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No.4919の一覧
[0] ハッピーエンドを君達に(現実→シークレットゲーム)【完結】[None](2009/01/01 00:10)
[1] 挿入話Ex 「日常」[None](2009/01/01 00:05)
[2] 第A話 開始[None](2009/01/01 00:04)
[3] 第2話 出会[None](2009/01/01 00:05)
[4] 第3話 相違[None](2009/01/01 00:05)
[5] 挿入話1 「拠点」[None](2009/01/01 00:06)
[6] 第4話 強襲[None](2009/01/01 00:06)
[7] 第5話 追撃[None](2009/01/01 00:06)
[8] 挿入話2 「追跡」[None](2009/01/01 00:07)
[9] 第6話 解除[None](2009/01/01 00:07)
[10] 挿入話3 「彷徨」[None](2008/12/20 20:05)
[11] 挿入話4 「約束」[None](2008/12/10 20:01)
[12] 第7話 再会[None](2009/01/01 00:07)
[13] 第8話 襲撃[None](2009/01/01 00:08)
[14] 挿入話5 「防衛」[None](2009/01/01 00:08)
[15] 第9話 合流[None](2009/01/01 00:09)
[16] 挿入話6 「共闘」[None](2009/01/01 00:09)
[17] 第10話 決断[None](2009/01/01 00:09)
[18] 挿入話7 「不和」[None](2009/01/01 00:10)
[19] 第J話 裏切[None](2008/12/19 04:13)
[20] 挿入話8 「真相」[None](2008/12/20 20:40)
[21] 挿入話9 「迎撃」[None](2008/12/20 20:07)
[22] 第Q話 死亡[None](2009/01/01 00:10)
[23] 第K話 失意[None](2008/12/25 20:01)
[24] JOKER 終幕[None](2008/12/25 20:01)
[25] 設定資料[None](2008/12/24 20:00)
[26] あとがき[None](2008/12/25 20:02)
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[4919] 第4話 強襲
Name: None◆c84e4394 ID:a86306dc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/01 00:06

    ズガンッ! ドゴォ!

重々しい轟音と共に乗っているカゴが激しく揺れた。

「「きゃああぁぁ」」

音と振動に少女2人が悲鳴を上げて蹲る。
爆発音が天井部分よりしている事から、上階からの攻撃であるのは間違いないだろう。
階数のランプを見ると5階に在るので、5階は通り過ぎている様だ。
もう少しで6階だというのに、よりにもよって6階に敵が居るとは運が無い。

いやいや、慌てるな。
何階だろうと、今攻撃を受けている事自体が問題なのである。
混乱して支離滅裂に成りそうな思考を取り戻す事に、どれほどの時間が掛かっただろうか。
気付いた時には、パラパラと落ちる埃の他に金属の破片も混じって来ていた。
天井が爆発物に耐えられなく成るのも時間の問題だろう。
丁度調査中だった床の部分にある取っ手を掴み手前に引いてみるがびくともしない。
気持ちが再度焦って来る。
何とか開かないかと半円形の取っ手を回してみると、取っ手だけでなく台座部分も回り始め、半回転位した所でカチリと手応えを感じた。
引いてみると床の部分が一部開き、エレベーターシャフトへの真っ暗な奈落の闇が広がる。
底の全く見えない完全な闇の世界を見て恐怖が襲って来た。
5階分の高さである。
滑って落ちたらまず助かるまい。
だが現在も断続的に爆発物の攻撃を受ける天井は、今にも崩壊しそうだ。

「降りるぞ、ついて来い」

蹲る2人へと言い放ってから開けた穴から下に出て、シャフトの横壁に有る梯子へと移る。
移る際に背負った荷物が邪魔して落ちそうに成るが、何とか踏ん張って耐えた。
すぐ下にある5階の扉を目指して移動していく。
後続が来ているかを確認すると、大きい荷物を持つ俺とは違い荷物が小さい彼女達は危なげではあるが何とか梯子に移る事が出来た様だ。
その時カゴの中から先程よりも激しい音が鳴り響く。
カゴの天井の一部が壊れたのだろうか。
まだカゴを支えているロープが保っているのが不思議なくらいだ。
それを真っ先に切られていたら、こちらはお陀仏ではなかったか?

シャフト中央部辺りを1本の火線が走った。
今度はサブマシンガンかライフルだろうか?
ほぼ壁に張り付いている俺達に被害は無かったが、カゴに残っていたら撃たれていたかも知れない。
片手を5階への扉に掛けて思いっきり引っ張ると、ゆっくりではあるが開き始めてくれた。
此処で扉にロックが掛かってたらアウトだったのだ。
ある程度開いた所で反対側に足を掛けて、あちらへ押し込むようにして手足でもって左右に開いていく。
充分に開けた所で、俺は5階のエレベーターホールへと転がり出たのだった。





第4話 強襲「他のプレイヤーの首輪を3つ取得する。手段を問わない。首を切り取っても良いし、解除の条件を満たして外すのを待っても良い」

    経過時間 9:08



エレベーターホールに出た後すぐ横に荷物を投げ捨て、次にやって来るかりんに手を貸してやる。
ふと疑問が頭を過ぎった。
1階でカゴを呼び出した時に階数表示のランプは何階を指していたか?
今敵は6階から攻撃して来ているのに、ランプは5階に在った筈だ。
思考しながらかりんをホール側へ引き込み、次の優希に手を貸す。
もしかして5階にも誰か、悪ければ上の奴の仲間が居るかも知れない。
優希をホールに引き上げると、すぐに行動を開始した。

