<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

その他SS投稿掲示板


[広告]


No.4143の一覧
[0] 東方狂想曲(オリ主転生物 東方Project)[お爺さん](2008/12/07 12:18)
[1] 第一話 俺死ぬの早くないっスか?[お爺さん](2008/09/28 13:45)
[2] 第二話 死ぬ死ぬ!! 空とか飛べなくていいから!![お爺さん](2008/10/26 12:42)
[3] 第三話 三毛猫! ゲットだぜ!![お爺さん](2009/01/05 09:13)
[4] 第四話 それじゃ、手始めに核弾頭でも作ってみるか[お爺さん](2008/10/26 12:43)
[5] 第五話 ソレ何て風俗?[お爺さん](2009/01/05 09:13)
[6] 第六話 一番風呂で初体験か……何か卑猥な響きだな[お爺さん](2009/01/05 09:14)
[7] 第七話 ……物好きな奴もいたものだな[お爺さん](2008/10/26 12:44)
[8] 霧葉の幻想郷レポート[お爺さん](2008/10/26 12:44)
[9] 第八話 訂正……やっぱ浦島太郎だわ[お爺さん](2009/01/05 09:15)
[10] 第九話 ふむ……良い湯だな[お爺さん](2008/11/23 12:08)
[11] 霧葉とテレビゲーム[お爺さん](2008/11/23 12:08)
[12] 第十話 よっす、竹の子泥棒[お爺さん](2008/11/23 12:11)
[13] 第十一話 団子うめぇ[お爺さん](2008/12/07 12:15)
[14] 第十二話 伏せだ、クソオオカミ[お爺さん](2009/01/05 09:16)
[15] 第十三話 おはよう、那由他[お爺さん](2009/02/01 11:50)
[16] 第十四話 いいこと思いついた。お前以下略[お爺さん](2009/05/10 12:49)
[17] 第十五話 そんなこと言う人、嫌いですっ![お爺さん](2009/05/10 12:51)
[18] 霧葉と似非火浣布[お爺さん](2009/05/10 12:51)
[19] 第十六話 ゴメン、漏らした[お爺さん](2009/06/21 12:35)
[20] 第十七話 ボスケテ[お爺さん](2009/11/18 11:10)
[21] 第十八話 ジャンプしても金なんか出ないッス[お爺さん](2009/11/18 11:11)
[22] 第十九話 すっ、すまねぇな、ベジータ……[お爺さん](2010/01/28 16:40)
[23] 第二十話 那由他ェ……[お爺さん](2010/07/30 16:15)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[4143] 第十一話 団子うめぇ
Name: お爺さん◆97398ed7 ID:a9e9c909 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/12/07 12:15



 同じような風景が続く竹林――迷いの竹林。普通の人間ならば入ることも躊躇われる場所だ。そんな場所に、こんな子供がどうして足を踏み入れたのかふと疑問に思った。

 背に掛かる重みは成長期に差し掛かる子供のものだ。これ位の年齢なら、この竹林がいかに危険な場所なのか慧音に叩き込まれてるはずである。危険を承知で欲しい物があったのか、それともただ単に肝試しとして来たのか……後者だったら後で慧音にうんと御灸を据えてもらおう。ここは、肝試しに来るには行過ぎている。

 ……いや、いい加減現実逃避するのは止めるとしよう。私は深いため息を吐き、足を止めた。同時に後ろで止まる気配が二匹分――不快な表情を隠さずに振り向き、問うた。


「で、何時までついて来る気?」


 背負ったこの子供を狼から助けたという、変わった二匹組み――無口無表情な兎妖怪とやけに上から目線の化け猫――は、互いにキョトンとした表情を浮かべた。しかしそれも一瞬の事、兎は更に後ろを向き、猫は自分の主人の馬鹿さ加減に呆れた。


「主、紛れもなく私達の事だ。背後霊なぞ居るわけないだろう」


 わざとらしく身振り手振り付けて戯ける兎。けれどもその表情は変わる事はなくて――。


  ―――ボウッ

「そんなに焼き鳥になりたい?」


 何時の間にか、私は指先に炎を纏わせていた。何故だろうか、この兎の何気ない挙動一つ一つを見る度に、私は自分の中で苛立ちが募っていくのがよく分かる。やっぱりさっき捕まえた時にでも丸焼きにしてしまった方が良かったかもしれない。

