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No.43782の一覧
[0] カルネアデスの一人となって【トップをねらえ! オリ主物】[tasaoka1](2021/11/17 21:09)
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[43782] カルネアデスの一人となって【トップをねらえ! オリ主物】
Name: tasaoka1◆4bf48eac ID:8a220652
Date: 2021/11/17 21:09
「……決戦兵器の様子はどうだ?」
『かなりの損傷ですが、恐らく縮退は可能です』

 そうか、よかった。
 心底ホッとしたように呟く男の姿を、彼女は周りに満たされる液体越しに見つめていた。
 わずか数十分で、その姿は精神的な拷問に掛けられたようにやつれきっていた、無理もない事である。
 画面に表示されたタイマーの分数は作戦開始時より多く減らしているが、それでも予断を許さないほどには残っている。
 宇宙怪獣の途方もない波状攻撃はその大波を越えて、数々の死を生み出しながらも次第に引きつつはあるけれども。
 それら大群が先遣隊にすぎない事を知っていたからこそ、誰もが決戦兵器、バスターマシン3号に希望を託している。艦長である男も、その信奉者の一人だった。
 だが、この段階至って尚カルネアデス計画は未だ完遂されていないのだ。
 これ以上ないくらい夥しい犠牲を払っているのにもかかわらず、いまだ失敗か成功かの判別は下されない。
 地球帝国は今時作戦にありとあらゆる資材と人材をつぎ込み、計画が成功しようとその存続は危ういというのに――。

(人は抗い続けている、そして艦長も私も……なんという戦いだろう……)

 何もかも気負いすぎるという艦長の欠点であり美徳の一つを、副艦長である彼女は知っているからこそ、そう思った。
 大丈夫、“結果的には”必ず勝てる、と。
 彼は平然とした顔で説いてはいたが、その思念波が不安で乱れきっていたことに彼女は気づいていていながらも黙っていた。
 しかしこうやって残り時間に対し神経質になりかけている男の気分を変えるため、彼女は背びれをゆらりと動かした後、思念を発した。
 直接空気の波を交わさずともそうやって話す事ができるように、彼女は開発されていたからだった。

『艦長は退艦なされないのですか?』

 そのもっともな質問にスーパーヱクセリヲン級の名を冠する傷だらけの巨大戦艦、その中枢にあたる戦闘指揮所で、男は首を振って応えた。

「僕は最後まで残らなきゃならないよ、じゃないと先に逝った連中に申し訳が立たないもの」

 そうして彼は自らの脳と直結している専用の椅子の上で少し体勢を立て直した後、視野内に浮かび上がった赤色に埋め尽くされた艦内図に視線を走らせていた。
 緑が正常であり、黄が機能に支障があり、赤は完全に機能を喪失している事を表している。そういった非常に簡素なものだったが、それでも十分にこの艦の現状は伝わってくる。
 総員退艦という決定を下す判断に要する時間がないほどに、この艦は死にかけていた。
 第三艦橋大破、中央電算室損傷、格納庫はシズラーの墓場と成り果てている。
 彼が指揮するこの艦は宇宙怪獣による決戦兵器への自爆突撃阻止のために、他の艦艇と同じく挺身の如き奮闘を行ったのだ。
 その代償としてあらゆる箇所に甚大な被害を被っていたのだが、幾つかの機能は堅牢な軍艦構造らしく乗組員を保護し、生存たらしめている。
 無理をすれば戦闘も可能だったが、万全の状態から言えば戦闘力には天と地ほどの隔絶した差が発生していた。
 それ故に生まれるありとあらゆる業務が司令塔たる彼の両肩に乗っていたし、一番大きな理由があった。
 せっかく艦に乗り込んでくれた兵員を死なせるわけにはいかなかったからだ。
 なればこそ自らの退艦は誰よりも最後であるべきと、彼は愚かしくも考えていたのだ。
 この戦いを締めくくるためにも。 