「かりん、優希。すぐに移動するぞ。5階に敵が居るかも知れない」

優希が肉体的にも精神的にも参っている様だったが、此処で止まっている訳にはいかない。
かりんに優希を任せて投げた荷物を拾いつつ、俺のPDAを確認して幾つか有る通路の内で倉庫6と書かれた部屋への通路を目指す。
その時、エレベーターシャフト内を轟音を立てて大きなものが通過していった。
カゴが落ちたのだろう。
しかし途中で止まっていなかったのは、安全装置が作動するまでに落ちる距離があるのか、単に安全装置が機能していないのか。
こういった災害を経験した事は無いので知らないが、本当にあんなもので安全性が保てるのだろうか?
先ほどから危ない橋を渡りっ放しではあるが、未だ危機は去っていない。
通路に入ろうとした丁度その時に、エレベーターよりこちらに向かって銃撃が来た。
ほんの少しだけ通路に入る方が早く銃弾は壁を穿つのみだったが、このまま追われれば蜂の巣にされるのは時間の問題だ。
優希が足枷に成っているとはいえ、あちらの行動が速過ぎる事が恐怖心を煽った。
覚悟を決める必要がある。
殺し合いは御免だったが、このままでは一方的に殺されるだけなのだ。
意を決して、前に居るかりんに自分のPDAを投げ渡す。

「かりん、倉庫6に逃げ込め!入ったら物陰に隠れて、音を立てずにじっとしてるんだぞ」

声が大きくならないように気をつけながら、腰の後ろに挿していた自動式拳銃を引き抜く。
PDAは地図を出した状態のままだから、迷う事は無いだろう。

「行けっ!かりん。優希を頼む」

「でも早鞍っ!」

「流れ弾で怪我されても困るんだ。早く行けっ!」

話しながら、銃の安全装置を外して撃鉄をスライドさせる。
それらのやり取りの間もエレベーター側から目を離さずにいた為、相手の行動が目に入っていた。
エレベーターの扉の前には先ほど撃ってきたのであろう人影がある。
シャフトから出てきたと同時に撃って来たのだろう。
こちらとは別の通路に隠れる為に、銃口をこちらに向けたまま横走りで駆けていた。
遠目で詳しくは判らないが、20歳前後の男性の様である。
誰だ?
今まで会った誰でも無いその男は『ゲーム』では見た事の無い人物だった。
残りの男性は長沢、葉月、漆山なのだが、そのどれも20歳前後ではない。
新たな「違い」が目の前にあったが、今はその事について深く考えている場合ではない。
彼は右脇にサブマシンガンの様な物を抱えており、それ以外の大型武器は見当たらなかった。
こちらへ牽制射撃を繰り返しつつ、相手は別の通路に身を隠す。
相手はこっちに拳銃がある事を知ってでもいるのだろうか?
随分と行動が慎重だ。
知らないならあちらからは攻撃を仕掛け放題であり、物陰に隠れる必要など無いだろうに。
非常に慎重な性格の可能性も有るが、楽観視は出来ない。
こちらが銃を持っているという情報を持つと言う事は、愛美から情報を得たかゲームマスターの可能性しかないだろう。

一瞬だけ後ろを見て、かりん達が居なく成った事を目で確認しておく。
かりんは一時の逡巡したものの、優希を連れて行ってくれた様だ。
ホッと一息ついた後、気を引き締めて前を向く。
相手が隠れている通路に集中して、しっかりとした射撃スタンスを確保した。
とは言え、相手もあの通路に隠れたままとは限らない。
もしかしたら回りこんで来るかも知れない。
先ほど見たこの周辺の地図を頭に思い浮かべながら、相手の隠れた通路からの迂回路を考えてみる。
回り込むとして、走っても1時間位掛かるだろう。
このまま時間が経っても出て来ないようであれば、かりん達と合流して逃げ出す必要もある。

それから10分くらい経つが、全く動きが無い様子に回り込んだものと判断する。
射撃体勢を崩した時に、相手の隠れている通路の方でチカッと何かが光った気がした。
何だろうと目を凝らして見ると、遠くにあるので判り難いが多分小さな鏡の類だろうか?
鏡?…拙い!
再度射撃体勢へ移行しようとする最中に、やはりと言っては何だが通路から相手が躍り出て来た。
無理な体勢ではあるが、相手の姿が現れた瞬間に銃の引鉄を引く。
思ったより銃の反動が大きかったのもあるが、既にこちらへ銃口が向いていたので回避の為にも後ろ向きに倒れ込み床に仰向けに転がった。

「うわぁっ!」

人の叫び声が聞こえるとほぼ同時に俺の目の前、つまりは上側を火線が通り抜けていく。
たった1発撃っただけで、反動により右腕に痺れが残った。
此処まで反動が凄いとは予想以上である。
弾数の問題も有って、今まで射撃練習をしていなかった事が裏目に出てしまっていた。
それでも右腕の痺れを我慢して仰向けから横に転がり、仰臥状態から更に1回発砲する。
狙いは滅茶苦茶だが、元より当てて殺すつもりなど無い。
運悪く急所に当たった場合はご愁傷様だ。
しかし相手は俺の射撃を横に転がって躱し、更に射線を集中させて来る。
俺は相手が横に移動した事で出来た、射線の死角となる右の壁際へ転がり攻撃を避けた。
先ほどからの相手の素早い対応を見ていると、それなりに訓練でも積んでいるかの様に見える。
高山みたいな傭兵か自衛隊の経験者だろうか?

