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No.4285の一覧
[0] 逃亡奮闘記 (戦国ランス)[さくら](2010/02/09 17:04)
[1] 第一話[さくら](2008/10/14 08:51)
[2] 第二話[さくら](2009/12/08 15:47)
[3] 第三話[さくら](2008/10/22 13:09)
[4] 第四話[さくら](2008/10/22 13:12)
[5] 第五話[さくら](2008/10/30 10:08)
[6] 第六話[さくら](2008/11/04 21:19)
[7] 第七話[さくら](2008/11/17 17:09)
[8] 第八話[さくら](2009/03/30 09:35)
[9] 番外編[さくら](2009/04/06 09:11)
[10] 第九話[さくら](2009/09/23 18:11)
[11] 第十話[さくら](2009/09/26 17:07)
[12] 第十一話[さくら](2009/09/26 17:09)
[13] 第十二話[さくら](2009/09/28 17:26)
[14] 第十三話[さくら](2009/10/02 16:43)
[15] 第十四話[さくら](2009/10/05 23:23)
[16] 第十五話[さくら](2009/10/12 16:30)
[17] 第十六話[さくら](2009/10/13 17:55)
[18] 第十七話[さくら](2009/10/18 16:37)
[19] 第十八話[さくら](2009/10/21 21:01)
[20] 第十九話[さくら](2009/10/25 17:12)
[21] 第二十話[さくら](2009/11/01 00:57)
[22] 第二十一話[さくら](2009/11/08 07:52)
[23] 番外編2[さくら](2009/11/08 07:52)
[24] 第二十二話[さくら](2010/12/27 00:37)
[25] 第二十三話[さくら](2009/11/24 18:28)
[26] 第二十四話[さくら](2009/12/05 18:28)
[28] 第二十五話【改訂版】[さくら](2009/12/08 22:42)
[29] 第二十六話[さくら](2009/12/15 16:04)
[30] 第二十七話[さくら](2009/12/23 16:14)
[31] 最終話[さくら](2009/12/29 13:34)
[32] 第二部 プロローグ[さくら](2010/02/03 16:51)
[33] 第一話[さくら](2010/01/31 22:08)
[34] 第二話[さくら](2010/02/09 17:11)
[35] 第三話[さくら](2010/02/09 17:02)
[36] 第四話[さくら](2010/02/19 16:18)
[37] 第五話[さくら](2010/03/09 17:22)
[38] 第六話[さくら](2010/03/14 21:28)
[39] 第七話[さくら](2010/03/15 22:01)
[40] 第八話[さくら](2010/04/20 17:35)
[41] 第九話[さくら](2010/05/02 18:42)
[42] 第十話[さくら](2010/05/02 20:11)
[43] 第十一話【改】[さくら](2010/06/07 17:32)
[44] 第十二話[さくら](2010/06/18 16:08)
[45] 幕間1[さくら](2010/06/20 18:49)
[46] 番外編3[さくら](2010/07/25 15:35)
[47] 第三部 プロローグ[さくら](2010/08/11 16:23)
[49] 第一話【追加補足版】[さくら](2010/08/11 23:13)
[50] 第二話[さくら](2010/08/28 17:45)
[51] 第三話[さくら](2010/08/28 17:44)
[52] 第四話[さくら](2010/10/05 16:56)
[53] 第五話[さくら](2010/11/08 16:03)
[54] 第六話[さくら](2010/11/08 15:53)
[55] 第七話[さくら](2010/11/12 17:16)
[56] 番外編4[さくら](2010/12/04 18:51)
[57] 第八話[さくら](2010/12/18 18:26)
[58] 第九話[さくら](2010/12/27 00:35)
[59] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ[さくら](2010/12/27 00:18)
[60] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ(ふぁいなる)[さくら](2011/01/05 16:39)
[61] 第十話[さくら](2011/01/05 16:35)
[62] 第十一話[さくら](2011/05/12 18:09)
[63] 第十二話[さくら](2011/04/28 17:23)
[64] 第十三話[さくら](2011/04/28 17:24)
[65] 第十四話[さくら](2011/05/13 09:17)
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[4285] 第二十六話
Name: さくら◆f3127f0d ID:0ee01bad 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/15 16:04
ランスという存在を評価する人々の声は大きく分けて二つに分かれる。
一つは彼を『救国の英雄』と呼ぶもの。そしてもう一つは『鬼畜戦士』と呼ぶもの。
正反対な二つのこの評価はそのどちらも正しく、二律背反していた。

