろッ! 医者を呼べ! 医者を!!
怖すぎるって。間違いなく病むんじゃってるよこの子。年代的に時代を先取るにも程があるぞ!? ケアしろと? 同世代の子なら心を癒せると思ってるのか、大人さんたちよ!!
いいや、違うね! あれは面倒だから任せたって目だ!! 同じように複雑な境遇でしかも他の子よりしっかりしてるし、どうせなら任せちゃおうっていう魂胆の目線だ!!
つーか、あんたら会話の内容が聞こえてるんだよッ!
いやほんと、大人ってずるいね。とか、身体は子供な俺が言ってみたりする。
んで言ってても仕方がないので、コンタクトを取って見るぜ。
気分はMIBな人たち。嘘です、本当は猛獣養育を担当させられた新人アイドルタレントな気分です。
「あ、あの……枝折ちゃん? ひ、一人で遊んでないで、みんなと一緒に遊ばない? きっとその方が楽しいよ? たぶん」
「知らない」
「いや、知らないじゃなくて………ほ、ほらほら~、こっちにはトランプとかカルタとか、面白い遊びが一杯あるよ~?」
「パパと遊んだ方が楽しいもん」
「パパのライフはもうどう見てもゼロどころかマイナスになっているけどなーHAHAHAHA。………ちなみに、ママは?」
「ママは嫌い。パパをワタシから取っちゃうの。でもワタシの頭を撫でてくれるのは好き。作ってくれるハンバーグも好き。だけどパパを取っちゃう。だから嫌い」
「…………そ、そう。じゃ、じゃあパパは好きだと」
「パパも嫌い。嘘を言ったから」
「うぇ?」
「パパは言ってくれたの。ワタシを好きだって、世界で一番アイしてるって。いっぱいっぱい撫でてくれて、いっぱいいっぱいキスをしてくれたの。ワタシがわがままを言っちゃうとたくさんお腹をぶつけど、その後は身体全体を舐めてくれて気持ち良くしてくれるの。こんなことをするのはアイしてるからって、ワタシだけなんだって。そう言ってくれたの。だからパパは好き」
「……………………………………」
「だけどね、ワタシ見たの。夜に目が覚めちゃってトイレに行こうとしたの。パパやママに迷惑かけないようにって、静かにしてた。いい子にしなさいって、パパやママに言われてたから。ワタシ、ちゃんと言いつけを守っていい子にしてたんだもん。でもね、変な音が聞こえたから見に行ったの。それはパパの部屋だったの。パパの部屋にはママもいたの。パパはそこで、ワタシにしてたのと同じように、ママを舐めてたの。ママもパパを舐めてた。ワタシだけだって言ってたのに。ワタシをアイしているからしてるって言ってたのに、ママにも同じことをしてたの。パパは嘘をついていた。だからパパは嫌い。でも好き。ママも好き。だけどパパを取るから、嫌い」
「……………………………………………………………………………」
「ねえ、あなたは嘘付かない? 私に嘘を言わない? パパみたいにワタシを捨てない? ママみたいにワタシのものを取ったりしない?」
「と、取りません。嘘付きません。俺、誓って誠実デスヨ?」
「信じていい? 信じていい? 信じていい? 信じていい? 信じていい? 信じていい? 信じていい? 信じていい? 信じていい? 信じていい?」
「し、信じていいです! すいません勘弁してください!!」
「ねぇ、お名前は? なんていうの?」
「時雄です! 勝田時雄ですッ!!」
「時雄クン? 分かった。信じるね、ワタシ。時雄クンはパパとは違うって。ママとは違うって。パパとママは好き。だけど嫌い。けど好き」
……メディック!! メディーック!!! 助けてヘルプミィィィイイイイイ!!!!!!
ちょ、洒落にならないって出来ないって!! 何やってんのパパとママ!? あと施設の大人ども他多数!!!
やばいって、俺の手には負えないって!? レベルが違い過ぎるって!!
スライム以下のぶちスライムが大魔王バーンに挑むぐらい隔絶してるって、マジやばいって! 地球マジやばいって!!!
鬼眼解放プラス天地魔闘の構えが目の前に待ち構えてる状態でぶちスライムが突撃してるようなもんだって! 意訳するとミンチより酷ぇ状態になるだけだ!?
助けて友人ABC他!!
と、めっさ焦っているところに、手に触れる感触。
なんとそこには何時の間にか、枝折ちゃん(レイプ目)に捕獲されている俺の手が。
「時雄クンも好き。パパとママと違うから」
なにか頼られているぜ俺。凄いぜ俺。こんな短時間でもうフラグ立っちまってるぜ俺。
……これは、あれだな。人生は、何時だってこんな筈じゃなかったことばかりだって奴だ。
ホントそーだよねーHAHAHAHAHAHA!!
明らかに用法や使う場所間違ってるけどなッ!
という訳で、めちゃくちゃ地雷を抱えているような気持ちのまま一緒に遊びましたよ?
まぁ、とりあえず初期の目標は達成できた訳ですがね。
うん。無造作に手元に置かれていたボロボロなパパ人形が、素敵に心を揺さぶってくれました。
ちなみに、何気に色々と遊びを教えてると、年相応に笑ってくれたりしてます枝折ちゃん。
このあたりの様子は素直に可愛いと思う。ホント。これは将来美人になる予感がビンビンである。
そこ、俺はロリコンじゃない。これは父性愛だ。
んで、時間が経つのは早いもので、気が付けばすでに俺も中学生である。
そして当然だけど、生活にも大きな変化が出てきた。
元々身体は子供なのに、憑依なんてもので人格が大人である俺。それゆえか、世間一般から見れば天才少年扱いであったのだ。
タネは単純な上に躍起になって勉強に励んでるわけじゃないから、どうせすぐにドラえもんののび太的な頭打ちが来るのだろうけど。けどまぁ、それは赤の他人には分からない訳で。
つまり何が言いたいのかというと、中学がそれなりにレベルの高いいいところに行けたのだ。
奨学金とかも家庭の事情がこんなもんだし、余裕でクリア。学力もさすがに中学レベルで苦労はしないし、学生寮のあるかなりのハイレベルな学校へ入れたのである。
そうそう、憑依にタイムスリップと奇妙奇天烈な体験を二連発していた俺だが、さらに驚愕の事実が発覚したぜ。
なんと驚け。実は俺はトリップしていたらしい。おまけにそれはジョジョに奇妙な世界っぽいと。
二度あることは三度あるって言うけど、これそんなレベルじゃねぇーって。あまりの衝撃の急展開に、おじさんビックリさ。
このことが分かったのは何を隠そう、スタンドらしき不思議存在が俺の身体から沸き上がったからである。
それはある日のことである。枝折ちゃんが小学校の帰りに虐めにあっている現場を目撃し、思わず駆け付けて怒りにまかせて乱闘した時、ひょっこり出てきたのだ。
いや、ホント驚いた。実にユニーク、なんてもんじゃなかったね。
幸い破壊力がスタープラチナみたく馬鹿高い破壊力Aなスタンドではなかったようで、殴っちゃった子たちは大して怪我してなかったが。いや、ぶったまげたわ。
最初はスタンドじゃなくてペルソナなのかと思ったりもしたけど、それには造形センスがイマイチ違ってたし、何よりもっと簡単な判別方法があったり。
調べて簡単、ありましたよスピードワゴン財団。ジョジョ確定の瞬間でした。
ま、言うほど簡単でもなかったがな。まだインターネットどころかパソコンも流行ってない時代だから、地道に図書館言って新聞を見たりと大変でした。
なお、ひょっこり現れた俺のスタンドは近距離パワー型の人型、一番スタンダードなタイプですね。
んで、色々と隠れて能力チェックしてみて、判明したことが幾つかあった。
確かAが超スゴイで、Bがスゴイ。Cが人並みだったっけ?
