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No.4919の一覧
[0] ハッピーエンドを君達に(現実→シークレットゲーム)【完結】[None](2009/01/01 00:10)
[1] 挿入話Ex 「日常」[None](2009/01/01 00:05)
[2] 第A話 開始[None](2009/01/01 00:04)
[3] 第2話 出会[None](2009/01/01 00:05)
[4] 第3話 相違[None](2009/01/01 00:05)
[5] 挿入話1 「拠点」[None](2009/01/01 00:06)
[6] 第4話 強襲[None](2009/01/01 00:06)
[7] 第5話 追撃[None](2009/01/01 00:06)
[8] 挿入話2 「追跡」[None](2009/01/01 00:07)
[9] 第6話 解除[None](2009/01/01 00:07)
[10] 挿入話3 「彷徨」[None](2008/12/20 20:05)
[11] 挿入話4 「約束」[None](2008/12/10 20:01)
[12] 第7話 再会[None](2009/01/01 00:07)
[13] 第8話 襲撃[None](2009/01/01 00:08)
[14] 挿入話5 「防衛」[None](2009/01/01 00:08)
[15] 第9話 合流[None](2009/01/01 00:09)
[16] 挿入話6 「共闘」[None](2009/01/01 00:09)
[17] 第10話 決断[None](2009/01/01 00:09)
[18] 挿入話7 「不和」[None](2009/01/01 00:10)
[19] 第J話 裏切[None](2008/12/19 04:13)
[20] 挿入話8 「真相」[None](2008/12/20 20:40)
[21] 挿入話9 「迎撃」[None](2008/12/20 20:07)
[22] 第Q話 死亡[None](2009/01/01 00:10)
[23] 第K話 失意[None](2008/12/25 20:01)
[24] JOKER 終幕[None](2008/12/25 20:01)
[25] 設定資料[None](2008/12/24 20:00)
[26] あとがき[None](2008/12/25 20:02)
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[4919] 挿入話2 「追跡」
Name: None◆c84e4394 ID:a86306dc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/01 00:07

今回の「ゲーム」は開始前から難癖が付いていた。
それを何とか処理をして開始出来たかと思っていたら、その「ゲーム」の開始直後からまた別の問題が発生していたのだ。

「一体奴は、何者だっ?!!」

カジノ船のスタッフは大慌てで「外原早鞍」と言う人物について検索をする。
しかし「組織」にあるデータベースに該当者は存在しなかったのだ。
本来3番は「長沢勇治」と言う中学生が参加者になる予定の筈だった。

「どうなっているっ!長沢は拉致出来ていたのか?!」

コントロールルームの責任者席で、ディーラーが脇についているマイクに向かい叫び声を上げる。
その接続先は拉致部隊の責任者へと繋がっていた。
数秒後正面パネル内の様々な計器に埋もれる様にしてあるスピーカーから固い男の声が流れ出す。

「実行は恙無く完了しております。確かに一時保管部屋へと運び込んだ旨、報告を挙げております」

コントロールルーム内に居るスタッフの1人に顔を向けて見ると、見られた彼女ははっきりと頷きを返した。
ディーラーはマイクの接続先を別に切り替えて、また叫ぶ。

「館内への配置はどうなっていたんだっ!長沢が配置されていないぞっ!」

「もっ、申し訳ありません。それが不思議な事に配置したのですが、戻っていたのです」

配置部隊の責任者が巫山戯た事を言い返して来た。
ディーラーの額に青筋が立つ。

「言い訳ならもっとマシなものにしろっ!!大体奴は何なんだっ!」

「だから知りませんって!我々は本当に3番をあの部屋に置いたんですっ!
 ですが彼は何時の間にか待機部屋で寝てたんですっ!」

「くそっ!」

言い訳ばかりする配置責任者との通信を一方的に切ったディーラーは黙考する。
既に動き出している「ゲーム」を止める訳にはいかない。
何より人選に手違いがありましたなど、客への信用問題に係わるのだ。
今は様子を見るしかない。
その内ゲームマスターなり他の参加者への介入なりで彼を抹消する必要があるだろう。
「ゲーム」内のイレギュラーであれば、余興で済む。
これまでにも当初の思惑通りにいかなかった「ゲーム」はあった。
だが彼の様なイレギュラーなど今まで一度も無かったのだ。
これが処理出来るものなのか、それとも大事を引き起こしてしまうものなのか。
結局彼には事が起きるまで、その判断が付けられなかった。
それはこの事を更に上回る非常事態に見舞われたからである。





挿入話2 「追跡」



カツッカツッと規則正しい足音が近付いて来る。
その音は彼等の居る小部屋の前で立ち止まった。

(何だと?やはり違ったのか?)