先の休憩中に確かめた自動拳銃の装弾数は7発であり、これまでに2発撃っている。
残りの5発で相手を撃退出来るかと言われれば、心許無い。
その上、2発だけしか撃っていないにも関わらず、右腕が痺れて大分感覚が薄くなっていた。
左手で右腕を揉んで感覚を復活させようと努めるが、近々の回復は絶望的の様だ。
その時突然相手が視界に入り、銃口をこちらへ向けて来た。

「とっとと死にやがれっ!」

叫びながらサブマシンガンをオートで乱射して来る。
その銃撃から避ける為に慌てて右壁に張り付いていた体を、肩から肘にかけて壁を押し出す事で引き剥がして左へと飛ぶ。
避けはしたものの、反撃など出来ず反対側の壁へ勢い余って激突してしまう。

「がっ」

左肩と左頬を強打して、目に火花が散ったような衝撃が走った。
拙い、殺られる。
脳震盪を起こしたように視界が揺れる中で死を覚悟するが、銃撃は降って来ない。
正面を見ると相手が肩から下げていたサブマシンガンを捨てている所だった。
弾切れだろうか?
それならばチャンスである。
痛みや痺れなどでふらついていたが、不幸中の幸いなのか左半身の痛みのお陰で右腕の痺れが一時的に抜けた様だ。
銃を握り締めて左の壁すれすれに体を置きながら、銃口を下に向けて前傾姿勢で相手に向かい疾走する。
20メートルはあった距離を走り抜けて相手へと肉薄して行った。

急接近して来る俺に、相手は右腕を後ろに回して何かを取り出して来る。
迎撃に取り出したのは棒の様な物だった。
30センチくらいだった棒が、一瞬で1メートル弱くらいに伸びる。
伸縮式の警棒だろうか?
走り寄る俺に銃を構える隙を与えないように、向こうからも近付き警棒を振り被って来る。
動きが大きい故にその軌道は判り易い。
力がまともに入り切らない右腕は軌道修正の支え程度にして、左腕の力で下から掬う様に振り上げた。
俺の振り上げ速度が速かったのか、相手の持つ警棒の棒の部分では無く柄頭へ銃把が叩き付けられる。
警棒はそのまま相手の手からすっぽ抜けて飛んでいった。

「づぅ、きさまっ!」

勢い余り相手の右手にも当たったのか、右手を抱え込みこちらを睨み付けて来る。
俺は此処で止まらず、前進の勢いのまま相手の後ろに回り込んでその後頭部へと銃を突き付けた。

「両手を挙げて動くな」

距離は縮まっているので大きな声は必要無いのだが、疲労と興奮でかなりの大声が出ていた。
結局は殺しに来た相手に、此処まで来てすぐに殺せなかった事がこちらの敗因なのだろう。
相手は顔だけ振り返り、ちらりとこちらの目を見ると冷笑を浮かべる。
ぞくりと悪寒が走った。
再度警告を放つため口を開こうとした瞬間、相手の体が視界から消えたと思ったら左の後ろ脛を掬うような感覚に襲われる。
体を沈めたのだろう相手の足が、こちらの脛を払って来ていたのだ。
無様に後ろへ倒れ込んでしまい、その上反射的に指が動いた事で発砲してしまう。
その反動で更に倒れる勢いが付いて、床に仰向けに転がる。
途中で気付いて何とか頭を打たない様に受身を取るが、倒れてすぐ銃ごと右手を踏み付けられた。
相手の靴はザラザラとした靴底をしており、踏み躙るように踏んで来たのでこちらの指の表面が削れる。
更にこちらの右腕は殆ど伸びきっており、相手は右腕を踏んだ右足が一番こちらへ近い位置。
つまりこちらから攻撃する術は無い状態から、その右腕に持った回転式の拳銃を突き付けて来た。
あれは映画などで良く見る、44マグナムだろうか?
こちらの持つ銃よりも大きく見える凶器が、真っ暗な空洞をこちらへと向けている。
防弾チョッキを着けてさえ即死しかねないマグナム弾を放つ凶器。

此処で、俺は、死ぬのか?
まだ序盤も序盤で1日すら経過していない中、こんな無様に死に逝くと言うのか?
自分の死んだ場面、頭を打ちぬかれて屍を晒した姿が脳裏に浮かび上がる。
もう打つ手は無い。
数瞬後には俺は死ぬだろう。
何かを叫ぼうかとも思ったが、相手を喜ばせるだけだ。
銃で頭を打ち抜かれれば苦しみも無く死ねる…。
そんな諦めてしまった心の隅に、ある情景と感覚が霞掛かって浮かんで来る。
重力が全く感じられない状態で灰色の空を眺めている、そんなセカイだった。
その感覚は、目の前の殺人者の愉悦に満ちた怒鳴り声で霧散してしまう。

