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No.4143の一覧
[0] 東方狂想曲(オリ主転生物 東方Project)[お爺さん](2008/12/07 12:18)
[1] 第一話 俺死ぬの早くないっスか?[お爺さん](2008/09/28 13:45)
[2] 第二話 死ぬ死ぬ!! 空とか飛べなくていいから!![お爺さん](2008/10/26 12:42)
[3] 第三話 三毛猫! ゲットだぜ!![お爺さん](2009/01/05 09:13)
[4] 第四話 それじゃ、手始めに核弾頭でも作ってみるか[お爺さん](2008/10/26 12:43)
[5] 第五話 ソレ何て風俗?[お爺さん](2009/01/05 09:13)
[6] 第六話 一番風呂で初体験か……何か卑猥な響きだな[お爺さん](2009/01/05 09:14)
[7] 第七話 ……物好きな奴もいたものだな[お爺さん](2008/10/26 12:44)
[8] 霧葉の幻想郷レポート[お爺さん](2008/10/26 12:44)
[9] 第八話 訂正……やっぱ浦島太郎だわ[お爺さん](2009/01/05 09:15)
[10] 第九話 ふむ……良い湯だな[お爺さん](2008/11/23 12:08)
[11] 霧葉とテレビゲーム[お爺さん](2008/11/23 12:08)
[12] 第十話 よっす、竹の子泥棒[お爺さん](2008/11/23 12:11)
[13] 第十一話 団子うめぇ[お爺さん](2008/12/07 12:15)
[14] 第十二話 伏せだ、クソオオカミ[お爺さん](2009/01/05 09:16)
[15] 第十三話 おはよう、那由他[お爺さん](2009/02/01 11:50)
[16] 第十四話 いいこと思いついた。お前以下略[お爺さん](2009/05/10 12:49)
[17] 第十五話 そんなこと言う人、嫌いですっ![お爺さん](2009/05/10 12:51)
[18] 霧葉と似非火浣布[お爺さん](2009/05/10 12:51)
[19] 第十六話 ゴメン、漏らした[お爺さん](2009/06/21 12:35)
[20] 第十七話 ボスケテ[お爺さん](2009/11/18 11:10)
[21] 第十八話 ジャンプしても金なんか出ないッス[お爺さん](2009/11/18 11:11)
[22] 第十九話 すっ、すまねぇな、ベジータ……[お爺さん](2010/01/28 16:40)
[23] 第二十話 那由他ェ……[お爺さん](2010/07/30 16:15)
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[4143] 第六話 一番風呂で初体験か……何か卑猥な響きだな
Name: お爺さん◆97398ed7 ID:a9e9c909 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/05 09:14



 私達は『その時』を、息を潜めて待っていた。一匹たりとも言葉を発さず、真剣な表情で『それ』が動くのを待っていた。

 始めは皆が笑っていた。自分達よりも幼い子供が、そんな夢みたいな代物を思いつく訳がないと、隊長を目の前にして笑ってしまった。

 隊長はその事を咎めなかった。きっと隊長も同じ気持ちだったに違いないと、その時は一方的に決め付けていた。


「空も飛べない弾幕も出せない、力だけの兎妖怪に何が出来る」


 私達の中の一匹が、そう言った。その時当の本人は未だ畑を耕していて、会話の内容が聞こえているとは思えなかった。いや、そもそも言葉が通じるのかさえ、私達の中では疑問だった。

 無表情、喋らない、何を考えてるのか分からない……それが、当時の『彼』に対する私達の印象だった。隊長の前ではころころと表情が変わるらしいのだが、誰一匹として見た事はなかった。それに『彼』の怒った顔や笑った顔なんて、何時もの様子からは想像も出来なかったために、私達はそれが単なる噂だと思っていた。

 だから隊長が『それ』の設計図を見せた時、私達の驚きようは凄まじかった。明らかに人の手で書かれた筆跡、高度過ぎる内容……理解出来たのは『それ』が私達の利益に繋がる物だという事と、所々に書かれた数字だけだった。

