「と、いうわけ、オーケー?」
平井さんが、アウトロー、フレイムヘイズの情報交換支援施設に、関わりを持った?
「『あの時の』見てただろ!?何で自分から‥‥」
自分と、ヴィルヘルミナの戦い、そしてヘカテーの一撃、どれだけ危険か、あの場に隠れていた平井ゆかりが、わからないはずがない。
「“だからこそ”、踏み込んだの‥‥自分達だけ危なくて当然なんて思わないでよね」
「っけど!、平井さんは‥‥」
「『人間』だから‥‥特別扱い?、事実を教えてくれた時と立場が逆だね」
「!」
そう、ヴィルヘルミナとの一戦の後、自分達が『人間じゃない』事を話した時、その後も、この少女は‥‥自分達と、今まで通りに、接してきたのだ。
「親友なら、私の意思を尊重して欲しいな。大体、これでも悩んで決めたんだから、今さら何言ったって聞かないよ♪
ほら、ヘカテーもそんな顔しない!」
こちらの心配が杞憂に思えてしまうほど、明るい口調で話す平井ゆかり。
というか、こっちがフォローされてたら世話ない。
「それに‥‥」
「?」
「これでも、結構楽しんでるしね♪」
「‥‥‥はあっ‥」
言われるまでもなく、まるわかりである。
とはいえ、こんな境遇にある自分でさえ、これからどう生きて行くかを決められていない。
早々に、覚悟を決め、行動に移した平井に、何を言う事もできないか。
と、いうか、本人も言っている通り、言っても聞かないだろうけど。
「ま!まだ正式な構成員じゃなくて、カルメルさんと外界宿(アウトロー)の情報伝達専門の客分って感じだけどね‥‥ん?何、ヘカテー」
見れば、今まで一言も話さず、ただ心配、あるいは不満な目で平井を見ていたヘカテーが、平井の袖をつまんでいる。
「なら、ゆかりに、これを渡しておきます」
「んで、あっちが市街地で、こっから先が住宅街で‥‥」
佐藤啓作と田中栄太の二人は、学校さぼって美女の御崎案内ツアーをしている。
案内の最中に、絡まれたチンピラを軽く叩きのめしたり、それを聞き付けた警官を、額をこずくだけで『自分から』帰らせたり、とにかくこの美女の言葉を裏付けるような不思議を何度か目にしている。
美女・マージョリー・ドーの言葉を信じるどころか、完全に子分気取りの二人である。
今も嬉々として『親分』の役に立っている二人に、その親分から声がかかる。
「ねえ、あの屋上吹っ飛んでる建物は?」
言って、マージョリーが指差したのは、かつてヘカテー(と悠二)が“狩人”フリアグネと戦い、戦いの後に封絶内の修復、いや、維持すらできなくなり、破壊されたままになっている依田デパート。
「ええ、あれは依田デパートです。ただもう閉鎖されてて、今じゃ地下の食品売り場くらいしか無いですけど」
佐藤が、その質問に応える。
「閉鎖された‥‥ね。んで?何で屋上吹っ飛んでるわけ?」
「それはもちろん‥‥あれ?」
意気込んで応えようとした田中が、止まる。
佐藤も首をひねっている。
「いつ、壊れたっけ?屋上」
「いや、何か最初から壊れてたような‥‥」
「そんな建物あるわけないだろ」
「じゃあ、いつ壊れたってんだよ?」
「それだわ」
『依田デパート破壊議論』を繰り広げる田中と佐藤に、マージョリーが割って入る。
「姐さん、それって?」
「言ったでしょ?封絶内で起きた不思議は、人間には認識すらできないの。
もし、封絶内を吹っ飛ばして中を直さなかったら、今のあんた達みたいに、『壊れてるのが当たり前』って思っちゃうのよ」
「じゃあ‥‥」
「あそこが‥」
理解してるんだかしてないんだかわからないような声で言う二人の言葉を、マルコシアスが先取る。
「この街をこんなトーチだらけにした野郎の『戦場跡』ってわけだ」
その頃、依田デパート。
「これは‥‥違う。これ、も違う」
悠二、ヘカテー、平井の三人が、おもちゃの山を探っていた。
理由は、
『そのミステスと、徒。ああ、坂井君の炎とか、ヘカテーの真名とかは伏せといたんだけどさ。
