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No.4143の一覧
[0] 東方狂想曲(オリ主転生物 東方Project)[お爺さん](2008/12/07 12:18)
[1] 第一話 俺死ぬの早くないっスか?[お爺さん](2008/09/28 13:45)
[2] 第二話 死ぬ死ぬ!! 空とか飛べなくていいから!![お爺さん](2008/10/26 12:42)
[3] 第三話 三毛猫! ゲットだぜ!![お爺さん](2009/01/05 09:13)
[4] 第四話 それじゃ、手始めに核弾頭でも作ってみるか[お爺さん](2008/10/26 12:43)
[5] 第五話 ソレ何て風俗?[お爺さん](2009/01/05 09:13)
[6] 第六話 一番風呂で初体験か……何か卑猥な響きだな[お爺さん](2009/01/05 09:14)
[7] 第七話 ……物好きな奴もいたものだな[お爺さん](2008/10/26 12:44)
[8] 霧葉の幻想郷レポート[お爺さん](2008/10/26 12:44)
[9] 第八話 訂正……やっぱ浦島太郎だわ[お爺さん](2009/01/05 09:15)
[10] 第九話 ふむ……良い湯だな[お爺さん](2008/11/23 12:08)
[11] 霧葉とテレビゲーム[お爺さん](2008/11/23 12:08)
[12] 第十話 よっす、竹の子泥棒[お爺さん](2008/11/23 12:11)
[13] 第十一話 団子うめぇ[お爺さん](2008/12/07 12:15)
[14] 第十二話 伏せだ、クソオオカミ[お爺さん](2009/01/05 09:16)
[15] 第十三話 おはよう、那由他[お爺さん](2009/02/01 11:50)
[16] 第十四話 いいこと思いついた。お前以下略[お爺さん](2009/05/10 12:49)
[17] 第十五話 そんなこと言う人、嫌いですっ![お爺さん](2009/05/10 12:51)
[18] 霧葉と似非火浣布[お爺さん](2009/05/10 12:51)
[19] 第十六話 ゴメン、漏らした[お爺さん](2009/06/21 12:35)
[20] 第十七話 ボスケテ[お爺さん](2009/11/18 11:10)
[21] 第十八話 ジャンプしても金なんか出ないッス[お爺さん](2009/11/18 11:11)
[22] 第十九話 すっ、すまねぇな、ベジータ……[お爺さん](2010/01/28 16:40)
[23] 第二十話 那由他ェ……[お爺さん](2010/07/30 16:15)
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[4143] 第十六話 ゴメン、漏らした
Name: お爺さん◆97398ed7 ID:a9e9c909 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/21 12:35


 暦の上では既に卯月のはずだった。例年通り行けば、もう春一番が吹いてもおかしくはないはずだった。

 しかし土の上に積もった雪は未だ解けておらず、空気も一陣の風が吹くだけで心まで凍て付きそうになる。空模様に至っては『最悪』の一言、まるでこれから雪でも降らさんばかりに灰色の雲が広がっていた。

 そんな中、一粒の白い塊が見て取れた。また雪が降り始めたのかと思いきや、なにやら様子がおかしい。真直ぐに落ちようとせずに、あっちへふらふら、こっちへふらふら……風に煽られる雪を彷彿とさせるが、これでもれっきとした妖精の一人である。

 リリーホワイト――春が来た事を伝える程度の能力を持った妖精。幻想郷では彼女が通った後は、春の陽気に包まれると言われている。その為、春の季語になるほど有名な妖精でもある。

 だがおかしな事に、その姿が見れても周りが暖かくなることはなかった。むしろ彼女がこの寒さに中てられてるように見える。心なしか、顔色も悪そうだ。

 それは当然の事だったのかもしれない。冬から春にかけての些細な変化を見つける彼女にとって、この異変――後に『春雪異変』と呼ばれる――は、己が身を蝕む毒でしかない。氷の妖精が夏の暑さを嫌うように、春を告げる彼女もまた身を刺す寒さに辟易していた。春を告げに来たはずが、未だに冬の寒さが抜けきっていないとはどういうことなのだろうか。ただの妖精に過ぎない彼女に『異変』というものを知る術はなかった。

 ゆっくりと……しかし確実に地面へと近付く。未だ雪に覆われている幻想郷。除雪されて地肌を晒している場所なんて、それこそ片手で数える程度しかなかった。春の気配が感じ取れるものとなれば――。

 彼女はふらふらとそこへと向かう。白く染まった竹林の中にぽっかりと開いた土色の肌。それが『畑』となりつつあるのを、彼女は確信していた。耕され、種を蒔かれ……春の息吹を感じ取れるその場へと近付き……。


  ―――ガコンッ!


 彼女は捕まった。




















東方狂想曲

第十六話 ゴメン、漏らした




















 寒い。口を開けばすぐにでもそんな言葉が飛び出してしまいそうになる。前から後ろへと流れていく竹を横目に、私は小さくため息を吐く。白い吐息が視界を覆い、すぐに消え去った

 寒い。そもそも何故こんな雪でも降りそうな天気に外出しなければならないのだと、文句の一つでも垂れたくなった。しかし私自身、自分の足で歩みを進めている訳ではないため、実際に口にするのは流石に躊躇われた。

