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No.4777の一覧
[0] 水色の星S(灼眼のシャナ再構成)【完結】[水虫](2009/02/28 13:48)
[1] 水色の星S 六章『夜を往く魔物達』 一話[水虫](2008/11/13 21:46)
[2] 水色の星S 六章 二話[水虫](2008/11/15 04:04)
[3] 水色の星S 六章 三話[水虫](2008/11/16 04:34)
[4] 水色の星S 六章 四話[水虫](2008/11/17 01:30)
[5] 水色の星S 六章 五話[水虫](2008/11/18 03:55)
[6] 水色の星S 六章 六話[水虫](2008/11/18 22:12)
[7] 水色の星S 六章 七話[水虫](2008/11/19 21:59)
[8] 水色の星S 六章 八話[水虫](2008/11/29 09:39)
[9] 水色の星S 六章 九話[水虫](2008/11/30 04:54)
[10] 水色の星S 六章 十話[水虫](2008/11/30 22:34)
[11] 水色の星S 六章 十一話[水虫](2008/12/03 00:07)
[12] 水色の星S 六章 十二話[水虫](2008/12/07 23:08)
[13] 水色の星S 六章 十三話[水虫](2008/12/07 07:39)
[14] 水色の星S 六章 十四話[水虫](2008/12/08 22:41)
[15] 水色の星S 六章エピローグ『危難の胎動』[水虫](2008/12/10 10:11)
[16] 水色の星S 七章『白緑の探求者』一話[水虫](2008/12/12 15:59)
[17] 水色の星S 七章 二話[水虫](2008/12/13 21:13)
[18] 水色の星S 七章 三話[水虫](2008/12/15 04:09)
[19] 水色の星S 七章 四話[水虫](2008/12/17 02:59)
[20] 水色の星S 七章 五話[水虫](2008/12/17 13:55)
[21] 水色の星S 七章 六話[水虫](2008/12/19 02:43)
[22] 水色の星S 七章 七話[水虫](2008/12/21 00:21)
[23] 水色の星S 七章 八話[水虫](2008/12/21 21:14)
[24] 水色の星S 七章 九話[水虫](2008/12/24 11:07)
[25] 水色の星S 七章 十話[水虫](2008/12/25 00:31)
[26] 水色の星S 七章 十一話[水虫](2008/12/25 20:56)
[27] 水色の星S 七章 十二話[水虫](2008/12/27 03:51)
[28] 水色の星S 七章 十三話[水虫](2008/12/27 22:48)
[29] 水色の星S 七章 十四話[水虫](2008/12/29 22:05)
[30] 水色の星S 七章 十五話[水虫](2008/12/31 04:40)
[31] 水色の星S 七章 十六話[水虫](2009/01/01 21:34)
[32] 水色の星S 七章エピローグ『砕ける世界』[水虫](2009/01/02 21:06)
[33] 水色の星S 八章『茜刃過ぎ去りし後に』一話[水虫](2009/01/03 06:29)
[34] 水色の星S 八章 二話[水虫](2009/01/04 21:34)
[35] 水色の星S 八章 三話[水虫](2009/01/05 04:29)
[36] 水色の星S 八章 四話[水虫](2009/01/06 03:43)
[37] 水色の星S 八章 五話[水虫](2009/01/08 05:26)
[38] 水色の星S 八章エピローグ『赤い涙』[水虫](2009/01/07 22:14)
[39] 水色の星S 九章『日常の中で』一話[水虫](2009/01/09 03:56)
[40] 水色の星S 九章 二話[水虫](2009/01/10 03:55)
[41] 水色の星S 九章 三話[水虫](2009/01/10 17:39)
[42] 水色の星S 九章 四話[水虫](2009/01/11 16:37)
[43] 水色の星S 九章 五話[水虫](2009/01/13 05:29)
[44] 水色の星S 九章 六話[水虫](2009/01/13 09:03)
