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No.5244の一覧
[0] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 【第一部 完結】[月桂](2010/04/12 01:14)
[1] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 刀花邂逅(一)[月桂](2008/12/14 13:32)
[2] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 刀花邂逅(二)[月桂](2008/12/14 13:33)
[3] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 刀花邂逅(三)[月桂](2008/12/14 13:33)
[4] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第一章 刀花邂逅(四)[月桂](2008/12/14 13:45)
[5] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 蒼天已死(一)[月桂](2008/12/17 00:46)
[6] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 蒼天已死(二)[月桂](2008/12/17 23:57)
[7] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 蒼天已死(三)[月桂](2008/12/19 22:38)
[8] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第二章 蒼天已死(四)[月桂](2008/12/21 08:57)
[9] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 燎原大火(一)[月桂](2008/12/22 22:49)
[10] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 燎原大火(二)[月桂](2009/01/01 12:04)
[11] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 燎原大火(三)[月桂](2008/12/25 01:01)
[12] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第三章 燎原大火(四)[月桂](2009/01/10 00:24)
[13] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 天下無双(一)[月桂](2009/01/01 12:01)
[14] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 天下無双(二)[月桂](2009/01/02 21:35)
[15] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 天下無双(三)[月桂](2009/01/04 02:47)
[16] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 天下無双(四)[月桂](2009/01/10 00:22)
[17] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第四章 天下無双(五) [月桂](2009/01/10 00:21)
[18] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 洛陽炎上(一)[月桂](2009/01/12 18:53)
[19] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 洛陽炎上(二)[月桂](2009/01/14 21:34)
[20] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 洛陽炎上(三)[月桂](2009/01/16 23:38)
[21] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 洛陽炎上(四)[月桂](2009/01/24 23:26)
[22] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第五章 洛陽炎上(五)[月桂](2010/05/05 19:23)
[23] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黄天當立(一)[月桂](2009/02/08 12:08)
[24] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黄天當立(二)[月桂](2009/02/11 22:33)
[25] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黄天當立(二・五)[月桂](2009/03/01 11:30)
[26] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黄天當立(三)[月桂](2009/02/17 01:23)
[27] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黄天當立(四)[月桂](2009/02/22 13:05)
[28] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黄天當立(五)[月桂](2009/02/22 13:02)
[29] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第六章 黄天當立(六)[月桂](2009/02/23 17:52)
[30] 三国志外史  六章までのオリジナル登場人物一覧[月桂](2009/02/26 22:23)
[31] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(一)[月桂](2009/02/26 22:22)
[32] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(二)[月桂](2009/03/01 11:29)
[33] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(三)[月桂](2009/03/04 01:49)
[34] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(四)[月桂](2009/03/12 01:06)
[35] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(五)[月桂](2009/03/12 01:04)
[36] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(六)[月桂](2009/03/16 21:34)
[37] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(七)[月桂](2009/03/16 21:33)
[38] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第七章 終即始也(八)[月桂](2009/03/17 04:58)
[39] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 各々之誇(一)[月桂](2009/03/19 05:56)
[40] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 各々之誇(二)[月桂](2009/04/08 23:24)
[41] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 各々之誇(三)[月桂](2009/04/02 01:44)
[42] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 各々之誇(四)[月桂](2009/04/05 14:15)
[43] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第八章 各々之誇(五)[月桂](2009/04/08 23:22)
[44] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 二虎競食(一)[月桂](2009/04/12 11:48)
