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No.5244の一覧
[0] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 【第一部 完結】[月桂](2010/04/12 01:14)
[1] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 刀花邂逅(一)[月桂](2008/12/14 13:32)
[2] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 刀花邂逅(二)[月桂](2008/12/14 13:33)
[3] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 刀花邂逅(三)[月桂](2008/12/14 13:33)
[4] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 刀花邂逅(四)[月桂](2008/12/14 13:45)
[5] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 蒼天已死(一)[月桂](2008/12/17 00:46)
[6] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 蒼天已死(二)[月桂](2008/12/17 23:57)
[7] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 蒼天已死(三)[月桂](2008/12/19 22:38)
[8] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 蒼天已死(四)[月桂](2008/12/21 08:57)
[9] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 燎原大火(一)[月桂](2008/12/22 22:49)
[10] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 燎原大火(二)[月桂](2009/01/01 12:04)
[11] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 燎原大火(三)[月桂](2008/12/25 01:01)
[12] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 燎原大火(四)[月桂](2009/01/10 00:24)
[13] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 天下無双(一)[月桂](2009/01/01 12:01)
[14] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 天下無双(二)[月桂](2009/01/02 21:35)
[15] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 天下無双(三)[月桂](2009/01/04 02:47)
[16] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 天下無双(四)[月桂](2009/01/10 00:22)
[17] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 天下無双(五) [月桂](2009/01/10 00:21)
[18] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 洛陽炎上(一)[月桂](2009/01/12 18:53)
[19] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 洛陽炎上(二)[月桂](2009/01/14 21:34)
[20] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 洛陽炎上(三)[月桂](2009/01/16 23:38)
[21] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 洛陽炎上(四)[月桂](2009/01/24 23:26)
[22] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 洛陽炎上(五)[月桂](2010/05/05 19:23)
[23] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黄天當立(一)[月桂](2009/02/08 12:08)
[24] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黄天當立(二)[月桂](2009/02/11 22:33)
[25] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黄天當立(二・五)[月桂](2009/03/01 11:30)
[26] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黄天當立(三)[月桂](2009/02/17 01:23)
[27] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黄天當立(四)[月桂](2009/02/22 13:05)
[28] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黄天當立(五)[月桂](2009/02/22 13:02)
[29] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黄天當立(六)[月桂](2009/02/23 17:52)
[30] 三国志外史  六章までのオリジナル登場人物一覧[月桂](2009/02/26 22:23)
[31] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(一)[月桂](2009/02/26 22:22)
[32] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(二)[月桂](2009/03/01 11:29)
[33] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(三)[月桂](2009/03/04 01:49)
[34] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(四)[月桂](2009/03/12 01:06)
[35] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(五)[月桂](2009/03/12 01:04)
[36] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(六)[月桂](2009/03/16 21:34)
[37] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(七)[月桂](2009/03/16 21:33)
[38] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(八)[月桂](2009/03/17 04:58)
[39] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 各々之誇(一)[月桂](2009/03/19 05:56)
[40] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 各々之誇(二)[月桂](2009/04/08 23:24)
[41] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 各々之誇(三)[月桂](2009/04/02 01:44)
[42] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 各々之誇(四)[月桂](2009/04/05 14:15)
[43] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 各々之誇(五)[月桂](2009/04/08 23:22)
[44] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 二虎競食(一)[月桂](2009/04/12 11:48)
[45] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 二虎競食(二)[月桂](2009/04/14 23:56)
[46] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 二虎競食(二・五)[月桂](2009/04/16 00:56)
[47] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 二虎競食(三)[月桂](2009/04/26 23:27)
[48] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 二虎競食(四)[月桂](2009/04/26 23:26)
[49] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 二虎競食(五)[月桂](2009/04/30 22:31)
[50] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 二虎競食(六)[月桂](2009/05/06 23:25)
[51] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 月志天貂(一)[月桂](2009/05/06 23:22)
[52] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 月志天貂(二)[月桂](2009/05/13 22:14)
[53] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 月志天貂(三)[月桂](2009/05/25 23:53)
[54] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 月志天貂(四)[月桂](2009/05/25 23:52)
[55] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(一)[月桂](2009/06/07 09:55)
[56] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(二)[月桂](2010/05/05 19:24)
[57] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(三)[月桂](2009/06/12 02:05)
[58] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(四)[月桂](2009/06/14 22:57)
[59] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(五)[月桂](2009/06/14 22:56)
[60] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(六)[月桂](2009/06/28 16:56)
[61] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(七)[月桂](2009/06/28 16:54)
[62] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(八)[月桂](2009/06/28 16:54)
[63] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(九)[月桂](2009/07/04 01:01)
[64] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(一)[月桂](2009/07/15 22:34)
[65] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(二)[月桂](2009/07/22 02:14)
[66] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(三)[月桂](2009/07/23 01:12)
[67] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(四)[月桂](2009/08/18 23:51)
[68] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(五)[月桂](2009/07/31 22:04)
[69] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(六)[月桂](2009/08/09 23:18)
[70] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(七)[月桂](2009/08/11 02:45)
[71] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(八)[月桂](2009/08/16 17:55)
[72] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(一)[月桂](2011/01/09 01:59)
[73] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(二)[月桂](2009/08/22 08:23)
[74] 三国志外史  七章以降のオリジナル登場人物一覧[月桂](2009/12/31 21:59)
[75] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(三)[月桂](2009/12/31 22:21)
[76] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(四)[月桂](2010/01/24 13:50)
[77] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(五)[月桂](2010/01/30 00:13)
[78] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(六)[月桂](2010/02/01 11:04)
[79] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(七)[月桂](2010/02/06 21:17)
[80] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(八)[月桂](2010/02/09 00:49)
[81] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(九)[月桂](2010/02/11 23:24)
[82] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(十)[月桂](2010/02/18 23:13)
[83] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(十一)[月桂](2010/03/07 23:23)
[84] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(十二)[月桂](2010/03/14 12:30)
[85] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十三章 北郷一刀(序) (一)[月桂](2010/03/22 15:41)
[86] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十三章 北郷一刀(序) (二)[月桂](2010/03/26 02:19)
[87] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十三章 北郷一刀(序) (三)[月桂](2010/03/31 03:49)
[88] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十三章 北郷一刀(序) (四)[月桂](2010/04/09 00:37)
[89] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十三章 北郷一刀(序) (五)[月桂](2010/04/12 01:13)
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[5244] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(四)
Name: 月桂◆3cb2ef7e ID:49f9a049 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/18 23:51