高山は手に持つアサルトライフルのグリップを握り締めた。
感知対象がPDA以外なら自分達が攻撃を受けると、外原が言っていた事を思い出す。
その時微かな音が鳴った。

    カチリッ

その音の後、再度規則正しい足音が響き始めて扉の前から遠ざかっていく。

(何をしたのだ?罠か?)

疑問は浮かぶが、高山には判らない。
彼には相手がこの小部屋の扉についていた隠し鍵を掛けた事など思いつきもしなかった。
「彼」にしても偶々此処の扉に隠し鍵がある事に気付いたので、気付きついでに鍵を掛けただけである。
しかしその偶然は高山達の行動を充分に阻害した。

遠くで銃撃が開始された。
サブマシンガンの出す音は数秒以上鳴り続けている。
このままでは外原が死んでしまうかも知れない状況なのに、高山達は彼を援護出来ないでいた。

「更に鍵を掛けられるなんて…」

麗佳の言う通り、小部屋には鍵が掛かっていた。
だが通常のドアノブにある鍵は、入る時に銃で壊している。
その為他に隠された鍵がある筈なのだが、隠されている所為で特定が出来ずに今もその鍵が壊せないで居た。

「あったっ!下だ、下に棒みたいなのがある!」

すぐにかりんが叫ぶ通りにあった棒を、高山が急いで拳銃にサイレンサーを装着してから撃ち壊す。
その時、爆発音が鳴り響いた。
扉を開いてから外を見ると、「彼」が白煙を噴き出している戦闘禁止エリアに集中してサブマシンガンを連射し続けているのが見える。
「彼」は片手でサブマシンガンを撃ち続けながら左手に手榴弾を用意してから、その銃撃を止めた。
高山はそんな相手に対してアサルトライフルを3点バーストに切り替えて構える。
そして「彼」は手榴弾のピンを引き抜いて振り被った。

「さあああぁぁぁ、おっチヌ時間だぜぇ!」

その絶叫は高山達の所まで聞こえて来る。
それとほぼ同時のタイミングで「彼」への銃撃を開始した。

「な、何故貴様らっ、そこに居るっ!」

高山の撃った銃弾は掠めるだけで1つも当たらない。
いや当たってはいるのだがその表面で弾かれていたのだ。
かなり等級の高い防弾チョッキを着ている様である。
しかし心底驚いた「彼」は、その手に持っていた手榴弾を取り落としてしまう。

「しまったっ!」

「彼」は叫び声を上げると、戦闘禁止エリアの扉の前から奥に向かって急いで移動する。
数秒後戦闘禁止エリアから轟音と白煙が噴き出した。
高山はその白煙の中に容赦無く銃弾をばら撒く。
もしかしたら死ぬかも知れないが、彼に非殺の意思は無い。
PDAが壊れてしまったら少し困るが、それよりも生きて逃げられる方が面倒だったのだ。

暫くしてその白煙が晴れていくその向こうでは隔壁が開き始めていた。
まだ完全に開いてはいないが、徐々に持ち上がっていく隔壁に高山達は焦りを感じる。

「このままでは逃がしてしまうわ。それじゃまた同じ事の繰り返しよ?!」

麗佳の言葉に高山が半身を隠していた小部屋を飛び出して、「彼」を追い掛け始める。
隔壁の隙間は既に潜る事が可能な程の広さがあった。
このまま逃げられるのは非常に拙い。
それに「彼」を仕留める事も必要だが、外原の安否も確認したかったのだ。
特に麗佳にとっては彼の生死よりもPDAが無事であるかの方が重要である。
未だ白煙が漂う戦闘禁止エリアの中は酷い状態であった。
至る所に付いた銃痕に手榴弾により被害を被った家具類に壁と絨毯。
その惨状に麗佳とかりんは青ざめてしまう。
彼女達には一瞬、真っ赤な絨毯がこの入り口の横に広がる様な血の海に見えたのだった。

