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No.4919の一覧
[0] ハッピーエンドを君達に(現実→シークレットゲーム)【完結】[None](2009/01/01 00:10)
[1] 挿入話Ex 「日常」[None](2009/01/01 00:05)
[2] 第A話 開始[None](2009/01/01 00:04)
[3] 第2話 出会[None](2009/01/01 00:05)
[4] 第3話 相違[None](2009/01/01 00:05)
[5] 挿入話1 「拠点」[None](2009/01/01 00:06)
[6] 第4話 強襲[None](2009/01/01 00:06)
[7] 第5話 追撃[None](2009/01/01 00:06)
[8] 挿入話2 「追跡」[None](2009/01/01 00:07)
[9] 第6話 解除[None](2009/01/01 00:07)
[10] 挿入話3 「彷徨」[None](2008/12/20 20:05)
[11] 挿入話4 「約束」[None](2008/12/10 20:01)
[12] 第7話 再会[None](2009/01/01 00:07)
[13] 第8話 襲撃[None](2009/01/01 00:08)
[14] 挿入話5 「防衛」[None](2009/01/01 00:08)
[15] 第9話 合流[None](2009/01/01 00:09)
[16] 挿入話6 「共闘」[None](2009/01/01 00:09)
[17] 第10話 決断[None](2009/01/01 00:09)
[18] 挿入話7 「不和」[None](2009/01/01 00:10)
[19] 第J話 裏切[None](2008/12/19 04:13)
[20] 挿入話8 「真相」[None](2008/12/20 20:40)
[21] 挿入話9 「迎撃」[None](2008/12/20 20:07)
[22] 第Q話 死亡[None](2009/01/01 00:10)
[23] 第K話 失意[None](2008/12/25 20:01)
[24] JOKER 終幕[None](2008/12/25 20:01)
[25] 設定資料[None](2008/12/24 20:00)
[26] あとがき[None](2008/12/25 20:02)
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[4919] 第Q話 死亡
Name: None◆c84e4394 ID:a86306dc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/01 00:10

耶七達に事情を聞くと、どうも御剣達は他の皆には隠し事をしながらある部屋で全員を待機させたらしい。
トイレに行く為に葉月に縄を一旦解いて貰った所で、隙を見て愛美と共に耶七は脱出した。
それで館内を歩いている時に耶七の首輪についての話に成って、更にはあの投票についてと話が流れていく。
最後に俺が悪いと言う結論に至っていた時に丁度俺達が姿を見せたとの事だ。
一番悪いタイミングだった様である。
話にあった部屋に興味と言うか、確かめておきたい事が有った。
耶七に場所を聞いてみたところ、説明が下手な彼は俺達を案内してくれると言う。
彼に連れて行かれたその部屋には既に誰も居なかった。
そしてこの周辺にジャマーが掛かっている事が、8番の動体センサー検知が殺された事からも判る。

「このジャマー、何で行なっているのかしら?」

麗佳が当然の疑問を出した。
反抗勢力「エース」の機材で行なわれているものなのだろうが、それは知る筈の無い知識なので黙っておく。
部屋を調べていると、奥の方に奇妙な機械を発見した。
幾つかのランプが明滅している事からも稼動状態なのが判るが、その機械がどんな効果を持つのかは判らない。

「あ、それ私が此処を出る前に見つけたものなんです。何なのでしょう?」

愛美が聞いて来るが勿論答えられるものは居なかった。
怪しい機械なので誰も触らないようにして居るが、確かに気になる。
この部屋に置いてあるくらいだから、多分「エース」の機材とは思うのだが。
それに俺は試したい事があって此処に来たのだ。
思った通りにジャマーが掛かっている様なので実験を始めよう。

「皆ちょっと時間を取るけど、部屋の端に逃げていて貰えるかな?」

「逃げる?また危ない事をする気?」

「おう、危ない事を今からするぜ!俺には多分危険は無いだろうが」

睨む様に見て来る麗佳に俺は軽く答えておく。
実際近くに居たら危険だろう。
俺は端に移動してから、荷物の中から1つの首輪を取り出した。

「こいつを作動させる。だから端に寄っててくれ。近いとセキュリティシステムに巻き込まれたりするかもな」

俺の言葉に皆の顔が強張った。
だがそれに耶七が疑問を上げる。

「けどよ、装着者は居ないんだぜ?セキュリティシステムって働くのか?」

彼はゲームマスターの筈だが、知らないのだろうか?
それとも外れた首輪を作動した事が無いのか、毎回設定が変わるのか、理由は判らないがマスターですら知らない情報なのだろう。

「早鞍さんは手塚の首輪を外す為に一度、首輪を作動させているわ。
 その時にもセキュリティは動いたのですよね?」

耶七には麗佳が答えてくれたので、彼女に頷いておく。
あの時は暫くの間セキュリティシステムが動いていた。
スマートガン自動攻撃システムはサーモグラフィによる制御と『ゲーム』であったが、それだけでは無いと言う事なのだろうか?
攻撃を続けたと言う事はそうなのだろうが、つまりは楽観視が出来ない事になる。

「もう動かした事があるのに、何で今やるんだ?」

「それは…どうしてなのですか?早鞍さん」

耶七の今度の問いには答えられずに、観念した麗佳は俺に聞いて来た。
俺は部屋を見回しながら、その問いに答える。

「この付近はPDAの探知系ソフトウェアから防御されている。ある意味ジャマーがされた状態だ。
 さて、この状態でこの部屋及び付近のセキュリティシステムを殺した場合、我々は助かるでしょうか?」

「「「あっ!」」」

全員が俺の言葉に驚く。
皆生き残るのに「首輪を作動させない」事を中心に考えていた様であるが、「作動しても大丈夫である方法」と言う考え方もあるのだ。
だが俺はこの方法が多分駄目だろうと思っていた。
誰かが考え付きそうなこの方法の否定。
その証明をしたかっただけなのだ。
理由としては幾つか有るが、その1つにジャマーマシンの作動範囲内にあるのに「組織」の兵隊達は反応を見られた事が一番大きい。
つまりは首輪の作動信号がジャマー可能の電波領域から外れていれば意味が無いのだ。
そう成ればいずれ移動式のセキュリティシステム、例えばEp1の自爆する自動追跡ボールの様な物が来る場合もある。
あれならバリケードでも築けば対応出来るが、自走砲とか来られるとお手上げだ。
流石に自走砲は無いとは思うが。

「では、実験始めるぞー」

俺は隣の部屋への扉を開いて、その中に作動させた首輪を放り込む。
その後に俺も皆が待機している部屋の隅に移動しておく。
何も無ければ皆は安心するのだろうが、俺としては何かが起こって欲しかった。

「…何も起こりませんね?」

「つまり、この付近のセキュリティシステムは、壊されていたんだな」

愛美が恐々と周りを見回すのに対して、耶七は厳しい顔付きで小部屋の方を見続けている。
それはつまり案内した文香を疑っていると言う事だろう。
大当たりなのだが、今は関係無い。

「何の音だ?なあ早鞍、変な音がするぞ?」

「変な音?」

かりんの不安そうな言葉に俺が聞き返した時、廊下への扉が吹き飛んだ。

「「「きゃあぁ」」」

何人かの女性の悲鳴が上がり、彼女達は蹲った様だ。
一番扉に近かった俺に扉の破片が襲い掛かって来るが、頭部を腕でガードながら足を踏ん張る。
俺が避けたら彼女達に当たる可能性があるのだ。
破片は全て小さいものだったので、軽い衝撃で済んだが、一体何が起こったのか。
煙が晴れつつある扉の方を見ると自動攻撃機械が部屋に幾つも入り込んで来る所だった。

「なっ、兵隊達っ?!」

「違うっ、セキュリティだっ。手を出さない様に!」

アサルトライフルを構えるかりんと麗佳を腕を横に伸ばして制しておく。
多分、もしかして、程度の予測でしかなかった。
絶対ではなかったが、俺はあの高山達が強襲部隊を逃すようなヘマはしないと思っていたのだ。
自動攻撃機械は全部で11台が来ていた。
その機械達はそのまま小部屋へと向かって行き、中に入ると同時に首輪が有るだろう所へと銃撃を加えながら突進する。
そして、次々と自爆したのだった。





