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No.4285の一覧
[0] 逃亡奮闘記 (戦国ランス)[さくら](2010/02/09 17:04)
[1] 第一話[さくら](2008/10/14 08:51)
[2] 第二話[さくら](2009/12/08 15:47)
[3] 第三話[さくら](2008/10/22 13:09)
[4] 第四話[さくら](2008/10/22 13:12)
[5] 第五話[さくら](2008/10/30 10:08)
[6] 第六話[さくら](2008/11/04 21:19)
[7] 第七話[さくら](2008/11/17 17:09)
[8] 第八話[さくら](2009/03/30 09:35)
[9] 番外編[さくら](2009/04/06 09:11)
[10] 第九話[さくら](2009/09/23 18:11)
[11] 第十話[さくら](2009/09/26 17:07)
[12] 第十一話[さくら](2009/09/26 17:09)
[13] 第十二話[さくら](2009/09/28 17:26)
[14] 第十三話[さくら](2009/10/02 16:43)
[15] 第十四話[さくら](2009/10/05 23:23)
[16] 第十五話[さくら](2009/10/12 16:30)
[17] 第十六話[さくら](2009/10/13 17:55)
[18] 第十七話[さくら](2009/10/18 16:37)
[19] 第十八話[さくら](2009/10/21 21:01)
[20] 第十九話[さくら](2009/10/25 17:12)
[21] 第二十話[さくら](2009/11/01 00:57)
[22] 第二十一話[さくら](2009/11/08 07:52)
[23] 番外編2[さくら](2009/11/08 07:52)
[24] 第二十二話[さくら](2010/12/27 00:37)
[25] 第二十三話[さくら](2009/11/24 18:28)
[26] 第二十四話[さくら](2009/12/05 18:28)
[28] 第二十五話【改訂版】[さくら](2009/12/08 22:42)
[29] 第二十六話[さくら](2009/12/15 16:04)
[30] 第二十七話[さくら](2009/12/23 16:14)
[31] 最終話[さくら](2009/12/29 13:34)
[32] 第二部 プロローグ[さくら](2010/02/03 16:51)
[33] 第一話[さくら](2010/01/31 22:08)
[34] 第二話[さくら](2010/02/09 17:11)
[35] 第三話[さくら](2010/02/09 17:02)
[36] 第四話[さくら](2010/02/19 16:18)
[37] 第五話[さくら](2010/03/09 17:22)
[38] 第六話[さくら](2010/03/14 21:28)
[39] 第七話[さくら](2010/03/15 22:01)
[40] 第八話[さくら](2010/04/20 17:35)
[41] 第九話[さくら](2010/05/02 18:42)
[42] 第十話[さくら](2010/05/02 20:11)
[43] 第十一話【改】[さくら](2010/06/07 17:32)
[44] 第十二話[さくら](2010/06/18 16:08)
[45] 幕間1[さくら](2010/06/20 18:49)
[46] 番外編3[さくら](2010/07/25 15:35)
[47] 第三部 プロローグ[さくら](2010/08/11 16:23)
[49] 第一話【追加補足版】[さくら](2010/08/11 23:13)
[50] 第二話[さくら](2010/08/28 17:45)
[51] 第三話[さくら](2010/08/28 17:44)
[52] 第四話[さくら](2010/10/05 16:56)
[53] 第五話[さくら](2010/11/08 16:03)
[54] 第六話[さくら](2010/11/08 15:53)
[55] 第七話[さくら](2010/11/12 17:16)
[56] 番外編4[さくら](2010/12/04 18:51)
[57] 第八話[さくら](2010/12/18 18:26)
[58] 第九話[さくら](2010/12/27 00:35)
[59] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ[さくら](2010/12/27 00:18)
[60] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ(ふぁいなる)[さくら](2011/01/05 16:39)
[61] 第十話[さくら](2011/01/05 16:35)
[62] 第十一話[さくら](2011/05/12 18:09)
[63] 第十二話[さくら](2011/04/28 17:23)
[64] 第十三話[さくら](2011/04/28 17:24)
[65] 第十四話[さくら](2011/05/13 09:17)
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[4285] 第三話
Name: さくら◆206c40be ID:a000fec5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/09 17:02
神速の逃げ足。