 あの隊長自らが頭を下げるという事もあって、私達は早速『それ』の製造に取り掛かった。『機械隊』に選ばれた私達は、何時もの畑仕事を数倍早く終わらせ、隊長の指示に従って竹を切り、組み立てる。そんな日を一週間程続けた。

 だが、私は疑問に思っていた。こんな単純な作業だけで、あのような物が造れるのかと、ずっと疑問に思っていた。しかしそれも、昨日――組み立てが完成した時になって、ようやく気が付いた。私達が作っていたのは『それ』を覆う為のカバーなのだという事に……。

 原理が分かっている『散水隊』に比べ、私達『機械隊』の『それ』は、原理が全く分からない。当然だ。『彼』は最初から自分一人で造っていたのだから……。

 さっき『彼』があの中に何を入れていたのか、私達には分からない。ただ、私達とは違った考えを持っているという事しか理解出来なかった。

 『彼』が『それ』から伸びた一対の棒を手にする。私達にとって重たい『それ』を持ち上げ、ゆっくりと足を進めた。『それ』の前方に取り付けられた一つの車輪が動き出し……『それ』の下で、土が掘り返された。

 思わず、私達は歓声を上げた。動いた、動いたんだ! という喜びが私の中で広がってゆく。その気持ちは、皆同じだった。


「よくやった諸君。本日は一本つけるぞ」


 滅多に褒美を与えない隊長からは予想外の言葉が出てきた。祭りか宴会の時でしか酒を飲めない私達にとって、それは何にも勝る報酬だった。

 ふと何気なく『彼』に視線が向いた。今彼はどんな顔をしているのだろうか、少しだけ疑問に思ったのだ。だが彼の顔を見た瞬間、軽率な自分の行為を後悔した。直に顔を背けたが、一度高鳴った動悸は治まりそうにない。最初からあんな顔をしていれば、きっと私達が抱く印象も変わっていただろう。

 何せ無邪気に笑うその表情は、この上もなく愛らしかったのだから……。















東方狂想曲

第六話 一番風呂で初体験か……何か卑猥な響きだな















 俺と那由他は、父さんの前で深々と土下座していた。別に何か悪戯をやらかしたって訳じゃない。いやまぁ、限りなくそれに近いかもしれないが……とりあえず今は御代官様に懇願する越後屋よろしく、頭を下げる。

 そんな俺達の様子に慣れていない父さんは、両手を振って慌てていた。顔を上げなくてもその様が簡単に想像出来てしまう辺り、やっぱりこの人は俺の父さんなんだなぁとしみじみと感じてしまう。たった一年間の生活で、この人が浮かべる表情のパターンは大体記憶済みだ。


「無理を言ってすまんな、悠斗殿」

「いいっていいって、どうせ元から大して使わないんだから」


 未だ那由他の渋声に慣れていない父さんは、この予想外の事態に本気で慌てていた。その様子が少しだけ可愛いと思ったのは、多分その幼い外見の所為だろう。


『マジでありがとう、父さん』

「ほらほら。いいから頭上げて、ね?」


 喋れない俺も那由他に倣って感謝の念を贈る。息子がそんな状態なので、普段呑気な父さんもいい加減テンパり始めたかもしれない。やっぱ可愛いな。

 さて、何故こんなカオスな状態になっているかといえば、それには勿論理由がある。父さん母さんの愛の営みを『話は聞かせて貰ったぞ』とばかりに邪魔した訳でもなく、夕飯のつまみ食いをした訳でもない……後者に限っては、むしろ賄い料理として夜食を部屋に持ってくる位、両親は俺に甘い。

 しかし、今回に限ってはそうも言ってられない。何せ勝手に『酒を出す』と約束してしまったのだ。流石にこれは勝手が過ぎると、その時ばかりは那由他にマジ切れした。地位の低い俺にそこまで要求するなと散々罵倒した。だが那由他もそうなる事を分かっていたらしく、特に反論らしい反論もなく、逆にこっちの興が削がれてしまった。

