ギィン!
大剣と大太刀がぶつかる。
そして、少女の姿が目に映る。
小柄な女の子だ。
ヘカテーより少しだけ背が高い程度。
よく見れば可愛い少女が無骨な黒のライダースーツを着込んでいるという妙な組み合わせだが、その貫禄のある存在感のためか似合わないとは感じない。
女の子に対する誉め言葉にはなりそうにないが。
だがそんな事よりも目を引くのは、紅蓮。
まさしく燃える様な美しい赤い髪と瞳。
(炎髪灼眼の討ち手、か)
ぴったりの称号だなと思う。
ギリッ
刃と刃がせめぎあう。
悠二は『吸血鬼(ブルートザオガー)』の持つ、『存在の力を流す事で刃に触れるものを斬り裂く』という特殊能力を使わない。
メリヒムの言う『腕試し』で使うものでもないし、そもそも悠二からすればこの少女は『標的』ではない。
大怪我させるわけにもいかないだろう。
そんな他愛無い思考のなか、
目の前の紅蓮の少女が、
ギィン!と大太刀を振り抜き、もう一閃、斬撃を放つ。
再び手にした『吸血鬼』で受けとめる悠二。
戦いにおける初の感想、
その見た目通りの軽い身のこなし。
そして一撃一撃、全体重を乗せるように体ごとぶつける。
攻撃、防御、回避、それら全てを体全体で行うダイナミックで、だが実に素早い戦闘様式。
二撃の太刀合わせでここまでわかる事実。
要するに、
(ヘカテーの動きに似てる)
(あの、馬鹿!)
こちらは"虹の翼"メリヒム。
襲えとは言ったが、出てくるなと言った少年までいる事に驚愕し、心中で怒鳴る。
あの子には腕試しの事は言っていない。
自分が前もって話した徒とミステスがフレイムヘイズを警戒して襲ってきたとでも考えているだろう。
このままでは坂井悠二が消される。
どうする?本当の事を話して止めるか?
"頂の座"がついている事だしもう少し様子を見るか?
しかし今の二撃を受けとめるか、あの少年も短い間でなかなかに伸びたものだ。
いや、あいつの成長を見たかったわけではないのだが。
悠二と少女がせめぎあう間、メリヒムの頭をそんな思考が巡る。
「ふっ!」
今度はこちらから斬撃を放つ悠二。
だが、あっさり受けとめられる。
そして感じた手応え。
『剣と剣では分が悪い』。
「伏せて!」
下さいを省いた声が後ろから聞こえる。
状況から言って省くのが自然なのだが、珍しいものが聞けた。
などと場違いに呑気な事を思い、悠二は刃を合わせたまま重心を低くしてしゃがむ。
その、大剣と大太刀の交差する上から、
ガァン!!
大杖・『トライゴン』が叩きつけられる。
「せぇ‥‥」
重心を低くした悠二と、上から大杖を重ねたヘカテーが、
「の!」
力を込めて、大剣と大杖を同時に思い切り振り抜く。
「くっ!」
二人分、しかも片方は相当な重さを伴った一撃を大太刀に受け、紅蓮の少女が後ろに弾きとばされる。
そこで、
ドンッ!
横合いから悠二とヘカテーに向けて、虹の炎弾が放たれる。
なるほど、実戦に見せるためにはメリヒムが見学しているというのも不自然だから形だけは介入するつもりか、こっちも二人だし。
(好都合だ)
炎弾を避けながら悠二はそんな風に思う。
離れた所でじっと見られているよりも、『炎髪灼眼の腕試し、自分は戦う振りをするだけ』と油断して、なおかつ近くにいてもらった方がこちらもやりやすい。
隙を見て、捕まえてやる。
(問題は‥‥)
今、ヘカテーと弾き飛ばした少女に目をやる。
(本当の戦いだと思ってるあのフレイムヘイズか)
そう思い、警戒する悠二。
そこで気付く。
(足の、裏!)
紅蓮の少女の存在の力が、足裏に集中するのを感じ取る。
ドォオン!
少女の足の裏から"爆発"が起こり、超速の弾丸となって飛んでくる。
(早すぎる!)
しかしそこで、
「っは!」
ヘカテーが大杖を振り、一陣の突風を紅蓮の少女に叩きつける。
「っ!?」
それによって、超速の突進は失速する。
速さを失った突撃など、かっこうの的だ。
「はあ!」
大剣を持っていない方の左手から炎弾を放つ悠二。
その炎の持つ"銀"という異質な色に少女が動揺する様子はない。メリヒムから事前に聞いていたのだろう。
しかし、攻撃としての脅威には変わりがない。
しかし、
少女は体をひねり、炎弾の軌道から自身の体をわずかに外し、来ているコートを文字通りに『広げ』、少女の体を何重にも覆っていく。
恐ろしいまでの反射速度と対応の速さ、だが‥‥
(甘い!)
