少数を以って多数を破る。 それは古来より、多くの用兵家たちが夢見た偉業であり――そして、その夢と同じ数だけの無残な敗戦を築き上げた禁断の果実である。 それは歴史が証明する厳然たる事実。 100ある戦の中で、少数が多数を破る奇跡は1にも満たず。それゆえに、成功をおさめた戦の煌びやかな光彩に、凡庸な将軍たちは迷わされるのだ。 戦術の要諦とは、敵よりも多数を揃えること。その多数を訓練し、統率し、補給を整え、万全の状態で戦場に送り出すことこそ、勝利を約束する唯一の方策である。 その点、今回の劉家軍の戦いは、まず前提からして終わっている。なにせ、相手はこちらの百倍に達しようかという、雲霞のごとき大軍なのだから。 その大軍に対して、劉家軍が優るものといえば、軍としての錬度。そして、強靭な指揮系統である。玄徳様の下に統一された目的を戴く劉家軍のそれは、雑多な寄せ集めである黄巾賊とは比べ物にならない。 とはいえ、そういった優勢は、数の暴力の前ではあっさりと崩れ落ちてしまうこともある。それに、寄せ集めの軍だからこそ、勢いに乗ったときには手を付けられない力を発揮するともいえた。 それゆえ、肝心なのは、相手に勝利の確信を抱かせないこと。常に自分たちが攻められているという意識を植え付け、戦の主導権を握り続けることで、相手をこちらの意図する状況に導いていくことこそ、寡勢である劉家軍の唯一無二の勝機であるといえた。 ……以上、鳳統軍師から聞いた戦術講座の概要でした。いやあ、勉強になるなあ。さすがは鳳統、こと戦術にかけては諸葛亮さえ及ばない冴えを見せる鬼才である。 普段、あわわあわわ言ってる女の子の頭脳が蓄える知識の海は、いったいどれだけ潜れば底に着くのだろうか。 その鳳統の冴えを元に、諸葛亮の精緻な頭脳で築かれた作戦を、関・張の2大猛将が指揮するときては、百倍の戦力差さえ恐れるに足りない。おれには、そう思えた。 そう。彼女らの後の評価を知るおれだからこそ、そう思えたのであり、実際、少女たちの今しか知らない他の兵士たちの中には、不安や動揺がたゆたっている状況であった。 もちろん、これまでの幾度かの戦闘、そして日常の訓練で示された関・張の武勇に関して疑いを差し挟む者はいないが、百倍の戦力差が、個人の武勇で覆すことは不可能なこと。それは誰しも知るところだ。本来、それをカバーするのが策なのだが、こちらを担当する2大軍師・諸葛亮、鳳統の2人に関しては、まだそこまでの信頼はない。 そんなわけで、おれは軍のあちらこちらに顔を出しては、不安がる兵士たちのフォローをしてまわった。 といっても、別に特別なことをするわけではない。 黄巾賊の、軍としての脆弱さを強調する。「だってアイドルグループのファンクラブと戦うようなもんだぞ。おれは、演習で関将軍の相手をするほうがよっぽど怖い!」 黄巾賊に勝たねばならないという意識を煽り立てる。「あいつら、黄巾党以外の人間は奴隷扱いするからなあ。見ろ、この背中のあざ。あいつらに負けたら、恋人や家族がこんな目に遭うんだぜ? 男なら負けらんないだろ!」 劉家軍の強さを認識させる。「あれだけ毎日、関将軍と張将軍にしこたま鍛えられてるんだ。今の自分と、ここに来るまえの自分を比べてみろ。様変わりしてることに気づかないか? 今のおれたちなら、寄せ集めの賊軍なんぞ、万が10万になったところで敵じゃないさ。玄徳様の掲げる正義の御旗に敗北の泥なんてつけさせるな!」 とまあ、そんな感じである。 ぶっちゃけると、軍の士気をあげるなら、玄徳様に演説の1つでもやってもらえば良いのだが、これは繰り返すと効果が薄くなるので、戦い直前まで温存せねばならない。 