そういう分け方でいくと、俺のスタンドは物凄く微妙なパラメータになっちまったのだ。どれだけ微妙なのかって言うと、主役は到底張れないくらい。
まず破壊力。近所の空き地に無造作に置いてあった、コンクリブロックを使ってテスト。
拳を振るってぶち当ててみると、ブロックは破壊。で二個を重ねてやってみると、破壊出来たのは一個だけ。
正直ブロック一個ぐらいなら、それなりに武道を聞きかじった人間なら割合破壊できそうな気がする。よって破壊力はB評価で。
次、スピード………なんだけど。
なんか、これは測るまでもなく丸分かりだった。動作がノロいのである。
パンチ自体はそれなりに速いんだけど、その前振りとか切り返しとかが、スロゥリィにも程があったのだ。これじゃラッシュ出来ないって。エンポリオぽくじわじわ潰すのが関の山だって。
よって、スピードはC以下の、おそらくDもしくはE評価。これはショック。
射程距離は言わずもなが。普通に2m程度だったよ。
だって近距離パワー型だし? DIOみたく10mとか無理だって。
CかDぐらいだろ、評価。
そして精密性。準備として適当に紙を持ってきて、まず初めに直線を引いておく。
準備を終えたらおk。スタンドにペンを持たせて、勢いよく腕を振り抜かせるように動かし、直線をなぞらせる。
結果を見ると、ペン筋が綺麗に直線をなぞることは出来ていない。筆入りからすでに直線から離れていて、しまいには途中で交差して抜けてしまっている。
試しに自分自身でチャレンジすると、やっぱり直線を綺麗になぞることは出来ず、何cmかはずれてしまった。うーん、こいつはよく分からん。
まあ、確実にAやBではないし、CかD評価だと結論する。
成長性なんかは調べようがないので、最後に持続力のチェック。
でもこれって、何を調べたらいいんだ? スタンドを出していられる時間か? それとも能力の方の持続時間?
後者だったら能力が分かってないんだから、判断のしようがない。よって保留。
結果判明したパラメータは、破壊力B、スピードD~E、射程距離C~D、精密性C~D、持続力保留、成長性? となった。
パッとしないですね! ホントに!!
というかA評価が一つもないあたり、ダメだこりゃ。主役張れないって。
そんな感じでorzしていた俺の肩に手を当てて、慰めてくれる枝折ちゃん(レイプ目)。
うん、枝折ちゃんは優しいね。お兄さんは嬉しいよ。でもその手に収まっている、ときおクンって刺繍された新しい人形があることは、何でかな? かな?
お兄ちゃん、さっきとは別の理由でガクブルだよ。
焼き芋作ろうと準備されてる焚火に、くべられているパパママ人形らしき代物は目に映らない。映らないったら映らない。
しかしかし、いやいや、まだ諦めるには早かった。諦めたらそこで試合終了です。俺は気を持ち直した。
スタンドはやっぱり、能力あってのもの。帝王も言ってたじゃん。王には王の、コックにはコックの道があるって! あれ、違ったっけ?
ま、それはいいとして。とにかく重要なのはパラメータよりもスキル! つまり知るべきはスタンドの能力な訳だ!!
てな訳でチャレンジ、と言いたかったのだが、しかし能力なんてどうやって分かるよ? 俺シラネ。
こういう訳で、一時俺のスタンド解明は暗礁に乗り上げ、進展をなくすことなったのだ。ガッデム!
で時は流れに流れて数年後、またまた学校の帰りに枝折ちゃんを虐めている悪ガキどもの現場に遭遇。
つーかてめぇら前の虐めてたメンバーと同じじゃねえか! たいがいにしやがれ貴様ら!! と怒鳴り込みながら突進。
二度あることは三度あるとは、誰かの言葉。いや、これはまだ二度目だけどね。
ガキ同士の乱闘で、またもやスタンドが発現。
さらにこの時初めて能力が発動し、俺は自分のスタンドの能力とは何かを知ったのだ。
さて気になる俺のスタンド能力とは? それはズバリ! 時間と空間を操る程度の能力だったんだよ!!
ひゃっほぉぉおおおい!!! ってラスボスフラグ達成ぃぃいいいい!?!?!?!?
いやいやいやいや、便利で強力な能力が欲しいとは思ったけど、時間関係はまずいって。なに、死ぬの? 黄金の精神相手に真っ向勝負するの!?
イヤァァァアアアア!!!!
そんな感じで錯乱すること数日の間。妙なテンションに付いていけないのか、施設のみんなから放置プレイを食らったりする俺。
悲しすぎるぜ。変わらず慰めてくれる枝折ちゃんだけが俺のマイ天使である。だけどその人形だけは勘弁な?
まぁ、こんな感じで俺は、怒涛の小学生ライフを送ってたりしていたのである。丸。
すごいぜ俺、完璧だぜ、俺。退屈になると思った児童生活を、よもやセルフで盛り上げることになろうとは。
そのあまりのすごさゆえに、なぜか親しい付き合いのある人間が枝折ちゃん以外いなかったりするんだぜ、俺?