[45] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 二虎競食(二)[月桂](2009/04/14 23:56)
[46] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 二虎競食(二・五)[月桂](2009/04/16 00:56)
[47] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 二虎競食(三)[月桂](2009/04/26 23:27)
[48] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 二虎競食(四)[月桂](2009/04/26 23:26)
[49] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 二虎競食(五)[月桂](2009/04/30 22:31)
[50] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第九章 二虎競食(六)[月桂](2009/05/06 23:25)
[51] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 月志天貂(一)[月桂](2009/05/06 23:22)
[52] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 月志天貂(二)[月桂](2009/05/13 22:14)
[53] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 月志天貂(三)[月桂](2009/05/25 23:53)
[54] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 月志天貂(四)[月桂](2009/05/25 23:52)
[55] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(一)[月桂](2009/06/07 09:55)
[56] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(二)[月桂](2010/05/05 19:24)
[57] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(三)[月桂](2009/06/12 02:05)
[58] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(四)[月桂](2009/06/14 22:57)
[59] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(五)[月桂](2009/06/14 22:56)
[60] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(六)[月桂](2009/06/28 16:56)
[61] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(七)[月桂](2009/06/28 16:54)
[62] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(八)[月桂](2009/06/28 16:54)
[63] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十章 偽帝袁術(九)[月桂](2009/07/04 01:01)
[64] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(一)[月桂](2009/07/15 22:34)
[65] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(二)[月桂](2009/07/22 02:14)
[66] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(三)[月桂](2009/07/23 01:12)
[67] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(四)[月桂](2009/08/18 23:51)
[68] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(五)[月桂](2009/07/31 22:04)
[69] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(六)[月桂](2009/08/09 23:18)
[70] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(七)[月桂](2009/08/11 02:45)
[71] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十一章 徐州擾乱(八)[月桂](2009/08/16 17:55)
[72] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(一)[月桂](2011/01/09 01:59)
[73] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(二)[月桂](2009/08/22 08:23)
[74] 三国志外史  七章以降のオリジナル登場人物一覧[月桂](2009/12/31 21:59)
[75] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(三)[月桂](2009/12/31 22:21)
[76] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(四)[月桂](2010/01/24 13:50)
[77] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(五)[月桂](2010/01/30 00:13)
[78] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(六)[月桂](2010/02/01 11:04)
[79] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(七)[月桂](2010/02/06 21:17)
[80] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(八)[月桂](2010/02/09 00:49)
[81] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(九)[月桂](2010/02/11 23:24)
[82] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(十)[月桂](2010/02/18 23:13)
[83] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(十一)[月桂](2010/03/07 23:23)
[84] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十二章 悲壮淋漓(十二)[月桂](2010/03/14 12:30)
[85] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十三章 北郷一刀(序) (一)[月桂](2010/03/22 15:41)
[86] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十三章 北郷一刀(序) (二)[月桂](2010/03/26 02:19)
[87] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十三章 北郷一刀(序) (三)[月桂](2010/03/31 03:49)
[88] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十三章 北郷一刀(序) (四)[月桂](2010/04/09 00:37)
[89] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 第十三章 北郷一刀(序) (五)[月桂](2010/04/12 01:13)
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[5244] 三国志外史  ~恋姫†無双~ 幕間 月志天貂(三)
Name: 月桂◆3cb2ef7e ID:49f9a049 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/25 23:53