 狼から守ったと言う割に、負ってる傷はどう見ても私が仕掛けた『虎挟み』による物だし、その狼の姿も確認出来てない。第一、妖怪が人間を助けるなんてのはただでさえ眉唾物の話だ。燃やされたくないが為に口から出た妄言だったという可能性は十分にありうるだろう。

 だが、疑いの目を向けても、獣が忌み嫌う炎を見せ付けても、兎の表情が揺らぐ事はなかった。猫の方は瞬時に構えたというのに呑気なもんだ。


「……何が琴線に触れたのかは知らぬが、一先ず矛を収めて貰えぬか? 私達は争いに来たのではない」

「へぇ……じゃあ何しに来たの? どうせお前達は輝夜の使いだろう?」


 いけしゃあしゃあと嘘を吐く化け猫。殺気を込めた目で睨む所為か、その言葉には説得力の欠片もない。まぁその方が、こちらとしても後腐れなく『駆除』する事が出来る。まさに渡りに船だ。全く、こんな低級の妖怪を寄越すなんて、輝夜も何を考えてるんだか……。

 掌の中で炎が渦巻いていく。この程度の妖怪なら片手で十分過ぎる。高飛車な態度をとり続ける化け猫に標準を合わせ……その身体が地面に押し付けられた。


「ぐっ、何すッ!」


 喋ろうとして更に踏まれる。血だらけの足に押し潰された化け猫は、意味不明な呻き声を発するだけのぬいぐるみと化した。予想外の展開に、私も思わず呆気に取られてしまう。

 自分の猫を踏んだ兎と、視線が合った。相変わらずの無表情の中、黒い一対の瞳だけが濡れた黒曜石のような冷たい輝きを放つ。そこには何の感情の色も浮かんでおらず……怒りによって昂った心が、急激に冷めていくのが分かった。これがこの兎の能力なのだろうか? だとしたら何時かの狂気の兎とは大違いだ。

 兎は一片の紙切れを取り出して差し出した。一言も言葉を発しなかったが、ただ『取れ』とその瞳が語っているような気がした。ぞんざいに紙切れを受け取り、広げて内容に目を通した。書いてあったのは、この竹林の全体図だった。しかもそこに記された目的地は……。


「……私の家か……」


 紙から兎へと視線を戻す。真直ぐ伸びた一対の耳、整った顔立ち、肌蹴られた着物……帯で止血を試みた血塗れの足。先ほどまで抱いていた敵意は、もう私の中には無かった。ただそれと取って代わって、見苦しいという気持ちが沸々と湧き上がってくる。

 近付き、腰を掴んで腋に抱える形で持ち上げた。全く抵抗しなかったのはちょっと驚いたが、思えば怪我した足で立っていた方が辛かったのかもしれない。自分の主人に踏まれた所為か、あれだけぎゃあぎゃあ喚いていた化け猫も今は大人しかった。

 改めて歩みを進めた。さっきより子供一人分だけ増えた重み……だが足取りに変わりはない。家へと足を向けながら、昔と比べて随分甘くなった自分自身に、私は思わず苦笑した。















東方狂想曲

第十一話 団子うめぇ















 いやー一時はどうなるかと思ったけど、やっぱ人間話し合いが一番だなと痛感した。『目で語る』とか初めて試したけど、意外と伝わるもんなんだな。次は『目で殺す』とかやってみっか。多分無理だけど。


『で、話し合いの大切さはよー分かったかい? 見ず知らずの他人にいきなり喧嘩売った那由他くん?』

「……」


 運ばれながら、足元――厳密に言えば泥棒姉ちゃんの足元――に居る那由他に笑顔で問い掛けてみる。さっきはコイツの所為でマジ死ぬかと思った。泥棒姉ちゃんの殺気マジパネェッス。てか那由他踏まなかったら、間違いなく俺もとばっちり受けて焼かれてた。通訳してくれるのは助かるんだが、色々ともーちょい自重して欲しい。

 しかしそんな俺の想いとは裏腹に、非常に不機嫌そうな表情を向けるなゆなゆ。将棋で五十連敗した時ですら、も少しマシな顔してたかもしれない。どうやら彼の辞書に『反省』という単語は載ってないようだった。むしろ『闘争本能』とか『喧嘩上等』、『力こそ正義』みたいな単語が山のように載ってそうだ。多分今の那由他の中で、俺はヒエラルキーの底辺に位置づけられているかもしれない。うむ、下克上の日は近そうだ。とりあえず背中には気をつけるとしよう。


