「‥‥‥入れ替わった?」
「そう」
「はい」
「‥‥‥何が?」
こちらの質問に、やはり不自然な返し方をする少女達に、根本的な疑念を訊ねる坂井悠二。
「宝具の力ですね。おそらく、使用者と対象者の意志総体を入れ替える力でしょう」
平井ゆかりが、似合わない、生真面目な喋り方で説明してくる。
(意志総体、が入れ替わるって事は‥‥)
「つまり、今、ヘカテーは‥‥」
「ゆかりの体です」
「‥‥で、平井さんは‥‥」
「イン・ヘカテー」
「‥‥‥はあ、それで?何でそんな事になってるんだ?」
そんな宝具もあるのか、とは思いつつ、とりあえずその元凶を訊く悠二。
すでにすんなり受け入れるどころかほとんど驚きも湧かないあたりかなり『こっち』に染まっている。
「‥‥‥ゆかりは、入れ替わった時、何を持っていましたか?」
「‥‥えーと、何か手当たり次第に掘り返してたような‥‥」
入れ替わった時の事を確認している平井とヘカテー。
いつもと口調も抑揚も違うから二人とも何だか別人のようだ。
いや、中身は違うらしいから別人といえば別人でいいのか?
ヘカテーが茶目っ気のある話し方をするのが可愛いとか、平井さんがいつもと違っておしとやかに見えるとか、今という事態にも関わらず感じる悠二である。
「‥‥では、おそらく、私が持っていた黒い筒が原因でしょう。
ゆかり、入れ替わった時に私が持っていたはずの筒は?」
ヘカテーに問われ、慌てるヘカテーの体の平井ゆかり。
「えっ?、筒?」
両手を見るが、何も持ってなどいない。
「「「‥‥‥‥‥」」」
三者、沈黙。
「‥‥‥平井さん‥‥もしかして、掘り返してた時の勢いで放り投げた?」
「ゆかり?」
「‥‥‥てへ☆」
「てへ、じゃありません」
「いや、ヘカテーも人の事言えないよ」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥ヘカテー?お願いだから私の体で子犬みたいな顔しないで。何かわけもなく情けなくなる」
「いや、結構貴重な映像だと思うけど‥‥」
「(ギロッ)、何か言った?坂井君」
「ヘカテーサイズで睨まれても迫力に欠けるよ?平井さん」
言って、口元を押さえる悠二。
それを見る平井。
どうやら悠二は、後れ馳せながらこの状況を面白がっているらしい。
普段からかっているこの少年にからかわれるのは何か悔しい。
「ふんっ!要はその黒い筒探せばいいんでしょ?
ちょっと、ヘカテー邪魔するよ!」
言って、ヘカテーの‥‥というか自分の?、ポケットを漁りだす平井(イン・ヘカテー)。
ややこしい。
ポケットから取り出したのは二枚の羽根。
「それじゃいくよ!『出ろ!』」
言うと同時に上に、羽根を投げ、それが複雑な紋様を描いた銅鏡に変わり、さらにそれが、地に着く直前に『箱庭』に変わる。
「きゃっ‥‥」
「わっ!」
「っ!」
突然現れた箱庭に、おもちゃの山が押し退けられて、三人を飲み込む。
「‥‥二人共。大丈夫?」
存在の力を扱えない平井の体のヘカテー、体は徒でも力の扱い方を知らない平井、その状態でおもちゃの山に飲まれた二人に悠二が声を掛ける。
「なっ、なんとかね」
「‥‥大丈夫です」
ひとまず安心だ。
だが、これは‥‥
「この箱庭が‥‥さっき言ってた『玻璃壇』?」
そう、平井が手元にあるもう一枚の羽根で操作して出したのは、先ほどヘカテーに渡された、以前"狩人"フリアグネが使っていた宝具『玻璃壇』だった。
平井が直接戦場に来たりしないように、遠くでサポート出来る『玻璃壇』を渡す、ヘカテーのアイデアである。
「レーダーみたいな物だっていうから、何とかなるかなあって‥‥」
と、言う平井。しかし、どちらかというと『出してみたかった』が本音だったりする。
「いくら何でもこんなに近くでは意味がありません。
それに、宝具を映す事はできません」
「あはは、だって、てっきり、センサーみたいな物かと思って‥‥箱庭が出るとは思わないじゃない?」
まあ、普通は箱庭とは思わないだろうが。
ところで、笑って誤魔化すヘカテー(顔)はかなり貴重である。
「‥‥‥坂井君、あれ、何だろ?あの模様」
平井の言葉に、示された箱庭の一画に目を向ける。
あれは‥‥自在式?