 永遠亭に戻ってからの俺の行動は速かった。時間を稼ぐ為に兎達を普段入れない風呂に入れ――許可は直前に八意先生から貰った――父さんの元へ足を運び、こうやって頼み込む事で酒を出してもらうよう手配した。こうして振り返って見ると思いっきり私情でしかないんだが、ここは『若気の至り』という事で目を瞑ろう。


「えーっと、折角だから鶏でも下そうか? お酒飲むとなったら、野菜だけじゃ物足りないだろうし……」

「出来るのか?」

「うん、どうせバレっこないよ」


 父さん、それ隠蔽工作って言わね? まぁどうせ兎なんだから、皆大して胃袋も大きくないけどさぁ……ぶっちゃけ笑顔で言う事じゃないと思うんだ、俺は。

 そんな事を内心思いつつも、実は俺も結構期待していたりする。何せ酒も肉料理も、この身体になって初めてなのだ。総隊長――てゐだっけ? 未だに見たこと無いけど――以上になると、別の部屋で豪勢な料理を食す事が出来るらしいのだが、低い身分の俺には雲の上の話でしかない。当然酒も肉料理も夢のまた夢だ。

 前世では『鋼鉄の胃袋』と謳われた俺だが、それも今となっては見る影もない。身体のサイズがサイズなので仕方ない事ではあるのだが、幸運な事に酒はその定義に当てはまらない。つまりどんなに小さな外見であろうとも、酒豪なら幾らでも飲めるという訳だ。未成年飲酒? そんなの関係ねぇ。


「重ね重ねすまない。この借りはいつかきっと返すぞ」

「だからそんな畏まらなくていいよ。ほら、霧葉もいい加減頭上げて」

『父さんグッジョブ』


 言われた通り頭を上げると同時に親指を立てる。ついでにいい笑顔も浮かべ、俺の喜びを百二十パーセント表現した。耕運機が動いた時も嬉しかったが、今は更に嬉しい。酒の魔力は恐ろしいな。

 すると何やら頬を赤く染める父さん。あれ? 俺もしかしてニコポとかやった? つーか今『アッー!』フラグ立った? 実の親――しかも同性――にフラグ立てるとか流石の俺でもちょっと引くわ。やったの俺だけどさ。

 父さんは自分と大して変わらない俺の頭に手を乗せて、軽く撫でながら口を開いた。


「霧葉のそういう所って、若い頃の母さんにそっくりだよね」

『マジで? いや、そもそも今でも十分若いだろ母さん』

「僕もあの笑顔に被弾したんだよなぁ……」


 そう言って昔に思いを馳せる父さん。被弾とか誰が上手い事言えとツッコミたかったが、割とセンチメンタルな記憶らしいので茶化すのは止めといた。

 しかし同性さえも虜にする魔性の笑みか……母さん、俺は父さん以上に呑気な人だと思ってたけど、何だか印象が変わりそうだわ。ていうか、それだと多分今でも何人か確実に落としてるだろうな。昔のアイドルみたいに根強い人気がありそうだ。


「と、そろそろ準備に取り掛からないと間に合わないな……それじゃ、夕飯楽しみにしててね」

「うむ、期待しているぞ」

『調理長ファイトー』


 俺と那由他の声援に送られて、父さんは厨房の方へと引っ込んでいった。ようやく二人だけになり、俺は盛大にため息を吐いた。何とか那由他の尻拭いをする事に成功したのだ。


『那由他、今度からもう少し自重してくれよ』

「……そう言うがな主、部下を従わせるのにはどうしてもこういう物が必要なのだ」

『ならちゃんと手元にある物を差し出せよ。今回みたいなやり方だと、何時ぞやの日本みたいに反旗を翻されるぞ』

「? ……例えがよく分からんが、事後承諾は良くないという事だな」

『そーゆー事。ま、下っ端の俺に用意できる褒美なんざ高が知れてるがな』


 そう言ってからふと八意先生との約束事を思い出し、俺は風呂場に足を向けた。

 皆が入ってから父さんを探し始めたから、兎達は既に上がっているに違いない。というより、まだ入ってたら時間的に出汁が取れてもおかしくない。風呂の湯が兎鍋の出汁と化していたとなれば、主犯の俺は真先に捕まるだろう。