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[46] 水色の星S 九章 八話[水虫](2009/01/16 18:41)
[47] 水色の星S 九章 九話[水虫](2009/01/16 18:43)
[48] 水色の星S 九章 十話[水虫](2009/01/18 04:39)
[49] 水色の星S 九章 十一話[水虫](2009/01/19 05:42)
[50] 水色の星S 九章 十二話[水虫](2009/01/24 11:15)
[51] 水色の星S 九章 十三話[水虫](2009/01/25 21:44)
[52] 水色の星S 九章エピローグ『桜、咲いて‥‥』[水虫](2009/01/27 03:21)
[53] 水色の星S 十章『夢に踊る蝶』一話[水虫](2009/01/27 20:33)
[54] 水色の星S 十章 二話[水虫](2009/01/29 09:37)
[55] 水色の星S 十章 三話[水虫](2009/01/29 19:29)
[56] 水色の星S 十章 四話[水虫](2009/01/31 04:39)
[57] 水色の星S 十章 五話[水虫](2009/01/31 19:31)
[58] 水色の星S 十章 六話[水虫](2009/02/01 17:42)
[59] 水色の星S 十章 七話[水虫](2009/02/02 15:47)
[60] 水色の星S 十章 八話[水虫](2009/02/03 19:26)
[61] 水色の星S 十章 九話[水虫](2009/02/04 19:47)
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[64] 水色の星S 十章 十二話[水虫](2009/02/07 19:23)
[65] 水色の星S 十章 十三話[水虫](2009/02/08 19:22)
[66] 水色の星S 十章エピローグ『真実の象徴』[水虫](2009/02/09 18:38)
[67] 水色の星S 十一章『革正の時』一話[水虫](2009/02/10 16:43)
[68] 水色の星S 十一章 二話[水虫](2009/02/11 20:11)
[69] 水色の星S 十一章 三話[水虫](2009/02/12 21:38)
[70] 水色の星S 十一章 四話[水虫](2009/04/07 22:06)
[71] 水色の星S 十一章 五話[水虫](2009/02/14 21:04)
[72] 水色の星S 十一章 六話[水虫](2009/02/15 17:10)
[73] 水色の星S 十一章 七話[水虫](2009/02/16 21:54)
[74] 水色の星S 十一章 八話[水虫](2009/02/17 18:57)
[75] 水色の星S 十一章 九話[水虫](2009/02/18 19:18)
[76] 水色の星S 十一章 十話[水虫](2009/02/19 20:24)
[77] 水色の星S 十一章 十一話[水虫](2009/02/20 19:48)
[78] 水色の星S 十一章エピローグ『さよなら』[水虫](2009/02/21 04:11)
[79] 水色の星S 十二章『星天の宮殿へ』一話[水虫](2009/02/22 18:44)
[80] 水色の星S 十二章 二話[水虫](2009/02/23 18:38)
[81] 水色の星S 十二章 三話[水虫](2009/02/24 19:31)
[82] 水色の星S 十二章 四話[水虫](2009/02/25 08:54)
[83] 水色の星S 十二章 五話[水虫](2009/02/25 20:33)
[84] 水色の星S 十二章 六話[水虫](2009/02/26 13:14)
[85] 水色の星S 十二章 七話[水虫](2009/02/27 12:54)
[86] 水色の星S 十二章 八話[水虫](2009/02/27 21:14)
[87] 水色の星S 十二章 九話[水虫](2009/02/28 13:41)
[88] 水色の星S 最終回『そして、大命の王道を』[水虫](2009/02/28 13:43)
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[4777] 水色の星S 十二章 三話
Name: 水虫◆70917372 ID:3b7e2186 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/24 19:31
 