よって、日ごろの細かいケアを欠かさずに。お肌の手入れが女性にとっての死活問題だというのなら、軍にとっての死活問題は士気の高低に他ならないのである。 もちろん、この程度で目に見えるような効果があがるわけではないが、そこはそれ、古来から言うでしょう。「やらないよりはまし」と。 だが、おれの心配とは裏腹に、劉家軍の兵士たちの顔は、戦いの日が近づくにつれて動揺が消え、その表情は静かでありながら、烈気に満ちた戦士のものとなっていった。 それは将軍、軍師、そして全員の主である玄徳様も同様であった。 皆、わかっているのだろう。 この戦いが、今後の幽州の平和を決めるのみならず、自分たち劉家軍の命運を定め、ひいては後の中華帝国の歴史に影響を及ぼす戦いとなるであろうことを。 さすがは大志を秘めたる戦士たち。おれの奔走が実ったのかと思ったりしたが、うぬぼれも良いところだったようだ。功績を吹聴するような真似をしなくてよかった良かった。 これで心置きなく、この村から出られるというものだ。 ……一応断っておくが、逃げ出すわけではない。さすがにそこまで腐ってはいません。 おれは、協力してくれる村人たちと一緒に、一足先に、山林の細工を始めることになっているのだ。 資材や資金が限られているが、出来るかぎり堅牢な物をつくっておかなければ、黄巾賊の攻囲に耐え切れなくなってしまうからな。 編成としては、本軍が玄徳様、関羽、諸葛亮率いる二百名。奇襲部隊が張飛、鳳統の率いる百名。で、工作部隊(?)がおれと協力者の三百名である。彼らは、武器を持って戦うことこそできないが、平和な世の中を目指して戦う玄徳様を信じ、危険を顧みずに志願してくれた近隣の住民たちで構成されていた。 おれは砦やら罠やらの知識は皆無だったが、心配はいらない。木材は樵を生業としてる人を中心として、現地の山で切り出してもらう。山に仕掛ける罠などは狩人にとってお手の物だし、柵の組み方は老いて退役した爺ちゃんたちに聞けば良い。 すでに、彼らの中から中心となってくれそうな人たちとは、話をつけていた。「じゃあ、五台山で逢おうね、一刀さん」「なるべく堅牢な陣にしつらえておいてくれ。黄巾賊は、必ずおびき出す」「わ、私たちも頑張りますので、一刀さんたちも頑張ってくださいね!」 そういって、こちらの健闘を祈る本軍を率いる3人。 一方、奇襲部隊を率いる2人は、というと。「黄巾賊は鈴々たちがやっつけるから、お兄ちゃんは適当に休んでてくれなのだ!」「あわわ、だ、駄目ですよ、張将軍。それじゃ作戦が~」「鈴々の辞書に、作戦という文字はないのだ!」「ますます駄目ですッ?!」 そこはかとなく不安なやりとりを繰り広げていた。ま、まあ、張飛も一軍の将なのだ。大丈夫だろう……大丈夫だよな? いやまて、そういえば張飛のお目付け役である関羽がいない場合って、誰が張飛を止めるんだろう? 背中に嫌な汗が流れたが、おれは慌てて首を横に振って、疑念を追い払う。いかんいかん、しょっぱなから味方を疑うようでは、勝利は覚束ない。「張将軍」「どうしたのだ、お兄ちゃん?」「賊将の程遠志は、なかなかの武勇の持ち主だけど、将軍なら余裕で勝てるよな?」「あったりまえなのだ。野盗の親分なんて、鈴々の敵じゃないよ!」 自信たっぷりにこたえる張飛に、おれは笑って頷いてみせた。「そか。じゃあ、そのための舞台は整えておくから、大暴れしてくれ。活躍次第では、なんと県城の食べ物屋くい倒しツアーが開催されるかも」「おおお、本当?! よし、鈴々、頑張るのだーーー!!」 蛇矛を天に掲げつつ、虎のごとき咆哮をあげる、小さな猛獣。 この猛獣に狙われる羽目になる程遠志には悪いが、まあ運命と思って諦めていただこう。 