……いいけどさ。どうせ、精神は大人は何だし? 子供たちが子供らしい感性のお喋りしてる横で早く帰りてーとか、眠りてーとか空気無視したこと言ってたしさ。
でもなんでだろう。涙が、涙が溢れるんです。安西先生。
………そういえば、いまさらながら察するに、なんだが。
時雄少年が巻き込まれた交通事故で時雄少年だけが生き残ったのって、スタンドが守ったからじゃないのか? というか、守ったんだろうな。
じゃなきゃ、車体の大半がプレスされた上に爆発炎上している現場で、生き残れるはずがないし。
おれが憑依する羽目になったのも、案外時雄少年本人のスタンド能力によるものかもなぁ。
結局、考えても分からんが。
で、ようやく話しが戻ってきた現在。学生寮のある中学に入学するってことについてだ。
当然ながら、俺は施設を出ての寮生活となる。
落ち着くと思う傍ら、寂しいとも思っちゃう複雑な心境。まぁ、どうせいずれは施設を出るのである。これはそのていのいい予行練習ということだな。
という訳で、始めました寮生活。幸い部屋は一人部屋。天才扱い様々である。
なんだかんだと思うところはあったが、やっぱり一人部屋ってのは心が休まるな! こう、リビドーが解放される的な意味で!!
ところで枝折ちゃん? 何で部屋の中に貴方がいるのか、お兄さんちょっと疑問に思うんだけど。
ちょっとワクワクしながら扉を開けてみると中に貴方の姿を発見しちゃったもんだから俺、とても言葉では言えない男の急所が縮み上がっちゃいましたよ?
「時雄クン…………ワタシ、捨てるの? パパみたいに、捨てるの? ママみたいに、裏切るの? 約束したのに。約束したのに。約束したのに。約束したのに。約束したのに。約束したのに。約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに約束したのに」
違うんだよ枝折ちゃんお兄ちゃん裏切るつもりなんてちっともないんだよパパみたいに捨てたりなんてしないって落ち着いてお願いああときおクンって刺繍された人形をそんなに手荒く扱わないで怖い怖い怖い信じてお願いお兄ちゃん裏切らないって信じて信じて捨てない捨てないうんうんへいやそれは無理だからああああ取れちゃう取れちゃう首もげちゃうから人形の怒らないでお兄ちゃん誠実デスヨ信じてここには一緒に住めないのちゃんと顔を出すから施設にいてお願いね枝折ちゃんプリィィイイイイズ!!
狂気の二時間だった。私のSAN値は限界です。
何とか枝折ちゃんの説得は達成できた。
でも交換条件として、週に最低四回は顔を出すように決めつけられてしまった。
何か、頭の片隅で本当の地獄はこれからだとか叫んでる野菜王子の姿が。
ジーザス。神は死んだ。
さらに時は流れて、一年。寮生活もとっくに馴染み、なんだかんだでそれなりに友人が出来たこの頃。
変人扱いは変わらないのは非常に不服だったけど、まあ置いておこう。新生友人ABC他、も出来たし。
何故か女友達がさっぱりなのが不思議だったけどな!
……あっるぇー? オカシイナぁ?
中身大人な俺ですぞ? 複雑な思春期なぞ当の昔に乗り越えて、女人のありがたみを知る人間であるというのに、これは何故に?
別にがっつく訳でもなく、ただ普通に話しているだけなのに。何故か全く女友達が出来ない。
いや、ホント何故に?? そこまで魅力がないと? へ、キモいの? 真性だったりするの、俺???
そんな風に、真剣に自分の存在について考えることもしばしばな日々。
自分としてはすでに日常は波乱万丈であり、そこそこ満たされていたのだが、しかし望まぬイベントというものは容赦せず襲いかかってきた。
要するに、うっかり忘れていたのだ、俺。
スタンド使いは惹かれ合う、という法則を。
中学に入り一年が経ち、二年生となったころ。俺はスタンド使いと接触した。
それは、いつもの日課である枝折ちゃんと会うために、施設へと訪問した帰りの夕暮れのことだった。
紅に染まる住宅を尻目に、俺は呑気に歩きながら学生寮へと帰路についていた。
思い返すのは枝折ちゃんのことである。昔に比べて落ち着いた感はあるものの、やはり彼女は未だに所々に言い知れぬスゴみを感じる、凄まじい少女であった。
その彼女、どうも来年の中学進学に、俺の今いる学校を選ぶつもりらしい。
かなりレベルが高いので、反則の俺ならともかく枝折ちゃんでは、もし行くつもりならかなりの努力が必要になるだろうに。どうも譲る気はないようである。
勉強も一生懸命励んでおり、その熱意の高さは目を見張る。
色々と怖い少女ではあるのだが、こういう一途な姿は本当に可愛いと思う。こう、俺の父性愛にビンビンに訴えかけてくるね。
決して恋愛ではない、そこんとこヨロシクな?
とまぁ、俺はそんなことを考えたりしていた。
正直言って、ここがジョジョワールドだと分かっても、俺に関わる範囲で物語に絡まるような要素や被害もないようではあったし、特に気にしてはいなかったのである。
どこぞの殺人鬼を真似る訳じゃないが、やっぱ平穏は大事だしな。野次馬根性もあるけど、わざわざ主要キャラクター関係にチョッカイ出して危険に身を投げ出すのはノーサンキュー。
スタンド能力を使ったりして適当に人生を彩り、不本意にも始めた第二の生活を楽しもうと思っていたのだ。
まぁ被害といえば、しいて言えば第六部でガングロ神父が世界を一巡させたりするあたりがヤバいが、それはそれ。三十年近く先の話だし、別に今気にすることでもない。
対策するにしても、年代が近付いてきたころにスピードワゴン財団へ適当に一報してやれば、簡単にカタが付くだろうと考えていたりしていたのだ。
で、それは唐突に起きた。
夕暮れ時であり、住宅地の近くもあり、付近を歩いていた他の人間の姿ほとんどいなかった時の場面である。
俺の他には、向かい側から歩いてきている仕事帰りらしきスーツ服姿の男と、主婦らしき女性、その俺を含めて三人しかいなかった。
そのスーツ服姿の男と、主婦の女性がすれ違った時だ。
突然、貧血に見舞われたかのように女性が倒れたのである。丁度すれ違った男性は驚いたように声を上げると、慌てて女性を抱きとめた。
「なッ!? だ、大丈夫か!? そ、そこの君! すぐに誰か人を、救急車を呼んできてくれ!!」
男性はそのまま女性を腕に抱えたまま、目に付いた俺に対してそう言葉を投げかける。
しかし俺はその言葉に、咄嗟に反応することが出来なかった。
