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No.4143の一覧
[0] 東方狂想曲(オリ主転生物 東方Project)[お爺さん](2008/12/07 12:18)
[1] 第一話 俺死ぬの早くないっスか?[お爺さん](2008/09/28 13:45)
[2] 第二話 死ぬ死ぬ!! 空とか飛べなくていいから!![お爺さん](2008/10/26 12:42)
[3] 第三話 三毛猫! ゲットだぜ!![お爺さん](2009/01/05 09:13)
[4] 第四話 それじゃ、手始めに核弾頭でも作ってみるか[お爺さん](2008/10/26 12:43)
[5] 第五話 ソレ何て風俗?[お爺さん](2009/01/05 09:13)
[6] 第六話 一番風呂で初体験か……何か卑猥な響きだな[お爺さん](2009/01/05 09:14)
[7] 第七話 ……物好きな奴もいたものだな[お爺さん](2008/10/26 12:44)
[8] 霧葉の幻想郷レポート[お爺さん](2008/10/26 12:44)
[9] 第八話 訂正……やっぱ浦島太郎だわ[お爺さん](2009/01/05 09:15)
[10] 第九話 ふむ……良い湯だな[お爺さん](2008/11/23 12:08)
[11] 霧葉とテレビゲーム[お爺さん](2008/11/23 12:08)
[12] 第十話 よっす、竹の子泥棒[お爺さん](2008/11/23 12:11)
[13] 第十一話 団子うめぇ[お爺さん](2008/12/07 12:15)
[14] 第十二話 伏せだ、クソオオカミ[お爺さん](2009/01/05 09:16)
[15] 第十三話 おはよう、那由他[お爺さん](2009/02/01 11:50)
[16] 第十四話 いいこと思いついた。お前以下略[お爺さん](2009/05/10 12:49)
[17] 第十五話 そんなこと言う人、嫌いですっ![お爺さん](2009/05/10 12:51)
[18] 霧葉と似非火浣布[お爺さん](2009/05/10 12:51)
[19] 第十六話 ゴメン、漏らした[お爺さん](2009/06/21 12:35)
[20] 第十七話 ボスケテ[お爺さん](2009/11/18 11:10)
[21] 第十八話 ジャンプしても金なんか出ないッス[お爺さん](2009/11/18 11:11)
[22] 第十九話 すっ、すまねぇな、ベジータ……[お爺さん](2010/01/28 16:40)
[23] 第二十話 那由他ェ……[お爺さん](2010/07/30 16:15)
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[4143] 第三話 三毛猫! ゲットだぜ!!
Name: お爺さん◆97398ed7 ID:b7c0092b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/05 09:13



 生物の使命とは、一体何であろうか?

 大抵の者はこう答えるだろう。『生きた証を残す事』……確かに的を得た答えではある。

 しかし、それでは興に欠ける。人生は長いのだ。『生きた証』なぞ、いつでも残せる。ならば生物は、一体何に時間をかけるべきなのだろうか。


  ―――なぁお……


 一匹の猫が居た。とても珍しい、雄の三毛猫だった。

 彼はとある少女に恋慕の念を抱いていた。しかし、二人の間には大きな溝が存在した。

 どうすればいい……? 決して実らぬ己の恋に、雄猫は苦悩した。そうして悩み抜いている内に、彼の熱は次第に冷えていった。

 もうどうやっても叶わない。

 厳しい現実を目の当たりにして、彼は段々少女と距離を置く。そして少女の知らぬ内に、彼は姿を消した。

 一体どれだけ走っただろうか。自分の両足が悲鳴を上げ始めてから一時間……ついに彼は地に伏した。

 薄れる意識の中で雄猫は死を覚悟した。彼にとって、その少女だけが全てだった。叶わぬのならば生きる価値などありはしない。そう思っていた。


『あーあー、テステス。私の声聞こえますかー?』


 この場に相応しくない、軽い声がかけられるまで。















東方狂想曲

第三話 三毛猫! ゲットだぜ!!