 玄徳様が小沛城に入ってより数月。
 兌州の乱が終わって後、諸侯は来るべき戦乱に備えて、軍備の拡充をはかりながら、しかし自分たちから戦端を開くことはせず、隣国の情勢を注視するにとどめていた。
 その結果、小沛にいる玄徳様たちは、旗揚げ以来とも言える平穏な日々を享受することが出来たのである。たとえそれが表面だけのものであったとしても、楼桑村での挙兵からこちら、文字通り戦い尽くめだった劉家軍の人々にとっては、得難い休養となったことは間違いのないことであった。


 後から振り返れば、信じられないほどに穏やかな時間は、しかしそれゆえに瞬く間に過ぎ去っていく。
 気がつけば、季節は移ろい、城外に広がる田園は、緑から黄金へと色を変えており、稲穂が重そうに頭を垂れる時期となっていた。
 農民たちにとっては、待ちに待った収穫の季節の到来である。
 小沛の街を歩く人々の足取りも、どこか軽く感じるこの時期、路のあちこちには、人目を引く看板や幟(のぼり)が立てられ、自然、人々の話題をさらうようになっていた。
 そこに記されている文言は次の通りである。


『小沛の空に天女舞う 平和を運ぶ歌姫たち その名は数え役萬☆姉妹!』


 本来、張角たちの公演はもうすこし早い時期に行われる予定だったのだが、どうせなら秋の収穫祭を兼ねて、より盛大に行おうということで、この時期までずれこんだのである。
 その分、舞台の規模は大きく、仕掛けは凝ったものになっている。時間があった分、宣伝効果も抜群で、徐州はもちろん、他州から訪れる人たちも多く、小沛の街は、公演前から未曾有の賑わいを見せているのであった。
 



 そして、公演当日。
 ここ一月ばかり、おれは張梁の下で、この一大イベントの準備のために東奔西走していた。騎馬隊の仕事を、一時的に田豫と王修に委ねなければならないほどの多忙さで、先日、ようやっと準備が終わった時は、そのまま倒れてしまいそうなほどだった。いや、久々に黄巾党にいた頃のことを思い出してしまったな。
 まあ正直、戦争の準備をしているよりは、こちらの方がやり甲斐はあると感じる。
 舞台袖から、張角たちの歌声に耳を傾けつつ、おれはそんなことを考えていた。
 これだけの規模の公演は、黄巾党時代以来であり、最前列に招待された玄徳様たちにとっては、当然、初の経験となる。盛り上がる会場の空気に馴染めず、あたふたしているのがここからでも見て取れて、申し訳ないと思いつつ、少し笑ってしまった。


 舞台の詳細については、いまさら語るまでもないだろう。
 張宝が猛進し、張梁が制御し、張角が包み込む、いつもの「数え役萬☆姉妹」の舞台であった。
 実のところ、張角らは、河北では袁紹に罪を許されていたが、それ以外の地域にあっては、黄巾党の党首だったという過去は、いまだに清算されたわけではない。そのことで、トラブルの一つや二つは出てくるかと覚悟していたのだが、幸いにもそういったことは起きなかった。
 徐州では、比較的、黄巾党の被害が少なかったということもあるだろう。さらにつけくわえれば、ここ何ヶ月かの張家の姉妹の行動が、徐州の民衆によって受け入れられた為とも言えた。
 というのも、玄徳様の配下として、張角たちは、徐州の孤児院や、戦傷病者の施療院に何度も足を運び、その歌声で彼らを元気付けたり、あるいはその絶大な人気で人員を駆り集め、泗水に堤防を築いて農地を広げたり、用水路を浚渫して、水利を整えたりと、大活躍だったのである。
 張角が、その包容力で人心の要となり、張宝が行動力で計画を引っ張り、張梁はその犀利な頭脳で物事の基盤を整える。ある意味で、玄徳様、関羽、張飛の三姉妹よりも恐るべき張家の姉妹たちであった。


 そういった行動もあって、徐州での役萬姉妹の人気は、翳るどころか、うなぎ登りの状態であったのだ。それは、今日の舞台の盛況ぶりを見れば、万人の目に明らかであろう。
 途中、玄徳様が無理やり舞台上にあげられて張角とデュエットしたり、関羽がマイクを持たされて大観衆の前で歌を歌わされたりと、ハプニングは色々あったが、それも舞台を彩る大輪の花となり、役萬姉妹の小沛公演は、予想をはるかに上回る大盛況のまま、幕を閉じたのであった。