戦闘禁止エリアの前まで彼等が来た時、隔壁の向こう側にあった影に誰か居る事に高山が気付いた。
だがその時には「彼」の照準は定まっていたのだ。

「バァーカ。お前等死ねよっ!」

手に持った拳銃を1発撃つ「彼」に対して、高山はアサルトライフルを反射的に構えて引鉄を引いた。

「ぐぅっ」

「ぎゃあぁぁぁ」

高山は左肩を、そして「彼」は左脇腹を銃弾で抉られる。
「彼」は着弾の衝撃で高山達と距離を少し離した。

「高山さんっ?!」

被弾した高山に視線を移した麗佳が高山へと駆け寄った。
そこに降り掛かる「彼」の言葉が、彼女達にあの惨状の結果を思い知らせる。

「くそっ、くそがっ。ははっ、だけどよぉ、あの男はもう死んだぜ?
 例え生きていてももう虫の息だしなぁ。はっ、ははは、ザマァみやがれっ!
 てめぇ等もいずれ殺してやるからなっ!」

「彼」にはあの弾幕の中を彼が全くの無傷で居たなど考え付かなかった。
それほどに銃弾をばら撒いたし、手榴弾も的確に投げ込んだと思っていたのだ。
早口で並べ立ててから、「彼」は身を翻して全速力で逃げ出す。
今サブマシンガンを撃てば1人くらいは殺せただろうが、自分があの男に殺される可能性が有ると思ったのだ。
この序盤で此処まで兵器の扱いを、躊躇いも無くやってのける所は確実に素人ではない。
高山の存在は「彼」にとって大きな誤算であった。

「あっ、待ちなさいっ!くっ、高山さん、大丈夫ですか?」

被弾した高山が動けないなら、「彼」への追撃は諦めなければ成らなかった。
高山の傷は見た目に酷く出血が酷い。
その高山は「彼」を追撃するかどうかを悩んでいた。
相手の有利な部分を排除しなければまた追い詰められる可能性が有る。
しかし深追いは厳禁だ。
彼は安全策を採用する事にする。
そしてかりんは彼等の後ろで呆然としていた。

「早鞍、が…死んだ?」

「矢幡、今は奴を逃がせないとは思うのは判るが、深追いは危険だ。
 一旦色条を6階へつ…」

「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

高山が麗佳へ今後について話している最中に絶叫が響き渡る。
絶叫を上げたかりんは、手に持つサブマシンガンを握り締めて隔壁のあった場所を走り抜けた。

「待ちなさいっ!北条!」

「ぐっ、止めるぞ矢幡。深追いは拙い」

かりんを追って高山と麗佳も通路を走った。
そして、彼等が通り過ぎた後に上がっていっていた隔壁が降り始める。
麗佳がそれに気付いた時にはもう戻れない位置まで走っていた。

「後ろを封じられた?彼はまだ戦うつもりなの?」

後ろを封じたと言う事は逃げ道を断つと言う事。
つまり未だ「彼」に戦闘意思が残っている事を示していると思えたのだ。



その「彼」だが、別段彼等と今戦うつもりは無かった。
ただ戦闘禁止エリアに居た彼と他の人間を切り離したかったのだ。
彼だけならPDA感知でその位置が判る。
その判る人間だけを狙い撃ちにして、そのPDAを回収する。
そうすれば後の4名は自分の言う事を聞くしか無くなるのだ。
完璧な作戦だと「彼」は思っていた。
「彼」は侮り過ぎていた。
そして失言を放ってしまっていた。
死に物狂いの人間がどれだけ怖いのかを、「彼」は身を以って知る事と成るのだった。

「彼」はドアコントローラーを使用して、自分に出せる最高速で一直線にエレベーターホールまで逃げて来た。
怪我をしているとは言え、鍛えた男の速度である。
しかし後ろからは依然かりんが全速力で追い掛けて来ていた。
その後ろには更に高山と麗佳も続いている。
高山に白煙の中で撃たれた右肩と右足、そして隔壁付近で受けた左脇腹の傷が疼き続けていた。
必死に成って逃げては居るが、かりんに対して放った牽制射撃を最後にサブマシンガンの弾は切れてしまっている。
ここまで執拗に追われるとは思っていなかった「彼」は焦りを感じていた。

(くそがっ、俺が何したって言うんだっ!)