「弾けろ!」
悠二の声と同時、少女を通り過ぎ、地面に当たってから爆発するはずの炎弾が、少女の真横、最も近い距離で弾け、銀炎を撒き散らす。
(防壁みたいなのを作ってたし、あれくらいなら大丈夫‥‥)
とりあえず少女に怪我をさせるつもりのない悠二がそんな事を思う中途で、
「ぶっ!?」
顔面を蹴り飛ばされる。
誰に、など考えずともわかる。
今悠二に攻撃してくるのはあのフレイムヘイズかメリヒム以外いないのだから。
「くっ!」
たった今自分を蹴ったメリヒムに大剣を振るう。
予測通りに、メリヒムはサーベルを抜いてこの一撃を止めるが、
一つ、予想外な事。
そのサーベルが、中途から、無い。
御崎市を出てからメリヒムに何があったのか、
メリヒムの持つサーベルの刀身が砕けていた。
予想外の、
(ラッキー!)
「っ!?」
そのメリヒムに、ヘカテーが『トライゴン』を振り下ろす。
危うく躱すが、さらに悠二が繰り出した大剣の斬撃をその中途半端なサーベルで受けとめる事で動きが止まる。
「ぐあ!!」
その隙を、ヘカテーの両足の蹴り、ドロップキックが突き、メリヒムの顔面を捕え、ふっとばす。
なんか、今の一撃から殺意を感じとったのだが‥‥
「!」
そこで悠二に斬り掛かる紅蓮の少女。
見るに、さっきの一撃はダメージらしいダメージになっていないらしい。
手加減なんてするような相手じゃなかった、と自分の愚かさを嘆く。
「?」
そこで少し違和感を感じる。
今、メリヒムがふっとばされて、自分とヘカテーだけが一つの場所に固まっていた。
まとめて自在法や炎で攻撃した方が斬撃よりはるかに良さそうな場面だったのだが、さっきの反応からしてこの討ち手がそんな判断ミスはしそうにない(ちなみに、『アズュール』の事ならメリヒムにも話した覚えはないしこの少女が知るはずがない)。
何で斬り掛かってきた?
疑問を抱く悠二。
その悠二の眼前で、大太刀に存在の力の集中。
(へ?)
ドオン!
至近で、さっき少女の足裏から出されたものと同じ爆発が悠二を襲う。
自在法発現に備えて『アズュール』の火除けの結界を張っていた悠二に、その爆炎は届かないが、爆風などの衝撃が、悠二を後ろに下がらせる。
下がりながら、分析する。
半ば信じられずに。
(わざとなわけ‥‥ないよな)
今、少女が存在の力を練り、発現させた爆発。
さっき足裏からだした時は気付かなかったが、あの距離でならわかった。
恐ろしく大雑把で練った、というより集めただけの力の発現。
存在の力の顕現も、全くもって非効率に過ぎる。
爆発を狙ったにしてもあんな構成でする理由は全く無い。力の無駄遣いである。
あまりにも粗雑、爆発というより、炎を出すという単純な顕現に失敗して『暴発』したといった方が正しい。
「‥‥‥‥‥」
前にヴィルヘルミナから聞いていた話や、さっきからの見事な動きから信じがたい事ではあるが、今、自分が掴んだこの少女の練った力の感覚が決定付けている。
(この子は‥‥自在法が使えない)
その、信じがたい『事実』と、メリヒムのサーベルが折れていた事も踏まえて、戦略を練る。
隣のヘカテーに目をやると、向こうも気付いていたのか悠二の目を見てコクリと頷く。
さっきから、自分の動きや考えを読む、というよりわかっているように動き、欲しい時に援護をくれるヘカテー。
初の(まともな)連携とは思えないほどに、不思議なくらい息が合う。
その嬉しさを感じ、意気込んで、"始める"。
「ヘカテー」
「はい」
ただそれだけで、ヘカテーは悠二の意図を察し、メリヒムへと向かう。
「‥‥よし」
そして自分は、先ほどからこちらの出方を伺っていたらしい『炎髪灼眼の討ち手』に向き直る。
(やるか)
向き直る悠二の、大剣・『吸血鬼』を持たない左腕に、
彼独自の複雑怪奇な、
銀色の自在式が絡むように巻き付いた。
(あとがき)
予定では次でバトルは終わるつもりです(伸びる可能性は捨てきれない、携帯の字数制限のため)。
悠二固有の自在法、名前つけた方がいいかな、無いと書きにくそうな気もする。
けど無い方がいいような気もする。
あった方がいい。あるとダサそう。など意見があれば感想掲示板に書いて下さると助かります。
今回は特に(次話で出すから)。