「まあ、舞台が終わっても、おれの仕事は終わらないわけだが」
 祭りの後の侘しさとでも言うべきか。舞台会場の後片付けというのは、どうにも寂寥の感を拭えない。出来れば、片付けは明日以降にまわして、今日は舞台の余韻に浸っていたいのだが、小沛城の錬兵場を、ほぼ丸ごと用いて行われた舞台であったから、後片付けは後日、というわけにもいかないのである。
 そんなわけで、打ち上げを泣く泣く欠席したおれは、他の貧乏くじを引いた人たちに指示をしつつ、会場を畳んでいた。
 観客が持ち込んだゴミだけでも、これだけの大舞台の後だ、ものすごい量になる。燃やすにせよ、埋めるにせよ、そこらへんで適当に片付けることは出来ないし、それ以外にもあちこちに残っている舞台器具なんかは、物によっては次回に使えるものもある。
 そのあたりの差配は、やはりある程度、姉妹の傍で公演に携わっていた経験を持つ人でないと難しいのである。



 舞台が終わったのは夜も大分更けた頃。
 そして、錬兵場の片付けが終わったのは、日付がかわってからであった。とはいえ、終わったとはいっても、その前に「ある程度」とつけねばならないのが悲しいところである。
 しかしまあ、錬兵場を本来の目的で使用することが出来る状態になったから、後は後日で良いだろう。おれは疲れ果てた様子の後片付け組を解散させると、自らも重い足をひきずって、錬兵場の外へと向かう。


 ところが、おれが錬兵場を出ようとした時、門柱に背をもたせかけ、所在なげに空を見上げている人がいた。訝しく思ったおれだが、まさか幽霊でもあるまいと、気にせずに近づいていく。
 そうして、その人物の容姿が肉眼ではっきりと確認できるまで近づいたとき、おれは驚きのために目を瞬かせることになる。
 そこに立っていたのは、ここにいる筈のない人物であったからだ、。
 その人物とは――


「……は、伯姫様?」
 その人物は、張角だった。おれの声で、張角もこちらに気づいたのだろう。
 舞台後の打ち上げも、とっくに終わっている時間だろうに、どうしてまた、こんなところにいるのだろう。
 顔中に疑問符を浮かべたおれだったが、張角に近づくにつれ、別種の戸惑いを感じ始めていた。
 張角の顔に、いつものほんわかした笑みが浮かんでいなかったからである。真顔でこちらを見る張角は、なまじ整った顔立ちをしているだけに、冷たく、怜悧に見え、どこか近寄りがたい硬質の雰囲気を醸し出していた。


「あ、あの、伯姫様、どうしてこんなところに?」
 なんだかよくわからないままに、おれは張角に問いかけていた。
 闇夜の灯火に朧に浮かび上がる張角は、笑顔がないだけで、まるで別人のように感じられる。
 思えば、今は草木も眠る丑三つ時。もしやこれは、人外の化生の仕業か。
 立ち止まったおれが、内心でいささか脈絡なく慌てふためいていると、焦れたのか、張角はつかつかとおれの方に歩いてきた。
 そして、おれの前に立った張角は、無言でじっとおれの顔を見上げる。張角の服装は舞台用のものから普段着にかわっており、おれには見慣れた姿の筈なのだが、やはり無言、無表情の張角には違和感を覚えてしまう。


 だが。
 奇妙な緊迫感は、唐突に断ち切られる。張角の表情が、ふにゃっとやわらいだからだ。
 ただそれだけで、あたりに立ち込めていた緊迫した空気は、霧散していく。
 そうして、張角はようやく肉声を発した――のだが。
「もー、一刀ってば遅ーい。約束の時間、とっくに過ぎてるよ?」
「……はい?」
 ようやく言葉を発したと思ったら、何やら素っ頓狂なことを言い出す張角。
 言うまでもないが、約束なんてしちゃいねえのである。
 おれはため息を吐きつつ、張角に口を開いた。
「伯姫様、何のいたずらですか、これは」
「ぶー、いたずらじゃないよ。部屋で待ってたんだけど、一刀の帰りが遅いから迎えに来たの」
「ああ、そうだったんですか……って、えええ?!」
 張角の言葉に納得しかけたおれだったが、その意味に気づいて思わず声を高めた。
 部屋で待ってた? 帰りが遅いから迎えに来た? 張角が?
「なにゆえ?」
 思わず、疑問が言葉になって溢れてしまいました。
 確かに恋人同士とかならわからないでもないのだけど、おれと張角はそういった関係ではない。残念ながら。