充分にしてはいるが「彼」には自覚が無かった。
自分はそれをしても良いのだと、本気で思っているからだ。
こんな性格だから他人と大きな溝が出来る。
それでも「彼」は世間が悪いと開き直っていた。
「彼」がそれだけの才能を持っていた事も問題を大きくしている。
何をやっても人並み以上にこなしてしまう「彼」にとっては、周りは馬鹿ばかりだと思えたのだ。
だからこそ「彼」の言動が他者を不快にさせて孤立するのだが、親はそれを注意する事は無かった。
その親は事業に失敗した上に立て直そうとして詐欺に遭い、数十億もの多額の借金を抱えてしまう。
馬鹿な親など「彼」にはどうでも良かった。
ただ「彼」に対しても優しく、無視する事も嫌う事もしない可愛い妹が居れば良かった。
彼女以外に自分を認めてくれる者も、本当の自分を判ってくれる物も居ない。
「彼」にとっては妹以外は皆敵であったのだ。
だが借金が彼等を引き離そうとする。
そんな時、「彼」はこの「ゲーム」に出会った。
「ゲーム」で勝ち続ければ莫大な金額が舞い込んで来る。
「組織」などに忠誠を誓う気など無い。
奴等をただ利用してやるだけなのだから。
しかし「彼」は逆に「組織」に利用されているだけだったのだ。

馬鹿の1人が今、自分を追い詰めようとしている。
それが「彼」には我慢成らなかった。
とは言え弾の切れたサブマシンガンでは役に立たないし、拳銃では相手のサブマシンガンには勝てそうも無い。
だから「彼」は逆転の秘策を考えた。
エレベーターシャフトを昇るのだ。
6階のエレベーターホールには数時間前に降りる為に置きっ放しにした荷物があるだろう。
それにシャフトを先に昇れば、後から来る者に対して絶対的有利な立場と成る。
だから「彼」は躊躇わず、開いたままのエレベーターシャフトへと入って行った。
その「彼」の思惑は当たる。
だが高山達の動きは「彼」の思惑を更に上回っていたのだった。



エレベーターホールにかりんが辿り着いた時には、既にシャフトへと「彼」が入っていく所だった。
それでも当たればと思いエレベーターへと走り寄りながらサブマシンガンの引鉄を絞る。

「死ねぇぇっ」

通路の途中でも撃ち合ったが、彼女は自分でも知らない内に他者を殺す為にその武器の引鉄を引いていた。
もう彼女には「彼」を殺す事しか頭に無かったのだ。
しかし弾丸はエレベーターの入り口周辺を穿ちはするが、結局「彼」には1発も当たらなかった。

「はぁはぁ、くそっ!」

肩で息をしながら悪態をついた。
そして少し息を整えてから、弾の切れたサブマシンガンの弾倉を交換する。
カランッと空になった弾倉が転がる中、彼女はエレベーターシャフトへと歩みを進めた。
シャフトを昇って追い掛けようと思ったのだ。

「待ちなさい!北条」

その肩を掴んで麗佳が引き止める。
ホールに入った時にかりんが追い掛けるだろう事は読めたので、高山を通路に置いて駆け寄っていたのだ。

「離せっ!あいつを追い掛けなきゃいけないんだっ!」

「シャフトに入ったら狙い撃ちよっ」

矢幡は冷静に状況を分析していた。
どう考えても追い掛ければ蜂の巣にされる事は明白だ。
しかしかりんは引き下がらなかった。

「煩いっ!あいつ、絶対に殺してやるっ!」

矢幡が掴んでいた肩はすぐに振り解かれてしまう。
だがかりんをこのまま行かせてしまえば見殺しに成るので、今度は腕を掴んで引き止める。
しかし暴れる彼女の力は予想以上に強い。
非力な矢幡ではもうかりんを止められないと思われた。
その時、追い付いた高山の一言が彼女の無謀を止める。

「階段を上がろう。そうすれば6階には行ける」

「階段…?」

かりんが動きを止めて疑問を口にする。
此処から彼等が昇ろうとしていた階段はかなり遠くに有るのだ。

「ああ、この近くに封鎖された階段がある。
 爆破準備は済んでいる。それで上に上がれば奴を追う事は可能だろう」

「高山さん?!でもあの仕掛けは…」

「今奴を逃がせば結局追い詰められて終わるぞ。
 負傷している今が好機と言えるんだ。武装も減って来ている様だったからな」

高山は「彼」がエレベーターの上階で待ち伏せしていた事は知らない。
だから「彼」の武装が今切れ掛けていると本気で思っていたのだ。
それは矢幡も同様であるので、彼の言葉に対しての反論は講じれなかった。

「判りました。北条、それで良いわね?」

「ああっ!頼む、あいつを…殺すんだ」

ギリギリと歯軋りして怒りを抑えているかりんに、矢幡は不安を隠せない。

(このまま彼を殺すまでこの状態なの?北条に彼を殺させてしまって良いの?)