祐輔が神より与えられた唯一無二にして絶対の能力。
疾きこと迅雷の如く―――凡人には視認さえ能わず、超人とて姿を捉える事を許さない。
こと【逃げる】という事に関して限り、人間の中で祐輔の右に出るものはいないのだ。

ではその発動条件とは何か。
【逃げる】という定義としての大前提に命の危険がある致死性の脅威が必要なのである。
一瞬にして祐輔を殺しうる脅威が迫った時のみ祐輔の首筋が疼き、彼を神にも等しい領域へと押し上げるのだ。

又この生命の危険という条件にも制約はある。
自分から任意で条件を発動させる事はできない。
ただし自分から他人に仕向けて脅威を向けさせる事は可能だが―――その時は本当に殺意を以て攻撃させねばならないのだ。

「…………」

「すまないね、兄さん。一揆の最中に村にきちまった自分を恨んでくれよ」

だから今祐輔が縄で手を縛られて小屋の中に軟禁させられているのは必然なのである。

祐輔の【神速の逃げ足】はあくまで敵が祐輔を殺しうる脅威をもって迫った場合に発動する。
農民が祐輔を捕らえる時に殺意をもたずして。更に殺しうる脅威も持っていなければ逃げ足は発動しないのである。
夜中で雀を操る事も許されない祐輔は農民数人に囲まれた時点でもうどうしようもない状況に陥ったのだった。

「…俺、どうなるんですかね?」

「さぁ? それは俺達にもわからん。
一揆が成功すれば解放するけど、十中八九無理だろうな」

そして捕らえられた祐輔は一揆が起こった翌日、こうして見張りに男一人つけられて小屋に軟禁させられているわけである。
農民らしき男が祐輔の様子を見ているので、一揆を起こした農民は未だに鎮圧されていないらしい。
この祐輔を見張っている男の話によると、祐輔は他人であるが村から逃がすわけにはいかないという説明を受けた。

祐輔はこの一揆が起こって以来、誰が指揮をしているかを目撃してしまっている。
こうした一揆では首謀者は斬首に処されてしまうため、傘連判状というように誰が首謀者かわからないように誤魔化す必要がある。
そしてその首謀者と思しき人物を目撃してしまった祐輔を逃がすわけにはいかなくなったというわけなのだ。

「失敗する? 失敗するとわかっているのに何故?」

そういうわけで捕まった祐輔だが、手荒い真似は受けていない。
あくまで手を縛られるだけで軟禁させられており、見張りの男からも人道的に扱われている。
それだけに祐輔は解せなかった。自分を見張っている農民がどう見ても一揆を起こすような人間には見えなかったのだ。

「……どうしようもねぇのさ。
お前さんは旅人だろ? なら、毛利が年中ずっとどこかに戦を仕掛けてるのは知ってるだろ?」

見張りの男はつらつらとこの一揆の原因について語りだす。
男にも祐輔を巻き込んだ罪悪感があったのだろう。

「毛利の殿さんは呪い憑きになってから次々と有名武家を吸収してきた。
小早川、尼子……収穫の時期も何も関係なく」

戦に必要なのは色々あるが、根本的な物だと【金】と【人】。
長期的に兵站や装備を揃えようとすれば莫大な金が必要になる。
そして戦で戦うのは人。兵隊として常備軍だけでなく、大勢の農民が徴兵される。

―――その必要な物を搾取するのは全て毛利領にある農民からなのだ。

度重なる戦のたびに繰り返される重税と臨時徴税。
収穫の時期だというのに男手を取られては収穫も思うようにいかず、米の生産率はどんどん下がる。
毛利領に住まう農民たちはもう限界だった。