 寒い。ちらりと隣に目を向ければ、弥生が黙って付き従っているのが見える。狼というその外見は伊達ではないらしく、寒がっている様子はない。畜生め。

 寒い。そっとその黒髪に顔を埋める。仄かな体温と石鹸の良い匂いが私を包み込む……やはりこの場所は格別だ。


『特に心も身体も寒いと思ってるそこの貴方!! すぐ暑くできる方法があるんだよ! 寒いって言えば寒いでしょ? 暑いって言うんだよ。暑くなってきたね、あれ?! あっつあっつあっつあつ! あれ、なんか気持ちも身体も暑くなってきた!! あっついあっついあっついあっついあっつい!! 身体が暖かくなってきてるよ! そうだ! 人間ホッカイロ! もう気持ちも身体も暖かい! 俺は何やっても大丈夫だ! この熱さで頑張ろう!』


 ……至福のひと時に浸ろうとする私を掬い上げたのは、空気を読まない主の叫び声だった。あまりの不快感に顔を歪めるものの、数秒後には何時もの事だと割り切る。主が意味不明の言葉を何の前触れもなく突発的に吐くという『持病』には、もうある程度慣れてしまっていた。というか、慣れざるを得なかった。習慣というのはつくづく恐ろしい。

 『大声』で叫んだからといって、主の歩調に変化はない。恐らく無意識の内に『声』を出していたのだろう。まったく、寒いのならば厚着をすれば良いものを……そんな薄っぺらい『じゃーじ』一枚でよく我慢出来るものだ。


「寒いのか?」

『あ、声に出てた?』

「大音量でな」

『そりゃスマンかった。でもネタで言ってみただけなんだ。ようこそバーボン、この愛撫はサービスだから一先ず落ち着いてくれ』


 軽口を叩きつつも、私の頭へと手を持ってくる主。特に拒む理由もなく、私は甘んじてそれを受け入れた。無遠慮な撫で方ではあるが、不思議と不快感は湧いてこなかった。

 惜しいものだ……これで主が女子であれば――一瞬だけそんな下らない事を思ってしまい、思わず頭を振った。いかん、異種族で――しかも同性なんぞに――そんな気持ちを抱いてはならない。第一、私には『彼女』が居るではないか。確かにここ十年ほど顔を合わせてはいないが、私の中にあるその想いだけは、一片たりとも揺らいだりはしなかっただろう? 那由他。そうだ、これは一時の気の迷いか何かに違いない。間違っても主の掌が気持ち良いなどとは――。


「くくくっ……キリ、不用意に撫でるのは止めた方が良さそうじゃな」

『え? なして?』

「何せ其奴はキリの手に欲じょぉうふぁ!!」

「黙れ駄犬が!」


 無駄口を叩く弥生に大きめの弾を当てる。威嚇射撃は必要ない、相手はただの畜生だ。大げさに宙を舞っているが、それも恐らく演技だろう。そんな私の推論を裏付けるかのように、弥生は苦も無く着地し……ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。


「何故怒る? どうせ本当のことじゃろうて……」

「っ……! 万歩譲って本当のことだとしても、言っていいことと悪いことの区別ぐらいつけんか!!」

「それぐらいの分別はついておる。妾はただ、不必要に長いナユタの鼻をへし折ろうとしただけじゃ」

「余計悪いわ!」


 主の頭上から降り立ち、対峙する。急激に体温が奪われるのをひしひしと実感すると同時に、未だニヤニヤとした笑みを崩そうとしない弥生に対し、軽く殺意が湧いた。迷わず臨戦態勢を取る。大量の弾を周囲に配置すると、弥生は後転して距離を取った。着地と同時に人型へと変化――その灰褐色の長髪と黒い僧衣が、銀世界の中で妙に映えていた。

 ふと違和感を覚える。何時もならば、わざわざ人型にならなくとも弾幕ごっこを始めたはずだ。私は眉をひそめながらも、静かに問い掛けた。


「……何の真似だ?」

「なに、白星を挙げる方法を妾なりに考えた結果じゃ」

「ふんっ、七十三連敗中の畜生が何を抜かす」

「……その威勢もこれまでじゃ」


 ごそごそと袖口に手を突っ込み、弥生が取り出したのは……たった一枚の符であった。ああ、なるほど……と、思わず呟く。誰でも『それ』を目に収めれば、後は自然と納得がいくだろう。

 スペルカード――幻想郷において、弾幕ごっこが『女の子の遊び』と呼ばれる謂れの一つである。通常の弾幕とは比べ物にならない程の火力を持ち合わせたそれは、弾幕ごっこの戦況を覆す程度の能力を持っている。それと同時に、幻想郷の『男』には決して持ち得ないものでもあった。

 そんなものを持った奴が相手ならば、普通勝ち目はないに等しい。人間で例えるならば自分が素手であるのに対し、相手は武器を装備しているといったところか……何時の間に作り上げたのかは知らぬが、いやはや、つくづく女とは恐ろしいものだ。そう思いつつも、口元は自然と緩んでしまう。愚かしい。スペルカードと言えどもたかが紙切れ……そんなものに、その程度のものに縋るなどとは笑止。


「貴様程度の弾幕なぞ、子供騙しに過ぎん!」

「その威勢、どこまで続くか見物じゃな!」

   ―――狼符『鍛冶屋の婆』


 スペルカード宣言。紫色の眩い光が弥生の周囲に集ってゆく。何時もと違って、今回は長く楽しめそうだ。


『あー、終わったらさっさと来いよ? 五分経っても来なかったらお前らの尻尾結ぶから』


 前言撤回、早々と終わらせる事にしよう。




















『う~~寒ぃ寒ぃ』


 今、鍬を持って寒さに震えている俺は、永遠亭に住まうごく一般的な男の子。強いて違うところをあげるとすれば、ウサ耳で怪力、無口無表情転生属性持ちってとこかナ――名前は霧葉。