「洛陽以来ね、劉備。久しい、と言うべきかしら」
「……そう、ですね。お久しぶりです、曹将軍」
 互いに、自らの軍勢の先頭に立っての挨拶である。
 一族を殺され、激怒しているかと思われた曹操であったが、劉家軍の前に姿を晒した曹操は、悠然とした態度で、劉備と相対している。その後背に控える諸将、軍勢もまた、復讐を、報復を目論む軍とは思われないほどに静けさを保っている。
 今の曹操軍を見れば、徐州の高官たちは、和平も不可能ではない、と判断したに違いない。


 だが。
「――ッ」
 一人、最前列で彼らと対峙する劉備は、我知らず、奥歯をかみ締めていた。
 そうしなければ、畏怖の声をもらしてしまいそうだった。激しく渦巻く水面より、静かにたゆたう淵の方こそ底が深いことを、凡庸の目は見抜けない。
 劉備の目に、今の曹操とその軍勢は、例えるならば堰を決壊させる寸前の黄河の流れと映った。押しとどめるものが消えたならば、後は地平の果てまで、全てを押し流して進むのみ。その前に立つ者は、ただその流れに飲み込まれ、押しつぶされ、押し流されるであろう。


 曹操の口が開いた。獰猛とさえ形容できそうな、勁い笑みが、その口元に漂う。
「しかし、少し見ぬ間に堕ちたものね、劉備。いつからあなたは、略奪暴行をことにするような下衆どもと、それをのさばらせる官匪と手を組むようになった? みんなが笑って暮らせる世をつくるという志、いずこに置き捨ててきたのか」
「――捨ててなんて、いません。私は、ずっとそのために、戦ってきたんです」
「その言葉がどれだけ説得力に欠けているかは、あなた自身も分かっているのではなくて? 今のあなたは、我が父、弟、一族を虐殺した者たち、そしてその暴挙を許した者に従い、我が行く手を阻んでいる。それはつまり、虐殺を、かかる事態を引き起こした統治を肯定しているということではないの」
 徐々に。
 曹操の言葉に、刃の輝きが見え隠れし始める。
 劉備は、丹田に力を込め、曹操から発される威迫に対抗しつつ、口を開いた。
「そ、それは違います、曹将軍」
「何が違う、劉玄徳?」
「徐州の陶州牧は、曹家の方々を襲う指示なんかしていません。それに、襲撃が起きてしまってからは、すぐにご自分の、その、子息を捕らえて、襲撃に加わった者たちを捕らえるように厳命しています。罪を犯した者たちを罰するために。ですから、決して徐州の人たちが、曹将軍や、一族の人たちに牙を剥いたわけではないんですッ」
 劉備の口から出る言葉を聞いても、曹操は眉一つ動かさない。
 自分の言葉が、相手に届いていないことを悟りながらも、劉備はなおも言葉を重ねた。重ねる以外になかった。
「今、陶州牧はその仕置きの疲労と、心労とで、病の床についてしまいました。けれど、時間さえもらえれば、必ず陶州牧と、州牧に仕える私たちが、襲撃に加わった人たちを見つけて、それに相応しい罰を与えます。曹将軍が自ら処断を望むのなら、もちろん、引き渡すことも拒みません。曹家の人たちには、それを要求する権利があるとは、陶州牧みずから仰ったことです」
 ですから、と劉備は続ける。