「日々食べる食事は米はおろか、稗や粟すら満足に食えなくなっちまった。
死ぬかもしれないが、だからといって何もしなければ俺達が干上がっちまう」

今までは新たに得た領地から得た糧があったからなんとかなった。
しかし明石との闘いは長期戦を匂わせており、日に日に農民達の負担は大きくなっている。
そこで農民たちは一斉蜂起したのだ。

「ついにやったぞ!! 小早川ちぬを捕らえたぞ! 与助、こいつも見張っておいてくれ!」
「でかした!」

一斉蜂起したにも理由がある。
その理由こそが農民たちに一揆を起こそうと決意させた。

小早川ちぬが村の査察に訪問する。
ちぬの護衛は彼女の親衛隊のみで人数は少ない。
ならば夜襲をしかければ自分たちでもちぬという重要人物を押さえる事は可能ではないかと考えたのだった。

小屋の戸が荒々しく開かれ、数人の男が中へと入ってくる。
農民の男の話に耳を傾けていた祐輔の前に突き出されたのはメイド服の女だった。
メイド服の女の手には厳重に縄が縛られていて見るからに痛々しい。

「うぅっ、いたーい……」

「我等が強いられた苦渋の比ではありませぬ。
すみませぬがちぬ様には元就様との交渉が成立するまでここにいて頂きます」

メイド服の女性は突き出された勢いのまま、祐輔の隣へと無理やり座らされる。
そんな彼女に投げられたのは厳しく威圧的な声。

「与助、お前は俺達と一緒に小屋の外から見はるぞ」
「いや、だけど…ちゃんと間近で見張っていたほうがいいんじゃねぇのか?」

「バカヤロウ、相手はあの姫だぞ? 近くにいれば、毒で殺されかねない。
小屋の外なら直接盛られたり触られでもしなければ、毒をくらう心配はない」
「それもそうか。だがこの男はどうする?」

見張りの男の疑問にちぬを連れてきた男は少し悩んだ後、ほっておけと返す。
彼等に今余裕はまったくない。城主である元就に直談判し、税を少しでも減らしてもらわなければならない。
そのための人質であるちぬであるが、彼女の毒姫の異名はあまりにも恐ろしすぎる。

「今毛利の殿サンに使いを出しているんだ。そんな男に関わっている暇はないぞ」
「…わかった」

見張りの男とちぬを連れてきた男は祐輔と横に転がっているちぬを一瞥した後、小屋の外に出る。
男たちにとってちぬの付き人や兵隊を制圧したこれからこそが正念場なのだから。



なにげに絶体絶命のピンチかもしれない…。

俺は手首にきつく縛られている縄を確かめる。
がっちりと結ばれているそれは、動かせば動かすほど食い込むようだ。
男がいなくなった今縄さえ解ければ逃げられる可能性はぐんとあがる。

脱走者ならば農民達も俺を殺す気で追いかけるだろう。
そうなればこっちのもので、縄さえほどけて手が自由ならば全力で逃げ切れる。
手を振って走れないとバランスを崩して、地面とキスするのがオチだから無理なんだけどね。

「ねぇ、あなたは誰? ウチの隊じゃないよね? なんでここで縛られてるのー?」

はぁ…文字通り身動きの取れない状況にため息をついていると、横のメイド服の女の子から話しかけられる。
あの農民の話が正しければ…いや、特徴から言っても彼女は【あの】小早川ちぬなのだろう。
ネットで必ず【死ぬ】と【ちぬ】をかけてネタにされていたのをよく覚えている。

彼女は俺に興味津々なのか、ニコニコ笑いながら話しかけてきた。
自分の置かれている状況がわかっていないのかとも思うが、これが彼女の素なのだろう。
俺の脳内にあったちぬの声よりも可愛らしい、生きたちぬの疑問の声に答える。