簡単に人を殺すと豪語するかりんを見て、矢幡は自分も他者を殺そうとしていた事を思い出す。
殺人が解除条件の彼は、結局誰も殺そうとしないで死んでしまった。
それなのに彼女も自分も、その必要は無いのに殺そうとしている。

(彼ならどうしただろう?)

何故か思い浮かぶ彼の言動。
何時も何かを隠している様ではあった。
しかしそれでも、彼は自分達に危害を加える様な素振りは一度もしていない。
それどころか助けようともしている。

『くそっ、あと少しで優希が助かるのにっ!』

階段ホールで呟かれた彼の言葉。
考えて言ったのでは無さそうな、本心から出た様な台詞は小さな少女の命についてだった。
戦闘禁止エリアに入る人間は自分しか居ないと言った彼。

『やはりあの部屋に行くのが最も危険なのは変わらない』

最初はどれほど危険なのかと疑っていた。
実際は自分が一番安全な所に行くつもりなのでは無いか、とも思った。
だがあの部屋の惨状を見た時、彼の言っていた事が全て本当であった事を知る。
それを知っていて尚、彼はただ1人危険へと飛び込んだのだ。
封鎖階段へ移動しながら麗佳はこれまでを振り返りながら、自分が今まで間違っていたのではないかと感じ始めていた。

通路に激しい振動と耳を劈く様な轟音が響いた。
舞い上がる埃と煙が混ざり合った白煙が収まった先には、瓦礫の散乱した階段が見える。
かなり通り難そうではあるものの、通る隙間の出来た階段がそこには現れていた。

「よしっ、上手くいった様だ。瓦礫に気をつけて昇れ」

高山がそう言い残して、真っ先に階段を昇り始める。
彼は爆破前に左肩に受けた銃傷を手当されていた。
最初の出血は酷かったが、幸い防弾チョッキで威力が下がっていたのと当たり所が良かった事で、銃を撃ったりするのに支障は無かった。
進行途中の細かい瓦礫などを取り除きながらゆっくりと進む彼の後ろを、そわそわしながら続くかりんと最後尾の矢幡がそれぞれ上って行く。
そうして階段ホールまで上がり切った後、何処に行くかをまず話し合った。

「エレベーターに向かうべきだっ!」

「奴が動かずにじっとしているとは思えないのだけど、それしかないのかしら?」

かりんの主張に矢幡はエレベーターホールに「彼」が居なかった場合を想定するが、特に問題は無さそうだった。
高山も異論を出さない。

「地図が無いのが痛いわね」

PDAは全員持っていない為、中の地図が現在見られない。
追跡中は相手についていくだけだったが、こうなると迷ってしまいかねないのだ。
矢幡は以前見たPDAを地図を思い出しながら、周辺の通路について思案する。
それでも彼女達は「彼」を追い掛けて上がって来たのだ。
「彼」と遭遇出来なければ意味が無いと成れば、居そうな所に向かうしかなかった。
だから高山達はエレベーターホールの方向へと足を向ける。
その彼等を階段ホールから少しした所で待ち受けていたのは「彼」であった。



「彼」はエレベーターシャフトを覗き見ながら、自分のPDAでPDA検索を実行していた。
それでもPDA表示は変わらず、かの戦闘禁止エリアに存在し続けている。
やはり追い掛けて来ている彼等の全員が、あの男にPDAを預けたのだろう。
命に匹敵する筈のPDAを。

(あんな奴が俺より優秀だって言うのか?!)