英雄と呼ばれる者にはさまざまな試練や条件がある。
並外れた精神力と肉体を持ち、先を見通す力を発現し、他者をより良い道へと導く。
たとえ困難な苦境に立たされたとしても何度でも立ち上がり、弱者を守るために悪をくじく。

そういう意味でランスという男は英雄ではなかった。
他者の模範となるという意味では。

しかし周囲は彼を――――ランスを英雄へと担ぎ上げる。
彼にとって己のためにした行動は結果的に世界を救う事に繋がるのだ。
リーザスでは他国からの侵略を防ぎ、ゼスでは魔法使いとそうでない者との間にある差別を弱め、魔人の侵攻から国を救った。

彼にはそれをなすだけの力があり、時代は彼と彼の力を求めていたのだ。

彼は他人に指示されたり、強制されて物事を為さない。
彼は自分がしたい事をする。彼は自分が助けたい者を助け、自分が抱きたい者のために動く。
すべき事は基本的にせずに、自分がしたい事のために動くのが彼・ランスその人なのだ。

「で、浅井朝倉は雪ちゅわんを渡す気になったのか?
言っておくが、それ以外では降伏に応じる気はないぞ」

ランスは人の上から目線を酷く嫌う。
そのため浅井朝倉の使者である祐輔を下に見て、わざわざ降伏という言葉を使った。
お前らが頭を下げて俺様に刃向かった事を懺悔し、泣きながら懇願するのであれば許してやると。

「―――我が主、朝倉義景様よりの条件を書面に。
条件における細かい詳細は後から詰めたいとの事。
しかしながら大前提となる条件があるので、それを述べさせて頂きます」

「ほ、ほほぅ…? そうかそうか、そういう態度を取るか。良いだろう、言ってみろ」

「ランス様落ち着いてください、ね? ね?」

ランスは頬の筋肉をピクピクさせ、魔剣カオスを手にとろうとする右手を堪える。
それもそのはず。祐輔はランスの問いかけをスルーして3Gや香姫に直接顔を向けて話しているのだから。
これにはランスが一瞬キレそうになるものの、隣でシィルがあわあわと焦っているのを見て痰飲を下げた。

「いえ、決してそのように思っていたわけでは…。
しかしながら、ランス殿はまだJAPANに来てから日が浅いと聞いています。
ならば条件が妥当かどうかの判断が難しいのではないかと思い、3G殿に判断して頂いたほうがよろしいかと思いまして。
朝倉義景様より3G殿の叡智は深く、内政を取り仕切っている方だと聞いています」

三つ巴「「「まぁ、妥当といえば妥当ですな」」」

それに胸を張るのは3Gである。
織田家の家老を自他共に認められている3Gにとって、内政こそが彼の力を発揮する場所。
うむうむと頷きながら3Gは先を促した。

「申し遅れましたが、改めて名乗らせて頂きます。
浅井朝倉当主・朝倉義景様より講和の使者として遣わされた森本祐輔と申します。
この度は場を設けて頂き、本当に感謝の念が尽きません」

そこで下げていた頭を上げ、チラリと天井裏を祐輔は見やった。
祐輔が名乗りをあげた際に五十六がピクリと反応するも、瞑目したままだ。

「こちらに騙し討ちや特攻紛いの強襲の考えは御座いません。
ですから姿を隠して天井に控えさせている忍の方に苦無を納めて頂くよう、お願いします」

右の「いやいや、使者殿」
左の「それは考えすぎというもの」
真ん中の「我々がそんな事をするはずが…」

「ッチ。出て来い鈴女」

三つ巴「「「って、本当にしてたんかい!?」」」

考えすぎだと苦笑いしていたが、ランスの舌打ちに天地が裏返ったくらい驚愕する3G。
3Gは警戒してはいたものの、講和の使者として堂々と来ている限り騙し討ちはないと考えていた。名誉に傷がつくからだ。
しかし騙し討ち暗殺上等な国から来たランスは祐輔が変な動きを次第、しびれ薬を塗っている苦無を投げるよう鈴女に命じていたのである。