「これで終わりだ、糞野郎!」

ある程度は整った顔が、興奮と絶対的有利な立場を得た事による笑みで歪みきっている。
そう言えばこんなプレイヤーは居ただろうか?
彼は何者だ?
今更疑問が沸いて来る。
しかし時間は止まらず彼の右手の親指が撃鉄に掛かり引き起こそうとしたその時、銃声が木霊した。

「ぎぃぁ」

奇妙な悲鳴を上げて俺を踏んでいた右足が弾けて転がるが、彼はすぐに起き上がり近くの通路へと身を隠していく。
突然の出来事と、相手のその素早い動きに呆気に取られてしまう。

「外原、さっさと離脱しろ!」

低いが良く透る声がホールに響き渡る。
誰かは判らないが、言われた通りに元の通路へ痛む体を引き摺って隠れた。
何とか頭は打たなかったものの、右腕の痺れに左半身の打ち身と、更に倒れた時に背中と尻を強打した様だ。
全身が痛いし、今も右手の中にある銃が酷く重く感じる。
何より全てを諦めて死を受け入れた後だったので、生きている感覚が浮遊している様な感じがしていた。

正直現実を甘く見過ぎていた。
『ゲーム』でも登場人物は結構あっさりと銃を撃ったり、危険を回避したりしている様に見えたのだ。
更にそれらの情報を事前に保有している自分は、幾らかの有利な点を持っていると思い侮っていた。
しかし実際には銃を1発打つだけでも腕は痺れ、今は腕が痙攣するほど痛めつけられているし、追い詰めてからの反撃も痛かった。
現在も知らない誰かの助けが無ければ、今頃はエレベーターホールに脳漿をぶちまけて死んでいただろう。
子供達を守るどころか自分の命すら危うい状況に背筋が冷える。
漸く今此処に至って「殺し合い」の現実を実感したのだった。



退避してからどれくらい経っただろうか、気付いたら銃撃音が止んでいた。
こちらを攻撃して来ていた者が隠れた通路とは異なる場所より出て来た2つの人影が近付いて来る。
1人は見覚えがあった。
そのがっちりした体格と鋭い眼は、今この時はとても頼もしく見える。
もう1人は長い髪を頭の両側で括ったツインテールに、白いワンピースを着た女性だ。

「高山、有難う。助かったよ」

壁を背にしてへたり込んだ状態のまま、男の方へと口だけと成るが礼を述べる。

「無茶をしたものだな」

率直な感想を述べてくれる。
確かにド素人には無茶過ぎたか。

「はは…。自分でも無謀だったと、今更ながら、思うよ」

自嘲気味に呟くが、高山の表情は硬いままである。
武器も油断無く持ったままだし、こちらを警戒している様だ。
女性の方に至っては高山よりも前には出ずに、こちらをきつい視線で睨んで来ている。
その手には同じく拳銃が握られていた。
何かがおかしいが、こちらもこのままという訳にはいかないので話を振ってみる。

「ルールの9番及びJOKERはどうだった?」

「どちらもまだだ」

いつものように答えは簡潔だ。
残念だが、高山達も新しい情報は無さそうだ。

「所で、そろそろそちらの美人さんを紹介してくれないものかな?」

全く言葉を発しない女性の事について促してみた。
先ほどから、高山の表情が硬く発する言葉も少ないのも気に掛かる。
1階で話していた時は此処まででは無かった筈だが、気のせいだろうか?

「外原、北条はどうした?」

こちらの問いには答えず、逆に高山が聞いて来る。
高山がそれを気にするとは予想外だし、こちらの問いに先に答えろとは思ったが、此処は素直に答えておこう。

「近くの倉庫に隠れておくように言ってある。もう1人子供が居たので、銃撃戦に巻き込みたくなかったんだ」

「子供?」

「色条優希っていう10歳くらいの子供だよ」

「…そうか、無事なら問題無い」

少し安堵したかのように、高山の雰囲気がほんの少しだが緩くなる。
彼はそこまでかりんに執着が有ったのだろうか?
高山の言動に内心首を傾げるが、優希についての説明を続けた。

「それで申し訳ないが、9番の解除条件がプレイヤーの全員と遭遇する前に6階に到達なんだ。
 なので出来れば合流は、こちらが一回6階に到達した後にしたいんだが…」

此処はエレベーターホールであり、各階の使用可能な唯一の階段はエレベーターからは遠くに成る様に大体設定されている。
その為此処から6階に上がる迄にまだまだ時間が掛かる事から、出会う人間は少ない方が良い。
そう考えたのだが、此処で言葉が止まってしまう。
5階にはまだあの襲撃者が居る。
また襲われたら次は生き残れるだろうか?
いや自分だけなら逃げ切れるかも知れないが、かりん達はどうだろうか?
今の銃を1発撃つだけでもやっとな自分では守り切れない事を自覚してしまった。

「高山。すまないが、俺達と同行してくれないか?」

下らないプライドなど犬にでもくれてやれば良い。
元より喧嘩に自信なんて無い。
今は何よりもかりんと優希の安全を優先すべきである。
その為には傭兵経験のある高山とは別行動よりも同行して貰った方が都合が良かった。