他人に認められている外原が気に食わなかったのだ。
自分はこんなにも優秀であるにも係わらず妹以外は認めてくれないのに、と言う嫉妬が沸き起こる。

(大体奴は俺に手も足も出なかった間抜けだぞっ!
 くそっ、奴等に言った様に、いずれあいつは殺してやる)

「彼」はそう固く誓うのであった。

既に「彼」が身体中に負った傷は応急手当が済んでいた。
見た目にはかなり酷い傷だったが、この程度の傷は剣術の修行中に何度も受けていたので「彼」には大した事では無い。
それでも接戦時に痛みで動きが鈍るのは困るので、痛み止めだけは少量飲んでおいた。
「彼」のPDAのバッテリーは既に6割を切り、5割に近付いて来ている。
この序盤に5人ものプレイヤーが上がって来ている事が予想外だったのだ。
これまでの「ゲーム」では序盤は各プレイヤーが情報を交換し合いながら緩やかに進む場合が多かった。
人が諍いを起こして死に始めるのは中盤以降。
それまでは6階で悠々と人数が減っていくのを見守る予定だったのだ。
それで目的の数以下に成れば良し。
成らなくとも自分が上がって来た者に手を下せば良い。
完璧な計画だと思っていた。
なのに自分が5階の階段にバリケードを作成している間に6階に上がっていた人間は居るし、その後にもエレベーターで上がって来る者も居る始末だ。
丁度良いので殺してしまおうかと襲えば返り討ちに遭う。
階段で待ち伏せをしたのに様々な攻撃を躱し切り、結局最善手と思っていた戦闘禁止エリアへの追い詰めも上手く行かなかった。
誤算続きの「彼」に更に追い討ちが掛かる。
それは遠くから聞こえた音で示された。

(爆発音?あの方向は…まさかっ!)

これまでの「ゲーム」でも当然階段を爆破して通った者は居た。
しかしこんな序盤にそれをされるとは「彼」は考えていなかったのだ。
5階と6階の武器には越えられない壁が存在する。
それ程に6階にある武器は想像を超えるものが置かれていた。
それらを手にされれば自分の優位が一部崩れ去ってしまうかも知れない。
6階に上がられると厄介だと思った「彼」は、急いで封鎖されている筈の階段ホールへと走って行くのだった。



階段ホールに残していた物資で武装を補充していた「彼」のサブマシンガンが火を噴く。
その攻撃から通路の角に身を隠して彼等は応戦した。

「もう補給を終えたの?彼は一体何者?」

呟く麗佳に答えを返せるものは此処には居ない。
高山のアサルトライフルの残弾も心許無く成っていた。
このまま弾切れに成れば、かりんのサブマシンガンだけでは「彼」を制圧出来ない可能性が高い。
高山も麗佳も事態を理解して居たが、かりんは全くそれを認識していなかった。
「彼」が身を翻して撤退を始めた時に彼女は躊躇わず、追撃を実行したのだ。

「待ちなさい、北条。此処は一旦引くべきよ!」

麗佳の言葉など聞く耳持たないとばかりに、かりんはそのまま通路を走って行く。
それを高山が追い掛ける。
仕方が無いので麗佳も追い掛けようと彼等が置いていった荷物を纏めて進もうとした時、高山との間の通路にシャッターが降りた。

(しまった!またあの機能?!)

外原の言っていたドアコントローラーを「彼」が働かせたのだろう。
ただ行く手や逃げ道を塞ぐだけかと思っていたが、こういった分断も可能なのだ。
こうなる事を考えれば、これは彼の言う通りかなり厄介な機能である。
彼はPDA感知よりもこの機能の方を、より気にしていた。
明言はしていなかったが、その口調や態度でドアコントローラーがかなりの脅威であると感じていたのは判った。
それでも此処までとは彼女は思っていなかったのだ。

(これからどうする?)

生き残る為に高山と同行していたのに、こんな事で分断されてしまった。
出来る事と言えば、階段に戻って優希を回収し、再度6階に上がる事くらいだろうか。
もっと大事なものとして、戦闘禁止エリアにある彼の死体から破損を免れたPDAを回収しておく必要も有る。
爆破した階段から行くよりも6階から正規の階段を通ってから降りた方が距離が短かいと思ったので、彼女は6階の階段へ向かう事にしたのだった。



高山は困っていた。
逃走を続ける「彼」に、それを追い掛け続けるかりん。
そして後ろを封鎖された事により矢幡と分断されてしまった。
今彼は選択を迫られていた。
このままかりんを支援するか見捨てるかである。
彼女は今も平静を失っている。
これは戦場では絶対にしてはいけない事であった。
こう成った同僚は真っ先に切り捨てられていったのだ。
そして例外無く死んでいった。
だから彼は躊躇わず決断を下す。
彼女とは距離を置いて追い掛ける事にした。
「彼」と彼女の戦いに対して漁夫の利を得られる様にする為に。

後ろを気にせず、ただただ逃げる「彼」を追い掛けるかりんには高山の行動は気に成らなかった。
「彼」は時折サブマシンガンで牽制射撃をしながらも、撤退を続ける。
何故逃げるのかなど、かりんには考える余裕は無い。
「彼」を殺す事だけが頭の中にあったのだ。

(絶対に許さないっ!)