「うい~。わかったでござるよ」

ランスの命令を受け、鈴女は姿を表した――――ただし、畳の裏から。

「あ~…やっぱり遠回りして天井から来たほうが良かったでござるか? ひょっとして鈴女、空気読めてない?」

祐輔「…………………」
ランス「………………」
3G「…………………」
その他大勢「…………」

祐輔「そして条件ですが」

祐輔以外『流した―――!?』

図らずとも、織田側のすべての心が一致した。
なにげにこれが初めての出来事かもしれない。

「――――こちらからの条件は三つ。
一、 織田は浅井朝倉に対し領地侵犯、並びに被った人的・物的被害を賠償する。
二、 両者は領地に対して口を挟まない。またこれを手討ちとして、恒久的な停戦を結ぶ。
三、 織田の影番、ランス殿は雪からの承諾を得ない限り、雪と会わないと誓う。以上です」

そして今度こそ。
祐輔の言い放った言葉はランスの堪忍袋の緒を一つ、確実に千切った。



「一の条件は後詰めで朝倉義景様と詳しい内容を話しあって頂きます。
これは織田側から一方的に理不尽に攻められた事。そして一度もこちら側から尾張へと攻めいらなかった事からご理解頂けるかと思います。
我々には此度の戦争に対して非は見つけられないと判断しております」

右の「ふむ…」
左の「筋は通っておるし」
真ん中の「戦争の発端が発端」

三つ巴「「「無茶な値をふっかけられない限りは問題ないですな」」」

織田軍が通った後の村々には略奪はなかったものの、かなり荒れている。
略奪や陵辱行為がなかっただけ織田軍の錬度が高いとも言えるのだが、復興にはとても時間と費用がかかるのだ。

右の「それに今浅井朝倉では」
左の「大地震によって難民が多数出ていると聞く」
真ん中の「人道的な立場から見て」

三つ巴「「「救援物資を贈る事も考えていたくらいなので、そこは大丈夫でありますな」」」

今地震の震災によって破綻しようとしている浅井朝倉。
地震の余波は尾張にまで伝わり、地震の規模は相当に大きかったと言える。
浅井朝倉と違い忍者隊が健在な織田は浅井朝倉へと偵察に出していたので、織田は情報を得ていた。

「二に関しては一歩も譲れません。
降伏ではなく講和である以上、この話し合いは対等なものであるはずです」

しかしここまで話して、織田…特にランスは面白くなかった。
ここまでの話の流れからして織田が完全に恥を知らぬうつけ者であり、それを浅井朝倉は見逃すと言っているようなもの。
ランスからしてみれば向こうが頭を下げ、どうか許してくださいと謝るべきだと考えているというのに。

だが大半の織田の家臣は己の身を恥、否定できない不肖に歯噛みした。
その家臣の中には明智光秀などの有力家臣もいる。それらの武将は当初からこの戦いに疑問を感じていた者達である。

この戦は足利を討伐した時とは全くもって違うのだ。

足利との戦において、大義名分も誇りも持てた。
足利の圧政に強いられていた領民も解放出来たし、織田長年の懸念も解消する事に成功。
彼等は己の誇りを何一つ捨てる事なく侍として戦が出来た。

それに比べ浅井朝倉では大義名分が何一つない。
浅井朝倉では織田よりも善政が敷かれており、織田の安全を脅かす脅威も存在しなかった。
ただランスが雪姫を欲しいという我儘だけによって戦が起こったのだ。

左の「むぅ…」
右の「それは…」
真ん中の「二の条件は…」

三つ巴「「「難しいかもしれぬ」」」

しかしながら、3Gにしても全ての条件を呑むわけにはいかない。
3Gにしても殆の要求をできうる限り呑んでやりたいのだが、二の条件に関しては気軽に頷けなかった。
何故ならこれに頷いてしまった場合、織田は此度の戦において褒美を与えられないからである。