「遅かったじゃないか妹紅……何かあったのか?」


 泥棒姉ちゃんとは違う声が響き、何事かと顔を上げると……真赤な目をした美女と目が合った。腰まで届く白髪と、頭から突き出たロングホーン。しかもよく見るとスカートからは尻尾らしき物まで……つくづくこの世界は人外――そして美形――が多い。

 ……ところでどうして俺をそんなに睨むんデスカ? 泥棒姉ちゃんの時もそうだったけど、兎妖怪って実は嫌われ者? まぁ確かに腹黒い人――母さんとか総隊長とか――は多いけどさ。


「んーちょっとした人助け? 後、これは夜食」

『ちょっ!? マジかYO!?』


 あ、もしかして俺選択ミスった? 死亡フラグを華麗に回避したつもりが、実は直撃してましたー的なアレですか? 畜生、美人な姉ちゃんを信じた俺が馬鹿だったぜ!!

 早々と抜け出そう奮闘するが……どこにその怪力があるのだろうか、腰に回された腕からは一向に逃れられない。てか、何かちょっとづつ絞まってきて感が……ちょっ! 苦しい! 苦しって! ギブギブギブギブ!!


「……大丈夫か? ソレ。何か必死にもがいているようだが……」

「ああ、死にはしないさ」

  ―――パンパンパン!


 ぐぇ……更に絞まっ、何かミシミシ言ってるYO! ギブギブ! ギブっつって、サーセン調子こきました! あぅっ! 死ぬ死ぬ死ぬ! 絞まる絞まる絞まる! 折れるって! どうせならベアバックでお願いします!! 胸ん中でだったらまだ耐えられる気が……おぅんっ!


『なっ、那由他! 見てないで助けろや!!』

「……」


 いやん、そんな汚物でも見るような目で見んといてアッーーーーー!!


「……事切れたな」

「呆気ない」




















 不甲斐無いと思う。今まではまだ目を瞑ってこれたが、今回の事を見過ごすのは……無理だ。それは私の自尊心が許さない。縁側にて、もう既に見慣れた竹林を眺めながら、私は一人ため息を吐いた。


「どうしたんだ? ため息を吐くと幸せが逃げるよ」

「フン、だとしたら私の幸せは、もう何年も前に逃げているさ」


 隣に紅白の人間が腰を下した。確か連れの獣人が『妹紅』と呼んでいたような気がする。ふむ、妹紅か……強大な力を持つ割に随分可愛らしい名だ。

 チラリと彼女の顔を盗み見る。憂いを帯びた表情で月を眺めるその姿は、少なくともあれだけの弾幕を飛ばした張本人には到底見えないだろう。これで妖怪だというのなら納得もいくのだが、生憎この匂いは人間以外ありえない。獣の匂いも妖の匂いもしない、人間特有の個々の体臭がそれを裏付ける。

 だがただの人間がそこまで強くなれるとは聞いたことがない。噂で聞いた博麗の巫女ならば話は別かもしれないが、この人間は博麗の巫女ではないし、本の匂いもしない為に魔法使いという線も消える。……だとすると、彼女は一体何なんだろうか?

 己の中で疑問が水泡のように湧いては消えていく。私がそんな事を考えているとは露知らず、彼女は団子の乗せられた皿を置いた。ふと目が合った瞬間、次に彼女が何を言いたいのかは直に分かった。


「と」

「毒なぞ盛っておらぬ。今宵の訪問は姫君の命ではなく、主の独断だ」

「……そっか」


 そう言うと、彼女は竹林の葉の隙間から微かに見える月を見上げ、少しだけ形の崩れた団子を口へと運んだ。

 ……私の能力は便利だと思う反面、中途半端だとも感じる。相手が何であろうとも、言いたい事があれば聞こえてしまう為、事実と嘘を見分けるのは簡単だ。交渉次第では地の利さえも此方の味方につける事が出来る。しかしその為には、巧みな話術が必要となる。力を授かった時はそれこそ有頂天だったが、十年もの月日が経った今では、自然と会話する事が億劫になってしまった。お喋りが過ぎて痛い目を見たのも、一度や二度の事ではない。そして私は学んだのだ。『沈黙は金、雄弁は銀』という事を……。

 一言も言葉を発さない彼女に目を向け、頭から足、手先に至るまでじっくりと観察する。肌の張り、髪の質、胸の膨らみ……どこを見ても若々しい人間のそれだというのに、大樹のようなこの寡黙さは何だ? 何故人間が妖獣の私よりも高みに居る? いや、そもそも私の目の前に居るのは、本当に人間なのか(・・・・・・・)