何故こんなにも怒っているのかは、彼女にも判っていなかった。
ただ彼が死んだと聞いた時から「彼」が憎くて仕方が無かったのだ。

「しつけぇぞ、ガキがっ!」

5階での追撃戦の再現と言える様な状態になっていた。
曲がり角から曲がり角までの間でお互いにサブマシンガンの弾をばら撒きながら、移動し続ける。
逃げながら「彼」は、かりんに恐怖を感じていた。
幾ら牽制射撃をしても怯む事無く向かって来る。
まるで死を恐れていない様な行動が恐ろしかった。
そして憎悪により据えられたその目も。
今までは他人に憎まれる前に相手を殺すか、殺す直前に憎まれていただけなので、こんな事は初めてだったのだ。
そうでなくても、日頃は他人に怯えられるか蔑まされるかしかされた事が無かった「彼」である。

(くそっ、何で俺があんなガキに!)

逃げながら考える。
思ったよりも素早い動きでこちらの牽制攻撃を避け続ける少女に嫌気が差していた。
更に「彼」の体力が限界に近付いている。
普通に動いていても消耗する体力は、身体中に受けた傷によりその消耗を早めたのだ
手当てをしたとは言え、これだけ動けば傷も所々開いてしまっていた。
サブマシンガンの残弾も少なく成っている。
元々エレベーターホールに残していた武装は数が少なかったのだ。
だから「彼」は今彼女を殺す事を諦めた。

(もっとしっかりと策を練って、痛みにのた打ち回らせながら殺せば良いよな)

その考えは「彼」に想像だけで愉悦を齎す。
「彼」はニヤついた笑みを浮かべて、彼女との間と、その他にも幾つかの隔壁を上下させたのだった。

隔壁を開けた事により「彼」は早々に自らの拠点へと辿り着く。
そこで武装を再度整えた。
サブマシンガンだけでは心許無くなって来たので、アサルトライフルも用意しておく。
その他にも数は少ないが手榴弾なども補充した。
そして対人地雷も荷物に放り込む。
大き目の医療セットを取り出して、本格的に身体中に出来た傷の治療もしておく。
化膿止めと痛み止めを飲んで、少しだけ休む事にした。

少し寝てしまったらしい。
「彼」はそれに気付いてからすぐにPDAを確認すると、経過時間は16時間を過ぎていた。
2時間近く寝ていた事になる。
まだ痛み止めが効いているのか頭が朦朧としているが、頭を振って意識を保つ。
そして一応他のプレイヤーが昇って来ていると面倒なので、PDA検索で確認をして見た。
6階には自分以外の光点は無い。
そして5階を見ると1つだけ光点が存在した。
その光点は巨大な1つとなっており、通路の途中に表示がされている。
これだけ巨大な光点はあの戦闘禁止エリアに居た男だろう。
何度も検索を繰り返して見るが、その移動速度はかなりの速度で正規の階段を目指していた。

(やはり、殺し損ねていたかっ!)

「彼」は急いで立ち上がり、荷物を掴んで部屋を飛び出した。
彼をこのまま6階に上げては成らない。
出来るだけ早目に始末する必要があると考えたのだ。
そして痛む身体を引き摺って「彼」は走り出したのだった。



麗佳が「彼」を見付けたのは偶然である。
階段を目指して歩いていた彼女だったが、途中幾つか隔壁が降りていて進行を邪魔されていた。
その為本来なら1時間程度で着く筈のホールに2時間以上も掛かって彷徨っていたのだ。
記憶にある地図と現実の違いが混乱の元と成ったのも、迷った原因と成った。
彼女がそうして通路を進んでいる時にバタバタと酷い音を鳴らして駆けて来る者が居た。
物陰に隠れてやり過ごした彼女の目には「彼」の後姿が映る。
その背中にこの6階で手に入れたサブマシンガンをお見舞いしようと銃口を上げた。
今なら確実に「彼」を殺せるタイミングである。

(けど、奴は何故あんなに急いでいるの?)