 皆様こんにちは。ウサ耳妖怪の息子こと霧葉は、めでたく生後六ヶ月を迎えました。まだ一歳にもなってない若造ですが、これからも日々精進して頑張っていこうと思います。

 とりあえず生まれてから今に至るまでの感想を一言で表すなら『ねーよ……』という言葉がしっくりくるのでしょうね。非常識過ぎて呆れてしまいます。ストレス過多で胃が痛くなりそうです。

 直接口に出してみれば、このストレス量も減るのでしょうか? 声は出ずとも何事も形式というのは大事ですから、ひょっとしたら何かしらの効果はあるかもしれません。

 ではやってみましょう。せーの……。


『ありえねぇ……』


 ようやく夢の世界から帰って来れた。やっぱり『御約束』ってのは大事なんだなぁと、しみじみ思う。

 そもそも俺がそんな状態に陥っていたのには、当然理由があった。この現実離れしたウサ耳妖怪の身体だ。要するに生まれ変わった俺の身体。

 簡潔に言うと、成長が異様に早い。俺の記憶が正しければ、生後一ヶ月目にはあんよが出来た。現在は二足歩行どころか走る事も可能だ。進化の過程を五段飛ばしで駆け上がった気分だった。

 身長も既に五歳児ぐらい……余裕で父さん母さんの腰に抱き付けます。本当に生後半年か? 俺。

 しかし、両親二人の反応を見る限りこれが普通らしい。聞く所によると二ヶ月で喋れるというのだから、もう驚くを通り過ごして呆れてしまった。兎って早熟だったんだな。飼った事ないから知らなかったぞ。

 更に驚く事は他にもあった。

 俺や両親みたいなウサ耳妖怪――要するに人型の兎妖怪は、出産率がかなり低いらしい。まぁ確かに、母さんみたいな幼児体型で俺を生めたのは奇跡みたいなもんだったから、それは頷けた。普通の兎みたいにポコポコ増える様は想像出来そうにない。

 そして人型の妖怪というのは、総じて長寿なのだという。これは短命な俺にとって非常にいい事のようにも思えたのだが、よく考えてみれば俺は、人間の頃一度も寿命で死んだ事がなかった。つまりこれは蛇足的な設定に過ぎない。どう考えてもぬか喜びです。本当にありがとうございました。

 閑話休題。そんな訳で、成長が異様に早くて寿命が無駄に長いというのが、新しい俺の身体の特徴だった。そして俺が一歳になったら、こうして三人で一軒家に住む生活も終わり、一緒に『永遠亭』で勉学を教わったり仕事を手伝わされるとのこと。『賑やかな職場』とは父さん談だ。

 さて、ここで問題。生まれて六ヶ月も経てば、妖怪は誰でも『ある事』が出来るようになります。それは一体何でしょうか?

 答えは……。


「竹にしがみ付いてちゃ、飛べるものも飛べないよ~」

『だから無理だっちゅーねん!!』


 はい、その通り。現在文字通り『飛行訓練』の真っ最中でございます。

 大きな竹の天辺付近で、白旗のように強風で煽られているのが俺です。両親はそんな俺を数メートル離れた場所で優しく見守っていてくれます。飛びながら。

 ドラゴ■ボールではどうやって飛んでたっけ? とりあえず飛ぶ方法が分からないために、力一杯竹にしがみ付く俺でした。


「大丈夫! 手を放して『ぶわっ』ってなったら、『ふわっ』ってすれば飛べるから!」

『日本語でおk!!』


 何その『ぶわっ』とか『ふわっ』って。もっと具体的なアドバイスが欲しかったよ、父さん。教師役のボキャブラリーの少なさにちょっと泣きたくなった。

 中々飛ぼうとしない俺に業を煮やした二人は、くっ付きあってヒソヒソ話を始めた。前よりは若干薄くなった桃色空間が展開するが、今の俺に止める術はなかった。

 己の無力さに嘆きながらも、それでも空を飛ぶ気にはならない。俺が生まれたての頃に落とされかけた回数は、既に二桁を上回っている。両親は偶然だと、互いに口を揃えて言うが、アレは間違いなく死亡フラグというヤツだったんだろう。