 そんなわけで、仕事場でもある竹林の畑にやって来たのだ。

 ふと見ると、この間仕掛けた罠に一人の幼女が掛かっていた。


『ウホッ、いい幼女……』


 そう思っていると、突然その幼女は俺の見ている目の前で顔をほころばせて満面の笑みを浮かべた。


「春ですよー」


 ……何だろうこの罪悪感。何か自分がいかに汚れてるのか分かって、軽く鬱になった。いやまぁどうせ聞こえないからいいよね、内心でヤマジュンごっこしても。でも俺にロリコン属性はないんだ、サーセン。

 改めて幼女の格好に目をやる。数時間前までは白かったであろうワンピースとケープは所々に土が付着し、その無邪気な笑みも相まって泥遊びに精を出した子供のようにも見える。しかしその小さな身体に背負った薄い羽根は、彼女が人間の子供ではないことを明確に物語っていた……てかこんなクソ寒い日に竹林に来る物好きなガキなんているかってんだこん畜生。

 リリーホワイト、別名『春告精(はるつげせい)』……四月に入っても一向に暖かくならない理由は、コイツが来ないからだと那由他が言っていた。じゃあ北の将軍様よろしく捕まえて拉致ったらよくね? という考えに到った俺を、いったい誰が責められるだろうか。いや、誰だって自分の利益のためならば道を外す事も辞さないに違いない。つーかそう思いたい。そう思わないと俺の寿命がストレスでマッハだ。外道でも罪悪感ってあるんだな。


「春ですよー!!」


 もちろん彼女の話を聞かされた当初は眉唾物だと思った。春なんて寝てりゃ来るよと笑って過ごしていたのも束の間、未だ気温が上がらないとなると、流石に笑っていられない。しかも兎達は暦ではなく気温で春を感じ取るらしく、未だにグダグダと怠惰な生活を続けている。お陰で雪掻きから畑打に到るまで、全て俺らがやる羽目になった。

 しかし冬場を体験した土は非常に硬く、何度も耕さなければ到底使い物にならない状況……耕運機を使っても、以前の柔らかさを取り戻すのには二週間近く掛かってしまった。この後更に種蒔きするとなると……もうムリポ、オワタ。てか今日とかもう雪降りそうじゃん、雪。また明日は三人で雪掻きですね、分かりますよふぁっきんすのー。AHAHAHAHAHA~。


「はーるーでーすーよーーーっ!!」

『喧しいわ!! どうみても冬です! 本当にありがとうございました!』


 ヤケクソ気味に叫ぶ。どうせ聞こえやしない。生まれてから口が利けない事が分かっていた所為か、喋るために俺が口を開くことはないらしい。那由他曰く、飲食のときぐらいしか口を開かないとのこと。ふざけやがって糞神が、便所紙にでもなってしまえ。

 頭を振り、痛み始めた頭を押さえる。まったく、何だってこんな胸糞悪い気分になるんだろうか。目の前のコイツを捕まえれば春が来るし、そうすれば兎達もしっかりと働いてくれる……つーか働いてくれないと困るのだ、マジで。

 ただでさえ耕作班ってのは、周りからの風当たりが強い。力と体力があれば誰だって出来る程度の仕事内容に加え、収穫の時期が終われば長期の休みが確保される。その分、働いている期間中は体調不良以外の休みがないというのが現状なのだが……周りから見ると、どうしても長期休暇の方が目立ってしまうらしい。その上俺が来たことによる調理班の贔屓――飯のおかずがちょっと豪華になる程度――が原因で、ついに陰口が発生するまでに到った。

 いやまぁ長々と語ったけど、実際当の本人達は全く気にしてないっぽいんだよねぇ。けどなんて言うか……やっぱりちょっとばかし責任ってのは感じるんよ。らしくないとは思ってんだけど、一応班唯一の『人型』なんだから何とかしてやりたいとも思うわけですよ。そのためにまずリリーホワイトを拉致ります。春ゲットです、異議は認めません。他の場所に春が来なくても知ったこっちゃねーってモンです。

 ちょっとした葛藤を経て、とりあえず近くの納屋から荒縄を持ってくる。竹で出来た檻の中でキョトンという効果音が似合うように首を傾げるリリーホワイト……その筋の人なら垂涎物だろう。俺は満面の笑みを浮かべながら縄を張った。


『さっ、ちょっと縛ろうか』

「止めんか駄目兎!!」

『うわらばっ!?』


 タックルで 突っ込む辺りは 優しさか だが遅かった 尾出せテメェら(字余り)。




















 白いトンガリ帽子とあどけない童顔。その顔は恐怖に染まり、目に涙まで溜めている。お気楽な妖精といえども本能が警告を発するのかもしれない。対峙している相手が私なだけに、その警告音もまた一味だろう。鼻から息を吸い込めば、微かに花の香が感じ取れる。何の花かまでは分からない。いや、そもそも花の匂いなぞじっくりと嗅いだことなど、今まであっただろうか……? まあ、どうでもいいことか。

 しかしその香りと反して、味はイマイチ良くなさそうだ。昔一度だけ空腹に負けて喰らったことはあったが、人間の子供と同じ食感がした割にその味は『微妙』の一言に尽きる。何せ若葉のような味がしたのだ。人間は妖精のことを自然の具現化と称しているらしいが、その理由の一因にはこの『味』が絡んでいるのかもしれない。


「……どうだ?」

「美味ではなさそうじゃのお……」

「誰が味のことを聞いた?」

「くくっ、ただの戯れじゃて。許せ」

「まったく……」


 呆れたようなため息が背後から聞こえる。気分が優れないのは、恐らく私の戯言の所為だけではないだろう。その証拠に尻尾が振られている。連動して私の尻尾も振られる。そして互いの尻尾の間にある結び目から、鋭い痛みが走った。