 まぁ、皆基本的に頭がいいので、そんな事は万に一つもないだろうが……億に一つだったらあるかもしれない。意外と抜けてるんですよ、ウチの兎達。

 ……言っててなんかマジで心配になってきたな。


『急ぐぞ』

「主、せめて主語と動詞だけも頼みたい。流石の私も何を考えているかまでは分からん」

『風呂場で風呂掃除。ついでに皆が出汁になってないか心配。OK?』

「それは……分かった、急ごう」


 一瞬反論しかけたが、何やら苦虫を噛み潰した表情で言う。やはり隊長となると全体の事をよく知っているんだろう。こちらとしては理解が速くて助かる。

 俺と那由他は、慌しく廊下を走りだした。




















 結果から言うと、俺達の心配は杞憂に終わった……多分、いや、半分だけ。

 確かに兎達は既に上がっていて一匹も見当たらなかったが、何と言えばいいのだろう……風呂の湯からは湯気と共に独特の匂いが立ち上っている。その理由は……恐らく想像通りだろう。


『那由他、何か非常にいい匂いが漂ってる気がするんだが……』

「主……それ以上言うな」

『知らぬ間に、皆随分美味しくなって……』

「止めんか!」


 那由他の突進! 急所に当たった! 俺は悶絶している。


『おまっ……こっ、男の勲章に……!』

「馬鹿な事やってないで、さっさと終わらせろ」


 非情な声が飛ぶ。もう少し付き合ってくれてもいいのに……と思いつつも、これ以上からかったら弾幕を出しかねないという理由で諦めることにした。部下思いのいい奴なんだが、飼い主よりも優先されるってのはちょっと悲しい。

 俺は何事もなかったかのように立ち上がり、早速風呂の湯を抜く事にした。え? 急所? 所詮猫の体重ごときじゃビクともしませんよ。


「……私は時折、お前が理解できない」

『何エンディングっぽい事言ってんの、この猫』


 俺は那由他を無視して流れっぱなしの風呂の湯を止め、湯に手を突っ込んで栓を抜いた。やはりというか何と言うか、湯から引き上げた腕には小さな毛が沢山ついていた。八意先生の言うとおり、これは掃除しなければ誰も入れないだろう。

 湯が抜けるまでの間、俺はふと自分の中に沸いた疑問について考える事にした。何気なくやった一連の行為だったが、よく考えればここには大きな矛盾点があった。

 それは『自動で湯が出る』という事……。

 ここで過ごしていると良く分かるのだが、ここの科学技術は明らかに『前世』より低い。何せ耕運機もスプリンクラーも、ましてや蛇口すらなかった。厨房でさえ、毎朝水瓶を溜めなければならない。屋敷も『いかにも』な日本形式を取っているというのだが……どこか違和感を感じる。

 この風呂場に来て、違和感は一層強くなった。贅沢に檜を使って高級感を感じさせるものの、やはりどこか作り物めいた雰囲気は拭えない。例えるなら前世の『旅館』というのが一番しっくり来る。日本形式なのにしっかりと現代科学が練りこまれ、なるべく自然を装っているような造りだ。

 湯を止めたその部分に目をやる。円形のそれは、明らかに『ハンドル』の形状をしていた。湯の吹き出し口は木で覆われて見えないが、恐らくパイプが通っているに違いない。だとしたらこの屋敷のどこかに、ボイラーのような物も設置されているはず……。