第Q話 死亡「2日と23時間の生存」

    経過時間 68:46



自動攻撃機械11機の自爆により隣の部屋からは閃光と轟音が発生し、そして焦げ臭い匂いと熱気が漂って来る。
爆発音が止んでからも後ろに居る者達は沈黙を続けていた。

「うっわー、特攻兵器かよ。えげつないな」

皆声も出ない状態だった様なので、俺が感想を述べておく。
つまりサーモグラフィを誤魔化された場合を考えて、生存者のカウント及び首輪の反応も含んでいると言う事なのだろうか。
詳しい原理は判らないが、作動したらまず何処までも追い掛けられると思って良い。
後ろを振り向くと顔を蒼白にした面々が佇んでいた。
この光景に恐怖を覚えたのだろう。
いや1人だけニコニコと場違いな表情の輩が居るが、無視無視。
あ、頬が膨れた。

「早鞍さん~、どうして目を逸らすんですか~?」

「場違いにニコヤカだからだろ。TPOを弁えろっ!」

「酷いです~」

この遣り取りで場が少し明るくなった。
狙ってやってるのか知らないが、まあ助かった。

「で、だ。1つ消えたが、他に方法が無いでもない。逆にこういったのは危険である、ってのが判ったんだ。
 情報としては悪く有るまい?多分御剣達はこの方法で逃れようとしてた筈だから、警告も出来るって事だな」

俺の言葉に麗佳と渚と耶七が頷いた。
物分かりの良い人間が居てくれると助かる。
そうして実験の済んだ俺達は、この部屋を後にしたのだった。



部屋を後にした俺達が広範囲ジャマーの範囲を抜けた時に8番のPDAへと通信が入って来た。

『………っとと出ろよっ!!
 …ありゃ?あー、もしもーし?もしかして通じてる?聞こえてまーすーかー?!』

「うっさい!聞こえてるぞ。
 そちらはどうだ?こっちは生駒兄妹と合流しただけだ」

『おー、そっか。こっちは成果あんまり無いわ。いやー強ぇな、あいつ等』

陽気そうな声で報告して来る手塚。
この馬鹿、正面からプロ連中とやり合ったのだろうか?
頭が痛くなりそうな想像を振り払い、合流の手筈を整え様と手塚に指示を出した。

「こっちの位置が判るなら合流しろ。
 出来ればそっちのジャマーも切ってくれるか?」

『おいよー。ぉーぃ…』

高山にジャマー切る様に言っているのだろう。
少し待っていると渚から報告が来た。

「反応追加しました~。此処から北西に居ますね~」

渚の横から8番に話し掛けていた俺は彼女の後ろに移動してから画面を覗き込み、その位置を確認する。
それほど遠くない十字路の向こうに居る様だ。
ゆっくりとだがその十字路の方へと進んでいる様にも見える。
俺は8番のPDAの通信状態を切断して、皆へと振り返った。

「それじゃ皆、後もう数時間だ。生き延びる為に頑張ろうっ!」

俺の言葉に皆が頷きを返してくれる。
これからが俺達の最後の踏ん張り所だった。



目的の十字路は何か爆発物でも使ったのか周囲に瓦礫を散乱させている。
高山達はその瓦礫を利用して作ったバリケードに腰掛けて待っていた様だ。
2人と合流した時、まず彼等のその姿に驚かされてしまう。
彼等は俺が着けているものと同じ等級の高い物々しい防弾チョッキ、と言うよりももうアーマージャケットと言った方が良いそれを身に着けていた。
そのアーマージャケットは至る所に被弾の跡があり、見た目にもボロボロな印象を持たせている。
守られている場所はそれでも大丈夫だったみたいであるが、それ以外にも傷を負っていた。
高山は右足、手塚は左腕を負傷しており、その傷には既に応急手当が施されている。

「ようっ、お元気ですか~。自動攻撃機械は倒したんだが、まぁ、人間の方は成果殆ど無し。
 泣けるねぇ。くぅっ」

怪我が痛むだろうに、何故か陽気な調子で手塚が声を掛けて来た。
良くは判らないが、少し寄り道して時間が掛かってしまったのは確かなので素直に謝罪しておく。

「遅くなって済まん。ちょっと色々あってな。
 それで状況は?それと7番のPDAを貸して貰えるか?」

俺が言うと、高山が素早い動作でPDAを投げて来た。
落とさない様に慎重にキャッチする。

「あっちらさんの負傷者は1、良くて2ってトコか?一旦撤退してからは沈黙中だなぁ」

軽い調子で答える手塚。
そう言えば最初に気に成る事を言っていた。

「自動攻撃機械を倒したって、幾つあったんだ?」

「16、だっけか?」

手塚が高山を見ると、高山は少し考えて無言で頷いた。

「多分あれで全部だなぁ。奴等臆病なのか、その機械を前面に立ててよぉ、んで全滅したら引いちまったって訳だ」

自動攻撃機械如きではこの2人は足止め出来ない。
『ゲーム』では50機もの同型機を相手に勝利しているのだ。
だがこれで自動攻撃機械が無いと成れば、奴等が直接来るだろう。
相手に油断が無くなるだけ、ある意味面倒になったと言えるか。
俺が黙考していると、手塚は肩に引っ掛けていたアサルトライフルを投げ捨てた。
ガシャンと重い音を鳴らして床に転がるが、高山も何も言わない。
もう弾が無いのだろうか?

「手塚、高山。特殊手榴弾はどれだけ残っている?」

「手榴弾は煙幕3に、閃光が2、神経ガスはもう無い。後はスタンが2つだな」

高山が荷物の中を確認しながら答えてくれる。
手塚はスナイパーライフルと思われる大きな銃を杖みたいに突いているだけで、荷物そのものを持っていない様だ。
何処かに捨てて来たのだろうか?
手元にある7番のPDAの画面を見てみる。
強襲部隊は4名ずつ2組に別れており、1つが再度こちらに向かっている様だ。
俺達がジャマーを切っていて、更に合流したから一気に殲滅しようと言うのだろうか?
手塚達2名相手に勝てなかったと言うのに、舐められたものである。

「それじゃ、いっちょやりますかね?」

俺の言葉に皆が疑問符を浮かべる。
そんな皆を促して迎撃の準備を始めるのだった。



俺達は先に進んだ三叉路がある廊下の途中にバリケードを築いた。
バリケードの向こうにはT字路が在り、こちらは横棒の左側に当たる。
バリケードのこちら側は幾つかの部屋の扉ともう1つの三叉路があるものの直線的な廊下が伸びていた。
三叉路の直線向こうの廊下にも扉が幾つか並んでいる、そんな通路である。
手塚は此処で挟み撃ちをされ掛けたらしいが、自業自得なので笑ってやったら不貞腐れてしまった。
取り敢えず彼を宥めて、高山と渚の2人を連れて遠くに移動して貰っている。
ジャマーは未だ高山が持っているので、その内機械を起動して反応は消えるだろう。

「あー、こちら最前線。高山と手塚の様子はどうだ?」

7番でPDA検索をしても良いのだが出来ればバッテリーは温存したい。
それともう1つの目的も有ったので8番を持つ麗佳に通信で聞いてみた。
現在麗佳を含む数名は此処からかなり後ろの方にある部屋に待機して貰っている。
暫くして麗佳から返信が来た。