「止めておけ。ぬしも痛かろうて」

「……ふんっ」


 私がたしなめても尻尾を振るのを止めようとしないナユタ……被虐性愛の気でもあるのだろうか。私ならばいざ知らず、たった十数年しか生きていないナユタに、この痛みは堪えるだろう。ましてや結ばれたのは妖獣の弱点とも言える尻尾……慣れない痛みを我慢しての、無言の抗議か……まったく、無駄なところで意地を張る奴だ。

 軽い嘆息。目を閉じて、感知した情報の整理を開始する――面倒な――無駄な思考を停止。■■を押し殺す。感知推測考察結論……一連の思考を瞬時に行った。長年続けてきた行為だけに、数秒もあれば十分過ぎる効果を発揮してくれる。開眼。泥だらけの春告精は目に見えて『弱って』いた。


「ふむ、なるほど……」

「『使える』か?」

「無理じゃろうなあ。元が自然の力を肥大化させる程度の力しかない故、春の気配が零に等しいこの場では到底使い物にならぬよ」

「むぅ……」


 少し間を置いて、ナユタは大声を上げた。聞き手の主が半里ほど離れている所為だろう。


「主ー、あーるーじー! 春捕獲作戦は――いや待て! 妖精相手にそれは無謀――分かった分かった! 好きにしたらいい!!」

「傍から見ると滑稽この上ないのお……くくくっ」

「……五月蝿い」


 含み笑いを零すと再び尾が振られた。痛い。しかしキリが『能力』を使ってまで結んでくれたお陰か、骨には罅の一つも入らないだろう。無意識的に使われる能力ほど恐ろしいものはないが、これくらいならばむしろありがたい……ありがたい? いや違うな、中途半端だ。この程度の痛みで反省させると言うのなら、能力を駆使して従わせてしまった方がずっと速い。

 才能の無駄遣い――幻想郷において、それ自体は珍しいことではない。ただしその力を自覚している時点で、その者達はキリと一線を画している。自覚しているからこそ無駄な事に力を遣う。自覚していないから無駄な事にしか力を遣えない。キリは間違いなく後者だろう。

 だがキリの年齢からして言えば、それも無理からぬこと。私自身、自らに備わった能力を使いこなすのに十年以上掛かったのだ。ただでさえ、キリの能力は目に見えて効果が発揮出来るものではない。使い方によるのかもしれないが、妙なところで抜けているキリのことだ。気付く事無く■■かもしれない。私がその旨を知らせれば、少しは自制するのだろうか? ……否、その前提がまずありえない(・・・・・)

 問われれば答える、問われなければ答えぬ……それが私なりの流儀であり、礼儀である。キリがあの玉兎の様に問わない限り、私がキリに助言することもないだろう。

 しかし、私は同時に期待もしているのだ。誰の手も借りずに自らの能力に気付き、あまつさえそれを己が手足の様に操る事を、私は期待している。まあそこまで高望みしなくとも、私の助言を聞いた上で能力を使いこなせるぐらいにはなって欲しい。私は■■な■を■■た■■■い。

 ……頭が痛んだ。もはや持病の域にまで達している偏頭痛は心地よい痛みを私に送り、思考の停止を促す。是非もなく私は『日常』へと戻ることにした。


「して、キリは何と?」

「『うっせ、労働力として使うからいいんだよ! バーカバーカバーカ!!』……と言っていた。どうも私達の会話も筒抜けだったようだな」

「ふむ……しかし『バーカ』とはまた古い」

「ヤケクソだろうな。微妙に涙声だったぞ」

「そうか、ヤケクソか……くくくっ」


 ナユタの言葉に、思わず含み笑いを零す。あのキリが自棄気味になっているというのも珍しいことだ。まあここ最近の様子を見ていると、それも頷ける。春告精に関する文献を調べつつも畑打を続け、テヰとかいう兎に罠の設置方法を学び、竹から檻を作り上げ、無駄にならぬ事を祈りながら撒き餌として日々少量の種を蒔く……その努力の結果が、無力な妖精一匹となれば捨て鉢にもなるだろう。

 問題の主に視線を向ければ、ビクリと肩を震わせて少しずつ距離を離される。無論、その程度で目くじらを立てる私ではない。妖精とは永久に成長しない人間の子供のようなものだ。私のような狼に目を向けられれば、子供でなくとも恐れを抱く……長年生きていれば、同じような状況には何度でも立ち会うものなのだ。

 さて、そんな妖精のことよりも、私がこれから数刻の間どうやって時間を潰すのかという問題の方が重要だ。反省中だというのに何時も通りキリの手伝いをすることは叶わない。かといって一眠りするにしても、尾が結ばれている所為で上手く身体を丸められない。身体を動かすにしてもナユタが邪魔で満足に動けまい。

 ただの三毛猫の癖にさながら枷のようだ……そう思うと自然と笑みが零れた。恐らく、彼方もそう感じていることだろう。だが今は同一の主を持つ従者であり、暇人でもある。となれば、やはり――交流を深める意味も持たせ――雑談にでも花を咲かせた方が良いのかもしれない。