「今回の事がなければ、話すつもりはなかった。だが、ちゃんと"話せる男"になってるように見えたんでな」
 
 井上原田鉄橋の中央、一人の少年と一人の男、坂井悠二、そして坂井貫太郎である。
 
「そりゃ‥‥どうも」
 
 父からの言葉に、悠二の照れ笑いに僅か、涙と誇らしさが混じる。
 
 "この事"を父が自分に話した。そうさせた自分の変化が、"存在の力を繰れるようになった事"が原因なのか、それとも、"それ以外の事"が原因なのかはわからない。
 
 ただ、自分が父にそう思わせるようになった事は、素直に嬉しい。
 
「‥‥‥ヘカテーさん、いなくなったんだって?」
 
「‥‥‥うん」
 
(僕が抱えてる秘密は、話して理解してもらえるような事じゃない)
 
「‥‥どうするんだ?」
 
「‥‥‥‥‥‥‥」
 
(でも、信じてもらえなくてもいい。聞いてもらうだけでもいい)
 
「父さん」
 
「ん?」
 
(父さんが、話してくれたように‥‥‥)
 
「‥‥いつか、"全部"話すよ」
 
 
 それは、今から、十日前の出来事。
 
 
 
 
「‥‥‥‥‥‥‥」
 
 早朝の肌寒い外気を感じながら、坂井悠二は真南川の河川敷を歩く。
 
 元々、急用で帰って来ていただけの坂井貫太郎は、またすぐに出掛けてしまった。
 
 ここ最近、一つの事に固執して取り組んでいたからか、こんな気分で外を歩くのが久しぶりな気がする。
 
「散歩?」
 
「そんなところ、かな」
 
 そうして歩くうちに、いつかと同じ川沿いの石段に、平井ゆかりを見つける。
 
「鍛練は?」
 
「ん、今日は休み」
 
 なら、何故こんな朝早くにこんな所にいるのかと思い、お互い様か、とも思った。
 
 しかし‥‥
 
「あ‥‥‥」
 
 すぐに、その理由に気づいた。
 
 ここはいつか平井が言っていた、平井の好きな景色を眺められる場所。
 
 あの時、平井が言っていた夕焼けではない。しかし真南川の水面に、冬の早朝だからかまだ空に輝く星が映り、幻想的で美しい眺めが広がっていた。
 
「この景色、好きだから」
 
 いつかと同じ言葉でまた平井は言う。
 
「‥‥‥‥‥‥」
 
 そのまましばらく、二人共、言葉は交わさずに、じっとその景色を眺める。
 
 空が白み始めてから、平井がスッと立ち上がる。軽快な足取りで階段を上る。
 
 悠二も、それを追う。
 
 また二人黙って、河川敷を歩く。
 
 しかし、今度の沈黙は短い。
 
 静かな雰囲気はそのままに、平井が口を開く。
 
「"出来た"?」
 
「うん」
 
 迷い無く返す。返せる事が嬉しかった。
 
「私も‥‥強くなったよ。試す?」
 
「いや‥‥"わかる"」
 
「‥‥‥‥‥‥」
 
 可笑しそうに言う悠二に、平井は少しだけ不安を感じる。
 
「"今の"坂井君は‥‥」
 
 感じて、しかしそれは杞憂だった。
 
「大丈夫」
 
 平井が、言いたくなくても言おうとする言葉を、悠二が制する。
 
 その言葉を自分が受けたくないからではない。平井が言いたくないだろう厳しい言葉を言わせないためだ。
 
 いい機会だから、自分の『決意表明』も聞いてもらいたかった。
 
「僕は‥‥トーチで、ミステスで、"銀の炎"、ヨーハンまで中にいたりもした」
 
 平井も、黙って聞いてくれている。
 
「極めつけが、"これ"だ」
 
 自身に取り巻く無数の不可解に、もはや恐怖も戸惑いも感じない。
 
「今まで、わけがわからない自分に悩みながら、戦ってきた」
 
 でも‥‥
 
「‥‥それは、関係なかったんだ」
 
 意識して決めた決意ではない。いつの間にか、自分の中に出来ていた。
 
 気づかぬうちに成っていた覚悟。
 
『‥‥ホントはね。ずっと、一緒にいたかったんだ。徒とか、人間とか関係なく、皆一緒に‥‥‥』
 
 あるいは、目の前の少女が教えてくれたのかも知れない。
 
「"自分が何者だろうと関係ない"。ただ、やる。それだけの事なんだ」
 
「!」
 
 平井はその、悠二が静かに告げた覚悟に、"圧倒される"。
 
 圧倒された自分を感じて、
 
(‥‥うん)
 