『2人ともかなり遠くで見失ったわ。全く3人で逃げるなんて薄情なものよね』

「そう言うなって。これまで協力的だっただけでも良かったとするべきだろ?
 それより優希はしっかりと守っておけよ。奴等の狙いは間違い無く優希だからな」

『判ってるわ。ちゃんと此処で大人しくして居るわよ。
 誰かさんと違って物分かりが良いですもの』

何時もの冷静な声で紡いだその言葉は7番のスピーカーからダダ漏れで、隣に居る少女も当然聞いていた。

「物分かりが悪くて、悪ぅ御座いましたねっ!」

不機嫌そうに大声を上げるかりんを横目で見るが、本気で怒って居る訳では無さそうだ。
此処で本気の喧嘩は止めて欲しいし、冗談であるならそれに越した事は無い。

「それじゃ、俺達は此処でのんびり待つから、何か反応が有ったら連絡宜しく」

『了解。早鞍さん、こちらももう物資が少ないのだから気を付けて、ね?』

「判ってるって」

最後の言葉だけ今までとは異なる口調で心配する麗佳に苦笑して返してから、PDAの通信を一旦切った。
それから7番の地図画面を見ると、1組の内2名がこちらへと近付き始めていた。
残りの2名はある部屋で止まったままである。
この2人が負傷者だろうか?
そしてたった2名で本当に俺達と事を構えるつもりなのだろうか?
手塚達に手痛い目を見たと言うのにおかしい行動と言えるが、ある意味予想の範囲内でもある。
暫くバリケードで待っていると、曲がり角の所で強襲部隊を示す光点が止まった。
バリケードから顔を出して向こうを見ると、向こうもこちらを確認していたのかお互いに目が合ってしまう。
ポッ、じゃなく、てきしゅーてきしゅー。

「皆、戦闘態勢っ!気をつけろっ!現在、我々はとっても物資が少ないぞっっ!!」

大声で叫ぶ様に高らかに謳い上げて立ち上がる。
隣の少女は俺に言われるまでも無く、通信が終わった後から身を低くしながら戦闘態勢で待っていた。
今此処に居るのは俺とかりんだけである。
残りの内、麗佳と愛美と耶七そして優希の4名がこの後ろにある幾つかの部屋の内、かなり遠くの1つに待機していた。
先ほどの麗佳との通信の通り、高山達は居ない。

バリケード越しにアサルトライフルで曲がり角に居る兵隊に引鉄を絞る。
あちらも俺達の方へと牽制で銃弾を撃って来た。
数分ほど無意味そうな膠着状態を続けるが、困った事にこちらは弾が無くなっていくのだ。
俺とかりんが調子に乗って撃ちまくった為に、お互いに2つずつ弾倉が空に成っている。

「なあ?そろそろ良いんじゃないか?」

「ばっか、かりん。演技演技」

「へーい。…早鞍っ!もう弾が無いよっ!!」

「何っ!そう言う事はもっと早く言えっ!!チクショウっ!脱兎の如く速やかに逃げるぞっ!!」

俺達は、逃げた。
それはもう慌ただしくバタバタと全速力で。

「アテンションプリーズ、アテンションプリーズ…って違うか?
 どうでも良いが、追いかけられ中。助けてプリ、ってうわっ」

7番の通信機能を再度入れて8番を持つ麗佳に救援を要請した。
その途中に受けた後ろからの銃撃に反射的に横に避ける。
既に奴等はバリケードまで到達し、それを盾にして撃って来ていた。
非常に拙い状況である。
そのまま近くにあった扉を手で開いて盾にしながら牽制で引鉄を引く。
相手もバリケードを盾にしながらあっさりと避けて、こちらを伺っていた。
扉などでライフル弾は止め切れないかも知れないから、そのまま部屋の中に入って扉を全開にしつつ牽制を続ける。

「誰か~!た~すけて~~!!!」

哀愁漂う孤独な悲劇のヒロイン。
そんな感じの声が出せただろうか?
ちょっと吐き気がして来た。

「うっわ、キモっ」

『変な声、出さないでくれる?』

横とPDAから突っ込みが来た。
お前等最近、仲が良いな?

「ひぃっ!このままじゃ、殺されるぅ!!!」

扉の影に隠れながら、通信状態を確保したまま恐怖に震えた叫びを上げる。
そろそろ来てくれないかなぁ?
俺、疲れて来たよ。
主に精神的になのだが。
牽制も面倒に成ったので弾切れという事にして、銃撃を止める。
俺より奥に居るかりんは面倒臭そうにしている俺に溜息を吐いていた。
チラッとバリケードの方を見ると、バリケードを乗り越えようと2人共登り始めている様だ。
あーあ、後ろは見た方が良いよ?
そしてそんな彼等に後ろから銃撃が加えられたのだった。

「ぐぁあああ」「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ」

身体に幾発かの銃弾を受けたのだろう。
バリケードの向こうで痛みに苦しむ悲鳴が上がる。
彼等を撃ったのは高山達だった。
ジャマーマシンを使った上で、バリケードの向こうの通路にある部屋の1つに身を隠してこちらを見て貰っていたのである。
それで頃合を見て彼等を後ろから制圧して貰ったのだ。
こちらのネットワークフォーンを傍受している事くらいは予想済みである。
兎に角、俺の見事な逃げっぷりを褒めて欲しいものだ。
と言うかですね?
プロがこんな手に引っ掛かるなよ、としみじみ思うのだった。

待機していた麗佳達と共にバリケードを再度乗り越えて戻った時には、撃たれた部隊員を渚が介抱している所だった。
見事に手足のみを狙われている傷跡は、すぐには命に影響は無さそうだが出血が思ったよりも酷そうだ。
それを見て俺は息を飲む。
酷い怪我を負っているのを見るのは初めてではない。
御剣を始めとして、手塚、高山、そして回収部隊とそれなりの傷を負った者を見て来た。
だがこれは意味合いが違ったのだ。
俺が指示をしてやらせた怪我なのだから。
もし彼等が死んだとしたら、それは俺が殺したと言う事だろうか?
別に殺人の全てが悪いとは思わない。
殺して来るならそれに対抗しないと成らないし、その過程で殺してしまったなら仕方が無いと思う。
だがそれは頭で思っていただけであり、こうやって目の前にすると動悸が激しくなって来た。

「早鞍ー。前行ってくれないと降りれないよ」

かりんの声にやっと我に返った。
少しだけ前に進んでから周りを見回す。
銃撃した高山達は部屋から出てこちらへと向かって来ていた。
7番のPDA画面を確認して残りの2名が動いていない事も確認しておく。
この2人が動いたら、また別の手を考えないと成らない。
バリケード前でうつ伏せに成っている強襲部隊員に対して渚が手当てを始めていた。
武装解除後に止血を中心に手当てをしているが、どうも道具が足りていない様である。
俺は荷物を下ろして、その中から小さな救急箱を取り出した。
付け焼刃でしか無いかも知れないが、無いよりはマシだと思いたい。

「渚、これも使え」

「有難う御座います~。済みません、早鞍さん~」

「いや、俺もそいつらに死なれるのは嫌だからな」

苦笑して答える。
渚はそんな俺に微笑んでから手当てを再開した。
渚の微笑が何故か恥ずかしくなり顔を逸らす。
その逸らした視線の先にはT字路があり、その角に微かな影が目に映った。
先ほど確認した光点では残りの2名は部屋から動いていなかった筈だが、もしかしてマーカー装備を置いて来たか?
まさか、策に嵌ったのは此方かも知れない。

「高山!後ろだっ!!」

俺の声に素早く反応し、高山と手塚がT字路へ狙いも付けずに乱射した。
影はすぐに角の向こうに引っ込んだが、このままではバリケードですぐに下がれない俺達は狙い撃ちなのだ。
まだ口が開いたままのバックパックを掴み、T字路へ向けて駆け出す。

「あっ、おい!早鞍!」

手塚が何か言っているが無視して進む。
走りながらバックパックの中より煙幕手榴弾を引っ張り出して、すぐに口でピンを抜いた。
相手が隠れている通路へ向けてアンダースローで投げ放つと、缶は向こうの壁に当たり奥へと転がって行く。
その時角から顔を出した部隊員が俺に気付き眼帯をしていない片方の目を剥くが、すぐに銃口を向けて来た。
彼の後ろでは煙幕が濛々と立ち込め始めて視界を封じている。
そこへこちら側の銃撃が角すれすれに走り、部隊員が銃口を定められないまま仰け反った。
此処で対処出来ないとまた構えて来て、今度は撃たれるだろう。
咄嗟に武器が用意出来なかった俺は持っていたバックパックを振り被り、思いっ切り部隊員へと投げ付けた。
バックパックの中身は少なくなっているとはいえかなり硬い物が入っているので、ブラックジャックの様に使用したのだ。