「どういう事だ?9番の解除条件が事実なら、合流は避けるのではないか?」

「尤もだ。現に今まではずっとそうして来たしな。
 だが、今攻撃を受けて痛感したよ。俺じゃこれ以降、あの子達を守り切れそうも無い。けど…。
 だからって、はいそうですか、って殺されてやる訳にはいかないんだ!」

最後は高山の目を見て一気に言い放つ。
こちらの言い分に毒気が抜かれたのか、高山は1つ溜息をつくと静かに頷いた。

「判った。こちらも連れの条件があるので、協力は吝かではない」

「そうか、助かる。取り敢えず、かりん達と合流しよう。
 隠れてろって言っただけだから困ってるかも知れないからな」

持っていた銃を再び腰の後ろに挿し直してから、痛む体を何とか支えて立ち上がった。
隠れているように指示した倉庫6の位置を頭の中で思い出して進む。
高山達は付いて来てくれている様だ。
小声で何か話しているようだが、かりん達を心配して気持ちが逸っていたのか特には気に成らなかった。
倉庫6へは先に俺一人が中に入って確認を取る事にする。
入って見渡すが人の姿は無い。
きちんと隠れているのか、それとも俺を待ち切れずに6階へ向かったのか。

「かりん、優希。何とか撃退したぞ。もう大丈夫だ」

声を掛けると奥の方でごそごそと物音がして、物陰から2人が這い出て来る。
かりんが俺の姿を確認すると、パタパタと駆け寄って来た。

「早鞍、無事だったか?怪我は無いのか?」

早口に捲し立てられた。
各部の打撲と銃の反動による右腕の痺れが有るが、外見からは窺い知れるものではないだろう。
左頬の打撲や指の傷が見咎められる可能性も有るが、心配を掛けても良い事は無いので曖昧に返事しておく。
優希もこっちに来た所で、2人にエレベーターホールであった事を掻い摘んで話した。
勿論、死に掛けた事は黙っておく。
そして高山との再会についての説明も行なってから高山を呼んだ。

「高山!入って来てくれて良いぞー」

外に向かって声を掛けた後に扉が勢い良く開いた。
その勢いの良さに優希が驚いて、俺の後ろに隠れて震え始める。
扉は開いたが、そこからは誰も入って来ない。
暫くしてから銃を構えた高山が素早い動きで中に入って来て、そのまま障害物の陰に隠れた。
何だか随分と警戒している様だ。

「何してるんだ?」

こちらへ向けて銃を突きつけて来る格好に成っている高山を一瞥して、ちょっと聞いてみる。
一度も会った事の無い優希は怯え切ってしまっており、先ほどよりも更に震えていた。
かりんも目を丸くして驚き、身体を硬直させている。

「…本当に北条は生きていたのか」

ゆっくりと構えを解き、全く悪びれずに呟く高山。
ああ、成程成程。
俺が解除条件を満たすために、かりん達を殺した可能性を考えていたのかー。

「そりゃ、ま、普通は、考えるか、な」

傷ついた風を装って欝に入ってみる。

「だ、大丈夫!あたしは信じてるからなっ!早鞍、落ち込むなって」

かりんも察したのだろう、背中を叩いてフォローを入れてくれる。
ああ、本当に良い子だなぁ。

「うっし。誤解も解けた所で、再度宜しく」

高山に向かって笑顔で右手を差し出す。
左手を後ろに隠す、何て手塚みたいな真似は当然しない。
俺の右手を見て考え込んでいたが、その内握手を返してくれた。

「信じられないっ。貴方の解除条件は本当に3人の殺害なの?」

今迄沈黙を保っており、今も廊下に居て倉庫に入って来ていないツインテール美人が不審気に問い掛けて来る。
そう言えば余りにも存在感が無さ過ぎて居た事を忘れていた。
子供達への説明からも抜けていた事が、その存在感の希薄さを物語っている。

「ああ、間違いなく俺の解除条件は3名の殺害だが?」

それが何だ、と言う様に言い返す。
まだ彼女には教えた覚えの無い俺の解除条件を知っているのは、高山が話していたと考えられる。
ならば彼女が出合った時から態度が硬化していたのは、それが理由なのだろう。

「それで、貴女は?」

「矢幡麗佳(やはた れいか)。大学生よ。PDAは…8番。
 解除条件は、自分のPDAの半径5メートル以内でPDAを正確に5台破壊する事。
 だから解除した人が5人以上居る必要があるわ」

PDAについては話す事が躊躇われたのだろうか、少し間があったが解除条件まで話してくれた。
解除条件に『ゲーム』との違いは無さそうだ。
最後に解除した人がと言っているのは、自分が『ゲーム』の様に他者を害して奪うつもりは無いという意思表示だろうか?
最初から態度が軟化しているのは嬉しい限りだ。
そしてこれで11人目となるが、先ほどの高山の言葉通りだと彼女のPDAにもルール9は載っていないという事に成る。
明らかにおかしい。
13台中2台しかルール9を載せていないのか?
誰も嘘をついていないのであればそうなのだろうが、不自然さは拭えない。
考えても仕方が無い事なのだが、どうしても気に成ってしまう。
だが今は先に進まなければ成らない。