「お願いします。徐州に、いま少しの時間を下さい。曹将軍が、お怒りなのは、当然だと思いますが、でも、だからといって徐州の地を侵すことが許されるわけでは――」


「もういいわ、劉備」
 曹操は、必死に言い募る劉備を前に軽く手を一振りすることでこたえた。
 劉備を見る曹操の眼差しは、冷気を宿して凍てついていた。
「あなたにとっては、陶謙は寄る辺なき身を受け容れてくれた恩ある者。その恩人が、愚劣な子息の行いに悩まされ、その治める領土が敵の馬蹄に踏みにじられようとしている。であれば、あなたはそれを止めるために戦わざるをえない。あなたの掲げる正義のためにも。そう言うことなのでしょう?」
「は、はい、その通りです」
 陶謙は、徐州の要である。今の徐州の繁栄は、その多くが、長年、統治に腐心してきた陶謙の功績に帰せられるべきものである。官と民とを問わず、陶謙の徳謀を慕わない者は徐州にいない。無論、劉備たちも同様である。
 その陶謙を、曹操が力ずくで除こうというのなら、劉備はそれを止めなければならない。今、徐州で暮らす人々の笑顔のために――たとえ、心情的に曹操の行動を理解できてしまうとしても。
 劉備は、軍議の際のことを思い起こす。
『いかに曹将軍に報復という理があり、また徐州側に非ありと言えど、ここは屈してはならないところだと私は思います』
 その通りだ、と劉備は思ったのだ。


 しかし。
「愚か者」
 乱世の覇者は、そんな劉備たちの想いを嘲笑う。貴様たちの考える正義とは、その程度なのか、と言わんばかりに。
 劉備は、自らの主張が都合の良い言葉であることもわかっていた。大切な人たちを理不尽に殺された曹操からすれば、奇麗事を、と罵倒の一つもされるかもしれない、とは考えていたのである。
 だが、今、曹操が発した言葉は、明らかにそれとは意味が異なった。
 劉備の口から、思わず疑問の声がもれる。
「え?」
「愚か者、と言ったのよ」
 曹操は再び同じ言葉を口にする。
「劉備、あなたは、私がただ私怨のためだけに、二〇万の大軍を催し、この地まで攻めてきたとでも思っているの? 首謀者の首級を欲するならば、この身が彭城に乗り込んで、不埒者たちをたたっ切れば良いだけのこと。陛下の勅許を得て、将兵に労を強いるような真似をする筈がないでしょう」
 こともなげに言う曹操を、劉備は見つめることしか出来ない。この人ならば、その程度のこと、容易く成し遂げてしまうだろう。そう思ってしまったから。
「無論、此度のこと、このままにしておく心算はない。下衆どもには、いずれ罪に相応しい酬いをくれてやろう。だが、今、最も肝要なのは曹家の報復に非ず。徐州の統治が、民に害をなす暴政への兆しを見せていることである」
 その曹操の言葉には、さすがに劉備も黙っていられなかった。思わず、曹操に向かって反駁しようとする。
「そ、そんなことはッ」
「ないと言えるのか、劉備? 現に、我が一族は、徐州の地で陰謀に巻き込まれ、虐殺された。彼らのほとんどは、武器を持たない者たちであったのに。それと同じことが、今後起こらないと、あなたは断言できるの?」
「……そ、それは」
「断言できるというのなら、根拠を問いましょう。我が一族を襲った悲劇が、今後、徐州の民の上に起こらないという確かな根拠を」