 約数十分前、その戦端は開かれてしまった。
 人類種の興廃この一戦にありと臨んだ決戦は、もう二度と味わいたくない経験として彼の心体に刻み込まれていた。
 彼自身“予期し、覚悟していた”とはいえ本来ありえない短距離ワープによって出現した宇宙怪獣の群れには耐え難い恐怖を覚えた。
 敵が七分で黒が三分。そんな言葉が生易しく見えるほどの宇宙怪獣の数に、地球文明を簡単に破滅させることができる光線砲と光子魚雷の釣瓶撃ちですら歯がたたないように思われた。
 あの群勢を直視してしまったら精神が弱い人間は心が駄目になってしまうだろう。生物としての次元の違いからくる感情を必死に押し潰して、彼は真っ先に各部署に戦闘の開始と砲戦指示を命じた。
 来るものだとわかっていたから、気を緩めないようにと厳重に告知していたのが初動において功を奏していた。
 上に必死で陳情した予定量以上の反物質機雷を幾重にも執拗にばら撒き、大型化した宇宙怪獣には豆鉄砲では歯が立たないと声を上げ、無理くり備えさせた威力重視の側面主砲がエーテルの海へと咆哮を響かせ始めた。
 予めキルゾーンを設定し、そこに少なくない数の宇宙怪獣を誘導することに彼は成功していた。効果はないよりマシと言ったところだったろうか。
 もっとも刻一刻と変化し混沌色へと淀んでいく戦場で戦果の把握すら難しくなりつつあったし、すでに艦隊によっては突破されたポイントも出始めてきていた故に、そういった事はほとんど気にしている暇なぞなかった。
 だが、そうだとしても彼らの一派だけでは当然のように押された。如何ともし難いほどに元々の物量の差は絶望的だったからだ。
 そうして宇宙怪獣の捨て身の突撃によって射程が狭まり、交戦距離と相成って続々と出撃する艦載機隊の光を彼は見送った。
 他の艦隊から続々出撃する光とはまた違って、よりパワフルに見えたのは彼の見間違いではない。
 太陽すらも凌駕する出力の縮退炉を3基も積んだ試作機群、通称シズラー・イエローを彼と彼の所属する艦隊は実戦に投入していたのだ。
 実際、僅か数十分の戦闘で未帰還機は多かったものの艦載機隊はよく働いてくれていた。
 シズラーを設計及び製造した現場の技術者たちはオーバースペックだと宣っていたが、縮退炉が一つでは殆ど役に立たないだろうと彼は知っていたために工廠から分捕ってきたのだ。
 お陰で彼と彼の属する派閥は極タカ派、または過大評価主義者の臆病者というレッテルを受けていたが、それで人命が救われるなら汚名なんぞ喜んでひっかぶる覚悟だった。
 そうして彼はできる手立ては全て行ったとは思っているが、同時に何もかもが万全というわけではないとも噛み締めているし、それは全くの事実だった。
  結局、彼に干渉できたことはそこまでで、後は宇宙怪獣の物量にすり潰されるだけだったのだ。 
 その証明は、いずれ発生させるブラックホールに飲まれるであろう艦艇たちが自らの無残な屍で静かに物語っている。
 残骸一つ一つが元は数km級の地球帝国の艦艇だった。同級のスーパーヱクセリヲン級やツインヱクセリヲン級ですら巨大すぎる宇宙怪獣にとっては障害物にすぎなかったのだ。
 決戦兵器、バスターマシン3号もよく耐えたものだと思う。ただでさえ戦艦クラスの宇宙怪獣がシールドを突き破り、その表面へと次々自爆を敢行したのだ。
 月面上の如く、その表層は痘痕面となっていたし、縮退用のスレイヴが幾つも破壊され宙を漂っていた。

 だが、救いがあるとするならば。
 彼の個人的な戦いの一切が無駄ではなかった事だろう。
 被害艦艇の算出もまだだが原作では壊滅していた艦隊は幾つかが残っている。おまけにバスターマシン3号の損傷は“知っている未来”より少ない。
 ならば後は、生きて勝ち逃げするだけだ。彼はこの時までそう考えていた。
 いささか前時代的とはいえ帝国宇宙軍人らしく彼は最後まで艦に残るつもりだったし、省人化が施されたとはいえ多数の部署では未だに退艦が行われていた。
  彼はこの数十分の間に自らの命令によって多くの人間を見捨て、救ってきた。それは軍人として責務であり、その責務を愚直に果たそうとしているだけだった。
  故にこの場には彼とその同志で超能力者であるシャチがいる。最低限の仕事なら彼とシャチで熟せるためだった。
 そう、シャチだ。ヱルトリウムに乗っているエスパーイルカとはまた違う。
 エスパーシャチとも言うべき存在の、その第一号が今彼の目の前でプカプカと専用の水槽で知性を感じられる瞳をくりくりと動かし今も様々な情報を処理している。
 海の生物を戦場に投入することに紆余曲折あったものの、今時作戦が失敗に終われば太陽圏で繁栄極まる知性類は滅ぼされるのだから。
 その中でイルカと同じく高度な知性をもつシャチをエスパーにしてみてはどうかという試みも当然行われたわけだが、成功例は彼女だけだった。
 そうして配属された彼女は新しく雄々しいこの艦を縄張りとし、男はその上司かつ友人となっていた。
 実験艦にも近い性質をもつ艦である故にこなせる芸当であったけれども、彼と彼女は精神的な交流を深め、仕事の能率を上げていった。
 詳しく話すこともないがあまりにも馬鹿げた未来を語る艦長を、彼女は次第に支持するようになっていった。
 そしてその未来は今もなお進行し、その発言に説得力をもたせ続けている。だからこそ彼女は彼についてきて、彼は彼女を信頼していた。
 全ては地球を護るためだけに。