「慧音が」

「っ!」

「感謝してた……ってどうしたんだ? いきなり飛び退いて」

「……いや……すまぬ。少し考え事をしていた」


 咄嗟に声を掛けられた所為だろう、私は反射的に彼女から距離を取っていた。謝りつつも、やはりこの人間には敵いそうもない事を理解した。何の前兆もなく話し掛けられたのはこれで二度目だ。一度目は『あの』大妖怪が相手だったが、その時は本気で死を覚悟した。出来ることならばこういった輩には、もう二度と会いたくはない。

 静かに元の位置へと戻った私に、彼女は何か考えるような仕草を見せた。『声』は聞こえない。相当な精神力が無ければ成し得ぬ業だ。


「んー……あの兎の事?」

「……それもある」


 ずいっと顔を近付けられた為か、思わず視線を逸らしてしまった。頭の中では先程の場面が繰り返される。自業自得な人間、捕食者の妖怪、人間を助けた主……そうだ、私には目の前の人物の事よりも重大な問題があったのだ。考えるだけで頭が痛くなる問題ではあるが……。


「全く、何を考えているのやら……」

「ん?」


 ハッとなって自分の犯した失態に気付き、その軽率さを恥じた。だが意識せず考えを口に出すとは、実は相当参っているのかもしれない。原因は言わずもがな私の主。そもそも最初に主が『お使いに行く』などと言い出さなければ、私がこうして心労する事にもならなかっただろう。

 ……過ぎてしまった事を嘆いても仕方ない。私は意を決して、人間と目を合わせた。


「お前は主をどう思う?」

「あの兎?」

「そうだ」


 チラリと後ろの居間を盗み見る彼女――それに倣い、私も静々と視線を向ける。そこでは一人の獣人が手際よく主の手当てをしていた。出会った時は射殺さんばかりに主を睨んでいたというのに、事情を話した途端この扱いだ。余程人間を贔屓にしていると見える。

 妖怪である獣人が人間側に付く事は、然程珍しい事ではない。誰だって身近に住んでいる生物には愛着が湧く。妖怪と言えども日中は人間と何ら変わりない獣人にとって、人間こそがその『身近に住んでいる生物』なのだ。

 しかし、主は違う。主はれっきとした『妖獣』だ。妖獣は人間に危害を加える事はあっても――その人間に恩があれば別だが――助ける事はまずないと言っていいだろう。そもそも妖獣には『異種を助ける』という概念がない。その反面同種の繫がりが深く、仲間意識が非常に強い。

 更に主は、妖獣の中でも下位に位置する兎妖怪だ。いくら普通の人間より強いとはいえ、妖怪退治を生業とする人間には勝てないだろうし、捕まえられればそのまま食肉とされてしまうだろう。

 幻想郷で兎の肉ほど高級な食材はない。それが妖獣の物となれば当然その価値も跳ね上がる。兎がこの竹林以外に生息していないのは、捕食者達の所為だ。

 だから主が何も考えずに人間を助けた時は、思わず我が目を疑った。

 何故愚かな人間を助けるのか。

 何故自らの天敵を助けるのか。

 何故自ら敵を作るのか……私には理解出来なかった。


「変わり者」

「……そうか」


 私はため息を吐いた。分かってはいたものの、改めてこう答えを突きつけられるとやはり堪える。そんな様子の私を見かねたのか、彼女は新たな団子を頬張りつつもフォローを入れた。


「いいや、悪い意味じゃないよ。確かに妖怪としての常識には欠けるかもしれないけど、私はそんな変り種が居てもいい気がするんだ」

「……私はそうは思わぬ。使うだけ使い、何にも出来なくなればあっさりと切り捨てる。そんな人間に手を貸して一体何になるというのだ?」

「変な所に焦点を絞る猫だね……そんな人間は少数派だと思うんだけど……」

「本当にそう言い切れるか?」

「……」


 その問いに彼女は押し黙った。そして私から視線を外し、月を見上げる。やはり彼女も同じか……と、私は内心呆れた。どんなに力を持ったとしても人間である事に変わりはない。人間本位の考え方しか出来ない彼女に、私は失望の色が隠せなかった。