 しかし、そこで疑問が生じた。何故こんな物が造られているのかという疑問だ。この屋敷を統治している八意先生なら恐らく知っているのかもしれないが……直接聞く事は出来ないだろう。あの那由他が知らないという事は、つまり『知られたくない事』……そんな事を抜け抜けと聞くのは失礼というものだ。


「……るじ、主?」

『ん……?』

「何をしている。掃除しないのか?」

『ああ、悪ぃ。考え事してた』


 思考回路を切り替える。疑問は当分の間晴れそうにないだろうが、考えなければ全て事足りる。既にある物の歴史なんてのは、結局のところ雑学にしかならないのだから……。

 三つのブラシを手に取って構えた。真面目に考えるのは後でいい。だから今は、すべき事をしよう。


『三刀流の剣豪、ロロノア・ゾロ見参っ!!』

「真面目にやらんか!!」


 那由他に足元掬われました。猫でも学習するのね。




















 白い湯気が立ち上る。人類が発見した初めての桃源郷と言っても過言ではない、その存在。

 身を清め、寒さを防ぎ、いつでも暖かい。元からその存在を知っていた猿達は、人類よりも早くその存在を見つけ、密かに愛用していたとも言われている。

 今ではこうして、人工的な物まで造られている。人々はそれほどまでして、その存在を欲しがったのだ。

 目の前の広い湯船には湯が張られている。そこから立ち上る湯気が、妖花の香りのように俺を誘惑し、一番風呂へと誘う。むくりと俺の中で鎌首をもたげる背徳感――穢れのない存在を俺の色で染め上げるという黒い欲望。事実、俺は既に準備が出来ていた。後は飛び込むなり、ゆっくりと浸かるなりしてその暖かさを堪能すればいい……。

 だが、同時に頭の中で理性が厳しく俺を諭す。入ってはいけない。人――いや、妖怪の新米が一番風呂なんて大層なものを頂いてはいけない。もっと謙虚に生きなければ駄目だ。

 理性と本能の狭間で途方に暮れた俺は、その事を正直に伝える事にした。


『……という訳で、辞退していい?』

「駄目だ」


 那由他の鋭い眼光が俺を射抜いた。今回ばかりはかなり本気らしく、それに籠められてる感情の色がはっきりと分かる。俺はため息を吐いて、那由他の頑固さに呆れた。

 さて、一体全体何がどうしてこうなってしまったんだろうか。さっき掃除が終わるまでは、那由他も俺を風呂に入れようとはしなかったのに。『やっぱブラシも三本じゃねぇとな……』って言わなかったから怒っているのだろうか。随分マイナーな奴だ。


『いや、だって何で俺が風呂入んなきゃならんの? 何時もみたいに濡れた布で拭けば十分じゃん』

「まさか毎日それだけを続けていたとは思わなかったぞ……」

『そんな事言われても風呂に入る時間とか勿体無いし。それに俺あんまり汗かかない体質みたいだから、それで十分なんだよ』

「……」


 お、何か俯いてぷるぷる震え出した。那由他の周囲に何だか黒い靄のようなものが浮き出す。父さん、妖気です! 初めて見たけど妖気って結構黒いんだな。

 しかし那由他が顔を上げた時、そこには満面の笑みが浮かんでいた。そしてその周りに浮いているのは……どこぞの宝具のように待機状態を維持している弾幕だった。


『ちょっ、おまっ!』

「――よいぞ。刃向かう事を許す、主」


 わーお、まんま金ぴかじゃねーか。声明らかに違うけどな。台詞に大きな矛盾が生じてる気がしてならないんだが、揚げ足とるような事言ったら間違いなく被弾して虎の道場に直行するだろう。俺に某英霊みたいな戦闘能力はねーよ。畜生、力で訴えるとかそれでも本当に神の使いかよ。