戦において出兵する兵士の【奉公】に対し、織田は【御恩】つまり褒美を与えなければならない。
これは戦国時代では当然の制度であり、これがあるからこそ兵士は命懸けで戦うのだ。
無論戦う理由はそれだけではないにしろ、報酬が貰えないのに命を賭ける酔狂な人間は少ない。

【御恩】は金で払われる場合があるものの、大抵土地で支払われるのが普通だ。
奪った敵国の土地を戦働きの活躍に応じて分担し、分け与えられる。
それによって御恩となし、兵士の苦労に報いるのだ。負けた場合には考えなくて良い。既に御恩を支払うべき家は壊滅しているのだから。

だから少しも領地を得られないというのは織田にとって厳しい条件なのである。
そもそも戦という物自体とても金を食らうもので、兵站や武器など基本的なものを揃えるのでさえ大量の出費となる。
そのため浅井朝倉との戦いにおける御恩に全て金で支払う事になれば、織田の財政が破綻しかねない。

「俺はこのように述べろと義景様より受け賜っているだけです。
話し合いの場について下さるのであれば、講和前に調整の場を設けるとも仰っています。
これはなんとも言えませんが、譲歩する可能性もあるかと思われます」

うむ…と3Gは祐輔の返答に苦い顔で頷いた。
浅井朝倉の義景といえば歴代の北条早雲や天志教に並ぶJAPAN一の交渉術の持ち主。
これは手厳しい交渉になりそうだと内心呟いたところで。

「ちょっと待て。なんで講和する事前提で話が進んでいる?
俺様は一言も。ひとっっっことも講和するなんて言ってないぞ!」

今まで沈黙を保っていたランスが3Gと祐輔の会話に割り込んできた。

「そもそも三の条件は何だ? ふざけているのか?
雪ちゃんを無条件でよこすというなら、とても優しい俺様は許してやるというのに。
それはギャグで言ってるんだろうな?」

「ギャグで言っているのはお前のほうだろjk…」〈ぼそっ…〉

「ああん? 何か言ったか?」

「いえ、何も。しかしながらそれは一歩も譲れない絶対条件です。
三の条件が呑めない場合、浅井朝倉はこの講和の話を一切なかった事にさせて頂きます」

「ふん、えらく強気だな」

鼻で笑うランス。
彼からしてみれば他の条件はどうでもいいものの、雪姫に手を出せないという条件は絶対に呑めない。
そもそもからして雪姫を手に入れたいがために始めた戦だ。

「俺は知っているぞ。お前のとこの国、地震でぼろぼろなんだろ。
それで焦って講和を結びに来たわりには随分強気じゃないか。
このままでは戦えません、偉大なランス様許してくださいってな。それにお前ら弱いし、次に戦ったら負けるから言ってるだろ」

このランスの言葉に追随した織田の家臣は少なくない。

「そうだ、講和というのもそちらが願い出てきた事。
ならばそちらが幾許かの血を流し、譲歩するのが当然というもの」

「我等は負けたわけではない。
一度は遅れをとったものの、次もそうなるとは限らん」

彼等とて全ての本心からそう考えているわけではない。
だがここで浅井朝倉からより良い条件を引き出さないと、潰れてしまう家の者達ばかり。
戦争は物的・人的被害があまりにも大きいため、何も貰えないとなると家の当主としての立場から反対せざるを得ないのである。

もっとも彼等からしてみても、三の雪姫の条件は認めるべきだと考えてはいるが。

「私も反対だ。浅井朝倉、恐るるに足りぬ。こんな講和なぞ結ぶ必要がない」

そして一部のものだが、浅井朝倉に執着しているもの。乱丸を筆頭とする好戦派である。
理由がどうあれ、歴史とは勝者が作るもの。死人に口なしとまではいわないが、この時代は力が全てなのだ。
弱い事は悪い。これが罷り通る世界なのである。

乱丸の声におずおずと、しかしながら着実に上がる反対の声。
3Gは頭を抱え、光秀ら講和賛成派は彼等をどうしたものかと仰ぎ見る。
話し合いの場は講和賛成派と反対派の二つに分かれてしまっていた。