「ぶべっ」

顔面へと命中したバックパックは口が開いたままだった為、そのまま下に落ちた時に中身を散乱させた。
顔を抑えた部隊員が再度銃を構えようとした時、轟音と共に彼の右脇腹へと銃弾がめり込んだ。
その威力は部隊員の着るアーマージャケットをも貫通して血を撒き散らし、部隊員は後方へと吹き飛んで行く。

「備えあれば憂い無し、ってなっ!」

横を見ると新たなアサルトライフルを持っていた筈の手塚が、スナイパーライフルを右腕に抱えていた。
気に入ったのか知らないが、ちょっと過剰な火力ではないだろうか?
手塚はそのまま吹き飛んだ部隊員を追って行く。

「待て手塚っ!まだ危険だ!」

マーカー装備を置いて来たのなら、多分もう1人居る筈なのだ。
俺の制止とほぼ同時に煙幕の中から暗視ゴーグルを着けた左肩に傷跡のある部隊員が、右手に持ったコンバットナイフを振り上げて手塚へと襲い掛かる。
更に煙で霞む中で先ほど撃たれた部隊員が、左手に拳銃を持って手塚に銃口を向けているのが見えた。
手塚は横から襲い掛かるナイフを持った部隊員に注意がいって拳銃に気付いていない。

「手塚っ!!」

俺は手塚を右横の壁に突き飛ばした。
ナイフが俺の右上腕部の防刃コートの表面を滑り、銃弾は俺の左脇腹にめり込む。
だから脇腹は防御が厚いと何度言わせる!
内心で思うが、銃を持った方は自動式拳銃の様で更に銃撃を続けて来た。
片膝をついた手塚との間に背中を晒す。
背中の防弾版はそれなりに厚いから大丈夫だと思ったのだ。
計6発が背中に突き刺さったが、幸い同じ所には当たらなかった様でコートとその下の防弾チョッキの防御を貫通出来なかった。
だがその着弾衝撃は軽減し切れて無いので、背中に痺れる様な痛みが連続で叩き込まれる。

「ぐっ、がっ」

「おいっ、早鞍っ!」

その衝撃に俺は前のめりになって跪いてしまう。
手塚の声が聞こえたが、今は気にしている暇は無い。
この付近は俺の荷物が散乱して足場が悪く、そのまま倒れたら2次被害に遭いそうなほどだ。
その中にトンファーを見付けた。
素早くそれを拾い上げて、右から再び振り下ろされて来るナイフを両手を交差させて受け止める。

「馬鹿がっ!」

部隊員が小さく呟くと、傷ついているからと無視していた空いた左腕で俺の鳩尾に拳を打ち込んで来た。
そこにも防弾版はあったが、相手はメリケンサックでもしているのかその衝撃は腹部に貫通する。
息が詰まった。
視界が涙で歪み、ガクッと膝が折れる。
だが、これで終わる訳にはいかない!
両手のグリップを強く握り締めて、トンファーの棒が腕にぴったりと張り付く様に固定する。
膝が折れた勢いを利用して、長い方の棒頭を奴の下腹部へと叩き付けた。
硬くない、何か柔らかい物をぐにゃりと潰す感触がした。

「~~~~っ、ぁ、ぇ…」

部隊員の言葉に成っていない悲鳴が聞こえ、そのまま倒れた俺の横に手放されたナイフが転がる。
まだ終われないんだっ!!
更に俺は立ち上がる勢いを利用して短い方の棒頭を相手の顎が有った所へ向けて突き出す。
しかし俺の攻撃は空を切った!
あれ?
勢い余って数歩フラフラと歩いた後、向こうの壁にトンファーが激突する。
予期しないタイミングの衝撃に両手が痺れてトンファーを手放してしまった。
拙い事に此処で攻撃を受けたら避けるしかない状況だ。
急いで敵を探すと、相手は俺の右横に倒れて白目を剥き、泡を吹いていた。
え~と、俺の勝ち?
空しい勝利であった。

その時後ろで何かを叩き付けた音がする。
振り向くと、手塚がスナイパーライフルのバレルを握って振り回している所だった。
そのストックは赤く染まっており、対する部隊員の顔や拳銃を握っていた筈の左手と彼が倒れている横の壁の一部も真っ赤に染まっている。
手塚がライフルを下から振り上げると、部隊員の顎にストックが命中してその頭と身体を後方へと倒した。
それで気を失ったのか、部隊員は動きを止める。
だが手塚は更に攻撃を加える為に、振り上がったままのライフルを振り下ろそうとしているのが判った。

「待てっ、手塚!もういい。もう良いんだっ!」

彼の腰にしがみ付いて彼の前進を止める。
この一撃が顔に入ったら、完全に死にかねない。

「放しやがれっ!こいつ、ぶっ殺してやるっ!!」

「止めろっ、手塚!頼む、止めてくれっ!」

ズキズキと身体中が痛むが、力を込めて手塚を抑えた。
彼の方が圧倒的に力が強いが、こちらも全身の装備重量で以って必死に成って止める。
暫くしてやっと諦めてくれたのか、手塚の身体から力が抜けた。

「ちっ、判ったよっ。くそっ、怪我したのはお前だぞっ」

悪態を吐きながら手塚はスナイパーライフルを横に投げ捨てる。
彼の言う事は最もだが、だからと言って止めまで刺す気には成らない。
安堵の息をついたすぐ後に轟音が鳴り響き、それに遅れて悲鳴が上がった。

「がぁっああぎぃぐあぁ」

音のした右の三叉路側を見ると高山が拳銃を構えており、その銃口からは紫煙が流れ出ている。
悲鳴が聞こえ今も呻き声がするその銃口の先、俺の左後ろを振り返った。
金的を受けて失神していた筈の部隊員は血が噴き出す右肩を抑えてのた打ち回っている。
部隊員の横には撃とうとしていたのだろう拳銃が転がっていた。
しかし高山の持つ拳銃はアーマージャケットを貫通するほどのものと言う事か?
再び高山の方を見ると、その手にある拳銃には見覚えがあった。
あれはデザートイーグルと高山が言っていたものだ。
なるほど、反動に見合った威力を持つと言う事か。
納得していたら高山がその銃を無造作に投げ捨てた。

「どうしたんだ?」

「もう弾切れだ」

転がった銃を見ながら聞いた俺に高山が簡潔に答える。
残弾は4有った筈だが、何時使ったんだろうか?
まあ良いか。
取り敢えず部隊員は制圧出来たと思って良いので、落ちている荷物の中から何本かのロープを拾い上げた。

「さて、武装解除と拘束、やっちゃいますか」

全身の痛みを我慢して、高山と手塚を促したのだった。

拘束を終えてバリケードの所に戻ると、渚達が先ほどの部隊員達を介抱し続けていた。
曲がり角向こうの部隊員達も大分酷いと思うのだが、順番としておこう。
彼等の物資の中に救急用具が有ったので、高山にあちらの応急手当は頼んである。
渚達に近付いて見ると、1名は意識を失い、1名は何とか意識を保っていた。
息は乱れてはいるものの、2人共命に別状は無い様だ。
安堵の息を吐いて居ると意識を保っている部隊員が口を開いた。

「お前ら、どういうつもりだ?俺を生かして何の得がある」

「特に~、理由は無いのですが~。死に掛けている人を助けるのは~、良い事だと思います~」

「ハッ!甘ちゃんが。そんなではいずれ死ぬぞっ」

渚の答えに侮蔑の混じった声で忠告みたいな台詞を吐いて来た。
部隊員のその言葉に、拙いながらも渚を手伝っていた優希が即座に反論する。

「死なないもんっ!皆で生き残るんだからっ!」

しっかりと相手の目を見て、揺るがない視線で断言した。
優希も言う様に成ったものだ。
だが彼女達が一部分で甘いのは認めるが、勘違いされても困る。

「死にたいなら検討するぞ?ただ俺がお前達を殺さないのは、俺自身の為だ。
 人を殺したら悪夢に魘されるって言うだろ?俺は毎日快眠したいんだ」

冷たく言い放った言葉に部隊員が目を見開く。
自己中心的な言い分なのは認めるが、そんなに驚く事だろうか?
人間誰でも死ぬ時は死ぬ。
それでも生きようとするなら、敵は排除しなければ成らない。
敵がどうしても死ぬまで諦めないと言うなら、やるしかない時も有るのだ。
冷たい目で部隊員を見続けていたら、彼が突然笑い始めた。

「はっはっはっは、ぎぃ痛ぇ。っう。しかし、そうか、お前正直だな」

痛いだろうにそれでも笑い続けている。
狂ったのか、それともマゾなんだろうか?