追撃をしている時も受けている時もあんなに慌てては居なかった。
なのに今になってこれ程までに急ぐとは、何か重大な事が発生しているのかも知れないと彼女は考えたのだ。
「彼」の慌て振りに銃口を下ろしその後をつける。
その銃口を下ろしたのはまだ彼女が殺人に対しての恐れがある為でもある事を、彼女は自覚しては居なかった。
結局彼女は無理矢理に理由を付ける事で、引鉄を引かない様にしただけなのだ。
かなりの速度で移動する「彼」を追い掛けるのは容易ではない。
しかし「彼」も後ろを気にせずに先に進んでいるので、音さえ気を付ければ追うのは途中まで問題無かった。
それでも彼の速度に引き離されてしまう。
だが此処まで進路が確定すれば、「彼」が何処へ向かっているのかは想像が出来た。
「彼」は階段ホールへと向かっていたのだ。

小走りで同じく階段ホールへと向かう麗佳の耳に爆発音が聞こえる。
「彼」が誰かと交戦中である事はすぐに想像がついたが、問題は相手が誰であるかだった。

(もしかして、優希が上がって来たの?)

小部屋に置いて来た優希が起きて、矢幡達が居ない事に気付いてそのまま6階に上がった事が考えられた。
矢幡は慎重に階段ホールを覗き込む。
爆発音の後に2回ほど銃撃音が鳴っているが、その誰かはまだ生き残っているだろうか。
全く情報が得られないのがもどかしく苛立ちを増させるが、冷静になろうと彼女が深呼吸を始めた時、その息を止める程の現実を見た。

(外原…さん?)

通路から飛び出して来た2つの人影。
後ろの小さい方は予想通り優希である。
しかし彼女の手を引いて先を進む男性は予想だにしない人物だった。

(何故?死んだ筈では?)

「彼」の言葉だけで誰も確認していないし、彼女達にはソフトウェアも無いのでその生死を測る術が無かった。
それでもあの惨状では「彼」の言う事も有り得ると考えていたので、その生存は驚かざるを得なかったのだ。
その彼は何故かいきなり膝立ちに成って優希を階段側に移動させてから抱え込む。
直後に発砲音がした。
彼女が幸運だったのは、その音に対して反射的に横を向いた事だっただろう。
そこにはライフルを構える「彼」が居た。
すぐにそちらに向けてサブマシンガンの銃口を上げた時、階段側から閃光が走った。

「ぐぅっ!」

その眩しさに「彼」は目を押えて呻く。
矢幡も眩しくは感じたが、直撃した訳ではないので薄目を開けたまま引鉄を引いた。
この攻撃は「彼」の右半身を直撃したが、彼自身はアーマージャケットで弾を弾いて無傷である。
しかし肩に掛けていたベルトと右腕に直撃した衝撃で、ライフルを取り落としてしまった。
それを認識した瞬間に不利を感じたのか、「彼」は即座に近くにあった荷物を持って撤退を開始してしまう。
矢幡は撤退していく「彼」を警戒してその通路に銃口を向けていたが、完全に撤退したと判断すると煙が晴れつつある外原の所に近付いた。

(彼はもう死んでいるのだろうか?)

脳裏を過ぎる結果。
折角生きていたのに、目の前で死なれてしまった。
それも優希を庇って。

(一体何を考えていたのだろう?)

そう思いながら近付いた彼女は信じられないものを見た。
2人共普通に息をしていたのだ。
周りには1滴の血も流れていない。
良く見ると外原のバックパックに3つの穴が空いていた。
つまりはこれで止まったのだろう。
バックパックの中にあった煙幕手榴弾と閃光手榴弾に丁度当たったのだろうか。
あの白煙と閃光はそうとしか思えなかった。

「兄…さん。…助けられなくて、御免な」

彼の寝言が矢幡の耳に入る。

(助けられない?)

彼の兄に過去何かがあったのだろう。
それ以上は寝言は無く、判断が出来ない。
だが彼が死に対して忌避感がある理由の一端ではあるのだろうと、彼女は感じた。

(外原早鞍、貴方は本当に皆を助けようとしているのね)

これまでの彼の言葉、そして行動。
そのどれもが他者の命を守る事を前提としていた事に、今更ながらに彼女は気付いた。
矢幡は規則正しく息をしている彼の頬にそっと触れるのだった。


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