 劉備は言葉を詰まらせた。
 今回のことは、公子たちの暴走ゆえ。ならば、そう断言し、公子たちが罪に服せば、同じようなことは起こらないと言っても良いのだろうか。
 だが。
 公子たちがいなくなれば、本当に万事良くなるのだろうか。昔日の平穏が戻ってくるのだろうか。
 先ほど、劉備は陶謙を徐州の要と言った。
 その要が、そう遠くない時期に失われることは、残念ながら避けられない。その時、徐州の高官たちの誰かが、今回と似たようなことを行わないとどうして言えようか。
 大丈夫、と思うことは出来なかった。孫乾や糜竺、陳登、そして劉備自身も含め、残された者たちがしっかりと後を守れば、そんなことにはならないとは思う。だが、自分や孫乾たちが揃って彭城にいたにも関わらず、今回の件は誰一人として気づくことが出来なかったではないか。


 気づいたのは、たった一人だけ――あれ、でも、どうやってあの人は、このことに気づくことが出来たのだろう?




 劉備の思考が、脇にそれたのを悟ったわけではあるまいが、曹操はその考えを塞き止めるように言葉を続ける。
「徐州は、してはならないことをしてしまった。たとえそれがどのような理由によって惹起されたものであれ、官が民を虐殺したという事実を拭い去ることは出来ぬ。時をおけば、徐州のみならず、中華の各地で同じことが起きかねないのだ。ゆえに、陛下は決断を下された。卑劣なる行いをなした者は、たとえ漢朝に仕える者であろうとも――否、漢朝に仕える者であればこそ、その罪、刃もて償うべし、と。道を違えた者には、それに相応しい末路があるのだと知らしめよ、と。」


 陶謙のこれまでの功業を否定することはない。だが、漢朝に仕える者が、漢の民を害したとき、その罪は功績を上回る。陶謙が、真に漢朝の臣として行動するつもりがあったのならば、最初の召還に即座に応じるべきであった。
 だが、陶謙はそうしなかった。無論、それは、許昌の曹操が今回の事態の中心人物であったことに拠る部分が大きい。陶謙の配下が、主の身を心配したのも無理からぬことであったろう。だが、陶謙が許昌の漢帝の命令に従わなかったという事実にかわりはない。


 民を守るべき官が、その民を害す。これを官匪と、人は言う。
 臣たる身が、主君の命令に従わぬ。これを不遜と、人は言う。
 そして――公私の別なく、恩義を盾に漢朝に歯向かう。これを偽善と、人は言う。


「勅命である!」
 次の瞬間、曹操の口から、勁烈な叱咤が迸った。
「民を手にかけし官匪に、正義の何たるかを知らしめよ! 臣たる分をわきまえぬ不遜に、忠義の何たるかを知らしめよ! 公と私の別なく、義の意味を履き違えたる者たちに、節義の何たるかを知らしめよッ!」
 抜き放たれた倚天の剣が陽光を反射して、まばゆい輝きを発し、両軍将兵の目を灼いた。
 奔騰する覇気の発露は、曹操軍の戦意を押さえ込んでいた最後の堰を取り払う。
「――かかれィッ!!」
 曹操の号令に、曹操軍の天を衝かんばかりの大喊声が応え。
 鉄血の海嘯は、文字通りの怒涛となって、劉備軍に襲いかかってきた――