「あ……あのっ!」


 軽く呆けながらそんな事を考えていると、眼前の妖精から声が掛けられた。声が出せても未だ恐怖心は拭えないらしく、微かに緊張しているのが良く分かる。


「何用じゃ? 妾はナユタと話したいんじゃが……」

「……その心は?」

「単なる暇潰し」

「ならそこの春告精とでも喋っていろ。同性で話した方が何かと気が楽だろう」

「ぬしは……寝るのか」

「ああ、寝る。少しだけ借りるぞ」


 そう言うと、勝手に私の尻尾に包まるナユタ。無理に動かされた所為で痛みもまた一味だが、此奴の場合温まれれば何処でも眠れるのだろう。そういえば最近寝不足だと言っていたな……。


「あの……もういいですか?」

「んむ、すまぬな気を遣わして。口煩い奴の許可も下りたことじゃ、何でも聞いとくれ」


 無言の抗議、無視して話を進めた。早々に眠れ。


「あの、私は……その、どうなるんですか?」

「どうして欲しいんじゃ?」

「えっと……とりあえず出して欲しいです」


 思わず吹き出してしまった。いや、確かに妥当な答えかもしれない。檻に入れられて気分が良くなる生物なぞ存在しないだろう。

 精神状態が不安定に揺れ動くのは――恐怖という感情――感じ取ることは出来るのだが、その原因まで探るとなると少々私の手に余る。これは推測でしかないのだが、もしかすると此奴に『捕まった』という自覚はないのだろうか? ふむ、となればこの恐怖の要因は……私か。成程、種としては誇るべき由であろう。雌としてはちと悲しいが……。


「くくくっ……まあそれは出来ぬ相談じゃな。何せそれを仕掛けたのは彼処に居るキリ、そして妾達はその僕……主に逆らう僕はおらぬよ」

「……ウサギさんが飼い主?」


 再び吹き出しそうになったが、今度は寸前で堪える。ウサギさん。よりにもよってキリのような兎が『ウサギさん』……表情を変えずにやる事はほとんどが奇行と呼んでも差し支えないもので、その細い外見とは裏腹に鬼に匹敵する怪力を持つ化物が『ウサギさん』? 耳と肉ぐらいしか合っている部分が無さそうだ。

 と、そこで面白い事を思いついた。楽しみながら暇を潰す絶好の遊びだ。子供が話し相手だからこそ成り立つとはいえ、私自身やるのは初めてだ。しかし本来の目的は暇が潰せることであり、楽しむ楽しめないは二の次である故、気付けば私の口はするりと言葉を紡ぎ出していた。


「あの外見に惑わされてはいかんぞ? 彼奴の頭にあるアレじゃがな……実は耳ではなく角なんじゃよ」

「えっ? ツノって……えぇ!? 鬼さんですか!?」

「ふむ、知らんかったようじゃな。厳密に言えば鬼と言うより、鬼の亜種とでも言うべきか……じゃが困った事に、ぬしのような可愛らしい娘を取って喰うのは変わらぬようじゃ」

「どっ、どうしよう!? どうしよ!? どうしよぉ!?」

「妾も助けたいのは山々なんじゃが、ぬしを助けると妾が喰われてしまうんじゃ……不甲斐無い妾を許しておくれ……」

「っ! 諦めちゃダメです! 私も一人だったら何も出来ないかもしれないけど、二人だったら何とかなるかもしれません!」

「春告精……」

「リリーホワイトです」

「リリー……妾の名はヤヨイじゃ」

「ヤヨイさん、二人で悪い鬼さんを退治しましょう!」


 ……ふむ、意外と楽しいな此れは。




















 昼飯に持ってきたおにぎり(小)を飲み下すと、ちらほらと雪が降り始めてきた。地面は既に柔らかく耕してある。後は気候が安定してくれれば心置きなく種蒔きが出来るんだが、未だにその気配はなさそうだ。

 そろそろ帰るか、と仕事を早めに切り上げて鍬を納屋に放り込む。薄明かりの中耕運機が寂しそうな(なかまになりたそうな)目でこちらを見ていたが、迷わず『いいえ』を選択。今の季節オメェじゃ馬力足んねぇんだよ。てか俺は今から帰るの。帰って『使えない春告精』を『森の妖精』に強制クラスチェンジさせないといけないの。むしろ俺がなりたいくらいだが。

 で、そんな俺の『春告精改造大作戦~最強☆トンガリコーン編~』を感じ取ってたらしく、何か現在進行形で威嚇されてます。今ならセットで弥生付き……お前らどこのファーストフードだよ。喰うぞ、性的な意……駄目だ、食指が動かん。


  ―――グルルルルルルル……

「ううううううーーーー……」


 弥生さん、本腰入り過ぎじゃないッスか? アレか、尻尾結んだのは流石に不味かったッスか? え? 謝れ? だが断る。そしてリリーさん、その『涙目上目遣い』コンボは既に威嚇じゃねぇ。いや、確かに本人は威嚇の意味合いを持たせようとしてんのかもしれないが、全くと言っていいほど怖くねぇ。だが俺の寿命が罪悪感でマッハ。なるほど、それが狙いか。リリーホワイト……恐ろしい子……っ!