「み、皆さん落ち着いて下さい。
ちゃんと御恩もしますから、それは心配しないで下さい。
ねっ、3G? 大丈夫ですよね」

右の「おお、姫様…」
左の「こつこつと貯めてきているものがあるので、心配しなくとも大丈夫ですぞ」
真ん中の「なんとおいたわしい…」

三つ巴「「「喝っっっ!!! 者共、静まらんかッ! 使者殿と香姫様の前で情けない! 恥を知れっ!!」」」

あわあわと慌てながら、その場を収めようと3Gに確認する香姫。
3Gは香姫にそんな気遣いをさせてしまった事が情けなく、一喝して黙らせる。
シーンと場が静まり、乱丸に追随してヒートアップしていたものも勢いをくじかれた。

「……ええ、確かに地震で起こった震災は大きなものです。
このまま以前のように浅井朝倉は篭城する事は難しいでしょうね」

そして静まり返っていた場に、祐輔の声は染み渡るように広がっていく。

「もうそこまで知られている以上、隠しても無駄でしょうから。
浅井朝倉には長期間戦えるだけの力はもうありません」

何を言い出しているんだコイツ? とランスも若干困惑した。
講和を結びたい以上、相手に弱みを見せて良いはずがない。それは周知の事実。
だというのに、なぜコイツは鎧で隠している重傷を敵に見せつけるような事をしているのだろうかと。

「そのため浅井朝倉は短期決戦を望むでしょう。
それこそ全軍をあげて、この尾張へと攻め込むでしょうね。
これはあくまで俺の想像で浅井朝倉の決定ではありませんが、十中八九は」

そして続いた言葉は更に一歩踏み込むような発言だった。

「もうこちらに新兵器があるのはお分かりかと思っています。鈴女殿がいますし。
新兵器鉄砲と全ての弾薬を持ち、全ての兵士を用いての最後の合戦になるでしょう。
幸いこちらが負けた場合、民衆は義景様の伝で他国に難民として受けいれられるようですし」

「うん? …おお! あの団子を奢ってくれた、おっぱい好きの御仁でござったか!」

ぺこりと祐輔は鈴女に頭を下げ、鈴女もここでぽんと掌を合して合点がいったようだ。
そしてここまで話されて、織田側は祐輔の言いたい事がようやく理解できたのである。

つまりこういう事だ――――もう余力がないから、特攻しかけちゃうぞ♪ ゴラァ!!

これは祐輔の想像に過ぎないが、おそらく浅井朝倉の取る方針はこれかと思われる。
義景に雪姫を渡す気がない以上、全軍をあげての特攻となる。
雪姫の人望は民衆の中でも高いので、命を賭ける兵士が殆だ。

しかも仮に負けたとしても、浅井朝倉には外交で得た伝がある。
女子供老人を受け入れてくれる相手は沢山あるし、これは戦が敗色を見せ始めた頃から探していた。
これは実際祐輔も義景から聞かされているので確定情報だ。

つまり浅井朝倉は敗戦後の心配を全くしなくていい。
そのため死兵となる事も厭わない兵士はとても手強いものになるだろう。

「鉄砲…あれ、ですか…」

光秀の万感を込めた一言は先刻の合戦に参加した全員の総意に違いない。
あの恐ろしい威力を発揮した武器が、こちらに攻めて来る。それも全てを投入して。

攻め入る側と攻められる側では大きく違う。
攻め入る側は覚悟も準備もできるが、攻め入られる場合そんなのはお構いなしだ。
あの兵器が隊列を整え、じりじりと前進してくる様は考えるだけで身が震えるほどの恐怖。

浅井朝倉を落とせれば非常においしい旨みがある。
しかしその旨みを得ようとすれば、その旨み以上のリスクがあるのも事実。
いまだ鉄砲に対する対策も整っていない現状からすれば、織田としても得たいの知れない浅井朝倉とはこれ以上やりたくない。

しかも仮に勝てたとして、その時の織田の被害はどれほどのものか。
無傷で勝てるはずもなく、負傷した状態で他国からの侵略を防げるものなのか。

同じ想像をしたのは合戦に出たもの全てで、お家存続のために講和反対を口にしていたものを黙らせた。
少しも怯んでいないものといえば、乱丸とランスくらいなものである。

「おいおい、何静まりかえってるんだ?
あんなもん、マリアのチューリップのほうがもっと凄いだろうが」

ランスからすればマリアのチューリップ――鉄砲の起源となった武器を知っているだけに、何をビビっているといった具合だ。
しかし、そんな事織田の家臣達は知らない。彼等からすれば鉄砲は未知の武器。
轟音がなったと思えば次の瞬間には死んでいる、悪魔の兵器。