目の前で突然人が倒れる姿というのは、言い知れぬ衝撃を初見の人間に与える。ましてや平和なこの国である。そのショックは尚更大きい。
かくいう俺も、多分に漏れず目の前の事態の急変に、少なからずのショックを受けて硬直していた。
しかし単純に女性が倒れたこと、何も俺はそれだけにショックを受けていた訳ではない。
それもあったけど、何よりも別に注意を引いていた光景があったのである。
それは、目の前で女性をその腕に抱きとめているスーツ服姿の男にあった。
男のすぐ傍らに立つ、“明らかに人間ではない奇怪な姿をした人型”。
つまり俺に救急車を呼ぶよう指示した男はスタンド使いであり、そして男こそが、女性を昏倒させた下手人であったこと。
俺はその成り行きを知っていた。全部見ていたのだ。
男と女性がすれ違う時、まるで滲み出る様に男の身体から現れたスタンド。
スタンドはそのまま流れる様に自然に手刀を振るい、女性の首筋へ叩き込む。
そして不可視の手により意識を狩られた女性の身体を、何食わぬ顔を装い男が抱きとめたのである。
酷いマッチポンプ。自作自演にも程があった。
その手慣れた手付きからも、おそらくは男は常習犯なんだろう。
スタンドはスタンド使いにしか見えない。この特性があるがゆえに、スタンドを使えば完全犯罪の達成だって難しくない。
俺だってさすがに犯罪には手を染めてはいないけど、色々とイタズラレベルでスタンドを使い楽しんだりしていた。
男は俺が踏み越えていなかったその境界を、あっさりと突破していたのだ。
男にしてみれば、いつも通りの手順を踏んだ完璧な行為だったのだろう。目撃者だって、周りには俺しかいないし。
唯一のミスは、俺が男と同じスタンド使いであったことだけで、そしてそれが致命的だったってことだ。
俺は男のスタンドを凝視ながら、内心でかなりテンパっていた。
率直に言って、俺はスタンド使いと戦う気なんてさらさらなかったのだ。スタンドはあくまでも人生を彩るオンリーで使うつもりで、ガチバトルなんぞ御免被る。
平穏一番、平穏大好き! これ大事。
よってここは速やかに転身し、男の言った通りに人を呼びに行った方が良かったのだろうが………うーん。しかし、である。
ここで俺が言われた通り去ってしまったら、残された女性はどうなる? そう考えちゃうと、単純にその考えを実行するにも、気が咎めてしまった。
女性を昏倒させたのは、目の前の男である。そして救急車を呼ぶよう指示したのも、目の前の男である。
この時代、前も言ったように携帯電話なぞ、ない! よって救急車を呼ぶにしても公衆電話を探さないといけないし、人を呼ぶにしても付近に人影はない。
つまり、俺が男の指示通りに動くと、男と女性を二人っきりにしてしまうということである。で、男にしてみればそれが狙いなのだろう。
このまま思惑通りに動いてしまった場合、女性がどうなってしまうか。スタンドが見えてしまったゆえに、俺はそう考えてしまったのだ
そして、これが間違いだった。俺は取るべき選択肢を間違えてしまった。
「お前………何を見ている?」
「え?」
気が付けば、唐突にトラブルと接触した通行人という役柄とは違った、猜疑心に満ちた視線を男から送られていた。
不味い、しくじった。俺は硬直してた間、ずっと男のスタンドを見ていた。
見える筈のないスタンドを、見ていたのである。
思わず後ずさるも、男は女性の身体を無造作にアスファルトに置き捨てて、ずんずんと俺との距離を詰め始める。
そしてある程度距離が縮まった瞬間に、自分のスタンドを動かして殴りかかってきた!
幸いスピードは遅い。挙動を見抜いて、慌てながらも俺は避けれた。
だけど、もうこれで隠し様がない。
「やはりか。ガキ、お前コレが見えているな? っち、面倒なことになったぜ」
男は露骨に顔を顰めて、もう演技も全て剥ぎ取った態度になる。
唾を吐き捨てるなど、さっき垣間見せた紳士な姿は欠片もねぇ。実に下衆である。
「“秘密”を知られては、せっかくの俺の人生も台無しだ。ましてや、それが赤の他人ではな。俺のこれからの人生のためにも、“秘密”は守られなければならない。絶対にだ」
ぺらぺらと喋る男の言動には、悪い予感しか連想しない。
というか、すでにイベントの回避は不可能なんだろうなぁ。ほぼ間違いなく。
「よって、だ。“秘密”を守るためにも、確実にお前を“殺す”。俺に繋がる情報は残さない。脳内の血管を二・三本、ほんのちょっぴりぶちっと千切らせてもらおうか。なに、手間はかからないぜ? 蜘蛛の巣を箒で引っかき回すみたいなもんだ」
「ジョーダン! 誰が殺されるかっての!! 俺はまだまだ人生を謳歌してないんだ!!」
俺は身構えて、俺自身のスタンドを出す!
身体を覆う様に現れ、傍に現れ出でる力ある像《ヴィジョン》。俺のスタンドである、その名も名付けて“ブリティッシュ・インヴェイジョン”!!
ブリティッシュ・インヴェイジョンの体格は俺よりも断然に大きく、200cm近くはある体躯となっている。そして身体の各所には縫いつけられたような一から十二までのローマ数字が乱雑に存在し、目の部分は懐中時計のような形。全体的に骨太な身体ではあるが、やはりその見た目からは鈍重な印象が強いスタンドである。
しかし、巨大な体躯である分、得られる安心感も心強い自慢の相棒でもある。
これで能力が時間関係でさえなければなッ!!
「!? このガキ、お前も俺と同じコレを持ってやがったのか!?」
「スタンドってんだ、覚えとけ!!」
「………っち。まぁいい、“予定”は変わらない。だがお前が俺と同じコレを………スタンドとか言ったか? まあこのスタンドを持ってると判った以上、より“確実”に! お前の息の根を止めるッッ!!」
出来るもんならやってみろバーロゥ!!
と啖呵は切ってみたものの、スタンドバトルで重要なのは能力それ自体よりも能力の扱い方。
時間と空間を操る俺のスタンド、“ブリティッシュ・インヴェイジョン”は正直かなり強力な性能であったのだが、しかし相手のスタンド能力によっちゃ負ける可能性大である。
あいにくとこちとらジョセフ・ジョースターではないのだ。ペテンも策も利かせる練らせる両方どちらか出来るほど、頭の質は良くないのである。
つ・ま・り、相手のスタンド能力も分からない内に仕掛けるのは、めちゃくちゃ危険だということだ。
よってここは、ジョースター家伝統の最終手段を使わせてもらおう。
要するに、逃げるんだよォォオオオ~~ッッ!!!!