「判った、宜しく矢幡。
 それと、これまでの事なんだが」

と、高山と別れてからの出来事を手短に話しておく。
生駒愛美の5番、陸島文香の6番の現在同行していない2名の解除条件、特に6番は教えておかなくては成らない。
それと高山に会う前に遭遇していたエントランスの5名の内、手塚を除く4名の解除条件も伝えた。

「6番は判った。俺は10回使用後に壊せば問題無いな」

頷きで答えを返す。
2番の高山が認識しておいてくれれば、一つの不安は消える。

「5番の生駒さんの方は、急がないといけなさそうね」

「そうなんだ。だから6階到達後は、すぐに下を目指す予定だ」

矢幡の言葉にこちらも素直に返した。
しかし矢幡は言い難そうに高山を見る。
それを受けて高山は俺に説明を始めた。

「それなのだがな。6階には軍用兵器を中心とした想像を超える武器類が有る。
 その為俺達は6階に留まらずに5階に拠点を作って時間ギリギリに6階に上がろうと思っていた。
 現在6階の武器を一部5階に下ろして、拠点を構築中だ」

成程、Ep1やKQ裏ルートのように拠点に篭る戦略の様だ。
しかしその行動力には驚かされる。
まだ10時間経っていないこの時点で既に構築中とは。
そして彼らが拠点に篭ると成ると、愛美が48時間経過前にこの5階にまで辿り着く必要が出て来る。
多分難しいのだろうが、彼らにそこまで協力をして貰う訳にもいかないだろう。
話を拗らせるのは面倒なので、此処は素直に引き下がっておこう。

「判った。拠点については続けて構築して貰えると助かる。
 今後協力的な人物に遭った時に、避難所に使えるからな」

「そうだな。矢幡の首輪のために協力者は必要だし、その中にJOKERを持った人間が居れば、俺も助かる」

「そちらとは別に、俺は下に降りるよ。このまま篭っていたら、死ぬ人間も出るからな」

お互い無理な注文はしないような会話に内心で苦笑するが、この2人を敵に回すのはぞっとしない。
出来ればこのまま友好的に進めておきたいし、御剣達との合流後も居てくれると助かる。
さて、情報交換も此処らで一区切り付けよう。
出来るだけ早く優希の首輪を外してしまいたい。

「皆疲れているだろうが、6階目指して出発しよう」

そう切り出した俺の裾をかりんが引いて来て、とても言い難そうに口を開く。

「あのさ、早鞍」

「どうした?」

真剣な顔をしているので、何だろうと次の言葉を待つ。
躊躇いがちに部屋の隅の方、先ほど彼女達が隠れていた辺りを指差しながら呟いた。

「あそこに武器が沢山在るんだ。爆弾みたいなのもあった」

それを聞いて、部屋の隅にある物陰を慎重に覗いて見る。
確かに隠れるようにして真新しそうな木箱が置いてあった。

「高山、すまんが手伝ってくれ。引っ張り出そう」

かなり重い木箱を高山と一緒に部屋の中程まで持って来て中を確認して見ると、様々な兵器が所狭しと詰め込んであった。
拳銃やライフル、サブマシンガンの銃器を始め、手斧、剣、トンファー、コンバットナイフなどの近接用武器も入っている。
その他にも、煙幕手榴弾や閃光手榴弾にサイレンサー、更にはスタンガンまで揃っていた。
一部は見ただけでは何なのか判らなかったが、幸い今は高山が居たのでそれぞれの説明をして貰えたのは大きい。
なるほど、このラインナップをいきなり見たのでは尻込みするだろう。
5階にあるものとしては妥当な感じではあるが、2階から4階を飛ばして来たので、かりん達には耐性が無かったのだ。

「あとこれ、返しとくよ」

そう言うと、かりんは俺のPDAを差し出して来た。
現在は倉庫6を中心とした地図の画面のままである。
その時、その地図に映る赤い×印に気が付いた。
×印は封鎖された事を示すものだが、それはこの倉庫6から1ブロック程度離れた所にある。
横の武器庫さながらの段ボール箱に目が移った。
だが、その中には爆薬の類が見当たらない。

「これでは、無理か…」

「何?」

かりんが俺の呟きに反応する。

「いや、さっさと階段を昇って優希の首輪を外してしまいたいな、と思ってね」

笑って答えるが、どちらにせよ今の物量では無理だ。
それに此処で高山達が合流している事も問題となる。
彼らも時間ギリギリに通常の使用可能な階段ではなく、封鎖階段を爆破して上に上がろうとしているだろう。
此処で俺達がそれを行なうと、他の参加者もこの方法を警戒する事になる。
ちらりと高山の方を見ると兵器類の整理を行なっており、こちらには関心を払っていない様だ。
相談…は無意味か。
後の事を考えれば、今は通常の階段を使用する方が良い。