彼らの脳裏に足軽隊が壊滅した事が蘇る。
あんな兵器を持っている相手とはやりたくない、というのが彼らの正直な心境である。

「……だーーーーッ! もう!! 何で黙っていやがる!!
俺様は戦をやめる気はないぞ! てめぇはさっさと帰って伝えろ!
織田に講和の意思はないっtムググ!?」

右の「ええい!」
左の「お主は!」
真ん中の「もう!」

三つ巴「「「黙っとれ!!」」」

決定的な事を言い放ちかねない場面で3Gはランスの口を強引に塞いだ。
ぶっちゃけ普通の使者と会談なら決定的だが、祐輔はランスを知っているので黙ってもう一度頭を垂れる。
いうべきことは言ってしまったし、後はなんとか講和の方向へ進む事を祈るばかり。

「それで織田側のお答えは?」

ここでランスに訊ねなかったのはわざとである。
それを的確に汲み取ったのは3Gで、すぐさま彼は祐輔に返答する。

右の「それですが使者殿」
左の「話が話だけに、すぐには結論を出せませぬ」
真ん中の「少し織田だけで話しあいたいので」

三つ巴「「「時間をいただいてもよろしいですかな?」」」

「無論です。快い返事を頂けるのでしたら、いくらでもお待ちいたしましょう」

不満そうにもがもがと口を動かすランスの口を強引に塞ぎ続ける。
時間さえ稼げば病床で臥せっている信長にも話しを通し、ランスを説得してもらえる。
如何にランスといえど信長の話しとなれば聞かざるを得ないだろう。

そして3Gには信長が講和に賛成するという確信があった。
信長は言っていた。香姫が安心して暮らせるなら、国盗りには興味がないと。
話しに聞いた鉄砲をもって織田に攻めて来るという脅威を信長が了承するはずがない。

しかも、その危機は容易に回避できるのだ。
ランスが雪姫を諦めるだけでいいという事だけで。

三つ巴「「「乱丸殿、使者殿を客間にご案内して頂けるかな?」」」

「……あぁ」

不満そうに、不承不承といった体で乱丸は控えていた列から立ち上がり、祐輔の前まで進み出る。
そしてぶっきらぼうに「案内する」とだけ告げ、祐輔に退室を促した。
祐輔も「ありがとうございます」と礼を述べ、乱丸について天守閣を後にしようとする。

「ああ、すみません。言い忘れていた事がありました」

が、背後を見せていたランスに振り返り、思い出したように重大な事を口にした。

「講和が成立しましたら、両国の捕虜を解放して頂きたい。
浅井朝倉にいらっしゃる大熊のような捕虜が、『寺小屋の少年少女が待っているのだ!』と言っていましたよ。
彼のためにも早く判断をお願いしたいです」

その時の織田側の反応は劇的だった。
シィルや香姫は息を呑んで口に手をやり、3Gは目を見開いて驚いている。
家臣たちも「な…!」と口を広げ、唖然として驚いていた。

「なんだ、生きてたのか勝家」

ランスはつまらない事のように彼等の驚愕を表した。
彼からすれば勝家という男は役に立つものの、乱丸を手に入れるためには邪魔だったのだ。
口を抑える3Gが驚愕のあまり手を緩めたので、とてもつまらなさそうに。

「―――ッ! それは、それは真か!?」

「嘘言っても仕方ないでしょうに」

「し、しかし、お前はあの時…」

「鉄砲で倒れたとはいいましたけど、何も死んだとは言っていませんって。
まぁもっともこの講和が成立しなかったら場合、保証はできませんが」

乱丸の狼狽ぶりにも拍車がかかるというもの。
このタイミングまで温存していた切り札に織田側は見事に掻き回された。
好戦派の筆頭だった乱丸を。そして人情深い織田の重臣たちの心情を講和へと向ける策。