という訳で、一目散にダッシュ。これぞ必殺奥義、敵前大逆走である。嘘です。いや、嘘じゃないけどね。
ダッシュ、ダッシュ、ここにダッシュ! と全力で走りながらも男を見る視界は確保。ブリティッシュ・インヴェイジョンの頭出して、そちらの方へ目を向けているのである。
なんと便利なデュアル画面。正直二つの視界があることに最初は酔ったものの、慣れるとすっごく便利です。
男の方のスタンドも近距離パワー型なのだろう。まぁ、見てて一発で分かるが。あっちもあっちで真剣な表情で追ってきている。
さすがに人を巻き込むのは不味いだろうから、人気のない方を目指して走る。ペースはこっちが握っているので、後は冷静に相手のスタンド能力を探ればいい。
………けど、どうやって探ればいいんだ? やべ、思い付かねえぞ? てか走りながら考え事するの難しいって、マジパネェっす。
しかし俺が余裕を保てていたのは、そこまでであった。
人気のない薄気味悪い雰囲気の路地裏に差し掛かったころ、悪い方に事態が変化したからだ。
バンッという、火薬の炸裂するような音が響く。
そして次の瞬間、いきなり俺の足に激痛が走った!
その不意打ちに、俺はその場に倒れ込んでしまう。
「っぎぁッ!?」
一体何が起こったのか。
デュアル画面を維持していた俺は、確かにその真相を見届けていた。
痛みを堪えながら身を起こし振り返ると、男のスタンドが掌を広げてこちらに向けている。その掌には、まるで銃身の様な小さな筒が手首の付け根付近から伸びている。
それはまさしく銃身だった。男のスタンドはそこから銃弾を打ち出し、俺の足を銃撃……いや、“狙撃”しやがったのだ!
「追いかけっこはお終いだ、くそガキめ。俺はあえて人気のない場所まで誘導されたんだ。ここならば誰にも見られる心配もない。俺はなんの心配もなく、安心してお前を“始末”することが出来るということだ。その足ではもう逃げることも出来ないだろう?」
この野郎、近距離パワー型のくせして、能力が遠距離攻撃ってのはどういうことだ畜生!
足の傷は幸い深くはない。けど、傷口からは血も流れていて、男が言ったように走るのは無理っぽい。
おまけにこの路地裏、人気がない上に障害物になる様なものも見当たらないと来た。
って……不味い、かなり不味過ぎるッ! 身を遮るものもなく身動きも取れず、開けた道のど真ん中で狙撃手相手に無防備を曝け出しているというこの状況!!
致命的すぎる! いくら俺のスタンドが時間と空間を操れると言っても、その射程距離は短い! この状況は俺にとって最悪過ぎる!!
ヤベェ、洒落にならねぇぞ!?
「脳の血管をちょっぴり千切るつもりだったが、お前が俺と同じようにスタンドを持っているというのなら、話は別だ。この状況で不用意に近づけば、どんな“反撃”を食らうものか判ったもんじゃない。よって少しばかり“後始末”が面倒だが、このままじわじわとねぶる様に“射殺”することにしよう。氷を砕いたばかりのかき氷の山を、ストローでさくさく切り崩すようにだ」
男のスタンドから、またもや銃弾が射出される。
それは俺の足を打った時と同じように高速を維持し、そして極めて正確に俺の眉間をターゲッティングしていた!
叫ぶよりも先に俺は念じる!!
「ブリティッシュ・インヴェイジョン!!」
ブリティッシュ・インヴェイジョンが具現化し、目の前に迫っていた銃弾を弾き飛ばす!
一息つく俺に、男の声がかかる。
「“やはり”か。俺と同じもの、スタンドを持っているならばもしかしたら、と思っていたが。どうやら、お前のスタンドで俺の“銃弾”は防げるようだな」
「おうともよ! いくらでも打ってこいや! 全部叩き返してやらぁい!!」
「ふん。言っただろう? ねぶる様に“射殺”する、と。とっくにその可能性など考えていたさ。俺の狙撃は“単発”だけではない。“連発”も可能なんだよ」
男のスタンドがもう片手の掌を広げると、なんとそこにはもう一つ銃身が!
状・況・悪・化!!
ボケる暇もなく、雨のごとき銃撃が降り注ぎ始めた!!
「ブリティッシュ・インヴェイジョンッッ!!!!」
スタンドを具現させる。
そして機関銃のごとき怒涛の量で迫る狙撃銃のごとき鋭い銃弾の全てを、叩き落とす。
銃撃の雨に、終わりは見えない。間断もなく一切の勢いが衰えない銃弾を一つ一つ視認し、ブリティッシュ・インヴェイジョンを追跡させて防がせる。
そう。俺は本物とその速度が一切変わらないスタンドの弾丸を前に、ブリティッシュ・インヴェイジョンを全て“目視”させた後に反応させて、叩き落としていたのだ。
これこそ、時間と空間を操るスタンド、ブリティッシュ・インヴェイジョンの能力。その効果を発揮した結果の一つである。
スタンドそのものに働く固有の時間を加速させ、結果的に周囲からすれば超速反応、超速行動を可能とさせる超チート能力。いわば簡易版メイド・イン・ヘブン!!
仮に時間を十倍に加速させれば、例えスポーツド素人の俺であろうと100m走のタイムは十分の一となり、2秒以下のオリンピック選手顔負けの超人となる。
精密性とスピードが欠けるスタンドでありながら完璧に銃弾を防いでいた理由は、ここにあった。
要するに時間が加速された結果、相対的に豆鉄砲以下の速度になった銃弾を一つ一つ弾き飛ばしていたのである。傍から見れば俺のスタンドは残像を残すような速度で動いてるだろう。
精密性とスピードに欠けているという欠点を、ものの見事に能力で埋めていたのだ。なんというチート。これならラッシュなんて余裕だぜ!
しかしまぁ、深刻な欠点もなくはない。
この時間加速、本体である俺自身の身体には全くかからないのである。あくまでも時間を加速できるのはスタンドそれだけ! よってガングロ神父みたく神出鬼没を再現できない。
幸い視界の方は加速しているスタンドの方の視界もあるデュアル画面だから指示は追い付けるものの、俺自身の身体はスタンドの加速に反比例し微動だに出来ないのである。
時間の加速しているスタンド視点から見れば、動きの止まった本体の周りを甲斐甲斐しくスタンドが世話して回っているような光景になっている筈だ。
なんという役立たず。近距離パワー型ゆえに、文字通りの足枷である。俺が。おまけに現在足を負傷していて動けない。まさに足枷。
そしてこの時間加速。スタンドパワーの消耗が空間を操るのに比べて、何気に激しいのだ。
今でこそ銃撃を完封しているが、このまま持久戦になったら本気でヤバい。時間加速が切れてしまったら、文字通り命運が断たれてしまう。
空間を操作してぶちかます切り札はあるものの、空間操作は本体を中心とした2mの範囲でしか実行できねぇし!!
アレ? ちょ、ちょっと待て!? これ本気で手詰まりじゃない!!??