 ……何やら話し合いが終わったらしく、二人は大仰に手を振りながら口を開いた。


「霧葉ー! お父さんたち先に帰って、夕飯の準備してるからねー!」

「霧葉の大好物作って待ってるよ~!」

『……あー……』


 いわゆる『飴と鞭』ってヤツですね。分かります。

 それだけ言うと、二人は下に降りていってしまった。取り残されたのは、飛べないウサ耳妖怪。俺はため息を吐いて、雲だらけの空を見上げた。

 両親は飛べない俺を飛ばそうとして、色々と試行錯誤を繰り返しながら訓練をつけてくれる。それが――まぁ、こう改めて口にすると照れ臭い事だが――俺への愛情からくる行為だというのは分かっている。しかし俺は、どうやったって飛べそうになかった。










 あれは何度目の事だったろうか。何時ものように嫌々ながらも父さんに抱かれて、空を飛んだ日。しっかり摑まってたハズなのに落下したあの時……。

 世界が変わった。

 竹林がレンガの壁へと変わり、俺はいつの間にか円柱形の塔の内部を落ちていた。

 ゆっくりと――それこそレンガの数を数えられるぐらい、緩やかなスピードで俺は落ちていった。

 段々遠くなる塔の淵。小さくなっていく空の穴。そして背後に迫る……剣の山。

 どうして落ちているのか、どうしてこんなものが見えるのか、全く分からなかった。

 血の気が引く。心臓を鷲摑みにされる感覚。全身に鳥肌が立ち、汗が流れ始める。

 間一髪の所で父さんに助けられたが、その瞬間俺は意識を完全に断った。










 それからだった。身体が宙に投げ出される度に、その時の事がフラッシュバックする。これでは飛ぶ練習さえ出来そうにない。こうして竹にしがみ付いている分には問題ないのだが、手を放せば間違いなく死ぬ。神様公認で短命な為、それ位の予想は簡単につく。

 かといって、このままだと両親は俺に失望してしまうかもしれない。それはキツい。マジで。

 つまり今俺がしなければならない事は『空を飛ぶ練習をしつつも死亡フラグ回避』……あれ? 無理臭くね?


『どうするかなぁ……』


 竹の上でぶらぶらと風に揺られながら考える……とはいえ、実は既に腹は決まっていた。


『……やっぱり父さん達には悪いけど、サボらせて貰う事にしよう』


 妖怪特有の馬鹿力でするすると竹から降りていく。この規格外の腕力がなければ、強風に飛ばされずに居る事は不可能だっただろう。しかし力を入れ過ぎると竹に亀裂が入るため、その事を頭に入れてある程度の加減はする。

 ……竹が悲鳴上げる程の俺の腕力って……。

 今更ながら度々重なる自分の非常識さにショックを受けつつも、地面に降り立つ。見上げれば、力加減を間違えて所々に罅が入った竹が、天に向かって聳え立っていた。

 ……やべぇ……練習してないのバレバレじゃん……。叱られるのは別に構わないんだが、あの両親だと逆に泣かれそうだ。ぶっちゃけその方がキツイ。何か手はないものか……。


  ―――ガサッ

『ん?』


 音がした方へ視線を向けると、猫がいた。三毛猫だ。猫は俺と視線が合うと、一目散に逃げ出した。何気なく逃げていくその後姿を見つめて……。

 俺に、電流走る。

 竹の上から猫を見つける。気になって下りる。猫逃げ出す。好奇心に駆られて後を追う。練習出来なかった。ならしょうがないね、六ヶ月だもん。

 こ れ だ  ! !


『フフフ……神よ、俺は初めてアンタに感謝した!!』


 空は飛べずとも、足の速さなら自信がある。俺が両親に唯一勝てたものは駆けっこだ。並の猫なんて目じゃないぜ!!