 しかし無慈悲にも、破綻の時は訪れた。
 艦内の状況を見ながら退艦の支援に努めていた艦長の傍らで、シャチは人間で言うところの眉間にしわを寄せるような表情を浮かべるのと同時に思念を発した。
 それは瀕死の患者の容態がより悪化したときのような悲鳴に近い。
 薄氷の上にあった安全が崩され、戦慄へと叩き込まれる瞬間だったのだ。 

『艦長、残存宇宙怪獣を感知!! 巡航級! こちらを捕捉しています!!』
「対応可能砲! 撃ちまくれ!! 補佐を頼む! 引きつけろ! 艇には近づけさせるな!!」

 男の声には焦りが滲んでいた。
 すでに艦周辺の兵力は払底していたからだった。
 一番近場の艦へ逃す兵を載せた脱出艇を護るために残存艦載機隊より多くの護衛戦力を抽出していたのが仇となっていた。
 救難信号は引っ切り無しに出していたがこの戦場の混乱具合ではあまり期待はできなかった。
 ならば、選択肢は一つしかない。
 この艦自体がバスターマシン3号を守ったように、今度は乗員を逃がすための盾となることだった。
 その判断はあまりに短絡的だったかもしれないが、彼にとって即決すべき問題は乗組員の保護だった。
 確かに艦は廃艦判断を下されるようなダメージを受けていたし、側面の砲のほとんどは兵隊級の突撃によって破壊はされていた。
 だが、完全に戦闘力を喪失しては居ない。
 瀕死とは言え、この人類の主力艦にまだその凶器としての力を宿していると彼は信じていたのだ。
 それからの動きは1秒を何倍にも引き伸ばして行われる、通常の人間には対応できないような僅かな猶予の間にすべてが決まってしまうからだ。
 光速戦闘とは、そういったものだった。

 まず初めに側面より残存砲による射撃が行われた。
 角度と損傷の問題によって残された砲数は僅かなものだが、巡航級に対して有効打を与えられるはずだった。
 だがそれは本来であればの話だ。損傷と退艦のために縮退炉は幾つかの行程を終えて出力が低下していたのだ。
 故に、残存砲から放たれたのは威力が不足した光線だけである。
 巡航級の円錐状の表面に幾つかの火球と損傷を発生させるだけに攻撃の結果に留まった。
 撃破が叶わずとも、残された選択へと艦は邁進する。巡航級との交差ルートに自らの傷ついた艦体を晒すために。

もはやこれまでか。同志よ、すまん。

 彼はついに諦めに呑まれた。無理もなかった。心が折れたのだ。
 ならば目を瞑り一刻も早く苦痛から逃れるべく、一瞬の死に期待して、その時を待った。
 エーテル宇宙を伝わる凄まじい轟音、艦すらも揺るがすほどの衝撃が全身を包む。
 1、2、3……そこまで待った時、何も起こらないことに気づいた彼は恐る恐る視界を開いた。
 彼の目に映ったのは、くの字に圧し曲がった巡航級が宇宙の彼方へと吹っ飛ばされる瞬間だった。
 艦の側で見事なフォームでバットを振りかぶった鉄の巨人の後ろ姿が、スクリーン一杯に映されている。
 巨人はマシーン兵器ではない、宇宙怪獣とは余りに大きさが違いすぎる。
 巨人はシズラーでもない、その姿が違いすぎる。
 そして彼の脳裏で、その巨人に合致する機体はたった一つだけしか存在しない。
 その名はTVの中で何度も繰り返し見て、男の魂に刻み込まれていた。
 機体の名を、彼は大声で叫んでいた。

「ガンバスター!!」

 本来であるならば彼女たちは縮退連鎖のために、炉心への突入を行うはずだったのだ。
 しかし彼とその一派の奮闘によって僅かに生まれた余裕が、その未来を消し去っていた。
 それが彼にとっての明確な勝利の形だったかもしれない。
 なにせ、あの炎の機体を操る彼女らに一万二千年の離別を味わわせずに済むからだ。







後書き
この作品はハーメルンにも投稿しています。


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