「そこのお前たち。何をしているんだ?」
そんなこんなで焦り出したところに、声が響いた。目の前の男でも俺でもない、第三者の声である。
男の攻勢も止み、俺は声の響いた方へと顔を向ける。
人気の失せた路地裏。その向こう側の細い横道から、ジーンズとジャケットを着た普通の服装の男性が姿を現していた。
男性は怪訝そうな表情で、こちらの様子を窺っている。
スタンドはスタンド使いにしか見えない。
彼からしてみれば、倒れ込んだ俺とスーツ服姿の男が、妙に真剣な表情で向かい合っているようにしか見えなかったんだろう。
「怪我をしているじゃないか。君、大丈夫なのか?」
「ヤバイ! あんた早く逃げろ!! 急げッ!!」
「なにを―――?」
スタンド使いにだけ聞こえる、銃撃の音が響いた。
俺の目の前で、わざわざ気遣い近寄って来てくれていた男性の身体に満遍なく、スタンドの銃弾が食い込む。
そのまま男性の身体は吹っ飛び、アスファルトの上に転がった。
血が、流れる。
……あ、あの野郎。やりやがったッ!
真剣に怒りが吹き上がったぞ、この野郎!!
「お前はッ―――よくも簡単に!! 人を!?」
「面倒な話だがな……しかしこの際、もうたかが一人二人程度の違いは“関係ない”。すでにコッチはそれなりに危険な橋は渡っているんだ。余分な“芽”を残すつもりはない。ふん、半端な正義感をかざしたのが運の尽きだったな、コイツ。ああ心配はいらないぜ、ガキ? すぐにお前もコイツと同じように“始末”してやるよ」
男はスタンドの両掌を向けて、また銃撃を加えようとしている。
ふざけやがって、冗談じゃない。黙って殺されてたまるか。目の前の蛮行に、改めて怒りを覚えてしまった。こいつは一発、いや何百発も殴らないと気が済まない。
けどそれには足の傷が邪魔だった。近距離パワー型のスタンドは近付かなきゃ役に立たない。物を投げるにも、精密性は高くないし第一投げる物それ自体がない。
くそ、スタンドがクレイジー・ダイヤモンドじゃない以上、傷を塞ぐ方法は俺には………いや! あった!!
反射的に思い付いたアイディアに従い、ブリティッシュ・インヴェイジョンの能力、空間の操作を“傷口”に対して使う。
“傷口”に存在する、裂けた肉と肉の間の“空間”。その空間を“縮小”し、ミクロン単位にまで“空間”を縮める!!
この空間の縮小によって肉と肉の境は狭まり、そして見かけ上だが、傷は塞がる!
出来た! ぶっつけ本番のアイディア勝負だったが、上手くいったぞ!!
が、勢いよく銃撃される前に駆けだそうとした瞬間、塞げたはずの傷のある足から、激痛が迸った。
思わず身体の動きが止まり、その場に静止してしまう。
し、しまった。確かに傷は塞いだが、あくまでもそれは見かけ上だけで、実際に神経や筋肉が繋がった訳ではなかったんだった。
完治したつもりで足に負荷をかけたから、神経を圧迫されて激痛を引き出してしまった。この場面で自爆するか、俺!?
時間加速をかけた訳ではないのに、やけに視界がゆっくりと動く。
恐らくは男が銃撃を再開するまで、二秒とて時間はかからない。急いでショックで消してしまったブリティッシュ・インヴェイジョンを再発現させようと意識する。
間に合うか? 間に合え! 一念岩を貫く思いで、必死に願う。
だが、だめだ。男の方が、一手、早いッッッッ!!!
「――――――変、身」
「ぇ?」
何処からか現れたワイヤーが、男に絡まる。
絡まったワイヤーは一気に引き絞られて、男の全身を強引に拘束した。
その思わぬ不意打ちの衝撃に、男は自分のスタンドを消滅させてしまう。
「な、なにィィイイイイイ!?! ば、馬鹿な、なんだこれはァアアア!?!?!」
「な、な……なぁ!?」
俺は俺で、拘束された男とは別ベクトルの驚きに混乱しまくってた。
ワイヤーの出所を辿って見てみれば、そこは先程、男に銃撃された親切な男性の倒れていた場所である。そこには倒れている男性の姿はなく、立っている人影がある。
が、しかし。その容姿は、決してあの男性のものではなかった。
黒を基調とした全身のカラー。ぺったりと全身の節々を覆うライダースーツの様な光沢のアンダーに、肘や胴体などを装甲の様に守っている外骨格。
所々に露出されているメカニカルな機構に加えて、腰には特別な意匠を施されたベルト。止めにその頭部を包む、複眼状の構造をしたマスク。
「か、仮面ライダーッ!?」
明らかに世界の違う存在だった。
スタンドではない、確実に。造形センスが、ペルソナとかいうレベルじゃなく一線を画し過ぎている。
知っているどの仮面ライダーとも一致しなかったが、しかしそのマスクやスタイルや、何よりもちらりとさっき聞こえた掛け声が、雄弁に且つ明瞭に仮面ライダーだと語っていた。
てーかここジョジョワールドじゃなかったんかい!? 混ぜ過ぎにも程があるしジャンル違いもたいがいだろオイ!!
「何がどうなっているか……詳細は分からない。しかし、話を聞く限りではこの場の元凶は、貴様で間違いはなさそうだ。そして、到底野放しにはできない魂の持ち主でもある」
「くそ! 次から次へと妙な連中が沸いてきやがって!!」
男はワイヤーに絡まりながらも、強気な姿勢を崩さず再度スタンドを召喚する。
仮面ライダーは反応しない。いや、というかもしかして、スタンドが見えてないのか? そりゃ仮面ライダーであるなら、スタンド使いではないだろうし。
って、そうだったら不味い!?
「ま、不味ッ! 避けろ仮面ライダー!!」
「遅いッ! 喰らいやがれ!!」
俺が叫ぶが、それよりも早く男のスタンドが両掌を仮面ライダーに向けて射撃体勢を整える。
ダメだ、間に合わない。思わず俺はそう思った。
が、それは無用な心配だった。
「ワイヤー・ショック!!」
「ぐぎゃぁあああああぁああああ!!!!」
ばちりと音がした次には、男が盛大に髪を逆立たせながら感電していたのだ。
銃撃を受ける前に許容量以上の電撃を食らった男は、絶叫の後にあっさりと意識を失った。合わせてスタンドも姿を消す。
シュルシュルとワイヤーを巻き取り、仮面ライダーが男を開放する。哀れ、即席のパンチパーマ状態となった男が路上に転がっていた。
「………殺した?」
「いや、少しばかり出力を強めにこそしたが、命を奪うレベルではない。気絶しているだけだよ」
強い光が一瞬だけ漏れる。
光の後にはもう仮面ライダーの姿は消えて、代わりに立っていた場所には、あの男に銃撃された男性が立っていた。
すげぇ、リアル変身を生で見てしまったぜ。
「俺は藤戸利光という。よろしく」
「か、勝田時雄です。こ、こちらこそ、よろしくお願いしますッ」
手を差し出され、思わずどもりながら握り返して立ち上がる。
やべぇ、まじやべぇ! リアルヒーローと会話しちまったよ!? ホンマもんの仮面ライダーだぜおいっす!? 知らないライダーだけどね!!