 そして俺は、風になった。




















 普通の成人にとって、その家は狭く感じられたかもしれない。だがそこに住んでいるのは三人の妖怪――子供の外見をしている彼らにとっては、これぐらいの家が丁度いい。

 何時もより広く感じられる座敷。それもその筈、今ここに居るのは二人だけだからだ。二人の子供は今頃、必死になって飛ぼうとしているだろう。二人もそれを望んでいる。

 『兎は獣ではなく鳥だ』……かつて食べられるためだけに言われたその言葉を真実にするために、兎妖怪達は皆、空を飛ぶのだ。


「しかし、何で霧葉はあんなに飛ぶのを嫌がるんだろうね?」

「そりゃあ、悠斗君に何度も落とされてるからでしょ?」

「麻耶も落としたくせに」

「だって~……ねぇ?」

「……はいはい」


 そう言って少年に抱きつく少女。そして小さな胸の中で至福の表情を浮かべた。少年も何でもないように装っているが、堪え切れぬ嬉しさに口元が緩んでいる。

 霧葉が生まれてからというもの、二人は過度なシキンシップは取らないようにしていた。それでも耐え切れない時は、自然と互いに求めてしまうが、何時も寸前の所で自分の子供に邪魔をされてしまう。まるで、自分達がしている事が分かっているかのように……。

 二人は霧葉が頭のいい子供だと薄々気が付いていた。夜泣きする回数は急激に減り、時折自分達に隠れて月光浴をする事もあった。自分から妖怪としての力を、着々と強めているのだと二人は思っていた。……実際は悪夢に耐性がついてきたり、ただ単に月光浴が気持ちいいだけなのだが……知らぬが仏とは言うものだ。

 しかし、だからこそ未だに飛べない彼が、二人は理解できなかった。妖怪は歩くのと同じように空を飛べる。飛べない妖怪もいるにはいるが、それは低級の妖怪ばかりだ。人型として生まれたのならば、もう飛べてもおかしくない。それこそ生後数日で飛べても、驚く事ではないのだ。

 余りに遅すぎる。これでは自分達の子供が、何かと苦労してしまうのは火を見るよりも明らかだ。……そう感じた二人は、心を鬼にして、彼を取り残して行ったのだ。後ろ髪を引かれつつも、『これも息子の未来のためを思えば……』という心情で家に帰ったのだが……。


「ねぇ……」

「ん……どしたの? やっぱり心配?」

「それもあるけど……最近霧葉の目が厳しかったでしょ? だから……」

「……ああ、了解」

「ひゃっ……ぅん……」

「何だ、もう準備出来てるんだ……」

「だって……久しぶりだったからぁ……」

「ん……」

「は……む……」


 ……すっかり自分達の世界に入っていた。




















『三毛猫! ゲットだぜ!!』

「黙れ!!」


 いい感じで胸元からアッパーカットが決まった。だが猫パンチなので痛くはない。むしろちょっと気持ちよかった。

 いやぁ、三毛猫を捕まえたのはいいんだが、捕まえたと同時に落とし穴発動ってどういう事? 死ぬかと思いましたよ。生きてるけど身体中が痛いです。あ、罠カードですか? そうですか。


『いや待て、これは孔明の罠だ』

「それは既に故人だろう」

『罠だけ残してたんだ! きっと!』

「その考えはないな」

『畜生ッ! 猫のクセに一々律儀なツッコミ入れやがって!!』

「愚か者め! 化け猫だと何度言えば分かる!!」


 ……とりあえず色々と説明する事はあるのだが、まずは先ほど知り合ったこの三毛猫について紹介しなければならない。

 実はこの三毛猫、希少な雄であり、それと同時に『誇り高き化け猫』の一族とのこと。なら飛べんじゃない? と聞いてみた所、コイツも俺と同じように飛ぶ事が出来ないらしい。そのため俺から追われた時も、走って逃げたのだという。追いつくのにてこずったのはその所為か……。

 そして何とかコイツに追いつき、ヘッドスライディングで捕獲した瞬間、地面が陥没して現在に至る。誰だよ、こんな竹林の中に落とし穴掘った奴は。

 そんなこんなで途方に暮れていると、急に俺を叱責する声が聞こえた。やけに低くて逞しいその声の持ち主は……この三毛猫だった。

 ……いや、呆気に取られたね。色々と穢れてる俺も『童心の夢』ってのは持ってたから、ショックも割とでかかった。落ち込んでいる俺に、再び三毛猫の声がかけられた時はマジで『殺るか…』って思った。

 しかしそこで俺は気付いた。このやたらとダンディな猫が、俺の言葉を聞き取れている事に。ちゃんと俺が言いたい事を理解している事に……。


『……で、何で俺の言いたい事が分かるんだ……?』

「ふっ、神の力を得た私と会話出来ぬ生物など、この世にいな……おい、その目を止めろ」


 黄色い救急車必須の主張だった。もしこれが声と同じような外見をしたオッサンだったら、間違いなく白い目で見るだろう。喋る猫だからこそ、俺は哀れんだ視線だけを送ってやる。きっと頭の打ち所が悪かったに違いない。だからこんなイカレた事を……って神?