実質織田の部隊を指揮しているものが織田において大きな力を持っているのである。
武士隊の乱丸、第二足軽隊の前田利家、軍師隊の光秀…彼等が勝家生存を知り、解放のために動かないはずがない。
それに3Gや香姫…平和主義的な所もある彼等も含めれば、容易に講和に傾く。

(もしかして、彼が太郎が世話になった祐輔殿…?
ここは返し切れない恩を僅かでも返す時に他ならない。
できる限り講和を選ぶよう、助力しなければ)

そして弓兵部隊を率いる五十六も浅井朝倉の――むしろ祐輔の味方だった。
あと残るは鈴女の忍者隊だが、彼女はどちらかというと中立だろう。
ここまで織田を率いる武将が講和に傾いているのである。

「織田の影番、ランス殿。どうかご英断をお願いします」

「お、おい。待て。本当に勝家は生きているのだろうな」

「ぐぬぬぬぬ…」と周囲の変化を感じ取ったのか、唸っているランスを他所に祐輔は天守閣を退室する。
乱丸は慌てて勝家の現状について問いかけながら、祐輔の後についていった。



「いや、それはもう講和するに決まっているでしょ。
俺も流石にどうかと思ってたんだよね、今回の戦。全権を任せた以上、口出ししなかったけど」

場所は信長が病で臥せっている自室へと移る。
彼の部屋にいるのは各部隊を率いている武将と、香姫と3G、そしてランスとシィルだ。
他の有力家臣に関しては部屋に入りきらないのと、信長の決定なら納得できると彼等が自粛した。

「それに勝家は昔からよく使えていてくれているし、出来る限り助けたい。
御恩に関しても元足利領で直轄領にした領地を分け与えればいいじゃないか。
ほら、何も問題ない。これで全部解決したね」

「うがーーーーーーッ! ん何も! 何も解決しとらん!!!」

この場で唯一反対しているのはランスのみ。
おま、それはちょっと引くわ…という位意見を変えた乱丸も講和賛成派に転じている。
足利から得た領地を家臣に分け与えるという決定をすれば、他の反対派の多くが納得するだろう。

直轄領を減らすなんて普通はしないものだが、信長は領地に執着はない。
織田が生きていくために最低限必要な尾張の土地はちゃんと残っている。
それで丸く収まるのだったら問題なくない? という認識なのだ。

「俺様は反対だぞ!! 講和なんて、そんな軟弱な―――」

「ランス様~…勝家さんを助けてあげましょうよ」

尚も反対の声をあげるランスをシィルは半泣きになりながら諌める。
もはや頭をぽかんと殴られるのは覚悟の上である。

「ランスさん、私からもお願いします」
「ランス殿…講和を結びましょう」
「ランス殿。厚かましいとは思いますが、講和をすべきだと私も思います」

香姫の懇願、光秀の忠言、五十六の提案。

「そ、そうだ! 囚われているというのなら、鈴女が助けに行けばいい!」

「いや、流石にそれは無理でござるよ。
暗殺なら難しいながらもなんとか出来るかもしれないでござるが、救出となると…。
勝家殿を運びながら、敵国から逃げるのは不可能でござる」

苦し紛れのランスの提案も鈴女は不可能だとはっきり言った。

敵の当主を暗殺しよという命令ならば、浅井朝倉レベルの警備では可能かもしれない。
武田や毛利などの見回りと厳しい警戒ではないので、可能性はある。
だが救出となると話しはまるで変わってくるのだ。

浅井朝倉の牢に忍び込んで、鍵を外して勝家を解放する。ここまでは出来る。
しかし解放した勝家を織田まで連れてくるとなると、絶対に不可能だ。
大の大男である勝家を連れて城の包囲網を抜けるのも不可能だし、奇跡的に抜けられたとしても尾張まで逃げ延びられるはずがない。

そう説明されて、ランスは唸るしか出来なかった。

「ランス」
「ランスさん…」
「ランス殿」
「ランス様…」
「ランス殿…」
「ランス。ここはもう、諦めるでござるよ」

ランスに集まる視線と物言いたげな声。
部屋の空気に耐えきれず、ランスは部屋の端へと自然じりじり追い詰められた。
徐々に追い詰められるランスを更に乱丸が王手をかける。