かくて、おれの戦いは血で血を洗う戦場ではなく、険しい山肌と生い茂る林の中で始まった。 五台山のあたりは黄巾党の勢力圏ではあったが、重要な資源が眠るわけではなく、これといった都市があるわけでもない。軍の展開を主眼に見ても、この地を確保しておくべき理由もない。 つまりは、戦略的にみて重要な地点というわけではないので、黄巾党の監視の目もほとんどなかったのである。それでも百名単位の人間が活動していれば、平時であれば何かと人目についただろうが、今は戦の真っ最中。その心配も少なかった。 傾斜の緩い斜面に天幕を据え、作業を開始する工作部隊の一同。 木を切り、柵を作り、簡易ながらも屋根のある砦を作っていく。 同時に、林を切り開いて道を作り、各処の味方との通行の便を少しでも良くしていかなければならない。 そこらに転がっている邪魔な石も、落石、投石用に使えるし、木材はそのまま武器として用いることもできる。作業は吶喊工事で進められたが、ろくな報酬もないというのに、皆、よく激務に耐えて従ってくれた。 一週間が過ぎる頃。粗末ながらも、砦と称するに足る陣地が出来上がっていたのは、紛れも無く彼らの努力の賜物であった。 すでに、山の各処には様々な罠が据えつけられており、要所要所には簡易ながらも柵が幾重にも張り巡らされており、容易に敵の侵入を許さない備えになっている。 十分だ。 おれが確信をもってそう言えるほど、五台山の砦は、即席とは思えない堅牢さを形作っていたのであった。 どれくらい堅牢かというと、作戦通り、山砦にやってきた関羽が、「これほどまでとは……」 と密かに嘆声を発するほどであった。 五台山の麓に集結した黄巾賊。その数は3万を越えていた。それは、幽州の県城を包囲していた軍の、ほぼ全てにあたる。 ここまでおびき出した関羽たちの手腕はさすがというべきだが、おれはそれよりも気になることがあった。「おーい、孔明ー」「何ですか、一刀さん?」 とことことやってくる諸葛亮に向け、おそるおそる問いかける。「あのさ、敵をおびき寄せる時、おれの案は使ったのか?」 使っていないでほしい、と切に願いつつ、問いかけるおれ。 だが、願いとは往々にして叶えられないものであるらしい。諸葛亮は首を横に振ると、きっぱりと言い切る。「使いました。これでもか、というくらいに」「さいですか……」 ああ、これで張角たちに逢った時は、後ろを向いて全力疾走しなければならなくなった。せめて、その時がわずかでも遅くなりますように。 さて、聞くべきことは聞いたし、今日もしっかり働くとしますか。「気をつけてくださいね。敵もそろそろ、こちらの数が少ないことに気づいている頃です」「ああ、わかった」 諸葛亮の言葉に、おれも頷いて答える。 これでもか、とばかりに山中に旗を押したてていようと、実際にそこに篭っているのは二百名足らずの兵士と、百に満たない民間人。万を越える兵士に見せかけるには、明らかに限界がある。ちなみに、本当ならば、作戦が功を奏した段階で工作部隊に参加してくれた人たちは全員、山を降りてもらうつもりだった。しかし、今言ったとおり、百名近い人たちが、おれたちと共に砦に残ってくれたのである。 兵士として戦ってくれる人もいたし、資材として木を切ってくれる人もいた。あるいは柵の修理や、武具の手入れといった仕事を手伝ってくれる人もいた。それがどれだけおれたちにとって有難いことなのか、言うまでもないだろう。 おれはそういった人たちの中で、特に森林に慣れた人たちと共に、各処で旗を押し立てる役割を担っていた。旗を立てるだけでは、すぐにばれる。そこに生きている人間が動く気配がなければ、敵の目は誤魔化せないのだ。 