 神、いわゆるゴッド。俺を賭けの対象にしたバラすべき存在。という事はもしや……。


『どうやって「神の力」とかいうのを手に入れたんだ?』

「クククククッ……よくぞ聞いてくれた。それには聞くも涙、語るも涙の物語があるのだ。まずそもそも私は」

『はよ言えや』


 猫を抱く腕に、徐々に力を込めていく。それに気付き、必死になって腕から出ようともがき苦しむ猫だったが、生憎そんな生半可な攻撃でどうにかなるものでもない。人型妖怪なめんな。


「くっ! 分かった! 話すから力を抜け童!」

『あいよー』


 言われたとおり力を抜く。だがまだ放しはしない。こっちは一応真剣に話をしているのだ。与太話を聞いているような余裕はない。


「全く……これだから生まれて間もない妖怪というのは……」

『もっかいいっとく?』

「私がこの力に目覚めた時の話だったな。貴様はその耳をちゃんと立てて拝聴するがいい」


 偉そうなこと言いながら開き直りましたよコイツ。渋い声の所為でかなり様になってるのが逆に憎たらしい。

 俺は身体を強張らせた。別にこの猫がいきなり殺気立った訳でもなければ、トラウマがぶり返した訳でもない。ただ単にそうしないと耳が立たないからだ。誠意には誠意を、父さんが口を酸っぱくして言う言葉だ。例えふざけた条件であっても、情報提示してくれるコイツの主張も聞いてやらねばならない。

 ピンッと耳が立った。その様子を見て猫は満足げに頷き、口を開いた。


「ふむ、冗談のつもりだったのだが、その性根は確かなもののようだな。ならば応えねば私の主義に反する。
 しかし残念ながらそう面白味のある話ではない。私がこの力を手に入れたのは、ただ単に『神の啓示』を受けたに過ぎない」

『……』

「それによると、十年後に酷く短命な生物が生まれるというのだ。本来ならば『神の使い』が遣される筈だったのだが、多忙な為にそれは不可能だったらしい。
 そこで選ばれたのがこの私だ。多大な神の加護を与えられた私の使命は、その者を護る事であり……」


 段々と饒舌になってくる三毛猫。その声色から自分の使命感とやらに陶酔しているのがよく分かる。これ以上は聞かなくても大丈夫だろう。

 だがこれで確信した。やっぱり神の使いってのはコイツだ。余り認めたくはないが、この様子だと本当に俺を護衛する任務も負っていそうだ。そもそもその外見で護衛できるのだろうか? ……まぁ、いざとなったら身代わりぐらいにはなるだろう。


「だが!! もう半年も探し続けているというのにそいつは現れない!! 私は身を粉にして幻想郷中を探し回った。何度も何度も同じ所を回ってはため息を吐き、もしやもう死んでしまったのかと思うと……私は自分の無力さに虫唾が走るのだ!!」

『あ、大丈夫。それ俺だから』

「だから今日も探していたというのに、全く貴様ときたらいきなり追いかけ……なんだと?」

『いやだからその短命な生物っての、間違いなく俺だ。神様公認ってのはムカツクけどな』


 そう言って鼻で笑うと、三毛猫は何やらポカーンと口を開けていた。猫がそんな表情をするのは非常にシュールだ。さっき威張り腐ってただけに、そのギャップが激し過ぎる。思わず吹き出しそうになったが、コイツがなにやらプルプルと震え始めたのに気付き、どうしたのかと思わず首を傾げた。

 その瞬間、空気が揺れた。


「愚か者が!! 貴様私がどれだけ探したと思っている!? 半年、半年だぞ!? 一日が終わる度に憂鬱な気分になる日々を、貴様は体感した事があるか!!? いいや無い!!
 私は前世で説明を受けたと聞いていた! ならば何故生まれて直ぐにでも私を探さない?! 広い幻想郷の中を私一人で、たった一つの生物を探すこちらの身にもなってみろ!!!」