 オーケー分かった、これは『試練』だ。過去に打ち勝てという『試練』と俺は受け取った。クラスチェンジとは未熟な過去に打ち勝つ事なんだろ、J・P・ポルナレフさんよ。でもたかが十秒先が見えるぐらいで粋がるのは止めた方が良かったね、ボス。


「主、一先ず落ち着け。途切れ途切れで『声』に出ている所為で、不気味なことこの上ないぞ」

『那由他、今北産業』

「……聞こえてたんじゃないのか?」

『耳には入ってた、頭には入ってなかった、涙声で悪かったな馬鹿野郎』


 那由他の方に視線を向けず、三行で答える。力がなんたらかんたらって所までは聞こえたが、後はずっと作業に集中していたから全く頭に入ってこなかった。陰口だろうが悪口だろうが、私は一向に構わんと言わんばかりの地獄耳(デビルイヤー)が恨めしい。どうせならウィングかビームの方が欲しかったです、安西先生。


「弥生が騙す、春告精が信じる、悪乗り相乗効果」

『おk、把握。ところで那由他、狼と妖精の相場って幾らだ?』

「さてな、買い手がつくかどうか、怪しいものだ」


 ちぇーと口を尖らせてガキっぽく振舞ってみるテスト。ちゃんと出来ているか手で直接触れると、何時もと何ら変わりありません、本当にありがとうございました。マジで何とかならねぇかなぁ……この無属性フェイスは。軽く鬱るんですフジカラー。


「え……だま……ヤヨイさん?」

「ん、お疲れ。意外と楽しかったぞい」

「だっ、騙したんですか!? 騙したんですね!?」

「いかに幻想郷といえども、現実は非情なんじゃ。一つ賢くなったのお、くくくっ」

「うわぁーん!」


 いや、泣くなよ。しかも『うわーん』とか自分で言うな。初めて見たぞ、そんなヤツ。しかも何気にマジ泣きだよコレ。弥生はニヤニヤしながら眺めてるし……意外と黒かったんだなぁ、お前。

 泣き喚き続ける百合子(勝手に命名)に軽く辟易しながらも二人の尻尾の結びを解いてやる。すぐさま頭上に飛び乗る那由他と、前足を平伏させて背筋を伸ばす弥生……絶賛号泣中の百合子(旧名リリーホワイト)を完璧に無視してやがるぞコイツら。凄ぇな。『昔』嫌と言うほどガキの世話してたけど、ここまでスルーすんのは流石に無理だ。獄中の百合子(年齢不明)には同情を禁じ得ない。

 さて、どうやって泣き止ませるか……背中に巻いた風呂敷包みからニンジンを取り出してポリポリ齧りつつも考えをめぐらせる。

 放っておく――却下。確かに『昔』一番良く使った手だが、今は流石に無理だろう。寒いし野外だし雪は降るし……多分妖精でも風邪引く。てかこのまま見捨てたら俺に『まさに外道』のレッテルが貼られそうだ。主に部下約二名の目撃証言によって。

 慰めてみる――無理す。俺喋れねーっつの。那由他に通訳させたとしても、あのダンディボイスで泣き止む子供は居まい。むしろ悪化しそうな予感がする。じゃあ俺が直で慰めるとしても、撫でるかハグるぐらいしか選択肢がない訳だが……いかに相手が子供だとしても、初対面の異性にそれをやったらセクハラだろう。今ならもれなく青少年保護育成条例違反も付いてくる。

 餌で釣ってみる――微妙。飴玉の一つでも持ってれば一番有効な手とはいえ、現在の所持品はおにぎり(小)三個とニンジン四本。すきっ腹で泣いてる子供ならいざ知らず、弄られて泣いてる子供には効きそうにない。

 となると、やっぱり解決方法は一つ――。


『弥生、謝れ』

「弥生、謝れ」

「じゃがことわ……あい分かった、流石に悪ふざけが過ぎた。だから無言で掌を近づけるのは止めとくれキリ」


 分かってくれて何よりだ。前に一度やったアイアンクローがここまで尾を引いてくれるとは思わなかった。俺の握力? 竹を繊維質に変換させる程度だから問題ないよ。

 大人しく檻の方を向いて『お座り』の姿勢になる弥生。しかし一向に泣き止む気配のない百合子(春告精)を前にし、困惑気味にこちらを振り向く。恐らく、切り出し方が分からないんだろう。内心ちょっとだけプギャーと笑いつつも、弥生に助力すべく檻に手を掛けて一つ深呼吸。

 御手製の檻――『森の妖精三人が寝転んでもまだ余る』をコンセプトに造った所為か、竹製でありながら馬鹿みたいな重量を誇る手抜きの一品だ。持ち上げられないことはないだろうが……余り長引くと俺の中二属性持ちの左膝が間違いなく大笑いする。ヤバイ、虎挟みヤバイ。まじでヤバ(略)そんなヤバイ虎挟みに掛かっても後遺症なく前線復帰出来るシレンとか超偉い。死んでも頑張れ、超頑張れ。

 よし、精神統一完了。


『そおぉい!!』

「なっ!?」

「むっ!?」

「っ!?」


 三者三様で空高く放り上げられた檻を見上げる。曇り空の中、紅一点というか緑一点となって消えて行く俺の粗品。さらば製作期間三日、設置期間五日のマイケージ。本当はこの後バラして再利用するハズだったんだが……再利用?

 ハッとなって両手を確認。何時も通り肉刺だらけの小さい手……うっは生命線短ぇってんなこたぁどうでもいい。再び上を見上げる。既にその身を雲の中に隠し、一向に落ちてくる気配がない檻。ついに万有引力の法則を打ち破ったらしい。流石幻想郷、無機物すら空を飛ぶのか。物理学者達に喧嘩売ってるとしか思えないが、とりあえず今言える事はたった一つ――。


『やっべ、手放した』

「手放したぁ!?」


 那由他が大声で喚く。しかしその位置が悪かった。俺の頭上に居るという事は、即ち俺の両耳元に居るという事と同義である。頭の上に耳が付いてるとか不便としか言い様がないんだが、俺個人のようなちっぽけな存在が生態系というゲッターエンペラー並に大きな存在に文句を言ってはいけない。喧嘩は売ってるかもしれないが……って閑話休題閑話休題。要約すると『五月蝿い』って言うより『痛かった』デス、マル。