だが、この色は‥‥ヴィルヘルミナでもラミーでも、もちろん自分やヘカテーでもない。
青っぽい。
「‥‥‥群青」
平井の声でヘカテーが言う。
「『弔詞の詠み手』!」
『弔詞の詠み手』・マージョリー・ドーとその子分達は、歩いて依田デパートに向かっていた。
飛ばない理由はいくつかある。
一つ、案内人がいる。
二つ、せっかく気配を消しているのに、飛んで見つかったら馬鹿らしい。
三つ、単純に急いでいない。『戦場跡』を見に行くだけなのだから。
そして、到着。
「‥‥‥何かありましたか?」
ボロボロのデパートを見渡し、佐藤がマージョリーに訊く。
「それがわかんないから探してんでしょーが、あんた達も何かおかしな物見つけたら教えなさい」
「にしても随分派手にブッ壊れてんなあ。『足場』がこれだけしかねえ高え建物だからこの程度で済んじゃいるが、街中だったらどんだけの被害だったんだろーな!ヒャーハッハッ!」
ヒャハハじゃないだろ、と思いながら佐藤と田中は懸命に辺りを探る。
が、
やはり何も見つからない。
結局、『弔詞の詠み手』一行の依田デパート訪問は無意味に終わった。
「あーもう!結局今日一日で成果ゼロじゃない!ったく」
「そう焦んなって!我がせっかちな追跡者、マージョリー・ドーよお」
「わかってるわよ。あんた達、今日はもういいから、明日また探るわよ?」
「え?明日って‥‥」
「俺達も‥‥なんですよね?」
戸惑いながら訊く佐藤、田中。
「?、当たり前でしょーが?」
途端、パアッと明るい表情になる二人。
二人してハイタッチまでかましている。
「ヒヒッ、可愛い子分共だなーおい」
バンッ!
「おだまりバカマルコ」
マルコシアスを平手打ちで黙らせ、二人にひとまず別れを告げる。
「んじゃ、私は今から宿探すから、明日ね」
言って去ろうとするマージョリーに、
「あの、マージョリーさん?」
佐藤が声を掛ける。
「今度は何?」
「宿がいるんですよね?いい所、知ってますよ」
田中も続く。
「‥‥‥酒はあるんでしょーね」
マージョリー達が立ち去った依田デパート。
その天井の一画に、
黒い筒が引っ掛かっていた。
「何も逃げる事無かったんじゃないか?」
あの後、悠二達は慌てておもちゃの山を収納し(悠二が)、一目散に依田デパートを立ち去った。
「『弔詞の詠み手』はフレイムヘイズ屈指の殺し屋です。
ミステスの悠二はともかく、『タルタロス』をつけていても、見た目で私だと気付いて、襲ってくる恐れがあります」
ヘカテーは『弔詞の詠み手』の仇敵が"銀"だとは知らない。
そして、今三人は坂井家に向かっている。
理由は単純、体が入れ替わった、しかも結構間抜けな経緯で、という恥を広めたくないからである。
今日は平井(というかヘカテーだが)が坂井家に泊まり、おもちゃの山から先ほどの宝具を見つけ、もう一度同じ事をすれば戻れるだろう、という段取りである。
「ラミーさんには知らせなくていいの?」
平井がヘカテーの声でヘカテーに訊く。
「"屍拾い"がトーチしか喰らわない事は知れているはずです。それに、彼女がそうやすやすと見つかるとも思えません」
まあ、さっきホテルに掛けてもつながらなかったし、仕方ないと言えば仕方ないのだが‥‥
「カルメルさんは‥‥別にいいか、フレイムヘイズ同士だし」
「はい、それにもしその事で直接会うという事になれば私達の現状に気付かれる恐れがあります」
「現状っていうと、ヘカテーが筒で遊んでるうちに宝具の力で平井さんと入れ替わったっていで!!」
平井の体でも健在のヘカテーのチョークの投擲、『おしおき星(アステル)』が炸裂する。
「意地悪をしないで下さい」
「ん〜、やっぱ自分がヘカテーの行動とるの見てるのは変な気分がするね」
「お互い様です。とりあえず、『弔詞の詠み手』が"隠蔽"まで使っていた以上、早めに元に戻っておいた方が良いでしょう」
「ならカルメルさんに教えとけばいいのに」
「(ギロッ)何か?」
「‥‥‥何でもない」
この行動が、後に影響を与える。
悠二達の気付かぬうちに、事態は徐々に、悪い方に傾いていく。
(あとがき)
原作の弔詞の詠み手編と状況が違うとはいえ、大分強引な流れになってますね。
自分の構成力?の限界を感じたりします。
そして、いつまで日常編書いてんのかと、何だろこのグダグダ感。