その監察に関しては『万条の仕手』に全面的に任せるってさ。
カルメルさんがビッグネームで助かったね。んで、それはいいとして、御崎市のトーチの発生原因が“狩人”フリアグネであるという事の証明があると助かるんだってさ』
と、いう理由からフリアグネの本拠だった依田デパートに来ているのである。
本来、学校さぼるほど急ぎの用でもないのだが、ポケベルで早退してしまったので、ついでというやつだ。
ちなみに、ヴィルヘルミナが有名なのは、かつて『大戦』で活躍した『竜殺し』の英雄、という伝説からでは実は無い。
そういった数百年前の類の話を実体験として知って、生きている者がほとんどいなかったためである。
ゆえに、ヴィルヘルミナの名が知れているのはあくまで彼女が『天道宮』で『炎髪灼眼の討ち手』を送り出して以降の数年の活躍によるものだ。
ともかく、三人はまず、おもちゃの山を写真に収め、そのついでに何か宝具でもないか見ているのだが‥‥
「ねえ、坂井君。本当にさっきのやつとかも宝具じゃないの?それっぽいのに。」
「存在の力を通せば宝具かどうか確信できるから。それにしても、なかなか無いな」
「けど、ヘカテーはさっきから次々に『収納』してるけど?」
「‥‥‥あれは多分違うと思う」
二人の視線の先で、小柄な少女、ヘカテーが辺りを見渡し、おもちゃの山から次々に手に持った白い羽根に収納している。
宝具を見つけたというにしては頻繁に収納しすぎているし、目を付けるものがかわいい物に偏りすぎている。
ただ単に気に入ったぬいぐるみなどを収納しているだけだろうと推測する悠二である。
「そう言う平井さんだってさっきから何の確証があって判別してるんだよ?」
そう、平井ゆかりも探索に参加している。
「マイ・シックスセンス♪」
迷わずにそう断言する平井に嘆息してしまう。
「おーっしゃ!やるぞー!」
気合いを入れ、おもちゃの山を掘り返す平井。
「?」
これは、何だろう?
悠二の読み通り、宝具か否かに関わらず、自分のお気に入りグッズを漁っていたヘカテーが、一つの物を手に取る。
黒い棒のような筒、両端にレンズがはめてある。
(望遠鏡?)
前に平井家に泊まった際に知った物かと推測し、レンズを覗いてみる。
しかし、像は歪むだけで、拡大はされない。
望遠鏡ではなかったが、この歪む感じが気に入ったヘカテーはレンズ越しに歪む景色を変えて楽しむ。
その視界に、
平井ゆかりが映る。
「えっ!?」
「っ!?」
「?、どうしたの。二人とも?」
特に何もないように見えた光景で、ヘカテーと平井が同時に何か反応した事を訝しがる悠二。
「‥‥‥?」
「‥‥‥?」
「ヘカテー?、平井さん?」
自分の呼び掛けにも反応しない二人に、今度は少し心配になる。
その二人が、互いを指差して、同時に言う。
「「‥‥私?」」
また二人して口を手で押さえる。
何をやってるんだ?
「平井さん、またヘカテーに何か吹き込んだ?」
平井に訊くと、
「悠二‥‥‥平井‥さん?」
いつもと違う呼び方で返し、また口を手で押さえる平井ゆかり。
全く意味がわからない。
「ヘカテー?どうかした?」
今度はヘカテーに訊いてみる。
「え?坂井君?、ヘカテー?」
今度はヘカテーが妙な呼び方で返す。
いよいよ意味がわからない。
新手のいやがらせか?
見れば今度は、ヘカテーが、「ヘカテー?」と平井を指差し、平井が「ゆかり?」とヘカテーを指差している。
「「‥‥‥‥‥‥」」
しかし、いやがらせにしては全然楽しそうじゃない。あの平井ゆかりが、である。
しかも、二人して黙りこくっている。
心配と不安が入り乱れる。
その悠二に、二人がまた普段と逆の呼び方で悠二を呼ぶ。
「‥‥悠二」
「‥‥坂井君」
「なっ、何?」
「「‥‥入れ替わった」」
二人の少女の言葉に、少年は「何が?」という思いが頭をよぎる。
(あとがき)
『これ』の元の案は、短編小説『リシャッフル』です。
知らない人もいると思うので一応。