 だというのに、張角はあっけらかんと、おれの左腕を抱え込むように抱きついてくると、あっさりと言ってきた。
「え、だって恋人同士ってそういうものじゃないの?」
 あれー、ちぃちゃんにそう聞いたんだけどなあ、と首を傾げる張角。
 左腕に半端なく感じられる柔らかい感触やら、ほのかに漂ってくる女の子の甘い香りやらで、ライブでピンチの真っ最中だというのに、その一言は素でとどめの一撃です。
 やっぱり新手のいたずらかと納得しかけたおれだが、しかし、実のところ、張角のこの手のアプローチは今回が初めてではなかったのである。


 思えば琢郡で再会した時から、張角はおれへの好意を隠そうとしていなかった。もっともそれは、天真爛漫な張角のことだから、再会の喜びとか、劉家軍との調停をしたことへの感謝が行き過ぎたもので、男女のそれではないとおれは思っていた。
 今をときめくトップアイドル(?)に惚れられている、と考えるほど、おれは自惚れてはいないのだ。
 確かに、黄巾党時代からこちら、張角や、張宝、張梁らと近しい距離にあったことは事実だが、それはあくまで傍仕えとしてのこと――の、筈だった。
 だが、最近、どうも自惚れではないのではないか、と思うことが頻繁にあって、困惑することが多かった。自慢ではないが、元の世界にいた時、彼女なんぞおらず、異性からそういう態度を示されたこともなかったので、こういう時、どういう態度をとればよいのかがわからんのである。
 周りの人に相談しようにも、女性陣には言い辛いし、男性陣には尚更言い辛い。数え役萬のファンだったりした日には、間違いなく血の雨が降ることになるだろう。
 かといって、本人に確かめようにも、そうそう二人きりになれる機会などないわけで――あれ、ということは、今、もしかしてチャンスなのか?



「あの、伯姫様、ちょっとお話が」
「んー、なにかな?」
 なんだか楽しそうに笑う張角に、先刻までの怜悧な感じはかけらも見当たらない。やはりあれは、夜の闇が見せた幻だったのだろうか。
 それはさておき、何と聞けば良いのだろう。おれに惚れると火傷するぜ、とか言ってみたい気もするが、さすがに、それはおれの心が耐えられそうもない。
 そんなわけで、単刀直入に聞いてみる。
「その、恋人って……あー、おれのこと、ですか?」
「うん、もちろん♪」
「あ、そ、そうですか」
 なんかためらいなく断言されてしまい、うなずいてしまった。いやいや、そうじゃないだろう、おれ。
「その、いつからそんな関係になったのでしょう?」
 その質問に、張角は小首を傾げて、考え込む。
 だが、それはおれの質問に対する答えについてではなかったようだ。
「ねえねえ、一刀」
「は、はい、なんでしょう?」
「一刀、私のこと、おばかさんだと思ってる?」
「はいッ?!」
 唐突な問いかけに、思わず声を高めるおれ。
 一方の張角は、それを肯定の返事だと受けとめてしまったようだった。
「あー、やっぱり思ってるんだ」
 むー、と上目遣いで、おれをにらんでくる張角。ぷんぷん、という擬音が聞こえてきそうなくらい、わかりやすい怒りっぷりであった。