 耳鳴りが収まると同時に那由他に手を伸ばし、有無を言わせず首根っこを掴んで空中で半回転。そしてちょっと力を入れて……完成。


『……那由他、しばらく頭上禁止な』

「……分かっ……た……だか、……手を……」


 ワンハンドネックハンギングツリー――片方の腕で相手の首を掴んで持ち上げ、締め上げるプロレス技だ。ベガ様やドラゴンボールの三下達が良く使うので有名……だったらいいなぁ。

 とりあえずそんなに力を入れてる訳でもないので、しばらく那由他にはこのまま反省してもらうとして……チラリと百合子(森の妖精予定)達の方に目をやると――。


「んむ、程よい薄塩じゃな……」

「あはははははははっ! はっ、ダメですっ! くすぐったいでひゅははははははははははははははははは!!」


 何か楽しげにイチャついてた。傍から見たら弥生の御食事の真っ最中って感じがするんだが、どうやら百合子の顔を舐めてるだけのようだ。決して味見をしてる訳ではない……と思いたい。今までの食生活を振り返ってみるとほとんどが精進料理だっただけに、弥生が肉に飢えてないとは断言出来ない。狼としてそこら辺はどうよ? とか思うこともあるんだが、面と向かって問うのは明らかに死亡フラグ臭がする。まぁ、弥生にだったら喰われても悔いは残んなさそ……あ、でも後数年は生かして下さい(命乞い)。

 微笑ましい光景のハズなのにどうしても邪推してしまうのは、多分俺の心が汚いからなんだろう。うん、きっとそうだ。生前AVを三桁程度見たという経験が、俺の視界をジャックして全てを不純なものに見せているに違いない。だから俺はそっと視線を外し、『俺は何も見ていない』と自己暗示を始める。弥生が百合子(舌被弾中)の服の裾をピンポイントで押さえつけてる光景なんて見てない。金色の瞳がやけにギラギラしてる弥生も見てない。ワタシ何モ見テナイアルヨー。


「はははははははははははははは……ひゅっ……ふぅ?」

「して、涙は止まったかの?」

「え……あっ、はい」

「ふむ。まず最初に言っておくが、妾はぬしを騙した。退屈しのぎに騙した。結果、ぬしは泣いた。妾に裏切られたという事実に嘆き、恥も外聞も無くして涙を流した……そうじゃろう?」

「……はい……」


 背後で一息吐く音が聞こえた。えー何この空気と思いつつも、背景に徹する俺。ちょ、那由他暴れんなよ。てか空気嫁。まぁ後ろでシリアスシーンやってる最中にポケモンのこと――したでなめる。麻痺の効果が嬉しいが威力の低さが否めないゴースト系の物理技。幽霊なのに物理とはこれいかに――考えてる俺が言えた義理じゃないんだがな。


「虫の良い話である事は重々承知しておる。裏切り者を許せと高言するつもりもない。ただ一言だけ、聞いてくれればそれで良い」

「……」

「騙して悪かった。リリー」

「あ、はい……?」


 上ずった感がひしひしと伝わってくる返事。多分オツムの固い弥生の謝罪が分かり難かったんだろう。助け舟を出してやってもいいんだが、それだと弥生のプライドを傷付ける事になる。慣れない『謝罪』という沙汰を一人でやってのけた弥生の生殺与奪権は、今や百合子(困惑中)が握っているのだ。弥生の主人とはいえ、現在絶賛空気中の俺が横槍を入れる訳にはいかない。

 束の間の静寂。先に口を切ったのは……百合子(被害者)だった。


「えっと……とりあえず顔を上げてください」

「……」

「あの、ヤヨイさんの言うことは半分ぐらいしか分からなかったんですけど……その、べつに怒ってるわけじゃないんですよ? ただちょっと悲しかったかもしれないっていうのはあるんですけど、えっと、なんて言うか……ヤヨイさんがそこまでかしこまる必要はあんまりない気がして……つまりその……」

  ―――きゅるるるるるる……


 ほほぅ、ここで『場の空気を読まないことで定評のある腹の音』が登場ですか。考えてみれば俺以外に昼飯食ったヤツいなかったな。俺はため息を一つ吐いて振り返り、ほんのりと顔を赤らめていた二人に近付く。え? 弥生は狼だから表情なんて分かんねぇだろって? いやいや、頭垂れてたから勝手に自己解釈したまでよ。

 半ば生ける屍になりかけてた那由他を放し、風呂敷包みから正体不明の葉っぱで包まれたおにぎり(小)を取り出し、そっと二人に差し出した。


『食うか?』

「ふむ、昼食か。リリーもどうじゃ?」

「……いいんですか?」

「謝罪の意味も込めての言葉じゃ。それにぬしのような娘は、遠慮などせん方が良い」

「……じゃあ、いただきます」


 内心ニヤニヤしながら、二人のぎこちない食事風景を眺めてたのは秘密だ。




















 幻想郷には白玉楼という御屋敷がある。冥界の尤も高い場所に位置する日本屋敷……西行寺家の持ち家であり、その広い庭には数え切れないほどの桜の木が植わっているという。

 冥界であることも相まって、当然のことながら普通の人間や妖怪は入り込むことすら叶わない。冥界は罪のない死者が成仏するか転生するまでの間を幽霊として過ごす世界。万が一にも生物は入り込むことはない……ハズであった。