 満足する。
 
 こうでなくては、自分を預けられない。
 
「坂井君」
 
「わっ!?」
 
 呼び掛け、振り向いた悠二に、平井が大きく一歩近寄っていた。
 
 突然胸元へと迫られて、悠二は立ち止まる。
 
 互いに胸を合わせるほどに近く向き合い。
 
 二人共、何も言わない。いや、悠二は言えない。
 
 今までの平井と、何処か違う。
 
 "親友であるという以上"の『近さ』を、今の平井から感じる。
 
 それは、自分の全てに近寄って来ても構わない。そんな『近さ』。
 
(あっ‥‥‥‥‥)
 
 "壊刃"との戦いの後、瀕死の平井と共にいた、あの時。
 
 今の平井が、あの時と同じ空気を纏っていると悟る。
 
 悠二がそれに気づいたと判断すると、平井は目を閉じる。あごを上げる。
 
 そして、かかとを浮かせて背伸びする。
 
「んっ‥‥‥」
 
 悠二の唇に、自分の唇を重ねる。
 
「‥‥‥‥‥っ!?」
 
 ようやく事態を把握した悠二が驚くと同時、ぴょんと悠二の胸元から逃げてみる。
 
「なっ、なな‥‥ななななななっ!?」
 
 完全に動転している悠二に、今度は平井が、『決意表明』する。
 
 曇り一つない、直視するにはあまりに眩しすぎる笑顔を輝かせて。
 
「"ずっと一緒にいるからね"!」
 
 今までで一番綺麗な笑顔で、言い放つ。
 
「いや、あの、だから、ヘカテーがその、じゃなくて平井さんが僕、えぇっ!?」
 
 さっきまでの貫禄はどこにいったのか、大げさに騒ぐ悠二に、
 
「わかってるよ。そんな事」
 
 と告げる。
 
 その言葉で当面の問題を直視出来たのか、悠二も少し正気に戻る。
 
「え‥‥なら、どういう‥‥‥?」
 
 平井が、"ヘカテーの事"をわかっているなら、さっきの言葉の真意が掴めない。
 
「それでもいいの。ずっと、一緒にいる」
 
「けっ、けどそれは‥‥‥‥」
 
「『拒否権』。あると思ってる?」
 
 無い。平井を人間でない存在ほと変えたのは他でもない自分だ。
 
 平井の人生の責任は、自分が負うしかない。
 
 拒否権など確かにないが、平井が"そういう事"ならまずいのではなかろうか。
 
 意地悪な笑顔を作る平井に、反論しようとするが、いい言葉が出てこない。
 
「いいの。それで‥‥」
 
 その言葉に含まれた、自分だから気づけるほんの僅かな不安に、悠二は全てを理解する。
 
 確かに平井は悠二がいなければ力を回復は出来ない。
 
 だが、平井の持つ存在の力は相当に多い。
 
 メリヒムの前例が示すように、自在法などな余計な力を使わずに生きれば、人の一生分くらいなら軽く生きられる。
 
 無論、人間に戻る事など出来ないが、“そういう選択肢”もあるのだ。
 
 それでも、悠二と共に在る。
 
 
 これは、平井の『甘え』なのだ。
 
 "ヘカテーの事"があるのに、平井の気持ちを知った上で平井と共に在る。
 
 それは『自分の甘え』だと悠二は無意識に考えていた。
 
 しかし、それだけではない。"ヘカテーの事"を知った上でそう言う、『平井の甘え』でもあるのだ。
 
 
 そう気づいた時、
 
「‥‥‥ぷっ」
 
 何故か、笑いたくなった。
 
 何故か、平井も笑う。
 
「プッ、クク、ハハハハハハ!!」
 
「ハハッ、アハハハハハハハ!!」
 
 どこまでも明るく、大声で、二人はしばらく笑い続けた。
 
 しばらくして、ようやく笑いが治まって、悠二が口を開く。
 
「いいの?」
 
 自分が、平井が、甘えていいのか、訊く。
 
「『自分が何者だろうと、ただやる』だけだよ?」
 
 平井は悠二の言葉を真似て、また悪戯っぽく笑う。
 
「‥‥‥‥‥‥‥」
 
 「ごめん」は言わない、だから‥‥‥
 
 
「よろしく」
 
「こちらこそ♪」
 
 
 
 
 パンッ!
 