 おれは慌てて、張角に否定の意を伝えた。
「い、いえ、今の『はいッ?!』は肯定じゃなく、驚きのあまりの言葉でして――というか、なんでまたそんなことを仰る?」
「だって、一刀ってば、私が自分で恋人を決められないと思ってるみたいなんだもん」
「いや、そんなことは思ってませんが――恋人っていうのは普通、双方の合意の上でなるものではないんでしょうか?」
「……え~、一刀は、私と恋人になるのは嫌なの?」
 むすっとしたまま、そんなことを口にする張角に、おれは慌てざるをえなかった。
「そ、そんなことはないですが、その、そもそも、伯姫様がおれに惚れる理由がわからないといいますか、そんなのはおれにとって都合の良い妄想で、今の状況も夢の中の出来事ではないかと言いますか――ああ、もう、何、この状況ッ?!」
 一人、混乱しているおれを他所に、張角は何やら考え込むと、不意に。
「ふんふん、つまり、一刀は言葉ではなく、行動で示してほしいんだ?」
「は? あ、いや、それは……」
「じゃあ――えいッ」
 つま先立った張角の顔がおれの眼前まで迫り――そして、頬に柔らかい感触が。
「ほら、これでもう疑う必要はなくなったでしょ。張伯姫が、北郷一刀を好きだって気持ちは、伝わったかな?」
 呆然とするおれに構わず、張角はにこりと笑って、そう言ったのである。



 確かに。
 張角は黄巾党時代から、ファンの男たちにちやほやされていたが、こういった行動に出たのは見たことがない。その意味でいえば、少なくとも、おれはその他大勢のファンからは、一歩抜け出したところにいるのだ、と理解することは出来たわけだが――って、何をのんびりと分析してるのか?!
「は、はは、はく、きッ?!」
「え、一刀、気持ち悪いの? もう、飲みすぎちゃ駄目だよ~」
「ち、ちがッ?! 伯姫様、あの、えーと、なんだ…………ああ、もう何この状況?!」
 本日二度目の台詞と共に、おれは天を仰いだ。
 おれとて健全な高校生。張角のような美少女から好きだと言われて、嬉しくないわけがない。だが、素直にその気持ちを受けとめられるほど、おれは自信家ではなかった――というか、ぶっちゃけていえば、女の子から好意を伝えられるという、はじめてのシチュエーションに、動揺しまくっていた。
 普段であれば、からかわないでくださいよ、と誤魔化すところだったが、頬への接吻付きということもあって、それも出来ない。今の状況でそれを口にすることが、どれだけ失礼なことなのかくらいは、おれにもわかる。

  
 では、開き直って状況を受け入れるか、となると、それはまた別の話なのだ。
 そもそも、張角がどうしておれに好意を抱くのか、その理由がさっぱりわからんのだから、受け入れようがない。
 河北で張角たちが処刑されないように一役買ったのは確かだが、あれは主に玄徳様の功績だし、そもそも、黄巾党時代、奴隷としてこき使われていたおれを拾ってくれたのは張角たちなのである。恩だの借りだので言うのならば、負債はむしろおれの方に残っているくらいなのだ。
 そんなわけで、口をぱくぱくと開きつつ、しかし言葉を発せないおれを見て、張角は静かにおれを見つめた。
 それは、いつものほがらかな笑みを浮かべた少女ではなく。
「――え?」
 そこにいたのは、先刻、確かに見たと感じた、冷たく怜悧な女性の姿。
 深みのある翡翠色の眼差しは、おれの心底までを見通すかのようで、その視線に囚われたおれは、身動き一つ出来なくなる。


「一刀」
「は、はいッ」
「ちょっと、昔の話をしようか?」
 張角はおれの腕から離れると、そう言って小さく微笑んだ。
 どこか脆さを感じさせる、儚い笑み。それは、やはりおれの知っているいつもの張角ではなかった。
 そんなおれの戸惑いを感じているだろうに、そこを説明しようとはせず、張角は話を始めた。
「それは、今のご時世、どこにでもある家族の話――」


◆◆


 その家には、お父さんとお母さん、そして二人の娘がいました。
 家族は、それはそれは仲良しで、貧しいながらも毎日を幸せに過ごしていましたが、その幸せが更に増えることになりました。
 お母さんに、新しい命が宿ったのです。
 子供たちは、弟か妹が出来ると大喜び。お父さんも、生まれてくる子供のためにも、もっと頑張って働かないとな、とお母さんを見て嬉しさを隠せませんでした。