「すまん、かりん。忘れてくれ。どうも焦ってたみたいだ」

丁度近くにあったので、頭を撫でながら笑って誤魔化す。

「?まぁお前が良いならいいけどさ。あんまり一人で抱え込むなよ」

疑問に首を傾げるが、深くは追求して来ないのは助かった。
抱え込む、か。
最初はこんなに感情移入する気は無かったんだが、何をしているのやら。

「外原さん、ルール表をお持ちとか。見せて頂けませんか?」

そう言えば彼女にルールを確認して貰っていなかった。
矢幡の求めに、俺は快く胸ポケットに入れていた紙切れを渡す。

「ああ、しっかり確認しておいてくれ」

『ゲーム』において矢幡は、プレイヤー内でも1,2を争う知者である。
彼女の意見は重要になるだろうし、個人としても現状を把握して貰えるのは有り難い。

「外原、一応武器を変えておけ」

兵器の確認を行なっていた高山が、俺に向かって1挺の拳銃を差し出して来る。
今持っている自動式拳銃よりも随分と小さ目の物だ。

「銃を撃ち慣れていないお前が、いきなりデザートイーグル50AEは無茶が過ぎるだろう」

「50AE?デザートイーグルは聞いた事があるな。世界一大きい拳銃だったか?」

「ある程度は合っている。その中でも一番大きいものだ」

通りで強烈な反動である。
何でこんなものが1階に置いてあるのやら。

「判った。確かに俺にはこれは荷が勝ち過ぎる。残弾は4しかないが、お前に任せるよ」

差し出された銃を受け取り、逆に持っていた大型拳銃は高山に預けた。
ついでに交換して受け取った銃及び、その他の武装についてもレクチャーを受けておく。
正規の指導と訓練を受け、そして実戦経験を積んでいる高山の知識は素人の俺には貴重な情報源だ。
最低限は使えるようにして置かないとこれから生き残るのに不都合が出そうだし、受けられる時に受けておこう。
今までは1挺の拳銃だけだったが、現在は幾つかの武器を体の各部に装備して何時でも使える様にしている。
先ほど変更した自動式拳銃に、ライフル、コンバットナイフなどを。
現在の自分の姿の滑稽さを想像して内心で笑いながらも、必要な事として割り切ろうと努めた。
こちらのレクチャーと武装の間にルール表の確認は終わった様で、8番の解除条件を追記された紙が戻って来る。
そして各自の荷物を確認してから、倉庫を後にしたのだった。



6階への階段へ向けて進行途中に、そのルートの付近に戦闘禁止エリアがある事が確認された。

「そこで一旦休憩、出来れば寝ておきたいわ」

俺のPDAだけでなく矢幡のPDAにも地図拡張のソフトウェアがインストールされているらしく、それは彼女から発案されたものだった。
高山の方には現在地を表示するソフトウェアが入っているらしい。
矢幡の提案に対して俺は断固反対をする。

「現状、戦闘禁止エリアは危険なだけだ。立ち寄らない方が良い」

「何でだ?1階ではゆっくり休んだじゃないか」

かりんの問いに対し、渋い顔をして口を閉ざす。
今言ってしまって良いものだろうか?
だが『ゲーム』で証明されている様に、上階においての戦闘禁止エリアは袋の鼠になる可能性が高い。
もし近くにあの襲撃者が居ようものなら全滅しかねないのだ。
このまま戦闘禁止エリアを目指されると問題が大きいので、思い切って少しだけ無難なものをネタばらししておこう。

「1階においては武器が無かったからな、安全だったんだ。
 だが現在、これらの武器を俺達が、そして相手も持っている。
 もしこっちの首輪が嵌ったままエリアに入ったら、外から狙い撃ちだぞ?」

「正当防衛は?」

「優希、正当防衛が認められるのはルール8の最初の6時間だけだ。
 ルール7には正当防衛についての記述は無い!」

きっぱりと断定する俺の言葉に、皆の足も止まって沈黙が訪れる。

「つまりはゲーム開始前から練られた罠、と言う訳だな…?
 どうかしているぞ、これを考えた連中は」

高山が珍しく、感情を表に出して罵りの言葉を紡いだ。
確かに気付かなかった人間にとっては罠にしかならない。

「罠って言えばさ。館内にも色々と罠が張られてるから、此処を作った連中って性格悪い奴ばっかりだよなー」

呆れたようなかりんの言葉には苦笑せざるを得ない。
此処に拉致して変なゲームに放り込んでいるのだから、性格が良い訳が無い。
だが、このかりんの言葉に予想外の反応があった。

「罠、だと!?」

後ろを見ると、殿を務めている高山とその前に居る矢幡が驚いた顔をしている。
あれ?
これまでの説明で罠について言っていなかったか?
優希と出合ったのは罠の所為だったから、そこで説明を流してしまっていたかも知れない。
改めて説明を行なった方が良さそうだ。

「そうだ。この建物内には頻度は低いが、幾つかの罠が張られている。
 落とし穴やワイヤートラップ、獣用のトラップもあったな。他にも色々有りそうだ」

他には隔壁による遮断系や踏み板式の分断系なども在るのだろうが、未だ出遭っていないので言葉にはしない。
セキュリティシステムもある意味、罠っぽいよな。

「全く気付かなかったぞ?」

「だから頻度が低いんだって。こっちは既に4つくらい見たけどな」

そう考えれば、こっちが罠に出会っている数の方が異常なのかも知れない。
運が、悪いの、か?
ちょっと自分の遭遇運の無さに愕然とする。

「それで、さっきから進むのが遅かったのね」

こちらの歩く速度を疑問に思っていたのだろう、矢幡が納得したと理解を示す。
ただ歩くのが遅いのは罠を警戒しているだけでなく、優希に合わせているのもあるのだが黙っておこう。