『み……耳がぁ……きーんって……ぐわんぐわんって……』

「そうやって探し続けていた私と違い、貴様はいいな!? 竹登りの後には猫を追いかけて遊ぶのか!? そうやってずっと遊び呆けていたのだな!? この大馬鹿者め!!」


 くっ……耳が痛い。穴の中だけに音が反響して、聴覚に直接攻撃を仕掛けてきやがる……。

 しかし、このまま言わせておくのは頂けない。特に最後。遊び呆けてただと? 勝手な想像しやがって。


『違ぇよ! 遊び呆けてなんているもんか!! お前だって知らないだろうがな、家のバカップルの甘い空間の中長時間居座ってる俺の身にもなってみろ!!? 死ぬぞ!? 悶死するぞ!?
 それにな! あんまり分かんねぇと思うけどな、毎日毎日注意して過ごさねぇとあっという間に御陀仏なんだよ!! 俺の生活は!!』

「ほほぅ、それは大変だな小僧! 生まれたばかりではあんよも上手に出来ぬのか!? それだから未だ尻も青いままなのだ!! 本当に成長しているのだと言うのならば、この穴ぐらい飛んで脱出するぐらいは楽にやってのけろ!!」

『ざけんな!! 自分が飛べない事棚に上げやがって!! お前だって化け猫になってから十年も経ったんだろ!? だったら俺をこっから出してみな!!』

「なんだと!? この駄目兎が!!」

『んだと!? このクソ猫が!!』

「……もしもーし、聞こえますか~?」


 いい感じにヒートアップしてきた俺達の会話に入り込んでくるツワモノが居た。俺達が揃ったように声のした方を向くと、母さんと変わらない外見をしたウサ耳妖怪が、ひょっこりと落とし穴を覗き込んでいた。

 丁度いい。今はとりあえず彼女に助けてもらう事にしよう。


『あの……って、俺喋れねーじゃん……』

「……どこの誰かは存じぬが、私達を助けてくれぬか?」

「了解ー」


 ぎょっとして胸元に目をやる。そこには先ほどと違い、真摯な目をした三毛猫が天を仰いでいた。

 驚く暇もなく、すぐ傍に少女が降り立った。どう見ても子供にしか見えないが、ウサ耳妖怪は長寿だ。こんな外見をしていてもそれなりの年月を生きているに違いない。

 差し伸べられたその手を借りて立ち上がる。そのまま満面の笑みを向けられ、思わず赤面した。……ロリコンじゃないんだよ。ただ単に顔が近いだけなんだよ。

 ふわりと宙に浮く感覚。赤ん坊の頃から何度も体験したそれに、若干冷や汗を流しつつも俺達は外へ出る事に成功した。


『ようやく出られたー!! って外暗っ!?』

「すまぬな、主はまだ飛べないのだ。手間をかけさせて悪かった」

「いいっていいって。そんな畏まらなくても」


 開放感を存分に味わう俺と違い、三毛猫はウサ耳妖怪に感謝していた。ツッコミを期待していた俺が場違いな馬鹿に思えてきたため、慌てて頭を下げる。

 そんな俺に対しても、やはりウサ耳妖怪は同じように苦笑を浮かべて両手をぶんぶんと振った。


「だからいいんだってば。だってあれ仕掛けたの私だし……あっ」


 はい、なんだか爆弾発言しちゃいましたよ、この子。どうりでおかしいと思った。どうして家の近くにはない落とし穴が、こんな所にあるのか。竹の子泥棒のために設置しているんだったら、それこそ家の近くに設置した方がいい。つまりこの落とし穴は悪戯用。だから穴の中に何も仕掛けられてなかったのだろう。……槍とか仕掛けられてたら、それこそ死んでたな。


「……娘よ、私達は何も聞かなかった事にする。だがこれでおあいこだ」

「うん、怖がらせちゃってごめんね」


 そう言って俺の頭に手を置く少女……って!?