「……」

 白と緑で構成された洋服を着た銀髪の少女――魂魄妖夢は目の前の惨状を呆けた表情で見詰めていた。白玉楼に仕えて幾年、大抵の厄介事は経験してきたつもりだ。それは勝手気ままな主の我侭であったり、広大な庭の手入れに関することであったりと少し偏りがあるものの、厄介事に違いはない。しかし目の前の『ソレ』は、彼女の経験など役に立つまいとせせ笑うかのように、静かに鎮座していた。

 目前に居るのは、ゆったりとした水色の着物を着た、桃色の髪を持つ美女――妖夢が仕える白玉楼の主、西行寺幽々子。何食わぬ顔で静かに湯呑みを傾けてはいるものの、その動作一つ一つに違和感を感じ取れる。

 妖夢はゆっくりと上を見上げた。室内であるはずなのに、そこから見れるのは見事な青と白のコントラストで彩られた空。春度を集め始めてようやく好天になり始めた……と、少しだけ思考が横道に逸れる。現実離れした現状に思考が追いついていないのかもしれないが、屋根の残骸が散らばる部屋は、その事実だけを物語っていた。

 彼女の中で此処に来るまでの出来事が再生される。何時も通り庭の手入れをしている最中に、屋敷の方から轟音が響いてきて――。


「妖夢」

「っ!?」


 唐突に声を掛けられ、ビクリと肩を震わせる妖夢。視線を声の主に向ければ、何時ものように微笑んでいる幽々子が居た。何時も見ているはずのその笑顔……しかし、妖夢にはその裏に隠された感情に気付いた。長年仕えた者だからこそ分かる、彼女の内心――それは紛れもない『怒り』だった。

 普段温厚な者ほど、怒らせると恐ろしい――彼女も幽々子から叱りを受けた事は一度や二度ではなかったが、ここまで怒らせた事は流石にない。八つ当たりをされる事はまずないだろうが、それでもこれ以上幽々子の不快感を買うのは不味いだろう。妖夢は慌てて姿勢を正した。


「何でしょうか、幽々子様」

 木屑の落ちていない場所に座し、今までの醜態を取り繕うか様に確りと主を見詰める。二人の主従関係は変わらない。その立ち位置も変わらない。今はただその間に、緑色の障害物が――竹で出来た格子があるだけ。その程度の物体で、彼女達の本質は何も変わらない。

 白玉楼の屋根を突き破って落ちてきた檻……その中で、幽々子は傾けていた湯呑みを置いて――。


「きりなさい」


 ――たった一言、言葉を紡ぐ。それが指しているのは檻か、部屋をこうした元凶か……しかしその一言で、妖夢は十二分に理解した。両の目を伏せてその言葉を噛み砕き飲み下し消化し吸収し……理解した。


「分かりました」


 返事は主君と同じで一言だけ。その言葉と同時に目を開き、彼女は背負っていた長刀――楼観剣に手を掛けた。





















  ―――ゾクッ……


 何故か悪寒がした。両腕で身体を抱き締めるが、効果は今一つのようだ。辺りを見回しても、俺達四人以外に人気は感じられない……幽霊? んな馬鹿なと、妖怪の自分を棚に上げて言ってみる。


「キリ、どうしたんじゃ? 少し震えたようじゃが……」


 百合子(上機嫌)を乗せた弥生に問われた。心配して言ってくれたんだろうが、満面の笑みで弥生に縋り付いてる百合子(泥だらけ)の所為か、ありがたさゼロパーセントだ。とりあえず変化球で返してみる。


『ゴメン、漏らした』

「っ!!? 主!?」

  ―――きゅっ♪

『嘘だから、冗談だから、な? な?』


 学習せずに大声を上げる那由他だったが、四回程尻尾をニギニギすると理解不能の言葉を吐きながら沈黙してくれた。せめて肩の上にって事で譲渡してやったけどやっぱ駄目だな、後数ヶ月は俺の上に乗るの禁止しとこ。俺の上は安くないんだ。

 那由他が素直に通訳してくれなかったので、弥生の頭を撫でてやる事で返事とする。これで十分伝わるだろう。ペディグリーミキサーのCMでもよくやってたしな。こう……両手でわっしゃわっしゃって感じで。


「っ! ……むう、これは確かに……」

「あー! 私もっ! 私もやります!」

「いや、妾はキリにじゃな……」

「……駄目ですか?」

「…………別に構わぬよ」

「わーい!!」


 無遠慮に弥生を撫で繰り回す百合子(超御機嫌)。まさに『雨降って地固まる』状態だ。まさかおにぎり(小)一個で釣れるとは思わなかったが……と、そこで思い出す。


『……父さん達にどう説明すっかなぁ』


 素直に『春告精を利用する為だッ!』とか言うのは、何か大胆カミングアウトしてるようにしか思えない……まぁなるようにしかならないだろうが、一先ず風呂だな。泥塗れの百合子(愛撫中)を横目で眺めつつも、俺はそんな事を思った。










霧葉:1歳11ヶ月
実年齢を忘れてる主人公。輝夜に「ニートって知ってる?」と笑顔で問われた所為か何かと不機嫌だった。超兄貴になりたい。

那由他:16歳
そんなに年喰ってる訳でもない準主人公。今回何か空気だった。被弾判定が小さ過ぎてほぼチート。弾幕は針霊夢程度。

弥生:79歳
一番お婆ちゃんな準主人公。ようやくスペルカードを持てるようになったが、まだ那由他には勝てない。全方向レーザーを多用する。

リリーホワイト:(妖精だから歳取らないよ!)
台詞が一切ない原作キャラ。まぁ妖精ってこんな感じかなと勝手に性格構成。とりあえず餌付けしてみた。



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