◆◆



 戦いは、劉備軍にとって不利な形勢で始まった。
 元々、数の上で大きく劣っていたことに加え、戦に先立つ主将同士の舌戦で、相手に圧倒されてしまったことが大きかったのは、言うまでもない。
 虐殺という事実を、陶謙と曹操との関係で捉えていた劉備たちに対し、曹操はさらにその上、皇帝という立場とその論理を以って、劉備たちの拠る義を破砕し、自軍の正当性を謳いあげたのである。
 それを耳にした曹操軍の兵士たちの士気が高まったのは当然のこと。
 そして、劉備軍の兵士たちが、意気阻喪してしまったこともまた当然であったのかもしれぬ。


 曹操軍の先陣を務めたのは夏侯惇と張遼の二将である。
 夏侯惇は劉備軍に真正面から挑みかかる。その数、劉備軍と同数の三万。
 一方の張遼は、劉備軍の横腹を衝こうと大きく展開する。その数は夏侯惇勢に及ばず、一万のみ。だが、その全てが騎兵であり、張遼勢の機動力は劉備軍の注意を削ぐ効果も持っていた。いつ横撃を食らうか、あるいは後背を塞がれてしまうのではないか、という危惧を相手に与えるのである。
 だが、正面から挑みかかってくる夏侯惇勢の圧力は、他に注意をそらしながら、受け止めきれるほど易しいものではなかった。


「義を履き違えた愚将の軍勢ごときが、華琳様の天道を遮ろうなど百年、いや、千年早いわッ! せめてこの曹家の大剣たる我が身の一撃を以って散れることを誇りとし、黄泉路へ旅立つがよいッ!」
 自ら先頭に立って斬りこんで来た夏侯惇に対するのは、関羽と張飛の二将軍である。
 二人の将帥としての能力は、決して夏侯惇に劣るものではなかったが、二人の率いる兵力は一万に満たず、相手の三分の一。しかも、張遼勢の動きと、何より緒戦において気組みをくじかれたことが響き、兵士たちの動きがこれまでになく鈍いため、思うように兵力を展開することさえ容易ではなかった。


「く、おのれ、曹操ッ!」
 周囲に群がる敵兵を斬り倒しながら、関羽が悔しげに言う。
 すでに、将軍である関羽のところにまで、曹操軍の兵士が押し込んできている。そのくらい、敵の勢いは凄まじかった。
「愛紗、このままだとおねえちゃんのところまで行かれてしまうのだッ!」
「わかっているッ! はあああッ!!」
 すでに劉備を本営にまで戻しはしたが、このままではその本営に敵が押し寄せるのも時間の問題である。張飛の危惧に頷きを返しつつ、関羽は手に持った青竜偃月刀を一閃させた。
 その一撃で、関羽に切りかかろうとしていた曹操軍の兵士二人が、たちまち血煙をあげて倒れ伏す。
 だが、その中の一人は、青竜偃月刀の刃に胸を切り裂かれながらも、その刃ごと抱え込むように倒れた。
 その意図するところは明らかで、自分の身と引き換えに、仲間に関羽を討たせようとしたのである。
 一瞬、関羽の態勢が崩れた隙を狙い、曹操軍の兵士たちが殺到する。


「ぐああッ?!」
「ぎああ!」
 だが、今しも関羽に斬りかかろうとしていた兵士たちは、次の瞬間、悲鳴をあげて地に倒れた。一人はその目に、一人はその首に、矢羽を生やして。
「子義か。すまんッ」
「いえ、こちらこそ、援護が遅れて申し訳ありません」
 現れた太史慈は、関羽に応えながらも、更に近矢を放ち、そのすべてを命中させる。
 だが、どれだけ敵兵を討ち取ろうと、曹操軍は次々に後ろから攻め寄せてくる。
 あるいは負傷した味方を抱えあげて後方に連れて行き。
 あるいは味方の骸を乗り越え、関羽たちに襲い掛かる。
 ただの兵士といえど、先の兵士のように、味方のために命を賭けた行動に出る者ばかり。
 その粘性と、戦意の高さは、これまで関羽たちが戦ってきた敵と、明らかに一線を画していた。、  