「こうなると、今後の行動も考え直さなくちゃいけないわね」

「考え直すって何をだ?
 方針なら特に変更する所も無いと思うが?」

矢幡が深刻そうな顔で呟くが、暗くなられても良くないので明るく返す。

「今までも俺は罠については気をつけている。まぁ、お前達も気にして貰えるなら嬉しいが。
 それに行動そのものは、6階を目指す、安全を優先する、以外には無いだろう?
 やる事は変わらない筈だがな。
 個人的な心構えの話なら、改めて貰えると助かるがな」

「行動方針への影響は全く無いと?」

「無いな。元よりこちらはそのつもりなんだ。だから戦闘禁止エリアに行くのも反対するんだし」

高山の方も行動方針についての変更案は無いのだろう、それ以上は言及して来なかった。
戦闘禁止エリアには近付いて追い込まれるのも面倒なので、ルートは別のものを選択する事にする。
矢幡もここまで言えば反対はして来なかった。

その後は道程に罠も無く、階段ホールまで来る事が出来たが、此処で問題が起きた。
上へ昇る階段の手前に、瓦礫や家具を積み上げたバリケードが築かれていたのだ。
階段へ行くには、あのバリケードを乗り越えないと進めなく成っている。
作ったのはエレベーターで襲って来た人物なのだろうか?
しかしあれからの時間を考えると、築いたのは俺達を襲って来る前の話と成る。
それともこの短い時間に作り上げたのか?
あの足の怪我でそれは無理だろう。
もし彼だとすればかなり手際の良い、この「ゲーム」に精通しているとしか思えない行動である。
やはり彼はゲームマスターなのか?
だが、それにしては直接手を下し過ぎている気もする。
プレイヤー同士を争わせて観客の反応を盛り上げるのが、ゲームマスターの仕事の筈だ。
それとも、マスターだとしても手を出したく成る様な解除条件を割り当てられたのかも知れない。
黙考していると、偵察に出ていた高山が戻って来た。

「人の気配がある。誰か居るようだな」

簡潔な報告だが、一番重要な情報だ。
このまま無防備に近寄らなくて良かった。
報告後、高山は再度偵察に向かう。
エレベーターを使った俺達を除いて、現在5階以上に居るのはあの襲撃者くらいだと思うのだが。
まだ出会っていない最後の一人かも知れない。
さて、交渉可能な相手ならば良いが。
声を掛けてみるべきか?

「話せる相手だと思うか?」

「まず無理でしょうね。そんな相手なら、此処にあんなのを作る訳が無いわ」

矢幡に意見を聞いてみるが、見解は俺と同じの様だ。
やっぱりヤル気満々と考えた方が自然か。

「相手が一人だと確認出来れば、2面攻撃で制圧するのが最良でしょうね」

「攻撃前提かよ。否定する材料が無いのが困りモノだな」

悪くない戦術ではあるが戦闘は出来るだけ避けられないものか。
そんな考えを嘲笑うように突然銃声が鳴り響く。
慌ててホールを確認すると、高山が隠れていると思われる通路へ向かってバリケード側から正確に銃撃が加えられていた。

「かりん、高山の撤退の援護をっ。矢幡こっちも牽制するぞ」

言ってから死角となっていた物影より身を出した。

「お兄ちゃん、待ってー!」

俺よりかなり後ろで見ていた優希が力一杯叫んで来る。
そんな大声を上げたらバレバレだろうに!
注意しようと少し戻った俺のすぐ横を、火線が通り過ぎた。

「なんっ、だと?」

反射的に物陰へと身を隠す。
あちらからは完全な死角でこちらの状態は見えない筈である。
しかしこちらが出て程なく撃って来たと言う事は、あちらは俺達が此処に居る事を知っていた事になる。
また鏡、な訳は無い。
位置を特定出来るどれかのソフトウェアか?
背筋を流れる冷や汗と激しくなる動悸を抑えながら、原因を考えていると高山の声がした。

「引くぞ外原!」

少し離れた所で、かりんと共に居る高山が叫んで来る。
左足を怪我しているのか、少し血が滲んでいるが、歩けない訳では無さそうだ。

「けどっ」

しかし、6階への階段はすぐそこである。
あと100メートル程度の距離を行けば、優希の首輪が外れるのだ。

「判ったわ!外原さん、行くわよ」

酷く冷めた矢幡の声が近くで聞こえた。
その声に目が覚める。
確かに此処で強行突破しようとして誰かが傷付く、最悪死ぬかも知れない危険は冒せない。

「くそっ、あと少しで優希が助かるのにっ!」

悔しさについ小声で愚痴が漏れる。
しかしこのまま留まる訳にもいかないので、高山に続く為に脇に置いていた荷物を纏めた。
此処は体勢を立て直して作戦を練らないと無駄な血が流れるだろう。
矢幡に頷きを返して大丈夫な事を伝えると、殿を引き受けて皆の後退を待ってから俺もこの場を後にした。


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