「頼む。勝家を救ってくれ。なんでもするから」

ランスの目の前で土下座をしながら頼み込む乱丸。
勝家を救うためなら、自害しろと言われたら乱丸は自害するだろう。
つい先ほどまで彼女を支配していた強い憎悪は想いの力そのまま、彼を救いたいという想いに変化したのだ。
乱丸にさらに追い詰められてしまったランスは聡明(自称)な頭脳で現在の状況を考える。

ここで雪姫を欲しいがために、強引に戦をすると言い張ってみたらどうなるだろうか。

まずこの場にいる全員から反感を買ってしまうだろう。
こちらを見つめる信長の視線はあくまでお願いというスタンスをとっているが、その実警告に近い。
彼の行動理念は香姫と国が同義、むしろ香姫に傾く。鉄砲と決死の浅井朝倉の兵士は充分脅威になりえる。

最悪の場合、影番としての地位を奪われかねない。
ランスが影番足りえていられるのは、信長が全権を委任するといっているから。
信長がランスを影番から解くと命令すれば、いとも簡単に彼は一国一城の主から一般市民まで転落する。

これからもJAPAN全国の女の子とにゃんにゃんするのに、この地位はとても便利だ。
ランスからすればこの地位を手放したくない。

仮に影番から降ろされなくとも、彼の人望は底辺まで落ちる。
ただでさえ無理な出兵をしたというのに、更に重臣である勝家を見殺しにする。
それは義をもって徳を説くJAPAN人からすれば最低の行いである。

では逆に戦をやめ、講和を受け入れた場合は?

まず雪姫に手を出すのは難しくなるだろう。
一度約束した以上、夜這いを雪姫にする計画を立てた場合、織田はランスを庇わない。
最悪織田から追い出されるだけでなく、浅井朝倉に対する示しとして首を差し出されかねない。

だが手に入る者もある。
ランスは足元で土下座する乱丸を見た。

今まで頑なにランスを拒絶していた乱丸が何でもするとまで言っている。
これは上手くやれば乱丸とにゃんにゃんできるのでないだろうか?
それは雪姫の損失を補うとまではいかないまでも、ある程度は補填されるほどの旨み。

「ぐぬぬぬぬぬぬ、うぬぬ………」

ランスの中で二つの考えが鬩ぎ合う。
どうしても雪姫とにゃんにゃんしたいという思いと、ランスの中に少しはある理性。
そして理性と連合軍を組む乱丸とにゃんにゃんしたいという思い。

「ぐ、ぬ……わかっ、た。浅井朝倉と講和を結ぶ」

ランスが物理的な重さも持っているのではと錯覚しそうな視線の重圧の中、途轍もなく悔しそうな声で出した答え。
それは浅井朝倉と織田との間に起こった戦いの終結を決めた。





ステータスが更新されました。

森本裕輔(呪い付き) 職種:無 Lv.3/15

攻 1
防 1
知 7
速 1*
探 1
交 7
建 1
コ 3 

技能:神速の逃げ足

命に関わる危険を察知した場合にのみ発動。
発動した場合に限り【速】が9に上昇する。
しかし意図的に発動は出来ず、また命の危険性がなくなった時点で効果はなくなる。

技能:現代知識

現代において大学生程度の学力と知識を持っている。
あくまで一般的なレベルだが、それでもこの時代からすれば高水準。

技能:動物使役

呪い付きになった事により、雀を操れる。
効果範囲は半径2km、最大操作数は50羽。
呪いが侵攻して強まる事により、操作数と効果範囲は増加する。

技能:動物使役2

使役する動物と契約する事により、意志疎通が可能。















あとがき

こ、今回が一番今まで大変でした…。
それはもう、発禁堕山と雪姫、祐輔の邂逅を書いていた時くらいには。
この内容が当時にとって妥当かどうかは正直わかりません。
作者なりに苦心して内容を考え、落とし所を見つけたつもりです。

こんな内容で通るわけないだろ、ボケ。
そう思っても多少は見逃して頂けると助かります。

前回に引き続き、今度は500番の感想を書き込んだ方の読みたい物語を書きます。
ぜひぜひ狙ってみてくださいwww


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