心臓ばくばくである。年甲斐もなく興奮しちゃってるぜ、俺!?
「そうか、時雄か。時雄、君に尋ねたいことがあるんだが……いいかな? さっき君は、俺のことを仮面ライダーって呼んでいたね?」
「は、ハイ!」
テンション最高潮! 俺クライマックス!!
が、そんな俺のテンションをあっという間に冷ます一言を、藤戸さんはくれたのであった。
「仮面ライダーっていう単語を知っているってことは………君がもしかして、トリッパーかい?」
…………………………はい?
衝撃の事実発覚。驚愕! トリッパーは俺一人ではなかった!!
藤戸さんとの会話で判明したことであるのだが、いやはや………そりゃまぁ、自分が世界で最初且つ唯一の特殊な事例だって考えるのはおこがましいんだろうけどさぁ。たいがいの行動やアイディアは、もうすでに別の人がやってたりする世の中だし。
にしたって、まさかこんなモンにまで先行者が、いや違った。先駆者がいるとは思わなかったぜ。俺、涙目。
なんでもさらりと聞いた話の部分であるが、藤戸さん曰く、最初に集まった数人のトリッパーが作った集団が発展し、現在ではそれなりに巨大な組織を形成しているらしい。
んで開発出来た技術を元に他の世界への移動も可能になった。ぶっちゃっけ仮面ライダー世界からジョジョ世界に行ける、と。
ゼルレッチですね、分かります。
他にも細かい話を聞きたい所ではあったのだが、しかし残念ながら時間がなかったので、話はまた後日。会う約束を取りつけてこの場は分かれることに。
そうそう、スタンド使いの男についてだが。藤戸さんといっしょにどうするべきか、扱いにすっごく困り、悩みまくった。
単純に暴力沙汰として警察に身柄を差し出そうにも、スタンド能力を持っている以上は再犯する可能性が大であるし、そもそも簡単に警察に捕まってくれるとも思えない。
かといって後腐れなくスタンド能力を封じる方法なんて思いつかないし、まさか殺してしまう訳にもいかないでしょ?
ああ、ジャンケン小僧の能力が欲しい。そうヒシヒシと思っていたのだ。
で、そうやって頭を悩ましている時、ピンと某坊主さんの様にいい考えを思い付いたのである。
スタンドってのは、要するに本体の精神力の現れな訳だ。
つまり精神的にフルボッコしてしまえばスタンドは弱まる!
この考えを下地に、俺は行動を開始した。
まず男のスーツを程良く切り裂き、身体の随所に卑猥さを強調させるように縄を持ってきて亀甲縛りを敢行。猿轡はもちろん噛ませる。
下半身は完全に露出させて、ケツの穴を見せつけるように掲げるポーズを取らせる。ついでにアクセントとして温度計を突っ込んでおく。
そして止めに身体に私は犯罪者ですと書かれた紙を張り付けて、住宅地のど真ん中に放置しておく。なお、紙には財布に入っていた免許証から調べた氏名と住所もばっちり明記済みだ。
うむ、これで完璧だろ。実に変態野郎の完成だ。マスコミにも通報済みである。
これは確実に精神的に再起不能だね。俺ならそのまま自殺するレベル。これでリカバリー出来る奴はマジもんの真性ぐらいだろう。
ちなみに何か藤戸さんがすっごく躊躇していたが、いやいや仕方がないんですって?
まさかぶちのめし終わった相手をさらにボコボコにするのは寝覚めが悪いだろうし、かといって放置する訳にもいかないんですから。
という訳で藤戸さんを説得しながら、一仕事を終えたその日であった。
あー、疲れたぜ。
そんなこんなで、来ました日曜日。藤戸さんと会うために、今日は予定を一切入れていない。
藤戸さんとの話では、今日は件の組織まで連れて行ってくれるとのこと。そっちに説明役の人がいるから、色々と詳細についてはその人に聞いた方がいいとのこと。
で、約束通り藤戸さんと合流した後、藤戸さんが取り出した小さな機械っぽいアイテムを弄ると現れた、凄い奇妙な穴。何これ? 暗黒空間か?
こっちの困惑を置いたまま、藤戸さんは普通にその穴の中へズブズブ入っていく。うぇ!? 入るの!?
はっきり言って抵抗はかなりあったのだが、しかし仕方がないので覚悟を決めて突撃。男は度胸! なんでもやってみるもんさ!!
どっぷりと真っ暗闇になったと思ったら、視界が急変。なんか気が付いたら、どっかの施設らしき場所の中にいた。
すぐ傍には先に行っていた藤戸さんがいて、遠くには別の人影の姿も見える。どこよ? ここ? ワープか?
「恒例の言葉なんだけどね………ようこそ、トリッパーメンバーズへ。時雄」
苦笑する感じで、藤戸さんが俺にその言葉を言った。
かくして、俺は初めて異世界間組織、トリッパーメンバーズと接触することとなったのだ。
この後、俺はトリップで神様の眷属になるというのに加えて、羨ましいほど美形なチートを持った説明係のクロノーズと対談したり、(フォーチュン・クエストてなにさ?)
バイオ世界にトリップして生身で生き抜いた上に、一切の特殊能力が身に付かなくてもう銃だけが友達とか言っちゃってるガン・マスターなトリッパーとか会ったり、(悲惨すぎるぜ)
美形な上に肉体的にも強く魔力も馬鹿多くてレアスキルを二つ持っている、実に妬ましいチートオリ主筆頭と会ったりなど、(時折ムカつく奴だが、ノリはイイし気前は良かったりするのだ)
結構新鮮で楽しい経験を体験するのであった。
クロノーズ曰く、組織はトリッパーを保護することを目的として活動し、発見したトリッパーに対しては無条件に色々なサービスや保証を与えているという。
しかし、だからと言って別に組織に拘束する気はないんだと。トリップした世界に愛着があったり個人的な事情があるのなら、別に無理して組織に所属する必要はないとのこと。
トリッパーの保護というのは完全な慈善事業であり、打算や押し付けは一切ないらしい。
極端に言って、トリッパーに用意したサービスを利用するだけして、自由気ままにトリップした世界を満喫しても問題ないとのこと。さすがにそれが組織のルールを破る様だったり損害を与えるような問題行動なら取り締まるが、別に利益的な還元は求めていないらしい。
なんか非常に都合のいい話なんだが、クロノーズはこれについて嘘偽りはないと太鼓判を押していた。メチャクチャ気前が良すぎるぜ旦那。
で、実際俺にも、何と居住用の一室が与えられるなど各種サービスを貰えた。すげぇ!!