 だが、そうしている間にも、敵軍は停滞せずに劉備軍に襲い掛かってくる。
 夏侯惇勢が十分に劉備軍に食い込んだと見た張遼が、自分の部隊を敵の横腹にたたきつけたのである。
 劉備軍の軍師、鳳統はこの一撃に対し、騎兵部隊の長である趙雲と、さらに陳到の軍勢を用意していたのだが、ここでも数と勢いの差が如実に戦況に影響を与え、たちまちのうちに防衛線が食い破られてしまった。
 さらに。
「そ、曹操軍の本隊が動き出しましたッ!!」
 その報を聞き、本営で鳳統は唇を強くかみ締める。
 曹操率いる六万の本隊が、満を持して動き出したのである。
 本隊が戦線に加われば、かろうじて持ちこたえている前線が突破されるのは明らかであった。否、仮に本隊が動かなかったとしても、このままでは夏侯惇、張遼の二将だけでも、この本営まで肉薄されてしまうだろう。敵の勢いと味方の勢いを比べれば、それは火を見るより明らかであった。
「玄徳様、ここはもう、退くしかありません」
「う、うん、そうだね……ごめんね、士元ちゃん、私が曹将軍に言い負かされちゃったから」
 劉備の顔色は、前線から戻ってきてからも、ずっと優れないままだった。曹操の滔々たる言い分に、ろくに反論できずに逃げ帰ってきてしまった。そう考え、自分を責めているであろうことは明らかだった。
「……謝らなければいけないのは私の方です。曹将軍が、陛下の権威を用いてくること、想定していなければならなかったのに」
 鳳統は口惜しげに俯く。
 慎重に策を立てたつもりであったが、やはりどこかで冷静さを欠いていたのかもしれない。あの曹操の論調が、曹操自身のものか、あるいは敵の軍師によるものかはわからなかったが、いずれにせよ、自軍の正義を完全に論破された形の劉備軍は、緒戦から不利な戦いを強いられ、敵の勢いに圧倒されてしまった。鳳統が急造で築いていた防衛陣も、敵の勢いの前に粉砕されてしまい、敗北は目前まで迫っている。
 もし、曹操が皇帝の権威を用いてくることに思い至っていたら、また異なる形勢に持ち込むことも出来ていたであろうに。


 だが、今は繰言を言っている場合ではない。鳳統は首を振って、自身の悔いを胸中から追い払う。
 ここまで圧倒されるとは考えていなかったが、それでも、元から不利な戦いになることは予測していたことだ。退路はしっかりと確保している。
「馬将軍」
「は、軍師殿」
 馬元義が鳳統の声に応じて、進み出る。
「本営の兵士を以って、後詰とし、諸将の撤退を援護します。指揮を、お願いしますね」
「承知つかまつりました。お任せくださいッ」
 緊張した表情ながら、しっかりと命令に頷く馬元義に頭を下げてから、鳳統は劉備に向き直った。
「玄徳様は、後方の備えへ退き、退却してくる兵士たちの援護をお願いします。朱里ちゃんには、すでに使者を出しておきましたから、小沛からの援軍も、間もなく来てくれるでしょう」
 劉備がここに残ったままだと、他の将兵の退却が整然と行えなくなる。鳳統にはそんな危惧もあった。そして、その鳳統の危惧は、劉備も察していた。
「――うん、わかった。私がここにいたら、退却するみんなの足手まといになっちゃうもんね」
「……あ、あわわ。足手まといだなんて、そんな。ただ、玄徳様の身を案じるあまり、足が止まってしまう将兵の皆さんは、たくさんいらっしゃると思うんです。だから、その……」
 戸惑ったように顔を左右に振る鳳統に、劉備は申し訳なさそうに言葉を重ねた。
「じゃあ、士元ちゃん。馬将軍。お願いします」
「は、はい、御意ですッ」
「黄巾党の――いえ、劉家軍の底力、奴らに示してやりましょうぞ」
 主君の言葉に、一人の軍師と、一人の将軍は、それぞれに決意を秘めたまま、頭を垂れるのであった。
 