 手と、手が、音を立てて叩かれた。
 
 
 
 
 夜遅く、坂井悠二は目覚める。
 
「‥‥‥‥‥‥‥」
 
 馴れ親しんだ家、かけがえのない日々が、想起させられる。
 
 寝る前に、荷物はすでに『収納』している。あとは、行くだけ。
 
(‥‥ごめん。母さん)
 
 "こんな時に"行く自分。父が家を空けがちな坂井家。親不孝の言葉が、重たかった。
 
「‥‥‥‥‥‥‥」
 
 全部わかって、それでも‥‥
 
(‥‥ごめん)
 
 階段を、音を立てないようにゆっくりと下りる。
 
 自分の家を、あえて見回さずに、真っ直ぐに玄関に向かう。
 
 これが最後だと考えないための、無意識の行動だったのかも知れない。
 
 
「悠二」
 
「っ!」
 
 伏せて靴を履く背中に、声が掛けられる。
 
 聞き間違えようのない、声が。
 
「‥‥母、さん」
 
 何故、こんな時間に起きているのだろうか?
 
 何も言わずに行くつもりだった。帰ってから、全て話そうと。
 
 旅立ちが、辛くなるから。
 
 そんな悠二の戸惑いを察して、坂井千草は穏やかに言う。
 
「行くのね?」
 
 何も話していないのに、何故わかるのだろうか。
 
「‥‥‥うん」
 
 本当に、何も知らなくても何でもお見通し。
 
 不思議な母だと思う。
 
 そんな坂井千草は、これだけは聞かなければならない問いを、息子に投げ掛ける。
 
「ヘカテーちゃん?」
 
「‥‥うん」
 
 この問いは、予想していた。
 
「そう‥‥」
 
 それきり、黙る。何も訊いてこない。
 
「何も、訊かないの?」
 
 沈黙に耐えられずに自分から訊く悠二に、千草はなおも穏やかに応える。
 
「訊いたら、答える?」
 
「‥‥‥‥‥‥」
 
 答えられない。
 
「いつでも帰って来なさい。今度はヘカテーちゃんも一緒にね」
 
 千草が、後ろから柔らかく抱き締めて、そう言う。
 
「う、ん‥‥」
 
 泣いてしまわないように、歯を食い縛ってそう応える。
 
 立ち上がり、正面から向き合う。
 
「うん。男の顔になったわ」
 
 そんな事を言いながら微笑む母に、悠二も微笑み返す。
 
 心配いらない。そう伝えるように、力強く、
 
 
「いってきます」
 
 
 旅立つ。
 
 
 
 
「‥‥‥‥‥‥‥」
 
 息子の旅立ちに、自分以外誰もいなくなった家に、坂井千草は寂しそうに溜め息を漏らす。
 
 しかし、一人ではなかった事に気づいて、自らのお腹を優しく撫でる。
 
 
「お兄ちゃんとお姉ちゃんが帰ってくるまで、いい子で待ってましょうね?」
 
 
 
 
 
「‥‥‥‥‥‥‥」
 
 御崎大橋の首塔の上で、一枚の写真を見つめる。
 
 小さい自分が中心にいる写真。しかし、やけに遠くから撮られている。
 
 おそらく、この写真には本来、"自分の両親も写っていたのだろう"。
 
 今や、顔すら"思い出す"事が出来ない両親。
 
 だが、きっと自分を大切に育ててくれた両親。
 
 そう信じる事しか出来ないが、それでも‥‥
 
(ありがとう)
 
 
「‥‥待った?」
 
 そんな平井ゆかりに、やってきた坂井悠二が言う。
 
「少し待つくらいの方がちょうどいいでしょ?」
 
「かもね」
 
 
 二人、生まれ育った街を眺める。
 
 故郷を、友達達を、共に戦ってきた仲間達を、想う。
 
 次に帰ってくる時は、きっと‥‥‥
 
 
「よし、行こうか」
 
「了解!」
 
 
 坂井悠二と平井ゆかり、二人のミステスがこの日、御崎市から姿を消した。
 
 


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