『えぇ!? 俺撫でられてる!?』

「良かったな。主」


 うっさい。声色でニヤニヤしてんの丸分かりだぞ、後で覚えとけコノヤロー。

 あまりの恥ずかしさに硬直している俺に構わず、少女は一分ほど撫で続けていた。




















「本当、良かったではないか。主?」

『……うっせー』


 軽く謝罪の言い合いをしてから少女と別れ、俺達二人は帰路についていた。空はもう薄暗く、月が顔を出している。

 多分月明かりに照らされた俺の顔は、さぞかし真赤な事だろう。その理由は主に羞恥心とか羞恥心とか羞恥心とか……。

 だって考えてもみてくれ。中身二十代の大の大人が、外見だけしか分からんけど十歳程度の子供に撫でられたんだぞ? 恥ずかしくね? 最近になってようやく父さん母さんの撫で撫でに慣れたってのに、いきなり赤の他人にだぞ? もう無理、俺恥ずかしくて消えそう。

 ……よし、もう思い出すのやめよう。てか話逸らそう。


『そういうお前は何なんだ? いきなり百八十度態度変えやがって』

「百八十度? ……いやなに、確かにあのまま言い争い続けるのは無駄ではなかったとは思う。しかし、私には『お前を護る』という使命があるのだ。私情に流される訳にはいかんのだよ」

『ふーん』


 律儀な奴。というか、あの状況でよく自分の怒りを抑えられたな。俺だったらまず無理だ。中身が二十代とはいえ、そんな感情のオンオフが楽に出来るほど、俺は人間出来ちゃいない。

 そういえば『神の啓示』とかいうのを受けてから十年も経ってるんだっけな。改めてコイツの凄さを垣間見た気がした。


「だが自惚れるなよ小僧――いや、駄目兎。私が頭を下げるのは貴様の役職であり、貴様自身ではないのだからな」

『ああそうかよ、クソ猫』


 いわゆるツンデレって奴か。でもダンディボイスだと嬉しくねぇ……。


「ぬぅ……本当に分かっているのか? そもそも貴様は私の主としての自覚が足りん。主というのはもっと胸を張ってだな……」


 何やら長ったらしい説教を始める三毛猫。こんな変な奴が『神の使い』だというのだから、思わずため息が出てしまう。通訳が出来るのは確かにいい事だが、ここまで説教臭いと何だか気が重くなってくる。


『……そんなに言うなら、いつか認めさせてやるよ……』

「何か言ったか? 主」

『別に~。そういえばお前の名前聞いてなかったなって思っただけだよ』

「ふむ、そういえばまだ言ってなかったな。ならば心して聞くがいい。私の名前はボルダー・ゴーヴァ・ルガー・フィーグムン……」

『却下。お前の名前「那由他」ね。ハイ決定』

「なっ! なんだと!」


 いや、だってそんな痛々しい名前呼びたくないし。三毛猫相手に。

 という訳で、俺が長生き出来ますようにという意味も含めて『那由他』に命名。例えコイツが気に入らなくても俺はそう呼ぶつもりだ。……直感でつけたとは思えんな。


「……那由他……か」

『ん?』

「那由他……いや、いいだろう。貴様がそれほどまで私をそう呼ぶのを渇望するというのならば認めてやらぬ事もないぞ」

『んじゃオッケー。さっさと帰ろうぜ』

「ま、待たぬか!?」


 制止する声を無視して、一人先に足を進める。思わずスキップの一つでもしそうになるのを、必死に堪えながら……。

 この世界に生を受けて初めて意思疎通が出来た仲間……よくよく考えてみれば、これは物凄く嬉しい事だ。言葉には出さなかったが、俺はこの上もなく浮き浮きしていた。今だったらコイツの小言も
苦にならずに聞き流せる。それぐらい俺は幸せだった。

 出来る事ならば、この幸せが長続きするように……。


『生きなきゃな……いや、生きてやるぜ!』


 欠けた月に向かって、出ないはずの俺の声がこだました気がした。










 帰ってから事情を説明すると、那由他を飼う事には賛成してくれましたが、二人にめっちゃ怒られました。あと、何かイカ臭かったです。子供の居ない間にナニやってたんだ、あんたら。



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