◆◆




 徐州を巡る曹・陶の争い。その緒戦は、大方の予想どおり、曹操軍の圧勝であった。
 州境で激突した小沛城主劉備の軍勢は、曹操軍の鋭鋒に抗しきれず、少なからぬ死傷者を出し、なだれをうって小沛城へ向けて退却していった。
 どうやら城には戻らず、その手前で陣地をつくり、こちらの進撃を食い止める心算であるようだが、今日の戦いの手ごたえを考えれば、次の戦も苦戦するほどではあるまい。
「もちろん、油断は禁物なのだけれど、ね」
 曹操軍の本営にあって、曹操は今日の戦の後始末を終えて、明朝の進撃に備えて待機していた。
 今日の戦いは大勝利と呼ぶに相応しいものであり、普段であれば、酒と肉を振舞うくらいはするところなのだが、今の曹操軍にはそういった浮かれた雰囲気は豪もない。
 その理由は――
「口では何といおうとも、これが弔い合戦であることは、将兵の皆さん、誰もが承知していることですからねー」
「そのとおりね、風。もっとも当事者の一人である筈の私は、これを徐州を征服する好機としか捉えていないのだけど」
「そして、関将軍を麾下に加える好機でもある、ですか?」
「そのとおり。今日の敵軍の脆さを思えば、思ったより簡単に行きそうではあるわね。進言、見事だったわ、風」
 曹操は程昱に褒詞を授けた。


 徐州侵攻において、掲げるべき名分は報復ではならない。そう主張したのは、程昱であった。これには、夏侯惇や曹仁から異論があがったが、曹操は程昱の進言を容れた。
 善政を布く陶謙の領土に攻め込むには、報復というのは口実としては十分だが、その後の統治に支障を来たす。それよりも、徐州の統治体制の不備を、皇帝が譴責するという立場をとった方が、後々のことを考えれば良策であろうと考えたからである。 
 そこまで曹操が考えることが出来たこと。それはすなわち、曹操が今回の襲撃で負った傷が、さほど深いものでなかったことに由来する。少なくとも曹操自身はそう判断していた。
 父と弟、そして二人に従って徐州に赴いた一族は、曹操にとっては遠い存在だった。
 無論、人として、父弟が卑劣な策略で殺されたことに対する怒りはある。だが、それは公人としての曹孟徳を凌駕するほどのものではなかったのだ。
 ただ、もし死者の列に母である曹凛までが加わっていたとしたら。
「あるいは、公人としての私をかき消すほどの怒りに囚われたかもしれないわね」
 もしそうなっていたら、徐州の大地を血と屍で埋め尽くしても、なお飽き足らない気分になっていたやも知れぬ。曹操はそう思い、小さく首を左右に振った。


「我が父弟を殺したのは徐州。されど、我が母を救ったも徐州。功罪半ばする相手に対し、曹家を越えて皇帝を持ち出すことは思い至らなかったわ」
「いつもの華琳様なら、真っ先に思いついたと風は思いますけどねー」
 小首を傾げながら、程昱は曹操の顔に視線を走らせる。
 曹操自身がどう考えているかは知らず、程昱の目には、曹操はどこか戸惑っているように見えた。
 それは、徐州を攻めることに対する戸惑いではないだろう。襲撃の報を聞いてからこの方、曹操は時折遠くを見るような眼差しをすることがある。自身の胸を去らない焦燥の正体を、把握しかねて戸惑っておられるのではないか。それが、程昱のみならず、曹操の近臣たちの見解であった。


 それからしばらく、曹操と今後のことについて意見を交わしあった後、程昱は曹操の天幕を辞した。
 天を仰げば、燦燦たる星海の光が地上に向けられ、静まり返った曹操軍の陣営を覆うようであった。だが、たとえ今日、天が雲に覆われていたとしても、問題はなかっただろう。曹操軍の陣営は、まるで昼間のように赤々と篝火が燃え盛っており、暗闇に乗じたいかなる行動も不可能となっていたからである。
 篝火の中の薪が弾ける音と、規律正しく各所を警戒する歩哨の足音が、たえず程昱の耳を打つ。