「くっくっく。ああ、負けたよ。くそっ、完全にやられた。
 はっはっ、あっちも苦戦しているらしいし、今の所お前らの勝ちっぽいなっ。
 まさか此処まで、圧倒的だとは思わなかった」

「…こっちも必死だったんだがね」

「そうか?楽しそうだったぞ?ふんっ、貴様はこういう事に向いているんじゃないか?
 まあ、良い。俺達は負けたんだ。生かしてくれるって言うのなら、大人しく救助を待つさ」

非常に不愉快な事を言ってくれる。
向いていたいとも思わないが、彼だけでも諦めてくれたのなら僥倖だ。
満足そうに呟いた部隊員は、それから数分後に意識を失った。
渚が飲ませた薬が効いたのだろう。
俺達は計4名の強襲部隊員を武装解除した上で拘束し、1つの部屋に閉じ込めて扉に鍵を掛けた。
一応全員死なない程度には治療している。
取り敢えずあの部隊員の言葉で御剣達が無事なのは判った。
プレイヤーカウンターにもまだ変化は無いし大丈夫だろう。
しかしこのままでは御剣達の位置が判らないので、合流を目指す事は出来ない。
だから俺達は補足出来るもう1組の強襲部隊を目指すしか無くなったのだった。



強襲部隊は階段ホールで陣を張っていた。
通路の1つをバリケードで固めて中に入って来た者を狙撃する。
多分通路の後ろ側も仕掛けを施しているのであろう。
俺達が階段ホール手前でこれを見た時、強襲部隊だけでなく御剣達も居た。
彼等は俺達とは別の通路から強襲部隊を伺っている様だ。
何故後退しないのか判らないが、彼等は強襲部隊と事を構えるつもりらしい。
御剣らしくない行動に何かの理由があるのだろうと気付く。
だがその理由が判らなかった。

「あのガキ、誰だありゃ?」

手塚が御剣達の方を見て呟いた。
ガキ?
優希は此方に居るし、あちらに居るのは御剣、姫萩、葉月、文香の4人の筈だ。
俺も良く見てみると確かに身体の小さい子供の様な人物が居る。
遠くで人相が判らないが、御剣達に危害を加える人物では無い様だし後回しにしよう。
このまま時間が経過して行くのは拙かった。
だがこうやって相手に篭られたままでは手の出しようが無いのだ。
4階で使われたというバズーカでもあれば撃ち抜けはするのだろうが、殺傷力が高過ぎて彼等を殺しかねない。
完全に手詰まりだった。

「で、どうすんだよ?73時間過ぎなくても、72時間だったか?でお前、首輪が作動するぞ?」

手塚の言葉に周囲の緊張が高まる。
特に耶七と愛美の顔は見る間に青褪めた。
彼の言う通りの事をさっきから考えていたのだが、改めて言われると危機感が募る。
打開する何かが必要であった。
もうこれしか、無い。

「…仕方が無い。最終手段だ。これなら多分、全てが終わるだろう」

「最終手段?」

麗佳が訝し気に聞いて来る。
余りやりたく無かったのだが、此処まで手詰まりだと他に手が無い。
このままだと文香か高山が無茶をしかねない。
敵の殺害と言う選択肢も含めてである。
また手塚の言う通りに、72時間の経過も拙いのだ。
これからの行動に必要の無い7番のPDAを高山に差し出した。

「高山、もし、万が一があったら、これを使って皆で逃げてくれ」

「外原、お前?」

彼の疑問には答えず、階段ホールに向き直り現状を確認する。
依然動きの無い彼等の様子を見つめながら、後ろの皆へと強い口調で言いきかせる様に声を掛けた。

「全員此処で待機。絶対に、何があっても、出て来るな。良いな?」

「早鞍?!おい、お前っ!」

かりんが何か叫んでいる。
彼女がまた無茶すると困った事に成るので、周囲に注意を呼び掛けた。

「高山、麗佳。かりんが出そうになったら拘束してでも止めろ。
 流石に今回は拙いからな」

「おいっ、早鞍っ!!」

かりんが続けて抗議して来るが、それも無視する。
今は他に手が無い。
無駄な争いを止める為には、これしか、この賭けしか無いのだ。

「早鞍、さん…」

「渚は此処で見てろ。俺と、強襲部隊をしっかりとな。
 優希も良い子にしてろよ」

不安そうな渚に真剣な声で伝えた。
隣の同じく不安そうな優希の頭を撫でておく。
そして封鎖されている階段のホールを見渡した。
天井付近に幾つかのカメラがあるのが判る。
その殆どがホールのほぼ中央に向いていた。
あそこまで走らなければ成らないのか。
俺は脚に力を込める。
ドクンッと鼓動が高鳴った。
下手をすると死ぬかも知れない。
だがまだ死ぬ訳にはいかないのだ。
冷静にタイミングを計る。
スナイパーライフルを持った相手がこちらから御剣達へと銃口の向きを変えた瞬間に、通路から飛び出した。

「早鞍ーーーっ!!」

かりんの声が背後から聞こえるが、振り切ってホールの中央を目指す。
ライフルを持つ部隊員は、俺が飛び出した事で慌てて銃口をこちらに向けて狙いを付けて来た。
息が荒くなる。
走っているだけではなく、あの銃口から放たれる銃弾が俺を抉るだろうと言う想像が過ぎったのもあった。
手に、額に、背筋に、汗が噴き出る。
そしてホールの中央で一瞬その足を止めた時、俺を狙っていたスナイパーライフルが火を噴いた。

一瞬立ち止まった後、俺は身体を左にずらしていた。
多分心臓を狙って来るだろうと思ったのだが、その通りだった様だ。
防刃コートとその付属の専用ポケットに入れた防弾板。
更に防弾チョッキに付いた防弾板。
そしてそれぞれに幾重にも織り込まれた繊維素材を貫いて、銃弾は俺の右胸へと食い込んだ。

「ゴボォ、ガッ、ハァ、ヴォァ…」

気道を粘ついた液体が駆け上がり口に溢れ出す。
それを床にぶちまけて、俺は身体を折った。
一瞬息が出来なくなるが、一生懸命に気道を確保して息が出来る様にする。
そうしなければ次の行動が取れないのだ。
あちらでは追撃で俺を殺そうと次弾を装填しているのが見えた。
あれを撃たせたら俺の負けだ。
まだ、終われない!!
遠のき掛けた意識を無理矢理戻して、俺を撃とうと狙いをつける部隊員、そしてカメラを通して見ているだろう「組織」と「観客」に宣言をした。

「お、お前、達の、負け、だ。負け、だぞっ!!今すぐ、武装を、解除しろっ!!
 ルール、違反だ、ぞ!」

気道を塞ごうとする血を吐きながら、何とか言葉を紡いだ。
その言葉に階段ホールに静寂が訪れて、音を立てているのは俺が血を吐き、咳き込む音だけと成っていた。
暫くするとホールの天井から巨大なディスプレイが下りて来て、その画面に大写しでスミスが姿を見せる。
一瞬ディスプレイを撃ち抜いてやろうかと思ったが、心を抑えて踏み留まった。

『どう言う事かな?外原くん~。出鱈目な事を言わないで欲しいな~。お陰でお客さんから大ブーイングだよ~』

「出鱈目、ってのは何だ?俺はルール通りに、お前等の負けだと、言ったんだ。
 とっとと、あの兵隊どもに、武装解除を、させろっ!」

俺は何とか息を整えながら、痛みを我慢して言葉を紡ぐ。
当たり所が良かったのか、まだ意識はしっかりとしていた。

『負けって何さ?』

「俺が追加したルールを忘れたか?俺を傷つけた以上は、お前達の負けは確定だっ!!」

『あれは、9番の少女だよっ!君じゃないっ!!』

スミスの冷静さが剥がれて来た様だ。
それほど俺が自信満々なのが不安なのだろう。
だがどれだけ言おうともこれは覆らない。
そしてお前達が観客にエクストラゲームが賛成された旨を伝えたのが敗因だ。