もちろん、これとて前述したとおり、限界がある。誤魔化せるのは、精々、1日か2日というところか。それだけ時間を稼げれば、おれたちの役割は果たせたも同然なのだ。 だが、しかし。 どれだけ作戦が上手く行こうとも、戦にあって、犠牲が避けられるはずもなく…… その日の夜。 手から伝わる冷たい感触に、思わず背筋が震えた。だが、手を引っ込めることはしない。否、できない。命をかけて戦い抜いた仲間に対して、そんな礼を失したことができるはずはない。 この日、砦の防衛戦において、敵の手にかかって果てた人数は10名。あれだけの大軍に攻囲されていることを思えば、驚異的とも言える損害の少なさである。 だが、元々2百名しかいなかった味方の中の10名と考えれば、それがどれだけ大きな損害かは瞭然としていた。おれにとっても、見覚えのある者たちばかりである。関羽の訓練の厳しさを、共に嘆いた夜の記憶が甦り、知らず、肩が震えていた。 だが、今は戦の最中。人として当然の感情さえ、封じ込めなければならない。 おれがしている偽兵の細工など、実際に戦場に立つことと比べたら、危険さは比べ物にならない。そんな安全な場所にいるおれだからこそ、味方の埋葬くらい手伝わねば申し訳がたたないように思えるのだ。 初めて間近で見る死者の顔と、その感触。その屍は、砦からやや離れた場所にあらかじめ用意していた墓所にまとめて葬られる。一人一人、墓を立てて丁重に弔う、などという余裕があるはずもなく、一列に並べられた彼らの上に、土を放っていく。 葬られるのは、彼らだけではない。屍毒の発生を懸念して、黄巾賊の連中の死者も、まとめてこの場所に葬っていた。 敵と味方、区別なく葬られていく様は、正直なところ、吐き気を催す光景だった。みな戦場で果てた者たちばかりとあって、綺麗な屍などほとんどない。顔を射抜かれていたり、腹から臓物をはみ出させていたり、糞まみれであったり。なんというか、トラウマになりかねないです、実際。 だが、これもまた、この時代の真実の1つ。目を背けることは出来るが、それでは今いる場所から一歩も踏み出せない。おれはそう思うのだ。 全てが終わったのは、夜もだいぶ更けてからだった。 風呂に入ってすっきり、などという贅沢は無論できない。せめて身体を拭きたいところだが、山砦の篭城戦にあって、水がどれだけ貴重かは言うまでもない。急造の砦とあって、井戸の1つもないのであれば尚更である。 こういったことがあるのは覚悟していたので、着替えはあらかじめ用意していたが……うう、着替えても匂いがとれないな。しかし、我慢我慢。どのみち、敵をここまでおびき寄せることが出来た時点で作戦は8割方、完了しているのだ。 後は、情報を流し、敵の激昂を誘うだけだ。これに関しても心配はいらないだろう。党首を侮辱された黄巾賊の勢いは凄まじく、彼らの怒りは未だ覚めやらないようだ。 すでに県城では、逼塞していた官軍が包囲を破っている頃合だろう。この状況で、他州からの援軍がこちらの擬態だと知らせてやれば、虚仮にされた黄巾賊の理性はたちまちのうちに蒸発すること請け合いである。「後は、張将軍たちの奇襲のタイミングが全てだな」 張飛の武勇と、鳳統の鬼才。この2つがかみ合えば、敵本陣を陥とすことは容易かろう。 賊将さえ討ち取れば、勝敗はそこで決まる。 逆に賊将を取り逃せば、数に劣るおれたちは、たとえ山砦に篭ろうとも、じりじりと磨り減らされ、消滅していくことになる。「頼むぞ……」 おれは、ここにはいない少女たちの姿を脳裏に思い浮かべ、その姿に向けて、そっと祈るように語りかけた。 だが、しかし。「敵の将軍、程遠志、この張益徳が討ち取ったのだーー!!」 