 そんな、当たり前の幸せは、けれど、ある日、突然に終わりを迎えます。
 この時期、王朝は混迷をきわめ、地方では賊が群がり起こり、官の人間は私服を肥やすのに夢中――要するに、どうしようもない状況だったのです。
 そんな中で、賊徒討伐の兵に徴用されたお父さんは、戦場で死んでしまいました。
 家族の下に届けられたのは、それを知らせるたった一枚の手紙だけ。どこで、どうして、どんな風に命を失ったのかすらわかりません。
 家族は悲嘆にくれましたが、特にお母さんの落胆はひどいものでした。
 あるいは、もう少し詳しいことがわかれば、悲しくはあっても、子供たちのために気持ちを切り替えることは出来たかもしれません。時間はかかっても、お父さんの死を受け入れることは出来たかもしれません。
 けれど、たった一枚の紙だけで記されたお父さんの死を受け入れろ、というのはお母さんには無理な話でした。


 身重の身体で、深い心労を重ねたお母さんは、三人目の子供を産むと身体をこわしてしまい、ほとんど一日中、家から出ることが出来なくなってしまいました。
 それでも、お父さんが残した家と家財を売り払い、小さな家に移り住んだ家族は、周囲の人たちの協力もあり、数年の間は、なんとか平穏に過ごすことが出来たのです。
 長らく身体をこわしていたお母さんが亡くなったのは、お父さんが戦死してから、およそ10年の後。
 まだ幼い娘たちを残していくことを幾度も詫びつつ、お母さんは逝きました。


 そして、不幸はそれだけでは終わりませんでした。
 お母さんの死から、数月。姉妹の暮らしていた城が、戦場になり、城は陥とされ、城内は炎で焼き尽くされてしまったのです。冀州牧の地位を争う袁紹と韓馥の争いの巻き添えをくったとわかるのは、このしばらく後のこと。
 姉妹はかろうじて逃げ出すことは出来ましたが、家もわずかな蓄えも失い、親しかった人たちとは離れ離れになり――賊徒が跳梁する河北の地で、幼い姉妹は、お互い以外、何も持っていないことに気づいたのです……


◆◆


 おれは、何も口にすることは出来なかった。
 平和な時代に生まれ、平穏に生きてきた人間が、張角の話を聞いて、何を言えるというのだろう。
 慰めか、それとも励ましか。いずれであれ、説得力などあろう筈がない。
 悄然と立ち尽くしていると、張角は、そんなおれを見て、くすりと微笑んだ。
「一刀、勘違いしないでね。私が言いたいのは、こんなに大変だったんだよーってことじゃなくて、本当に大切なものは失わずに済んだっていうことなの。どんな時でも、ちぃちゃんやれんちゃんがいて、三人で生きてこられたから、私たちは大丈夫だったんだよ」
 時代の荒波に翻弄されそうになっても、妹たちの存在が、自分を支えていたのだと張角は語る。
 それはきっと、これからもかわらない。
 だからこそ。
「私が選ぶのは、私たち三人を幸せにしてくれて、それでもって、こんな悲しい時代を終わらせてくれる人。こんな条件を満たす人って、なかなかいないんだよね~♪」
 その台詞を言い終える頃には、張角はまたいつものほにゃっとした笑いを浮かべていた。