「違うな、俺が追加を要請して認められたルールは「こちらの兵隊がターゲットを傷付けたら負け!」だ。
 つまりは『ターゲット』であって、9番の少女じゃないんだよ」

『だからっ!その『ターゲット』が9番の少女じゃないかっ!!』

「それも違うな。もう一度お前等の告げた文章を見返してみな?
 お前等は「ターゲットは9のPDAの持ち主」って言ったんだぜ?」

「あっ!!」

麗佳の声が聞こえる。
彼女だけは気付いた様だ。
わざわざ「何故それを持つのか」を聞いて来ていたのだから。
理由は異なるのだが、持っていて良かった事の1つだと言える。
俺はズボンの右前のポケットに入れていた1つのPDAを取り出した。
周囲のカメラでその画面が見易くなる様に高々と掲げる。

「<スペードの9>は俺がずっと持っている。投票があった時よりずっと前から、変わらずなっ!
 さて、これでもお前達は負けてない、と言い張るかね?!
 さあっ、武装解除して貰おうかっ!!」

俺は最後を強襲部隊に向けて言い放った。
暫く階段ホールを沈黙が支配する。
そして、巨大ディスプレイのスミスが落胆した様な声で宣言をした。

『……僕等の…負けだよぉ~』

その声の後に、強襲部隊は武器を捨ててバリケードの向こうから両手を挙げて出て来た。

「高山、手塚、文香っ!急いで奴等を武装解除して、拘束しろっ!!!」

急いで貰わないと成らない。
今は観客と言うセーフティーが働いているので彼等は俺達に手を出せないだろう。
だがあいつ等がダミー映像を用意出来た途端に、掌を返して襲い掛かってくる可能性が有るのだ。
セキュリティシステムをあちらが手動で動かせないので部隊員を使うしかない。
更に奴等が負けを認めた以上は、追加のエクストラゲームの提案も出来ないと言う事なのだ。

俺の指示に高山と手塚が通路から飛び出した。
文香は放心しているのか、あちらの通路からの反応は無い。
その内に文香の代わりなのか、御剣が出て来ていた。
高山達は手際よく部隊員達を無力化している様だ。
それを見て俺はやっと安心出来たのか、右胸の痛みがぶり返して来る。

「ぐっぅぅ、がはぁっ」

肺から昇ってくる血を吐き出し続ける俺に渚が寄って来た。

「早鞍さんっ!何で、こんな…」

「馬鹿早鞍っ!!お前が死んだら、意味無いだろっ!」

かりんまで来た様だ。
その後ろには彼女を拘束していた筈の麗佳まで居た。
もう拘束は解いても大丈夫だから良いのだが。
涙や鼻水でぐしゃぐしゃに成っていて、かりんの可愛い顔が台無しである。
大丈夫だと言っているのに。
俺はまだ死ぬ訳にはいかないのだから。

「まだ、死ねないんだよ」

つい口を吐いて出る言葉。
それは俺の本心だった。
この言葉にかりんは少し安堵した様に、雰囲気を和らげる。
そんな彼女達に群がられる俺に耶七が恐る恐ると問い掛けて来た。

「お前…最初から、これを、狙ってたのか?」

「そうじゃ、無ければ、あんな提案は、しないさ。
 まあ、言った様に、最終手段、だがな」

喉に絡む血を吐いて通しを良くしながら、何とか答える。
何故そんなにビクビクしているのか判らないが、耶七なりに何か思う所があったのだろう。
言った様に、これは本当に最終手段だった。
下手をすれば即死も有り得たのだから。

「早鞍さんっ!じっとして下さい。早く服を脱いで、横に成って下さい。
 本当に…死んじゃいます」

救急箱を横に置いた彼女は珍しく焦った感じで俺に迫って来る。
一生懸命に防弾チョッキを含む俺の服を脱がしてから、俺が受けた銃創の治療を始めた。

「済まんな。頼むよ」

俺はそれに身を委ねる。
自分自身すらどうにも成らないとは情けない限りだった。

「渚、どけ。俺がする」

「なっ、お前っ!」

耶七が渚を押しのけて前に出たが、かりんがこれを止めようとする。
しかしそれは当の渚に止められた。

「良いの、かりんちゃん。彼は傷の治療に関してはエキスパートよ。
 自分の怪我の殆どを、自分で見られるんだから。
 お願いするわ、耶七くん。お願い、彼を、助けて」

「判ってるよ。それにこいつが死んだら、俺の生き残る術も判らなく成るんだ」

耶七は口を尖らせて請け負った。
だがそれは理由には成らない。
俺が死ぬ前に脅して聞けば良いだけなのだから。
だからこれは彼なりの厚意なのだろう。
今は、それに感謝しよう。
俺は手に持っていた9番のPDAを肌蹴られているシャツの左胸のポケットに放り込む。
その時、カサリとPDAがルール表と擦れ合う音がした。



全員の拘束が終わった頃には俺の治療も一段落ついていた。
強襲部隊員の1名の負傷者も彼等のバリケードの奥に居り、こちらも武装解除して拘束する。
4名、つまり残り全員の兵隊は近くの小さな部屋に拘束したまま押し込んで、扉の鍵を掛けた。
これで彼等はダミー映像が出来た後でも俺達を襲う事は出来ないだろう。
そして全ての作業が終了した皆を労っておく。
御剣達5人は集まって何かを話している様だ。
何故か此処に居た長沢を含めての人数である。
特に文香の傷が酷い様で、部隊員の処理中に耶七に手当てを受けていた。
俺は微笑みながらそんな御剣達の方へと向かう。
ある程度の距離まで近付いてから、腰から自動式拳銃を左手で引き抜いて彼等に突きつけた。

「早鞍さんっ?!」

姫萩が声を上げる。

「御剣、お前達全員の武装を解除しろ。全て、だ」

足元がふら付きそうな眩暈に襲われそうに成るが、それでも俺はしっかりと立って告げる。
今は早急に、この下らない争いを止める必要があるのだ。
また疑心暗鬼が勃発して殺し合いが始まるなどは御免である。
俺の言葉に後ろの連中は意図に気付いたらしく、戦闘態勢を取った様だ。

「早鞍さんっ、そんな俺達はっ!」

「お前達が俺を信用していない事は聞いた。それに俺もお前達を信じていない。
 だから今後不和が起きた時、殺し合いに発展するのは御免なんだよ。早く武装解除をしろっ。
 ちなみに俺はしない!絶対しないっ!ああ、しないさっ!!」

「ちょっと黙った方が良いと思う…」

後ろのかりんが何か呟いた様だが、俺は止まらない。

「さあっ、全ての武器を捨てろっ!そして開放されるのだっ!!この素晴らしき世か…」

「好い加減にしろっ!!」

後ろからかりんに頭を叩かれた。
うわぁ、頭がグラングランして来ましたよ?
この緊迫した場面で何て事をするんだ、かりんめっ!

「外原の言う事は尤もだ。お前達は即刻武装解除して貰おう。
 それが聞けないのであれば、容赦無くいかせて貰う」

高山が渋い声で御剣達を促す。
御剣達は尚も渋っていたが、高山が本当に銃口を上げて彼等に突きつけると、やっと武装解除を始めてくれた。
やはりナイスミドルの方が良いのか?
いや高山はまだ若いが。
…何かさっきから思考がおかしいな?