「…完全に巻き添え食っちゃいましたよ。
俺は偶然この村に泊まってしまった旅人です」

「あはっ☆ そうなんだ。不運と踊っちゃったんだね☆」

…なんでそのネタ知ってるの?
それはともかく、なんというか肝が座ってるなぁ。

「怖くないんですか?」

「怖い? なんで?」

「このままだとちぬ様は一揆を起こした農民達と共倒れですよ。
人質としてどんな目に合わされるかわかりません。最低限命は無事でしょうけど」

農民たちも全てが理性的で義憤に燃えているというわけではないだろう。
交渉が失敗に終わって自棄になってしまう村人がいればちぬの身体の保証はない。
彼等は一揆を起こした時点で命を賭ける覚悟は済ませているだろうし、それが負の方向に向かえば残るのは惨事しかない。

という俺の心配を他所にちぬの笑顔は崩れない。

「んー、大丈夫だよ☆ 絶対におねたまが助けくれるし。
それにこういう事はよく起こってるし、きくおねたまの忍者隊はとっても優秀だから☆」

きく…俺の記憶が確かだとすれば、彼女も原作に登場した【あの】きくだろう。
彼女は原作において毛利家の忍者隊を率いる隊長で、忍びの腕も鈴女には敵わないもののうっかり忍者よりは優秀。
そんな彼女が鎮圧に来るのであれば、なるほど。怯える必要もないのかも。

「あと敬語使わなくていいよー? ちぬって呼んで☆」

俺がちぬの安心ぶりに納得がいっていると、ちぬのほうからタメ口でいいという申し出が。
これはありがたいので俺もタメ口で喋ろう。

「じゃあ普段の口調で話すよ。俺の名前は森本祐輔。森本でも祐輔で好きな呼び方で呼んでくれ」

「んー…なら、ユウちゃん☆」

「ゆ、ユウちゃん…?」

キャルン♪とでも擬音がつきそうなウィンクを返すちぬ。
うぬぅ、こうしてみるとやっぱりちぬも相当可愛いな。
胸も大きいし、目もパッチリしていて顔立ちもスッキリしている。

俺がちぬのウィンクにドギマギしながらも、あることを訊ねて見る事にした。
彼女のこの性格なら気軽に答えてくれそうだし。

「じゃあちぬ、ちぬはどうしてこの一揆が起こったか知ってる?」

「うん。のうみんさん達が税が重いから軽減してくれって言ってきたんだけど、断ったの。
そしたら夜に襲われたんだー。多分そのせいじゃないかな?」

「その農民達は一日の食事にも困るくらいだって言ってたけど、税率が高いって事はないのか?」

「んー、ちぬわかんない☆」

わからないって…俺は絶句した。
何故ならちぬは答えをはぐらかしているわけではなく、本当にわからないようなのだ。

「そーゆーのは全部他の人がやってるし。
ちぬやおねたま、おとたま達は戦で戦うのが仕事だもん☆」

これはこれ以上聞いても進展がなさそうなので一度置いておこう。
俺は角度を変えて、根本的な質問に変えてみた。

「戦だけど年中やってるのか? 今の時期は米の世話とかで忙しいと思うけど」

「だって楽しいよ? 戦。
ちぬもおねたま達もおとたまも戦うの大好きだもん☆」

…ちょっと頭痛くなってきた。
駄目だこいつら、早くなんとかしないと。

話を整理すると、農民たちの生活は度重なる戦によって成り立たなくなっている。
しかしながら戦をするかどうかの決定権を持っている上層部(少なくともちぬ)はそれを知らない。
更に戦をする理由というものが楽しいからという戦闘狂(バトルジャンキー)的な理由。

「どうしたの、頭痛い?」

「いや、なんでもない、なんでもないからちょっと考えさせて…」

衝撃でプルプル震える俺を案じているのだろう ちぬの心配そうな声に更に頭が痛くなる。
これは困った事になったぞ…こんな上層部がこんな認識だったら、交渉が上手くいくはずがない。
それであの比較的マトモである農民たちが処刑されるなんて、あまりに可哀想だ。