とりあえず貰えるものは貰っておこうと、遠慮せずにありがたくサービス類は全部受け取ったぜ。
それからは、普通に元のジョジョ世界へ戻り学生生活を送ることに。そして変わらず枝折ちゃんを見に行ったり、時折リターン・ポイントの方へ顔出しに行って適当にくちゃべったりなど、そういう風に日々を過ごす。
んで、月日が流れること半年ほど、夏休み。
まとまった時間が取れるようになり、俺は組織で働くことにした。
とはいっても、それはアルバイト感覚であり、気安いものだったけどな。
リターン・ポイントのショップは、品揃えが色々と面白いのである。一般構成員向けのお土産レベルのものから、購買にライセンスの必要な特殊な品目まで。
メンバーズサービスでそのあたりの制限がないので、俺はその商品を自由に買えたりするのである!
いい加減携帯ゲーム機の一つでも欲しかったんだよね。年代的にこっちは全然出てきてないしさ。
しかし、問題は一つあった。金がないのである。
サービスで自由に買うことが出来ても、さすがに料金はタダにならなかったのだ。ガッデム!!
で、リターン・ポイント内で適当に職につき、お金を稼ぐことにしたのだった。
このリターン・ポイント、施設の大きさから中に存在する人口まで、全部が全部バカでかい。その様子は都市と言っても変わりないレベルだったりする。
だからそれこそ、一般的な会社員染みた内容の仕事から、そこらのコンビニのバイトレベルの仕事まで、色々と働き口が多かったりするのである。
けど正直、ちまちま働くのは面倒だしなぁ。勤労精神は大事だけど、やっぱ理想は最小労力でガッポリ稼ぐことでしょう?
という訳で、俺は条件に合致した素晴らしい職場を発見したのであった。
それは何か?
探査部の実行班。通称、“開通係”と呼ばれている職種である。
この仕事、トリップ・システムを使った新しい世界の発見・開通を行っているのだが、しかしシステムの性質上行うことが出来るのはトリッパーだけとなっている。
前提として絶対的少数なトリッパーである必要がある上に、少なからずの危険性も孕んでいるために、万年人員不足に陥っている職種なんだとさ。
しかし、組織としては重要な職種ではある。ゆえに、この職種はかなりの高額な給金額を誇っているのである。ココ重要ね!!
給金システムは基本歩合制でそれにプラスαなシステムらしく、基本的に一回のトリップで、普通に働く分の三カ月相当の額を稼げるとのこと。グレート! 素晴らしい!!
正直、危険性があるといってもそんなん、可能性だけの話でしょ?
仮に、いくらトリップした世界が戦争しているような世界だったとしても、まさか戦場のど真ん中にトリップしてしまう筈がないだろうし。そんなんどんだけ奇跡的な確率だよ?
おまけに、俺がトリップする世界は、かなり帰還の周期が短い世界であるとのことだし。スタンドもあるし楽勝でしょ!
この帰還の周期とは、開通の際にだけ起こる現象のことである。最初にトリップして、またリターン・ポイントへ戻るためにトリップ・システムを起動させるに生じる、インターバルの様なものだ。このインターバルが終わらない内には、トリップした世界からは帰還できないらしい。
インターバルはトリップする世界によってマチマチであり、ほんの五分程度で済む世界もあれば、一ヶ月ほどの長期に及ぶ世界もあるのだという。この必要なインターバルは詳細な時間は分からないが、しかし事前に短いか長いか程度は分かるらしく、それによって準備を整えてトリップするのだと。
俺がトリップする世界はインターバルは極めて短く、せいぜい最長で一日程度だろうと見られている。たかが一日ですぞ? さすがに一ヶ月とか長期間だったら不味いだろうが、一日程度なら飲まず食わずでも耐えきれるレベルだって。
一日働いて、三カ月相当の稼ぎ。ボロい! ボロ過ぎる稼ぎだぜ!!
という訳で、俺は盛大に欲に釣られながら、喜び勇んで新しい世界へとトリップするのであった。
で、俺はこの十秒後あたりに、この迂闊さを心底後悔するのであった。うん、有り得なくね?
以下、感想ね。
割に合わねーって!! いくらボロくても命とは釣り合わんっつーの!!
平穏第一! 命大事に!! もう絶対俺は危険に首を突っ込まんからな、ちくしょー!!!
正直舐めてました! ごめんなさい!! お金を稼ぐって大変ですね!!
俺は平凡に生きるぞぉー!! 部長ォーーーーッッ!!!!
まじ御免なさい。勘弁してください。
土下座して辞表を出したその日でした。
憑依型トリッパー、スタンド使い勝田時雄。
彼はその後、この時の思いとは裏腹に、より危険の渦中へと身を投げ出すこととなる。
時雄はそのスタンド能力ゆえにDIOに目を付けられ、連れ去られた高目枝折を助け出すために、単身エジプトへ出国。そこでジョースター一味と接触し、DIO相手に激戦を演じる。そして自身のスタンド“ブリティッシュ・インヴェイジョン”を、“2nd・ブリティッシュ・インヴェイジョン”へと成長させるのであった。
加えてさらに後年。後にトリッパーメンバーズ三大事件と呼ばれる事変の一つ、ブロリー・ショックにて己のスタンドをレクイエム化。事態収束に大きく貢献することになるのである。
このことを、この時の彼は予想だにしていなかった。
―――あとがき。
外伝です。時雄主役です。時雄主役はこれで最後です。
感想が凄い。多くの人が真剣に本作を見てくれてるようで、作者は頭が下がる思いです。期待を裏切らないよう、がんばらせていただく所存です。
一人称にチャレンジしてみた近作。感想はやりにくい。簡単って聞いたけど、逆にやりにくくない? なんか一人称で場の状況を語らせるのがすごく難しい。
次は本編に戻ったり。キングクリムゾン! 四年ほど時間を吹き飛ばした! 結果だけがその場に残る!!
応援ありがとうございます。これからも本作をよろしくお願いいたします。
感想と批評待ってマース。
PS
これから更新が不規則になるかも。ごめんなさい。