「……性善説って知ってる?」


 不意に声が投げかけられた。当の本人は未だ空を仰いでいる。答えを求めている問いではなかった為、私は静かに耳を傾けた。


「私の友人にそれを信じて止まないのが居てね。人間だった頃からずっと信じ続けて……妖怪となった今でもそれを信じてる」


 私はそっと後ろを振り返る。獣人の後姿が目に入った。マイペースに揺れる尻尾を見る限り、こちらの話は聞こえてなさそうだ。


「話をする時は何時も人里の話ばかりで、やれ新しい生徒が来ただの、やれ収穫祭は大成功だっただの……そんな日常的な事を、本当に嬉しそうに話すんだ」

「……ふむ、変わり者だな」

「だろ? お人好しだしお節介焼きだし……善意の塊みたいな奴さ」


 そう言って、彼女は満面の笑みを浮かべた。歳相応の純粋な笑みだ。私が人間であったならば、その表情にときめいたかもしれない。だが私は猫だ。そんなもので絆されるほど甘くはない。


「それで、結局何が言いたいのだ?」

「……空気読めない猫ね……まぁいいか。要するに人間は基本的に善人だって事だよ。慧音自身は元より、妖怪と化した彼女を受け入れる人間もまた然り。全ての生物の根本には善があるのさ」

「本気で言ってるのか?」

「勿論」


 私は不快感で顔を歪ませた。正彼女の言葉はただの理想論にしか聞こえない。やはり聞くだけ無駄だったな……と、私は深くため息を吐いた。

 人間全てが善人……それが事実ならばどれだけ良かった事だろうか。人間の本質を知ってしまった私には、彼女の全てが虚言に思える。所詮私達は人間と妖怪……相容れる事はないのだ。


「慧音が何度もそう言うから、私も信じてみたいのさ……」

「……そうか」


 そこで会話を打ち切り、思想の違う私達は揃って月を見上げた。




















 もぐもぐと最後の一個となった団子の味を噛み締める。歩きながら食べるのはマナー違反かもしれないが、分かってやっていれば問題ない。間違っている事をあえて行うこの背徳感に勝るものはないだろう。無論嘘だが。

 実のところ、泥棒姉ちゃん――もといもこたん――の家でのんびりしてる時間がなかった。何故か知らんが那由他に叩き起こされ、寝ぼけ半分でバイバイって流れになったのだ。お陰で俺の寿命がストレスでマッハだ。美人な姉ちゃん達と一緒に団子を食うという素敵なシチェーション返せ。


『団子うめぇ』

「黙れ。さっさと帰って寝るぞ」


 ……本当にどーしたんだろうか、那由他は現在進行形で不機嫌だった。あの二人と別れる時も苛々してたし、何時も通りのボケに対するツッコミも鋭過ぎて一言で切り捨てられる始末。俺が寝てる間に何かあったんかね? それこそ常時黒いオーラ出し続けるような不快な出来事が……。

 しかし、俺にはそんな場面がちっとも想像出来ない。もこたんは正義感の強い人で、けーちゃん――ロングホーンの人――はそれなりに面倒見がいい人。それにウチの理知的ななゆなゆを加えた三人でトラブル? 俺の豊かな妄想力でもイメージ出来ねぇや。

 思わずため息が出る。考えても答えは出そうにない。こういう時は本人の口から聞くのが一番手っ取り早いのだが、那由他の場合は答えてくれなさそうだ。これは自分から言い出すのを待つしかないだろう。

 かさこそと笹の葉を踏み締め、帰路を歩む。けーちゃんのお陰で左足は治療済みだ。応急処置だと言っていたが、妖怪の回復力は馬鹿みたいに高い。何せ死に体から一ヶ月弱で回復したのだ、無理をしなければ一週間ぐらいで完治するに違いない。今度来る時はけーちゃんにお礼の品でも持って行くとしよう。


『なー那由他ー』

「何だ」

『角っつったら、やっぱ赤だよな』

「お前がそれでいいと思うのなら、それでいいのではないか」


 うわっ、何この素気ない態度。しかも振り向きもしないで返答しやがった。アレですね、下克上の為の精神攻撃ですね分かります。

 ……あーやっぱ駄目だ。どーもこういったギスギスした空気は好きになれない。百パー悪態吐かれるだろうけど、とりあえず聞いてみっか。


『那由他、やっぱお前何か変だぞ? 何かあったのか?』

「……」


 ピタリと、俺の前を歩いていた那由他はその歩みを止めた。あれ? もしかして地雷踏んだ? 予想ではここで「五月蝿い」とか「黙れ」って感じの返事が返ってくるかと思ったんだけど……。


「主は……」


 一陣の風が吹き、頭上高くにある竹の葉がざわめき出す。まるで映画か何かのワンシーンみたいに、那由他はゆっくりと振り返った。そして……。


「一体何者なのだ?」


 ただ一言、俺に問うた。



前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.040664911270142