 だがこうなってしまうともはや俺に成す術はない、大人しく腹を括るしかないだろう。俺は視線を湯船に向け、一度深呼吸する。別にダイビングをやる訳でもないが少しばかり緊張しているのは否めない。何せ風呂に入るのは初めてだ。父さん達と過ごしている間は大抵身体を拭くぐらいで済ませていたし、こっちに来てからも色々と忙しくて入る暇はなかった。

 桶で湯船からお湯を汲み、頭から被る。初めて感じる温かい温度――生前よく浴びていたシャワーに似た感覚――に、俺は思わず目を細めた。俺の身体が、髪が、耳が濡れていく。見下せば否応にも理解させられる昔との身体のギャップに、俺はため息を吐いた。


『一番風呂で初体験か……何か卑猥な響きだな』

「黙って入れ」


 どうやら今の冗談がお気に召さなかったようで、那由他はイラついた様子でそう言った。弾幕も未だ待機状態である。

 俺はそんな那由他に苦笑しながらも湯船に身を沈めた。その途端、身体を包み込むような温かさに、俺は思わず嘆息した。嗚呼、そういえば風呂ってこんな感じなんだよな……と、昔に思いを馳せる。半身浴の方が健康にはいいらしいが、この気持ちよさは肩まで浸からなければ分かるまい。


『あー……いいな、風呂って』

「当たり前だ。これからはもっと頻繁に入るよう心がけろ」

『んー、視野には入れとく』


 確かに気持ちいいが、夜の時間を削ってまで入るとなれば少し考えなければならない。俺にとって生きる為の対策は必要不可欠なものだ。それを考える時間は多いほうがいいに決まっている。だからこそなるべくその時間を多く取っているのだが……これは本気で悩まざるを得ない。

 広くて高級感溢れる檜の湯船を独り占め。こんな機会は生前であっても、そうありはしないだろう。

 数字に表記すれば高々四十程度の水温……そしてそれに浸る程度の行為……だというのに、どうしてこうも心地良いのだろうか。筆舌に尽くし難き、甘美なる桃源郷――風呂。極楽浄土という場所があれば、きっとそれは風呂場に違いない。


『いーい湯ーだーな♪ あははん♪』

「……不快だ」

『うっせ。これを歌わずして何が風呂だ』

「全く、お前の前世は相当変わっているな」


 那由他は呆れたようにため息を吐いた。髪と耳以外体毛が全くない俺と違い、体毛だらけの那由他は風呂には入れずに、湯船の外で俺を見上げていた。その格好が余りにも不憫だったので、俺は桶に湯を張って那由他に差し出した。当の本人は、当然ながら訝しげな視線を返してきた。


「……何の真似だ?」

『いや、風呂場に居ながらも風呂を楽しめないのは悲しいだろーなーと思って……』

「何時になく気が利くな」

『なーに、桃源郷に案内してくれた礼だ』

「風呂が桃源郷とは、随分安っぽい……」

  ―――ガラッ


 俺と那由他は同時に音がした方向へ顔を向けた。本来起こり得るはずのない音源――風呂場の扉が開かれる音。それは即ち、第三者の介入を意味していた。

 そこに居たのは幼い少女だった。入浴用のタオルで前を隠しているが、胸の膨らみは確認出来ない。透き通るような白い肌と、癖のある黒い短髪からピンと伸びた一対のウサ耳が、まるで己という存在を誇示しているかのように見えた。

 俺はその顔に見覚えがあった。俺と那由他が出会った記念すべき日に落とし穴を仕掛けたウサ耳妖怪だ。もっとも、かつて笑顔だったその顔は驚愕に彩られていたが……。


『那由他……俺清掃中の看板出したよな……?』

「……すまん。お前が入る時に私が片付けた」


 ジーザス。お前本当は敵側の神の使いじゃねーよな。そう言おうとした瞬間、少女の時が動き出した。


「いっ……いやあああああああぁぁぁぁぁ!!!」

『うおっ! 弾でかっ!?』


 少女の手から特大の弾が放たれる。俺は咄嗟に湯船から飛び出てそれを避けた。湯船と直撃した弾は反射してボールのような軌道を描く。大きさは俺と同等で家紋のような模様がある、随分特異な弾だと思った。