「これで、良いかしら?」

全身の武装を解除した文香が、座ったまま睨み付ける様に聞いて来た。
治療の為に殆どの装備が外れていたので、一番早かった様だ。
俺は彼女に無言で頷く。
これ以上喋ると、また何か口走ってしまいそうだった。
そして他の者を見ると、それぞれ徐々に武装は解除されている様だ。
外された装備は手塚や耶七によって回収されている。
全ての武装が回収された後に彼等を軽く拘束してから、周囲で最も適当と思われる大きな部屋に入って貰った。
その部屋は古そうな木箱が幾つか置かれた、他と変わり映えの無い埃塗れの部屋である。
俺と高山以外の俺達と一緒に居た者達にも武器を全て放棄して貰う。
武器などの入った荷物の全てをある部屋に集めて、高山の持つ7番で鍵を掛けて貰った。
外に残っているのは高山の荷物の中にある爆薬類やスタンガンを始めとした物。
その他は、俺と高山が身に着けている武器と飲食物に医療品の荷物だけだった。
ほぼ全員が争う為の武器を持たない状態と成ったのである。
やっと俺達の無意味な争いは、此処に終結したと言えるのだった。



俺達が全ての武装解除を終えて1つの部屋に集まった時には、経過時間71時間20分を過ぎていた。
もう武器も殆ど無い状態なので争う必要が無い。
だからなのか、その雰囲気は明るいものと成っていた。
現在皆は拘束されない状態で各グループに分かれて座っている。
飲み物を用意してそれぞれが気楽に休んでいられる状態で居たのだ。
色々と聞きたい事や確かめたい事は有ったが、それももう良いだろう。
そろそろ始めなければ成らない。
皆がある程度落ち着いた時に、俺は最後の仕事を始める事にした。

俺は奥に進んで木箱の上に座っている渚に近付いて行く。
彼女の格好は武装解除した時に一緒にカメラ類も外したのか、服装が身軽になっていた。
その渚の前まで行って立ち止まる。

「渚、長らく待たせたな。お前の首輪を外す時が来たぞ」

言いながら、ズボンの左後ろのポケットからJのPDAを取り出して渚に差し出す。
彼女は小さく微笑みながら、それを両手で受け取った。

「本当に私なんかが、良いのでしょうか?」

受け取った後すぐには解除をせず、俯いて小さく呟く。
まだ何か気にする事でもあるのだろうか?
…そうか。
これまでの「ゲーム」で親友を含めて沢山の人間を裏切り、死に追い込んだ事が彼女の心に重く圧し掛かっているのだろう。

「渚、後悔は良いが、それで死んだ方が良いなんて考えは止めてくれ。
 姫萩に叩いて貰うぞ?」

後半は横目で姫萩を見ながら口の端をこれ見よがしに吊り上げて言う。
姫萩の顔が赤面しているのと御剣が慌てているのが、ちょっと可笑しい。

「あはは~、それもそうですね~」

俺の冗談に顔を上げて笑う渚。
その頬には幾筋かの涙の跡があった。

「外せ渚。解除条件は全て満たされている。
 24時間以上共に行動した姫萩と御剣はどちらも生きている。
 もし仮に累計24時間だったとしても、現状死んだ人間が居ないから解除条件を「満たしていない」判定は有り得ない」

「累計…?!!」

麗佳が俺の言葉に息を呑むが、それは今は考える必要は無い。
ただ誰かが死んだ場合は注意が必要な項目だっただけである。
それに累計があったとしてもそれは俺しか満たしていない様な気もするし。
我ながら裏を気にし過ぎているな。

「まあ、可能性の問題なだけだ。
 だから、安心して解除しろ。そして生き延びるんだ。家族の元に、帰るんだ」

渚に静かに告げる。
彼女は小さく頷いて、PDAを首のコネクタへと嵌め込んだ。
そしてその首輪とPDAから電子音と音声が流れ出る。

    ピロロロ ピロロロ ピロロロ

    「おめでとうございます!貴方は見事に24時間以上行動を共にした者が2日と23時間時点で生存し、首輪を外す為の条件を満たしました!」

カシュンと軽い音と共に首輪が2つに割れて落ちる。
一応耶七の件があるので、この首輪は回収して組み合わせておいた。
何処か遠くに処理してしまいたいが、あと2人分もあるのだ。
そのまま渚の頭を撫でながら、彼女にだけ聞こえる小さな声で話し掛ける。

「渚、1つだけ頼みがある。もし、もしも、だ。
 御剣と姫萩の首輪が外れる時が来たら、即座に外してくれ」

俺の言葉に渚が身体を硬直させた。
多分頭の中ではこの事が絶対に無理である、と考えているのだろう。
それでも伝えておかなくては成らなかった。
渚から離れて、次は耶七の前に立つ。

「な、なんだよっ」

「耶七、お前との約束を果たす時が来た」

「えっ?あっ、助かる方法!」

一番大事な事なのに忘れていたのだろうか?
1つ溜息をついて、静かに話を切り出す。

「お前が、もう俺達を傷つけない、そして争わないと、約束してくれたからな。
 だからこの手は、お前に使おう」

「あっ!おいっ。早鞍、お前っ?!」

手塚が察した様で声を上げるが、俺が静かな目で手塚を見るとその口を噤んだ。
俺は耶七に向き直り、じっとその目を真剣に見詰める。
彼はと言えば驚いて言葉が出ない様だった。
俺が口だけだと思っていたのだろうか?
確かに俺の首輪も外れない。
だから疑われても仕方の無い事だ。

「耶七、お前が生き残る手段だが」

俺は左胸のポケットにルール表と共に入れていた9番のPDAを取り出した。
そのPDAを彼の方へと差し出して告げる。

「このPDAに入っている、進入禁止エリアに進入可能なソフトウェアによる73時間の経過待ちだ」

「経過待ち、だとっ?!」

「そうだ、お前も知っているとは思うが、この方法なら生き残れるだろう?」

俺の説明に得心言った様で、差し出されていたPDAを奪う様に受け取り内容を見始める。
一応忠告だけはしておこう。

「今はほぼ満充電状態だが、今から使うと多分保たないぞ。使用は後20分は最低待っていろ」

「お、おう」

俺の言葉にビクッと身体を震わせて、素直に頷く。
自分の命が掛かっているので、かなり大人しくしている事に少し笑えた。
話が終わると、終わるまで我慢していたのか麗佳が切羽詰った声で問い掛けて来る。

「早鞍さんっ!そんなソフトウェアがあるのなら、貴方が使え…」

「麗佳、彼を生かす方法が他に無いんだ。
 耶七と愛美は時間が迫れば発狂しかねん。
 それに、愛美に1人で帰れってのも、酷だろう?」

「それは、そうですけど…」

彼女の問いを途中で遮って説明すると、彼女は言い返せないのか大人しくなった。

「お兄様、良かった、…良か、た」

愛美が隣の耶七の肩を掴んで涙を零して喜んでいる。
まだ73時間前だから気を抜かないで欲しいが、それでもあの笑顔を曇らせるのも野暮なので黙っておこう。
これで彼等はやっと「帰る」事が出来るのだから。

此処までは順調に行っているが、これからどうするか。
入り口脇の木箱に座ろうと思ってそちらに向かって歩いていると、御剣が話しかけて来た。

「彼の事はこれで良いのかも知れませんが、早鞍さんの首輪を何とかしないといけないんです。
 何か方法は無いんですか?」

この彼の言葉に部屋を沈黙が支配する。
だが丁度良いタイミングとも言えた。
皆に取っては嫌な事を思い出させるこの言葉。
俺の首輪と言う事は彼等の首輪も、と言う事なのだから。
御剣の方へと向き直り彼を半眼で睨み付けた。

「お前な、皆が不安に成る様な事を解決策も無いのに言う馬鹿があるかっ!
 せめてこんな風なのがって提案くらいしろっ!」

御剣に対して怒った様にしながら、彼へと近付いた。
そして彼の右腕を左手で掴んで、部屋の外に向けて引っ張って歩き出す。

「まったく、ちょっとこっち来い、御剣。説教タイムだっ!」

御剣は呆気に取られているのか、俺に引かれるままヨタヨタと歩いている。

「み、御剣さんっ」

「そこで待ってろ姫萩。そんなに時間は掛からないからな。
 皆もちょっと此処で待って居ろ」

真剣な声で言い残して部屋を出て行き、部屋の扉を閉めた。
扉から数メートルほど離れた所で立ち止まってから御剣の手を離す。
そして説教ではなく、真剣な表情のままで問い掛けた。