【祐輔! ここにいたか!】

「わ、雀さんだー☆ 可愛い!」

あ、玄さんどうしたの?
小屋にある小窓から飛んできた玄さんが切羽詰ったような声を上げる。
ちぬは小窓から俺の頭に着陸した雀(玄さん)に目をキラキラさせている。

【どうしたもこうしたもあるか!
この村、もう完全に毛利家の正規軍に囲まれてるぞ!
しかも村人達が自棄になって特攻かけようとしてやがる!】

「な、なんだって!?」

「きゃっ…」

突然大声をあげた俺にちぬが仰け反って驚いているが、それどころじゃない。
どおりでさっきから小屋の外が俄に騒がしいはずだ。ちぬの話の衝撃のほうが凄まじいので気にならなかったが。
展開が早すぎるだろ毛利軍!? いや、ちぬが人質だからそれもわかるか。

【それでこの小屋に殺気立った村人達が集まってきてやがる。
一部の冷静な奴らが宥めちゃいるが、少数派でどうしようもねぇ。
なんか目の色がおかしい奴らばっかりだぜ】

やばいな、最悪な展開になってきている。
俺も手が縛られたままだと逃げられないし、人間箍が外れると何をしでかすかわからない。

「ど、どうしたの?」

「あっ、すまん。どうも交渉が決裂してちぬの家の軍が村を取り囲んでいるらしい」

俺の言葉にちぬの顔がぱっと輝く。

「さっすがおねたま!」

「けれどそうもいかないんだって。正気が残ってるかどうかわからない村人が大勢来てる」

「…ひょっとして、マズイじょーきょー?」

ひょっとしなくてもマズイ状況です。
それはもう、こっちに来てから1,2を争う。
手さえ解けてれば何とかしようがあるのに…!



一揆を起こした村を取り囲んでいる軍は毛利家が次女・吉川きくが率いている。
彼女が指揮する忍者隊と姉である毛利てるから借り受けた足軽隊の混合部隊。
村の周囲で大々的に展開しているのは毛利てるの足軽隊のみで、きくと精鋭の忍者隊は別行動をしていた。

「てる様! ちぬ様が捕らえられている小屋の位置が判明しました!」

「よしっ、でかした! オラ、野郎共行くぞ!!」

【応!!】

足軽隊でわかりやすく威圧をかけ、村人達の目を釘付けにする。
その間に自分たち隠密行動の忍者隊がちぬを助けるという計画だ。
シンプル極まりないプランだが、彼女と部下は優秀でちぬ(とついでに祐輔)が捕らえられている小屋を発見した。

(ちぬ、今行くからな!)

一揆を起こした村の使者が毛利の城に到着したのは空が白み始めた頃。
城の厨房を引き受ける彼女の朝は早く、その使者に対応したのがきくだった。
そして使者の話の中でちぬが捕らえられた事を知り、そのまま動ける者を動員して討伐隊を率いて出動したのだ。

当然の如く使者は斬り殺している。
まだ一揆を起こしたぐらいであれば首謀者の首だけで許したが、妹を捕虜にしたとなれば話は別だ。

毛利家で一揆は頻発に起きているため、全てを全て罰していたらキリがない。
罰すれば罰するほど農民人口が減り、年貢という収穫が減るのだから。
そのため首謀者だけを見せしめに処刑していたのだが…今回はそうもいかないだろう。

「――ッ、きく様! あの小屋です」

音もなくきくを筆頭に8名の忍者が小屋近くの茂みに身を隠す。
気配を消してそっとちぬが捕らえられている小屋を覗き見た。

「っち…当たり前と言えばそうだけど、見回りが多い」

ざっと見ても小屋の周りで見張っている農民たちは20人を超えている。
彼等からすればちぬは生命線なのだから当然だが、きく側からすれば厄介な事この上ない。
しかも運の悪い事に増員と思われる農民たちが新たに加わるようだった。

村の正面に展開した足軽に動揺し、そちらに人数を割いてくれればよかったのだが村人もバカではないらしい。
この人数では自分たちで一気に殲滅というわけにもいかず、少しだけ時間がかかる。
その間にちぬに被害が及ぶかもしれない可能性は否定できない。

(どうする…攻めて見るか? 素人なら数が多くても、30秒あれば殺せる。
だけどもし小屋の中に人がいればちぬが危険になるし…あぁ、もうどうすりゃいいんだよ!?)