 再び少女が手をかざす。今度は一発じゃ済まないのは明らかだ。弾幕を撃てない俺が、一番遭遇してはいけないアクシデントに直面してしまった。


『那由他! 何か対策は!?』

「此方が倒れるか、それとも彼方を倒すか。二択に一つだな」


 こちらも冷静に返答してくれる。俺と違って冷静なのは、きっと弾幕が使えるからに違いない。その態度が今はちょっぴりムカついた。よく考えてみれば、これは俺じゃなくて那由他が引き起こした事態だ。なら、この場も那由他自身に治めて貰おう。

 俺は那由他の首根っこを掴み上げ、某野球選手のように素早く少女に向かってブン投げた。


『行っけぇ!! 那由他レーザービーム!!』

「貴様アアアアァァァァ!!!」


 ドップラー効果を残し、那由他は一直線に少女に迫る……と思いきや、空中で体勢を立て直してその手前に降り立った。何だかんだ言って足止めはしてくれるらしい。やっぱ持つものは友達だな(外道)。


「やあああぁぁぁぁ!!!」

「駄目兎イィ!! 貴様後で覚えていろぉ!!」


 テンパっているウサ耳少女と怒り狂っている那由他。対峙し、今まさに弾幕ごっこを始めようとしている二人の横を、俺は一直線に駆け抜けた。この時ばかりは、生まれて初めて全速力で走った気がする。湯煙を潜り抜けて脱衣所へと到達し、逃げ切った! という達成感を感じ取る前に俺は顔面に衝撃を受けた。


『何……だと……!』


 脱衣所には思わぬ伏兵が居たのだ。俺の顔面に拳をめり込ませた本人も、信じられないとでも言いたげに目を見開いていた。

 彼女の名はレイセン――極端に長いウサ耳と髪を持つ、月から来たという電波な女子高生だ。一応八意先生の弟子らしく、地位は総隊長よりも高いという。見開かれた瞳の色は血のように赤く――思わずレッドアイズと呼びたい衝動に駆られる。ドラゴンじゃねーけど。

 彼女も風呂に入ろうとしていたらしく、何時も着ている制服は纏っていなかった。代わりにあったのは控えめな乳房と均整のとれた肢体、そしてさっきの少女にも負けないぐらいの白い肌……不意に振られた裏拳が俺の顔にクリーンヒットしてなければ、きっと完璧だっただろう。

 嗚呼、多分風俗に居たら間違いなくトップ取れるな……などと下らないことを考えつつも、吹っ飛ばされた俺は意識を失った。


『……いいパンチだ』


 最後にその一言だけを残して……。










登場人物ステータス
霧葉   職業:駄目兎
魔性の笑み:言わずと知れた主人公補正。ダイスを振り、抵抗判定を決定する。動物ならば六、人間・妖怪ならば五以上で抵抗に成功する。尚、年齢百年単位で数を一つ減らす事が出来るが、一以下にはならない。抵抗に失敗した場合、魅了・錯乱・欲情の三つの状態異常が起きる。一定時間経てば元に戻るが、出た目が一の場合後遺症が残る事がある。喜色満面の笑みでなければこのスキル自体が発動しないため、作中では非常に使い勝手が悪い。

那由他  職業:耕作班隊長
王の懇願:土下座の超強化版。コインを投げ、抵抗判定を決定する。五回投げ、全て裏もしくは表であれば抵抗に成功する。相手に『カリスマ』のスキルが備わっている場合、投げる回数を一回だけ減らす事が出来る。抵抗に失敗した場合、どんな無茶な要求でも呑まなければならない。その後行動に移るかどうかは、また別の判定が必要。非常に使い勝手がいい。



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