「御剣、お前は皆を、と言うより姫萩を助けたいか?」

「なっ、当然だっ!」

「それはつまり、お前が今後も生きていく事を意味しているが、それで間違い無いな?」

「…ああ、俺は生きる。自分を犠牲にするだけなのもズルなんだって、気付かせて貰えたからっ!」

「そうか、その返事が聞けて良かった」

覚悟を決めよう。
そして後は上手くいく事だけを祈ろう。
御剣の横に立ち、1つの拳銃を懐から取り出す。
拳銃の撃鉄を上げてからセーフティーを掛けておく。
俺が拳銃を取り出した事に驚いた御剣は、俺にどういう事かと目で訴えて来る。

「実は、皆には言っていないがな。この「ゲーム」が73時間で終了した後も、もしかしたら危険があるかも知れないんだ。
 いや逆に「ゲーム」が終了して体裁を整える必要が無くなった時の方が危ない。
 あのスミスが言っていただろう?「お客さんから大ブーイング」だって。
 あいつ等が今まで強攻策に出られなかったのは、その「お客さん」が見ていたからだ。
 それが無くなれば、奴等は何でも有り何だよ。
 だからお前はその手で、皆を守る必要がある」

尤もらしい話を並べていく。
御剣も何故か納得気味だ。
文香から事情でも聞いたのだろうか?
まあ良い、続けよう。
もたもたしていると部屋から誰かが出て来る可能性もある。
俺は御剣の両手へと無理矢理取り出した拳銃を握らせて、廊下のもう一方の壁へ向けて構えさせた。

「安心しろ、セーフティは掛かっているだろ?引鉄は引けないよ。練習だから、さっさと構えろ。
 高山や手塚が居たとしても、最後に彼女達を救えるのはお前だと思え。だからきちんとした武器の扱いは学んでおくべきだ。
 もう少し足を開け、それから脇は少し開き気味に、こらあんまり空け過ぎるな。
 そう、そうやって両手でグリップを固定してぶれ無い様にしろ。
 お前が望み通りに相手を殺さない為には、狙いは正確である必要があるんだぞ」

御剣の周囲を回りながら、各部のチェックをしていく。
前に銃の取り扱いについては高山にレクチャーを受けたので、見様見真似でそれらしい事を言っていく。
大体のチェックが完了してから彼の正面に立つ。
彼が両手で持っている銃に、俺は自分の両手を被せる様に重ねた。
それでも彼は銃を離す事無く持ち続けている。
本当に素直と言うか、正直と言うか、大馬鹿者だ。
だからこそ姫萩もついて行くのだろう。

「良いか?御剣。お前達は生き残れ。
 生き延びて、皆でそれぞれの場所に帰って、ハッピーエンドを掴み取るんだっ!」

微笑みかける。
彼は一瞬放心して身体から力が抜けた。
今しか無い。
済まんな御剣。
お前の信念は俺のエゴで潰えさせて貰う。



右手の人差し指で銃のセーフティーをスライドさせて解除する。
撃鉄は上がっているので、後は引鉄を引くだけ。
視界の端に渚が見えた。
すぐ済むから待って居ろと言ったのに。
これは見せたくなかったんだが。
だがもう止める訳にはいかない。
こんな機会はもう二度と来ないだろうから。
銃口の前に左胸を差し出して、左手の親指で以って撃鉄に掛かる彼の人差し指を思いっ切り押し出した。

    ガァァン

音がしたかと思った瞬間に衝撃が胸に突き刺さる。
痛いと感じるよりも先に俺の身体は後方へ吹き飛んでいた。
後ろの壁に背中が当たり、少しの間立ってはいた様だが、その内に身体が下に向けて引っ張られる。
膝が折れ腰は力が入らず前へと倒れていく。
さっきから見える物が霞がかっていた。
心臓が最後にトクンと鳴った後、その動きを止めたのが判る。
倒れ行く俺は、かりんを見た様な気がした。
そうだ、かりん、お前は生き延びろ。
皆と一緒に生き延びてくれ。
口から息が抜けていくと共に、身体からも最後の力が抜けていく。
そうして、俺は再び「真っ白な暗闇の世界」に落ちていった。





此処からの眺めは格別であった。
元々学校と言うものは緊急時の避難場所として使用する目的もあり、山の上などの比較的高い所か平地でも周囲が開けた場所にある事が多い。
うちの大学も例外ではなく山の上の方に建てられていた。
その為普通の教室の窓からの眺めもそれなりに良かったのだが、普段は立ち入り禁止に成っているこの屋上からの眺めは壮観である。
立ち入りを特別に教授から許可された俺の先輩は、俺を此処に誘って来た。
俺も今日でこの大学を去る事に成るので、その餞別らしい。
俺は家族や親戚を全員亡くした上、資産も知り合いの弁護士に騙し取られていたので、既に大学に通う為のお金が無かったのだ。
多少の蓄えはあるが、それについては周囲には黙っていた。
これは兄さんが俺に対して個人的に残してくれた最後の資産だったのだ。
だがお金が無ければ当然大学に通えないとはいえ、これまで親身に成ってくれていた教授が掌を返したかの様に冷たくなったのは見事と言う他無い。
今日までは自主退学手続きに翻弄されていたが、それも今日で終わり。
明日からは自由の身である。
もう此処にも未練は無かったが、この景色が見れたのは素直に嬉しい。
その意図がなんであれ。

後ろに佇んでいる俺を誘ってくれた先輩は、研究室やサークルに誘ってくれたりしてお世話になった人である。
だから今までにも小額のお金くらいは無償で貸したりしていたし、それについてくどくどと言った事は無い。
これからもその事は口にはするまいと硬く決めている。
金銭トラブルで人間関係を崩すつもりは無いのだから。

「早鞍、良い眺めだろ?僕は此処からの眺めが好きなんだよ~」

フェンスの外側に立つ俺達は眼下に広がる光景を眺め見ていた。
少なくとも俺は。
先輩の表情は判らない。
俺の後ろから遠くを眺めているのだろうか、感慨深げな声音でしみじみと呟く先輩。

「先輩、話って何ですか?」

振り返らずに話を切り出す。
俺にはもう判っていた。
先輩も結局、他の者と同じだったのだ。
答えは言葉ではなく行動で示される。

強い衝撃が襲い掛ったかと思った直後、俺の身体が宙に浮いた。
重力が無いような、それでいて下に引っ張られるような、逆に上に臓物が引き上げられていく様な嫌な感覚が襲って来る。
背中が押された事により、身体が屋上の端から押し出されたのだ。

「ごめん、早鞍。僕の為に死んでくれっ!」

遅れて言葉が聞こえて来る。
押す前に言ったら避けられるとでも思ったのだろうか?
何が「僕の為」なのか判らなかった。
生命保険の受取人って訳でもあるまい。
なら教授絡み?
有り得なくも無いが、想像し辛い。
まあ、もう理由など意味は無いか。

もう誰も信じたく無かった。
でも誰かを信じて居たかった。
だがそれでもセカイは信じさせてくれない。
俺は何を信じれば良い?
自分すら揺らぎ始めるが、この苦悩もすぐに終わる。
全てが、終わる。
意識が薄れていく中で、俺はやっと楽になれるのかと諦めの心境で自己を手放したのだった。



そうか、俺は死んだんだ。
だからこれは全て夢だったのか。
夢で他人に信じて貰って、満足しようと頑張って、悦に浸ろうとしていただけだったんだ。
それで俺はあんなに必死に成っていたのか。
だが夢とは言えまだ意識があったと言う事は、俺の現実の身体はまだ瀕死の状態で生きていたのだろうか?
それでも夢の中で死んだ以上は現実の俺の身体にも精神死が訪れる事だろう。
このまま植物人間にでも成るのかも知れない。
そう成ったとしても、既に面倒を見る者も居ないので、すぐに安楽死に移行するだろう。
別にそれでも構わない。
寧ろそれで全てが終わると言うものだ。

だが少しだけ気に成る事がある。
夢の中とはいえ、彼等はその後どうなったのだろうか?
叶うのならば、全員が無事であります様に―――


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