「英雄といえど、人の子には違いなし。己が心を従わせることは、華琳様でも簡単ではないのですね」
 程昱から見れば、曹操の戸惑いは明瞭である。
 父と弟、一族を殺された悲しみが、その心を覆おうとしているのに対し、曹操自身は、自分がさして悲しんではいないと思い込んでいる。その差異が、あの方の胸を騒がせているのだと見当をつけていた。
 曹操は自身を非情の人だと思いたがっている節があるが、実際のところ、曹操ほど感情豊かな人はなかなかいないだろう。感情が豊かであればこそ、人に関心を持てる。人に関心を持ってこそ、人の才能を見抜き、その人自身ですら気づかぬ内面を察することも出来る。
 曹操に従う者のほとんどは、そういった曹操に畏敬と忠誠の念を抱き、その天道に殉じる覚悟を決めているのであり、それは程昱とて例外ではない。ただ、曹操は感情を制することにも長けているゆえに、場合によっては非情の人にも見られてしまうのだろう。


 そして。
 そんな感情豊かな人が、実の父と弟、そして一族の悲惨な死を聞いて、何も感じない筈がない。
 その死を悲しみ、その暴挙をなした者たちへの憤りを覚えない筈がない。
 曹操と父弟が疎遠であり、あるいは険悪であったことが事実だとしても、生きてさえいれば、和解する日は来たかもしれない。可能性は高くないとしても、少なくともゼロではなかった。今さら子供時代に戻ることは出来なくとも、それに近しいものを取り戻すことは出来たかもしれないのだ。
 ――だが、その可能性は、愚者の愚行によって費えてしまった。


 それは、覇王たる曹操にとっては徐州侵攻の契機であったのだろう。
 だが、覇王ではなく、一個の人間としての華琳にとっては、どのよう契機になったのか。
 程昱はそこまで考えて、首を横に振った。そこまで考えることは、臣下としての分を越えている。そう思ったのだ。
 それに――
「たとえ戸惑いをおぼえていようと、将帥としての力は巨大なままですから。おねーさん、おにーさんにとっては、山が迫ってくるようなものでしょう」


 かつて、同じ陣営に属していた者たちの顔を、程昱は思い浮かべる。
 河北で別れを告げた時から、今日が来ることは覚悟していたことである。そうでなくても、乱世に生きる者として、昨日の友が今日の敵になることはめずらしくない。
 互いに譲れぬならば、ぶつかりあうしかなく。ぶつかりあうなら、手心など加えられるわけはない。そんなことをすれば、今日の劉備軍の敗北は、自分たちの上にあったかもしれない。
 程昱は本気でそう考えるくらいに、劉備たちを評価していたのである。もっとも、それと同じくらいに、今の自分が属する陣営を評価してもいるが。


「そろそろ、別働隊は瑯耶郡に入る頃でしょうか。子孝(曹仁の字)さんに、子廉(曹洪の字)さんに、子和(曹純の字)さんの曹一族揃い踏み、その背後を固めるのは鮑太守(鮑信)。今の陶州牧の陣営で、これを止められる人はいないでしょうね」
 瑯耶郡で暮らしていた曹純が、付近の地理に通じているのは当然のことである。彼らが率いる十万の軍勢は、たやすく徐州の守りを抜くだろう。そして、彼らが彭城に迫れば、戦とは縁遠い高官たちは小沛の劉備に救援を求めるに違いなく――
「その報が入れば、おねーさんたちは小沛の守りを解かざるをえません。たとえ、私たちが追撃をかけることがわかっていても。そして、おねーさんたちを破れば、徐州はこちらの掌のうちにあり、というわけですが……」
 程昱はそこで小さく首を傾げる。
 ここまでは、程昱ら曹家の誇る軍師たちが立案した戦略図どおりに事態は進んでいる。しかし、それはあくまで曹操軍から見た場合である。
 徐州軍の悲運はそれだけにとどまるまい。程昱は冷静に戦況を見据え、そう結論していた。
 徐州軍の意識は、どうやらほとんど曹操に向けられているようで、必然的に防備もそちらを厚くしている。だが、彼らはつい先ごろまで、正反対の方角に注意を割いていたのではなかったか。


 准南の偽帝袁術。
 間もなく、その軍勢が徐州軍に牙を剥く。
 その時こそ、徐州の次代の支配権を巡る争いは、佳境を迎えることになるだろう。程昱はそう考え、その渦中で翻弄されることになるであろう人たちに思いを馳せた――少しだけ、俯きながら。
  
  


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