 張角のあまりの変貌っぷりに、おれはついていくのも容易ではないの……だが?
「なんか、今、さらっとすごいことを言いませんでしたか、伯姫様??」
「え、そうかな? 一刀なら、私たちをまとめて面倒見るくらい出来るでしょ?」
「まとめてって、あの、それは生活の面倒を見るとか、そういう?」
「もー、一刀ってばわかってるくせにとぼけちゃって~。もちろん、一刀の後宮に入れてもらうってことに決まってるじゃない♪」
「いや、『決まってるじゃない♪』じゃないでしょうッ?! おれは後宮なんてつくらな……ああ、そだ、それもそうなんですが、なんかその後にも妙なことを言ってませんでした? この悲しい時代を終わらせる人?」
 おれの問いに、張角は可愛らしく小首を傾げる。ああもう、さっきの大人な女性はどこいったんですか、ほんとに?!
「おれにそんなこと出来るわけないでしょうッ。ついでに後宮つくるほどの魅力も地位も甲斐性も持ってませんし、今後、持つ予定もありませんッ!」
 ぴしゃりと言い放ち、興奮のあまり、ぜいぜいと息を吐くおれ。
 だが、言われた当の張角は、おれの言葉なんぞ聞いちゃいなかった。いや、正確には聞いてくれてはいたらしい。だが―― 

 
「一刀、良いことを教えてあげる」
「な、なんですか?」
 思わず、警戒のあまり顔がひきつる。
 だが、張角は何でもないことを言うように、構える様子もなく、口を開いた。  
「女はね、自分の将来を捧げる覚悟で男の人を見れば、その人の器量を量ることくらい、簡単に出来るの。当の男の人以上に、正確にね」
 だから、きちんと一刀に言っておかないと、と思って待ってたんだ、と張角は言う。
「一刀ってば、こういうことにはとーっても疎いからねー♪」
 とっても、のあたりにえらく力をいれた張角の台詞に、おれは軽く眩暈をおぼえた。倒れそうです、いやまじで。これは本当に現実の出来事なんだろか?



 とりあえず、落ち着くために深呼吸する。
 晩夏の空気が、肺の中に吸い込まれていくが、胸の鼓動はちっとも静まってくれなかった。
 逆にそのことが、この場の出来事が夢でもなんでもなく、現実の出来事なのだと、おれに教えてくれた。
 だが、その認識が、また新たな混乱をもたらしたものか。
 おれは張角に、言わずもがななことを問いかけていた。
「――あー、その、ですね。なんで今この時期に、言おうと思ったんですか、伯姫様?」
「んー、なんでだろ? やっぱり、ちょっと恥ずかしいし、舞台の勢いに乗っかって、っていうのもあるかなあ」
 そう言って、照れたように笑う張角の表情を見て、おれの顔は瞬時に真っ赤になった。いや、すでにここまでのやりとりで顔はとっくに紅潮していたと思うが、これはとどめだった。
 うう、これはおれ一人では手に余るなあ――貂蝉に相談してみようか。よく考えたら、人柄といい、性別といい、格好の相談相手ではないか。なんで今まで考えつかなかったのだろう。


 そんなことをおれが考えていると。
 張角は小声で何事か呟いていた。
「……それに、今を逃がすと、当分、機会がなくなりそうな気がするんだよね」
「え、何ですか、伯姫様?」
 張角は小さく頭を振ると、また、おれの手を抱え込むように抱きついてきた。
「ううん、なんでもないよー。じゃ、そういうことだから、一刀は今日から私の恋人ね♪」
「ちょッ?! いや、返事は少々待っていただけると嬉しいのですけど伯姫様ッ?!」
「それはだめー♪ よーし、明日の――じゃない、もう今日だね。今日の朝会で、みんなにも公表しよっと♪」
「いやまじでそれだけはご勘弁をッ!」
「一刀はどこまで飛んでいくのかな? 楽しみー」
「関将軍に吹っ飛ばされるの確定ですか?! お願いですから、公表するのだけはお許しをーッ!」
「聞く耳もたないもーん♪」
「やっぱり楽しんでるだけでしょう、伯姫様ッ?!」




 小沛城の夜の闇に、張角の楽しげな笑い声と、おれの悲鳴が遠く吸い込まれていく。
 農繁期が終わりを向かえ、農閑期が訪れようとしているある日の夜の、それは出来事。
 農閑期とは、すなわち農民を兵として用いることが出来る時期。
 それはすなわち、劉家軍の戦いが、再び始まることを意味していた……



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