きくと精鋭の忍者数名は攻めあぐねていた。
物事に確証がない以上迂闊に動くわけにはいかないが、状況が好転するとも思えない。
祐輔、農民、きく…奇遇にも状況を打開する何かをこの場にいる誰もが必要としていた。









ある一人の男がいた。
男の生は平々凡々としたもので、特に波乱に満ちたものではなかった。
地方にある天志教の坊となって子どもたちに勉強を教え、平和に暮らしていた。

彼の自分の人生に不満はなかった。
平凡そのものであるが日々に満足し、これから先も変わることなく生活を送ると思っていた。
出世こそしないものの、彼の人生は幸せであったと言える。

―――――そう、あの時までは

「はぁ、はあっ、はぁっ…!」

どうしてこんな事になってしまったのだろうと男は思う。
何故自分がこんな目に、と。

ある日を境に夢に出てくる右腕が異形の美しい女。
その日から夢に同じ女が出てくる度に酷い頭痛が頭を襲うようになった。
また身体から何かが抜け落ちていくかのような虚脱感も日に日に増していく。

【――――こんなところにいたのか●●。早く起きろよ】

そして見たことも無い白い顔をした巨漢の男の来訪が決定的だった。
頭は割れるように激痛を訴え、生命力を奪われたと錯覚するほどの脱力感。
決定的なのが――自分が自分ではない何かになりかけているのではないかという直感。

【仕方ねぇな、ちょっと手伝ってやるか】

白い顔の巨漢の男から鉄砲で狙われ、自我の崩壊を起こしかけている男。
男は言葉になっていない絶叫をあげて近くの山へと無我夢中で逃げた。
既に体力は限界。そして――――――

「あっ、あっ、あっあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

〈バキリ! ベチャ……〉

男の身体は内側から破裂した。
腹が内側からの圧力に負けたかのように弾け、中から腸と肋骨が飛び出る。
あたり一面を血の色で染め上げた男の意識はそこで途切れた。

男は絶叫をあげた後糸が切れたかのように倒れる。
人は死ねば骸となるのが当然の摂理ではあるが――男の身体は未だに蠢いていた。
しかしそれは人間的な動きではない。何かが男の身体から這い出ているのだ。

〈ズリッ、ズリッ……〉

男の臓物を掻き分けて腹から這いでたのは一人の美しい女だった。
髪と全身を男の血で塗れているが、女の美は失われない。むしろそれが自然であると思えるほど。
だがその美しさとは美麗や華麗といったものではなく―――妖艶といった恐ろしい類のもの。

そしてその女は―――今はピクリとも動かない男が夢に見た、あの右腕が異形の女そのものだった。

「やれやれ、式部やっと目覚めたか」

「ギ……ガ……」

「まだ孵ったばかりじゃ満足に話せないだろ。
ザビエル様も首を長くして待っておられる。ひとまず行くぞ」

女の名前は【式部】。
魔人ザビエルの使徒にして青龍を戴く者。
今まで男の魂の中に封印されていたが、魔人ザビエルが復活したのと共振して封印が解けたのである。

「……ど………コ………へ……」

「織田だが、お前には先に潜伏予定地の本能寺ってとこに行ってもらう。
ザビエル様も後から来られるから、お前は力を元に戻しておけ」

そして式部に話しかける白顔で巨漢の男もまた、魔人ザビエルの使徒。
この男の名前は【煉獄】。もっとも早く復活を果たし、ザビエルに従う魔の者。

魔人に従う全ての使徒は全てで五柱。
式部、煉獄は復活を果たし、藤吉郎は信長の元で暗躍をしている。
残る二柱とも復活を果たしてはいないものの、ゆっくりとだが確実に復活の兆しを見せ始めていた。










*感想650を取った人には特典があるよ!


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