張飛の高らかな宣言と共に、黄巾賊の本陣を襲撃した奇襲部隊から一斉に勝利を確信した雄叫びが、辺り一帯に響き渡る。 奇襲部隊が接敵してから、ほんの数十分。正しく、鎧袖一触という感じで、張飛は黄巾賊の本陣を粉砕してのけたのである。 昨夜の切迫したおれの気持ちは何だったんだ、と思わずそんなことを考えてしまうほどあっけない決着だった。袋の中から、物を取り出すにも似た容易さ。 これならば、真正面から敵軍と対峙しても、余裕で勝てたんじゃなかろうか?? 決戦当日。 朝日と共に総攻撃を開始した黄巾賊は、山上を目指して猛進撃を続けていた。その様を遠望していた本陣は、勝利の確信を得ていたであろう。だが、不意に後方から巻き起こった砂塵を見て、何事かと彼らが振り返ったとき、すでに張飛を先頭とした部隊は、恐るべき勢いで、黄巾賊の後衛に喰らいついていたのである。 百名の奇襲部隊は、張飛を先頭に一点突破のための鋒矢の陣を布く。鳳統によって編成された軍は、張飛の武力を剣の切っ先として、無雑作に展開していただけの黄巾賊の本陣を、文字通り力づくで切り裂いていった。そして、時を置かずに響き渡る勝利の歓声と、敵将戦死の報は、それまでの戦況を瞬く間に覆す。 山上より、作戦の成功を確認した関羽は、すぐさま乱れたつ黄巾賊に向けて逆撃を指示する。 浮き足立った黄巾賊は、降り注ぐ矢や岩、木材にたまりかね、砦から撤退を開始、すでに本陣が壊乱したことを知る黄巾賊には、踏みとどまるべき理由も、またそれを指示する指揮官もいなかった。 そして、劉家軍が追撃をためらう理由もまた、存在しなかった。山上から、そして本陣を撃砕した張飛たちが麓から、呼吸を合わせて、混乱を極める黄巾賊を挟撃する。 この一撃を以って、黄巾賊の指揮系統は完全に崩壊し、万を越える軍勢は、落雷に怯える羊の群れのごとく、算を乱して潰走をはじめたのであった。 討ち取った敵兵一千名余。降伏した敵兵五千名余。残余はことごとく逃亡した。 ここに。 劉家軍は、旗揚げ以来、最初の困難を克服し、幽州の地にその存在を屹立させたのである。「やったね、みんな!!」 玄徳様が微笑んで、勝利を祝う。 その周りには、関羽、諸葛亮、おれ、そして合流した張飛と鳳統が集まっていた。 おれを除き、この戦の殊勲者ばかりである。 玄徳様は、時に怖じけそうになる味方の士気を鼓舞し続けた。剣を持って戦う技量は、並の兵士にも及ばない玄徳様だが、それでも常に先頭に立って、味方と共に戦う姿は、おれには眩しいものであった。 関羽は、臨機応変な戦いぶりで、始終、黄巾賊の大軍を手玉に取っており、その指揮ぶりは堂に入ったものだった。1人の戦士としての武技もさることながら、1軍を率いる手腕もまた卓絶したものであることは、万人の目に明らかであったろう。 その関羽の補佐として、軍勢を取りまとめた諸葛亮の手腕も水際立ったものであった。 張飛の武威に関しては言うにおよばず、だ。だが、将帥として軍を指揮する手腕もまた大したもので、張飛を子供扱いしていたおれは、自分の不明をまざまざと感じ取る羽目になってしまった。 そして、その張飛の傍らで、張飛の武威を完全に引き出した鳳統の智略もまた、見事の一語に尽きる。 わかりきっていたことだが、改めて、おれは総身で実感していた。 今、おれと共にいる人たちが、広大な中華帝国において、なお稀有な輝きを放つ人身の竜たちであることを。 それは紛れもない事実。 だが、その一方で、その竜たちでさえ、この時、気づかなかったことがある。 勝利の後にこそ、真の苦難が待ち受けていることを、勝利に浮かれた彼女らは知らなかった。。 蒼天は已に死す。 その真の意味を、劉家軍はまもなく知ることになる。